異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第141話 異世界ラジオのつなぎかた④

「しかし、『ルーマニア民族舞曲』とはまたいい選曲だな」

「この曲ってそういうタイトルなんですか」

「なんだ小坊主、わからんで選曲してるのか」

「いやいや、選曲してるのは俺じゃなくてリリナさんですから。というか、選曲とかこういう音楽番組のパーソナリティは、レンディアールのみんなにお願いしてるんです」

「現地の〈らじお〉ならば現地の者が音楽を選曲したほうがいいと、ルイコ嬢に教わりまして。ルイコ嬢とサスケが貸してくれた〈おーでぃおぷれーやー〉をもとに、日々選曲しております」

「そこはさすがにデジタルか。ルティの嬢ちゃんもアヴィエラの嬢ちゃんも、初めて触って大変だっただろう」

「それはもう。しかし、サスケが手取り足取り教えてくれたのでなんとかなりました」

「アタシもミハルが教えてくれたから。こうやって〈すまほ〉もちょっとは使えるようになったしね」

「ふむ。やるな、小坊主」

「何がですか」

 

 ニヤニヤしながらくっくっくって笑われても、俺には何のことやらさっぱり。

 それからもアヴィエラさんが撮影してくれたムービーを次々と再生していくと、ヴィエルでいろんな人がラジオを聴いている光景が次々と映し出されていった。

 昼下がりの『流味亭』で、のんびりとお客さんたちがスープを飲んでいる中でラジオの放送を聴いているところや、南門近くの警備隊詰め所前でイスを持ち出してまでたくさんの人がラジオを聴いている光景。そして、イロウナの商業会館でカウンターに置かれたラジオに聴き入るイグレールさんなんて姿も映し出された。

 

「ほほう。ワシのようなじいさんもラジオを聴いていると」

「お年寄りの人たちには、特に音楽の〈ばんぐみ〉が好評みたい。たぶん、レンディアールが『音楽の国』だからじゃないかな」

「ヴィラちゃんの言うとおり、音楽については特に幅広い立場の人々に好まれると思います。毎年冬前には芸術祭が開かれたりするのですが、いつも席が埋まってしまって……もし〈らじお〉を活用できたら、今まで以上に多くの人たちに楽しんでもらえるのではないかと」

「ヴィエルだと800席、中央都市でも3000席だもんね。もし〈らじお〉で聴けるとなったら、きっと目玉になるんじゃないかってボクは思うよ」

「そういった需要がある中で、ラジオを広めるというのは実に面白いな。定着すれば、きっと多くの人が聴いてくれるだろう」

「でしょ?」

「で、どうなんだ。店に出しているのはいいが、住んでいる人たちへ売るぶんの無電源ラジオは完成しておるのか?」

「うっ」

 

 何気ない馬場さんからの言葉に、思わず言葉が詰まる。

 そう、そこなんだよ……今の俺たちの課題は。

 

「まだ作り切れてはおりませんが、それなりには」

「エルティシアの嬢ちゃんがそう言うならそうなんだろうが……その割には、小坊主の表情が冴えないようだな」

「あ、あははは……気のせいですよ」

「正直に言うてみい」

「えーっと……あと500台ぐらい?」

「結構残っているな。だが、開局が9月なら十分に間に合うだろう」

「それはそうなんですけど、街のお店へ先に配ったことでラジオを聴くために居座る人とか出てきそうで」

「むぅ……それはそれで問題だな」

 

 俺が心配していることを明かすと、馬場さんもひとつ唸って腕を組み直した。

 

「サスケ、それってどういうことだい?」

「ラジオを聴きたいからって、店に居座る人が出てくるんじゃないかって思ったんですよ。この間流味亭やリメイラさんの店へ行ったらずっと座ってる人がいましたし、食べたいお客さんがいても、入れないんじゃお店としても損だろうし」

「それはそれで、店が繁盛していいって思うんだけど」

「アヴィエラ嬢。そのひとりひとりが再度注文せずにいたらどうなるでしょうか」

「あー……お客さんが回らないから、その分売り上げが出ないってことか」

 

 アヴィエラさんも合点がいったみたいで、胸の下へ回すようにしてふんむと腕組みをする。薄手のTシャツ姿だから目立ってしょうがないけど、今は真面目な話だから触れないでおこう。

 

「今はまだ店とか警備隊の詰め所にしか無電源ラジオがないから、そうなるのは仕方がないかもしれません。でも、1ヶ月以上それが続いたらお店の売り上げとかにも響くんじゃないかなって思って」

「確かにね。うちの商業会館でラジオを聴いてる人もみんながみんな品物を買っていくってわけじゃないし、それが飲食店になると安い食事をしただけで居座られて埋まるわけだし……そりゃあ、確かに問題だ」

「なので、サスケとともにもっと制作の速度を上げようかという話をしていたのです」

「いやいやいや、そいつは無理だろ。ただでさえエルティシア様たちには公務もあるんだし、サスケだって夏休みを全部使えるってわけじゃない。無理なんかしたら、絶対どこかで潰れるって」

「それは、もちろんわかってますけど」

 

 とがめるようなアヴィエラさんの声に、俺も言いよどむしかない。だからといって、他に考えられる方法なんてないわけで……

 

「まったく。小坊主も嬢ちゃんたちも、ちょっとは近くを見てみい」

「馬場さん?」

 

 そんな風に頭を抱えそうになったところで、馬場さんがまた呆れたような声を上げる。

 

「ワシがいるだろうが、ワシが。なんでワシにそのことを相談せんのか」

「えっ? あ、いや、馬場さんはお店の人なわけで、キットを売ってもらってるわけですし……」

「馬鹿を言え。こうしてワシを巻き込んでおいて、売買だけの関係とか戯言を抜かすな」

 

 は、吐き捨てるように言われたけど、別に怒ってるわけじゃない……よな……?

 

「500万円分も製作キットを買ってくれたというのに、値引きは一切拒否して全額現金支払い。できることといえば無電源ラジオの作り方を教えることぐらいなワシに手伝えと言ったところで、感謝こそすれ怒ったりはせんわ」

「で、でも、本当にいいんですか?」

「幸い、ワシもこうして夏休みの身だ。家でこもって悠々自適なんて性分でもなし、店の奥で孫に教えながらがっしがっし作ってやるわい」

「マモル殿……ありがとうございます!」

「なあに、礼を言うのはワシのほうだ。この老いぼれにまた火を点けてくれたのだからな」

 

 礼を言って頭を下げるルティへ、豪快に笑いかける馬場さん。そのまま隣にいるアヴィエラさんのほうへ顔を向けると、

 

「アヴィエラの嬢ちゃんにも感謝だな。ワシが作ったキットで、こうして異なる世界の街でも楽しんでもらえてると教えてくれた」

「そんな、感謝だなんて。アタシはただ、マモルさんに見せたいって思っただけで……」

「十分にも程がある動機じゃないか。ありがとうな、嬢ちゃん」

「あぅ……」

 

 ひととおりアヴィエラさんへ感謝してから、うんうんと力強く何度もうなずいた。

 

「小坊主、今日持って来た200台のキットはそのまま持って帰るぞ。ワシが作ったら、またここへ持ってくるからな」

「馬場さんがそう言うなら……あの、本当にありがとうございます」

「ただの爺の気まぐれだ、みんなしてそこまで気にするこたぁない」

「じゃあマモル、ボクにも作り方とか教えてくれる?」

「なぬ?」

 

 とか思っていたら、アヴィエラさんの隣に座っていたミイナさんがしゅたっと右手を挙げて問いかけてみせた。

 

「いいわね。マモルさん、わたしたちにも〈らじお〉の作り方を教えていただけませんか?」

「なんと、ミイナ嬢ちゃんもサジェーナ嬢ちゃんもか」

「わたしも〈らじお〉をレンディアールの国中に広げたいって思っているんです。娘たちの楽しそうな姿を見ていたら、マモルさんに習ってみたいと思いまして」

「ボクは、作ってみたら楽しそうかなって思っただけ」

「あらあら。昔この家から〈すてれおこんぽ〉を持ち出そうとしたぐらい〈らじお〉好きなのに、本当にそれだけ?」

「じぇ、ジェナっ!!」

「わっはっはっはっ! そうかそうか、嬢ちゃんたちもラジオ好きときたか!」

 

 サジェーナ様とミイナさんのじゃれ合いを見て、豪快に笑ってみせる馬場さん。その声はとてもうれしそうで、

 

「だったら、すぐにでも教えてあげよう。小坊主、はんだゴテやキットの準備は出来るか?」

「もちろんです。部屋にあるんで、今すぐ用意しますね」

 

 馬場さんからの頼みも、素直に聞きたくなるほどだった。

 

「サスケ、我も手伝おう」

「ああ、ふたりとも頼んだぞ」

「「はいっ」」

 

 いっしょに立ち上がった俺たちは、リビングを出て3階へ。

 

「サスケ」

「ん?」

 

 その途中で声をかけてきたルティも、とってもうれしそうで、

 

「携わってくれる人たちが増えるというのは、やはりうれしいものだな」

「ああ。みんなでいっしょに作ってるって感じがしていいよな」

「うむ。それに、世界を越えて〈らじお〉が繋がっているという心持ちになる」

「そうだな。アヴィエラさんには、あとでいっぱいお礼を言わないと」

「我も、風呂へ行ったらアヴィエラ嬢の背中を流すとしよう」

 

 俺にまで、ワクワクする気持ちが伝わってくる。

 馬場さんが手伝ってくれるって言ってくれたこともうれしいし、レンディアールで流れるラジオの光景を見てもらえたこともうれしい。

 でも、それ以上にラジオのことで喜んでくれたことがうれしくて。

 今まで以上にラジオを大切に作っていかないとって、そう思った。

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