異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第147話 異世界ラジオと夏合宿⑥

 切って、切って、切って切って切って。

 刻んで、刻んで、刻んで刻んで刻んで。

 包丁をただ上下させて、どんどんタマネギをみじん切りにしていく。

 できるだけ細かく、手数は多く。すればするほどじっくり刻めるし、長く切れる。

 

「松浜くーん?」

 

 目が痛いのも気にならない。たくさんあるタマネギをとにかく刻んで、とにかくたくさん作らないと。

 

「おーい、サスケー?」

 

 トントントントンと、合宿所備え付けの包丁とまな板がリズミカルにいい音を立てる。

 はー、この音落ち着くわー。どこまでも刻んでいられるわー。

 

「聞こえてないみたいですね……」

「コイツは結構重症だねぇ」

 

 あー、まだまだたくさんあるんだなー。これだけあれば、たくさんカレー用の炒めタマネギが作れるなー。よし、次だ、次、次。

 新しいタマネギを手にして、半分に切ったら包丁を置いて皮を――

 

「それじゃあ、いっちょここを……えいっ」

「ふがっ」

 

 取っていこうとしたところで、鼻の頭がぐいっと押し上げられた。

 

「……あにふるんれふは」

「ぷっ」

「くくっ」

 

 顔を上げれば、テーブルの向こう側から手を伸ばして俺の鼻を押しているアヴィエラさんと、後ろを向いて肩を震わせてる赤坂先輩の姿。

 その原因らしいマヌケな自分の声に、また気が滅入った。

 

「ご、ごめん。サスケが完全に自分の世界に入ってたから、つい」

「わたしもごめんなさい。つい、今の松浜くんの声が面白くて」

「さっきので面白いって言われてもですね」

「だからごめんって。ずいぶんやられてるみたいだから、大丈夫かなってさ」

「それにほら、これ以上タマネギを切ったらお鍋が埋まっちゃうよ?」

「えっ? ……おわっ!?」

 

 赤坂先輩が指さした方を見ると、ザルふたつ分山盛りになったタマネギのみじん切りがそびえていた。

 

「いやー、サスケってばアタシがザルを変えても気づかないんだもんさ。それでいて危なっかしくはないから感心しちゃったよ」

「は、はあ。その……すいません」

「いいっていいって」

「それだけショックだったんだよね。さっきのこと」

「……はい」

 

 俺がみじん切りマシーンになっていた理由。それは、

 

「そりゃそうだわなぁ、戦力外通告だなんて」

「あぐっ」

 

 さっきまでやってた番組実習で、思いっきり戦力外通告を喰らったせいだった。

 その理由はとっても簡単で、先輩から言われた『別の夢』を頭の中でまとめられなくてトークの邪魔になったから。

 結果、七海先輩からやんわりととっても柔らかい言葉で、全部の飾りを取っ払ってストレートに訳せば『ここから出て行け』って言われてすごすごと体育館から退場した。

 それで、実習が終わってからの夕飯づくりで人間タマネギカッターになってたってわけだ。

 

「とりあえず、そのタマネギをなんとかしよう。サスケ、これは浅い鍋に入れてじっくり炒めればいいんだよな」

「は、はい」

「よーし。っと、まわりには誰もいないよな」

 

 アヴィエラさんはあたりをキョロキョロと見回すと、薪がくべられたかまどに手をかざして、

 

「魔が持つ力にて、われが命ず。この木々に、火を与えたまえ」

 

 小さくささやいた瞬間、あっという間に薪が炎に包まれた。

 

「わっ、こんな風に火がつくんだね」

「こっちでも魔術が順調に使えてるってことさ。ルイコ、ザルちょーだい」

「はいっ」

 

 すっかりなじんでる赤坂先輩とアヴィエラさんのやりとりになごみそうになる一方で、

 

「言えたら、どんなに楽なんだろうなぁ……」

「ん?」

「はい?」

 

 抱えていた俺の本音が、一気にダダ漏れになった。

 

 *   *   *

 

「はー。それであんだけしどろもどろになってたと」

「それは……確かに、いきなり振られたら仕方ないかもね」

「まあ、そんな感じです」

 

 底が深い鍋をぐるぐると、そしてゆっくりとお玉でかき混ぜながらふたりへ答える。

 少し前まで刻んでいたタマネギは、この鍋でじっくり炒めて今は茶色いカレーのルウの中。混ぜていると、時々トマトやカボチャにパプリカ、ナスやトウモロコシといった野菜やぶつ切りの鶏肉が顔をのぞかせる。

 夏場の屋外だからサラダが出せないかわりに、母さん直伝のカレーを具だくさんの夏野菜カレーへアレンジしてアヴィエラさんと赤坂先輩といっしょに作っている真っ最中。その合間に、俺はさっきのいきさつをふたりへ話していた。

 

「本番直前に十八番(おはこ)を封じられちゃあたまらないわな」

「それもそうなんですけど、先輩たちにどう説明しようかって迷っちゃって」

「ということは、松浜くんの『もうひとつの夢』は固まってるの?」

「ええ、だいたいは」

「なんだいなんだい。おねーさんたちに教えておくれよ」

「も、もうっ、ヴィラちゃんってば」

 

 期待に満ちた目で俺をのぞき込んでくるアヴィエラさんと、その隣で困ったように笑う赤坂先輩。って、そんな赤坂先輩もどこかワクワクしてそうなのは気のせいですかね?

 

「いや、別にいいですよ」

 

 俺はかき混ぜていたお玉を鍋の縁へ寄せると、隣にいたふたりのほうへと向き直った。

 

「『みんなといっしょにラジオ局やラジオ番組を作りたい』っていうのが、今のもうひとつの夢なんです」

「なるほどねぇ、エルティシア様たちの〈らじお〉づくりを手伝ってたら、サスケもすっかり感化されたってわけだ」

「はい。しゃべることはもちろん好きだけど、それと同じくらいにみんなと作っていくのが楽しくなってきて」

「そこまで固まっていたら、さっきも言えたんじゃないかな?」

「えっと、その……レンディアールの件とか、先輩にどう言おうか考えたら頭の中でこんがらがっちゃったんですよ」

「あー……」

「そっか、ナナミとクウヤにはアタシらが外国から来てることにしてるんだもんな。それなら、とっとと全部話しちまえばいいのに」

「そりゃあ、話せるならとっとと話したいですよ。でも、なんというか……タイミングってものが」

「ずいぶん歯切れが悪いな。サスケらしくもない」

 

 どうしたんだとばかりに、アヴィエラさんがため息をつく。いやいや、俺って実はわりとめんどくさい性格なんですよ。

 それに、話したら話したで面倒なことになりそうだし。

 

「今先輩たちに話したりしたら、今回の合宿が全部パーになるかもしれないんで」

「はぁ? おいおい、そんな大げさな」

「いやいや。あのふたりって、一度ハマッたものにはとことんまっしぐらなんですよ……」

「そうなんだよねー……」

「って、ルイコまで!?」

 

 そりゃあ、ふたりの性格をよーく知ってる赤坂先輩なら納得しますよね。

 

「だって、七海ちゃんも空也くんもきっと大はしゃぎするもの」

「このあいだなんて、空也先輩が仕掛けたじゃれあいで七海先輩が暴走して部活終わりまで戻ってこなかったし」

「ふたりが初めて『ボクらはラジオで好き放題!』に出たとき、熱中しすぎてわたしの番組の直前まで席から離れようとしなかったし」

「ありましたねぇ。あと、ふたりが変装して入れ替わった時なんかは、体育の着替えで七海先輩が男子更衣室に突撃して男子の先輩たちに悲鳴を上げさせたりとか」

「そんなことまでしてたんだ……」

「そこまで行くと、あながち大げさとは言えないか」

 

 俺と赤坂先輩が呆れながら言うと、アヴィエラさんも呆れたようにため息をついた。ここまで言えば、どんな風に面倒なことになるかわかってもらえるだろう。

 

「合宿に夢中になってる間はいいんですけど、もしみんなの正体をばらしたりしたら……」

「アタシらみんな異世界から来たってことで、根ほり葉ほり聞かれるのは確実だろうねぇ」

「七海ちゃんも空也くんも、こういうことに興味津々だし」

「『dal segno』を作ったふたりなら納得さね」

 

 アヴィエラさんにつられて外にあるかまどの方を見ると、七海先輩と空也先輩はルティやフィルミアさんたちといっしょにはしゃぎながら飯ごうでごはんを炊いていた。

 キャンプ経験者な桜木姉弟と、いつもごはんをかまどで炊いているレンディアールのお姫様たちにかかれば、飯ごう炊さんはお手の物らしい。メイド姉妹なピピナとリリナさんもいるし、あっちは問題なさそうだ。

 今はこんな感じで楽しめているからいいけど、もし今バラしたりしたら……確実に、残りの時間は全部ルティたちへの質問タイムへと早変わりだろう。

 

「てなわけで、明日の追試までにタテマエを考えてる真っ最中です」

「アンタも大変だ」

「ストレートに言えたら楽なんだろうけど……」

 

 諦めたように笑ったら、人生の先輩ふたりになぐさめられましたとさ。

 さてさて、気持ちを切り替えてもういっちょカレーの味見を――

 

「じー」

「おわっ!?」

 

 って、この空色の髪の毛は……ルゥナさん?

 

「じー」

「こ、こらっ、ルゥナってばっ!」

 

 さらには炊事場の入口からステラさんが飛び込んできて、深鍋を見つめるルゥナさんを引っ張りだそうとした。

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