異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第149話 異世界ラジオと夏合宿⑧

 ため息をついてから見上げてみると、相変わらず無表情な中瀬を除いてみんな心配そうな表情を浮かべていた。

 

「それで見かねて、俺をここへ連れてきたと」

「おせっかいだったかもしませんけど……」

「いいっていいって。美味いもん食べられて気分転換になったし」

 

 言いながら、小皿に残っていた少し溶けかけのフローズンヨーグルトをまた口へ運ぶ。ひんやり甘酸っぱくて、ぼーっとした頭を覚ませって言ってくれているみたいだ。

 

「こっちこそ気を遣わせちまったな。ステラさんとルゥナさんもすいません」

「いえいえ。やっぱりせんぱいには元気でいてもらわないと」

「サスケくんにはお店でお世話になってるもん」

「たべものにはたべものでしっかりおれい。これがルゥナのりゅーぎ」

 

 頭を下げる俺へ、優しく声をかけてくれる有楽とステラさんにルゥナさん。情けなくはあるけど、こうして気にかけてくれるのはありがたい。

 

「謝罪など結構です。それより、どうしてああなったかを話していただけるんでしょうね?」

 

 こんな風にバッサリ切り捨ててくる、容赦ないヤツもいるとなおさらな!

 

「……別にいいけどさ。赤坂先輩とアヴィエラさんには話したし」

「ではとっとと吐き出しやがってください。真面目な話、あなたがずっと引きずっていてはみんなの士気にも関わります」

「わーったわーった」

 

 マトモにちくちく刺してくる中瀬に、さすがの俺も『どうして戦力外通告を喰らったか』のいきさつをみんなへ話した。

 話しを進めていくうちに、最初は心配そうにしていた有楽は『あー……』とこめかみを押さえながら苦笑いして、中瀬も『あー……』と疲れたような表情に変わって頭を抱える。うーん、さっきの赤坂先輩に似た反応だ。

 

「せんぱいの『夢』っていったらそれですよねー……」

「よりによってななちゃんくーちゃんの前でそのくじを引いてしまうとは」

「面目ない」

「いやいやいや。あたしももうひとつの夢って言われたら『レンディアールのみんなとわいわい遊びたい』ですし」

「むしろ、松浜くんのくじ運ぐらいしかツッコミどころがないというのが非常に困りものです」

 

 有楽も中瀬も俺の夢は理解してくれているみたいで、いじってくることもなくため息をついていた。やっぱりふたりも放送部だから、桜木ブラザーズに言うことの恐ろしさをよくわかってるらしい。

 

「えっと、ナナミさんとクウヤさんってそんな怖い人なの?」

「そういうわけじゃないんですけど、面白そうなことや楽しそうなことに目がないんですよ。特に、レンディアールのみたいなファンタジー世界に興味がありまくりで」

「あー……そっか、だからかなぁ?」

「って、もう心当たりがあるんですか!?」

 

 俺の説明に、ステラさんは微妙な笑顔で首をかしげてみせた。あのふたり、もう毒牙にかけてたのか!?

 

「ふたりでななみおねーさんとくーやおにーさんとごはんをたべてたとき、りょうりのおはなしになったから『こっちでもレンディアールのごはんをつくったりする』っていったら、とってもおめめがきらきらしてた」

「で、こんどステラがつくったごはんを食べてみたいなーって。いいですよって言ったら、両手をにぎって握手されちゃった」

「おお……」

「もう……」

 

 毒牙どころか、すっかり巻き付いてぱっくり口を開けてるところじゃねえか。

 

「ふたりとも、すぅさんとなぁさんに目をつけるのが早すぎです」

「ルティちゃんとフィルミアさんへ興味を持つのもあっと言う間でしたし」

「そう言われたら、ルティたちをふたりへ任せたのが怖くなってきたぞ」

 

 思わず炊事場のほうを振り返ろうとしたけど、壁と廊下の向こう側だから見えるわけがない。

 そのうち、満面の笑顔でルティやフィルミアさんを質問攻めにしている空也先輩と、ピピナとリリナさんへギュッと抱きついてほおずりしている七海先輩のイメージが浮かんでくるぐらいだんだん不安になってきた。

 

「ルゥナたちのこと、ななみおねーさんとくーやおにーさんにはずっとないしょ?」

 

 そんな中、こてんと首をかしげたルゥナさんが困ったように聞いて来た。

 

「そういうわけでもないんですけど」

「いつかはちゃんと言うよ。でも、せんぱいたちに話したらきっとみんなに夢中になっちゃうから……」

「ふたりに打ち明けるとしたら、やはり合宿の後でしょうか」

「そこなんだよな、問題は」

 

 背もたれに背中を預けながら、ため息をつく。タイミングで言ったらそこが一番なんだろうけど……

 

「先輩たち、合宿明けから夏期講習が入ってるだろ」

「ですが、部活には来ると言っていました」

「そこだよ。いくら余裕があるって言っても、受験モードなのにみんなのことを明かしたら……」

「あー」

「せんぱいたち、受験そっちのけになりそうかも」

 

 うちの店へ入り浸ってまでルティたちへ質問しまくるふたりの姿が、ありありと頭の中で思い浮かぶ。もちろん、開店から閉店までどころか、うちの住居ゾーンに上がり込んでまでだ。

 

「で、夏休みが明けたら明けたで文化祭モード。今年の校内ラジオは先輩たちが担当ではりきってたから、そこに集中させてあげたいし」

「そうしたら、すぐに引退と受験じゃないですかっ」

「ほんと、思ったほど時間がねぇんだよ」

 

 いつ言おうか、いつ言おうか、まだ時間があるから大丈夫……先輩たちを警戒しすぎて、そんな風に結論を先送りにした結果がコレ。このあたりは、完全にタイミングを外しまくった自分の責任だ。

 となると、浮かんでくるタイミングはただひとつ。

 

「いっそ、明日の補習で全部言っちまうしかないかなぁ」

「「はぁ!?」」

 

 予想通りの反応が返ってくるような時期しかなかった。

 

「せ、せんぱい、正気ですか?」

「なんとも蛮勇な……」

「正気だし冷静だよ」

 

 ふたりともヒドい言いぐさだな、オイ。

 

「しかし、言うのはいいとして、あの桜木ブラザーズをどう制御しようというのですか」

「そこは俺が拝み倒すよ。合宿後に時間はいくらでも作るから、今はこらえてくれって」

「それでせんぱいたちがおさまるかなぁ……」

「おさめてもらうしかないだろ。せっかくの合宿をつぶすわけにもいかないし」

「じゃあ、もしもダメだったらどうします?」

「……は、始める前から負けを考えるヤツがいるかよ」

「目が泳いでる時点で説得力はゼロですが」

 

 うるせぇやい。

 

「だったら、ルゥナもおてつだいする」

「えっ」

 

 かわいらしい声に横を向くと、眠たそう目をしたルゥナさんが俺のジャージのすそをつまんでくいくいと引っ張っていた。

 

「おいしいかれーをつくってくれたおれい。ルゥナもななみおねーさんとくーやおにーさんにおねがいして、がんばってがっしゅくほしい」

 

 そう言いながら「だめ?」と小さく首をかしげるルゥナさん。こ、これは……やばい。かわいすぎてやばい。そんなことされたら、ダメなんて言えるわけがない。

 

「でもルゥナ、おてつだいするっていってもどうするの?」

「がっしゅくのじかんがないなら、じかんをつくればいい」

「作ればいいって、時間は限られてるんだよ?」

「ルゥナなら……ううん、ルゥナとリリナねーさまとピピナなら、じかんをつくりだすことができる」

「?」

 

 言われてみんなで首をかしげると、ルゥナさんは相変わらずのぽやっとした顔のまま『上』のほうへ指さすと、

 

「ななみおねーさんとくーやおにいさんをレンディアールへつれていっちゃえば、ぜんぶかいけつ」

「ええっ!?」

「か、解決になってないんじゃないかな!?」

「むしろふたりを暴走させるだけではないでしょうか!」

 

 一見とんでもなさそうな提案に有楽は驚いて、ステラさんと中瀬も即座にツッコミを入れる。でも、

 

「……悪くないですね、そのアイデア」

「「「はぁ!?」」」

 

 俺は、そのアイデアにわりと乗りたくなった。

 

「松浜くんもなぁさんも目を覚ましてください。それとも、暴走したふたりに起こしてもらいますか」

「目ぇ覚めてるよ! あとふたりをけしかけようとすんな!」

「ふたりのなでなではきもちいいからだいかんげい」

 

 言った途端にいつものジト目を向けてくる中瀬へ、いつものように応じる俺となかなか大胆なことを言い出すルゥナさん。ふたりがルゥナさんを抱きしめるとすっぽり収まるのは見えてたけど、そんなにお気に入りだったのか。

 

「レンディアールにいる間はこっちの時間が止まるだろ? ということは、そのぶん向こうで時間を作ることができるってことだ」

「それはそうかもしれないけど」

「せんぱいたち、もっと暴走しちゃうんじゃないかなぁ」

「逆に、思う存分暴走しきってもらえばいいんだよ。そうすりゃあ満足して、全部打ち明けられるだろ」

「本当にうまく行くんでしょうか」

「もちろん、ルティたちにも相談する必要があるし、タイミングによっちゃこの合宿中は無理かもしれない。でも、時間を作るっていうルゥナさんのアイデアはとってもいいと思う。……ルゥナさんとピピナとリリナさんには、負担かけちゃうと思いますけど」

「それぐらいどんとこい。さすけおにーさんもそうだし、かなおねーさんもみはるんおねーさんも、ここにきているみんなもとってもたのしいから、ルゥナももっともっとたのしんでほしい」

 

 ぽやんとした表情のままでも、淡々と言っていることはとても頼もしい。ピピナもリリナさんもだけど、妖精さんってなかなかゆかいな性格をしてるよな。

 

「もうっ、ルゥナったら食べ物と楽しいことにはほんと目がないんだから……それじゃあ、ステラもミアねえさまとルティへ話すのを手伝おうかな」

「いいんですか?」

「ステラだって、ナナミおねえさんとクウヤおにいさんのことが好きだもん。次は、レンディアールのことを知ってもらって、好きになってもらう番かなって」

「せんぱいもステラちゃんも乗り気なら、あたしも乗っちゃいます。レンディアールのガイドなら、お手伝いできますから」

 

 ステラさんに続いて、有楽も胸に手をあてて仕方ないなぁとばかりに笑いながら申し出てくれた。

 

「仕方ありませんね。乗りかかってしまったからには、多少なりとも手伝いましょう」

 

 そして、言葉通りに『まったくもう』って顔をしながら中瀬も乗ってくれる。

 

「ありがとうな」

「謝罪も礼も結構です。それよりも、決めたからにはどう連れて行くのかぐらいは、るぅさんたちと相談したうえであなたが決めてください」

「わかってるって」

 

 言い出しっぺの法則ってやつだ。それくらい、俺がどうにかしなくちゃいけないのはよくわかってる。とは言っても、正攻法で先輩たちを連れていこうとしたところで、俺の世迷い言だとかで笑われかねない。

 ルティたちに言ってもらって連れて行けば別だろうけれども、それは最後の手段としてとっておきたい。なにより、普段暴走したり俺たちを驚かせたりしている先輩たちだ。できることなら、俺たちのほうから先輩たちを驚かせてやりたい。

 さっきまでの実習でうまくしゃべれなかった俺を残念そうに見ていた七海先輩を思い浮かべると、なおさらそう思う。今度こそ、みんなとラジオ局をつくったり番組を作りたいって、胸を張って言いたい。

 

『私たちはあと半年もしたら卒業するけど、この繋がりでこれからもラジオができたらいいなって夢を持ち始めました』

 

 先輩だって、俺たちに似た夢を持ってるんだから。

 

「今度は、俺たちが『夢』を見せる番ってのはどうだ?」

 

 自然と口からついて出てきたのは、そんなストレートな提案だった。

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