異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第151話 異世界ラジオと夏合宿⑩

 大きな窓の外に見えるのは、ヴィエルの街並み。

 電柱や電線どころか、アスファルトや車道もない広々とした石畳の道を人々が行き交っていて、そのさらに向こうには高くそびえる円環山脈と、どこまでも続く青空がめいっぱい広がっていた。

 

「ここが……」

「レンディアール……?」

 

 おぼつかない足取りで窓に近づいた七海先輩と空也先輩が、ぽつりと言葉を漏らす。

 こっちへ来てから夜が明けるまで『どう先輩たちへレンディアールのことを紹介しようか』を話し合って、いちばんインパクトが大きそうだったのが、アリステラさんが出してくれたこの『あるがままを見てもらう』プランだった。

 そのまま外を眺めるふたりを見ていたリリナさんとピピナが、息を合わせて跳ね上げ窓を開ける。外から吹き込む風は少しひんやりとしていて、市場からの喧噪もいっしょに運んできてくれた。

 

「すごい……本当に異世界なんだ……」

「それに、すっごく空気が澄んでる……」

「この街は、レンディアールの北端に位置する小都市・ヴィエル。私たちは普段ここに住まい、時折ニホンと行き来しています」

「ここと? 日本を?」

「はい。情けないことではありますが、すべては私がこの郊外で賊に襲われたことから始まりました」

 

 少し恥ずかしそうに、それでもはっきりとした口調でルティが語り始める。

 俺たちとの出会いのこと。

 そこで初めて聴いたラジオに興味を持ったこと。

 リリナさんが俺をさらって、みんなでレンディアールへ来た時のこと。

 その縁がもとになって、みんなでラジオを学んで番組を始めたこと。

 だから、もっとラジオのことを知りたくて合宿を開いたこと。

 始まりから今日に至るまでを、先輩たちへゆっくりと話していった。

 

「みんなで何をやっているのかと思ったら……なるほど、ようやくわかったよ」

「申しわけありません。なかなか明かせず、ここまで引きずってしまいました」

「いや、僕はいいんだ。むしろ、どっちかというと」

「むーっ……」

「姉さんのほうが、ね」

 

 空也先輩が横を向けば、ほっぺたをふくらませてすっかりぶんむくれている七海先輩がいた。

 

「だってずるいじゃないか。松浜君も神奈君も海晴君も瑠依子先輩も、こーんな面白そうなことをボクらに隠して!」

「ほ、本当に申しわけありません!」

「ルティ君たちはいいの! 悪いのは先輩と後輩! みんなしてボクと空也をのけものにしてっ!」

「ご、ごめんなさい。元はといえば、俺が言わないようにしてたから」

「そうか、松浜君か。松浜君がすべての元凶なのか」

「元凶って……結果的にはそうなりますけど」

「まあ、許すも許さないも理由次第だ。さあ、申し開きがあるのなら言ってごらん?」

 

 腕を組んで、真正面から俺をにらみ付けてくる七海先輩。背が俺とほとんど変わらないのと普段は見ない怒り顔だから、威圧感が凄い。

 でも、きっと大丈夫。もうごまかさないで、ちゃんと正直に言うって決めたんだから。

 

「七海先輩も空也先輩も、興味を持ったらまっしぐらじゃないですか。明かしたらきっと夢中になって、受験そっちのけになるんじゃないかって思って」

「うっ」

「ぐうの音も出ないほどの英断だねぇ」

 

 七海先輩の表情が崩れたのと同時に、空也先輩が苦笑いを浮かべてみせた。ストレートに言った分、ちゃんと伝わってくれたのかな。

 

「じゃ、じゃあ、そう思ってるのにどうしてボクらをここに連れてきたんだい?」

「昨日の七海先輩との実習で言えなかった俺の『夢』が、ここにあるんです。今まで秘密にしていたからうまく言えなかったけど……やっぱり、先輩たちにも見てほしくて」

「ここに? 松浜くんの夢が?」

「はい」

「サスケの言葉に加えると、私たちがこれ以上身分を偽りたくないというのもありました。我らに〈らじお〉のことを教えてくれる恩人であり、友人だというのに……なので、サスケの案に乗った次第です」

「これでよーやく、ななみおねーさんとくうやおにーさんにレンディアールのことがわかってもらえるです!」

 

 俺の説明を補うように、ルティとピピナが言葉を継ぐ。

 本当のことを言えなくて心苦しかったのは、レンディアールのみんなも一緒。昨日ルティとピピナへ打ち明けたときのほっとした表情を見たら、もっと早く言えばって後悔したぐらいだ。

 

「う~……」

 

 そんなふたりを交互に見ながら、七海先輩が組んでいた腕を解いてもどかしそうに両方の拳をにぎる。そのうち深く息をつくと、人さし指同士をちょんと突いて、

 

「そんな風に言われたら、拗ねてるボクが馬鹿みたいじゃないか……」

 

 軽くうつむきながら、恥ずかしそうにつぶやいてみせた。

 俺、こんなにかわいらしい先輩を見たのは生まれて初めてかも。

 

「あんまり後輩がやってることに目くじらたててもねぇ」

「というか、空也はどうして平然としてるのさ!」

「姉さんがすっごくはしゃぐから、逆に冷静になっちゃった」

「弟なのに! ボクの双子の弟なのに!」

 

 あーあー、地団駄まで踏んじゃってるし。でも、これこそいつもの七海先輩だ。

 

「なら、今度は僕が質問」

 

 その七海先輩をなだめてから、空也先輩がぴんと人さし指を立てる。

 

「連れてきてくれたことには感謝するけど、合宿はどうするんだい? まさか、打ち切りってことはないだろうね?」

「それはご心配なく。皆様が滞在されている間はあちらの世界の時を凍らせているので、明後日の朝には合宿2日目の朝へと戻ります」

「へえ、妖精さんってそういうこともできるんだ」

「ピピナとねーさまたちでがんばりましたっ」

「だったら心配はいらないか。ありがとう、リリナ君、ピピナ君」

「今はこの場にいませんが、後でルゥナもねぎらってあげてください。クウヤ様とナナミ様をここへお連れしたいと、あの子がはじめに願ったのですよ」

「もちろんだよ。そっかぁ、妖精さんたちからのご招待かぁ」

 

 リリナさんからのお願いに、ぽわわんと笑顔を浮かべてうなずく空也先輩。ファンタジーが好きなだけあって、こういうのはうれしいらしい。

 

「というわけで、僕は全面的に乗ることにしたよ。姉さんはどうする?」

「当然、ボクも乗る! こうなったらみんながやってることもレンディアールのことも、ぜーんぶ教えてもらうからね!」

「お手柔らかにお願いします」

「それは松浜君次第かな!」

 

 七海先輩のほうはというと、苦笑いしながら言う俺へ少しむすっとした感じで言ってみせた。もちろん、今日の俺なら受けて立つところだ。

 

「それじゃあ、さっそくこの街の紹介と行きましょうか」

「もう行くのかい?」

「ええ」

 

 燕尾服のポケットからスマートフォンを取り出してスリープを解除すると、時間はもうすぐ午前7時。今から時計台へ上がれば、ちょうどいい時間だ。

 

「それじゃあせんぱい、あたしは隣の部屋に行ってますねー」

「おう、よろしく」

「神奈くんは別行動なの?」

「はいっ。何をやるのかは、せんぱいたちが上に行ってのお楽しみです!」

「エルティシア様、私も行って参ります」

「わたしも行きますね~」

「リリナ君にフィルミア君も?」

 

 有楽に続いて、リリナさんとフィルミアさんが手を振ったり、お辞儀をしてから会議室を出ていく。

 

「俺らは、もうひとつ上の階へ案内しますね」

「へえ、ここより上の階があるんだ」

「この建物は時計塔で、いちばん上が鐘楼になってるの。見晴らしもいいし、きっと七海ちゃんも空也くんも気に入るわよ」

「んー……瑠依子先輩がそう言うなら」

「姉さんってば、すっかり警戒しちゃって」

「こういうななちゃん先輩もなかなかかわいいですね」

「おおっ、中瀬くんも話がわかるねえ」

「そこ! 今のボクで遊ばない!」

 

 中瀬が言うとおり、おどおどしてる七海先輩もレアでなかなかかわいい……とか言ったら噛みつかれそうだから、黙ってるが吉だな。

 そんなわいわいとしたやりとりを背にしながら、先輩たちを鐘楼へと案内していく。

 

「おおっ、いらっしゃーい」

「おつかれさまー」

 

 階段を上がりきったところで声をかけてきたのは、白いドレス姿のアヴィエラさんと妖精さんモードで執事服姿なルゥナさん。ふたりとも手を挙げるもんだから、

 

「おつかれさまでーす」

「執事な妖精さん!?」

 

 とつられて手を挙げたところで、後ろにいたはずの七海先輩が猛スピードでルゥナさんへ抱きついていった。

 

「むぎゅー」

「ルゥナくんもメイドさんかと思ったら、まさか執事さんだなんて……いい、すっごくいい!」

「おきにめされてこーえーのいたり」

「……ナナミってもしかして、かわいい子に目がなかったりする?」

「そりゃあもう、めっちゃ大好物です」

 

 アヴィエラさんも一発で気付いたか。まあ、これだけ目をキラキラさせて抱きつき・頬ずり・頭わしゃわしゃと来れば当然だよな。

 

「うわぁ……」

 

 その一方で、空也先輩は引き寄せられるようにして石造りの手すりのほうへと歩いていた。きっと、その先に広がるヴィエルの街並みに心奪われているんだろう。

 

「どうだい、クウヤ。なかなかいい眺めだろ」

「はい、とっても」

 

 寄り添うようにして尋ねてきたアヴィエラさんへ、空也先輩が大きくうなずく。

 

「アヴィエラさんもレンディアールの人だったんですね」

「一応隣の国の出だけど、アンタらから見たらそうなるだろうね。改めて、こっちでもよろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 アヴィエラさんが差し出した手を、空也先輩がしっかりと握ってみせた。すぐに把握するあたり、さすがの冷静さだ。

 

「ふわふわだけどくるしいー」

「うわっ!? る、ルゥナ君……? はっ、こ、こんな小さくなって!?」

「やっぱ、ルゥナはこっち」

「アタマ!? あわわわわっ、よ、妖精さんがボクの頭に……!?」

「ルゥナねーさまは、ひとのあたまのうえにのるのがだいすきなんですよー」

「なんて最高な!!」

 

 双子でも、かわいいことに目がないお姉さんとは大違いデスネ。って、あーあーあー、ついでにピピナまで抱きしめちゃって。

 

「アヴィエラさん、準備はどんな感じです?」

「だいたいだけど、こんな感じでいいんだろ」

 

 アヴィエラさんが手で指し示したのは、鐘楼の真ん中にある石造りの台座。この間はミニFM送信キットが置かれていたそこには、細長い金属製の棒がまっすぐに立てられていた。

 棒の根元には、樫の木でがっしりと作られた台座が。そして根元から分岐するようにして、細長いケーブルが台座の下から鐘楼の下の方へと延びている。

 

「ばっちりです」

「よしよし」

「これってなんだい? ただの鉄の棒に見えるけど」

「まあ、見ていてください」

 

 興味深そうにのぞき込んでくる空也先輩を横目に、もう一度スマートフォンを取り出す。時間は6時58分に切り替わったところだから、そろそろ頃合いだ。

 

「ルティ」

「ああ、わかっているとも」

 

 俺の呼びかけを待っていたかのように、ルティが紅い皇服のポケットから黒い箱――ポケットラジオを取り出す。そして、その親指で電源を入れるとこすれるようなホワイトノイズが流れ出した。

 

「「ラジオ?」」

 

 その音がしたほうへ、ピピナを抱きしめている七海先輩と金属製の棒を眺めていた空也先輩が振り向く。あとは、時間になれば――

 

「?」

「ノイズが、消えた?」

 

 ポケットラジオのスピーカーは静かになって、

 

『ヴィエルのみなさ~ん、おはようございます~』

「「っ!?」」

『ヴィエル市時計塔放送局、今日も試験放送が始まります!』

「か、神奈君!?」

『本日は放送局員が所用のため、音楽が多めの構成となっております。また、正午からはサジェーナ様を賓客に迎えたエルティシア様とサスケ殿の番組を再び放送いたしますので、どうぞお楽しみください』

「リリナくんまで……それに、最初のはフィルミアくんの声じゃ……」

 

 続いて流れてきた声に、七海先輩と空也先輩の表情が驚きに染まる。

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