異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第153話 異世界ラジオと夏合宿 in 異世界①

 目の前のカーテンが、音を立てて勢いよく開かれる。

 

「どうかな? 似合うといいんだけど」

 

 颯爽と姿を現した七海先輩は、少し照れながら笑っていた。

 

「おー、いいじゃんいいじゃん。ナナミらしくてカッコいいよ!」

「七海先輩にぴったりですね」

 

 アヴィエラさんに続いて、俺も思ったことをそのまま伝える。

 黒い長袖シャツの上に前後の生地を紐で組んだ白い半袖シャツを着て、下はダークレッドのショートパンツと黒の巻きスカート。長身でアクティブな先輩にぴったりの、動きやすそうな格好だった。

 

「姉さんが大丈夫なら、僕も大丈夫かな」

 

 隣の試着室から声がしたかと思うと、こっちはゆっくりとカーテンが開かれて、

 

「どう? 似合うかい?」

「おおっ、クウヤ殿もお見事です!」

「すごいですっ! ふたりでならぶと、あにめのぼーけんしゃさんみたいです!」

 

 姿を見せた空也先輩の服装は、上が七海先輩といっしょで下はダークブブルーの長ズボン。七海先輩がかわいらしいのに対して、こっちは凛々しいって感じだ。

 

「これもお店の人のおかげだね。ありがとうございます、クレーゼさん」

「いやいやなんのなんの。館長のご友人のお役に立てたならなによりっす」

 

 空也先輩がおじぎをした先には、赤いショートヘアで片メガネをかけた女の子。アヴィエラさんと同じ浅黒い肌で、近いデザインの白いドレスを着ていた。

 

「ありがとう、クレーゼ。ボクのリクエストに応えてくれて」

「こっちも燃えたっすよ。精霊大陸を旅するための服なんて、でっかい希望を出されちゃあ」

「見立てはバッチリだ。よくやった!」

「お褒めにあずかり光栄っす!」

 

 アヴィエラさんが肩に手を置くと、クレーゼさんがくせっ毛な髪をかきながら喜んでみせた。

 そのアヴィエラさんも、イロウナの白いドレス姿。というか、このフロアにいる多くの人は白い民族衣装を着ている。

 ここは、イロウナ商業会館の中にある服屋さん。俺にとっては初めのエリアで、いろんな服がマネキンのようなものに掛けられて展示されていた。

 

「でもアヴィエラさん、本当にいいんですか? その……お金、とか」

「いいのいいの。トチギに行くときゃ楽しませてもらったから、そのお礼さ」

「……そんなつもりじゃなかったんだけどな」

「せっかく精霊大陸に来たんだ。ナナミも、それを着てめいっぱい楽しんでおくれよ」

「ん……わかった、そうする」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 戸惑う空也先輩と七海先輩を、アヴィエラさんはいつものようにカラカラ笑ってなだめる。

 

 ヴィエルの街に出るならまずは服をということで、アヴィエラさんが先輩たちと同い年の館員さん――クレーゼさんを呼ぶと、あれよあれよという間にふたりに似合う服のコーディネートを頼んでくれた。

 ふたりの、とはいってもほとんど七海先輩からの要望を聞いたクレーゼさんが、しばらく館内を物色して選んだのが、今着ているふたりの服ってわけだ。

 

「松浜くんたちは、そのままの格好でいいのかい?」

「これが案外気に入ってるんで」

「りぃさんお手製の服です。めいっぱい着るに決まってます」

「そ、そうなんだ」

 

 中瀬とふたりして平然と言うと、空也先輩が珍しく戸惑ってみせた。まあ、揃ってリリナさんお手製の燕尾服とスラックスで決めていれば当然か。

 ピピナは相変わらずメイドさんチックな服を着ていて、ルティはいつもの紅い皇服に珍しく黒いロングスカート姿。傍から見たら、俺と中瀬はルティのお付きの人って思われてそうだ。

 

「クウヤおにいさん、ナナミおねえさん。こういうのはどうですか?」

「ふくろー、ふくろー。たびのひつじゅひんだよー」

 

 そんな風にまわりを見ていたら、アリステラさんとルゥナさんがクリーム色の巾着袋を両手に持って駆け寄ってきた。

 

「袋かい?」

「はいっ。旅をするなら、やっぱりこういう袋があると便利ですし」

「なるほど。確かにこの袋なら、冒険へ行くのにぴったりだ」

「さすがは旅するお姫様と妖精さん。いい線ついてくるね」

「えへへー」

「まかせろー」

 

 袋を受け取ってほめてくれたふたりへ、照れるアリステラさんと胸を張るルゥナさん。母さんといるときもこんな感じだから、年上の人に対してはいつもこんな感じなんだろう。

 

「でも、これって縫い目とかどうなっているのかな。袋の口とか目立ちそうなのに、ほとんどわからないや」

「ああ、それはこうやって作ってるんだよ」

 

 軽く言いながら、アヴィエラさんがカウンターにある糸車へ両手をかざすと、

 

「魔が持つ力を従えし、我が命ず……白の糸たちよ、意のままに紡げ」

 

 呪文を唱えたとたんにたくさんの糸車がカラカラと回り出して、目の前でひとりでに絡まり合っていく。

 

「い、糸が布に!?」

「これがウチらイロウナの国の伝統工芸、『魔織(ましょく)』っすよ」

「ましょく?」

「魔術で布を織るから『魔織』。館長がやってる感じで織るのもあれば、織機に魔力を込めて、でっかいのを手早く作ったりもしてるっす」

「はー……魔術って、いろんなのがあるんだねぇ」

 

 クレーゼさんの解説を聞きながら、先輩たちが糸から布へと織られていく様に釘付けになっている。俺らも、初めて見たときはあっけにとられてたっけ。

 織っている当のアヴィエラさんはといえば、真剣なまなざしを布に向けて両手をかざしたまま。その布はだんだんと大きくなっていくと、下からふたつ折りにされて両端もあざやかに織られていった。

 

「ほんとに袋になった!」

「織るだけでここまでできるんだ……あれっ、でも、紐を通すところはどうするんだろう」

「ここからはクレーゼの出番だね。あとは任せたよ」

「任されたっす!」

 

 アヴィエラさんに振られて左手を掲げたクレーゼさんは、ぼんやりとしていた目つきを鋭いものへと変えて、

 

「細き糸よ……我の魔を得て、布を貫け」

 

 右手をかざしながら、短い呪文を唱える。

 その途端、別の糸車から白い糸が袋をめがけて飛んでいった。

 

「えっ!?」

「針もないのに、なんで……!?」

 

 あっけにとられた空也先輩が言うとおり、白い糸は針もないのに布を貫いて、そのまま紐を通すための口をすごい勢いで縫っていく。続けてカウンターから白い紐が飛び出してきたかと思えば、あっという間に口を通っていって、

 

「よっと」

 

 クレーゼさんの手の上にぽとりと落ちたそれは、アリステラさんとルゥナさんが持って来たのと同じような巾着袋になっていた。

 

「ちょっ、く、クレーゼも魔術士なの!?」

「そうっすよー。うちは縫う専門の『魔縫士(まほうし)』っす」

「魔縫士!」

「魔力で糸の先だけを硬くして縫うから『魔縫』。この階にいる子たちは、みんな魔織か魔縫の才を持ってるのさ」

「先輩たちに比べたら、ウチはまだまだひよっ子っすよー」

「いやいやいや! すごいよ、すごいっ!」

 

 ちょっと照れながらうれしそうに笑うクレーゼさんへ、はしゃいだように何度もほめまくる七海先輩。あーあー、袋ごとクレーゼさんの手まで取っちゃって。

 

「縫い目もほとんどわからないし、こんなきれいな袋は初めてだよ!」

「本当、ほとんど一枚の布にしか見えないのにちゃんと袋になってるなんて……魔術ってすごいんですね」

「あ、あははは……こんなにほめられるとか、なんだかこそばゆいっすね」

「クレーゼの成長の証ってことだ。素直に受け取っときな」

 

 桜木姉弟からのほめ言葉にますます照れているけど、小柄でメガネ――アヴィエラさんお手製の『眼石』をかけたクレーゼさんの笑顔はかわいらしかった。

 すらりと背が高いアヴィエラさんが横に並ぶと、師匠とお弟子さんって感じがするし。やっぱり、アヴィエラさんって姉御肌だよな。

 

「それもこれも、この子のおかげっすよ」

 

 そう言って、クレーゼさんがカウンターの上にある無電源ラジオから銅線で繋がっているメガホン――スピーカーへぽんと手を置く。

 流れているのは、のんびりとしたギターとフルートがメインの音楽。確か、最近流行ってるキャンプアニメのサウンドトラックだっけか。中瀬が買い込んでたサントラから「レンディアールにはこのシリーズが絶対似合います」って言ってたやつだ。

 

「音楽とかお姫様たちのおしゃべりを聴いてると、なぜかお仕事がはかどるんっす」

「わかるわかる。ボクもラジオを聴きながらのほうが勉強とかはかどるもん」

「静かすぎると逆に落ち着かないから、ラジオとかつけちゃうんだよね」

「そうそう、静かすぎると逆にそわそわしちゃうんっすよ。かといって、おしゃべりしたくてもみーんな魔織とか魔縫に集中しているし、おえらいさんにはしかられるし」

「おしゃべりしてると進む、お前さんのほうが珍しいんだよ」

「それはそうかもしれないっすけど……って、やめるっすよー!」

 

 呆れたアヴィエラさんからほっぺたをうりうりとつつかれて、クレーゼさんが笑いながら抗議の声を上げる。こうして見ていると、ますます妹っぽいや。

 

「キミたちが作ったラジオ、こういうふうに聴かれているんだね」

 

 そんなふたりを微笑ましく見ていたら、七海先輩が声をかけてきた。

 

「まずはお試しということで、このようにいろいろなお店などで〈らじお〉を置いていただいています」

「電源がいらなくて、アンテナとかコイルの調整ぐらいだからお手軽なんですよ」

「さっき街中からラジオの音がたくさん聴こえていたの、そういうことなんだね」

「不思議だよね。電源が必要ないラジオがあって、それが実は日本製だなんて」

 

 感心したように言う空也先輩と、声を弾ませる七海先輩。ここへ来て初めて見たときは電源が無いとか異世界っぽいとかめちゃくちゃはしゃいでいたけど、ようやく落ち着いて見てくれるようになったらしい。

 んじゃ、ここでそんなふたりへ新情報を。

 

「ちなみに、アヴィエラさんもパーソナリティのひとりなんですよ」

「アヴィエラさんもなのかい!?」

「ああ、エルティシア様直々のお誘いでね」

 

 驚く七海先輩へ、アヴィエラさんが胸を張ってみせる。

 ラジオドラマのナレーションや図書館での読み聞かせ会を経験してからは、はじめの頃が信じられないぐらい安定したトークを聴かせてくれていた。今じゃ、うちの局には欠かせないパーソナリティのひとりだ。

 

「まだまだ素人だけど、そのうちこの子らともおしゃべりできたらいいなって思ってるよ」

「か、館長? それは初耳っすよ?」

「今思いついた!」

「館長お得意の思いつきっす!?」

 

 クレーゼさんの肩をぽんぽんと叩きながら、実にいい笑顔で言い放つアヴィエラさん。

 なるほど、商業会館の人たちをゲストに呼ぶってのは、ヴィエルの街の人たちにイロウナとか商業会館のことを知ってもらうのにもいいのかも。

 

「そういう話も出るってことは、結構前から放送は始めていたのかな」

「ええ、およそ3ヶ月ほど前には。とはいえ、成り行きでサスケが持って来た〈みにえふえむそうしんきっと〉と〈すまーとふぉん〉で、この街でも音が届くのかを試しただけではありますが」

「はじめてレンディアールでながれたの、おにーさんとおねーさんがとってくれたルティさまのうたなんですよっ」

「「えっ」」

「ぴ、ピピナっ!」

 

 ピピナの言葉に空也先輩と七海先輩は目を丸くして、歌った本人のルティは顔を赤らめていた。

 確かに、初めてここでラジオの電波に乗せたのはルティの歌。しかも、先輩ふたりが俺と有楽を出し抜いて録音したあの歌だ。

 

「もしかして、僕らの高校に初めて来たときの!?」

「は、はい。その……お恥ずかしながら、ミア姉様に〈らじお〉がどのようなものかを知ってもらうためにと……」

「うわぁ……!」

 

 恥ずかしそうに言うルティをよそに、七海先輩は目を輝かせると隣の空也先輩の手を取ると、

 

「すごい! すごすぎるよ空也っ! ボクたちが録ったルティくんの歌、この世界で流れたんだって!」

「ほ、ホントに? ただルティ君の歌が聴いてみたかっただけなのに、そんなことになってたの!?」

 

 珍しく戸惑いまくってる空也先輩の手を、何度もぶんぶんと振り回していた。

 いやー、こんな子供みたいにはしゃぐ七海先輩は初めて見たよ。いつも余裕たっぷりで大胆不敵って感じだから、ギャップがとんでもない。

 

「私も、初めてこちらのラジオでるぅさんの歌声を聴いたときは思わずはしゃいでしまいました」

「録ったのは海晴くんだもんね。いいなぁ、実際に聴いてみたいなぁ!」

「僕もぜひ。せっかくだからこっちのラジオで聴いてみたいね」

「んー……」

 

 桜木姉弟からのお願いに、ルティが腕組みしながら考え込む。

 前だったらふたりの勢いを見て「大丈夫か?」って声をかけたくなるところだけど――

 

「……わかりました。あとで用意いたしましょう」

 

 何かに気付いたようにきょとんとしてから、自信たっぷりにうなずいてみせた。

 

「ほんとっ!? ありがとう、ルティくん!」

「ごめんね、いきなりお願いしちゃって」

「いえ、ナナミ殿とクウヤ殿のお願いとあらばよろこんで」

 

 はしゃぐ七海先輩と、申しわけなさそうではあるけど喜びを隠しきれない空也先輩へと笑いかけるルティ。

 

「エルティシア様の歌が聴けるっすか!? それは楽しみっす!」

「こらこら、クレーゼまではしゃぐんじゃないよ。でも、アタシもエルティシア様の歌を聴くのは初めてだから楽しみにさせてもらうよ」

 

 桜木姉弟の後ろから顔をのぞかせるクレーゼさんも、なだめてるアヴィエラさんも、ルティの言葉に期待をのぞかせていた。

 ルティの歌は俺でもレンディアールに初めて来たとき以来だから、確かにレアといえばレア。先輩たちは録音があるから聴いてるかもしれないけど、こうして異世界へ来て聴くのはまた違うから、気持ちはよくわかる。 

 

「素人の歌ではありますが、そう言っていただけるとありがたいです」

 

 きっぱりとそう言い切るルティに、不安とか緊張は見られない。

 少し前なら真っ先にフォローしていたけど、俺とのラジオ番組や合宿を提案するようになってからは、まずは様子を見てからどうするかを考えていた。今じゃ立派な局長のタマゴなんだし、どんな道を進むのかを見守ってみたい。それに、

 

「サスケ、みはるん」

「おう」

「なんでしょう」

「あとで、少し相談したいことががあるのだが」

 

 何かがあれば、きっと俺らへ声をかけてくれるから。

 先輩たちやクレーゼさんとの話がひと段落してから駆け寄ってきたルティの目は、何かを思いついたかのように輝いていた。

 

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