異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第25話 異世界少女へのおくりもの③

「よっ」

 

 そして、草原でぺたんと座っているルティの前に座る。その膝の上には、ピピナも座っていた。

 

「サスケ……」

 

 名残惜しそうにポケットラジオを見下ろしていたルティは、顔を上げると心ここにあらずといった声で俺の名前を呼んだ。

 

「どうだった?」

「……まるで、夢のようだ」

 

 小さい、つぶやくような声。言葉通りに夢心地なのか、ピピナが手に持ち、ルティがつけたままのイヤホンからはノイズが漏れている。

 

「我らが話したことが、こうして〈らじお〉で聴けるとは思わなかった」

「父さんに教わってから、絶対にこれをやろうって決めてたんだ」

(さか)しい真似を……」

「でも、聴いてみてどうよ」

「そんなの、決まっている!」

 

 さっきまでと一変した声できっぱりと言うと、

 

「とても、とっても楽しかった!」

 

 喜びを爆発させたルティは、さっき以上にまぶしい笑顔を見せてくれた。

 

「皆でしゃべったことも楽しかったが、こうして聴くのも楽しいとは……まことに、まるで夢のようだった。時間など、あっという間に過ぎていったぞ!」

「そうだろう。俺も、聴いててとても楽しかったぞ」

「ルティさまもさすけも、かなもるいこおねーさんもたのしそーで、ピピナもいっしょにたのしくなったですよ!」

「ピピナも楽しんでくれたか」

「はいですっ!」

 

 ぴょこんとルティの肩に飛び乗ったピピナがほおずりをする。きっと、それだけ楽しかったってことなんだろう。

 

「次はピピナも、我らとともに〈らじお〉で話そう」

「ピピナもですか?」

「おっ、そりゃいい考えだ」

「だろう?」

「い、いーんですか? ピピナがらじおでしゃべっちゃって」

「当然ではないか。ピピナも、我らの友なのだからな」

「そうだぞ。もしもスタジオには行けなくたって、先輩の家でも俺の家でも学校の放送室でも、なんだったらこの公園でも番組は作れるんだ」

 

 そのための機材だったら、いくらでもある。PCでもICレコーダーでもいいし、なんだったらずっと前の先輩たちが残していったテープレコーダーって手もある。それを使えば、いつでもどこでも収録はできるんだ。

 

「じゃあ、ピピナもいっしょにしゃべりたいですっ!」

「では、決まりだな!」

「帰ったら、有楽と先輩にも話しておこう。それでもって、次はレンディアールだ」

「レンディアールだと?」

 

 俺の言葉を、きょとんとした顔でルティが聞き返す。

 

「おいおい、レンディアールでラジオ局を作るんだろ? だったら、今度はレンディアール向けの番組も作らないと」

「そうか……そうだな!」

 

 合点がいった感じで、ルティの表情に力がまた戻った。ほんと、ころころと表情が変わるから見てて楽しいや。

 

「だが、我の〈らじお〉への知識はまだ浅い。それくらいは、深く理解している」

「まあ、まだ初歩の初歩っていったところだし」

「で、あろうな」

 

 くすりと、ひとつ苦笑い。

 

「だから、我からサスケに願いたいことがある」

「俺に、か?」

「ああ」

 

 続いてルティは、姿勢を正して座り直すと、

 

「我とともに、〈らじおきょく〉を作ってはくれまいか?」

 

 俺より背が低いこともあって、上目遣いでそうお願いしてきた。

 

「〈らじお〉の楽しさを教えてくれたサスケとカナ、そしてルイコ嬢とともに、レンディアールの皆へ届くような〈らじおきょく〉が作りたい。様々な人々との対話に音楽、そして音声劇に運動実況などの娯楽や様々な情報の提供は、きっと新たな楽しみになるはずだ」

 

 始めは落ち着いていた言葉に、熱が帯びていく。

 

「当然、時間が空いているときでいい。昨晩ピピナとも話し合ったのだが、我がレンディアールに戻ったとしても、時を見計らって日本へ再び来ることができると思う」

「ピピナも、いっぱいごはんをたべていっぱいがんばるですよっ!」

 

 胸を張ったルピナが、元気いっぱいに言ってみせる。そうか、ピピナも決断したのか。

 

「もちろん、サスケだけではなくカナとルイコ嬢にも願うつもりだ。まずはこうして、始めに我をこの世界に我を導いてくれたサスケへ願いたかった」

 

 ルティの凛とした声も、静かに俺の心へ響いていく。それが、俺の言いたかったことを確かなものにしてくれた。

 

「ありがとな、ルティ」

「えっ」

「ラジオ局づくりへ、俺を誘ってくれて」

「な、何故我に礼を言うのだ? 我の方こそ、礼を言っても言い切れないというのに」

「俺、不安だったんだよ」

 

 自分が情けなくて、思わず人差し指で頬をかく。

 

「ラジオのことを教え終わったら、ルティはレンディアールに帰って……もう二度と会えないんじゃないかって。つい今の今まで、そんな不安をずっと抱えてた」

 

 我ながら、弱気にも程があるとは思う。でも、わかばシティFMのスタジオ前で見た夕陽を背にするルティの姿はどこかはかなくて、いつまで経っても俺にそんな不安を抱かさせた。

 

「でも、いっしょにラジオ局を作れるってことは、これからもルティと会えるってことだよな」

「当たり前ではないか。皆がいなければ我の〈らじおきょく〉作りは始まらぬし、我だってこうしてともに遊んだりするのが大好きだ!」

 

 当然だとばかりに、きっぱりルティが言ってみせる。背筋をぴんと伸ばしながら腰に手をあてて、俺をまっすぐ見つめているだけあって、確かな説得力があった。

 

「そっか……そうだよな」

 

 初めて会った日、手を触れれば今にも消えそうだった幻想的な女の子が、はっきりとした姿と声で断言してくれている。だったら、返事はひとつだけだ。

 

「俺こそ、よろしく頼むよ」

「頼むって、我のほうが頼んでいるのだぞ?」

「仕方ないだろ。そう言いたかったんだから」

 

 これからも有楽や赤坂先輩といっしょにルティやピピナとわいわいラジオ局作りができるなんて、こんなに楽しみなことはない。俺の方からこそ、お願いしたいことだった。

 

「そうか。ならば、決まりだな」

「ああ」

 

 ルティが差し出した手をゆっくり握ると、この間ここで感じたのと同じ温かさがまた手から身体へと伝わっていく。ルティはここにいるんだって確かに思える、優しい温もりだった。

 

「よろしく、サスケ」

「よろしくな、ルティ」

「もうっ、ふたりともピピナをわすれちゃだめだめですっ!」

 

 ちょっと拗ねたように言って、ピピナが俺とルティの握った手の上へと座る。

 

「もちろん忘れてないとも。ピピナ、これからもよろしく」

「よろしくな、ピピナ」

「はいですよっ。ルティさま、さすけっ!」

 

 満足そうににぱっと笑うピピナと、瞳に強い意志を込めて微笑むルティ。きっと、つられて俺も笑っているんだろう。

 今やっと、足踏みを続けていた俺の歩みが前に進んだんだって、そう思えるくらいに。

 

 それから俺たちは、店から出る前に母さんから渡されたサンドイッチで昼飯を食べたり、送信キットを使っていろいろ実験してみたり、先輩がスタッフを担当しているわかばシティFMの公開放送をいっしょに聴いたりして公園の広場で過ごした。

 雲一つないぽかぽか陽気で少し暑いぐらいだったけど、ふたりといた楽しさでほとんど気にはならなかった。

 

「今日は楽しかったぞ、サスケ」

「たのしかったです!」

「俺も、とても楽しかったよ」

 

 降りたバスを見送って歩き出したのは、終点の若葉駅前。少し傾いた陽は、街をオレンジ色に染め始めていた。

 

「ふたりとも、先輩が帰ってくるまでうちで待つんだろ。母さんが、ホットケーキを焼いてくれるってさ」

「〈ほっとけーき〉?」

「あー、そっちだとパンケーキのほうがわかりやすいのか?」

「〈ぱんけーき〉……なんと、御母堂が我に作ってくださるのか!」

「ピピナもルティさまも、ぱんけーきだいすきですよー!」

「うむっ、楓の雫も忘れてはなるまいぞ」

 

 さっきまでは14歳と思えないぐらいに凛々しい姿を見せてくれたルティが、今は14歳の年相応……よりも、ちょっと幼いぐらいの姿を見せている。振れ幅が大きくて不思議だけど、やっぱりそれがルティの魅力だと思う。

 

「有楽からもオーディションが終わったってメールがあったし、あとで電話して――」

 

 これからの予定を話しながら、うちの店へと続く曲がり角に差し掛かろうとした、その時。

 

「痴れ者よ」

「っ!?」

 

 俺ののど元に、長い針のような物が突き付けられる。

 

「ピピナを謀りエルティシア様をさらったこと、後悔させてくれましょう」

 

 続いてふわりと舞ったのは、長く蒼い三つ編みと、より深い蒼のドレス。

 ルティより少し背が高い女の子は、透明な羽を夕陽にきらめかせながら金色の瞳で俺を射抜いた。

 

「リリナ!?」

「ねーさま!?」

 

 どうやら、俺はまたレンディアールの人に出会ってしまったらしい。

 

「えー……」

 

 しかも、めちゃくちゃ誤解された形で。

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