異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第27話 異世界少女との出会いかた②

「悪かったですね、小さくて」

 

 むっとしながら、俺をにらみつけるリリナさん。ピピナと同じぐらいちんまりとしたサイズではあるけど、その表情に可愛らしさや親しさはひとかけらもない。

 

「いや、だって、日本じゃ大きかったですよね?」

「普段はあの大きさで、今は力を補充するためです」

 

 なるほど、省電力モードとか充電中みたいな感じか。

 

「それよりも、マツハマ・サスケ。あなたが賊でないことは、ルティ様の説明で理解はいたしました。ですが、なぜあなたはピピナとともにこの地へと来ていたのですか」

「えっ、俺が?」

「とぼけないでください。一昨日の日中、ピピナとあなたともうひとりの方がこの街にいらっしゃったでしょう。わずかではありましたが、その気配が残されていました」

 

 こんなふざけた手紙とともにと、何かの文字が走り書きされた紙切れをぺしぺし叩くリリナさん。これって、ピピナが残したっていう置き手紙か。

 

「サスケ、リリナの言っていることは本当なのか?」

「あー……」

 

 流石に、ここまでかぎつけられてちゃもう隠し立てはできないな。

 

「すまん、本当だ」

「何故に」

「ピピナに、有楽といっしょに連れてこられた。ヴィエルでラジオができるのかどうか、見てほしいって」

「あの愚妹め、連れてくるならエルティシア様が先であろうに」

「それが問題なのではない」

 

 リリナさんのぼやきを、ルティがぴしゃりとたしなめる。

 

「どうして、我にそれを黙っていた」

「ルティに心配させたくなかったんだ。その時はまだ結論が出なかったし、それに……」

「それに?」

「公園で言っただろ。帰ったら会えなくなるんじゃないか不安だったって。だから言えなかったんだよ」

 

 気恥ずかしくなって、俺を見据えるルティから目を少し背けた。こんなこと、面と向かって言えるわけねーし。

 

「心配性にも程があるのではないか?」

「うるせー」

 

 仕方ないとばかりに笑うルティに、悪態をつくしかできな――

 

「無礼すぎにも程がありますよね」

「ひっ」

 

 突然、飛びかかってきたリリナさんの手から針のようなものが突き出される。ミニチュアサイズでも、先端がめちゃくちゃ光ってて刺されば絶対痛いやつだ。

 

「こらっ、リリナ!」

「ですが!」

「リリナちゃん~」

「は、はいっ」

 

 ルティの制止は渋っていたリリナさんに、フィルミアさんが声をかけるとびくんと身を震わせて振り返った。

 

「さっき、おとなしくしてるって約束したよね~?」

「しかし」

「ね~?」

「……わ、わかりました」

 

 リリナさんは俺をひとにらみすると、ぴょんと飛び退いてテーブルの上へと戻った。フィルミアさんも、赤坂先輩みたいな威圧感を持ってるのか……

 

「ですが、ひとつだけ聞かせてください。何故あなたは、そんなにエルティシア様と馴れ馴れしく接しているのですか?」

「何故って、そりゃルティと友達だからだけど」

「友達? 平々凡々にしか見えない、あなたが? エルティシア様と?」

「トゲのある言い方だなおい」

 

 さすがピピナのお姉さんなだけあって、ずいぶんな毒をお持ちなようで。

 

「当然です」

「リリナ、言い過ぎだ」

「いいえ、言わせていただきます」

 

 そこまで言ったリリナさんは、俺をキッとにらみつけると、

 

「レンディアールの第5王女であるエルティシア・ライナ=ディ・レンディアール様に馴れ馴れしくするなど、無礼以外の何物でもありません!」

「……はい?」

 

 まったく考えもしていなかったことを、言い放った。

 

「あー……」

 

 リリナさんの言葉を肯定するみたいに、ルティが頭を抱える。ってことは……

 

「な、なあ、ルティ」

「……すまない」

 

 大きくため息を吐いてからゆっくりと顔を上げたルティは、

 

「我は、サスケのことをとやかく言えぬ立場であった」

 

 今まで見たことのないような、泣き笑いのような表情を浮かべていた。

 

「本当、なのか」

「うむ」

 

 そして、小さくうなずいて明かしてくれた言葉は、

 

「リリナの言うとおり、我はレンディアールの第5王女、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアール。レンドというのは、発祥である地から取った偽りの姓だ」

 

 いつもの凛とした声とはほど遠い、弱々しいものだった。

 

「初めて会った者にはそう名乗ることにしていたのだが……みんなと親しくなっていくうちに、もし明かしてしまえば関係が変わってしまうと思って……」

 

 だんだんと、ルティの声が消え入るようにか細くなっていく。硬い口調や仕草からどこかのお嬢様かとは思ったけど、まさかレンディアールの王女様だとまでは考えつかなかった。

 でも……違う。そんなのは、違う。

 

「なーんだ、そんなことか」

「なっ」

 

 ラジオを収録したときも思ったけど、俺が見ていたいルティはこんな弱気なルティじゃない。

 

「日本で出会ったルティも、今ここにいるルティもルティはルティだ。今更言われたって、何も変わらねえよ」

 

 王族に対してこんなことを言えば、またリリナさんに不敬ってどやされるんだろう。でも、俺が日本で出会ったのは「エルティシア・ライナ=ディ・レンド」っていう凜々しくて可愛らしさにあふれた女の子なんだ。今更、そう簡単にルティとの距離を離されてたまるか。

 

「だから、あとはルティが好きにすればいい」

「うむ……うむっ」

 

 俺の提案を聞いて、ルティの瞳に力が戻っていく。

 

「ならば、決まっている」

 

 それをリリナさんに向けると、

 

「サスケは今まで通り、なんら変わりなく接してくれればよい!」

「おうよ」

「馬鹿なっ!?」

 

 力強い声で宣言してみせて、俺も短く、しっかりと応えた。驚愕で固まってるリリナさんのことなんか、知ったこっちゃない。ルティ本人が言うんだから、そうさせてくれ。

 

「ふふふっ」

 

 と、俺たちの様子を見ていたフィルミアさんが口に手をあてて愉快そうに笑い出した。

 

「フィルミア様、なぜ笑うのですか!」

「リリナちゃん。ルティとサスケさんが言っているんですから、そうするしかありませんよ~」

「でも、でもっ!」

「わたしたちレンディアール家は、典礼や公式行事以外は民の方々とも親しく接しています~。ですから、サスケさんの行動はな~んら問題ないんですよ~」

「ううっ」

「リリナちゃんも、よ~く知ってますよね~?」

「……わかって、おりますが」

「だから~、このことはこれでおしまい~」

 

 そこまで言って、フィルミアさんが両手をぽんと合わせる。

 

「…………」

 

 でも、対照的にうつむいたリリナさんは肩を震わせて、

 

「こ、これで勝ったと思うなよっ!!」

「おわっ!?」

 

 俺をにらみつけたかと思ったら、透明の羽をはばたかせてドアの隙間から飛び出して行った。

 

「な、なんだったんだいったい……」

「リリナはいつでもこうなのだ」

「どうしても、王族としての格式にこだわりがあるようで~」

「格式、ねぇ」

 

 王族っていう存在は特別だろうからこだわりがあってもおかしくないけど、それを強制させるのは……って、あれっ?

 

「ルティのお姉さんってことは、フィルミアさんも王族なんですよね?」

「はい~」

 

 フィルミアさんは胸元に手を当てると、ほんわかにこにこ笑顔を俺に向けた。

 

「わたしはレンディアールの第3王女、フィルミア・リオラ=ディ・レンディアールです~」

「さっき言ってたふたつ上って、そういう意味でしたか」

「それもそうですけど、16歳なんですよ~」

「姉様は9月の生まれだから、今年17歳になるのだ」

「なら、俺と同い年ですね」

「そうなんですか~。同い年のお友達ができるなんて、久しぶりです~」

「と、友達?」

「はい~。ルティのお友達なら、わたしにとってもお友達ですよ~」

 

 ね、と同意を求めるように、笑顔のまま少し首をかしげるフィルミアさん。外にはねた短い銀髪がしゃらんと振られて可愛らしいことは可愛らしいんだけど、

 

「いいんですか? まだ会ったばかりで、その上別の世界から来たってのに」

「関係ありません~。ルティを助けて下さって、その上親しくしていただいてるのですから~」

「まあ、そういうことなら……じゃあ、よろしくお願いします」

「よろしくです~」

 

 のんびりとしたフィルミアさんの口調に流されたまま、結局俺はその言葉を受け入れた。考えてみればここでの友達が増えるのも悪くないし、ルティのお姉さんなら尚更だし、

 

「で……俺、これからどうしたらいいんですかね」

 

 相談させてもらうには、いい機会かもしれない。

 

「確かに、我もサスケも突然連れてこられてしまったからな。ミア姉様、異世界を渡るには、やはり妖精族の力を借りなければならないのでしょうか」

「おそらくそうでしょうけれど~、リリナちゃんのあの様子では難しいかと~」

「参ったな。この辺りに妖精族の集落はないし……」

「どーしよ……俺、明日学校だってのに」

「そうだった!」

 

 俺が頭を抱えると同時に、ルティが弾かれるように俺の腕を掴んで身体を揺さぶってきた。

 

「済まぬ、サスケ! まさか、このようになるとは」

「ルティのせいじゃねえって。リリナさんが早とちりしたのが原因……って、そうだ。フィルミアさん、ルティとピピナは盗賊に襲われたってことは聞きましたか?」

「はい~。ルティがいなくなってしまった直後に、イロウナ側から山越えしてきたという盗賊さんたちが国境辺りにいるという情報が届いたので、警備隊さんたちに大捕物をしていただきました~」

「ラガルス殿から聞いたのだが、どうもその時に盗賊のひとりが『銀色の髪の少女が目の前で消えた』ということを供述したようでな。中央都市から来た警備隊が我を探している最中にピピナがここへ戻り、置き手紙を置いたらしい」

「その気配を察知して、リリナさんが俺たちのところに殴り込んできたってわけか」

「わたしは止めたんですけど、どうしても許せないって勝手に行ってしまって~」

 

 リリナさんの冷たい視線を思い出して、鳥肌が立つ。ということは、俺がピピナを脅すか何かして、ルティと日本へ飛んだとか思われていたってことだよな?

 

「こえー……」

「我は、リリナの短絡的な考えのほうが怖い……」

「でもでも~、こうしてルティがお友達を作って戻ってきたんですから、大団円ということで~」

 

 俺とルティの怖い想像を、フィルミアさんがぽんっと手を叩いて断ち切る。

 

「せっかくですから~、ルティに教えて下さった〈らじお〉というものを、わたしにも教えて下さいませんか~?」

「もちろんいいですよ。ルティ、いいよな」

「当然だ。ミア姉様にも見てほしい」

 

 ルティはポシェットを外すと、ファスナーを開いて中から送信キットを大事そうに取り出した。

 

「まずはこれが〈みにえふえむそうしんきっと〉。〈らじお〉の音を飛ばすためのものです」

 

 テーブルへ置かれた送信キットに、損傷のようなものはない。よかった、ちゃんと無事に世界を渡ってこられたんだな。

 

「その音を受け取るのが、この〈ぽけっとらじお〉。小さきものではありますが、よく音が聞こえます」

「両方とも、まるで箱みたいですね~」

 

 机に置かれた送信キットとポケットラジオを、フィルミアさんが物珍しそうに見る。ちょいちょいとつついているあたり、やっぱりルティと姉妹なんだな。

 

「それでは、(わたくし)はこの〈そうしんきっと〉を持って外に出ますね」

「どこへ行くんですか~?」

「これは離れてこそ意味があるのです。サスケ、〈ぽけっとらじお〉の〈すいっち〉を頼むぞ」

「わかった」

 

 俺が小さくうなずいたのを見たルティは、うなずき返して部屋から出て行った。言われたとおりにポケットラジオの電源を入れると、スピーカーからノイズが流れ始めた。

 

「この音が〈らじお〉なんですか~?」

「まあ、もうちょっと待ってみてください」

 

 フィルミアさんに説明してからしばらくすると、スピーカーからのノイズが無音へと切り替わった。そして、

 

『ミア姉様』

 

 スピーカーから流れてきたのは、聴き慣れたルティの声。

 

『ミア姉様、エルティシアです。聴こえますか?』

「ルティ……? この声は、ルティの声なのですか~?」

 

 不思議そうにつぶやいたフィルミアさんが、俺を見上げる。

 

「ええ。正真正銘、ルティの声です」

「でも、ルティはここにいませんよね~?」

「えーっと……ああ、いたいた」

 

 大きな窓の外に目をやると、さっき俺が連れられてきた庭みたいなところでルティが手を振っていた。俺も手を振り返すとぴょんぴょん跳び跳ね始めて、その足音がポケットラジオのスピーカーから聴こえてくる。

 

『姉様。私の声が聴こえたら、手を振って下さい』

「は、はい~」

 

 戸惑っていたフィルミアさんも窓の方を向いて、手を振ってみせた。

 

『このように、離れた場所から音を届けるのが〈らじお〉なのです』

「そうなのですか~?」

「ええ。俺が住んでいる世界にある技術です」

 

 ルティの言葉につられて、俺の声にも誇りがこもる。

 

「不思議です~。壁の向こうにいるのに、ルティの声がはっきりと聴こえるなんて~」

「ルティが今持っている機械から『電波』っていうのが出てて、ルティがしゃべったことをこのポケットラジオに飛ばしているんですよ」

「『でんぱ』? でも、何も飛んでませんよ~?」

「人には見えないものなんです。ピピナは『空を飛ぶ声』って言ってましたね」

「は~」

 

 実感が湧かないのか、フィルミアさんの返事はため息混じりだった。でも、そりゃそうか。俺らの場合は生まれた時からラジオがあってそういうものだって思えたけど、この世界の人たちからしたら何もかもが初めてなんだから。

 

「あと、ルティが持ってる機械で飛ばせるのは声だけじゃないんです。音だったら大抵のものが飛ばせます」

「音もですか~……」

「たとえば、歌とか楽器の演奏のような音楽とか――」

「音楽っ!?」

「おわっ!」

 

 俺が音楽のことを話し始めたとたん、さっきまでののんびり具合がウソみたいに真向かいから乗りだしてきた。こ、こんな身のこなしもできるのか。

 

「音楽も、この〈らじお〉で聴けるのですね~!?」

「は、はい。もちろん、歌ったり楽器で演奏することが必要ですけど」

「は~!」

 

 さっきも「は~」って言ってたけど、今の「は~!」と声の張りが全然違う。そうか、フィルミアさんは音楽に興味があるのか。

 

「もしよかったら、フィルミアさんもやってみます?」

「いいんですかっ!?」

「これはルティにあげたものですから、お姉さんのフィルミアさんにも使ってもらえたらうれしいです」

「ありがとうございます~!」

 

 フィルミアさんは両手で俺の右手を握ると、とてもうれしそうにブンブンと上下に振り出した。この人、おっとりしてる分感情の弾け方が凄いな!

 

「じゃ、じゃあ、一旦ルティを呼んできますん――」

 

 なんとかフィルミアさんをなだめて、外にいるルティを呼んでこようと思った、その時。

 

『ルティちゃんみぃぃぃぃっけぇぇぇぇぇっ!!』

『わぁぁぁぁっ!? か、カナっ!? はなせっ、はなせぇっ!!』

「……うわー」

 

 とてもよく聞き慣れた叫びと悲鳴が、ラジオのスピーカーから流れてきた。

 

「あの、どうしたんでしょう~?」

「とにかく行ってみましょう」

 

 多分アレだろうなと思いながら、応接室に続いて玄関のドアを開けると、

 

「ルティちゃんゲットー!」

「ううっ、なぜだっ、なぜ抜け出せぬのだー!」

 

 庭のようなところでルティを抱きしめている有楽と、

 

「ま、松浜くん、だよね?」

「えっ、先輩も来たんですか!?」

 

 何故か……いや、たぶん『ここ』に連れてこられてうろたえている赤坂先輩と、

 

「お……おなかが……おなかがすいたですー……」

「ぴ、ピピナちゃん~!?」

 

 先輩の手の上でぐったりとしている、ピピナの姿があった。

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