異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第35話 異世界少女(?)との話しかた③

 そんな騒動から、かなりの時間が経って。

 

「あの……本当に、今日はお騒がせして申しわけありませんでした」

 

 オレンジ色に染まった空が見える中庭で、人間サイズのリリナさんがメイド服姿で俺たちへ深々と頭を下げていた。

 

「いえ、俺たちのほうこそ」

「あたしも、もう二度としません」

「ちゃんと考えずにルティさんとピピナちゃんを引き止めてしまって……こちらこそ、すいませんでした」

 

 俺と有楽、そして赤坂先輩も、揃ってリリナさんへ頭を下げる。

 

 ミニマムサイズになって気絶したリリナさんを運んで帰ったあと、俺たちは目が覚めたリリナさんへ改めて謝りに行った。

 先に俺がリリナさんへ話していたのと、有楽と先輩がラジオで話を聴いていたこともあって話はスムーズに進んだけど、毒気がすっかり抜けたリリナさんは『冷たい態度を取ってしまった』と有楽と先輩へずっと謝りどおしだった。

 

「もういいのです。エルティシア様とピピナを守って下さった方々なのですから、これからはフィルミア様が言うように、あなた様方と平時のように接させていただきますね」

「そのわりには~、やはり言葉が堅いですよね~?」

「これが、私の平時なので」

 

 からかってくるフィルミアさんに、苦笑いで返すリリナさん。そこには、俺たちが話し合うまでに見せていたとげとげしさは一切なかった。

 

「リリナ」

「どうされましたか? エルティシア様」

「えっと……これから我がいないことも多くなると思うが、レンディアールの王族としての誇りは忘れずに邁進(まいしん)していくつもりだ。しかし、道を違えたと思った時にはこれまで通り容赦なく叱咤してほしい」

 

 リリナさんの前に立ったルティが、始めは言いよどみながらも堂々と胸を張って言い切った。

 ルティもまた俺たちを追い掛けてきていたんだけど、俺とリリナさんの話を聴いて思うところがあったのか、俺たちの謝罪のあとにリリナさんの部屋へ入ってかなりの時間話し込んでいた。入る前は思い詰めていた表情がすっきりしていたのを見ると、ちゃんと話し合えたんだろう。

 

「当然です。時折、ピピナと入れ替わって様子を見に参りましょうか」

「入れ替わるのか?」

「めっ、めーですよ!」

 

 と、ふたりの会話を聞いていたピピナがふたりの間に割り込む。

 

「ルティさまのおせわは、ピピナがするってきまってるんですっ!」

「本当に、ちゃんと出来るんだろうな」

「あったりまえですっ!」

 

 ぷくーっとふくらんだピピナのほっぺたを、からかうようにいいながらリリナさんがつんつんとつっついた。

 

「それは残念。まあ、半人前にはなれた妹のことを喜ぶとしよう」

「ふーんだっ」

 

 口ではそう言い合いながら、リリナさんもピピナもふさげたように笑い合ってる。ルティのあとに部屋へ入ったピピナは俺たちやルティよりもずっと長く話し合っていて、ついさっきいっしょに部屋から出てきたところだ。

 

「ピピナちゃん~、そろそろ時間なんですよね~?」

「わわわっ、そーですそーです」

 

 それは、もうすぐ日本へ戻るタイムリミットが迫っていることと、

 

「本当に、あの1時間後にちゃんと戻れるんだろうな」

「だいじょーぶですよ。そのためにめいっぱいちからをつかって、そっちのせかいのじかんをこーらせたんですから。あとはじかんがくれば、ピピナのちからがはつどーしてにほんにいけるです」

「だから、ルティも一度日本に行ってからレンディアールに戻るわけだ」

「うむ」

 

 ルティとピピナが、こっち――レンディアールへ帰るということも意味していた。

 

「そう遠くないうちに、またニホンへ行くからな」

「おう。ルティもピピナも、俺たちみんなで待ってるぞ」

「ありがとーです。おなかいっぱいのピピナはむてきですから、ねーさま、るいこおねーさん、いーっぱいごはんをたべさせてくださいね!」

「まったくお前は……申しわけありません、ルイコ嬢。私の妹の食いしん坊に付き合わせてしまって」

「いいんですよ。ピピナさんが食べてる姿を見ていると、幸せになれるんです」

「ですよね! 一生懸命食べてる姿がとってもかわいくて!」

「えへへー」

「ピピナちゃん、みなさんをちゃんと送ってくださいね~。まだまだ、わたしの歌を〈らじお〉で流してもらう約束があるんですから~」

「もっちろんです!」

 

 フィルミアさんのお願いに、ピピナが大きくうなずいてみせる。結局リリナさんとの話し合いもあってお預けになっちゃったから、この約束もちゃんと守らないと。

 

「わわっ!?」

「あっ、そろそろみたいですね」

 

 驚く有楽の体のまわりを、淡く白い光が包み始めていく。

 

「それでは~、またいらっしゃるのをお待ちしてます~」

「はいっ。今度は、もっといっぱい曲を持って来ますね」

「楽しみにしてますよ~!」

 

 にこやかにあいさつしたフィルミアさんへ、先輩がていねいにおじぎで返す。体が光っていることも相まって、なんだか神秘的だ。

 

「リリナちゃん、あたしも本とかラジオドラマとか、いーっぱい持ってくるからね!」

「はい、私も楽しみにしております」

 

 一方、意気込んでいる有楽に笑顔で応じるリリナさん。俺と有楽が謝りに行ったとき、落ち着いて有楽が話せたことでリリナさんに興味を持ってもらえたらしい。ちゃんとできるんだから、いい加減ハァハァするのはやめればいいのに。

 

「俺も、ラジオに使えそうなものとかいろいろ探してきますよ」

「はい~、お待ちしてますね~」

「リリナ、我が帰るまでほんの少し時間がかかるが、心配せずとも大丈夫だからな」

「いずこかへ寄られるのですか?」

「うむ。サスケの御母堂が、我に〈ぱんけぇき〉というお菓子を作ってくださるために待っておられるのだ」

「なるほど、心得ました」

 

 俺がフィルミアさんにあいさつしている横で、ルティはリリナさんへ用事を伝えていた。母さんが待ってることをルティに言ってからずいぶん経ったけど、ちゃんと覚えていたんだな。

 

「あ、あれっ?」

「どうした、ピピナ」

「あの、サスケとルティさまがひかってないですよ」

「えっ?」

 

 言われてルティを見てみると、確かに先輩や有楽と違って体が光に包まれてはいなかった。俺の手とか体も、まったく光ってはいない。

 

「どういうことだ?」

「あ、あははー」

 

 ルティの問いかけに、ピピナがごまかすように笑う。

 

「ピピナ、しっぱいしちゃってたみたいです」

「はぁ!?」

「かなとるいこおねーさんをつれてくのと、じかんをこーらせることばっかりかんがえちゃって」

「え、ちょっと、じゃあ俺はどうするんだよ!」

「えーっと……どうしましょーかー」

「どうしようかって、俺に聞かれましてもねぇ!?」

 

 明日は学校だってのに、俺だけここに置き去りにされるなんてそりゃねーだろ!

 

「ごっ、ごめんなさいですー!」

「せ、せんぱい、お先に失礼しますねっ!」

「松浜くん、ごめんねっ!」

 

 ぺこぺこ頭を下げるピピナと、わざとらしく笑う有楽。そして、その隣で両手を合わせていた赤坂先輩が強くなっていく光に包まれたかと思うと、

 

「うわっ!」

 

 目いっぱいにあふれた光が飛び散って……その後には、本当に誰もいなくなっていた。

 

「……えー」

「あの未熟者が……」

「やっぱり、ピピナちゃんはリリナちゃんの妹さんなんですね~」

「どういうことですっ!?」

「さ、サスケっ、我はここにいるから気を落とすなっ。リリナも、な?」

 

 脱力している俺と隣で頭を抱えているリリナさんを、駆け寄ってきたルティがのぞき込んで励ましてくれた。それはそれでうれしいんだけど……どーすればいいんだ。

 

「ねえ、リリナちゃん、ピピナちゃんを追いかけることってできるかな~?」

「もちろんそれは出来ます。ただ、その間フィルミア様にひとりで待って頂くことになってしまいますが」

「ふむ……リリナ、ここと〈ニホン〉を何人ぐらいまで往復させることができるのだ?」

「私であれば、4人ほどまでなら往復できると思いますが」

「そうか」

 

 リリナさんの答えを聞いたルティは、そう言ってにんまりと笑うと、

 

「ミア姉様。姉様もいっしょに〈ニホン〉へ参りませんか?」

 

 目を輝かせながらフィルミアさんに申し出た。なるほど、そう来たか。

 

「わたしもですか~?」

「はいっ。サスケの御母堂が作られる料理は、どれも美味しいですから。リリナも、いっしょに行こう」

「私も……サスケ殿、よろしいのでしょうか?」

「ええ、歓迎しますよ。うちの母さんの料理、ルティが言うとおり結構美味いですから」

 

 ちょいと人数は増えるけど、その分は俺がポケットマネーから出せば問題ない。ルティと再会したばかりのフィルミアさんをひとり残して行くよりも、そのほうがずっといいだろう。

 

「では~、お言葉に甘えて~」

「私も、お供いたします!」

 

 俺の歓迎の言葉に、フィルミアさんもリリナさんもぱあっと笑顔になる。やっぱり、ふたりともそうじゃないと。

 

「サスケ、案内は頼んだぞ」

「おうっ、任せろ」

 

 隣にいたルティの視線に合わせて俺が笑うと、ルティも笑って大きくうなずいてくれた。

 異世界で出会った友達といっしょに日本へ帰るなんて、人に言ったら笑われるかもしれないけど、

 

「楽しみだね~」

「はいっ」

 

 友達が楽しんでくれれば十分だって、俺はそう思うんだ。

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