異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第38話 異世界ラジオの進めかた③

「ふふっ。みんな楽しそうねぇ」

 

 みんなで話しているうちに、母さんが観葉植物の影からひょっこり顔を出してのぞき込んできた。

 

「お待たせしました。リリナちゃんとピピナちゃんはスペシャルホットケーキね」

「ありがとうございます、チホ様」

「わーいっ、ほっとけーきっ、ほっとけーきっ!」

 

 リリナさんとピピナの前に、母さんがホットケーキが盛られた皿を置いていく。ブルーベリーやマンゴーといったフルーツの他にもイチゴのシャーベットとバニラのソフトクリームが盛られた、言葉通りスペシャルなホットケーキだ。

 

「それと、いろいろ話し合ってたみたいだから……はいっ、こういうときには甘いものがいちばんっ」

 

 続いて、俺とルティ、そしてフィルミアさんの前にイチゴのシャーベットが盛られたカップが置かれた。

 

「母さん、これ」

「お夕飯前でも、これくらいは行けるでしょ。冷たく甘酸っぱいもので、気分をリフレッシュしなさい」

「あの、お代のほうは――」

「いいんですよ。フィルミアさんとルティさんには朝昼晩ってうちに来てもらってるんだし、 リリナちゃんはピピナちゃんの分と合わせて、バイト代のおまけってことで」

「申しわけありません。マツハマ家のみなさんには、なにもかもお世話になりっぱなしで~……」

「気にしないでください。あたしだって、(きん)を売りに行くなんて面白い体験をさせてもらったんだからおあいこですよ」

 

 しゅんとするルティとフィルミアさんに、母さんが豪快に笑ってみせる。

 木曜日の夜にフィルミアさんが金貨でお代を支払おうとした時に『これを売れば、日本で使えるお金になるんじゃない?』って提案して、いっしょに付き添って1枚10数万円で換金してきたってんだから……ほんと、剛の者にも程があるよ。

 

「それに、売れたっていってもお金には限りがあるんですから。そういうのは、こっちでの生活にとっておいてください」

「重ね重ね、ありがとうございます~」

「どういたしまして。うちの佐助のことも、よろしくお願いします」

「もちろんです」

「じゃあ、じっくり味わってね~」

 

 母さんは空いたトレイを左手で抱えると、右手をひらひらさせながらカウンターへと戻っていった。

 

「なんとも気持ちのいいお方ですね、チホ様は」

「お節介焼きなんですよ、うちの母さん」

「サスケにはそうかもしれない。だが、我らにとってはそなたらと並ぶ命の恩人だ」

「そっか……ルティから見たら、確かにそうなのかもな」

 

 おどけて言う俺に、ルティが大真面目な表情で力説する。

 あのときのパンやミルクセーキで、ルティは文字通り命拾いした。それに、異世界からのお姫様や妖精が来たってのに、驚いたのは最初だけであとは普通に接しているんだから、みんなにとってはありがたい存在なんだろう。

 

「ではでは~、せっかくいただいたのですからいただきましょうか~」

「そーですそーです。しゃーべっとがとけちゃうですよー」

「それもそうだな。では、いただきます」

「「「「いただきます」」」」

 

 慣れた仕草で手を合わせ、軽く頭を下げながらあいさつするルティ。続いて、俺たちもあいさつをしてからスプーンやフォークに手を伸ばした。

 

「ん、美味しい!」

「冷たくて、甘ずっぱいですね~!」

 

 先に口にしたルティとフィルミアさんの甘い歓声を聴きながら、俺もひとくち……おお、いつも通りの美味さだ。冷たさといっしょに牛乳の甘さが広がって、そのあとにいちごの酸味がふわっと覆っていく。自家製だから味には毎回ブレがあるけど、美味いのだけは変わらないのが母さんお手製のシャーベットだ。

 

「んしょんしょ、あむあむ、んしょんしょ」

「お前は食べてるってより、掘り進んでる感じだよな」

 

 そんな中で、皿の縁に座っているピピナはスコップ型のスプーンでホットケーキを掘るようにして食べていた。

 

「人化して食べないと汚れるぞ、ピピナ」

「だって、こっちのほーがおなかいっぱいたべられるですよ? ねーさまもやってみるといーです」

「今は給仕服だから遠慮しておこう。ほら、ほっぺたに果汁がついてるじゃないか」

「ざんねんですー……んむんむ、えへへー」

 

 ちょっと寂しそうにしながらも、リリナさんにほっぺたを拭いてもらってご満悦なピピナ。ちょっと前の尖った雰囲気がウソみたいな仲の良さで、こっちまでほほえましくなる。

 

「それにしても〈ばんぐみ〉というのは本当にいっぱいあるんですね~」

「確かに。こうして毎日詰め込まれているのを見ると、圧巻です」

 

 隣同士で座っているフィルミアさんとルティは、シャーベットを食べながらもわかばシティFMの番組表に見入っていた。王女様がスプーンを口にくわえてる姿ってのはレアなんだろうけど、今撮って有楽に送ったところで逆効果になりそうだから控えておこう。

 

「お疲れ様です」

 

 そんなことを考えていると、赤坂先輩も観葉植物の影からひょっこりと顔を出してきた。

 

「あっ、赤坂先輩。こっちへどうぞ」

「お疲れ様です、ルイコ嬢」

「お疲れ様です~」

 

 俺が空けたところへ先輩が座って、番組表から顔を上げたルティとフィルミアさんが先輩にあいさつする。ピピナとリリナさんは食べてる最中ということもあって、こくこくとうなずいてあいさつしていた。

 

「番組表を見ていたんですか?」

「はい、今日の復習を兼ねて。わかばシティFMで作っている番組の他にも、別のところで作っている番組があるということもサスケから学びました」

「レディオフォレストさんのところですね。わたしたちもよくお世話になっています」

「そこで、ちょっと気になったんですけど~」

「どうしました?」

「ここの5日間ほど、この薄い緑のところで『レディオフォレスト』ではない文字が書かれているようなのですが~」

 

 カップにスプーンを置いて、平日の19時から20時台と深夜0時から1時台を指先でくるりとなぞってみせるフィルミアさん。確かに、その時間帯には『ゆきんこFM』とか『くらラジ』、『Hai!Sai!FM』や『ラジオBUNGO』やらの文字が番組名といっしょに書かれていた。

 

「そこは、日本全国のコミュニティFM局の番組を選りすぐってレディオフォレストさんが放送しているんです。『日本全国ふるさとゾーン』って呼ばれている時間帯ですね」

「ふるさとゾーン……いい響きですね~」

「レンディアールの各都市でラジオができるようになったら、集めてやってみるのもよさそうです」

「レンディアールだけではなく、イロウナやフィンダリゼといった隣国へも広まったら面白いだろうな」

「ルティ、ラジオを他の国にも広めるつもりなのか?」

「当然だとも」

 

 ルティは胸を張ると、すっかり自信を取り戻した様子でふんすと鼻息を荒くした。

 

「レンディアールだけではなく、親交のある他国とも繋ぐことでいろんな情報が行き交うであろう? 普段は広く高い国境を馬車で渡る必要があるが、〈らじお〉であれば一瞬だ」

「また壮大な構想だなぁ」

「我らだけで独占してもつまらん。このことは、我の理想に織り込み済みだ」

「それで考え込みすぎたら本末転倒だっての」

 

 ふふんと笑うルティに、ただただ苦笑するしかない。そりゃあたくさん考えすぎるわけだ。

 

「でしたら、ちょうどいい人がいらっしゃるかもしれません」

「えっ、せ、先輩?」

 

 呆れていた俺の意識を、先輩の意外なひとことが引き戻す。なんで先輩が、あっちの他の国のことを知ってるんだ?

 

「松浜くん、このあいだヴィエルでラジオに興味を持ってた人、覚えてない?」

「このあいだ……ああ、あの人ですか!」

「ルイコ嬢、サスケ、どういうことだ?」

「この間、俺たちが市役所のまわりで送信キットの試験をしてたろ。その時に、ラジオに興味を持ったイロウナの人から声をかけられたんだよ」

「名前は……たしか、アヴィエラさん、だったかと」

「アヴィエラ……アヴィエラ嬢か!?」

 

 疑問一色に染まっていたルティの表情が、一気に驚きへと変わる。

 

「なるほど~、あの方なら確かに~」

 

 その隣で、納得したようにうなずくフィルミアさん。そういえば、アヴィエラさんが前に謁見したことがあるとか言ってたから、面識はあるのか。

 

「リリナ、済まぬ。明日の〈ヨセ〉は聴けないかもしれぬ」

「ヴィエルへ戻られるのですか?」

「察しが早くて助かる」

 

 リリナさんも、心得たように応える。となると――

 

「サスケ、ルイコ嬢。明日、少し時間を頂けないだろうか」

 

 やっぱり、そう来るか。

 

「俺はいいぞ。元々、明日はルティたちと出掛けるつもりだったしな」

「わたしも、もちろん大丈夫ですよ」

 

 ほとんどノータイムで、俺と先輩がルティへうなずいてみせた。約一名、あとで聞いたら拗ねるかもしれないのがいるけど、今はオーディションに集中してもらったほうがいい。

 

「ありがとう。あと、頼みついでにもう一つ、ふたりに願いたいのだが」

「おう、言ってみ」

「もし可能なのであれば、アヴィエラ嬢に渡りをつけてほしいのだ」

「それぐらいならお安い御用だよ」

「ですね。何か入り用になったら来てほしいって、アヴィエラさんが仰ってましたから」

 

 アヴィエラさんも威勢よく言ってたんだから、きっと大丈夫なはず――

 

「なるほど。真新しきものに目をつけるとは、さすがに商業会館の(おさ)なだけある」

「「……長?」」

 

 って、ちょっと待て。

 あの女の子が、長?

 

「知らなかったのか?」

「いや……全然、そんなことは言ってなかったし」

「『商業の姫』と書いて『商姫』のアヴィエラ・ミルヴェーダ嬢。イロウナ商業会館の26代目会長は、そう呼ばれているのだぞ」

「「会長!?」」

 

 そんなこと、ひとことも言ってなかったんだけど……

 もしかして、俺達ってまたとんでもない人に目を付けられたのか?

 

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