異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第40話 異世界少女たちと日本人御一行の街歩き②

 そんなこんなで、商業会館が開くまで収録をすることになった俺たちは先輩たちのあとについてヴィエルの北通りへ。店や市場が建ち並んで活気があるのは知っていたけど、朝は野菜や果物の仕入れや川魚の競りがあったり、綿や陶器とかかが入った木箱を開店準備中の店へ運ぶ台車が行き交ったりと、昼間の通りとはまったく違う活気を見せていた。

 

「すいません、こちらはどういった品なのでしょうか」

「ん? ああ、こいつはミラップの砂糖漬けだよ。北レンディアールの人らと、あとイロウナの人たちに結構人気でさ」

「確かに、イロウナの民族衣装を着て買っていく方がよくこちらにいらっしゃってますね」

「あのー、こっちのししょくっていっこずつたべていーんですか?」

「いいよ、みんな食べな食べな」

「ありがとうございます。では、ひとつ」

 

 その一角にある果物屋さんらしきお店の店先で、さっそくレポートを始める先輩たち。お店特製の商品を手にして、まずは試食といったところらしい。

 

「見た目としては、くし切りにしたミラップの実に砂糖がまぶされている感じですね。ミラップ本来の酸っぱさだけじゃなく砂糖の甘い香りも加わって、とてもいい香りがします」

「るいこおねーさん、あーんですよ」

「ありがとうごさいます、ピピナさん。それでは、んくっ、んくっ……なるほど。このあいだ初めてミラップを食べたんですけど、その時に感じた酸味が砂糖のおかげでなめらかになっててますね。食感も柔らかくて、柑橘系の味わいとよく合ってて美味しいです」

「……リリナ嬢ちゃん、この姉ちゃんはなにをしてるんだい?」

 

 美味しそうに食レポをしている先輩を見ねかてか、店のおばちゃんがちょっとばかり怪しそうにリリナさんへ話しかける。よく考えてみれば、こういうのはレンディアールの人たちが経験したこともないだろうし、そう思われて当然か。

 

「こちらのお店にある商品がどういったものかを説明し、その声を記録しているのです」

「説明? 記録?」

「まあ、宣伝用途といったところでしょうか。あとで、この言葉を多くの人に広めるという実験をしているのです」

「なんだかよくわからないが、宣伝してくれるんならそれでいいよ。嬢ちゃん、美味しかったかい?」

「はいっ、とっても。あの、こちらの商品はどのようにして作られるんですか?」

「簡単なもんさ。小さな樽に砂糖と切ったミラップを交互に敷き詰めていって、上まで行ったらフタをしてあとは3日ばかり待つだけ。そうすりゃ、美味いミラップの砂糖漬けと、香りが移ったシロップの出来上がりだよ」

「シロップですか。焼き菓子にかけたりすると、香ばしさも加わって美味しそうですね」

「よくわかってるじゃないか。お茶や冷えた水に入れてもミラップの香りが楽しめて、料理の付け合わせには抜群なのさ」

「わたしもよくお菓子作りをしますから。砂糖漬けとシロップは、それぞれおいくらなんですか?」

「砂糖漬けは100グラムで銅貨2枚。シロップは、うちの商品を買ってくれたひとにおまけでつけてるんだ」

 

 先輩の言葉に乗っかって、おばちゃんの口調もだんだんなめらかになっていく。こうして間近で先輩の収録を見るのは久しぶりだけど、世界が変わっても物怖じせずどんどんしゃべっていけるのは、先輩の才能だと思う。

 

「ルイコ嬢の番組は、こうして作られているのか」

「ああ。いろんな人に街のことを知ってほしいから、そこに住んでる人とたくさん話していくんだってさ」

「なるほど~。確かに、街のことを知るには、その街に住む人たちに聞くのがいちばんでしょうからね~」

 

 俺とルティとフィルミアさんはというと、果物屋さんの片隅にある飲食スペースに座ってその様子を見学させてもらっていた。

 

「我も、街の皆と目を合わせて話せるようにならなければ」

「ルティもレポーターをやるつもりか」

「我がやらなくてどうする。街の皆の声を率先して聞いていかねば〈らじお〉は作れまい」

「そっか。んじゃ、物静かなお姫様からは脱却だな」

「うむ。……って、な、なぜそれをっ!?」

「このあいだアヴィアラさんが言ってた。謁見したとき、そんな感じだったって」

「む、むぅ……」

 

 説明して恥ずかしそうにうつむいたところを見ると、やっぱり当たっていたらしい。でも、その頃のルティと今のルティじゃずいぶん心の持ちようも違うはずだ。

 

「それくらいの意気があれば大丈夫だろ。俺たちにもこうして話せてるんだし」

「ですね~。わたしたちだけではなく、昨日のようにミナミちゃんとも視線を合わせて話せていましたし~」

「当然です。我とて、幼き頃のままではいられません」

「その意気ですよ、その意気~」

「んじゃルティ、また日本へ来たときにでも練習な」

「よかろうっ」

 

 さっきまでの恥ずかしさはどこへやら、ルティが胸を張って俺の振りを受けてみせた。うん、そうこなくっちゃ。

 

「姫様、兄ちゃん、待たせたな」

「おおっ、来た来た」

 

 微笑ましくルティを見ていたところへ、タンクトップを着たおじさんが木製のトレイを手にこっちへとやってきた。居座るだけじゃ悪いからって頼んだものを持って来てくれたみたいだ。

 

「朝採れのクレティアだ。採ってきたばかりだから瑞々しいぞ」

「ありがとうございます、レクト殿」

「ありがとうございます~」

「ありがとう……って、これがクレティア?」

 

 レクトって呼ばれたおじさんが、俺たちの目の前にお皿と布巾を置いていった……のはいいんだけど、なに、この真っ黒なトマトみたいな物体。

 このあいだの朝に聞こえてきた名前は、さわやかそうだったのに……まるで砲丸みたいだし、それ以前に食えるの?

 

「あの、これってどうやって食べるんです?」

「決まってるだろ。丸かじりさ」

「ま、丸かじりっすか」

「ほら、こういう風にな」

「うぉぅ」

 

 レクトさんがクレティアにかじりつくと、実の色に負けないくらい黒い液体が白いタンクトップみたいな服へと降りかかって染まっていった。

 

「ぷはっ、やっぱり朝採りがいちばんだわ。ほれ、兄ちゃんも食ってみ」

「は、はあ」

 

 返事したのはいいんだけど、今日はイロウナのお偉いさんに会うからって制服のブレザーを着ているわけで……でも、好意を無駄にするわけにもいかないから、

 

「あぐっ」

 

 両手で包み込むようにしてかじってみると、ちょっとだけ汁はこぼれたけど、それ以上に甘くてちょっと酸っぱい味が口の中に広がって……って、濃っ! うまっ!

 

「これ、めっちゃ濃くてでかいぶどうですね!」

「そうだよ。〈グラップ〉がデカくて濃くなったのがクレティアってわけさ」

 

 へえ、こっちじゃぶどうのことを『グラップ』って呼んでるのか。果実の中身まで黒いのはどぎついけど、味はド真ん中の大当たり。日本に持って帰って、母さんに食べさせてあげたいところだけど……うーん、さすがに難しいよなぁ。

 

「うむ、今日も佳き味です」

「味わいが深くなってますね~。父様も、きっと喜ばれると思いますよ~」

「へへっ、そいつはどうも。姫様方からも太鼓判をもらえたなら、ますますがんばらにゃいけませんな」

 

 ルティとフィルミアさんは、ついてきた布巾でこぼれないようくるみながらクレティアにかじりついていた。そんなふたりに褒められたのがうれしいのか、指で鼻をかくレクトさん。やっぱり、国のお姫様から褒められるってのは気持ちがいいんだろう。

 

「フィルミアさんのお父様に……って、献上品にでもするんですか?」

「半分あたり。あとは、元祖様に確認してもらうって意味もある」

「元祖様?」

「クレティアを開発したのは、ラフィアス・オルト=ディ・レンディアール様。つまり、エルティシア様とフィルミア様の父親で、レンディアールを治める王様ってわけさ」

「えっ、これを王様が!?」

「とはいっても~、父様が王太子だったときの話ですから、かなり前のことですけどね~」

「初めてこれをウチへ持って来たときゃ、なんだこれって思ったもんさ。毒々から無理だろって言ったのにここで自ら食ってみせて、ほれって食わされたら、まあ美味いこと美味いこと」

「は、はあ……豪快っすね」

 

 王女様ふたりの前だからオブラートに包んではみたけど、ワイルドにも程があるだろ。この国のエラい人。

 

「そうやって新しい作物を開発し続けているのが王族の人たちで、その技術を受けて新たな作物を農園に植え、広めてるのが俺たちみたいな街の店ってことさ」

「レクト殿のような、街にある店の方々には感謝してもしきれません」

「なんのなんの、食に楽しさを彩ってくれる王族の皆様にこそ感謝ってもんよ。っと、いけねえ。母ちゃんがこっちにらんでらぁ」

 

 怯えたように身を縮ませたレクトさんの視線の先には、さっきまでにこやかに先輩たちと話していたはずのおばさんがこっちにジト目を向けていた。

 

「んじゃ、ぼちぼち食堂街に持っていきますか。姫様方、兄ちゃん、ゆっくり食べていきな」

「はいっ」

「いってらっしゃいませ~」

「ありがとうございました」

 

 俺たちが口々にあいさつすると、レクトさんはタンクトップから出ている筋肉質な腕を掲げてみせながら裏口から出ていった。なかなか気さくで面白いおじさん……ではあるんだけど、

 

「はー」

 

 レクトさんがルティたちに見せていた態度にも、俺はただただ感心していた。

 

「この街の人たちって、ホントに王族の人たちと親しいんだな」

「遥か昔から、我が一族は民とともに(くわ)を手にして実りを作り出してきたのだ。正式な礼にのっとるのは、ともに作りあげた国の式典ぐらいと言えよう」

「お父様とお母様も、今頃みなさんと茶飲み話でもしながら、中央都市の農場で田植えの準備をしていると思いますよ~」

「た、田植えって」

 

 お母様ってことは、王妃様ってことだよな。さっきの王様といい、マンガやアニメで見るファンタジー世界じゃそういう人たちが田植えをすることはないから、まったく想像がつかない。

 

「ルティも、農作業をやってるんだっけ」

「うむ、このヴィエルでは小麦作りに携わっている」

「わたしもルティも農業に関係無い『志学期』を選んでますけど~、お家の生業(なりわい)ということもあって学ぶようにしているんです~」

「ということは、ピピナとリリナさんも?」

「ふたりは『豊穣の精霊』の一族なので、わたしたちが農耕のことを教えてもらっている立場ですね~」

「兄様や姉様に、父様も母様。さかのぼれば御先祖様方も、皆精霊や妖精の教えを受けて育ってきたのだ」

「教え……って、ふたりが持ってる力でぱーっと完璧に育てたりはしないんだ」

「それだけは、レンディアール王家と精霊の間でしてはいけないと禁じられている。あくまでも精霊はこの地を加護し教えを伝える者であって、自らの力で人々が育てた作物へ介入してはならない、とな」

「ズルはだめってことか」

 

 考えてみれば、精霊が全部やっても人間のためにはならないもんな。ルティたちの御先祖も精霊さんも、よく考えたもんだ。

 

「フィルミア様、エルティシア様、佳きトマトが買えましたっ!」

 

 その精霊さんの娘なリリナさんが、両手で麻袋を持って俺たちのところへ駆け寄ってきた。

 

「とってもまっかで、おいしそーなとまとですよー!」

 

 その肩にいるピピナも、満足そうに両手でトマトを抱えている。豊穣の申し子なふたりがそう言うなら、きっとお墨付きなんだろう。

 

「お待たせしました」

「ごめんねえ、ルイコちゃんと話し込んじゃって。ウチの人、変な話してなかった?」

「いえ、全然。むしろ、よきクレティアを選んでいただき感謝しているぐらいです」

「そりゃよかった。ルイコちゃんと妖精さんたちのも持ち帰りのに入れておいたから、食べたら感想を聞かせておくれよ」

「はいっ、是非」

 

 先輩はおばさんとすっかり意気投合したみたいで、豪快なおばさんの笑いにもにこやかに応えていた。若葉市の商店街に行くといつもこんな感じだけど、こっちでもどんどん仲良くなっていくのかな。

 

「では、そろそろ行きましょうか~?」

「お待ち下さい。しゃべったあとなので、のどを潤してから次へ向かったほうがいいかと」

「それは気付きませんでした~。リメイラさん、シロップ水を6人前いただきたいのですが~」

「10の、20の、30……はいっ、ちょうど鉄片30個だね。今用意するから、ルイコちゃんも妖精さんたちも座って待ってな」

「はいっ」

「お待ちしております」

「ありがとですよー」

 

 お財布らしい袋からフィルミアさんが出した鉄片を受け取ると、おばさん――リメイラさんは、エプロンのポケットにさっとしまって店先へと戻っていった。このあいだ食堂街で歓迎会があったときにも支払っていたあたり、王族だからタダとかそんなことはないらしい。

 

「フィルミア様、エルティシア様、ご覧下さい。実に見事なトマトです」

「おお……深く紅い色をしているな」

「とってもきれーですよー」

 

 ピピナがテーブルに置かれたトマトは、確かに赤というよりも日本じゃ見たことのない紅さをしていた。その上、緑色のヘタもピンッと張ってるんだから、間違いなく美味しいだろう。

 

「さすがは、レクトさんとリメイラさんのお店ですね~。お野菜も果物も瑞々しくて、うっとりしちゃうくらいです~」

「出来の良さであればこちらが確実だと思い、ルイコ様を案内させていただきました。人柄については、これまであまり話さなかったのでわからずにいたのですが……」

「リリナちゃん、わたしたち以外には警戒心剥き出しでしたから~」

「恥ずかしながら。しかし、ルイコ様とともに話しているうちに優しき人柄に触れることができました。ルイコ様、ありがとうございます」

「そ、そんな。わたしは普通に話していただけですからね!」

「その普通が、ずっとまわりに気を張っていた私にはできないことだったのです。これにつきましては、サスケ殿にも感謝しなくてはなりませんね」

「リリナさんがちゃんと話を聞いてたからですって。な、ピピナ」

「ですです。ねーさま、きょうはちゃんとおちついてるですよー」

「そうであれば、私もうれしい」

 

 俺とピピナの言葉に、表情を和らげるリリナさん。確かに出会った頃は話を聞いてくれなかったけど、俺たちひとりひとりと話し合ったあとは、落ち着いて話を聞いてくれるようになっていた。

 まだちょっとばかり思い込みが激しいところはあるものの、今はとっても頼りになる妖精のお姉さんだ。

 

「で、リリナ。ルイコ嬢とともに〈らじお〉の会話に臨んでみてどうだった?」

「半ば先ほどの繰り返しにもなりますが、ルイコ嬢から話を振っていただけたこともあってとても話しやすかったです。また、話しているうちにリメイラ様が野菜にどれだけの情熱を注いでいるのかなども、ひしひしと伝わって参りました」

「リメイラ嬢との野菜談義も、ずいぶん弾んでいたようだな」

「はい。朝一番に新鮮なものを届けたいという想いや、店先に並べるだけでなく契約している店舗でも最良のものをという想いが強く伝わってきました。これだけ手塩に掛けているのであれば、野菜たちもきっと本望でしょう」

「あらまあ。妖精さんに褒められたとあっちゃあ、これからも気が抜けないねえ」

 

 ちょうどリリナさんが最高評価を下したところで、四角い木組みのコップが載ったトレイを手にしたリメイラさんが俺たちのところへ戻ってきた。

 

「何を仰いますか。気を抜くつもりもないでしょうに」

「あははっ、そりゃそうだ。姫様たちのお父さんたちともいい野菜を作るって約束したんだから、ウチだけじゃなくヴィエルの農家はみーんな気を抜いたりはしないよ。はい、ご注文のシロップ水。おまけも入れといたから、じっくり味わっとくれ」

 

 そう言いながら俺たちの前へ置かれたコップには、シロップ水の上にミラップの砂糖漬けをスライスしたものが浮かべられていた。木のコップで底が暗く見えるだけに、オレンジ色のミラップがあると華やかに見える。

 

「リメイラさん、ありがとうございます~」

「どういたしまして」

 

 みんなで軽く一礼してから、コップを口へ運ぶ。シロップをたっぷり入れてくれたのか、しっかりとした甘さとミラップ――みかんにとても近い香りが、口の中へ広がっていく。そこへミラップのスライスを噛めば、香りだけじゃなく味わいまでミラップになっていった。

 

「おー……こりゃ美味いですね」

「あんがとさん。ルイコちゃんも言ってたけど、あんたたちの国にゃミラップはないんだって?」

「はい。味はみかんっていう果物に近くて、食感はりんごっていう果物に近いものなら」

「みかんにりんご……ああ、ミハランとアラップのことかい」

「あるんですか!?」

「あるもなにも、それを掛け合わせてミラップを作ったのが姫様たちのお母さん、サジェーナだよ」

「へえ……って、お后様を呼び捨てにしていいんですか?」

「いいんだいいんだ。なんてったって、サジェーナはヴィエルの出身なんだから」

「はー」

 

 ミラップのことといいルティたちのお母さんのことといい、衝撃的なことが続きすぎてマヌケな声が出ちまった。ということは、ここでルティのお父さんとお母さんがロマンチックな出会いを――

 

「今でも語り草さね。小さい頃からミハランとグラップのどっちが美味しいかでケンカして、大人になってクレティアを作り出して得意げなラフィアス様の口へ、怒ったサジェーナができたてのミラップをまるごと突っ込んだってんだから」

「え」

「ラフィアス様ったら、アゴをはずしちまってねぇ。その贖罪でサジェーナが看病してたら、いつの間にか恋仲になってたってわけさ」

 

 って、全然ロマンチックじゃねえし!?

 

「り、リメイラ嬢……それは、まことか……?」

「まこともまこと。あたしもレクトも、市場の御隠居たちだって現場にいたんだから間違いないよ」

「そ、そんな~……父様と母様は、農作物とともに恋を育んできたって言ってたのに~……」

 

 しかも、お姫様ふたりにクリティカルヒットしてるし!

 

「る、るいこおねーさん、いまのはろくおんしてないですよね? ねっ?」

「えっと……す、すいません、録音中ですねー」

「消しましょう! 今すぐ消しましょう!」

「落ち着いて! 先輩もピピナもリリナさんも落ち着いて!」

 

 この状況で落ち着いてるのが俺だけってなんなんだよ! つーか、リメイラさんってばえらい爆弾持って来たなオイ!

 

「あのー」

 

 その混乱の最中、店先から聞こえてきたのはここにいる誰のでもない声。

 

「はい!?」

「や、やあ」

「あ」

 

 思わず声を荒げながら入口のほうを見ると、そこには片手に布製の買い物袋を持った白いドレス姿のアヴィエラさんがいて、

 

「いらっしゃい、アヴィエラちゃん。またミラップかい?」

「えっと、そ、そうなんですけど……また出直します」

「あ、アヴィエラ嬢、待ってくれ!」

「忘れる。うん、忘れるから、じゃあっ!」

「アヴィエラさん~」

「ひぃっ!?」

 

 腰が引いて逃げようとしたところへ、のんびりさを投げ捨てたらしいフィルミアさんが恐るべきスピードでガシッと捕まえ、

 

「ちょ~っと、お話をしませんか~?」

「……はい」

 

 そのまま、俺たちがいる飲食スペースへと連行されてきた。

 とんでもねえ。とんでもねえ巻き込み事故だ……

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