異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第45話 異世界少女とアキハバラ②

「ふたりの説明で〈デンチ〉では難しいというのがよくわかりました。ですが、そうなるとラジオはどうすればいいのでしょうか」

「俺としては、手回しラジオを考えてるんだけど――」

「だめ」

「ダメっ!?」

 

 これでどうかって相談しようと思ったら、一刀両断されちまったよ!

 

「確かここの防災袋に……ああ、あったあった」

 

 父さんはソファから立つと、部屋の片隅にあった防災袋の中から黒いプラスチック製の機械を取り出して戻ってきた。

 

「エルティシアさんは初めて見るかな。これが、佐助の言う手回しラジオだよ」

 

 そして、機械に収納してあったレバーを起こすとぐいんぐいんと回し始めた。

 

「こうやってレバーを回して、電池を充電してからラジオを聴くんだ。1時間聴くのに1分ぐらい、5時間なら5分ぐらいって感じに回していく必要があるわけだけど……あくまでも、手回しのは災害時の非常用だと考えたほうがいい。何度も使って充電を繰り返すほど、こっちの電池も寿命が短くなっていくから」

「結局、こちらも〈デンチ〉なのですね」

「そういうこと。あと、いいのを買おうとすれば、これと同じ1台1万円ぐらいと考えた方がいいかな。それを電池寿命の2年ごとに買い替えれば、こっちも馬鹿にならない経費ってわけさ」

「で、でも、最近のは3000円ぐらいのとかも――」

「佐助」

 

 反論しようとした俺に、父さんがわざとらしそうな笑顔を向ける。

 

「このあいだな、父さんは通信販売で3000円ぐらいの手回しラジオを3台買ったんだ」

「そういや買ってたな」

「1台は、レバーがもげた」

「げっ」

「もう1台は、15分ぐらい回し続けて聴けたのが3分だ」

「…………」

「最後の1台は使えているけど……ここまで言えば、わかるだろ?」

「『安物買いの銭失い』もありえるってか……」

 

 いくらラジオ好きだからって、自分から人柱にならなくても。

 

「とまあ、不良品が出たときの対策も必要になってくるから、個人的にはおすすめしない」

「よーくわかりました」

「フミカズ殿も、身銭を切って実感しているのですね……」

「でも、そーなったらあとはどーしたらいーです? でんちのいらないらじおでもあるんですか?」

「あのなあピピナ、電池がないのにラジオが聴けるわけが――」

「ああ、聴けるのもあるよ」

「そう、聴けるんだから……はいっ!?」

 

 あの、父さん、今なんて言った?

 

「あれっ、佐助、技術の授業とかで習わなかったか?」

「知らないよ! 父さんが中学生とか高校生の頃の話じゃないのか!」

「そっかそっか。くっくっくっ……ああ、ちょっと待ってなさい」

 

 父さんは企んでそうな笑みを浮かべると、足取りも軽くリビングから出て行った……って、このあいだも見たよな、コレ。

 

「サスケ」

「ん?」

「ありがとう。いろいろなことを考えていてくれたのだな」

 

 見れば、隣りに座ってるルティがうれしそうに微笑んでいた。

 

「いいんだよ。せっかくみんなががんばったんだから、次の段階に進むためにはどうするかって思っただけだ」

 

 なんだか照れくさくなって視線をそらしたけど、にっこり笑ってるピピナと視線があったからまたさらにそらす。こうストレートに言われると、さすがに……さ。

 

「あったあった。って、なにそっぽを向いてるんだ?」

「な、なんでもないよっ!」

 

 父さんに気付かれないようにと頬を張ってから向き直ってはみたけど、ルティもピピナもくすくすと笑っていた。お前らのせいだってのにっ!

 

「そうか。まあ、本題といこう」

 

 でも、俺の願いが通じたらしく、父さんは持って来たふたつの機械をいそいそとテーブルへセッティングし始めた。

 一台は、木の板へ打ち付けた鉄板にスイッチや端子にケーブルをくっつけた、ぐるぐる巻かれた針金やアンテナがむき出しの変な機械。もう一台は……メガホン? その根元にくっついてるのって、イヤホンだよな?

 

「父さん、この黒いメガホンみたいのは?」

「スピーカー」

「えっ」

 

 いやいやいや、スピーカーって無理があるだろ! ただ無理矢理くっつけただけにしか見えないって!

 

「あれれ?」

「どうした、ピピナ」

「なんか、そらをとぶこえがこっちにとびこんできたですよ?」

「なんだって?」

 

 声が上がったほうを見ると、窓の外へ体を向けたピピナが透明の羽をぴくぴく震わせていた。空を飛ぶ声ってことは、外の電波がこっちへ引っ張られてきたってことか?

 

「さすけ、ルティさま。このへんてこなきかいへ、おとがとびこんできてるです」

「へえ、ピピナちゃんは電波が見えたり聴こえてきたりするのか」

「みえはしないですけど、しゅーちゅーするときこえてくるですよ。ちょっとよわめなのが、この〈あんてな〉のさきにきてるですよね?」

「ご名答。で、こうすればさらに聴こえが良くなる」

 

 満足そうにうなずいて、アンテナを伸ばした父さんがその先に銅線の端っこを結びつけて、反対側をカーテンレールへと結びつける。

 

「あっ、こえがつよくなってきたです!」

「よし、じゃあ行ってみるか」

 

 そして、スピーカーもどきにくっつけられたイヤホンのコードを機械にあるヘッドホン端子へと差し込んで、つまみを回すと、

 

『――どっとじぇいぴーえぬ。おおのゆか、あっとまーくえふえむはちはちはち、どっとじぇいぴーえぬあてまで。ここ最近、たくさんのメールが来てうれしい悲鳴を上げてます! 今回が初の生放送ですけど、また月イチかそのくらいには……って、ダメ? あっ、OK! OKが出ましたっ!』

「はー。確かに聴こえてるけど、雑音が多い普通のラジオだよな?」

「ふっふっふっ。佐助、この機械をよく見てみなさい」

「はあ」

 

 言われて機械を見てみても、ただスイッチがあって回路があって配線があるだけで……って、あれっ?

 

「父さん、電池は?」

「ない」

「は?」

「だから、なくても聴けるの」

「はあっ!?」

 

 電池がなくてもラジオが聴けるって、そんな馬鹿な!

 

「人呼んで『無電源ラジオ』。まずは、このカーテンレールがアンテナになって電波を受ける。その電波がコイルをぐるぐる回って選局用のつまみのほうへ行ったら、この回路で音を取り出してイヤホンジャックへ届けるって寸法だ」

「……わけわかんねえ」

「まあ、簡単に言えば電池がなくてもラジオの電波が拾えるってこと。ただ」

 

 選局用らしいツマミを父さんがひねると、スピーカーもどきから聴こえていた音はすぐに静かになった。いつもならポケットラジオで聴こえるような、ザーッていうノイズすら聴こえないぐらいに。

 

「出力が強い近場の局しか聴けないって欠点もある」

「そっか。今のはわかばシティFMだから聴けたのか」

「あの、フミカズ殿。(わたくし)も回してみていいでしょうか」

「ああ、いいよ」

 

 父さんから許可をもらったルティも、同じようにつまみをぐいぐいと回す。でも、ポケットラジオやコンポで聴くときとは違って、聴こえてくるのは家から数百メートルのところにあるわかばシティFMだけだった。

 

「サスケから頂いた〈ぽけっとらじお〉とは、また違った聴こえようですね」

「電気を一切使ってないからね。見た目どおりの簡単な作りだけど、このグルグル巻いてあるコイルの幅を縮めたり広げたり、時には付けなおして調整しないといけないとんでもないじゃじゃ馬さ」

 

 とんでもないとか言いながらも、父さんの目はらんらんと輝いていた。気持ちはわかる。気持はよくわかるんだけど、もうちょっと俺らにもわかりやすくしてくれないかな!

 

「じゃじゃ馬とは、また面白い呼び名ですね」

「エルティシアさんたちが作ってるラジオ局は、半径5キロ圏内ならノイズもなく聴こえるって言ってたっけ。うまく調整すれば行けるかもしれないけど……まあ、そこは実際にやってみてどうかだな。それぐらい調整がシビアだから、じゃじゃ馬って呼ばれてるんだよ」

「なるほど。では、この〈らじお〉はいくらぐらいするのでしょうか」

「うーん、材料費だけなら3000円もかからないかな」

「材料費?」

 

 父さんからの答えに、首をかしげるルティ。

 

「これは、この形で売っているのではないのですか?」

「ああ、そういや言ってなかったか」

 

 そして、自分の手のひらをこぶしでぽんと叩く父さん。

 

「これも、自分で作るんだ」

「「「えっ」」」

 

 続く答えに、俺たちは三者三様の声を上げた。

 俺は、自分で作らなくちゃいけないのかって声。

 ピピナは、たぶん純粋な驚きの声。

 それでもって、ルティは――

 

「まさか、聴く機械も自分で作れるのですか!」

「そうだとも!」

 

 言葉どおりの、あふれるような感激の声。

 それは、世界を越えたラジオ好き同士が心を通わせあった瞬間でもあった。

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