異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第53話 異世界少女たちと異世界の宴②

 中庭に出ても、ルティの部屋や応接間からは少しオレンジ色がかった明かりが中庭へと淡く降り注いでいる。市役所へ通じる扉にも陸光星が埋め込まれているあたり、この世界の人たちは明かりの源になる石をめいっぱい活用しているらしい。

 市役所から一歩出ればそこかしこで陸光星が輝いていることからもそれはうかがえて、間隔をおいた柱のかごから街の人が行き交う地面を照らしていた。

 

「もう夜なのに、人通りが多いんですね」

「今日は『六の曜日』だからな。ニホンで言う土曜日と同じで、休日となる『零の曜日』の前の日だからいろんな店へ繰り出す者が多いのだ」

「となると、屋台街も混んでいるのでしょうか」

「まあ、そのあたりは行ってみればわかるだろう」

「というか、国の王女様が屋台街に行ったりするんですね」

「無論、我らとてヴィエルの民だからな。その民が、ヴィエルの店で飲み食いしてもおかしくはなかろう?」

 

 当然だとばかりに胸を張るルティだけど、中瀬はさらに首をかしげてみせた。

 

「それはそうですが、もっとこう、専属の料理人とかいるのかと」

「専属の者などおらぬ。普段は我ら4人で料理をしているし、こうして外食をすることも多いのだ」

「お父様とお母様も~、普段はふたりで料理をしているんですよ~」

「みぃさんの御両親……ということは、王様と王妃様がですか」

「そうです~。だから、わたしたちも料理が出来るようにとよく鍛えられまして~」

「ますます変わっている国ですね」

「『国で得た実りは、実りを得た者が調理する』というのが、始祖様からずっと続く伝統だからな。……とは言っても、我はまだ発展途上だが」

「私も同じです。実際に料理をしようとするのですが、よく親や兄から止められて」

「合宿のときにケガしてたもんな、中瀬は」

 

 去年夏の放送部の合宿で料理当番を任されたときにおろし器で手を擦ったり、皮むき用のピーラーで手の皮をむきかけたりと、なかなか危なかっしいところを見せてたっけ。

 

「そういう松浜くんはどうなんですか。神奈っちも白状してください」

「俺は、家の喫茶店でよく料理とか手伝ってるし」

「あたしも、お父さんとお母さんの帰りが遅いときは妹たちと料理してますよ」

「ふたりとも環境に恵まれすぎですっ」

 

 無表情でにらまれても、そういう家庭環境なんだから仕方ないってのに。

 

「こうなったら、今日はとことん食べて研究しつくしてやりましょう」

「別名、ヤケ食いとも言う」

「別名で言わないでくださいっ」

「あははっ、みはるんも我と同じ食い意地のとりこか。姉様、今日は我らがすすめる店の料理をとことん堪能していただきましょう」

「ですね~。ニホンの料理も確かにおいしいですけど、レンディアールの料理もと~ってもおいしいですから~」

「それは楽しみです」

 

 言葉少なに返事しながらも、深くうなずいてるあたり相当楽しみらしい中瀬だった。

 それからしばらく話しながら歩いていると、大通りの飲食店街寄りに並べられた木のイスやテーブルが見えてきて、

 

「ここが、屋台街ですよ~」

「これはこれは……なかなかの規模ですね」

 

 目の前に広がる屋台街を見た中瀬が、ため息まじりの声を絞り出した。

 ただでさえ数十メートルはありそうな道幅の大通りを半分イスやテーブルで埋め尽くして、その多くにお客さんたちがたくさん座っているんだから、その気持ちはよくわかる。

 家族で来て子供のためにステーキみたいな肉のカタマリを楽しそうに切り分けている人がいたり、職人さんらしいいかついおじさんの集団がミニチュアの樽みたいなコップで酒をかっくらっていたり。そのほとんどが笑顔で食べたりおしゃべりしていて、あとの人たちも時々楽器をかき鳴らしている人の歌声に聴き入ったりと、みんなとても楽しそうだった。

 

「おっ、エルティシア様じゃないですか!」

「フィルミア王女も食べに来たんですか?」

「ああ、友人たちともな。……ん? なんだ、この美味そうな肉の焼き物は」

「大鶏亭の新作らしいですよ。鶏に香辛料を練った汁をかけて焼いたものだそうで」

「それは美味そうだな! 姉様、この焼き物は必ず買いましょう!」

「そうしましょう~。ありがとうございます、ボルイデさん~」

「おおっ、俺のことを知っていらっしゃる! こいつぁ光栄だ!」

「タムルーテ弾きの名手さんですから~。今度の演奏会、楽しみにしていますね~」

「はー……本当に、街の人たちとなじんでいるんですね」

「俺も最初は見てびっくりしたよ。本当にご近所さんって感じで」

 

 街の人たちがなんてこともないようにふたりへ話しかけるのを見て、中瀬が驚きの声を上げる。ふたりとも世間話のように参加するんだから、この光景を見て王女様と国民とか言われてもピンとは来ないだろう。

 

「せんぱい、広い席を発見しましたっ!」

「ナイスだ有楽。フィルミアさん、このあいだみたいにいろんなのを買って持ち寄るって形式でいいですかね?」

「そのほうがいいでしょうね~。ピピナちゃん、リリナちゃん。みはるんさんの案内をお願いできますか~?」

「もちろんですっ!」

「無論です。みはるん様、銀貨や銅貨の計算は、私におまかせを」

「はい、おまかせしちゃいます」

 

 手のひらの上でうやうやしく頭を下げるリリナさんに、中瀬も礼儀正しく頭を下げて応える。基本的にはこういう風に礼儀正しいヤツではあるんだけど、俺や空也先輩に対してはぞんざいな扱いなのはホントなぜなんだろう。

 

「じゃあ、一旦ここで解散ってことで。帰ったらみんなで食べるから、中瀬も有楽も待ってるように」

「そんな殺生な!」

「おあずけは拷問です!」

「お前ら数分ぐらい待てやっ!」

 

 中瀬と有楽の文句にツッコミを入れると、まわりの人たちからわははと笑い声が上がる。有楽はふざけて言ってるんだろうけど、中瀬はわりとマジなトーンで言ってるものだからタチが悪い。早く買い物を済ませたほうが身のためだろうな。

 そのまま別れて席から屋台街のほうへ向かうと、背後に連なっている店の明かりや中からの笑い声もあって、にぎやかさが増していった。

 ほとんどの屋台はこういった店が外へ向けて食べ物を売っているもので、店で食べたいときは店、外で食べたかったり満席だった時は店の外でっていうスタイルが、ここでは一般的らしい。

 

「ちわーっす」

「おっ、サスケじゃんか。いらっしゃい!」

 

 両手で持てるほど大きいスプーンで鍋をかきまぜている男の人に声をかけると、男の人は顔を上げて元気に笑ってみせた。

 

「今日は王女様がいっしょじゃないんだな」

「分かれて買い出しに行ってるんだよ。レナト、川エビだんごのレモンスープを7人前、バケツで」

「あいよ、まいどありっ」

 

 注文すると、男の人――レナトはうれしそうにうなずいて屋台の屋根に下げてある木製のバケツを手に取った。陸光星の明かりで照らされた髪の毛は茶色く、目はスープをあたためる薪の火みたいに紅く燃えていた。

 俺が向かったのは、スープを売っている「流味亭」の屋台。初めてレンディアールへ来た日にルティのすすめで飲んでみたら、名前のゲテモノ感とは真逆に鶏ベースのスープがしっかりしていて、レモンをしぼれば川エビのだんごや野菜もさわやかに食べられてすっかりハマったってわけだ。

 

「レナトさん、新しいスープを持って来ました」

「ありがとう、ユウラ」

 

 レナトがレモンをくし切りにしているのを眺めていると、後ろにあるお店のドアから大きなバケツを持った女の子が出てきた。

 

「こんばんは、ユウラさん」

「こんばんはっ、サスケさん」

 

 出てきた女の子――ユウラさんにあいさつをすると、笑顔であいさつが返ってきた。

 短く赤い髪を包む同じ色の三角巾も、店のロゴらしい刺繍があしらわれた緑のエプロンとあわせてよく似合う。そして、レナトより少し小さい背格好も……よーく、似合っている。

 

「旦那さんのお手伝いですか。お疲れさまです」

「お疲れさまだなんて、そんな。妻として当然のことをしているまでです」

「実際、ユウラはよくやってくれてるよ。僕がここにいても任せられるぐらいにね」

「もうっ、レナトさんったら……」

「はいはい、お熱いことでお熱いことで」

「はっ!? ご、ごめんなさいっ!」

「僕たちが16歳の夫婦だからって、サスケはどうして突っかかるかな」

「同じ16歳で、ラブラブな新婚を見せつけられる身にもなってみろ」

 

 いちゃつき始めたところでチャチャを入れると、顔を真っ赤にしたユウラさんと拗ねてるレナトっていう感じで反応が分かれた。

 同い年で意気投合してみたら同い年の奥さんがいるとか、衝撃にも程があるっての。

 

「そうそう。サスケさん、このあいだエルティシア様と持って来た〈らじお〉って、今も作り続けてるんですか?」

「作ってますよ。ここ最近は、多くの人たちが聴けるようにみんなで研究している最中です」

「多くの人たちっていうことは、わたしたちにも聴けるかもしれないってことですよね。このあいだ聴かせてもらった音楽とかとっても不思議で、レナトさんとまた聴きたいねって言ってたんです」

「あんなに小さな箱なのに、不思議だよね」

「楽しみにしてもらえて光栄です。研究が進んだら、またルティたちと声をかけさせてもらうんで」

「はいっ。ふたりで待ってますから」

 

 俺の答えに、ユウラさんがにっこりと笑う。アヴィエラさんが強化してくれた送信キットの聴取範囲を確認していた最中、流味亭で遅い昼飯を食べていたら不思議そうに食いついてきたのがユウラさんで、料理を終えたレナトといっしょにポケットラジオをのぞき込んできたのが印象的だった。

 今度無電源ラジオを持って来て、受信テストをさせてもらおうかな。

 

「ごちそうさん、おいしかったよ」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 と、店の入口から人影がのそっと現れてユウラさんとあいさつをかわした……って、

 

「アヴィエラさん?」

「ん? おおっ、サスケじゃないか。こっちに来てたのかい?」

 

 白いドレスに褐色肌のアヴィエラさんが、いつもの堂々とした微笑みを浮かべてそこににいた。

 

「はい。アヴィエラさんも夕飯ですか?」

「会館を抜け出して、ね。今はハシゴの最中さ」

「ハシゴですか」

「でも、サスケがいるってことはエルティシア様たちもいるんだろ」

「もちろんです。よかったら、いっしょに来ますか?」

「へへっ、話がわかる! ああ、大将。サスケの注文、もう一人前加えといてくれる?」

「いいんですか? さっきも同じのを注文されたのに」

「いいんだよ。ここのスープは美味いんだから、いくらだって飲めるさ」

「ありがとうございます。じゃあ、全部で8人前ということで」

「んじゃ、銅貨24枚ね」

「えっ、あの、アヴィエラさん?」

 

 俺が止める間もなく、アヴィエラさんはドレスのポケットから財布を出してささっとユウラさんに銅貨を渡していた。

 

「いいんだよ。このあいだのお礼だ」

「俺だって世話になったってのに……すいません、ありがとうございます」

 

 きっとアヴィエラさんは日本でのことを言ってるんだろうけど、俺だってこっちで送信キットの件とかで世話になったのに。でも、白い歯を見せてにかっと笑うアヴィエラさんを目の当たりにすると、それ以上は何も言えなかった。

 

「ほいさっ、スープ8人前上がったよ。飲み終わったら、バケツと器はここに返してくれな」

「りょーかい。じっくりいただくよ」

 

 ちょっと大きめのバケツにフタをしたレナトが、その上にレモンがのった皿とスープ用のお椀を8つのせる。バケツ横の金具はお玉が引っかけられるように細工されていて、持ち歩きやすいように考えられていた。

 

「ありがとうございましたっ!」

「ありがとさんでしたー!」

「また来るよー」

 

 元気いっぱいなユウラさんと、ちょっとぶっきらぼうらレナトのあいさつを背に受けて、俺とアヴィエラさんはいっしょに屋台をあとにした。

 

「……やっぱり、姉御なのになぁ」

「姉御言うな。アタシゃ普通だっての」

「普通……普通ってなんでしょうねぇ」

「普通でいたいって思っててもいいだろっ!」

「魔術が使えて美人なのに?」

「魔術はうちの国じゃ当たり前だ。美貌はただの血筋で、意味はないさ」

「そこで『ただの』って言い切れるあたりもすごいですよね」

 

 さっきの気前のよさといい、美人って言ってもすぐ話題を切るところといい、やっぱりアヴィエラさんは姉御肌タイプだと思う。それでも、本人としては普通でありたいらしい。

 黒髪と褐色の肌に、地球のように蒼い瞳。陸光星に照らされたその姿は、やっぱり美人っていう言葉がぴったりあてはまって……って、ん?

 

「アヴィエラさん、その胸元のブローチってどうしたんです?」

「ああ、これか」

 

 前にはなかったはずの紅いブローチを、アヴィエラさんがひょいっと持ち上げる。

 

「先代からの会長就任2周年祝いだって、じいに渡されたんだ。イロウナの代表なんだから、外に出るときゃこれをつけろってうるさくってさ」

「へえ。でも、よく似合ってるじゃないですか」

「アタシはまっさらのままがいいって……面倒くさいし、ごちゃごちゃしたのは性に合わないよ」

 

 まったくもう、って感じでアヴィエラさんがため息をつく。イグレールさんはカタい人だから、きっとガミガミ言われたんだろうな。

 

「せんぱい、こっちですよ、こっち!」

 

 アヴィエラさんとおしゃべりしていたら、有楽の声で引き止められた。

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