異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第68話 異世界少女たちと広げる、ラジオの輪③

「この緑の石が、紅い石へ溜められた声を聴く石なのですか」

「うーん……その開発途中版ってやつ?」

「なんか、あかいいしからそのみどりいろのいしに、おねーさんやピピナたちのこえがとんでいってますね」

「やっぱピピナちゃんにはそう見えちゃうかぁ」

 

 たはーと息を吐きながら、残念そうにアヴィエラさんが言う。

 

「〈らじお〉作りの手助けになると思って、じいに頼み込んであの石の作り方を教わってみたんだよ。でも、緑の魔石のほうが紅い魔石から音を引っ張っちまって溜まらないんだ」

「じゃあ、声が紅から緑へ垂れ流しってわけですか」

「そういうこと。ほら、誰でも触れたら聴こえるようにしてあるから、ちょいと聴いてみ」

「はあ」

 

 アヴィエラさんから手渡された緑色の魔石を、耳元へと持っていく。このあいだイグレールのじいさんが使ってたのよりはひとまわり以上小さくて、簡単に握るようにできていた。

 

「あ、ちゃんと聴こえる」

 

 こつこつと、アヴィエラさんが紅い魔石を爪の先で小さく叩くたびに緑色の魔石から音が聴こえてくる。

 

「サスケ、我にも貸してくれ」

「おう」

「エルティシア様がそっちなら、ピピナちゃんはこっちの紅い石な。両手で持って話しかけてみな」

「わかったですっ」

 

 アヴィエラさんが胸元から外した魔石を受け取ると、ピピナは少しのあいだきょろきょろしてからイスを下りて、とたとたとドアのほうへと駆けて行った。

 

『ルティさまー、きこえるですかー』

「おおっ」

「ちゃんと聴こえますね」

「ええっ、こそこそっていったのにきこえるですかっ!?」

 

 ルティが持ってる魔石へ少し耳を近づけただけで、ピピナのこそこそ声が聴こえてきた。マイクでもなかなか拾えないような音だぞ、これ。

 

「いいじゃないですか、この魔石。結構いい感じに聴こえますよ」

「だろ? ただ、音が保存できないんじゃなぁ……〈あいしーれこーだー〉みたいに、音楽会とか街の人たちの話を聞く時に使えるって思ってたんだけど」

「なるほど。だから開発途中なのですね」

「電池に頼らないで使えるってのはいいんだけどな」

 

 赤坂先輩が持って来た小型のICレコーダーも、中瀬が持って来た高機能のICレコーダーも十分に戦力になっている。でも、もし将来的にヴィエルだけじゃなくいろんなところでラジオをやるとなると、いつも日本から持ってくるわけにはいかない。

 父さんが言ってたように電池の問題もあるし、何よりこっちの世界の人たちにも扱いやすいように、レンディアールや大陸にあるものでも作れたほうがいい。確かに未完成かもしれないけど、こうして作ってもらえるのはありがたいし、それに……

 

「でも、これはこれで使えますよ」

「この中途半端なのがか?」

 

 俺の言葉に、アヴィエラさんがほおづえをつきながら疑わしそうな目を向けてくる。

 

「アヴィエラさん。この石同士を離して、どのあたりまで音が届きます?」

 

「そこまでは調べたことがないな。でも、定着させる魔力によって変わってくると思う」

「例えばなんですけど、物見やぐらとか警備隊の詰め所がありますよね。そういったところに紅い石を置いてもらって、緑の石を市役所の警備隊の事務所に置けば、いちいち事務所に戻らなくても連絡がとれるんじゃないかって」

「んー……? ああっ、アンタのところの〈デンワ〉か!」

 

 って、ほおづえをついてた手で机を叩いて乗りださなくても!

 

「電話に似たような感じですね。えーっと……こんな感じで、電話の受話器みたいに耳が当たるほうに緑の石を埋め込んで、口元のほうに紅い石を埋め込んだものを2個で1組にして売っちゃうとか」

「そいつぁいいな! 石を握ると聴こえるようにしていたけど、握るところで感知させればそのまんま〈デンワ〉みたいになる。相手のほうから会話が来たらどっちかの石を光るようにして、それを詰め所がある分だけ売れば……うん、行けるよ!」

 

 スポーツバッグから取り出したノートに家用の電話の受話器もどきを書いていくと、アヴィエラさんが食い入るように見つめて熱く語り出した。

 正確にはトランシーバーのほうが似ているんだろうけど、少しでもアヴィエラさんになじみのある電話のほうでたとえたほうがわかりやすいはずだ。

 

「ラジオには全然関係ないですし、素人考えかもしれませんけど」

「いや、これは面白いよ。色々改良したりする余地はありそうだけど、保存用の石とは別口でやってみる価値は十分あるって」

「私もそう思います。それに、サスケ。そなたは〈らじお〉には全然関係ないと言っているが、これは〈らじお〉でも存分に活躍するものだと思うぞ」

「一対一で使うのに?」

「一対一だからこそ、だ」

 

 ルティはそう言うと、俺のほうを向いて不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「詰め所からの情報を市役所へと集約し、我らの〈すたじお〉にもこの石を置いて市役所から決まった時間に話してもらう。平穏無事にしても、迷子や盗難といった事件にしても、話してもらうことで今この街で何が起こっているかがわかるであろう」

「なるほど。定時のニュースに使ったり、取材にはもってこいか」

「我としては、サスケと公園で聴いた〈こうつうじょうほう〉が思い浮かんだのだがな」

 

 まあいいと言いながら俺へ向ける笑顔は、とても満足そうで。そして、自信に満ちあふれていて。

 出会ったときと変わらない、見ているだけで元気がもらえる笑顔がそこにあった。

 

「ありがとな、ルティ」

「我こそ、よき考えをありがとう。アヴィエラ嬢も、我らのために作っていただいてまことにありがとうございます」

「アタシだって、このあいだのことを抜きにしても〈らじお〉を楽しみたいからね。こうなったらもっと研究を重ねて、アタシの手でじいを越えてやる!」

「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいよ」

「平気平気。しっかり食べて、寝るときゃしっかり寝てるし、なにより〈らじお〉に関われるのは接客と同じぐらい楽しいんだ」

 

 あっけらかんとしたアヴィエラさんの言葉はストレートで、満足そうな笑顔が加わってその思いがはっきりと伝わってくる。

 

「サスケたちは、今日帰ったらしばらくは来られないんだっけ」

「学校の試験があるんで、2週間ぐらいは。終わったらまた来ますよ」

「我らも〈らじお〉研究のために数日間は留守にいたします」

「そっか。じゃあ、次来たときにはもっと使えるように研究しとかなきゃな。今回は行けないけど、アタシも一段落ついたらチホさんのパンケーキを食べに行くよ」

「ええ、母さんに伝えておきますね」

「リリナねーさまは、またおさけをかってくるっていってました。ミアさまも、またあそぼーって」

「そいつぁ大歓迎だ。んじゃ、またみんなで揃ったら屋台街で宴会だな!」

「是非とも、楽しみにしております」

 

 威勢のいいアヴィエラさんの言葉と力強いルティの言葉に、俺とピピナもうなずく。

 やっぱりアヴィエラさんは俺たちの『お姉さん』で、ルティは頼れる『妹』で。

 まだまだやることはいっぱいあるけれども、こうして異世界でみんなとラジオを作ることができて幸せだって、そう思えた。

 

 そのあとは、勢いのままに有楽と中瀬に合流してお土産の買い物。やっぱり女の子たちが集まるとやかましかったけど、はたから見ているとなかなか楽しいもので。途中からヨルンさんとエルンさんも会話に混じっていたあたり、やっぱり女の子なんだなーって思う。

 結局閉館時間まで居座って、大慌てで時計塔へ帰還。リリナさんにちょっとばかり叱られて、それをアヴィエラさんとフィルミアさんがなだめてくれた。

 

 

 そして、俺たちは『行ってきます』ってあいさつをして。

 アヴィエラさんから『行ってらっしゃい』って見送られて。

 

 日曜朝の、若葉市へと戻っていった。

 

 

「おー……久しぶりのコンクリートです」

「向こうを出たのが夜の7時で、こっちは朝の7時……朝ごはんイコール夕ごはんかー」

 

 そんな第一声を聞きながら、コンクリートの床へと降り立つ。一歩先にリリナさんと戻ってきた、中瀬と有楽の声だ。

 屋上庭園には相変わらずいろんな植物が生い茂っていて、空を見上げればいつもの少し霞んだ青空。視線を下げれば東都鉄道の高架線も見えるし、駅や駅前のビルも見渡せる。確かに、俺たちは赤坂先輩が住んでるマンションの屋上に戻ってきた。

 

「んしょっと。だれもいないみたいですねー」

「ああ。植物の葉が濡れてはいるが、今は大丈夫のようだ」

 

 ピピナとリリナさんが視線を合わせて両手を叩くと、風船が破裂したような高い音があたりに響いた。

 

「今の音は何なのですか?」

「私たちの姿を認識出来なくする結界を解いた音です。他の人々に聴こえるものではないので、ご安心を」

「なるほど。だからりぃさんもぴぃちゃんも羽をしまってるんですね」

「そーですよー。これからみんなで、あさごはんとゆーなのばんごはんをたべにいくですから!」

 

 おー、と両手の拳を突き上げる小柄なピピナに合わせて、有楽と中瀬も片手をかかげてみせる。リリナさんがちょっとだけ拳をかかげてるのも、なかなかかわいらしい光景だ。

 

「では、我らも行くとしようか」

「チホ様の朝ごはん、楽しみですね~」

「きっと、みんなが来るのを待ってると思いますよ」

 

 ピピナたちに続いて、俺とルティとフィルミアさんも階段へ向けて歩き出す。階段を降りてエレベーターホールへ出ると、リリナさんとピピナが下へのボタンを押したところ。すぐにやってきたエレベーターに乗り込んで、下まで降りればあとはロビーから出るだけだ。

 このマンションの住民でもないのに、すっかり慣れてるよなぁ……俺たちって。

 そのまま自動ドアをくぐり抜けたら右へ曲がって、あとは道なり。しばらく歩いていけば、まだほとんどの店がシャッターを下ろしている商店街が見えてきた。

 

「〈わかばしてぃえふえむ〉も、まだ閉まっているのだな」

「この時間は録音番組だからな。当直の人が、異常がないか見守ってるぐらいか」

 

 途中に通りがかったわかばシティFMのスタジオも、局のロゴが入ったカーテンがひかれてひっそりとしている。日曜だと、12時からの生放送まではいつもこんな感じだ。

 そのまま歩いていけば、見慣れたわが家。大きな3階建ての建物の1階で、今日もオープンしている喫茶「はまかぜ」が見えてきた。

 

「ただいまー」

「あら、おかえりなさい」

 

 ドアを開くと、母さんがいつものようにカウンターから迎えてくれた。いつもは帰ってくるのが夕方とか夜だから、朝にこう迎えられるのは珍しいかもしれない。

 

「おかえり、みんな」

 

 それに、赤坂先輩がカウンターにいるのも……って、赤坂先輩?

 

「あれっ、瑠依子せんぱいだー。おはようございますっ!」

「うん、おはよう」

「……どうしたんです? 瑠依子せんぱい」

 

 元気いっぱいな有楽のあいさつにいつもはふんわりと返すはずが、弱めの反応で有楽も戸惑う。見ると、先輩はいつもとは全然違う弱々しい笑顔で俺たちのことを見ていた。

 

「ほら、佐助。そんなところで突っ立ってないで中に入りなさい」

「あ、ああ」

 

 母さんから促されるままに、みんながテーブル席へとついていく。俺とルティとピピナ、中瀬と有楽にフィルミアさんとリリナさんが分かれて座って、イスを回転させた赤坂先輩が座るカウンター席を横目で見るような形だ。

 

「ルイコ嬢、御両親と会いに行ったのではないのですか?」

「え、ええ、会いに行ってきました」

 

 ルティからの問いかけにも、さらに曇った笑顔で言葉を詰まらせた。

 

「何か、御両親とあったんですか~?」

「えっと……」

 

 そして、フィルミアさんが小首を傾げたところで両手を顔の前で合わせると、

 

「ごめんなさいっ!」

「えっ!?」

 

 な、なんで? なんで先輩にいきなり謝られてるの!?

 

「わたしのお父さんとお母さんって、海外で仕事をしてるって話しましたよね」

「確かに、以前聞いておりますが」

「ふたりとも、いろんなところでピアノとチェロを弾いているんですけど、この夏のコンサートツアーが楽団の都合でキャンセルになっちゃったみたいで……それで、今度のシンガポールでの演奏会が終わったら、半年ぐらいこっちへ帰ってくるって」

「と、いうことは……」

「だから、ごめんなさい。ルティさんたちを泊めることができなくなっちゃいました……」

「ええっ!?」

 

 いや、確かに先輩の家だから御両親が帰ってくるのは当たり前だけど、このタイミングで帰ってきちゃうか。

 

「ど、どうしましょう。どこか部屋を借りたほうがいいのか……」

「でも、子供ばかりなわたしたちで借りることができるかどうか~……」

「ああ、フィルミアさん、ルティさん。そのへんは心配しなくてもいいですよ」

 

 カウンターの向こうで、先輩たちの話を聞いていたはずの母さんがいきなり割り込んできた。って、なんで母さんが――

 

「うちの部屋、ひとつ空いてますから」

「……は?」

「何よ。サスケ、忘れちゃったの? 昨日お掃除した空き部屋があるでしょ」

「えっ、ちょっと待って。そこ、馬場さんからの荷物を入れる部屋じゃないのか!?」

「8畳間だし、スペースは十分あるわよ。なんなら、荷物は屋根裏の倉庫に入れたっていいじゃない」

 

 まったくもうって感じで、腰に両手を当てて呆れられたけど、待て、待て。

 それって、ルティたちと同居、ってことに、なる……

 

「というわけで、今日は瑠依子ちゃんとお引っ越しの準備だから。アンタは試験勉強でもして待ってなさい」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 い、いきなりそんなことを言われても、なんにも心の準備ができてないんですけど!?

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