異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第74話 「異世界ラジオのつくりかた」のつくりかた・1②

 なんですか、先輩。「ラジオドラマには全員が登場する」って。「全員」って。

 

「俺、演技なんてほとんどしたことないのに……」

「でも~、最近は〈らじお〉の〈みっしょん〉とやらで、カナさんといっしょに演じたりしていらっしゃいますよね~?」

「それはそれ、これはこれですっ!」

 

 アレは有楽が引っ張ってくれているだけで、ひとたび「dal segno」のときの有楽が顔を出せば、俺なんて引き立て役にもなりやしない。下手したら、みんなの足を引っ張ることだってあり得るぐらいだ。

 

「大丈夫ですよ~。わたしだって、演技はしたことがありませんし~」

「あの、フィルミアさん。時々見せてる凛とした表情とかはどうなんです?」

「それとこれとは話が別です。わたしのは、カナさんやサスケさんほどに演技と呼べるものではありません」

 

 あ、一瞬で真顔になった。

 でも、すぐにふにゃあといつものほんわかとした表情に戻ると、困ったように眉をハの字に寄せてため息をついてみせた。

 

「場や話の流れに合わせて意識しているので、けっこう疲れるんですよ~」

「それこそ演技そのものじゃないですか」

「違いますってば~」

 

 こうした切り替えの良さを見てると、ずいぶん適性があると思うんだけどな。

 

「それに~、ルイコさんが考えた〈らじおどらま〉の内容であれば、いつも通りのわたしたちのような感じではないですかね~?」

「まあ……それは、確かにそうかもしれないですけど」

 

 幸いなことに、役柄とかはほとんど普段の俺たちそのままみたいで、大きな違いと言えばピピナとリリナさんが妖精じゃなく魔法使いの従者になっているぐらい。それも、普段のふたりにかなり寄せた役柄になっていた。

 

「ではでは、次をよろしくお願いいたします~」

「了解です」

 

 柔らかい笑みを浮かべてのお願いに、俺は改めて先輩お手製の企画書へと視線を落とした。

 

 *   *   *

 

【ラジオドラマ第1回のあらすじ】

 旅をしている最中、街道で現れた賊に襲われ逃げ場を失ったレンディアールの王女・エルティシアは、従者のピピナの魔法でその場から瞬間移動して危機を脱することができた。

 

 しかし、たどりついたのは魔法のかけらもない見知らぬ国。心細いまま、ふたりが自分たちの国とはまったく様子の違う街を歩いていると、にぎやかな声が頭の上から聴こえてくる。その声につられていくと、ガラスを挟んだ向こう側の部屋で見たこともない服装の男の子と女の子が楽しげにしゃべっていた。

 

 ふたりのおしゃべりで、エルティシアとピピナは誘われるように備え付けの椅子に座る。気がつけばそのおしゃべりが終わっていて、部屋の中にいたはずの男の子と女の子がふたりの前に立っていた。

 

 不思議そうに、ふたりのことを尋ねる男の子と女の子。突然のことに混乱するエルティシアだったが、優しく次の言葉を待つふたりにさっきのおしゃべりのことを尋ねる。ふたりの口から出てきたのは「らじお」という全く知らない言葉。エルティシアはその言葉を知ると、堂々と立ち上がって男の子と女の子へこう言ってみせた。

 

 

「我の名は、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアール。ふたりとも、我に〈らじお〉がどういうものかを教えてはくれないだろうか」

 

 こうして、異世界の王女様と日本の高校生による「ラジオ局作り」が始まるのです。

 

 *   *   *

 

「これって、ルティがこちらへやってきたときの状況とはまた違いますよね~?」

「違いますね。ルティがスタジオの前で聴いてるって気付いたのは先輩の番組の直前ですし、初めて話したのはその番組の素材録りでですから」

 

 先輩が書いたあらすじは、たぶん俺たちとルティが初めて出会った日をベースにしているんだと思う。大きな違いとしては、ピピナが妖精じゃなくて魔法使いの女の子なのと……

 

「あと、ルイコさんもいないみたいですが~」

「そうなんですよ」

 

 フィルミアさんの言うとおり、いちばんの立役者なはずの赤坂先輩の存在が影も形もないってことだ。

 

「なんか、先輩の存在が全部俺たちに置き換えられてるみたいで」

「どうしてなんでしょう~」

「もしかしたらなんですけど、基本的なことは俺たちに任せたいのかもしれません。次を見ると、そんな気がします」

 

 疑問で頭の中がいっぱいになってきたのか、ますます首を傾げるフィルミアさんに俺は企画書の次の項目を指さしてみせた。

 

 *   *   *

 

【スタッフ】

 ディレクター・ラジオドラマ脚本:赤坂瑠依子

 音響監督・編集:中瀬海晴さん(若葉南高等学校放送部・内諾済)

 

【予定ゲスト】

 山木浩継さん(フリーアナウンサー・第5回内諾済)

 赤坂瑠菜さん(作曲家/ピアノ奏者・第8回内諾済)

 現在、もうひとり交渉中

 

 *   *   *

 

「〈でぃれくたー〉……ルイコさんは〈ばんぐみ〉をまとめる立場でいたい、ということでしょうか?」

「たぶん。しかも、もうスタッフとかゲストと交渉してるってことは、早い段階から自分が番組には出なくてもいいように計画してたんじゃないかと」

 

 山木さんと俺は局以外じゃそんなに会わないし、瑠菜おば――お姉さんなら赤坂先輩のお母さんだから、内々で済ませて俺たちには内緒にしたんだろう。

 それに比べて、昨日までの部活でもそんなそぶりを全く見せなかった中瀬はやっぱりただ者じゃない。もちろん、全部隠して動いていた赤坂先輩も。

 

「これは、改めて赤坂先輩から説明してもらった方がいいかもしれませんね」

「わたしも、そう思います~」

 

 珍しく、フィルミアさんが強めな口調でそう言いきったところで、リビングの入り口の方からどすんと物音が響いた。

 

「……え~っと~」

「……でしょうね」

 

 困惑したように苦笑するフィルミアさんと顔を見合わせて、音を立てずに立ち上がる。

 

「ルイコさん、おはようございます~」

「えー……おはようございます」

「お、おはようございます……」

 

 揃って引き戸の隙間から顔を出すと、レモン色のパジャマ姿な赤坂先輩が廊下で尻餅をついて俺たちを見上げていた。

 申し訳なさそうに、それでいてごまかすように笑いながら、フローリングの床の上で腰を押さえて……って、もしかして転んだのか?

 

「赤坂先輩、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だよ。ちょっと滑っちゃっただけだから」

 

 明るく振る舞う先輩は、右手をひらひらと振ってから入口の梁を支えにしてよろよろと立ち上がった。

 

「あの、その……」

「立ち話もなんですから、中で話しましょう」

「そうですね~。ルイコさん、本当にお怪我はありませんか~?」

「は、はい。えっと……ありがとうございます」

 

 何か言いたげな先輩に、俺とフィルミアさんはつとめて明るく言いながらリビングの中へと招き入れた。そのままゆっくりとダイニングへ向かって、昨日赤坂先輩が座っていた席へ。座ったのを確認した俺たちは、そのはす向かいにある両側の席へと座った。

 

「もしかして、というか、ばっちり俺とフィルミアさんの話を聞いていました?」

「……うん」

 

 ストレートな俺の質問を、深いうなずきで返す赤坂先輩。しょんぼりしているように見えるのは、きっと気のせいじゃない。

 

「目が覚めてすぐに眠気が飛んじゃって、もう起きようって思って下へ行ったら、松浜くんとフィルミアさんがお話ししてたから……」

「その最中に、ルイコさんのお名前が出て驚いてしまったということでしょうか~?」

「そういうことです」

 

 先輩の肩が、さらに落ちる。昨日誰よりも真っ先に寝たわけだし、この時間に起きても確かにおかしくはない。まさか、俺たちが話しているだなんて想像もしていなかったんだろう。

 

「別に、入ってきてもよかったのに」

「だって、ふたりともわたしのことで推理してたんでしょ? そんな時に行ったりしたら、質問攻めにされちゃうよ」

「入ってこなくても、あとで質問攻めにはするつもりでした」

「そうだよねー……」

「では初めに~、どうして出演者の中にルイコさんのお名前がないのでしょうか~?」

「もう質問ですかっ!?」

「張本人の先輩が目の前にいますし」

「ルイコさん自ら、こちらへいらっしゃったのですから~」

「……仕方ないなぁ」

 

 深くためいきをつくと、先輩は気を取り直したように顔を上げた。

 

「さっきふたりが話していたとおり、わたしはスタッフに徹するつもりです。松浜くんが言っていたようにみんなに任せたいっていうのももちろんあって、あとはスタジオの大きさとかを考えると……」

「言われてみれば~、あちらの〈すたじお〉は4席しかありませんね~」

「だったら、機材席から参加すればいいじゃないですか。あそこを入れれば5席になるはずです」

「でも、30分番組に5人はさすがに多すぎるでしょ?」

「まあ、そうかもしれませんけど」

 

 先輩が言うとおり、30分番組に5人もパーソナリティがいるのは多すぎる。もちろん5人以上のパーソナリティがいるラジオもあるけど、それは60分とか2時間のワイド番組でのこと。30分じゃそれぞれの出番だって限られてくるし、最悪トークに参加できないことだってありうる。

 でも、今の俺たちを結んでくれたはずの先輩が番組にいないなんて。

 

「それに、今度は作る側にまわりたいなって思ったのも本当だよ」

 

 納得がいかないのが伝わったのか、先輩が俺へにっこりと笑いかけてきた。

 

「松浜くんと神奈ちゃんとルティさんが、いっしょに番組を録ったことがあったよね。ああいう番組をまた作って、今度はちゃんとわかばシティFMで放送したいなって思ってたの」

「みなさんがレンディアールへ来て、わたしたちに聴かせていただいた番組ですか~」

「はいっ。今度はレンディアールから来たみなさんにも参加してもらって、こっちだったら機材もあるからラジオドラマ作りも体験してもらえるかなって。わたしたちだけが作れる番組を、どうしても作りたかったんです」

 

 さっきまでとは打って変わった力のこもった言葉と瞳で、今度はフィルミアさんと向きあう。

 

「この企画書が通るかどうかはわかりません。でも、たとえ通らなかったとしても、このあいだみたいに勝手に番組を作ります」

「どうして、そこまでして……」

「こっちでもみんなとラジオ番組を作って、レンディアールから来たみんながここにいたっていう証しを残したいんです」

「わたしたちがいた証し、ですか~?」

「考えすぎって思われるかもしれませんけど……いつかみなさんとはお別れして、会えなくなる日が来てしまうのかなって、そう思っちゃって」

「っ!」

 

 その先輩の想いに、一瞬心臓がわしづかみにされたような錯覚を覚えた。

 

「このあいだまで週末にはいっしょだったのに、それがなくなってからどんどん寂しくなって……もしかしたら、いつかレンディアールのみんなに会えなくなるじゃないかって、そんな考えが浮かんで来たんです」

「先輩……」

 

 思わず、声が漏れる。

 先輩が吐き出した想いは、俺もついこのあいだまで抱いていたもの。いつかルティが自分たちの世界に帰って、もう会えなくなるんじゃないかって考えて。

 それは結局杞憂ではあったんだけど、終わっていたのは俺の中だけだったらしい。

 

「だから、この〈ばんぐみ〉を企画したということですか~」

「ええ。この企画書にそれを書くわけにはいきませんから、たくさん建前を考えちゃいました」

「そういうことでしたか……俺だけじゃなくて、先輩もだったんですね」

「松浜くん、も?」

「はい」

 

 ようやく腑に落ちた俺は、先輩にその時のことを打ち明けることにした。

 

「俺も、リリナさんにレンディアールへ連れて行かれる直前までは、ルティが目の前からいなくなっちゃうんじゃないかって不安でした。ラジオのことを教え終わったらレンディアールへ帰って、もう二度と会えなくなるんじゃないかって」

「そっか……松浜くんもだったんだ」

「ええ。その時は、これからもルティがこっちへ来るって言ってくれたから落ち着きましたけど」

 

 ルティから直接言ってもらえたことで、俺は安心してずっといっしょにいることができた。今思い起こせば、先輩が初めて行ったレンディアールで「日本へ来たら、自分の家へ泊まってほしい」ってお願いしたのはその不安の表れで、ずっとくすぶっていたのがここへきて表へ出てきたってことなのかな。

 

「ルイコさん~、サスケさん~、ご安心ください~」

 

 気恥ずかしくなって笑い合う俺たちへ、フィルミアさんの優しい声が届く。

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