異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第81話 異世界だけじゃない、ラジオのつくりかた⑤

「で、その南高のふたりといっしょにいるルティさんとピピナちゃんは、私たちの番組を聴いてどうだったかな?」

「わ、(わたくし)ですか」

 

 ずっと俺たちの話を聴いていたルティが、突然北条さんに話を振られてうろたえていた。それでも小さく咳払いをすると、みんなを見やって改めて口を開く。

 

「〈そうごうこう〉のお二人からは(まな)()への愛情を感じて、〈もみじがおか〉のお二人からは〈みなみこう〉のサスケとルイコともまた違った、にぎやかな中にも互いへの信頼を感じました」

「おー、これはまたストレートな感想が」

「ピピナは、みーんなたのしいっておもったですよ。でも、そのおもしろさがどれもちがったおもしろさといーますか……うーん、どーいったらいーんです?」

「そのままでいいんだよ。それぞれの面白さがあるっていうのは、あたしもその通りだって思うから」

「なんだかんだで、みんな違う番組のカラーになるんだよね」

「本当、なーんの打ち合わせもしてないのにな」

 

 ルティとピピナの感想をきっかけに、みんなの間で笑いが起こる。もちろんお互いネタが被らないっていうのはあるかもしれないけど、いつの間にか各校独自の、そしてわかばシティFM内でも独自な番組作りになっているのが本当に不思議だ。

 

「私は総合高校のことが好きでこのラジオをやってるから、そう思ってくれてうれしいな」

「うちもっ。愛花ちゃんとの絆を感じてくれてめっちゃうれしいよ!」

「小さい頃からパソコンを使って『ラジオごっこ』をしてたのが、そのまま高校でも続いてるんだもんねー。こうしてリスナーさんに会えるなんて、ほんとに不思議だよー」

「私こそ、楽しき〈ばんぐみ〉をいつもありがとうございます」

「これからも、おにーさんやおねーさんのばんぐみをきーてゆくですよっ!」

 

 深々と頭を下げるルティと、両手をあげて喜びをあらわすピピナ。対照的なようでいて、どっちも感謝を伝えてるのは同じで、俺たちのラジオ以外にもこうして興味を抱いてくれていることがうれしかった。

 

「ふふふっ、よきかなよきかな」

「あ、母さん」

 

 話に集中して気付かないうちに、母さんがトレイを手にして俺たちの席へとやってきていた。

 

「はいっ、ルティちゃんとピピナちゃんと、佐助と神奈ちゃんのジュースね」

「ありがとうございます、チホ嬢」

「ちほおねーさん、ありがとーですよっ」

「わーいっ、いただきますっ!」

 

 さっき仕込んでいたオレンジジュースのコップが、ことり、ことりと俺たちの前へと置かれていく。紅葉ヶ丘と総合高校のみんなの前にも置かれている、母さん自慢の品のひとつだ。

 

「おおっ、やってるねー若人たちっ」

「おばさま、ただいま戻りました」

 

 さらには、カランカランとドアベルを鳴らして大門さんと赤坂先輩が入ってきた。

 

「いらっしゃいませー。あらあら、席はどうしようかしら」

「いいんですよ、智穂さん。あたしらは後ろの席で」

「わたしたちは、みんなのお話を聴いてるだけで十分ですから」

「うーん、そこの衝立(ついたて)を動かして8人席でも作ろうか……」

「今はホコリが立つかもしれないから、あとでな。母さん」

「ちぇー。じゃあ瑠依子ちゃん、真知ちゃん、申しわけないんだけど、そこの席でお願いね」

「はいっ」

「ああ。母さん、俺も手伝うよ」

「私も手伝います」

 

 カウンターへ戻る母さんに声をかけて立ち上がると、ルティも立ち上がってカウンターのほうへとやってきた。

 

「何よ、別にあたしだけでもいいのに」

「ふたり分だといろいろ手間だろ。俺がサラダを用意しとくよ」

「私は水を。こちらのトレイでいいのですよね」

「もうっ、ふたりとも生真面目なんだから」

 

 呆れたように笑いながらも、母さんは追い返すことはしなかった。今日は土曜日で来店数も多かっただろうし、友達が来ていてもこれくらいは手伝っておきたい。

 

「有楽、先輩たちにいろいろと聞いとけよー」

「らじゃったです! ピピナちゃん、さあ、膝の上にかもん!」

「やーです! ピピナはこのまませっかおねーさんのとなりにいるですよ!」

「あんですと!?」

「ふっふっふっ。これも先輩の貫禄ってやつなのかねぇ、愛花ちゃん」

「雪花ちゃんが人畜無害だってわかってるんじゃないかなー。ねえ、ピピナちゃん」

「あいかおねーさん、ぴんぽーんです!」

「うぼぁー!!」

 

 まったく、有楽もピピナもなにをしてるんだか。まあ、みんなが楽しんでるならそれでいいんだけどさ。

 冷蔵庫から作り置きのサラダが入った透明のボウルを取り出して、ラップを外す。昼に仕込んだものが残ると、夕方の5時以降はサービスとして出すことになっているサラダだ。ちょうど2人分だから、これを取り分けて入れればいいだろう。

 

「サスケ、氷をとってはくれまいか」

「あいよ」

 

 ボウルをまな板の上に置いてから製氷室を開けた俺は、ルティが持つトレイに置かれたふたつのコップへとスコップで氷を入れていった。

 

「ありがとう」

「おう」

 

 そのままトレイをカウンターに置いて、シンクから水をくんでいく。からからとぶつかる氷の音が、みんなのおしゃべりに混じってとても心地いい。

 

「なあ、サスケ」

「んー?」

 

 サラダを取り分け終わって一段高いカウンターへ置くと、続いてコップをカウンターへ置いたルティが隣で俺のことを見上げていた。

 

「〈らじお〉というのは、多くの人が関わっているのだな」

「そうだぞ。今日の2時間だけでも、これだけの人がいるんだ」

 

 実感を込めたような、ルティのゆっくりとした言葉。顔を上げてカウンター越しにみんなことを見ながら、俺も実感を込めてそう言ってみせた。

 

「まるで、〈せんきゃくばんらい〉といったところか」

「お前、よくその言葉を知ってるな」

「買い物で財布を借りたとき、チホ嬢がつけていた木札のことを尋ねてな。そういうものだと教えてくれたのだ」

「なるほどね」

 

 喫茶店が好きな母さんのモットーだもんなぁ。千客万来は。

 

「このようににぎやかな〈らじお〉を、我も作りたい」

「作れるって。俺らやフィルミアさんもいるし、ピピナとリリナさんもいるんだから」

「もちろん、それはわかっている。皆だけではなく、ヴィエルに住む皆とも作っていきたいということだ」

「そういうことか」

 

 みんなの気力にあてられたのか、ルティもやる気に満ちた表情を俺に向ける。

 幸いなことに、ヴィエルにはアヴィエラさんやレナトにユウラさん、セドレアさんやラガルスさんといった具合にノリのいい人たちがたくさんいる。なんだったら、興味を持った人には声をかけてみればいい。

 

「ルティなら、きっとできるさ」

「ああ。皆とともに、我らで作っていこう」

「おうよ」

 

 楽しそうに、輝く笑顔を見せるルティへ俺も応えてみせる。

 大切な妹分なんだから、ここでちゃんと応えないと。

 

「では、水とサラダを持っていくぞ」

「よろしくな」

 

 水で濡れた手をエプロンでぬぐったルティは、サラダの皿とコップが2つずつ置かれたトレイを手にして、先輩たちの席へと歩いていった。

 その先にいるのは、番組を支える先輩たちと番組の主役なラジオの仲間たち。ルティを支えるピピナもいるし、2階へ目を向ければフィルミアさんやリリナさんがいて、遠く向こうの世界にはアヴィエラさんたちだって待っている。

 ルティが自ら望んで手をつないで、いっしょに歩いてる人たちがたくさんいるんだから、きっと大丈夫だ。

 

「へえ、15歳でラジオをねえ。るいちゃん、面白い子を見つけてきたじゃない」

「でしょ? ルティさんと、後ろにいるピピナさんをメインにして番組を作ろうと思ってるの」

「ああ、だから企画書を出してたわけね。ルティさん、もしも番組が決まったらよろしくね」

「はいっ、よろしくおねがいいたします!」

 

 元気いっぱいなルティなら、きっと。

 

「うらっ」

「いてっ! な、なにするんだよ母さんっ」

 

 軽い衝撃が頭に入って、思わずつんのめる。慌てて顔を上げて振り返ると、母さんがチョップの体勢のままでぶすーっと俺をにらんでいた。

 

「佐助はあっちに戻ってらっしゃい」

「え? で、でも、まだ途中で……」

「いいからっ」

 

 か、母さん?

 

「あんたがいるのはあっち。ここじゃない。どぅーゆー、あんだーすたん?」

「あ、あんだすたん……か?」

「だったら行った行った。ほらっ、エプロンも脱げ脱げ」

「うわぁっ!?」

 

 母さんは素早く俺の後ろへと回り込むと、エプロンの紐をしゅるりと解いてあっという間に脱がせていった。な、なんつー技だよ、コレ!

 

「ほら、さっさと行っといで」

「あ、ああ」

 

 仕方ないなとばかりに呆れ笑いを浮かべて、母さんが俺の背中を押し出す。

 頭の痛みはまだ残っているけど……今の『仕方ないなぁ』って感じの笑みを目の当たりにしたら、不思議と怒りは霧のように消えていった。

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