異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第88話 「異世界ラジオのつくりかた」のつくりかた・2④

「か、神奈ちゃんはいつもこんな感じでやってるんだね」

「なんつーか……見るとやるとじゃ、本当に大違いだな」

「初めはみんなそんな感じですよ。あたしだってそうでしたし」

 

 へばっている先輩と俺へ、有楽があっけらかんと言ってみせる。

 七海先輩や空也先輩とやってる「dal segno」よりもずいぶんライトな雰囲気だからか、軽く息が上がってるぐらいでまだまだ元気いっぱいそうに見えた。

『ボクらはラジオで好き放題!』でもチャレンジ企画として演技をしたことはあるけど、あれとは全然違う。何人かの登場人物と掛け合いしながらしゃべり進めていくのは、タイミングもあるからえらい気が張るし……とにかく、めっちゃ疲れる。

 

「サスケ、ご苦労であった」

「おう、ルティもお疲れさん」

 

 楽しげにしているルティが、俺の左隣のイスにぽふっと音を立てて座った。

 お姫様らしくはなくても、年相応でいつも通りなその仕草についついホッとする。

 

「ずいぶん楽しんで演じてたじゃないか」

「うむ。自分で自分を演じるというのは、不思議ではあるがなかなか得がたい経験だ」

「ピピナは、さすけとかなとこんなふーにであえてたらっておもえてたのしかったですよっ」

「わっと」

 

 身軽なピピナが、ぴょんと飛んでルティの膝の上に座る。体重がかからないようにしたのか、今は目に見えない羽でふわりと座ったように見えた。

 

「そうだな。我も、日本の皆ともう一度出会ったような思いがする」

「ラジオじゃ改めて『はじめまして』だからな」

「あたしも、初めからふたりに話しかけられてとっても楽しかったです。るいこせんぱい、ありがとうございましたっ!」

「ピピナも、るいこおねーさんにはいっぱいいっぱいかんしゃですっ!」

 

 俺らの話に加わってきた有楽とピピナが、口々にそう言って目の前赤坂先輩へとお礼を言った。ふたりとも興奮をあらわにしているあたり、俺たちと同じように楽しんでいたみたいだ。

 

「わたしこそ、みんなにありがとうだよ。みんながいたから、このお話が作れたんだもの」

「では、皆で皆に感謝ということですね」

「はいっ。まだもう1話とトークパートがありますから、その気持ちを忘れずに行きましょう」

「もちろんです」

「こんどはねーさまとミアさまもいるですから、もっともーっとたのしーですねっ!」

「ええ、きっと楽しいと思いますよっ」

 

 その赤坂先輩も、イスに座るルティたちの目線に合わせるようにかがんでいっしょに微笑んでいる。その表情から疲れは見えるけれども、マイクテストまで見せていた緊張はすっかりどこかへ行ったらしい。

 

「松浜せんぱいも、ありがとうございました」

「おう、前半戦お疲れ」

 

 声をかけてきた有楽は右隣に座ると、床に置いていたペットボトルを手にして少しだけ水を飲んだ。ボトルの表面に水滴がまったくついていないそれは、のどをびっくりさせないようにと常温で俺たちにも配られていたものだった。

 

「満足そうじゃないか」

「んー、細かいところを言えばいろいろありますけど……でも、今はそれにも目をつむれるぐらい楽しかったです」

「そっか」

「せんぱいは、どうでしたか?」

「俺かあ」

 

 床の上に置いていたペットボトルを取りながら、有楽に相づちを打つ。冷やされてはいなくても、ボトルごしに伝わるひんやりとした感触が手に広がっていった。

 

「ワクワクしたっていうのが、正直な感想かな」

「やっぱり」

 

 それでも冷めない興奮が、俺の口から包み隠さずついて出てくる。

 

「やっぱりって、どうしてわかるんだよ」

「あたしも、とってもワクワクしてましたから。みんなでいっしょに、こうして演じることができて」

「みんなで……本当、そうだよな」

 

 いつもの元気なものとは違う、ゆっくりと噛みしめるような返事。つられて、俺も笑いながら感じたことを言ってみせた。

 

「演じることが、こんなに楽しいとは思わなかったよ」

「ふっふっふっ。松浜せんぱいの声優化計画がどんどん進んでしまいますねぇ」

「んな計画すなっ。つーか、俺はあくまでもアナウンサー志望であってだな」

「冗談ですって、冗談」

 

 軽く抗議の声を上げたところで、有楽がやだなーという感じに手をぱたぱた振ってみせる。

 

「あたしがやってる声のお仕事を、みんなが体験して楽しんでくれればそれでいいんです。せんぱいたちはもちろん、ルティちゃんとピピナちゃんも」

「なるほどな」

「まだまだ13回のうちの1回ですけど……それでも、最初の一歩でこうして楽しんでもらえて、ほんとによかった」

 

 しみじみとした有楽の言葉が、すうっと俺の心にしみていく。

 ラジオのアナウンサー志望な俺だって聴いている人に楽しんでほしいし、共演している人たちにも目いっぱい楽しんでほしい。

『声優』っていう同じ声を扱う仕事をしている有楽にとって、今日のルティたちとの収録はきっとそういう場だったんだろう。

 

「まだまだ、最初の一歩か」

「ええ、踏み出したばっかりです。きっといつか、ヴィエルでもラジオドラマを作るんですからね」

「やっぱり野望はそこかい」

「当然じゃないですか。この1作っきりで終わらせるつもりは、ぜーんぜんありませんよっ」

 

 いひひっと笑う有楽には、自信が満ちあふれていて、

 

「みなさん、おつかれさまです~」

「エルティシア様とピピナの皆様との出会い、楽しませていただきました」

「フィルミアさん、リリナちゃん! 次は、ふたりの番だからねっ!」

「お、お手柔らかにおねがいします~!」

「〈せいゆう〉たるカナ様にどこまで迫れるか、臨んでみせましょう」

 

 みんなを巻き込んで楽しむんだっていう意欲が、ふたりへの言葉からも伝わってきた。

 

「エリシアのような演技もいいですが、こういう神奈っちの演技もいいですね」

「演技っていうよりも、ほとんどあたしの素ですよー」

 

 フィルミアさんとリリナさんといっしょに入ってきた中瀬が、ふたりの後ろから姿を現して声をかけてくる。相変わらずの無表情ではあるけど、声には明らかに興奮が混じっていた。

 

「後半戦もお願いしますね。松浜くんも、最低限さっきみたいな調子でいてください。演技はともかくとして」

「最低限とはなんだ、最低限とは」

「松浜せんぱい。今のは『この調子でお願いします』ってことですよ」

「なぬ?」

「神奈っち、しゃらっぷですっ」

 

 ぴしゃりと言う中瀬の声色は、どこか焦っていて……なるほど、確かにそうともとれるな。

 

「わかった、後半戦もがんばるよ」

「それでいいのです、それで」

 

 わざと素直に言ってみたら、中瀬はただそれだけ言ってついっと顔を背けた。悪態が出ないってことは、有楽の指摘は図星だったってことか。

 

「みはるん、みはるんっ!」

「きゃっ。ぴ、ぴぃさん?」

 

 そんな中瀬に、ピピナが楽しそうに飛びついてくる。おお、自分から飛びついていくのは珍しいな。

 

「ピピナたちのえんぎ、みはるんからみてどーでした?」

「ふたりとも、実にお見事でした。ぴぃさんの元気さは、るぅさんの凛とした雰囲気に彩りを添えるんですね」

「えへへー、それならよかったですっ!」

 

 ピピナの笑顔につられたように、中瀬はくちびるの端を少し吊り上げて笑ってみせた。

 

「カナ、サスケとともに我らを導いてくれてありがとう」

「こっちこそ。ルティちゃんもピピナちゃんの勢いに、あたしもついついつられちゃった」

「ならば、第2話もはりきって参ろうか」

「うんっ。あたしもがんばるよ、ルティちゃん!」

 

 続いてやってきたルティは、有楽と健闘を誓い合っていた。有楽も抱きつかずにただ元気に応えているあたり、今も真剣モードが続いているんだろう。

 

 有楽は赤坂先輩と並ぶ柱と言ってもいいぐらいで、演技中にそばにいるときの心強さは絶大だ。有楽がいなかったらこのラジオドラマは絶対に成り立たないんじゃないかと思うくらいに、その経験と存在は俺たちに安心をもたらしてくれている。

 すっかりなじんだ中瀬も、今じゃラジオづくりで欠かせない存在だ。相変わらず何を考えているのかわからないところがあっても、基本的に冷静な視点で俺たちを見てくれているんだからありがたい。

 

「せんぱい、第2話もよろしくお願いしますねっ!」

「期待しないで、お手並み拝見といきましょう」

「おうよっ。中瀬、そう言っていられるのは今のうちかもしれないぞ?」

「ふんっ、どうだか」

「よーしっ。フィルミアさんもリリナちゃんも、次は楽しんでいくよっ!」

「は~いっ」

「はいっ!」

 

 俺も、ふたりと肩を並べるぐらいがんばろう。

 このラジオを、パイロット版だけで終わらせてたまるかってんだ。

 再び活気がみなぎっていくブースの中で、俺も今まで以上にラジオづくりへの意欲をかきたてられていた。

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