異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第91話 異世界少女とラジオ局と③

 CMが流れて正式な放送時間が告知されて、対外的に公式に配布される印刷物にも載った。

 あとは、完パケした番組をわかばシティFMの電波に乗せるだけ。

 

 みんなで作ったパイロット版が局で検討されて、正式に放送が決まったのはほんの少し前のこと。いつもの生放送を終えた先輩が大喜びでうちの店にやってきて、店の閉店作業をしていたルティたちにもその喜びが広がっていった。

 その日は有楽と中瀬も息抜き名目で呼び出して、軽いお祝いをして解散。テストも明けた今日からあと3日を数えれば、24時になったのと同時に第1回目が正式に放送される。

 

「いよいよだな」

「うむ、いよいよだ」

「わくわくしてきたですねっ!」

「みんな、初々しい反応ねー。なんだかお姉さんも懐かしくなってきたわ」

「懐かしくなってきたって、赤坂先輩のひとつ上なだけじゃないですか」

「あのね、歳のことを言ってるんじゃないの。朱里と『じょじょらじ』を担当することになったときは、あたしだってワクワクして夜も眠れなかったんだから」

「マチ嬢が、アカリ嬢と『じょじょらじ』を?」

「ええ、もう5年ぐらい前だけどね」

 

 むくれ顔を俺へ向けていた大門さんが、一転してルティへ笑みを浮かべて向き直る。

 

「今でこそ雪花ちゃんと愛花ちゃんのふたりがにぎやかにやってるけど、あたしたちも結構好きにやらせてもらってたの。先代の先輩から最終回に指名されてびっくりして、とってもうれしくて。はじめての生放送の前の日なんて、目が冴えて全然眠れなかったわ」

「そのような経験を……申しわけありません。てっきり私はマチ嬢のことを〈すたっふ〉なのかと思っておりました」

「今はただのスタッフだから、エルティシアさんが大正解。その時に番組を作る楽しみを覚えちゃって、パーソナリティは朱里に任せてあたしは作る側にまわることにしたんだ」

 

 ぱたぱたと手を振って、謝ろうとしたルティを押しとどめるように言葉を重ねる大門さん。その声には悔いとか諦めとかはまったくなくて、ただ純粋にスタッフを楽しんでいるっていう自信が感じられた。

 

「しゃべるのももちろん楽しいけど、誰かがしゃべったものを放送するように仕上げていくっていうのも結構楽しいものなのよ」

「なるほど。みはるんも言っておりましたが、やはり『作る』というのは楽しいものなのですか」

「楽しいなんて枠じゃ収まらないわよ。『自分が作ったものがいろんなところで放送される』って責任を背負い込んで、その上でみんなといっしょに番組を作っていくっていうのはやる気にも自信にもなるの。今じゃ『あたしがここにいなくてどーする!』って思うぐらいにね」

「それほどまでに、マチ嬢は〈らじお〉のことが好きなのですね」

「うんっ。後輩たちの成長もそばで見られてとっても大好きで、とっても幸せ。まあ、最近は父さんや母さんにちくちく言われちゃったりするけど」

「ご両親に、ですか?」

「『機械に向かってるだけじゃ、いい縁とは巡り会えないぞ』って。あたしの人生なんだからほっといてくれてもいいのにねぇ」

「あ、あはははは」

「?」

「そういうことですかー」

 

 呆れるように笑う大門さんにつられて、俺まで渇いた笑いが出てくる。ルティはわかっていないように小首を傾げて、その横でピピナはうんうんとうなずいて……って、ピピナのほうがわかってるんかいっ。

 

「まあ、それはともかくとして……エルティシアさんもピピナさんも、ラジオが好きっていうパワーをどんどん番組でぶつけていってくれたらうれしいな」

「無論です。故郷で〈らじお〉を広めるためでもありますが、なにより我らが〈らじお〉そのものが大好きだという想いを多くの人々へと届けたいと思います」

「ピピナは、みんなに〈らじお〉はたのしいってことをつたえていきたいですっ!」

「うんうんっ、その意気その意気。その年齢でこんなにラジオに興味を持ってくれて、おねーさんはうれしいわー」

「大門さんもパイロット版っていうか、第1回を聴いたんですよね。どうでした?」

「うーん」

 

 俺がたずねたとたん、大門さんは困った表情を浮かべてから人さし指をびんと立てて、

 

「それを放送前に言うのは、さすがに野暮ってものじゃないかしら?」

「あー……それは確かに」

 

 たしなめるような言葉に、俺も一転して退かざるを得なかった。

 

「だな。マチ嬢の言うとおり、我も〈ほうそう〉が終わってから伺いたいです」

「ええ。テストが終わってちょっとは余裕もあるでしょうし、月曜はここにいるから。その時は、中瀬さんと神奈ちゃんも連れて来なさいな」

「そういたします。なあ、サスケ、ピピナ」

「ああ、そうしよう」

「おねーさんがどうきいたか、たのしみにしてるですっ」

「第三者の目で、しっかり言うからねー」

 

 んふふーと笑いながら、覚悟しなさいよとばかりに座っているルティとピピナへ顔を近づける大門さん。どうしても作っている側はバイアスがかかるから、関わっていない立場から率直な意見を言ってもらえるのはありがたい。

 

『それでは、今日の【わたしのサウンドトラック】。小説【ボクらの夜空】をイメージした書店員Xさんからのプレイリストで、映画【星めぐりの子供たち】サウンドラックより、BGMの【煌めく星たち】【地上から見た銀河】【月光浴】【双星】、そして主題歌【星めぐりの先に】。5曲続けて、クロスフェードでお聴きください』

 

 話が途切れたところで、天井のスピーカーから流れる響子さんのトークが耳に入ってきた。へえ、『わたしのサウンドトラック』ってこういう企画なんだ。

 

「響子さんの今のコーナーって、この春からの新コーナーでしたっけ」

「そうよ。元々はリネージュ若葉のCDショップから持ち込まれたリクエスト企画を、響子さんがブラッシュアップしてくれてね」

「あの、これは〈りくえすと〉とは違うのですか?」

「リクエストはリクエストなんだけど、その週に決めたテーマをもとにしてリスナーさんが自分なりのサウンドトラックを作れるコーナーなの」

「あー……サウンドトラックってのは、映画とかドラマとかアニメのBGMを集めたCDのことな。その音楽を使って、自分で勝手に組み合わせてラジオで流してもらえるってことだ」

「ほほう、自分なりに流したい音楽を組み立てられるというのか」

「おかげで、このコーナー目当てにメールも結構来るようになってね。14時台と16時台の2回やってても、週に30通ぐらいメールが来るから競争率が高いこと高いこと」

「そんなにおおいんですかっ」

「ええ。こっちとしても人気があるのはいいことだし、15分ぐらいの休憩時間が作れるからちょうどいいのよ」

「そういう意図もあるんですね」

 

 確かに、ぶっ続けで曲を流せばそれだけパーソナリティが休めることになる。4時間もやれば途中で一旦休息が欲しいのも当然で、番組の目玉も作ることができればやらない手はないってことなんだろう。

 話しているうちにも、スピーカーからは響子さんのトークに代わってハープとシンセの幻想的な音色が降り注いできた。タイトルからして星をイメージした曲なんだろうけど、ハープのぽろん、ぽろんとつまびくような音色は、まるで星が瞬くような情景が思い浮かんできそうだ。

 

「あらっ」

 

 そのきれいな音楽に、低い振動音が突然割り込んでくる。スマホのバイブレーション音みたいだけど、俺のじゃなくて……ああ、大門さんのか。

 

「はい、もしもし。って、響子さん?」

 

 ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した大門さんが、通話を始めたとたんにガラス越しのスタジオのほうへと向く。つられて俺も向くと、休憩中なはずの響子さんが機材席からひらひらと俺たちに向かって手を振っていた。

 

「ええ、確かに今度の新番組の子たちですけど。はい、はい……えっ? これからですか? はあ、ですけど……まあ……」

 

 何気なく話していたはずの大門さんの声のトーンが、疑わしそうなものへと変わる。

 

「響子さんなら時々やってますし安心ですけど、このふたりは……まあ、ちょっと聞いてみますね」

 

 続いて呆れたように、そして仕方がないなとばかりに笑うと、スマートフォンから耳を離して俺たちへと向き直った。

 

「えーっと……ねえ、3人にちょっと聞きたいことがあってね」

「なんですか?」

「その、突然かもしれないんだけど……んっ」

 

 言いづらそうにしている大門さんが、意を決したようにぐいっとスマートフォンを握る。

 

「これから、みんなで生放送に出る気はない?」

「えっ、マジですか!」

「これから?」

「ですか?」

 

 飛びついた俺に対して、ルティとピピナは揃って左側へと首をかしげてみせた。

 

「この番組って、ここのスタジオでもリネージュ若葉――えっと、ショッピングセンターにあるサテライトスタジオでも通りがかった人にお願いしてゲストになってもらったりするのよ」

「〈ぱーそなりてぃ〉ではなく、一般の者がですか」

「ええ。昔からの目玉コーナーなんだけど……ほら、最近って暑いから、昼間に表のベンチで座る人って少ないでしょ。それで最近できなかったところに、みんなが来たから……響子さんが、ね?」

 

 またまた困ったように笑う大門さんがスタジオのほうを手で指し示すと、さっきは手をひらひらと振っていたはずの響子さんが、にまーっと笑っておいでおいでとばかりに手招きをしていた。

 

「なるほど」

「そ、それは、これから我らが〈なまほうそう〉をする、という……?」

「そういうことになるわね」

「る、ルティさま……?」

 

 呆然としたルティのつぶやきに、心配そうにピピナが顔をのぞき込む。でも、ルティはぶるぶる首を左右に振ると立ったままの俺をキッと見上げた。

 

「サスケ、そなたは出る気か?」

「あ、ああ。せっかくのお誘いだし、俺は出たいと思ってるけど……ルティは、どうだ?」

 

 ここ最近は見せなかったルティの弱気を感じ取った俺が、一拍おいてたずね返すと、

 

「ならば、我も出よう」

「ルティさまっ!?」

「ピピナ、そなたもついてきてくれるか?」

「もちろんですっ! もちろんですけど……」

「いいの? いきなり生放送っていうのは、あたしもおすすめできないわよ?」

「やります。我とて、いつかは故郷にて〈なまほうそう〉を(にな)う身。せっかくの好機を、みすみす逃がすわけにはいきません」

「それならいいんだけど……なんだか、覚悟を決めた勇ましいお姫様って感じね」

「そういうものだと思っていただければ」

 

 弱気を振り払うように立ち上がって、ルティがきっぱりと言ってみせる。どうやら、心配は無用だったらしい。

 

「じゃあ、スタジオに行きましょうか。あたしも、付き添いとしていっしょに座っていいかしら」

「ええ、とても心強いです」

「ありがとう。まあ、それは口実ってことで」

「どーゆーことです?」

「みんなのマイクさばきを聴いてみたいだけ」

「そういうことでしたか」

 

 いたずらっぽく笑う大門さんに、俺たちもつられて笑う。うん、いい感じにルティの緊張もほぐれそうだ。

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