TS転生お嬢様「家から追い出されたくないのでお兄様と子作りするぜ!」 作:赤々
黒須一は駆け足で長い廊下を歩いていた。すれ違う人々は肩を怒らせて歩く黒須を露骨に避けるが、黒須にはそんな事を気にしている余裕はなかった。何故なら黒須一は怒っているからだ。生家が事業に失敗して没落し、西条院家の使用人として雇われて十二年。真面目な職務態度と生家で培った上流階級としての教養を買われて西条院家の一人娘西条院彩華の教育係となって十年。当初は手の付けられない我儘お嬢様だった西条院彩華も黒須の血の滲むような教育という名の努力の末、今では『完璧な淑女』と社交界で噂されるほど立派な淑女になった。だから黒須も安心して、長期の休暇を貰い、昨日まで故郷に帰省していたわけだが……
(一体何を考えているのですか彩華お嬢様!いくら兄弟とは言え年頃の異性の部屋に深夜にしかも連日訪ねていくなど……!全く私が目を離すとすぐにこれだ!これは久々に念入りに教育しないといけませんね……っ!)
頭の中で彩華お嬢様に対する再教育プランを組み立てながら歩みを進めて漸く目的の場所である西条院彩華の部屋の前に着いた黒須は歩みを止めて深呼吸をしてから部屋の扉をノックした。
「彩華お嬢様いらっしゃいますか?私です。教育係の黒須です。中に入ってもよろしいですか?」
『……く、黒須!?どうして今休暇中の筈じゃ……だ、だめです!絶対にだめです!絶対に部屋の中に入ってこないでください!入ってきたら大声で叫びますからね!!』
「はい?」
扉越しに聞こえてきたいつもと違う必死な彩華の声に黒須は首を傾げた。しかし、伊達に八年間西条院彩華の教育係をやっていない。すぐに西条院彩華が部屋の中で人に言えないやましい事をしていると察した黒須は即座にドアノブを掴み、問答無用で捻った。
「失礼します」
「うわあああああ!?ちょ、ちょっと黒須!本当にいま入ったらダメですってっ!!!」
制止を無視して扉を開けるとそこには酷く焦った顔をした西条院彩華の姿と黒須が長期の休暇に入る前に見た景色とほとんど変わらない景色が広がっていた。しかし、部屋の香を変えたのか花の強い甘い匂いが充満しており、その鼻に付く甘ったるい匂いに黒須が眉を顰めると、何故か西条院彩華は大きく目を見開いて黒須のことを驚いた顔で見た。
「く、黒須……?なんともないのですか?」
「何ともないとは?彩華お嬢様が言っている意味がよく分からないのですが……どういう意味ですか?」
「い、いや!何ともないならいいですの!おほほほほっ!」
「……」
不可解な西条院彩華の言動に黒須の表情が険しくなる。