第13話 世紀末虞美人
O月*日
項羽を破った俺たちは戦後処理に走り回った。いやあ大変だった。いろいろな意味で。
その中でも扱いに困ったのが虞美人だ。
不思議ちゃんの命で捕縛したものの……ムキムキのゴリマッチョ(オカマ)だなんて誰も思わないよ。みんな凍り付いていたなあ。虞美人だけはくねくねしていたけれど。
@月Y日
で、結局俺の管轄になったと。
彼女と話し合いをしたが虞美人は非常に温厚で理知的な人物だった。
「
このまま匿ってもいいのだが、項羽の愛人では厄ネタに過ぎる。項羽との約束の手前放り出すつもりは毛頭ないが、不自由な思いをさせることになるだろう。
申し訳なく思いながらも意を伝えると、彼女は出家することになった。
え?
N月#日
坊主頭に頭巾を着た虞美人を寺に入れた。なぜ出家するのかと聞いたら、彭越から熱心な勧誘を受けていたらしい。
愛する項羽とすべての死者を弔うこと。俗世から離れて政争から身を置くこと。静かに暮らしたいという虞美人の念願に叶った形である。
俺も半端な寺ではいけないと思い新しく寺を建立した。彼女の本願が叶ういい名前だ。縁起を担ごう。一向宗に改心するらしいし、丁度いいよね。
◆
「この御恩は生涯忘ないわよん。もしも私の力が必要になったらいってねん」
パチリとウィンクしてくる目の前の変わった口調の女。この筋骨隆々の堂々たる姿こそ虞美人である。今は建立した本願寺の前で、見送りを終えるところである。
本願寺は彼女の寺であると同時に、一向宗の拠点としても機能する予定だ。
これからの生涯を虞美人は本願寺で過ごすことになる。項羽だけではなくこの戦争で亡くなったすべての人間を弔いたいと彼女は言っていた。真っすぐな性根をした益荒男(女)である。
それだけに、事実上寺に幽閉することになるのは心苦しかった。
「あの一騎打ちで感じたよ。残忍なところもあったが、項羽の武の求道への情熱は本物だった。あれほどの闘争はもう2度と望めまい。項羽とは強敵でなければ親友と呼びたかった。違う形で出会いたかった。彼女こそ世紀末覇王の称号に相応しい」
「ありがとうですわん。でも、仇敵に号を送るなんて大丈夫なのかしらん?」
「ははは、既に許可は取ってある。張良が思いの他協力的でな」
「あの猫耳ちゃんとの仲は大丈夫なのん?」
虞美人の言葉に苦笑する。敵陣にまで田忠と張良の不仲は届いていたらしい。知らぬは本人ばかりか。張良の悪感情を軽く見ていたツケだった。「人物鑑定」で覗き見た彼女の能力値ばかりに目が向かい、完璧に理性的な存在だと勝手に勘違いしていたのだから。
色恋で嫉妬にくるっていたなど想像の埒外であった。万能に思える人物鑑定にも限界はあるのだと知った。
とはいえ、劉邦のとりなしがあったあの日から、張良の態度は一変した。
まあ、態度が変わったら変わったでまた別の苦労が山積しているのだが……。
「何も問題はないよ」
苦笑を浮かべながら田忠は答えた。