戦国時代に転生したら春秋戦国時代だった件   作:d_chan

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第14話 韓信くんと鐘離昧ちゃん

A月×日

張良に誅殺されかけた件については、韓信は珍しく怒っていた。しきりに「反乱する?する?」とあおりよる。しないしない。全土の安定統治はお姫様でも無理だったんだ。俺なんかにできるわけなかろ。それにあやつは十分に罰を受けた。

 

というか、現在進行形で罰を受けている最中である。不思議ちゃんらしいというか、相応しい罰なのかもしれないが、俺を巻き込まないでほしかったなあ。

 

 

P月J日

人々は俺が張良に対して隔意を持っていないのが、不思議らしい。そして、理屈づけを行うためなのか、俺が張良ラブだという噂が流れた。やめい。俺は蜜柑(章邯)一筋だ。勘弁して欲しい。単に気が長いだけなんだよ。でも、人々が納得する理由というのも思い浮かばない。どうしよう。

 

 

L月◎日

本当に既に張良に隔意はない。彼女も反省しているしね。俺の大事なもの(章邯)さえ無事ならあまり気にしない。張良もそれは分かっていた節がある。考えてみれば、涼州というアキレス腱があるのだから、そこを突けば俺をどうにかすることはできたはずだ。たとえば、章邯を人質にとるとかね。

 

なぜそれをしなかったのか張良に直接問うてみたが、仙人の逆鱗に触れれば行動を読むことなどできないからだと言われた。まあ、それもあるだろうが陳平あたりを動かせばいくらでも汚い手段を取れたはずだ。伝説の仙人を相手どるなら、むしろ手段など選ぶ余裕はなかったのに。

 

それでも、俺個人を狙い撃ちにした。彼女なりの美学なのかもしれないし、案外俺のことを認めていたからかもしれない。真相はわからないが、汚い手段を使ってこなかったからこそ、張良の嫉妬の感情を俺は深くは読めていなかった。本気ならいかなる手段も行使するはずだ、と。

 

もっと早く向き合えばよかったのだと思う。たらればを言っても仕方ないが、こちらから胸襟を開いて話し合えばよかった。反省である。

 

 

O月△日

張良の仕打ちが平気だったのは、仙人だから気が長いからなのかもね、と冗談めかしていったらそれで納得された。便利だな仙人。

 

 

+月$日

大陸が統一されしばらくが過ぎた。

今日はめでたい結婚式だ。

ちなみに、韓信の伴侶は——鐘離昧である。

見事項羽軍の猛将と添い遂げて見せたのだ。

 

 

 

 

「人生には三つの坂があるといいます」

 

「そして、三つの袋もあるそうです」

 

 初めて耳にするたとえを口にする田忠を、韓信はさすがだと思わずにいられなかった。三つの坂や三つの袋――どれも聞いたことのない話だ。しかも、まるで昔から語り継がれてきたかのような落ち着きで語る姿は、どこか神秘的ですらある。少々冗長なところはあるが、それも愛嬌というものだろう。

 

 もっとも、田忠の年齢を思えば、それもさもありなん。老人の話は長いというのが相場だ。そう考える韓信も、失礼極まりないことは承知していたのだが。

 

 

「田忠、本当にありがとう。お前の力がなければ、俺は鐘離昧と添い遂げることなんてできなかった。まるで夢みたいだよ」

 

「田忠さん、感謝するぜ。こいつは戦場じゃ無敵でも、ふだんは少々頼りないからな」

 

 

 韓信は目に涙を浮かべながら、田忠に礼を述べる。鐘離昧も相変わらず口は悪いが、どこか幸せそうな表情を浮かべていた。

 そんな二人をよそに、田忠専属の奴隷として真面目に給仕をしながら、張良は思う。これでよかったのかもしれない、と。

 

 何しろ、もともと張良は韓信と鐘離昧を抹殺するつもりだったのだ。劉邦の治世を安定させるには、ほかに手はないとすら信じていた。いや、思い込んでいた。しかしどうだろう。いま人々は、新郎新婦を称え、笑顔で祝福している。劉邦さえもがそうだ。

 張良は目深にかぶった猫耳フードの奥から、きらきらと輝くこの世界をこっそり見やる。

 

 「みんなが笑顔で暮らせる世界」――その実現に、自分は不要だったのかもしれない。この温かな世界を破壊しようとした身なら、排除されて当然だろう。劉邦と田忠の温情によって生きながらえているが、これからは田忠(ご主人様)に仕えることに決めた。

 この日、張良は真の意味で田忠に心服したのだ。

 翌日、田忠は「ご主人様呼ばわりはやめてくれ」と懇願したものの、張良は頑として呼び方を変えなかったという。

 

 

 

 

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