戦国時代に転生したら春秋戦国時代だった件   作:d_chan

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本日1回目の更新です。


第15話 シン・張良

△月+日

張良が突然「ご主人様」とか言うようになった。

嫌がらせか?嫌がらせなのか?

 

何度もやめるように言っても言い方を変えてくれない。

不思議ちゃんに哀願するものの面白そうに笑うだけだった。

陳平ほか劉邦陣営の重鎮たちに助けを求めるもけんもほろろ。

韓信、おまえはぜったい許さん。腹を抱えて大爆笑しやがって。

 

 

K月L日

そも張良奴隷落ちとか望んでいなかったんだよ。本当だよ。

まあ、蜜柑(章邯)ならきっとわかってくれるだろう。

彼女は理解ある女性だからね。以心伝心よ。

そろそろ彼女から返事が来るはず。楽しみだなあ。

 

 

K月@日

ヒェッ

 

 

@月L日

昨日のことを張良があまりにからかってくるものだから、思わず一喝した。

張良は思いのほかショックを受けたらしく驚愕の顔を浮かべると、すぐに表情を消してぼそぼそと何かをつぶやくと去っていった。

 

 

?月#日

あれからしばらく経ったのだが、最近悩みができた。

蜜柑への言い訳もそうなのだが、張良がやたらとつっかかってくる。

しおらしさがなくなり、以前の勝気な性格が戻ってきてよかったよかった。

と思っていたのだが、以前とどうも様子が違うんんだよなあ。

様子というか感情の質が違う気がする。

 

つっかかってくるというか、なんか他愛もないイタズラをしてくるんだよね。

この前なんて落とし穴を掘っていて危うく落ちそうになった。

俺だったからよかったけれど、他の使用人だったら大けがをしていたかもしれない。

張良に喝をいれてその場は収まった。……んだけれど、その後も、イタズラが続くんだよね。

その度に喝を入れるのだが、それでも懲りない。

 

ネコだから? ネコだからなのか?

 

 

 

 

「ご主人様」と呼ぶようになってからというもの、張良はやたらと田忠を観察するようになった。「ご主人様」と言うたびに、嫌そうな顔をされるのを見ているとなぜだか爽快な気分になるのだ。

 

 そんなある日のこと。珍しく意気消沈していた田忠を見かね、張良は思わず話を聞いてみた。どうやら章 邯から届いた返信が、思いのほか衝撃的な内容だったらしい。

 文面そのものは見せてもらえなかったが、話を聞く限り、その章邯という女は相当に思いつめるタイプのようだ。というか重い。

 仄聞した限りでは穏やかな性格とのことだったが、人は見かけによらぬということだろうか。

 

 断片的な話を聞いただけでも、彼女の強い情愛がひしひしと伝わってくる。張良が奴隷となったことがその話題の最たるものなのだが。張良は構わずいつもの調子でからかいつつ揶揄してみせたのだが——。

 そのときの衝撃は、張良にとって生涯忘れられないものとなった。田忠が怒気を膨らませ、思わず張良を一喝したのである。

 

 普段の張良であれば、相手の機微を察して無用な刺激はしないはずだが、そのときばかりは運が悪かった。奴隷生活に納得しているとはいえ、張良の心にはまだ拭いきれない淀みがあったのだ。

 そんな状態での軽口は、さすがに田忠の堪忍袋を刺激しすぎたということだろう。 

 

 ——そして。

 

「わ、わわ私はいったいどうしてしまったのかしら……」

 

 猫耳フードを目深にかぶり、張良はとぼとぼと自室へ戻った。今の自分は、果たしてきちんと感情を隠せていただろうか。

 先ほど一喝されたときに芽生えた「この感情」のせいで、胸の内はひどく動揺している。悟られまいと必死で表情を消したつもりだが、果たして隠しおおせたかどうか。

 

 大陸随一の軍師——いや、田忠に次ぐ第二位の軍師として、平時ならば表情を操ることなど造作もないはずなのに、どうも今は自信が持てない。

 この荒れ狂う感情に名をつけるなら、悦楽。そこに後ろめたさと驚愕がないまぜになって、結局は得も言われぬ快感へと落ち着いてしまう。

 

 

「み、認めないわ! こんなことで私が喜悦するなんて……!」

 

 

 さらに着替えの最中、下着にほんのり湿り気を帯びていたことに気づき、張良は思わず二度目の驚愕を覚える。まるで心と体と理性がばらばらになり始めたかのようで、こんな経験は初めてだった。思考が混乱し、どうにもうまくまとまらない。

 

 

「ふん。こんなの何かの間違いだわ。……もう一度、怒らせてやる」

 

 

 それからというもの、張良はしれっと田忠にちょっかいを出しては、怒られるという日々を送る。認めることなど到底できない淡い感情を覚えながら、穏やかに(少なくとも張良にとっては)時は過ぎていった。

 なお、田忠のほうはまったく穏やかではなかったようだ。

 

 

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