戦国時代に転生したら春秋戦国時代だった件   作:d_chan

4 / 29
第2章 項羽と劉邦、あと田忠 ~虞兮虞兮、奈若何~
第3話 憂国少女、章邯との出会い


$月△日

インドでの修行は有意義だった。解脱したお陰か、色々とパワーアップしたしね。

ただ、布教するつもりはない。

中華ではまだ仏教徒はほとんどいない。俺が仏教徒だから個人的なつながりで入信した物好きもいたが、それだけだ。

仏教を布教してしまうと、色々と統治者と軋轢が生まれるだろうしね。

 

日本人気質が抜けない俺としては、政教分離と信仰の自由は守りたいのである。

 

 

◆月◎日

お姫様が亡くなった。

戻りたいと心が悲鳴を上げていたけれど、あきらめた。

たぶん、俺はお尋ね者になっているだろう。お姫様の子どもたちに俺は、大層嫌われていたからな。

俺を疎む人間たちにあることないこと吹き込まれた挙句、俺はお姫様に取りいる悪党なのだとさ。

俺もお姫様もあまりの忙しさに育児を放ったらかしていたから、そのツケだろう。

 

 

※月■日

お姫様の死を悲しんで、俺は修行に逃げていた。

その後すぐに、陳勝と呉広とかいうやつが100万人規模の大反乱を起こしたと聞いた。

いてもたっても居られず、中華の大地へ向かう。

 

 

×月☆日

咸陽よ! 私は帰ってきた!!

 

 

▼月@日

お姫様の立派な墓は、警備が厳重で近づけなかった。

お姫様が死ぬ間際まで、俺に謝罪していたと聞いて、目がうるっときた。

心の中で詫びる。せめてもの償いとして、お姫様が大好きだったこの国を見守ろう。

俺には寿命などないのだから。

 

 

★月※日

民の噂話を集める。どうも秦の旗色はかなり悪いようだ。

趙高ら佞臣どもが宮中で実権を握っているせいで、効果的な対応がとれていない。

やつらは有能な将軍たちを皆処刑してしまったからだ。

俺と面識があって、好意的な人間が、ほとんどいなくなっている。

つまり、文武共に忠臣が消えたわけだ。

 

どうにかして、宮中の者に接触したいのだが……。

 

 

◇月×日

かつて楚に使えていた将軍周文が咸陽に迫っている。

彼女とは戦ったことがあるが、統率7武力7だった。

名将といってよい。が、かつての秦なら一蹴できただろう。

今の秦では無理だな。趙高のせいで、無能な将軍しか残っていない。

何とかしてやりたいが、俺一人ではどうしようもない。

 

 

@月■日

章邯(しょうかん)という若者が、趙高に自分に反乱軍を討たせてほしいと直訴したらしい。

だが、皆あきらめムードだ。

彼女は、元々武官でさえなく少府という九卿の末席にいる官僚だからだ。

それでも、愛国心から名乗り出てくれたことが嬉しい。

ああ、お姫様が愛したこの国を俺もまた愛しているのだな。

 

 

%月※日

驚いた。何か助力できないかと、章邯を鑑定してみたのだが。

 

章邯

政治7 知略8 統率9 武力7 魅力8 忠義9 

 

めっちゃ将軍向きだった。これならワンチャンあるで。

特に統率と忠義がほぼMAXなのがいいし、詳細鑑定により人格者で俺との相性も良いとでた。

 

だが、肝心の率いる兵がいない。

趙高のやつが、帝を守るため一兵たりとも裂けない、とか抜かしやがったからだ。

マジコイツ殺したいが、警備が厳重で無理だった。俺は無力だ……。

とりあえず、章邯に接触してみるか。

 

 

$月●日

章邯に会ったら、物凄く感動された。

彼女の中では、俺は始皇帝に仕えた悲劇の忠臣らしい。まあ、間違ってはいない。

俺がいれば百人力だとテンション上がってる。

物静かな印象だったけれど、胸に熱いものを秘めている。まだ秦にこれほどの逸材がいたとは……。

 

それで、兵はどうするの?と聞いたら、任せてくれと断言された。

さて、お手並み拝見といくか。

 

 

#月&日

おでれーた。章邯のやつマジぶっとんでやがる。

お姫様のでっかいお墓を作っていた囚人に恩赦を与えて、兵士とする。それが彼女の策だった。

囚人たちはお墓が完成した暁には、殺される予定だった。その数、なんと20万人。

 

彼らに対して、章邯は大演説をした。物凄く熱い演説だった。

隣で感動していたら、俺もしゃべれと無茶振りされた。

まあ、これでも将軍やってたから慣れてるけれどね。

ちょちょいと前世で好きだった人物の演説を使わせてもらったけれど、セーフだよね?

 

こうして、20万人は俺たちに忠誠を誓ったのだった。軍勢ゲットだぜ!

 

 

 

 周文率いる反乱軍が都に迫る中、宮中の動きは鈍かった。

 事実上の実権を握る趙高は、己の権力の維持にしか興味がなく、内部の粛清ばかりしていた。

 おかげで、討伐軍を派遣しようにも、それを率いる将がいない。

 趙高とて、馬鹿ではない。内心では焦りを感じていたが、それ以上に自分の権益が奪われることを恐れていた。

 

 

 誰もが何もできない中で、ただ一人、真剣に国を憂えている少女がいた。章邯である。

 彼女は、文官でありながら、祖国を救いたい一心で、趙高に直談判していた。

 自殺行為に等しい暴挙であったが、幸い趙高は、彼女に反乱軍の討伐を命じた。彼女は賭けに勝ったのだ。

 しかし、帝を守るためと言って趙高は、章邯に一兵たりとも与えなかった。

 章邯は涼し気な顔で策を語り、見事軍勢を確保する許可がでた。

 

 

「軍勢はいりません。ただ、先帝の陵墓を造り終え殺される運命の囚人を助命してください。彼らを私にお与え下さればよろしい」

 

 

 囚人たちのもとへと向かう章邯だったが、思いもかけぬ出会いがあった。

 

 

「章邯殿だね。貴女の憂国の思いに感動した。ぜひ、私を末席に加えて欲しい」

「あなたは!?」

 

 

 そこに現れたるは、始皇帝に仕えた悲劇の仙人、田忠であった。袈裟に三度笠、手には身の丈を超える錫杖を手にしている。

 輝く銀髪にルビーの右目とサファイアの左目をもつ少年――伝え聞く姿通りだった。

 仰天して這いつくばろうとする章邯を田忠は押しとどめ、再度末席に加えて欲しいという。

 恐縮しつつも章邯はもちろん快諾した。

 

 

「聞け!! 哀れな囚人たちよ! 我が祖国秦の都に反乱軍が迫っておる! このままでは、秦は滅びるだろう!

 そして、お前達の娘や妻は犯され、男は殺されよう! 家は焼かれ財産は奪われるだろう!!

 お前達は、その罪により陵墓が完成した暁には処刑される運命だった!!

 だがしかし! 慈悲深い皇帝陛下のお許しにより、お前達の罪は許される!

 反乱軍を倒して、秦の天下をとれば、お前たちは自由の身となろう!!

 私と共に来るか? ここで死ぬか? 二つに一つだ! さあどうする!!」

 

 

 20万人の囚人たちの前で、章邯は威風堂々と演説した。本当は内心緊張で震えていたが、億尾にも出さない。

 その様子をじっと見守る田忠は、舌を巻いていた。まだ秦も捨てたものじゃない。お姫様の国を愛してくれる人がいる。それがどうしようもなく嬉しかった。

 その田忠に向かって章邯は振り返る。

 

 

「ここには偉大なる仙人、田忠殿も居られる!! 始皇帝陛下の元より救国のため遣わされたのだ! この戦い我々の勝利は約束されたも同然だぞ!!」

 

 

 章邯の突然の無茶振りに驚きながらも田忠は、前へと進みでる。そして、章邯に負けぬ名演説を披露した。

 

 

「私には夢がある! それは、いつの日か、この国の国民が立ち上がり、この国の信条を真の意味で実現させるという夢である。

 私には夢がある! それは、いつの日か、咸陽で、かつての囚人の息子たちとかつての支配者の息子たちが、兄弟として同じ食卓につくという夢である。

 私には夢がある! それは、いつの日か、不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりの楚でさえ、自由と正義の楽園に変身するという夢である。

 私には夢がある! それは、いつの日か、私たちの子どもたちが、出身地によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。

 これがわれわれの希望である! この信念を抱いて、私は、我々は! 戦地へ向かい戦うのだ!!」

 

 

 大歓声の中、章邯は感動していた。憂国の感情に任せて、趙高に命を賭けた直談判をしたが、内心びくびくしっぱなしだった。

 そこへ突然現れた心強い援軍。本当なら田忠が上に立つべきだが、皇帝も趙高も認めないだろう。

 見た目は線の細い美少年である。だが、泰然自若とした姿は、傍にいるだけで、勇気が泉のように湧いて出るかのようだった。

 

 

(なんとしてでも、祖国を救って見せる!)

 

 

 こうして、生を諦めていた20万人の囚人たちが、章邯の軍勢に加わることになった。

 彼らの快進撃がここから始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。