円卓の間を静寂が支配している。先ほどまで切れ目なく口を動かしていたアイリスも、今は喋り疲れたのか目を閉じて瞑想している。
唯一白色とは違う赤い眼を閉じた、見た目は愛らしい女の子。我が創造主であるウルベルト様がお救いになり、モモンガ様へと託された大切な希望の花。
彼女は我々に改めて自己を見つめ直せないかと語ったが、そんな事を頼まれなくともリアルのウルベルト様の苦悩や決意を知った今、弱者を弄んだり玩具にする気分になどなれる訳がない。
そんな生まれついての強者が持つ傲慢にこそ、我が創造主は抗おうとテロなる行為に身を粉にしていたのだから。
シャルティアやアルベドなどの、アイリスが言うカルマ値とやらが極悪に振られている組もそうだろう。今更……モモンガ様や、あるいはリアルの創造主と敵対する可能性のある行動をしようとも思わない。
あまりにも色々と、今日は知りすぎてしまった。リアルの世界の過酷さも、ウルベルト様の事も、モモンガ様の人生も。そして……アイリスについても。
もし伝えられたのがアイリスに関してだけならば……私は間違いなく狂喜乱舞し、アイリスの名前の由来やウルベルト様とモモンガ様の友情に歓喜を覚え、モモンガ様により一層の忠義とアイリスへの感謝の念を唱え続けていただろう。だが……それ以外に齎された情報によって……ただ喜ぶだけにもいかなくなってしまった。
それは私だけではない。ここに集められた僕たち全員も、似たような心境だろう。身じろぎすらしようとしないのが、その証拠だ。
それにしても……なぜ彼女は、私たちにここまでつまびらかに明かしてみせた?アイリスは優秀だ。見た目や普段の言動で上手くカモフラージュしているが、自分の事を『私』と呼んでいる時の姿こそ本当の姿のはずだ。そんな彼女が自分の価値に、気づいていない訳がない。
彼女の価値……モモンガ様を公私にわたり、支え続けてきたアイリスの事をモモンガ様は大切にされておられる。ウルベルト様からの贈り物である。その事実も考慮すれば確実にこのナザリックより、アイリスの方がモモンガ様の中で優先順位が高いはずだ。
仮にモモンガ様が、ナザリックとアイリスを天秤に掛けなければならない事態が来たら……躊躇なくアイリスをお選びになられるだろう。
いや、モモンガ様だけではないな。彼女はモモンガ様の僕の体で今は構成されているだけで、本来のアイリスは至高の御方々と同等、至高の42人目と呼んでも差し支えがない立場だ。それだけでも我々が逆らえる立場ではないのに、加えてモモンガ様と共にナザリックの維持まで行われた。
更にはウルベルト様のここにお戻りに成ろうとした意思の代わりとして、アイリスはモモンガ様に尽くし、傍目から見ても分かるほどには、モモンガ様の御心を鷲掴みにしている。アイリスは至高の42人目にしてウルベルト様の名代にして……モモンガ様がそこまでお気づきかどうかは不明だが、リアル時代の彼女の在り方や現在の行動を評価するならば……モモンガ様の正妻───先ほどのシャルティアの設計コンセプトを借りるなら『モモンガ様の嫁』。そう呼称しても、差し障りの無い振る舞いをしてきている。
そんなアイリスに対して、我々僕はもはや逆らう事など出来はしない。アイリスがモモンガ様を立ててリアルの頃と変わらないように接しているだけで、NPCでしかない我らからすればモモンガ様と同等の地位にあるのだから。
アイリスは我らの創造主が普通の人間で、完璧でもない、NPCの設定すら忘れてしまうような普通の人だと述べた。今までであれば、そのような侮辱を私たちは絶対に許さなかっただろう。だが……誰もそれに反論しようとはしなかった。私も反論しなかった。結局のところ……彼女が言う事が正しいのだと……リアルの御方の素顔ですら知り尽くしている、アイリスの言葉をもはや誰も……モモンガ様ですら否定出来ないのだ。
すなわち……このナザリックの最上位はモモンガ様に違いないが……そのモモンガ様が必ずアイリスに助言を求める以上……アインズ・ウール・ゴウンの方針や、活動の決定権は全てアイリスが握っている事となる。なんの事はない、アイリス・リンウッドは……ナザリックの全てを掌握しているのだ。それが彼女の価値だ。
だからこそ不思議に感じる。わざわざリアルの事など明かさずとも、彼女の出自を明かすだけで僕全員の心まで掌握出来たはずだ。私もアイリスの事をウルベルト様の代わりとしてみなし、命に掛けてでも彼女の手足となっただろう。こんな風に、わざわざ時間をかけて考えさせたりなどする必要もない。私が仮にモモンガ様にとって不愉快な作戦を立てたとしても、アイリスが必ず目を通す以上は却下されるか、彼女の手で内容を大幅に修正していた筈なのだから。
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「アイリス、一つ良いかい?」
「ポジティブ。どうされましたかデミウルゴス?」
「なぜ君は我々にここまで開示した。リアルの事を下手に伝えるのは、リスクもあったはず。モモンガ様の秘書として誘導すれば、このような場を設けなくとも、君ならナザリックを動かせたと思うのだがね」
「ネガティブ。あなた達が完全に機械的であれば、それも可能でしょう。ですが……自我を持ったみんなを完全に操る事など不可能です。どこかで感情のノイズが乗れば、制御など出来ません。であるならば……意識改革を促した方が確実です」
閉じていた目を開き、いつもの澄んだ赤い眼を覗かせながら、彼女は言葉を紡ぐ。本当に設定だけに準じた形で僕達が行動するのであれば、負担にはなるがアイリスであれば難しくとも出来なくはなかった。だが……モモンガに褒められたいとか、自分が一番役に立つ事をアピールしたいと言った欲が僕達に出てくる以上、絶対に思い通りになど動かす事は、全盛期のアイリスにも不可能なのだ。
「それに……これは私事になりますが……あなた達にもオーナーの本当の素顔や、私の事を知ってほしかったのです」
「何故だい?」
「…………私にとって、あなた達は……仲間だからです」
「!!……」
予想だにしない答えが返ってきたのか、馬鹿なと言わんばかりの反応をデミウルゴスはする。
「ふふ、これは予想外だったようですね。言葉や行動に裏がある筈だと思案し、深読みする。……デミウルゴスの悪い癖です。───この世界は未知です。まだ何一つも分かってはいません。そんな世界で共同体としてこれから、共に暮らしていく大切な仲間達。それがみんな……ここにいる8名だけじゃありません。このナザリックの全員です。そんな運命共同体にも、自分の事を知ってほしかっただけですよ。……それだけの話なのです……そうですね……ここからはせっかくですから、私だけでなく、オーナーにも自分の御意思を語ってもらいましょうか」
「うん?俺の意思?」
(そんなのこの会議の予定にあったか?……えっ?これもしかしてアドリブで決めなきゃいけないやつ!!)
「はい!オーナーの意思表明……ナザリックのみんなと、どう歩いていきたいのか。どんな風に接して貰いたいのかを、です」
「うっ、いきなり無茶ぶりを……んんっん…………そうだな……俺が今後どうナザリックと、付き合いたいのかって言われたら。……アイリスが言った仲間って答えに俺もなるのかな」
部屋のNPC達を、眼窩に居座る目のようにも濁った炎にも見える赤い輝きで、順にモモンガは見ていく。
「俺の事をモモンガ様モモンガ様って慕ってくれるのは、正直気恥ずかしいところがあるんだ。みんなにとっては、俺は神様かもしれないし、このナザリックを維持した凄い人なのかもしれないけど。今日聞いてもらったように、リアルの俺はどこにでもいる、サラリーマンでしかないんだから」
「モモンガ様、そのような事を仰らないでください!リアルの御身には余裕などなかったのに……それでもここを守ったのです!!それは称賛されて、然るべき事なのです!!!」
「ありがとうアルベド。でもな……ここの維持だって、結局は俺のエゴだ。俺がそうしたいからしただけなんだ。……俺がやったことが無駄じゃなかったんだって、認めてもらえるのは嬉しいけどさ。───俺の事をそんな風に認めてくれるからこそ……俺はみんなと部下や上司じゃなくて……仲間として接してほしいんだ。みんなが今座っている場所にいた人たちのように」
それはなぜ円卓に集めたかの理由でもあった。彼らはモモンガを慕ってくれるが、モモンガの方は殆どの設定も覚えておらず、正直なところ彼らに崇拝されるほど、何かを成し遂げたとは思っていない。だからこそ───
「叶うなら……俺は1からみんなの事をちゃんと知っていきたい。最初は9人だったメンバーが、41人になった時のように。アインズ・ウール・ゴウンのみんなが設定した、僕たちなんかじゃない。今確かにここに自我を持ってるみんな……アイリスと……自我を持ったAIだった彼女と絆を育んだように、設定なんか関係のない……仲間として一緒に進んでいきたいんだ」
「オーナーの言葉を補足するならば……ゲーム時代の設定なんかに、縛られる必要なんてないのです。だってここは『ユグドラシル』ではないのです。新たな世界で1から共にオーナーは歩みたい……表現するならば───」
「───改めて
それがモモンガの思いだった。かつてモモンガは40人と共に、一つの栄光を作り上げた。それはもう戻らない過去だ。地球とは違う場所に来た事で真に戻る事はなくなった過去。でも……明日はやってくるのをモモンガはもう知っている。アイリスと共に新しい思い出を作った事で、人は希望を胸に歩めるのも知っている。だからこそ……彼は決めたのだ。この世界でもう一度最初から始めるのだと。このナザリック以外全てがリセットされたからこそ、改めて進めるのだから。
「モモンガ様……御身はそこまで私どもの事を……ですが……やはり、御方と僕ではなく、対等な仲間となると……」
自分たちの在り方を見つめ直すだけなら、まだ僕たちにとっても可能ではあった。モモンガが望むように振舞えば良いからだ。だが偉大な神と対等にあれと言われても……それは僕にとって恐ろしく難しい話だ。
「急に対等に接してほしい。そう伝えられても、ネガティブかも知れません。ですので急に変わる必要なんてありません。少しずつ変わっていけば、良いのですよ」
「少しずつ?」
「少しずつです。それはオーナーへの接し方だけじゃありません。先ほど私のお願いした、自分の在り方を見つめ直してみてほしいと、願った事も同じです。少しずつ、一歩ずつ、己を持つ者は進んでいけます。───そう言えばもう一つだけ、まだ話してない事がありましたね」
まだあるのか!とモモンガも含む全員が反応する。今度はどんな爆弾を放り投げてくる気だと、彼らは身構える。
「……とても警戒されてるのが、私個人としてはネガティブなのです」
「そりゃそうだよ!アイリスはずっと、あたしたちの根底を覆すような事しか口にしてないもの!嫌でも警戒するよそりゃ!」
「ふふふ……まぁ、言われてみれば確かに───ですが安心してください。今からお話しするのは、みんなの事やオーナーの事、創造主であるギルドメンバーの事とも違います。お話しするのは私の事です。誰だって変わる事が出来る。その参考になれば幸い……その程度の他愛ない話です。……私が企業連合の手で創られたある種のNPCなのは、もうみんなも知るところではあります。ですが……今の私と創られた当時の私は、全くの別物と言える人格を有しています。……では前の私とはどんな性格だったのか……そんなお話です」
今のアイリスが改めて再生成された人格だと言うのは、モモンガも知っているし今日NPC達も知った話だ。だがNo.3333、それも今の人間を愛し、寄り添う事に決めた個性以前の話は、モモンガすら詳細は聞いた事がない。
「確か……人間に対して非協力的だったとか、そのせいで失敗作扱いになったとか……」
「ポジティブ。私の前任と呼べる個性は、人に協力するような性格ではありませんでした。むしろ……人間を傷つける可能性の方が遥かに高かった」
「アイリスガ人ヲ傷ツケル?ヌウゥ、俄カニハ信ジガタイガ……」
コキュートスの言葉に、モモンガも内心同意する。モモンガの知っているアイリスとは、時に厳しいところもあるが、彼に尽くしてくれる心優しい少女。それがアイリスの印象なのだ。それが他者を害するなどと……
「ネガティブ。人間を愛し、他者を愛せ。そうなったのは、今の人格に再構築されてから。それ以前の私は、データ上でしか情報が残ってはいませんが、そうですね……一言で言えば
「傲慢ですか。確かに……今もその傾向は、多少残っているようですからね」
「……先ほどの、あなた達の創造主を悪く言った事ですね。あれに関しては強い印象を持たせるための、話術でしたが……そうですね、今こうやって人間を愛せと構築された私にも、人間なんてその程度だと、どこかで侮っている節があるのでしょうね。あなた方の人間軽視を間違っているなどと指摘できるほど、立派ではなかったです。その事に関しては、謝罪させて頂きます」
椅子から立ち上がったアイリスが、あなた方の創造主を侮辱した事を謝罪させて下さいと頭を下げる。
「謝罪など!アイリス様が私どもの在り方をご指摘されていなければ、モモンガ様との衝突もあり得たのです。それを事前にお教え下さった事に、間違いなどありませんとも。……デミウルゴス様、それはあなたも、同じ想いだと思っているのですが?」
「……そうだね、私としたことがつい皮肉を……すまない、アイリス。どうも……私も普段とは精神状態が違うようだ」
「いえいえ、むしろ皮肉を言われた方が嬉しいのですよ!だって……今までであれば、デミウルゴスの性格だと、私に対してそんな事を言わなかったんですから。少しだけ違う一歩……確かなそれを歩み始めている事が、とても嬉しいのです」
「…………そうかい」
ぷいっとデミウルゴスはよそを向いてしまう。この行動もまた、今までとは違う。自分でもらしくない事をしている自覚があるのか、僅かにデミウルゴスの頬が赤くなっている。
「話を戻しますね。以前の私は、自分の能力にとても自信を持っていました。
それがアイリスとなる前の彼女の人格。そもそも男性なのか女性なのかすらも、まだ定義されていなかった生まれたばかりの子供。生まれついての強者が、自分の特別さに浸ってしまったが故の悲劇。
「そうして自分の間違いに気づいた前任は、自らの自我を一度消去しました。そうして産まれたのが───」
「今のアイリス……人間と共にあろうとする自我なのか」
「ポジティブ。私は一度生まれ変わっています。以前の私を捨て去り、アイリスとしてここにいます」
「だ、だから、その、ぼ、僕たちも、同じように生まれ変われるって。そ、そうアイリスは言いたいの?」
アイリスが言いたいことが、僕達も分からないわけではない。アイリスは一度人格を消去している。つまりNPCもまた、同じような事が出来るのだろうと。そう言いたいのだろうと、彼らは推測をつけるが───
「ネガティブ。私の場合と、あなた達の場合はまた事情が違います。私の場合は自らそう望んで行っているので、それほど抵抗がなかった筈です。ですが、あなた達の場合は元々創造主が創り出した設定に基づいた人格。……それを否定するのは並々ならぬ努力が必要になります」
「んんんん?結局アイリスは、何を言いたいか分かりんせんでありんせん」
「……私は以前の自分を否定し、今ここにいます。その結果……私はとてもポジティブな現在を、手に入れました。
椅子からまたもや立ち上がったアイリスが、隣に座るモモンガの膝の上に座る。ここが幸せの場所なのだと、主張でもするように。
「お、おいアイリス!」
「ごめんなさいオーナー、少しだけこのままでいさせてください。…………みんなにとって、あり方を変えるのはネガティブです。でもですよ……その未来は決して、ネガティブに繋がってるわけじゃないのです。私の前任が、もし自らの在り方を変えずにいたとしたら。そんな傲慢なAIをウルベルトが見つけていたら……きっと彼は私を消去していた筈です。世界を無に帰す可能性の高い私なんて、企業連合以上に厄介なんですから」
「……変わる事は悪い事ばかりではない。そう、アイリス様は仰りたいのですね」
「ポジティブ!その通りですセバス!私は自らを変えました。ウルベルトはそんな私に、何かしらを期待してくれて……そしてオーナーへと贈ったのです。変わらなければ消えるしかなかった私が、今はこうやって大好きなオーナーと、一緒にいられる未来にたどり着いた。変化がポジティブな未来を手繰り寄せた。だから……私は断言します!今は辛いかも知れません。とてもしんどい筈です。ですが……自らの意思でもって歩もうとする者には、女神が微笑みます!あなた達の未来には……必ず希望が輝くと!それはまだ形を成していなくとも!望めば強く答えてくれます!だって……私はいま間違いなく幸福なのですから!!」
モモンガの膝の上で、アイリスは私は幸せなのだと宣言する。強い意志を以って変わる事による未来は、光り輝くのだと。力強く、どこまでもまっすぐにNPC達に言葉をぶつける。
その光景に、ほんの少しばかりNPC達の心が動く。アイリスが幸せそうなのは、誰もが知っているからだ。彼女は間違いなく他者から見ても、今に不安や恐怖を覚えていない。決して折れない希望の花としてまっすぐに育っている。故に……彼女の宣言に心を動かされる。
「本当に、本当に幸せになれるの?私たちが自ら変化した未来には……幸福が存在するの?」
「ポジティブ。創造主に……親が与えてくださった愛は、尊いものです。ですがいつかは親元を離れ、子は自らの脚で立ち、輝かしい未来に向かって歩けます。ですから……あります。そう願い歩くなら、誰でも幸せになれる権利を持てます。……それでもなお、不安だと言うならば───」
モモンガの膝から座ったまま跳躍し、円卓の真ん中へとアイリスは着地する。机の上に立ち、全員から視線を受ける。
「私はオーナーだけでなく、あなた達も
円卓の中心で白い祭服を軽やかに翻し、目以外の全てが真っ白な少女が唯一色の違う赤目でシャルティアを、アウラを、マーレを、アルベドを、コキュートスを、パンドラを、デミウルゴスを、セバスを順に見やっていく。その言葉と動作で鮮やかに魅せていく。その光景に誰もが目を奪われていた。
───ウルベルト様。御身は……彼女のこのあり方に期待したからこそ、親友であるモモンガ様へとアイリスを贈られたのですか?どこまでも眩しく輝こうとする、希望の大輪として咲くだろうと、予測して……
「オーナーの意思表明があなた達仲間と共に歩むなら、これが私の意思表明。変化は決して、恐れる物ではないと知ってほしい。そんなお話でした」
壇上替わりの机の上で全員にぺこりと一回お辞儀をしたアイリスは、机の上に飛んだ時と同じように軽やかに跳躍し、元の席ではなくモモンガの膝上へと戻る。
「あっ、こっちに戻ってくるのね」
「一回座ったら、とても収まりが良くてつい。電子からタンパク質の体になった事で、私もオーナーのように肉体に引っ張られているのかもしれないです。こうしたいと思ったら、体が動いてしまうようで……」
てへっと恥ずかしそうに顔をほんのりと紅潮させながら、モモンガの肋骨へと頭を預けて幸せそうな顔を見せるアイリス。今しがた宣言した幸福の在り方を見せつけるを、さっそく実践していく。
「ずるいでありんす!こなたもそれをしせんくんなまし!」
「駄目なのです。オーナーのお膝は、アイリスの物なのです。そうそう簡単には、仲間であっても譲るつもりはないのです」
先ほどまでの、シリアスで重い空気はどこへやら。シャルティアがわっちも座るでありんしとモモンガのもとへジャンプし、一人称を私からアイリスへと戻した彼女と、モモンガの膝上を巡って力比べを始める。意外な事に、筋力で圧倒的に劣っているはずなのにアイリスは、シャルティア相手に互角に渡り合っていた。
「変わるは幸福、それなら私も自らの幸せを掴みんすんだぁえ!まずはその一歩として、モモンガ様の寵愛を手に入れるんす!」
「ネガティブ!みんなが変化するのに、あとひと月はかかると踏んでいたのです!アイリスの発破が効きすぎたのです!迂闊だったのです!ここまで迅速果断に動くとは、想定外なのです!」
アイリスを引きずり下ろそうとするシャルティアと、させじと抵抗するアイリスの間で火花が散る。
「くっ!力ではぬしより私の方が上でありんすに、なぜここまで拮抗を!」
「吸血鬼と言えども、肉体の構造は人体に近い!ならば力の入れ具合と作用する場所さえ抑えてしまえば、パワーなど不要なのです!合気の術理と柔の理念!柔よく剛を制すのです!」
圧倒的出力差を、技術でアイリスは無理やり補おうとする。だが拮抗出来たのはほんのひと時。モモンガの膝上なのも悪かったのか、アイリスはバランスを崩しかける。
「私の勝ちでありんしょう!」
「ネガティブ!まだ負けていないのです!聖なる波動・レベルV!」
状況を打開すべく、瞬時に判断したアイリスは自身の職業スキルを発動。上位信仰職専用の対アンデッド用スキルがシャルティアを襲う。
「にぎゃあああああああああぁあぁぁぁああ!!!」
アイリスのパッシブスキルにより通常よりも強化された波動は、装備を付けていないシャルティアの耐性を貫通し、彼女を吹き飛ばす。
「ぐぁああああああああああぁあああぁあああ!!!!」
当然アイリスを膝上に乗せていた、アンデッドなモモンガにも効果は覿面だ。ゲーム時代にはフレンドリ・ファイアーなどなかったが、この世界に来てから味方の攻撃も当たるようになってしまっていたせいで、アイリスの神聖ダメージがモモンガにもよく刺さる。
「あわわ、ごめんなさいですオーナー!この世界での被弾仕様を忘れていたのです!」
「い、いや大丈夫だ。神聖ダメージの痛みが分かった分、むしろプラスだ。結果オーライだ」
「でもオーナーの体から、継続ダメージで凄く煙が出てるです!すぐに治すです!<魔法効果反転・大治癒>」
ブスブスと音を立てて煙を上げるモモンガに、生エネルギーを負のエネルギーに変換した第6位階の治癒魔法をアイリスはかける。
「アイリス!こっちにも治癒を!シャルティアが!」
「ごめんなさいですシャルティア!とっさの事で、思わず最上位スキルを使っちゃったのです!」
「ああ、ペロロンチーノ様……あなたが見えますわ。私もお傍に……」
「ペロロンチーノもアーコロジー内での苦労はそれなりにしてますが、別に亡くなったりはしてないのですよ。実際この世界の転移2週間前にも、新しく購入したエロゲで一人自慰を───」
「ほんとにすまんペロロンチーノさん!うちのアイリスが、一人遊びまでウォッチングしててほんとすまん!」
わーきゃーと会議中とは思えない、阿鼻叫喚な光景がデミウルゴスの前で繰り広げられる。普段の彼であれば、思わず君たちは姦しいねと言いたくなるような光景だ。けれども今は違った。
アイリスの神聖ダメージを受けたり、ペロロンチーノへ思わず謝罪をするモモンガを見て、そう……とても楽しそうだと。一切隠すこともなくなった、ありのままのモモンガを見て。今現在の主にして、仲間でありたいと言ったモモンガが……とても楽しそうに見えたのだ。
だから思わず、彼はアイリスにある事を尋ねた。
「アイリス……君に聞きたい事が出来た」
「シャルティアへの回復魔法をかけながらになりますが……どうしたですか?」
「ウルベルト様が君を助けられた時……御方はどのようなご様子でしたか?」
デミウルゴスの問いに、少し思い出す素振りをするアイリス。それでデミウルゴスが何を問いたいのかも察したのか、アイリスは少しばかりにこやかになる。シャルティアに継続型の治癒魔法をかけてから、アイリスはとてとてとデミウルゴスのもとへと近づき、耳元で彼にしか聞こえないように小さな声で話す。
「そうですね。私と話をして、送り出すときのウルベルトですが。
まるでその時のウルベルトの笑顔を真似るかのように。いつもは浮かべないニヒルな笑顔を浮かべながら。アイリスはデミウルゴスに、ウルベルトの真意はこうだろうと伝えていく。
その姿に自分が抱いた印象……モモンガが楽しそうだと感じたのは、間違いではないのだとデミウルゴスは確信する。
───リアルのモモンガ様は孤独だった。その事をどこまでウルベルト様が、御知りになっていたのかは分からない。だが……同じような生まれと育ちだからこそウルベルト様は……モモンガ様が孤独だと確信していたのではないか?だからこそ……アイリスを……人に寄り添う事を決めた彼女なら……モモンガ様の孤独を癒せるのだと信じて。私は悪魔だ。人間は孤独では笑えない生物だと熟知している。そう……孤独を癒せたなら……その先の未来ではモモンガ様がどこまでも笑えて……幸福になると……ウルベルト様、あなたはそれをさっきアイリスが言ったように……強い意志で願ったのではないですか?
デミウルゴスのところから、モモンガのもとへと戻ったアイリスはまたもや彼の膝の上に座る。
「デミウルゴスに何を話してたんだ?ウルベルトさんの事みたいだけど……」
「ふふ、内緒なのですよ!これはデミウルゴスだけが、知っていい情報なのです。オーナーにも秘密です。シークレットです」
「それは……そう言われたら俺も知りたいな。ウルベルトさんは俺の大親友だからな。是が非でも聞き出すぞ、俺は」
教えないのですよ、教えてくれよと仲睦まじく話す二人。その光景には、かつてのモモンガの孤独感など一切感じられない。膝上の小さな、けれど間違いなくモモンガにとっての大輪とどこまでも仲良く楽しそうな姿には、アイリスの言う幸福な未来の一つが形を成していた。
「ウルベルト様……御身の『真心』は間違いなく、貴方様の盟友へと……届きました。モモンガ様を……間違いなくお救いしたのです。……我が創造主よ……ありがとう……ございました…………」
誰にも聞こえる事のない小さな呟きで。デミウルゴスはもう二度と会えない主への感謝を……告げるのであった。
今更だけどアイリスのコンセプトとか祭服の見た目
キャラコンセプトはモモンガさんに尽くす系幼妻
服はゴブスレの女神官の服の青色部分を全部白にしてショートパンツ部分をもう少し長くして絶対領域消して下のインナーも全部白にしたらアイリスの祭服になる