このまま会議を進めるにも、ちょっとてんやわんやし過ぎましたし、一旦小休憩にしましょう。
そうアイリスが提案した事で、一度気持ちなどをリセットするために、一般メイド達を呼び飲食が可能な者は、各々紅茶なり茶菓子なりを口にしていた。
「それにしても……アイリスは本当に楽しそうに食べるのね」
アルベドが見ている先で、ミルクティーとクッキーをニコニコと美味しそうにアイリスは口にする。
「アイリスはリアルでは、電子体だったのです。酸味や旨味などをデータでは分かっていても、生身ではないので、実際に体験できたわけではないのです。のーえくすぺりえんすです。こうやって実体を得た事で、甘味とは何なのかを身をもって知れたのも、また一つの幸福なのです……そう言えばみんなの場合は、その辺はどんな風に処理されているのですか?」
「あたしたちの場合?……あたしやマーレだと、『ユグドラシル』の頃には普通に食堂でご飯を食べてた~みたいな感じかな?その辺も実体化に伴って、補完されたって事になるのかも。……でも不思議だねなんだか。あたしの記憶が地続きじゃなくて、ある意味ぶくぶく茶釜様に与えられた物なんて」
なるほどなのですと呟くアイリス。彼女も設定記述からの具現化したNPCの記憶補完がどこまで及んでいるのかとなると全容を知らない。その辺りもいずれは具体的に纏めないといけないなと、アイリスは後で全NPCにアンケートを配ろうと画策する。
「味と言えば───」
チラリとモモンガの方を見やるアイリス。
「せっかくこうやって食糧事情が最悪だったリアルとは違う世界に来たのですから、オーナーにも楽しいお食事をして頂きたいのです」
「うん?……ああ、別に構わないさ。そうやってアイリスやアウラが、嬉しそうにしてるのを眺めてるだけでも眼福だよ。それに俺、リアルでの食事なんてせいぜい肉の味がするチューブとかで、本物なんて口にしたことないしな。そういう意味じゃこの骨の体になったところで、食欲とかには未練がないのかもな。ははは───」
「モモンガ様!いつか……いつか御身の体でもお食事が出来るように、このアルベド誠心誠意模索してみせます!」
「オーナーのリアル・ブラック・ジョークは、身の上を知っているとネガティブ過ぎて笑えないのです……それにあのチューブの原材料は……いえ、これは話さないほうがいいのです。……よし!アイリスもいっぱい頑張って種族変化とかなくても、なんとかなるようにやってみるのです!───あっと、そう言えばなのですけども……リアルの事ですが、ここにいないみんな用に、あとで資料に纏めて配布したいので、アルベドに手伝って頂きたいのです」
「ええ、分かったわ。ただ……御方が既に崩御あそばされる子にどう伝えた物か」
「ネガティブを伝える時には、アイリスも一緒に行くです。……間違いなくその子は泣いちゃうのです……」
しんみりとした空気を漂わせるアルベドとアイリスに、シャルティアとアウラとマーレとモモンガも同じようにお通夜にでも参加しているかのように、全員沈んでしまう。少し離れた場所で会話を聞いていたコキュートスも落ち込んでいる。
「向こうはえらく重い空気になっているね」
「それはそうでしょうとも。創造主が亡くなっているのですから。幸いにも、この場に集められた僕の創り手はいまだご健在ですが……リアルの環境を思えば、それもいつまで持つやら。デミウルゴス様の創造主であるウルベルト様にしても、テロ活動に対する権力側の締め付けの強さを考えれば、決して明るい未来ではない筈です」
「確かに。───叶うなら、今すぐにでもウルベルト様の下へ馳せ参じ、企業連合の愚か者に地獄を味わわせてやりたいとも。……尤もそれはもう叶わない願いだがね」
「ふむ、叶わない願い……ですか。その割には、デミウルゴス様にそこまで悲観が見受けられませんが……どうしてですかな?」
セバスが問うたように前までのデミウルゴスなら、創造主が亡くなるかもしれないと聞かせられたなら、いてもたってもいられなかった筈。だと言うのに今のデミウルゴスからは、心の余裕のようなものが垣間見えるのだ。
「なに、簡単な話だよ。私の創造主なのですよ?それが簡単に、捕縛されたりするわけないでしょう。それに……ウルベルト様の御意思は既にここにある。ならば悲観に明け暮れている暇などありません。私は智者として、その意思と共に成すべき事を成すだけですよ」
「……アイリス様、ですね。……彼女には色々と教えられましたね、お互いに。私が内心あなたを毛嫌いしていた理由が、まさかたっち・みー様とウルベルト様のリアルの関係にあったのかも知れないとは、少々意外でしたが」
「私も君の正義感とでも言えばよいのかな?アイリスに言わせれば、唯一彼女以外でカルマ値が極善か。それに対して少々虫唾が走るところもあったが……まぁ、今更だと思うよ。たっち・みー様もウルベルト様も、目指したところは同じだろうからね。アイリスが言うところの仲間同士……少しは仲良くしてみても良いだろう」
以前であれば、セバスもデミウルゴスもこんな穏やかになど話はしなかった。セバスはセバスでデミウルゴスに対し、その邪悪さに対して思うところがあり、デミウルゴスもデミウルゴスで、邪悪の巣窟なナザリックで善とやらにあろうとするセバスに、皮肉混じりの会話しかなかった。だからこれもまた……一つの変化なのだろう。
「ところで……パンドラズ・アクター。そろそろ起きたらどうだい。いつまでも不貞腐れて寝るふりをするのも、無茶が過ぎるだろう。さっきアイリスが机の上に飛んだ時に、少し顔を上げていたのはここにいる全員が気づいている事だ」
「……私は貝になっているのです。軍服と言う唯一の見どころを殻とし、閉じこもる貝。
ずぅうんとでも聞こえてきそうな落ち込みようのパンドラが、死にそうな声を出す。自らの創造主から直接言の刃で斬りつけられた彼は、大層落ち込んでいた。その姿に自分もウルベルトから、お前の眼鏡あんまり似合ってないよなとか言われたら、傷つくなとはデミウルゴスは思いつつも、すぐ隣で卵顔の軍服が不貞寝してるのは少し目障りだなと感じていた。
「あはは、お兄ちゃんにちょっと……訂正するです。大分ネガティブな事をしちゃったのです」
いつの間にかデミウルゴスとパンドラの間に、クッキーの入った皿を片手にアイリスが来ていた。
「おや?向こうで話をしてたみたいだが、こちらに来たのかい?」
「アイリスがいると、ギルドメンバーのお話とかで、ちょっとしんみりしちゃうみたいなので。席を外してきたのです」
デミウルゴスがモモンガの方に目を向けると、アイリスがいなくなったのを好機と見たのかこれ幸いとばかりに、モモンガの膝にシャルティアが座っている。
「あれは良いのかい?さっきはスキルで応対するぐらいには執着していたみたいだが」
「ネガティブ。ちょっとアイリスも先ほどはどうかしてたのです。シャルティアだってぺロロンチーノに二度と会えない今、甘えたい相手が欲しい筈なのです。その気持ちを酌めていなかったのです。どろーです。どうやらオーナーがアンデッドの体になった事で、食欲が湧かないのと同じで、アイリスもまたAIから人間の体になった事で、独占欲などがちょっと湧いちゃってるのです」
「私のように最初から悪魔であったと、記憶が構成されているのとは勝手が違う。モモンガ様もそうだが、今までとは違う体になると色々苦労するか」
「悪い事ばかりでもないのですけどね。人間種と言っても人格入りAIなんて特殊な存在で受肉したせいか、肉体の成長が完全に止まったりしているのです」
「そうなのかい?」
「ポジティブ。この世界に来てから、一度もお手洗いに行ってないのです。寝ようと思えば寝たりは出来るですが、睡眠欲と呼べるような物も一切ないです」
「維持する指輪を装備しているわけでもないのに、それと言う事はアイリスの生命活動が完全に停止している。いや、時間が止まっているとでも呼ぶべきかな。……この場合、君が食べた物はどこに行っているのだろうね」
「体に完全に吸収されている。そんな状態なのかも知れないです。まぁ……刃物などで斬りつければ血は出るので、不死や無敵ではないのですが。それに体の変化が完全停止……ある種の不老になっているなら、寿命のない異形種のみんなやオーナーと長くいれるので、とてもポジティブなのです!」
不老になったなら、良い事ですと嬉しそうにするアイリス。実際にはAIからの受肉により不老になったのではなく、黄昏の終焉と言う本来『ユグドラシル』には存在しない、システムの規格を超えたスキルを強制的に組み込んだせいなのだが。そのせいで純人間種ではなく、世界級人間種とでも呼ぶべき珍種にアイリスはなっているのだが、彼女自身は全くその事に気づいていない。
「それにしても……意外とデミウルゴスは落ち着いてるのです。ウルベルトの真意や、オーナーとの間にあった友情を知ったら、もっと尻尾をぶんぶん振り回したりして喜ぶと思ってたのです」
「私は犬じゃないんだが?……勿論モモンガ様とウルベルト様の間にあった、繋がりは尊いものです。それに関しては、非常に喜ばしいものだ。ですが喜んでばかりもいられないでしょう。態々リアルの話をして、私どもの意識改革を図った。この後モモンガ様が成される提案とやらは、意識が善よりになった我々が前提の大規模な計画。そう私は睨んでいるのでね」
キラリと眼鏡を光らせながら、悪い笑みを浮かべるデミウルゴス。その笑みがウルベルトによく似ていて……思わずアイリスはほっこりしてしまう。
「大規模と言えば大規模なのです。……内容自体は楽しみにしてて下さい。とてもポジティブな内容なのです。……それで……お兄ちゃんもそろそろ元気を出して下さいです」
ゆっさゆっさと顔を伏せたパンドラの体を、アイリスが揺らす。彼女は話の流れのためにパンドラを出汁にしたのだが、ここまで落ち込むとは想定していなかった。そのためパンドラには悪い事をしたと、アイリスはかなり気にしている。
「私は貝です。お兄ちゃんなどではありません。そう……貝なのです」
「ね、ネガティブ!お兄ちゃんはお兄ちゃんなのです!生まれも違い、血が繋がってるわけではないですけど、こうしてオーナーに創って頂いた体どうしの兄妹なのです!貝さんなんかじゃないのですよ!」
「無理をしなくても良いのです。あなたはモモンガ様を導いた、偉大なる希望の花。私のような変な事しか出来ない、役者崩れとは違うのです……」
アイリスが励ましても、一向に立ち直る気配がないパンドラ。それもその筈、彼の性格面にはモモンガの影響が大きく、そのせいで一旦崩れると中々立ち直れないのだ。
基本NPCの人格はフレーバーテキストが一番影響が大きく、次にカルマ値、種族、創造主の人格と続く。パンドラの場合だが……あらゆる要素が創造主の気質と近い。彼のテキストにはアイテムフェチや役者気質などと書かれており、モモンガもまたアイテムコレクターで『ユグドラシル』時代には魔王ロールを楽しんだりと非常にパンドラの設定に近い要素を持つ。
パンドラのカルマ値は中立であり、これもまた昔のモモンガに近い。現在のモモンガはアイリスに影響されたせいか善よりの性格になっているが、元々は中立よりで癖の強いギルドメンバーの間を上手く取り纏め仲裁をするタイプであった。
そしてパンドラの種族である
これらに創造主の性格が影響した結果……パンドラはモモンガ2号と言える性格になっている。仮に『ユグドラシル』時代の課金ガチャを彼に回させたら、創造主と同じタイミングで舌打ちしながら回すくらいにはよく似ている。
そんな性格だからこそ昔のモモンガと同じように、一回底まで落ち込むと中々戻ってこない。
「そんな事はありませんよ、パンドラ。私はただ運が良かっただけ。偶々人格を持ち、オーナーのために働けただけです。もしあなたが『ユグドラシル』時代に動けたなら……オーナーの手助けを必ずしていた。パンドラが変な事しか出来ないなんて、そんなわけがありませんとも。私なんてちっとも及ばない役者として、オーナーに笑顔を取り戻せた。そうでしょう?」
一人称私は割と簡単に出るのですねと、パンドラとアイリスを観察していたデミウルゴスは内心呟く。見た目は変わらないが、別人レベルでがらりと雰囲気が変わる様に、君も結構な役者ぶりだよとデミウルゴスは賞賛をおくる。
「幼い子供のように自分自身をアイリスと呼ぶ。そんな風に擬態して、辛くはないのかい?君もかなり小さい方だが、それでもアウラやマーレほどではない。私の印象では、もう少し年齢が低い子供がやるような行為だと認識しているが……」
「うっ……他者から客観的な視点で分析されると、結構ネガティブですね。───まぁ、確かに?私自身これはどうなんだと思わなくもないですよ?ですが設計段階では、こうだったんだから仕方ないじゃないですか……見た目や言動の幼さで油断を誘えば、なんかこういい感じに研究者とかが許してくれるんじゃないかな~みたいな?実際それでウルベルトもこういい感じに、私に期待してくれてオーナーのところに来れましたし?そのままオーナーのところでずぅっと一人称アイリスで固定していたら、意識しないと私が出なくなりましたが?…………それに……こぅ……幼く振舞うのが割と癖になっていまして……」
最後辺りは両手の指先をちょんちょんと合わせながら、アイリスは少し恥ずかしそうにする。一番最初の設計コンセプトを忠実に守っていたらいつの間にかそちらが主流になってしまい、今では息をする感覚で小さな子供のように両手をぶんぶん振り回したり出来るようになってしまったのを、改めて指摘されると羞恥を覚えるのか耳を赤くしている。
「……これ以上この話をすると、墓穴をネガティブしそうなので横に置いておきましょう。私は私であり、同時にアイリスです。どちらが真や偽と言うよりも、どちらもまた同じ真……そんな感じです」
「随分と……難儀だね、本当に。……それで……先ほどからこちらのやり取りを覗き見るぐらいなら、起き上がって話にでも参加したらどうだい」
パンドラがアイリスとのやり取りをチラチラ見ていたのに気づいていたデミウルゴスが、割と本気で早く起きろと促す。
「そう……ですね。いつまでもクヨクヨしているようでは、駄目ですね。ふふ……アイリスが幼子を演じるように、私もまた創造主から否定されてもめげない僕を演じ、モモンガ様の望む未来を共にみる。そう…………それが私の役目!
「その通りですパンドラ!あなたはアクター!笑う門には福が来るように、その行動でオーナーを面白おかしくさせてこそです!」
アイリスが合いの手を入れるが、そもそもパンドラが落ち込んだ原因の6割くらいは彼女にある。更に言えばパンドラの名前はモモンガではなく、ウルベルトが名付け親である。流石にその名前を付けて下さったのはオーナーではないのですよと言ってしまうと、またショックを受けそうなのでアイリスも言わなかった。
そんな風に少しの間、談笑を交えただろうか。
「それでは円卓会議を再開しようなのです」
アイリスがパンパンと2回手を打ったのを機に、モモンガの膝上に乗っていたシャルティアが元の席に戻ったりする。
「それではですね……オーナーのご提案の前に、ちょっとした良い報告を2つしておくのです。一つ目は宝物殿にいたお兄ちゃんの方から、ご説明して頂くのです」
「承りましたとも。我が妹がちょっとしたと言いましたが、実際にはナザリックにとって非常に良い変化がこの世界に来てから起きました。なんとですね……この大墳墓を維持し運営するために自動で消費されたりする資金。全部無料になりました!」
「本当に!?」
「ええ、本当です。本来であれば宝物殿の所定の位置に資金を置いておけば勝手に減っていくのですが、今のところそれが起きた形跡が一度もありません。また妹と一緒に検証として、
おおっ!と全員から喜悦の声が上がる。特にアルベドからは安堵すら伺える。ナザリックの物資リストを改めて作った事で当面は持つとわかっていたが、この星に来てから外部からの供給が途絶えていた為、内心彼女としては不安だったのだ。そんな不安要素の一つが解消された事は、アルベドにとってとても喜ばしい事だった。
「恐らく実体化時にゲーム的な要素が排除された。それが妹と出した結論です。それにですね……もう一つはこれ以上に良い事なんですよ、皆さま方。ですよね、モモンガ様?」
「ああ。転移初日にアルベドにナザリックの点検を命じた時に、8階層だけは禁止しただろ?あそこにはこのナザリックでも最強と呼べる戦力が控えていてな。俺以外が行くと攻撃する危険性が高かったから禁じたんだ。とは言え調査をしないわけにもいかないから、あそこをアイリスと一緒に見て回ったんだが……8階層だけ変化が起きてたんだ。聞いて驚くなよみんな───『ユグドラシル』の素材やアイテムや金貨が自動で湧くようになってたんだ」
流石に予想外だったのかデミウルゴスですらポカンとした顔をする。数秒経ち言葉の意味を飲み込めたのか、その表情も消える。
「それは……どのようなランクのアイテムや金貨量で?」
「……現時点で調べた限りだが……大量の七色鉱に高難易度のレイドボスしかドロップしないような超希少データクリスタルが数十個、エリクサーやアムリタやソーマなどの希少な回復薬が数百本。これ以外にも世界級エネミーのドロップ素材に数えきれない金貨、他にもわんさかだ……どうだ!凄いだろう!」
「オーナーの言葉を補足しますとですね。ここにいる全員の装備を全て
内容の凄まじさに、アウラなどは口が開いたまま固まってしまう。『ユグドラシル』では9つのランクに装備の質が分けられるのだが、その中でも神器級は一番上のランクである。神器級装備は必要なコストがあまりにも高く、千時間単位で遊んでいるプレイヤーでも通常の遊び方をしている範疇では1本持っていれば恩の字と言う貴重な代物だ。
モモンガなどは廃人プレイヤーの嗜みとして全身を神器級で揃えているが、彼にしてももう一度集めろと言われたら無理となるぐらいには入手性に難がありすぎるのだ。
守護者達も凝り性だった41人に神器級を与えられたりしているが、それにしたって一人一つ程度しか保有していない。シャルティアを例にするならば主武装である槍が神器級で、それ以外は伝説級や聖遺物級とランクが落ちる物しか持っていない。
そんな装備を大量に作れるようになった。それだけに留まらず、エリクサーなどの希少アイテムも大量に湧いている。それをみらくると凄いだろうだけで済ますモモンガとアイリスにわぁっ……あ……となる守護者達。パンドラも守護者達の反応に自分もあんな感じだったなぁと回想する。世界級エネミーの素材を見せられた時には、コレクター魂に火がつき発狂したものだとしみじみとパンドラは頷く。
モモンガとアイリスは視線を交差させる。資金消費の改善とアイテムの増殖、共にアイリスのワールドスキルが絡んでいるため、仕掛け人側に回った形になる主従は驚かせる事に成功したのだと大いに楽しそうにしていた。
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「ではではみんなも落ち着いたようなので、オーナーからのご提案のコーナーに移りたいのですが……せっかくですし、みんなからもこうしたいやああしたいなどの提言はないですか?」
少し時間をおいた事でざわめきも落ち着いたNPC達に、みんなもしたい事がないかをアイリスは確認する。
「オーナーにはオオトリになって頂きたいのです。その前にリアルの事などを踏まえた上で、何かしらの要望があれば聞いておきたいのです」
アイリスがなんでも良いのですよ?とNPCに問いかける。それを受け白魚のような指が掲げられる。
「私から少しご提案が……」
「どうされたですか?」
「私どもは現在モモンガ様をモモンガ様と呼んでいますが、それはいわゆる偽名だと認識しております。モモンガ様の真名が鈴木悟様であるならば、私どもは偽名であるモモンガ様ではなく、今後はサトル様と御呼びした方が宜しいのでしょうか?」
アルベドの提言に確かにと言った空気が広がる。NPCも個体名の重要さは重々承知している。仮に自分たちが
モモンガがリアルの両親の死の真相にこれでもかと激怒したように、両親との思い出もまた彼の中にある大切はアルバムの1ページに他ならない。そんな人たちが思いを込めて悟と名付けたのだから、NPC達にしてみれば蔑ろになど出来るわけがないのだ。
「名前か……確かに……うーんそうだな……あっ、そうだ!ならいっそのこと対等な仲間への一歩って事で、みんな好きなように俺の事を呼んでみるってのはどうだ?」
「す、好きなようにですか!?」
「それはとてもポジティブなのです!アイリスなら
好きなようにと言われても、そうそう簡単には踏ん切りがつかないのか提言者であるアルベドはこめかみをグリグリして悩み始める。
しかしアルベドの悩みなど知った事かと手を挙げる者がいた。
「どんな呼び方でもいいでありんすか?なら私は…………モモンガ様の事を旦那様と呼ぶでありんす!」
「旦那様!!?」
「私はぺロロンチーノ様からお嫁様として創られた身。残虐さは否定しようとも、この身を愛する殿方に捧げる事を願われて生まれた存在。ぺロロンチーノ様には会えない今、私が愛する殿方とはそう、モモンガ様!ならば旦那様と呼ぶのが相応しいでありんしょう」
「ま、まぁシャルティアがそう呼びたいのなら、俺はいいと思うが……」
「思わぬところから強敵出現なのです!オーナーの正妻はアイリスのものなのです!」
「シャルティアが馬鹿なのは分かってたけどさ……アイリスもモモンガ様が絡んだら頭馬鹿になって来てない?」
「う、うん。私って言ってた時は、もっと理知的に見えたのに……」
ともあれシャルティアが真っ先に動いた事でそこまで深刻なあれでもないのだと察したのか、他の僕達も次々にモモンガの事を思い思いに呼んでいく。
「あたしはサトル様と呼ばせて頂きます。マーレはどうする?」
「ぼ、僕は……モモンガ様が迷惑でなければ、そ、そのサトルさんと呼びたいです」
「おっ?マーレにしては大胆だね。様じゃなくてさんにするなんて」
「ご、ごめんなさいモモンガ様!こんな我儘を口にしてしまって……」
「我儘じゃないさ別に。さん付けでも本来ならかなり距離がある呼び方なんだ。なんならサトルでも良いくらいだぞ?」
「そ、それは流石に……畏れ多いです……」
アウラとマーレは心機一転サトル様とサトルさんでいくと決める。
「私もサトル様と御呼びさせて頂きます。サトル様……サトル様……ええ、とても良い御名前だと存じ上げます。サトル様の御両親の愛情を感じるほどに」
アルベドは何度も何度もサトル様サトル様と繰り返す。鈴木悟の親がどんな気持ちでこの名を付けたのかを反芻するように何度もだ。
「私ハ叶ウナラバモモンガ様ノ事ヲ御屋形様ト御呼ビシタク存ジマス」
「御屋形様とはまた……個性が出てるなぁ……」
かつて武人建御雷から古代の戦士は主の事をこう呼んだのだと聞かされたと、コキュートスは嬉しそうに語る。
「ふっ……さて真打の出番ですね。私は勿論モモンガ様の事をこう御呼びさせて頂きます。父上……とね」
「あいつだけモモンガで固定したい。……アイリス、何かいい感じの言葉であいつを縛ったり出来ないか思いつくかい?」
「アイリスはお兄ちゃんの呼び方はとてもいいと思うですよ?」
アイリスがまぁまぁと執り成し、パンドラはちゃっかり父上呼びの権利を手に入れた。
「私はモモンガ様でいくつもりですが……よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないが……でも意外だな。デミウルゴスならてっきりアルベド達と同じサトルで来るかと思ってたが」
「そうですね、それも良いかとは思いましたが……ウルベルト様はモモンガ様の本名は御知りではなかった。ならばウルベルト様と同じモモンガ様で通すつもりです」
ウルベルトならそう呼ぶはずだと、デミウルゴスは今後もモモンガで呼んでいくつもりのようだ。
「私も皆様と同じくサトル様と御呼びさせて頂くつもりです」
セバスは真名を大切にさせて頂きますと呟く。
「これでここにいる全員からの呼び方は決まったか……他になにか提案とかあるならまだいけるぞ」
そうサトルが問いかけるが、殊更何か伝える事もないのかアルベド達は大丈夫ですと返答する。彼女らは主人でもあり、対等な仲間であるとまで伝えてくれたサトルがどんな提案をするのかと、期待の眼差しで待ち受ける。
どこかキラキラしてるようにも見える視線に、一瞬サトルは怯むが気を持ち直す。
「凄く期待してくれるのは嬉しいんだが、そんなに大層な話じゃないぞ?あくまでもこの星で、今後ナザリックの方針をこうしたいってだけの話をするだけだからな。……これからのアインズ・ウール・ゴウンの活動方針だがな……かつての前身であるクラン『
名前呼び一覧
アイリス:オーナー
アルベド:サトル様
シャルティア:旦那様
アウラ:サトル様
マーレ:サトルさん
コキュートス:御屋形様
パンドラ:父上
デミウルゴス:モモンガ様
セバス:サトル様
地の文は以降サトルで固定