数時間ほど経過し。
アイリスの異次元空間から戻って来たサトルは、彼女を従えて食堂へと向かっていた。
事実サトルはとても疲れていた。アンデッドの体は疲労しないはずなのに、どっと疲れ果てていた。アイリスとのあれこれで精神的なHPをごっそりと消耗した。
我慢が出来ないと言った割には、アイリスはすぐに襲うような真似はせず、サトルとの軽いスキンシップから始まり。彼の手で服を脱がせてもらい。サトルの趣味から外れていますと残念そうにしていたのとは裏腹に、普段時とは違い黄昏時の彼女はとても大きな胸を持ち。サトルの手で全身を触られる彼女は彼から与えられる快楽に背を震わせて悶えた。
サトルが女性経験が全くない様に、アイリスもまた男性経験など持ち合わせてはいない。現在のように実体化以前の彼女は情報に過ぎない以上、体験のしようもない。この世界に来て初めて食事の幸福を知ったように、異性の……それも自らの存在理由と呼べるサトルに愛撫されて肉体的な快楽の味を知ったアイリスは、彼の体にしがみ付き嬌声をあげて身をよじり───オーナーオーナーと何度も彼の名を愛おしそうに切なそうに呼び、耳やうなじ迄紅潮させ求める姿に───最初はアイリスが望むなら、普段何も返せていないのだから、せめてこれぐらいはして上げたいと思い……経験はないながらも男として何とか理性的にリードしようとしていた、サトルの雄の本能に極大の火がついた。
どれだけ気弱に見えようとも……自己評価が低くとも……今はアンデッドの体でも……親友のカテゴリがウルベルトならば、異性としてのカテゴリなら一番はアイリスであり……そんな子が自分を求め艶めかしく体を擦りつけてきた事で、相棒が臨戦態勢から完全な戦闘モードへと移行した。
そこからは主従そろってわちゃくちゃになりながらお互いに求めあった。サトルの理性はすぐさま燃え尽き、本能に任せてアイリスの中にありったけを吐き出し。アイリスはアイリスでAI時代に蓄えた知識からサトルが悦びそうな手法を抜粋し、持ち前の計算能力と併せてサトルの全身に生きる喜びを刻み込んだ。攻守が目まぐるしく変わるPVP。数千、数万時間でも活動可能な体力を持つ二人。サトルの筒にすぐさま次弾が装填される。どれだけ使おうとも簡単には尽きる事のない残弾として撃ち放たれる。両者とも何回自分が果てたのかなど覚えていない。最終的にアイリスが4人に分身し、色欲の魔王の専用スキルと併用することでサトルの回復力を上回る猛攻をしかけ、サトルの体液を吸いつくしたところでお開きとなった。
(凄かったんだ。本当に、凄かったんだ……)
地球にいた頃には一切縁のなかった行為に……せいぜいが自分の右手を使うくらいで、それ以外には本当に縁のなかった分野であり……ペロロンチーノのようにエロゲなどにもあまり興味のなかったサトルにとって、未知の体験だった。自分には生涯そんな機会は回ってこないのだと……いつの間にか諦めていた行為。骨になった事で、憧れても届くわけもないと思っていた異性との交わり。それが……叶ってしまった。
隣を歩くアイリスにサトルはチラリと視線を移す。黄昏の終焉を解除し普段通りの姿へと戻った彼女からは、つい先刻までサトルが欲しいのだと蕩けていた様子を伺わせるような雰囲気は一切なく。機嫌良さそうに鼻歌を歌い、ぽわぽわした笑顔を浮かべるアイリスはどこまでもいつも通りの彼女であった。
そんないつも通りのアイリスと……自分のために全てをさらけ出し……奥深くでサトルを受け止めてくれた姿が重ならず……
(タブラさん……俺は……俺は今初めて……本当の意味であなたの言うギャップ萌えの真髄にたどり着いたのかも知れません。これが……そうなんですね!)
かつての仲間に……アルベドを含む三姉妹のNPCを制作したギルドメンバーの性癖に対し、サトルは心の底から同意する。普段は明朗な少女が、自分に対してだけは全く違う顔を……少女ではなく女の顔を見せる。それが男としての本能を満たすのだと……サトルは溢れんばかりの充実感を得ていた。
彼の視線はアイリスの顔を彷徨う。特に唇を思わず凝視してしまう。
薄く綺麗な黄金比で構成されたそれ。行為の最中にサトルと何度も口づけを交わした部位。そこを思わずサトルは何度も見てしまう。サトルの雄が雄である所以とも言えるそれに対し、愛おしそうに幾度となく触れ合わせ彼を元気にしようとした場所。最後には体液でドロドロになっていたサトル・オブ・サトルを───
「綺麗にお掃除しますね」
その時の事をサトルは思い出し───
「…………あああああぁぁぁぁぁぁ…………」
「オーナー!?」
思い出した光景だけで、再び臨戦態勢に入ってしまった自分の体に嘘だろお前とサトルは屈んでしまう。
(マジか……俺は……俺はそこまで溜まっていたのか!?そんな馬鹿な!覚えたての猿じゃないんだぞ!!いや、確かについ数時間前まで童貞で、経験値もない初心者だったけども!……というかだ。ひょっとして俺、流されてとんでもない事したんじゃないか!!アイリスはウルベルトさんが託してくれた義理の娘さんみたいなもので……そんな子に何度も何度も俺は劣情をぶつけて……俺のクソがぁ!ウルベルトさんになんて言えばいいんだ……あなたが助け出し俺に託してくれた希望の花を散らしました?言えるわけないだろぉぉお!)
誘ったのはアイリスで我慢出来ずにサトルを食べたのもアイリスだが、彼女に対してありったけの性を注ぎ込んだのは間違いなくサトルの意思だ。その行為が親友の想いそのものを穢してしまったのではと、サトルは酷く落ち込む。
「どうされたですか!もしかして……アイリスがやりすぎたですか!?」
いきなり頭を抱えてうずくまるサトルを心配し、彼の肩に手を置きながらアイリスが心配そうに顔を覗き込む。
「い、いや大丈夫だ。ただちょっと……はぁっ……今更アイリスに隠し事をしてもあれだよな。……ウルベルトさんに申し訳なくて、ちょっとな……」
それだけでサトルが何を伝えたいのかを、読み取ったアイリスがサトルの頬を両手で掴み……上を向かせてから彼女の口でサトルの口を塞ぐ。唇を通して熱が……心が伝わり、サトルの目が大きく開かれる。数秒そうしただろうか。ゆっくりと口を離したアイリスとサトルの間に唾液の糸が引く。
「アイリスがこうしたのは、アイリスがこうしたかったからですよ。先ほどまでの行為も同じなのです。そこにオーナーが何かしらの引け目なんて感じなくても良いのですよ。ただアイリスの意思があり……オーナーが受け入れてくれた。それが物質的な交わりとなって、顕現しただけ……それにですね。ウルベルトなら笑いながら仲人になってくれるですよ。なんだったら率先してスピーチ役をやるですよ!『私が彼女を紹介したのが二人の馴れ初めなんですよ。分かりますかたっちさん。私が!二人を結んだんですよ。あなたと違ってリアルのモモンガさんを幸せにするために、ね?』。大体こんな感じのやつを」
「……ウルベルトさんはたっちさんとよく揉めてたからな。確かに言いそうだ」
そこからもウルベルトの物まねをアイリスがし、似てるなぁ似てるですよ?とやり取りをする二人。そうしてる内に、一人で悩んでも仕方ないなとサトルも名前通り悟る。しかし彼は立ち上がろうとはしない。立ち上がるにはまだちょっと臨戦態勢で、今立ち上がるとテントを建てる羽目になりそうだからだ。
「ところでオーナー……まだポジティブだったりするですか?」
「…………………………はい…………」
サトルは素直に白状する。誤魔化したところでアイリスの事だから、直接触ってやっぱり元気なのですよぐらいはすると良く分かっているからだ。
「……オーナーは疲労しらずのアンデッド。ボス化と合わせて回復力も高く、こんな短時間で完全復活するですか……ではそうですね……今度は黄昏時の私ではなく、この小さなアイリスの体を味わってみませんか?一粒で二度美味しいのですよ?ちょうどそこの部屋が空き部屋なので」
立ち上がりカモンと手をサトルに差し出すアイリス。その手を取ったが最後、また数時間ぐらいアイリス漬けになってしまうのではとサトルは躊躇する。曲がりなりにも現ナザリックのリーダーである自分が、一日中情事にふけるのはまずいだろうと理性は止めようとする。しかし……理性に反してサトルの手は蝸牛のような速度でアイリスの手に伸びていく。もう楽になっちまえよと本能が無理やり動かしてしまう。その手が触れる直前───
「モモンガ様?」
「ほわぁあい!?」
偶々通りかかったデミウルゴスに後ろから話しかけられ、サトルの今は無き心臓が跳ね上がる。高速でそちらに振り返る。サトルの視線の先にはデミウルゴスだけでなく、コキュートスもいた。
「! そのお顔は!?」
「御屋形様ガ人間ノ顔ニ!?」
サトルの顔が以前の骨ではなく、人間の顔になっている事に驚きを見せる二人。だが何かに思い至ったのか、デミウルゴスはなるほどと得心がいったのか納得する。
「以前からアイリスが模索していた、モモンガ様に食事をして頂く方法の産物ですね」
「ポジティブ。8階層に運よくウロボロスが湧いてきたので使用したのですよ。と言っても人間になったわけではなく、アンデッドのままではあるですが……」
「ふむ?まぁ、どうあれモモンガ様にとって良い事が起きたのですね。それにしても……なぜモモンガ様は廊下に蹲っておられるので?」
以前であればすぐさまサトルのもとに行き、何かの異常なのではないかと心配していたであろうデミウルゴスも、アイリスがそれほどサトルに対し大変なのですとなっていない事から、重度の心配ごとではないのだろうとあたりをつける。
「な、なに、少しアイリスと遊んでいたんだ。蹲っているのはその一環だよ、一環!」
頼むから俺の今の状態に気づかないでくれと、サトルは誤魔化そうとする。アイリスだけにならまだしも、こんな廊下で発情してましたなどとしもべたちに流石に知られたくはないのかサトルは必死だ。
しばし考えるように眼鏡をクイッと動かすデミウルゴス。数秒たっただろうか。ハッと何かに気づいたのか、デミウルゴスが楽しそうな笑顔を浮かべる。
「なるほど、そういうことでしたか。モモンガ様がどのような状態なのか、真に理解しました」
(おっ?ひょっとすれば……深読み勘違いで何かいい感じに誤魔化せるのでは?……頼むぞデミウルゴス!お前の言葉でコキュートスに説明してくれ!)
「デミウルゴス、ソウイウ事トハドウイウ事ナノダ?」
「なに、簡単な話だよ。現在のモモンガ様は人間の顔になっているだろう?ならば当然体の方も人間のはず。ならば男性器も当然ついている。それを使ってアイリスと性行為に及んだのさ。今はその時の事を思い出して勃起しているから、誤魔化そうと蹲っているのだよ」
「なんでこんな時だけ詳細に読んで見せるんだよお前は!お馬さんごっことかの方向で深読みしろや!ふざけるなクソが!!」
おおおおおお!となるサトルの頭をアイリスがよしよしと撫でる。その姿に別段本気で怒ったりしてるわけではないと、デミウルゴスもコキュートスも円卓会議以降の3カ月で心得ているので動揺したりもしない。普通にそのまま会話を続行する。
「御屋形様ニ男性器ガ付イタト言ウ事ハ……ツマリ!」
「推測通りだよ。モモンガ様はご子息をもうけられるようになったのさ。君は前からモモンガ様のご子息の盾となり、善き師になる事に憧れていただろ?これで念願の夢の一つが叶うわけだ」
「オオッ。オオオッ!!私ガ爺ニ……御屋形様トアイリスノ御子息ノオ目付ケ役ニ……ナント……ナント素晴ラシイ!」
コキュートスの脳内で繰り広げられるのは、4本ある腕の1本にまだ幼き子供をしっかりと抱え、敵陣の中を突き抜ける自分の姿。あるいはお嬢様を護衛する自分。小さなお殿様に剣術を教える自分。そんな夢のような光景が空想の産物ではなくなったのだと、フシュー!フシュー!とコキュートスの息がとても荒くなる。彼の周りに散布されている冷気系スキルの冷たい空気が強まり、廊下の絨毯が凍りつき壺に霜がおりる。すぐそばにいたデミウルゴスの眼鏡が寒暖差で曇り、スーツに氷が付く。
「興奮するのは大変結構なんだが、
「スマナイ、私トシタコトガ……」
「コキュートスにとって、とてもポジティブなのですね。とは言え……オーナーの赤ちゃんとなると、ちょっと難しいのですよ。オーナーはあくまでもアンデッド、つまり死者です。その状態で生者の機能である子種まできっちりと再現されているのかは、検証が必要なのです。アイリスも同じく生命的な活動が止まってしまっているので……オーナーからたくさん頂きましたが……それが着床し、子供を作れるかと言われると……現状ではほぼ不可能と言わざるを得ないですよ」
「ソウカ…………ソウナノカ…………」
世継ぎ問題は現状では困難だと聞かされたコキュートスが見るからに落ち込む。ブルーライトの巨体が肩を落とし項垂れる。その姿に慌てたアイリスがフォローをする。
「でもですよ!またウロボロスが湧いてくれば、それを使いオーナーの子種自体を変容させ、人工子宮などを用いてアイリスから採取した細胞と混ぜ合わせれば、子供が出来るかもしれないのです」
「私ノ夢ハ潰エテイナイノカ!!」
「ポジティブなのですよ!!」
コキュートスに近づきジャンプしたアイリスと、コキュートスがハイタッチをする。そのまま彼の巨体の肩にアイリスは飛び乗る。小柄な体が巨体の肩に乗るのは、中々様になるのですねとデミウルゴスは少し感心する。
「二人とも大変仲がよろしいことで。しかし……モモンガ様とアイリスが肉体関係まで含めて通じ合ったとなれば、ナザリック全体を挙げて祝うべき案件。モモンガ様がよろしければ、こちらで会場をセッティングし大婚の式を行うべきかと存じますが……如何でしょうか?」
「結婚式をやろうって事か?……うーん、あんまりそこは気乗りしないんだが。なんかこう、改めてアイリスとそんな関係なんですってみんなに大々的に発表するのもな……少し気恥ずかしい」
「既にモモンガ様とアイリスが只ならぬ仲なのは、モモンガ様の事を旦那様と呼称するシャルティアも知るところですが……そうですね、モモンガ様が消極的な式をわざわざ挙げるのも野暮。この件に関しては私の勇み足ですね」
以前に比べて柔らかな表情を浮かべたデミウルゴスが、あっさりと引き下がる。その事にほっと息を吐くサトル。
「式ハヤラナイトシテモ正室ニナッタアイリスヲ、今マデト同ジヨウニ呼ビ捨テニスルノハ無礼デハナイカ?御屋形様ト同ジク様ヅケカ敬称デ呼ブベキカト思ウガ……」
「別にアイリスは今まで通りで良いのですが……ちなみにコキュートスはどう呼ぶ予定ですか?」
「武人建御雷様ニオ教エシテ頂イタノダガ、古代ノ戦士ハ主ノ配偶者ヲ御台様ト呼ンダト聞イタ事ガアル」
「御台様ですと将軍様や大臣の奥方なので御屋形様とは少し合わないのですよ。御屋形様とポジティブさせるならそうですね……御前様辺りでしょうか?」
「御前様……良イ呼ビ方ダ。ウム、今後ハアイリスヲ御前様ト御呼ビシマス」
「アイリスとしては様付けはネガティブですが……でもコキュートスがそうしたいのなら、アイリスに止める権利なんてないのですよ」
肩に止まった鳥にでも話しかけるかのような、巨人と小さな花のやり取りに和みようやく臨戦態勢も収まったのかサトルが立ち上がる。
「呼び名ですか……モモンガ様」
「どうした、デミウルゴス?」
「私は現在アイリスに義兄さんと呼ばれている身。そうなるとモモンガ様とアイリスが正式に結ばれたなら、私はモモンガ様を義弟と呼んだ方が宜しいのでしょうかね?」
「その呼び方だけは絶対にやめろ。……いや、フリとかじゃないからな?義弟なんて呼ばれた日には一カ月は部屋からでないからな?ほんとにやめろよ?」
サトルは念入りに念をおす。デミウルゴスの事が嫌いなわけじゃないが、流石に義弟呼びは嫌だと拒否する。
(デミウルゴスがこの調子だと、パンドラも警戒するべきか?……てかあいつにとってアイリスってどういう立ち位置になるんだ?妹がある日、お母さんになったとかか?……ぺロロンチーノさんの好きなエロゲにありそうな設定だなこれは……)
心のパンドラがアイリスを母上と呼んでいる姿にサトルはげんなりする。パンドラの性格を考慮すると絶対にやると確信したサトルは、なんとしてもそれだけは阻止しようと心に強く決めた。
「そう言えばコキュートスと義兄さんは、アイリス達とこうやって話をしていてポジティブなのですか?」
「今からアルベドに軍団関係の資料を纏めたものを持っていけば、私の業務は終わりなので問題ありませんよ。コキュートスの方も今日の分の戦闘訓練は終わりましたので、特に問題はないかと……」
「それでしたら今からオーナーと食堂に行くのですが、ご一緒にどうですか?」
アイリスの提案に少し逡巡する気配を見せる二人。
「私どもとしては望ましいところですが……よろしいので?」
話しぶりからサトルが生身の肉体を得てからの初めての食事なのだと推察していたデミウルゴスは、自分たちがお邪魔してよいのかと問う。サトルとアイリスの初のお食事逢引に、2mを超える蟲王と鋭利な尻尾を持つ悪魔が混ざるのは、些か風情がないだろうと判断しての質問であった。
「別にいいんじゃないか?」
デミウルゴスの気遣いとは裏腹に、これがデートなのだと認識していないサトルはアイリスが誘ったのだから問題ないと肯定する。
「ではご相伴にあずからせて頂きます」
「御屋形様ト御前様ノ供、シカト務メサセテイタダキマス」
必要以上に華美な言葉で飾るのを、サトルが嫌う傾向にあるのだと分かっている両名は短い言葉で了承する。
デミウルゴスとコキュートスを仲間とし、食堂へと一行は向かうのであった。
サトル:二次でもレアな(筈の)がっつりな脱童貞。本作ではとことんモモンガ様(サトル)の幸せを追求する方向性なのでこの展開に
アイリス:御前様になった
デミ&コキュ:かなりサトルに対してラフなスタイルに