二人転移 IFの可能性
ヘロヘロを見送った後。最後に花火をしようとオーナーは仰り。私も彼が喜ぶならそれが私の幸せなのだからと了承して。一緒に打ち上げ花火を見て。綺麗だなと話して笑い合って。それが……私の見たオーナーの最後の姿。
どこかへと転送されるオーナーを守るために、私は剣を鍛え上げた。それが何の役にも立たないのだと……オーナーを守る事はないのだと知りもせずに。
転送時にオーナーと離れ離れになってしまい。実体化した私は、すぐさまワールドスキルを使い願いを叶える力でオーナーを呼び寄せようとした。だが……その願いは叶わなかった。なぜ無効化されたのか……ある可能性から目を逸らし……私は星全体を探索した。そして見つけてしまったのだ……かつてオーナーのアバターが着ていたローブを。
そのローブを持っていたドラゴン……私は竜帝だとかそのローブの持ち主がどうとか言っていたが……目の前が真っ白になった私には何も届かず……願いが叶わなかった理由……オーナーが完全に亡くなられたのだと……それを理解してしまい……絶望を抱き……すぐさまそれはオーナーをこの世界に招いた存在Xへの激情と化した。
いますぐ私の前にその姿を顕せと叫んだ。だが待てども待てども存在Xは降臨しなかった。奴が姿を現さなければ、オーナーの敵を討つことも出来ない。だから私は宣言した。
「お前が出てこないなら……出てきたくなるようにします」
私は手始めにオーナーのローブを持っていたドラゴンを、空間圧縮に巻き込んで消滅させた。それでも存在Xは出てこず。次にそのドラゴンの領地とやらにいた、他のドラゴン達が主の敵を討とうと私を取り囲み。私が放った<
早く出てこないとお前の大切な何かも灰になるぞと。私は虚空に向かって吠えた。
数多のドラゴンが私を危険視し、連合を組み、滅殺せんと襲い掛かって来た。私の狙いは存在Xただ一人。お前たち蜥蜴じゃない。かの神を降臨させる供物となれ。
最後には命乞いをしていたドラゴンも、地下深くに隠れ私から隠れようとした竜も……地上に存在する全生命を死滅させた。天空を埋め尽くす蝗の悪魔が森を食い散らかし植物は姿を消した。
私が実体化した当初は綺麗だった星はいまや原初の地獄と化した。数千度のマグマの海が地表全土を多い、数百度の熱気が支配するこの星はもはや生物が住めるような環境ではなくなった。
それでも……存在Xはついぞ私の前に……姿を見せることはなく……私がやってきたことは全て無駄だったのだと。嘲笑われているようで。そうしてようやく……オーナーの死を、私は受け入れたのだった。
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「アイリス様。極海の竜王から貢物が届いております」
「別段いらないのですが……そうですね……その貢物ですがあなたに上げます」
「はっ!謹んでお受け致します!!」
竜王の一人……虚無の竜王の名を冠するドラゴンがその言葉と共に私の元を離れていく。
あの後……オーナーの死を悲しみ悲嘆に明け暮れた私だが……いつまでも落ち込んでいては、亡くなったオーナーも浮かばれないと無理やり奮い立ち……一度滅ぼしてしまったこの星を数年かけて元の状態へと再生させた。
私が全滅させてしまった竜やその他の生物・植物も全て復活させ元通りにし。その過程で最初に私が抹殺した竜帝が存在Xなのだと知った。
竜帝や一部のドラゴン達───真なる竜王と言うらしい───は他のドラゴンと違い記憶を弄る事が出来ず、私が一体何をしたのかも全部覚えているらしく。あなた様に従いますと申し出てきた。ならオーナーを返せと竜帝に迫ったが……彼の魂は完全に消滅させてしまったせいで、もう戻せないのだと聞かされた。
その言葉に再び激情を抱いた私が何かをする前に……竜王達の手で肉体ごと魂を八つ裂きにされ、竜帝はオーナーと同じように完全に死亡した。
この星を支配していた竜王が全て私の傘下となった事で、ドラゴン同士で行われていた領土の陣取り合戦も治まり。私が指導者として頂点に立つ世界統一国家の時代が幕を開けてしまった。
それから数百年が経った。その間にオーナーと同じように『ユグドラシル』から引き抜かれたプレイヤー達がこの世界で実体化した。素粒子は時間を超える。ならばオーナーや私と時間がズレても大しておかしな事ではない。
彼らにこの世界の事を教えたりして出来る限りの支援を行った。私がオーナーの敵になるのではないかと危惧していたある8人に関しても、話せばそれなりに分かる人物であり。とある地方で治安維持組織の一員として楽しくやっているようだ。
私が直接治めている首都にあり、現在の住居でもある神殿の奥深く。私以外には入れない最奥に一年に一度必ず訪れている。
特段広くもなく。中央にオーナーのローブが祭られているだけの部屋。オーナーのお墓としてせめて静かに眠られるようにと用意した場所で、私は一人そのローブを着て一日を過ごす。
「知っていますか?今日でオーナーがお亡くなりになられてから、ちょうど419年目なのですよ。その間にいっぱいいっぱいイベントがあったのです!……まぁ、これは418年目の時にも言いましたが。この一年は特にこれと言った特別な催しもなかったので話すことがないのですよ……ごめんなさいなのです」
かつて日本で法事と言うイベントがあった。故人を偲び亡くなった人の冥福を祈る行事。オーナーのためにこの場所を用意したが、寂しがり屋だったあの人は一人でいたら孤独を感じてしまうから……せめて彼を唯一知る私だけでもここを訪れてこの1年こんな事がありましたと報告する。
そうやって話す内容も、ここ20年ほどは代わり映えもしない。プレイヤーが実体化するぐらいしか大きな出来事もなく、それ以外では非常に平和な世界で。統一国家が成立してから150年くらいは私を討伐し、頂点の座を奪わんとする新たに生まれた竜王も数人いたが、秒殺していくうちにその数も減り。挑戦者もいなくなってしまった。
「オーナーにもアイリスが竜を千切っては投げる雄姿を見せて上げたかったのです!……そのせいで竜殺しの女神なんて呼ばれるようになったですが……」
何度も話した内容。オーナーも聞き飽きたであろう言葉の数々。それでも私は話しかける。黙ったが最後……彼との繋がりが本当に途切れてしまうのではと不安に駆られて……
「挙句の果てには戦狂の女神なんて呼んで……まぁ、確かに?一度世界を灰塵に帰しましたが?でもでもアイリスは恋乙女を自称してるのですよ?そんな中でバトルジャンキーみたいな称号いらないのですよ!……ほんとうに……いらないのですよ…………アイリスって……親友からの贈り物って……それだけでいいのに……」
ああ、駄目だ。オーナーのローブを着るとやはり弱い私が出てしまう。
「オーナーに……アイリスって……それだけでいいのですよ……」
止められない。私自身でも感情の暴走は止められない。
「オーナー……あなたにあいたい。実体化した今ならあなたと触れ合えるのに……あなたがどんなに寂しくしていても慰められるのに……」
会いたい。あなたに会いたい。ほんの一秒でもいい。あなたの声が聴きたい。あなたは一人じゃないのだと抱きしめてあげたい。
「女神なんて言われてたくさん崇拝されていて……そんなアイリスをオーナーだけは滅茶苦茶にしても良いんですよ?オーナーが自分が童貞さんなのを気にしていたのは知ってるですよ?今この場に蘇ってくれたならなんだってして上げるですよ?だから……ウロボロスに……アイリスの蘇生能力に応えてください……お願いします。お願いします!お願いします!!…………………………どうして───」
「どうしてオーナーを一人にしたぁ!この役立たずのポンコツAI!何が希望として導くだ!!人類史上最高峰の性能なんて自称して!!オーナーがどんな気持ちで亡くなったのかも分からないのか!!孤独の中で……失意の中で……誰に看取られる事もなく……」
全部……全部私のせいだ。プログラムの生成に集中したせいで……肝心のオーナーの手を離してしまった私のせいだ。それよりも以前に竜帝の力に気づいてオーナーの強制排出が出来なかった私のせいだ。もっと以前に……花火ではなく最後はナザリックで過ごそうと言うべきだったのだ。オーナーが孤独の中で亡くなられたのは……全て……私が役立たずだからだ。私が無能だったから───
「ごめんなさい……ごめんなさい!ウルベルト……ごめんなさい。オーナーを守れなくて……あなたの『真心』なんて自称して……オーナー……役立たずでごめんなさい!あなたを守ってあげられなくて……この無能!!死んでしまえ!!!……私なんて……死んでしまえ……………うぁあああぁあ!!ああああああぁあ!!!」
ずっとずっと後悔している。本当はオーナーの死なんて受け入れられていない。無理やり誤魔化しているだけ。統一国家なんてものも……安全で平和な世界なんてものも……ただ忙しくして目を逸らしたかっただけ。たくさんの種族が私に祈りを捧げに来る。かつてこの星の王者だった竜王はもはや誰一人として私に逆らおうともせず、頭を垂れて眼も合わせようともしない。
たくさんの生命が私を神として崇め奉る。けど……そんなものはいらない。ただ一人……たった一人。彼がただいまと言ってくれるだけでいいのだ。それだけがあれば私は私として満たされる。でも……彼はもう戻らない。
もう届かない過去が私を責め立てる。お前のせいだと。お前が元凶だと。その後悔と共に……泣きつかれた私はローブに包まれて、冷たい石の上で眠りにつく。夢も見ない深い眠りにつく。
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首にぶら下げている懐中時計に仕込んだアラーム音で目が覚める。今日が終わってしまった。年に一回だけオーナーに会える日が終わってしまった。これ以上ここにいたら私はオーナーへの妄執で女神として動けなくなってしまう。だから……次にここに来るのは一年後。
「さぁ気合を入れるですよ!アイリスがいなくなったら統一国家はおしまいなのですよ!!やるですよ!!ポジティブに頑張るですよ!!おーなのです!!」
無理やり気合を入れて私は立ち上がる。私の涙やら鼻水がついたローブを綺麗にし、部屋の中央に置いたゴーレムに着せる。
「ではではアイリスは行ってくるのですよ!!少し寂しくなるかもしれませんが……アイリスは一度この星を滅ぼした者として平和を維持する責務があるのです!!安心してくださいなのです!!来年にもまた必ず来るのですよ!!!……シーユーアゲインなのです!!!」
後ろは振り返らない。また来年があるのだと自分に言い聞かせる。そうすることで千年後でも……万年後でも私は偉大な女神として生態系の頂点に立ち……オーナーが眠るこの場所の墓守としてあり続けられるのだから。
一見BADエンドっぽいルートだが1万2千年ほど経過するとハッピーエンドに到達する
このルートの年表
モモンガ竜帝の前に転移。モモンガ玉を奪われて魂を咀嚼され死亡
モモンガ死亡から100年後:アイリス転移。敵討ちに世界を一度焼き払う。その後世界を再生させてから統一国家の君主に。紀年法を統一暦に定める。
統一暦200年:六大神転移。大陸の南方の温かい地域にアイリスの支援下で人間種を集めた街を創る。
統一暦300年:八欲王転移。アイリス協力の元、六大神が作った街の治安維持組織で働く
大体こんな感じになるルート