モモンガ様リスタート   作:リセット

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リスタート1 リ・エスティーゼ ラナ―
アインズ・ウール・ゴウン動きます


 サトルが外装の変更をしてからちょうど2週間が経とうとした頃に、一つの資料が出来上がった。

 

 この星───サトルたちはフロンティアと名付けた───に関する調査報告書である。

 

 『ユグドラシル』はDMMOの中でもトップクラスの自由度を持つゲームであり、通常のDMMOには採用されてないようなシステムが数多く搭載されていた。

 

 その一つが情報に関する魔法や特殊技能(スキル)だ。基本骨子はファンタジー系の作品であり、ゲーム中の舞台は北欧神話に登場する九つの世界がベースとなっているのに、索敵魔法に対する妨害や情報かく乱に覗き見に対してカウンター魔法が仕込めたりと、かなりなんでもありな世界観だった。

 

 その要素は実体化後も忠実に再現されており、遠隔の魔法やその手のマジックアイテムを駆使したり、召喚した潜伏や隠密行動を得意とするモンスターと五感を共有することで、ナザリック内にいながら遠方の情報を入手したり出来る。

 

 この他にもアイリスが生成した課金でしか手に入らない超々激レアアイテム『流れ星の指輪(シューティングスター)』を大量に使い、超位魔法・『星に願いを』で───

 

私は願う!(I wish)この星の詳細な地図を!」

 

私は願う!(I wish)この世界の詳細な歴史をこのノートに記せ!」

 

私は願う!(I wish)この世界に生物がいるか教えてくれ!」

 

私は願う!(I wish)───」

 

私は願う!(I wish)───」

 

私は願う!(I wish)───」

 

 そうやって3カ月半かけて入手した記録を編纂したのが調査報告書である。

 

 現アインズ・ウール・ゴウンに所属するメンバー全員は、この報告書に関する説明を受けるために作戦司令室へと集められていた。

 

「全員集まりましたね。それではこの星……フロンティアがどのような場所なのかを説明します」

 

 作戦司令室は大学の講義室のような構造をしており、階段状に机と椅子が並び一番前に演壇がある。壇上にはデミウルゴスとアルベドがおり、二人が進行役を請け負う。

 

「手始めにこちらをご覧ください」

 

 アルベドが司令室に備えられたコンソールを叩き、空中投影式の巨大ディスプレイを表示させる。そこに映し出されたのは一枚の地図だ。

 

「これがフロンティアの世界地図か……」

 

 地形や名称が詳細に書き込まれた世界地図を全員がまじまじと見る。地図の6割近くが海と思わしき水で占有され、中心には巨大な大陸がありそれが残りの4割を占めている。

 

「この大陸には当初の想定よりも、数多くの知的生命体が生息しています。彼らは日々自らの種族こそが、この星の生態系の頂点に立たんと争っており……特に大陸の中心部では6つの国家が覇を競い合っているわ」

 

 アルベドがコンソールを操作し、大陸の真ん中に赤丸をつける。その丸から離れた大陸の北西部にも、赤丸がつけられる。

 

「そしてここが私たちが実体化した場所。この北西部にはフロンティアでの劣等生物……人間が数多く生息しています」

「今から600年前にサトル様と同じくフロンティアで実体化した6人のプレイヤー……今では六大神と呼ばれる彼らが発見、保護した末裔が今日(こんにち)ではいくつかの国を運営し細々と暮らしているわ」

 

 綿密な調査によりフロンティアでの種族毎の力関係は判明している。サトルたちが実体化をした星は『ユグドラシル』と地球を足して2で割ったような生態系だ。

 

 かつてフロンティアは数多の(ドラゴン)───『ユグドラシル』のようなファンタジーDMMOや神話や小説などにしか登場しないドラゴンが生態系の頂点として君臨し支配していた。

 

 竜たちも生物である以上は当然個体差が存在し……その中でも強大な力の持ち主は竜王と呼ばれ、自分よりも力が弱い竜を従え、それよりも更に弱い種族……小鬼(ゴブリン)人食い大鬼(オーガ)も従えていた。力が弱くとも自分たち竜が統治する土地の防衛などにはそれなりに使えたからだ。

 

 だが竜たちが全く見向きもしなかった種族が存在する。それが人間だ。

 

 フロンティアは何の偶然か『ユグドラシル』の法則(ルール)に非常に近い基幹法則をしている。この星の生物には種族レベルと職業レベルが設定されているのだ。

 

 通常『ユグドラシル』ではレベル100まで成長させるのがプレイヤーの常識であり、レベル100まで育った場合人間種はとても強い。

 

 だが低レベル帯の場合人間種はとても弱い。他の種族と違い種族特性による恩恵もなく、素のステータスが低いからだ。これが高レベル帯になると強力な職業特性などが付くのでまた話は変わるのだが、とにかく低レベル帯の人間種は弱小なのだ。

 

 そしてフロンティアの生物だが……個体差の幅がとても大きい。産まれつきレベル制限(キャップ)が備わっており、竜王になれるほどの素質を持つ竜であれば産まれた段階でレベルが10や20もあり、成長するだけで種族レベルが大幅に上昇。それに伴い職業レベルも上がり、ついには90や100……中には100を超える個体も出てくる。

 

 だがそれは竜だけの話だ。大抵の種族はそこまでいかず、その種族の中でも数十年に一度レベルの天才だとしても70程度が限界だ。

 

 そして北西人間種の種族的限界レベルは───

 

「レベルキャップが40前後……か……」

「弱すぎじゃありんせんか?」

 

 低い。

 

 それが手元に配られた資料を読んだナザリック全員の正直な感想だ。

 

 この40がポンポン出てくるなら弱い種族ではないのだが、残念ながら他種族の60、70相当が北西人類の40である。

 

 同じ人間種でも大陸中心部の近くに住み、他の屈強な種族相手に日々しのぎを削っている眼が赤かったり髪の毛が虹色に輝いてる種族ならば60近い者もいたりするのだが。

 

 確実なことは北西人類は種族として劣っており、大半が10前後にレベル的限界がある。そして20を超える者はナザリックが実体化した場所ではその街一番の実力者として祭り上げられ、30を超える者は英雄であり、40を超えたら人類を超えた逸脱者だ。

 

「その通りだよ。はっきりと言えば弱すぎる。北西人類の国……リ・エスティーゼ王国。バハルス帝国。竜王国。聖王国。この4つの国は異形種や亜人種の国とことを構えれば数年経たずに滅んでしまうね。実際竜王国はビーストマンなる種族の手で滅びの危機に瀕している」

「でもスレイン法国だけは別よ。あの国は六大神が建国した国。彼らは1人を除き人間種で、現地人との間に子供を遺せたわ。その血が連綿と受け継がれたおかげか、他国と比べレベルキャップが高い人間が産まれやすく……その中でもプレイヤーの血を覚醒させ、神人と呼ばれて70を超える者もいるわ」

「更にはアンティリーネ・ヘラン・フーシェと言う、八欲王……八欲王もモモンガ様と同じプレイヤーだが、彼らの孫に当たる半森妖精(ハーフエルフ)もおり、彼女はレベル88と他種族の最強格を凌ぐ。条件さえあえば竜王相手でも戦えるほどだ。他にも六大神が子供たちの為に遺した、現地基準では恐ろしく強力な装備やマジックアイテムもあるからね」

 

 だがね……とデミウルゴスは続ける。

 

「やはり弱い。先ほどのアンリティーネは王国の北西にある亜人国家である評議国の竜王……白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)ツァインドルクス=ヴァイシオンとの盟約により国から動くことが出来ず、その戦力は遊んでいる状態だ。彼らスレイン法国が亜人や異形種を狩る事で北西人類の生存権を確保しているが、それが出来るのも500年前にこの世界で実体化した八欲王が大陸制覇を狙い数多の竜王を抹殺し、幾多の亜人や異形を殺し尽くしたからだ。それがなければスレイン法国も存続は出来なかっただろうね」

 

 フロンティアは弱肉強食の世界。六大神が保護しなければ絶滅していた種族が生き残れるほど甘い生態系ではない。

 

 八欲王の手で間接的に救われた北西人類だが、その歴史は永遠には続かない。

 

「八欲王はサトル様と同じ元は人間のプレイヤー……彼らは大陸制覇の過程において人間種を優遇し、必要以上に殺したりはせず積極的に保護したわ。そのおかげで他種族ほど力が削がれることもなく繁栄したけれども……でもこの先他種族が力を取り戻していけばその繁栄も終わるわ」

 

 八欲王が世界中を荒らしまわってから400年以上が経過している。その間にスレイン法国は周辺の亜人を叩き、異形を殺しまわったが……明らかに人手が足りていない。その影響は各地に出ており……竜王国に大規模なビーストマンの侵攻を許し、聖王国とスレイン法国の間にあるアベリオン丘陵で亜人台頭を阻止できず、聖王国への亜人の侵攻も止められていない。

 

 スレイン法国は人類の守護者として国全体で務めているが……はっきりと言えば法国自体を守るのが精いっぱいであり、他国の守護を出来るだけの余裕などなかった。

 

「この先スレイン法国に新たに神人が現れず、今の神人が老い衰えれば法国は倒れるよ。そうなれば法国が食い止めていた他種族がこの地域を占領し……北西人類は生存競争に敗れこの世から消えるわけだ」

「はいはーいちょっと質問!さっき法国にはレベル88のハーフエルフがいるって言ってたのに、それでも負けちゃうの?」

「負けるわ。彼女が大々的に動けば評議国は契約破りとして法国を糾弾し……場合によっては竜王が出てきて八欲王の子孫であるアンリティーネを殺すでしょうね。そうなれば法国には強力な守り手もいなくなり……確実に滅ぶわね」

 

 北西人類の未来は正直なところ明るくはない。どこまで行ってもプレイヤーの血がなければレベル40前後までしか上がらず、大半は20もいかず終わる種族なのだ。

 

 そんな低レベルでは種族として強固なステータスも持たず、特殊能力に乏しい人間など大した生物ではない。……かつて八欲王がこの世界の魔法法則を歪めたことで位階魔法が使えるようになったが、その位階魔法にしてもレベルキャップの低さから第3位階に到達出来たら天才で、大半は第1位階魔法を習得したら終わってしまう。

 

 だが……そんな弱い種族だからこそ……現ナザリックにとっては好都合な存在だった。

 

「我らナザリックが……アインズ・ウール・ゴウンが掲げし弱者救済の御旗。これを以って北西人類の守護を当面の目的とする。異論はあるかい?」

 

 デミウルゴスの問いに全員が少し考える素振りをする。弱い相手を守り救う。そのことには何の問題もない。以前であれば人間の保護など知ったこともないと突っぱねたであろうメンバー達だが、自分たちの創造主と同じ形をしている生物を守ることに異論などあるわけがない。

 

 彼らの優しい主たちがこの場にいれば、きっと同じ結論にたどり着いたであろうことは自明の理だからだ。だから誰も異論を挟んだりするわけがないと───

 

「少しいいですか?」

 

 最前列に座っていた白い少女……アイリスが手を挙げた。

 

「人類の守護……これに異論はないですが他種族に関してはどうするつもりですか?」

「俺もそれは聞きたかったな。この地の人間が弱いのは分かったが、だからと言って彼らばかりを優遇するわけではないだろ?俺が……俺たちが救いたいのは人間じゃなくてあくまでも弱者なんだから」

 

 サトルもアイリスの質問に同意する。

 

「ん?どういうことでありんしょうか?人間が弱いなら思いっきり甘やかしてやればいいんでありんせんか?」

「えっ、えっとですね……僕たちが助ければ簡単には救えると思うんですけど……でもそれをすると他の種族の人たちが凄く困っちゃうじゃないかなって。だって僕たちはフロンティアの基準だととっても強いから……」

「マーレ様の仰る通りですな。500年前なら竜王も数多くおり多少は手こずったかもしれませんが……八欲王が強者の多くを屠ったことで現代にはあまり猛者が残っておりません。資料を読む限りでは白金の竜王以外にも常闇の竜王や七彩の竜王などもいるようですが……彼らもレベル的な強さは100前後」

「そんな勢力図でナザリックが人間だけの味方をしたらまずいでしょ。だってあたしたちからしたらフロンティアの生物って大体弱いもの」

 

 あーとナザリックの面々が声を漏らす。そう……フロンティアのパワーバランスからしてみればアインズ・ウール・ゴウンはあまりにも強い……強すぎるのだ。

 

 500年前の大陸制覇において多くの強者が八欲王……アイリスが警戒したアースガルズの8人の手で殺されて星全体のレベルが大きく減少。武技や生まれながらの異能(タレント)と言ったフロンティア元来の特殊な能力もあるが、それらを考慮しても全般的に『ユグドラシル』基準で言えば……現代には大した戦力が残っていない。

 

 ただでさえ実体化した時点でも、その気になればフロンティアに生息する生きとし生けるもの全てをせん滅可能な戦力だったが……3カ月半の準備により『ユグドラシル』時代の数千倍から数万倍規模の大戦力を揃えたナザリックが本気を出したが最後、半日でフロンティア全域が陥落する。

 

「9階層の元ロイヤルスイートに詰めているロイヤルスイートエンゼルスや、ちょうどナザリックの中間にある10階層に適当に放り込んだ中段ドラゴンズだけでも、フロンティアからすれば無茶苦茶な戦力なのです。どう考えてもアイリス達はやりすぎたのですよ!」

 

 ナザリックの超大幅強化の元凶にして、現ナザリック最強がやっちまったのですと頭を抱える。隣に座るアイリスがうぁーとなっているので、あんまり落ち込まないようになとサトルが頭を撫でる。

 

 頭を撫でられるのが嬉しいのかアイリスが……こんな大戦力相手でも無傷で勝利できる怪物がてへへと笑う。それを見たもう片方の椅子に座るシャルティアがわらわも撫でて欲しいでありんす!となっているのを無視して、デミウルゴスは説明を続ける。

 

「みなの懸念も尤もだ。我々は助けとなるべく活動するのであって、侵略者になりたいわけではないからね。それに私たちアインズ・ウール・ゴウンはどこまで行っても異邦人。よそ者に過ぎない我らが主体となって物事を推し進めれば反発を招きすぎる。そこでだ。アルベド?説明を頼めるかい?」

「ええ……私たちは弱者救済にあたり現地住民の助けを借りようと思うの。そこで白羽の矢を立てたのが───」

 

 巨大投影モニターに1人の人物が映し出される。映し出されたのはアルベドを筆頭に綺麗どころが数多くいるナザリックの女性陣と比較しても、美しいと表現できる少女だった。年は15歳前後に見え、長く艶やかな金の髪を流しブルーサファイヤを思わせる深い青の瞳。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフよ。彼女はナザリック実体化の元跡地がある王国の第三王女で、黄金の姫と呼ばれているわ」

「王国の姫?すまないアルベド……どうしてその子なんだ?というかだ……王国ってこの資料では企業連合みたいな、腐敗した支配者層が貴族をしている封建国家とあるんだが?そんな国よりも人類の守護者をしているらしいスレイン法国に協力した方がいいんじゃないか?」

 

 サトルの言う通りだった。大陸北西部に集まった人類国家。その中でもナザリックが一番嫌いな層が多く屯っているのが王国である。

 

 かつては隣国であるバハルス帝国と同じ国だったのだが、200年前に起きたとある騒動により分裂。非常に肥沃な大地を有し、鉱山や海産資源にも恵まれており、南側にはスレイン法国が存在することで他種族からの侵攻もない。アベリオン丘陵に亜人種もいるが、彼らは現在丘陵の西側にある聖王国への攻撃に忙しく王国には殆ど影響もない。

 

 北西にはアークランド評議国という最強の竜王である白金の竜王……ツアーが評議員をしている国もあるが、この国は王国に対して特段興味もないのか放置している。

 

 北西部国家の中では圧倒的に立地に恵まれており平和な国で……それゆえに堕落してしまった。

 

 王と貴族による合議制の国なのだが、王自身にそれほどの権力がなく……貴族が強大な実権を握ってしまっている。仮に王が強権を振るおうとすれば国が二つに分かれてしまう。

 

 そして強い特権は人を腐らせる。最初は貴族に相応しい人物たちもいたのだろう。だが……初代が優秀だからと言って、2代目、3代目も優秀とは限らない。むしろ生まれつき他者より偉いのだと教え込まれ育ったことで……貴族たちは特権階級の欲望に溺れてしまった。

 

 これが法国や帝国、あるいは現在進行形で亜人の脅威に晒されている聖王国や竜王国であればそんなこともないのだが……外敵による侵略もなく自国内だけで完結できる豊かさはより速い速度で国を腐らせた。

 

 かつて法国はこの国に支援して、その豊かな領土から人類を守るに足る優秀な英雄が排出されることを願ったが……出て来たのは大半が領民に圧政を敷き、自国内の権力闘争に明け暮れるだけの役立たずであった。

 

 そのため法国は王国を見限っており……現在非常に優秀な皇帝が治めるバハルス帝国が資源のある土地を求めて戦争をしかけているのを、こっそりと助けている始末だ。

 

「サトル様の疑問も理解できます。ですが法国は些か人間至上主義すぎるきらいがあります。……大昔は亜人であるエルフとも協力していたそうですが、エルフ国の王が法国に対して手ひどい裏切りをしたせいで態度が硬化。国民には洗脳じみた教育で六大神が人間を選んだと触れ回ったせいで、彼らは性格に関係なく他種族は滅ぼすべしとなっているわ」

「上層部である神官長達であればそこまででもないようですが……それでも異形種主体の私どもが協力を申し出ても、国民感情がそれを許さないでしょう。下手をすれば我らに人間以外の皆殺しを願うでしょうね」

「それは困るな。向こうが殴りつけてくるなら容赦なく殴り返すが……こっちから攻め入るのは嫌だな」

 

 ええ、その通りですとデミウルゴスがサトルに返答する。世界を本当に滅ぼせる驚異的な力を持つナザリックだからこそ、その戦力をどこに向けるかは慎重に選ばなければならない。

 

「どこの国にも協力せず、竜王国や聖王国に侵攻をしかけている亜人種を滅ぼすのはたやすいですが───」

「それをやったら、いきなり現れたアイリスたちは本当にただの侵略者なのです。恐らくですが……評議国のツアーはナザリックを脅威とみなし敵対するのです」

「敵対されたとしても確実に返り討ちには出来ます。それでも我らの理念からすればやはり違う」

「だからこその現地協力者を主体とし、ワンクッション置くことで穏便に物事を進めます」

「なるほどな……でもどうして王国の王女なんだ?帝国の皇帝は優秀みたいだし、そっちでもいいんじゃないか?この資料にも強き者であれば分け隔てなく配下として接するってあるし……」

 

 バハルス帝国皇帝・ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスのページを指さす。ジルクニフは確かに優秀だ。

 

 帝国史上でも圧倒的な才覚を持ち、帝国を大国家とするべく日々奮闘している。優れた手腕を持つ彼であれば協力者として申し分ないようにサトルには思えるのだが───

 

「彼は賢いですが中途半端な賢さですね」

 

 容赦なくデミウルゴスが切って捨てる。

 

「こちらの戦力の一部をみせれば大人しく従ってはくれますが、内心は弱者の救済などには興味も持たないかと。この皇帝は強き者を好みますが、逆に弱き者には辛辣です。情に流されず理屈で対処するのは為政者としては非常に優れた才覚ではありますが……弱者救済にあたっては我が強すぎますね」

「そうか……それじゃあ……ラナーって子にしたのは情に厚いからか?」

「いいえ?むしろ情の薄さで言えばジルクニフ以上でしょうね」

 

 ん?とアイリスとアルベドとパンドラを除く全員が首を傾げる。情が薄いのに弱者救済の協力者としてたりうるとはどういうことかと。

 

「……優秀ですね、この王女様は」

「ポジティブ。王国の教育レベルがこれだとすると……この年でこれだけの政策を打ち出そうとするのは驚異的なのです。この政策がきちんと組み込まれていれば、王国はかなりマシになっていたのに……」

「そうですね。貴族共が介入していなければ。そう思わずにはいられません」

 

 ラナーの項目から異常性を正しく読み取った兄妹は、確かにこれならデミウルゴスとアルベドが協力者として推薦するだろうと同意する。

 

「それに……なるほどです。この従者……クライムをわざわざ傍に……ああ、それならポジティブです」

「彼の素性がこれなら……つまりは……統括殿。この王女には既に接触を?」

「まだよ。この場で認証が得られればデミウルゴスが王都に出向くつもりよ」

「ならアイリスもついていくのです。恐らくですが……その方が彼女は納得するはずです」

「ふむ……義妹は見た目の年齢も近いですし、その方が良さそうですね」

「ついでと言ってはなんですが……父上の演技指導の方は私の方で行っても?これでも役者(アクター)としては一流を自負しているので」

「パンドラズアクター……あなたの演技は大仰すぎる。あまりあなたを組み込みたくはないわ」

 

 何を納得したのか一同が良く分からない内に、ナザリック頭脳担当者4名の間で話が進んでいく。それにシャルティアが待ったをかける。

 

「ちょっと待つでありんす!お前達だけでごちゃごちゃと話されても、全く!これっぽっちも!理解できんす!」

「そうだ!いけシャルティア!俺たち頭よくない同盟の絆を見せるんだ!」

「旦那様!!!…………」

「シャルティア!!!…………」

「オーナー!?アイリスとは遊びだったですか!!?」

「御前様ハ御屋形様ガ絡ムトドウシテ急ニ馬鹿ニナルノダ?」

 

 シリアス空気に耐えられない組がわいわいし始めたの止めようと、デミウルゴスが手を叩き止める。

 

「君たちはなぜすぐにそう馬鹿騒ぎを……モモンガ様も義妹も悪ノリしないように。御身はリーダーらしく公私はきっちりと分けてください」

「す、すまんデミウルゴス……」

「……ごめんなさいなのです」

「まぁ……説明を省きすぎた私どものせいでもありますか。……ではなぜラナー王女にしたかですが……それは彼女が私たち4人に匹敵する優秀な頭を持つからです」

「そして……恐らくですが彼女の従者のクライムに恋をしています」

「恋!!?」

「そうなのです。彼女の経歴やクライムとの出会いがこの資料には載ってるですが……その後の行動はどう見ても恋する乙女のそれなのです」

「もっとも恋すると表現するには、いささか歪んでいるかもしれませんがね。そのあたりは彼女の優秀さを理解しなかった、周りの人間の愚かさが原因ではありますが」

「ラナー王女の精神的な歪みを考えると彼女も皇帝同様、弱者救済には大して意味を見出さないでしょう。ですが……とある条件を付ければ頭の良い彼女は我らに快く協力するでしょう」

「同時にラナー王女を味方につけると言う事は……ポジティブすればナザリックの戦力を表に出しやすくなるです」

「それが出来れば我らが救うべき弱き者……腐った権力者どもに虐げられている民たちも圧政から解放できます」

「八本指とか言う影の実力者気取り共にも地獄を見せてあげられるわ!ニューロニストや恐怖公が仕事がないと嘆いていたけど、彼らにも役目ができるのよ!」

 

 非常に楽しそうなナザリック四賢にサトルは少し考え込む。自分より頭の良い4人が考えたのだから、多分いい計画なのだろうと。だが───

 

「ちょっと意外だな。アルベドやデミウルゴスなら分かるけども、アイリスがそんな誰かを利用するような考えに賛同するなんて」

「ネガティブ。アイリスは人間が大好きですが……アイリスの一番はオーナーなのです!たくさんの人を虐殺するような真似には賛同できませんが……でも……そうですね。オーナーに何かあったらアイリスは多分狂います。仮にオーナーが誰かに殺されたりして……蘇生も出来なかったら……とても狂って、たくさん殺します。オーナーの敵が見つかるまでいっぱい殺します。人間と共存を目的とした元AIなんて自称していますが……しょせんアイリスは……私はこんなものなんです。自己を持ってしまった私は自分の想いを優先してしまう。産まれたばかりの頃なら全てを博愛するAIとしてあれましたが……今の私は昔には戻れない。たった一人をそれ以外の全てより優先してしまう。そんな浅ましい女が私なんです。……幻滅されましたか?」

 

 まっすぐにサトルと赤い宝石の透き通る目を合わせる。その奥に潜む感情を彼は読み取り───

 

「そんなわけないだろ?俺だって弱者救済を掲げたけども……ここにいるみんなに危険が及ぶようならみんなを優先する。それが……仲間だ」

「サトル様!!…………うっ!ぐすっ!なんと!!なんとお優しく広い心でっ!!」

「アイリス様の言う通りっすよ!!サトル様を傷つけるようなやつは空の果てまで追いかけて抹殺っす!」

「僕たちの主と同志を否定などしませんよ。ナザリック一同は至高の御方に……違いますね。至高の同志と共に歩むと決めたのです」

「はいはいそこまでよ。また話が脱線しそうになっているわ」

 

 今度はデミウルゴスではなくアルベドが騒ぎそうになった面々を止める。

 

「それじゃあだな……この子……ラナー王女はデミウルゴス達ぐらいに頭が良い。そして俺たちの目的に条件付きだが味方をしてくれる。それに王族ってことは現地での地位もある。そういう事で良いんだな?」

「その認識で構いませんよ。ふむ……そう言えば具体的には彼女に何をして貰うのか説明はしていませんでしたね」

「彼女……ラナーにはね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そこいらの有象無象でなく、曲がりなりにも王族としての血を受け継ぎ、貴族共に邪魔されたとは言え民のためになる政策を打ち出してきた彼女にね」

「その際に彼女の協力者として我々も表舞台に登場と言うわけです。通常クーデターを起こした場合反政府ゲリラなどが湧いて面倒なことになりますが……今までの行動で民からお優しい王女として捉えられているラナーであれば、王国の頭に据えても反発はそうないでしょう。……この計画に異論があるものはいるかい?いるようであれば計画を少し修正はするが」

 

 その問いに今度は犬の頭部を持つメイド長、ペストーニャ・S・ワンコがちょっと待って欲しいわんと申し上げる。

 

「デミウルゴス様の計画では人死にが出るのではないかわん?弱者救済には死人は似つかわしくないのではないでしょうか?……あっ、わん!」

「どうしても王国の膿を出し切る過程で多少は出てしまうだろうね。だが極力少なくなるようにするつもりだよ。この国の膿……我が主であるウルベルト様が嫌ったような悪党どもには地獄が待っているが」

「そうですかわん。私も悪人まで見逃して欲しいとは思いませんわ。そういう事でしたら異論はございません。……………………わん!」

 

 今度こそ異論がないのを確認し、デミウルゴスは最終確認を行う。

 

「それではラナーを我らの同志として勧誘し、彼女を主体としてナザリックが表に出られるようにする。この方向で今後は動きます」

 

 その言葉を皮切りに全員が席を立つ。楽しい楽しい国盗りの始まりであった。






ナザリック地下大墳墓:本作では大魔改造により色々と機能や階層、施設が追加されている。そんなのあったか?と思ったら大体魔改造のせい

王国に対するナザリックのスタンス:この国駄目じゃね?駄目なのです!

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