モモンガ様リスタート   作:リセット

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ラナーリスタート2

 宮殿には上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)のラナーを残し、<転移門>を潜り抜けて3人はナザリックへと移動した。

 

 <転移門>の先はナザリックのロイヤルスイートであった。

 

 以前であればナザリック内への直接転移は防衛上の問題から不可能であったが、アイリスがギルド管理システム『マスターソース』をウロボロスでリビルドしたことで転移対象に対する識別機能が追加され、この辺りの利便性が向上している。

 

 そんなことを知る由もないラナーは、初めてみる転移魔法とその先にあった光景に素直に感嘆した。

 

 知性の怪物とて知らぬことは数多くある。何のとっかかりもなく0から答えを出せる領域にあるわけではない。

 

 だから……彼女は未知を経験していた。知識と知性は想像の翼を広げ、脳内のキャンパスに色とりどりの美を描こうが所詮は幻想。1を聞き10を知ろうとも一見の前には儚いのだ。

 

 彼女が歩くのはロイヤルスイートのただの廊下。窓もなく全ての明かりは魔法で創り出されるお伽の通路。

 

 住処としているヴァランシア宮殿も王族の居城に相応しい豪勢さであり、調度品の数々は王国でも随一と言える品々が集まっている。

 

 だがロイヤルスイートのそれと比べればあまりにも劣る。ラナーが歩いている赤く長い絨毯はふわふわとしているのに、しっかり踏み込めば確かな手ごたえを返す高級品。使われている毛は天神の雌山羊(アマルテア)のドロップ素材。

 

 『ユグドラシル』を知らないラナーには、それが難度280のレイドボス……真なる竜王級からしか取れない貴重品が使われているとは露も知らず。だが視覚と触覚が、王国の国庫を全て解放しても手に入らない家財だと伝えてくる。

 

 壁紙が、何気なく置かれている台が、その台に置かれている壺が……どれ一つとっても希少な品であり、持ち主の桁違いの財力の証としてそこらに散らばっている。

 

 凄まじい。子供のような感想をラナーは抱く。それ以外にどう感想を抱けと言うのだろうか。

 

 ───この白髪が使用した転移の魔法……イビルアイが使えるそれよりもより上位の位階だろう。王国は魔法の研究が進んでいない。そのせいで私の手持ちの知識では何の位階までかは……5位階よりは上?帝国のフールーダは6位階……転移は5位階から?実力が読めない。それにこの豪華絢爛。六大神や八欲王と同じ世界の住人……これは思ったよりも上位の存在ね。神話の世界からやってきた未知の集団。弱き者の味方。私に何を求めているのか……王女としての地位に意味を見出した?こんな拠点を持つ存在が?()鹿()()鹿()()()

 

 二人の勧誘を呑みついてきたラナーだが、弱者の味方などそんな戯言は信じていない。

 

 弱き者は強き者に食われる。それが世の常なのだ。

 

 負けたら終わり。その次はない。

 

 弱き者の味方など本の世界の向こう側にしかありえない絵空事だ。

 

 ナザリックに連れてこられた事で強大な財力を保有していることと、自分とそう年が変わらないようにみえる少女が強力な魔法詠唱者なのも考察出来る。

 

 だから吟遊詩人が歌う神話や伝説の存在なのは信用している。

 

 だが弱者を助けるなどとそんな言葉は信用しない。信頼に値しない。世の中の全てを愚者だと見下し……クライム以外は使えるか使えないかだけで判断してきたラナーだからこそ……無条件な味方などいないと断言する。

 

 だから感嘆しながらも必死で頭をフル回転させて、目に見える情報から仮説を立て続ける。

 

 勧誘だと誘った彼らを利用するために。騙し嘘をつき時には本音を混ぜ望む未来を手繰り寄せるために。()()()()()()()()()()()()()()

 

「嘆かわしい事ですね。素直に見える状況に感動するだけでも人生は豊かになるだろうに。感心しつつもどこかで冷徹に分析をしパズルを組み立てる。王女殿下。あなたの生来の頭の良さは祝福であり……同時に呪いだね」

 

 デミウルゴスが心でも読んだかのように話しかける。見通していると言わんばかりの悪魔らしき眼鏡の言葉に煩わしいと思いつつも、ラナーは穏やかな顔で応対する。

 

「あら?それを読んでいても出てくる感想が私の心配……尻尾様はとてもお優しいのですね」

「これでも義妹(いもうと)や御方に恥じない義兄(あに)でいようと努めている身でね。私なりに他者に慈悲を以って接しようとしているのだよ」

「そうなのですね!それならまずは真っ先にお名前でも教えてくださればよいのに」

 

 どこまで発言しても許されるのかをラナーは手探りで検討する。自分の価値がどの程度重視されているのかを見極めなければと。

 

「デミウルゴスとラナーはもうポジティブさんなのですよ。とても良い事だとアイリスは定義します。でぃふぁにっしょんです!アイリスもせっかくなのでこうやって、いつも通りアイリスに戻させて頂くのです」

「……それがあなたの本当の喋り方なのね。自分の名前を子供のように連呼する。私も宮殿で馬鹿な姫を演じる時には、そうした方がよかったのかしら?」

「やめといた方が良いですよ?とても後悔するですから…………」

 

 皮肉でもなんでもなく、本気でやめておいた方が良いとアイリスは制止する。もはや癖として身についてしまった悲しき習性の修正を諦めている彼女の心からの助言だった。

 

 ───アイリスにデミウルゴス……それがこの二人の名前ね。尻尾の方をにいさんではなくわざわざ名前で呼んだのは私に対する意図があってのこと。あえて情報を渡している?だとしたら読みにくい。本当に読みにくい

 

 アイリスとデミウルゴスの能力に対して、ラナーは最大級の警戒をしている。

 

 彼女は自分以外は愚者だと信じて生きてきた。自分の演技も見破れない連中ばかりが周りを囲み、意味のない美辞麗句で褒め称えるだけ。

 

 中には兄であるザナックなどこちらの本性に気づき、接してくる奴もいるが彼だってラナーが何を考えているのかまでは読めていない。

 

 そんな中で突如として現れて強力な魔法を行使し、ずけずけとラナーの事情を言い当ててくる謎の兄妹。

 

 ───この二人相手に下手な化かし合いは命取りになる。ラキュース達のようにこちらは賢いだけの王女だと演じても騙されず簡単に見透かす手合い。……クライムに対する感情まで把握されている現状で何をしてもこちらには不利ね。それに……突破口がないわけではない。眼鏡の方は御方と言った。つまりは主人のような存在がいる。そちらを懐柔できればあるいは……

 

 協力者として勧誘され応じたラナーだが、初対面な組織を全面的に信頼などしない。とにかく今は彼らの協力者として働き王国を存続させる。そしてクライムを守り彼を完全に自分の物にする。それだけを念頭にラナーは自分の価値を示すのだ。

 

 3人はロイヤルスイートから下へと続く巨大な階段を降り、ドーム型の大広間へと出る。

 

 72体の悪魔を象った100レベルゴーレムと天井に張り付いている数百体のレベル90クリスタルモンスターとそこかしこに備えられた100レベルの盗賊ですら問答無用で即死させる罠が数千備えられた大広間……侵入したが最後あらゆる属性の攻撃魔法や妨害罠に晒されるナザリック最終防衛ライン『ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)』。

 

 そこを通る時点で精神の異形種を自認するラナーの背や腋に汗が噴き出る。

 

 何かがおかしいと。ラナーは既に味方だと識別されているため、この広間の防衛システムの脅威に晒されることはない。システムが起動していないのだからまだナザリックを知らない彼女が、この部屋の危険度を計る由などない。

 

 それでも……広間に入った瞬間にラナーの中にある生物としての本能が警告を発した。ここは何かがおかしいのだと。

 

「おや?そんなに背を震わせてどうしたのかね?……ああ、心配することはないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 デミウルゴスがラナーの肩をポンと叩き励ます。色々な意味を籠めた肩たたきに、思わずそこいらの小娘のようにビクッと彼女の体が反応してしまう。

 

「義兄さん?あんまり驚かしたら駄目なのですよ?ラナーが可哀そうなのです」

「おやおや私としたことがうっかりしてたよ。すまないね王女殿下様。君を怖がらせる意図はなかったのだが……やはり悪魔と人間では根本の部分が違うみたいだ」

 

 嘘をつけ。そうラナーは叫びたかった。自分は何かを間違えたのではないか。知性とか知能ではどうしようもない何かに巻き込まれてしまったのではないか。

 

 優秀さはラナーの意思に反して答えを出そうと脳に血を巡らせる。でも知識にない答えは出せない。思考は空回りする。王国で最も優秀な頭脳は世界を超えた答えにはたどり着けない。

 

 彼女が持つ女優(アクトレス)職業(クラス)が持つパッシブスキルはいかんなく発揮され、心の揺らぎを無視して優しき王女様の仮面を維持させる。

 

「着きましたです」

 

 ラナーの様子に気付きつつも、あえて無視してアイリスは短い言葉を口にする。

 

 ラナーの前にあるのは高さ50mほどになる両開きの扉。恐ろしく精密な彫刻で隙間なく埋め尽くされた見上げるほどの門に、知らず知らずの内に彼女の動揺は大きくなる。

 

 心のどこかで利用できるかも知れないと考えていた。だって自分は優秀なのだ。自分よりも優れた存在になど出会ったことがない。戦闘能力の面で見れば何人もいるが、彼あるいは彼女はラナーの想像を超える領域ではなく……言葉巧みに転がせば自分の思う通りに動いてくれた。

 

 でも……この扉を造れる存在たちとはなんだ。神話の住人……どこかで過小評価していた。まだ自分の理解が及ぶ範疇だと。

 

「ラナー……あなたがポジティブしたように、この先にはアイリス達の大事な大事なオーナーがいます。オーナーはとても優しくあなたを迎えてくれるです。オーナーの口からラナーにして頂きたい事も説明されるです。……準備は完了ですか?」

 

 ラナーは二人に主人がいるかどうかなど聞いてもいないのに、当然のように彼女なら勘付いているだろうとアイリスは確認してくる。

 

「問題ありませんよ。私はいつでも準備できております」

 

 ラナーの言葉にアイリスとデミウルゴスは目配せし、一つ頷き合う。二人が扉に手を翳すと自動で開いていく。ゆっくりと重厚さを伴った速度で玉座の間へと続く門が開く。

 

「ひゅぅ…………」

 

 ラナーから声が漏れる。どれだけ知能が高くとも……想像の領域を超えた光景とは簡単に理性を蒸発させる。ロイヤルスイートでも感嘆に値する代物の数々があった。先ほど通ったソロモンの小さな鍵(レメゲトン)も本能に訴えかける場所だった。だが……玉座の間に広がる数多の軍勢はそれらを凌駕した。

 

 巨大な竜がいた。竜に負けぬ巨体の全身鎧の騎士がいた。輝く毛並みを持つ神獣がいた。その身を黒と紫のオーラに覆われた不死者がいた。純白の翼を持つ天使がいた。憤怒の形相をする悪魔がいた。アルカイックスマイルを浮かべる菩薩がいた。スライムが、妖精が、精霊が……誰も見たことがないような者まで含めて多くの種族がその場には集められていた。

 

 全てが難度240越えの力を持つ怪物。たった1体でもこの場から解き放たれれば、法国以外の人間国家を蹂躙し滅亡に追い込める魑魅魍魎。それらが無数に……ラナーは千まで数えたところでこれ以上は無駄な作業だと、脳の冷静な部分が切り上げる。

 

 ───まずい。こんなのは想定していない!こんな怪物しかいないなんてっっっ!

 

 ラナーには戦士としての経験などなく、一見しただけでどれほどの力量を有するのかまでは計れない。そんな彼女でも桁が違うと分かる圧を持つ軍団がそこにはあった。

 

 彼らは開いた扉の先にいた3人に視線を向けてくる。その目には敵意などなくラナーの両隣にいるアイリスとデミウルゴスに対して、「うっすお疲れ様です」「あっ、その子が新人の子っすね」とでも言いたげな感情が籠められている。ラナーに対しても「今後ともよろしくな!」な雰囲気を発している。

 

 そんなフランクな空気でも、人間の基準で見れば桁が壊れた怪物しかここにはいない。もし連れてこられたのがラナー以外であれば、この場で自決を選んでいてもおかしくはない。精神の異形種である彼女にしても、本能がこの場から立ち去れと理性に訴えかける。

 

「行きましょうか」

「分かりましたわ」

 

 デミウルゴスの言葉に従い本能をねじ伏せて玉座の間の奥へとラナーは歩みを進める。鼻息一つで彼女を殺せる怪物達の前を通り抜ける。

 

 広間の奥には玉座があり、手前には短い階段がある。その階段に立つ7人と玉座に座る人影に今度こそラナーの心が折れかける。

 

 階段に立つ7人とはアルベド、パンドラ、マーレ、アウラ、コキュートス、セバス、シャルティアである。彼女らからは玉座の間に集められた怪物達と比較してもなお遥かに上と分かる、強大過ぎる力が圧となって漏れ出していた。

 

 そして……それすらも超える存在が玉座には座っていた。ラナーには眉目秀麗な男性にしか見えない存在。赤口の眼と黒い髪を持つ偉丈夫。黒いローブの上からでも鍛え上げられていると分かる体格。仮に王都を歩いていたら女性が騒ぎ立てそうな男前。だが人間ではないと分かるほどの……隔絶したオーラ。玉座の間に集められた軍団や、階段に立つ超越者を超えた幹部格を従えるに相応しい風格を醸し出す天上の神がそこにはいた。

 

「その子がラナー殿下か。よく連れてきてくれたな二人とも」

「この程度造作もないことです」

「アイリスと義兄さんは頑張ったのですよ!」

 

 天上の神、すなわちサトルがアイリスとデミウルゴスに労いの言葉をかける。

 

「それではアイリス達は定位置へと移るのですよ」

 

 ラナーの傍を離れた二人……デミウルゴスはアルベド達と同じく階段に、アイリスはサトルが座る玉座の傍に。

 

「これを外すのを忘れていたね。義妹も外したらどうだい?」

「ポジティブ。ここなら隠す必要もないのですよ」

 

 デミウルゴスは手袋を外し、その下に嵌めていた指輪を……能力隠しの効果を持つ指輪を外す。途端彼からも階段に立つ7人に負けない極大の力が漏れ出す。

 

 アイリスも同じく右手に着けていた指輪を外して……力があふれ出す。

 

 玉座に最も近い9人……円卓会議に参加したNPCたちはサトルと同じくアーティファクトによりボス化を果たし、世界級エネミーの領域に踏み込んでいる。それゆえにこの場にいる通常の傭兵モンスター達とは雲泥の力の差があり……それが物理的な圧となってラナーの身に降りかかる。

 

 ───あ……の二人は幹部格!!それも白い女……アイリスとやらは立ち位置からしてあの玉座に座る神の最側近!!まずい……あまりにも読み違えて……

 

「さて……まずは私の勧誘に応えてくれたこと、心から感謝を申し上げる。私はこのナザリック地下大墳墓の主、鈴木悟だ。ああ、そちらの自己紹介は不要だ。ラナー殿下にとっては不快かも知れないが、私どもは君について入念に調査しているのでね」

 

 圧倒的な力の波動とは裏腹に、落ち着いた声色に少しばかりラナーの心が楽になる。誰にも気づかれないように胸を撫でおろし彼女も返答する。

 

「こちらこそお招きいただき誠にありがとうございます。若輩ながらこの身が御身らのお役に立つと、アイリス様とデミウルゴス様より伺っております」

「うむ……私たちナザリックの目的が弱者の味方とは聞いているか?」

「存じております」

「結構。……と言う事は六大神や八欲王と同じ世界の出身だと知っているな。それを前提に話させて貰うが……私や彼らの世界は滅びていてな。その際に時空転移なる現象に巻き込まれ、この世界へとやって来たのだ」

 

 「こんな連中がいて滅びる世界とは一体なんだ!?」とラナーは思ったが、それはおくびにも出さず頷き一つ返す。

 

「もはや我らは故郷に帰れぬ身。この世界で生きていくことを余儀なくされている。そこで前の世界と同じ弱者救済を行うことを決めたのだが……一つ問題が生じてしまった。───ラナー殿下には我らの軍団はどう映る?」

 

 サトルが玉座の間にいる異形の集団を左から右へと指さしていく。フロンティアにはいない凶悪な化け物を次から次へと。それに釣られてラナーも改めて周りを見渡す。

 

「恐ろしく強い力を持つ軍団だと感じます」

「その通りだ。この世界に生きる者たちの武力や戦力も調査したのだが……それと比較すると些か過剰すぎる力を保有している。さて……この状況で弱者救済となると一体誰を助けるのが正解なのだろうか?なにせ我らからしてみれば誰もが脆弱だ。そこで着目したのがかつて六大神……我らと同じ世界からやってきた彼らが保護した人類の末裔……すなわちラナー殿下を含む人類国家の諸君だ」

「御身らの恩寵を賜れる事、人類を代表して感謝申し上げます」

 

 ラナーは自分達人類が弱い種族であることに、あるいは自分が頭脳を除けば小鬼(ゴブリン)一匹にでも負けるような小娘であることに感謝していた。弱くなければ彼らナザリックとは接触することはなく……この軍勢を相手にして、この世から消え去っていた可能性もあるのだと理解できてしまったから。

 

「人類国家を救う事を決めたのは良いが……更にもう一つ問題が生じてな。それは何か分かるか?」

 

 試すような物言いにラナーは即答する。

 

「私の故郷……リ・エスティーゼ王国ですね。周辺国家と違い内部分裂を起こしかけ、御身らの救済に対し後ろ足で泥をかける可能性が非常に高い愚かな貴族が多数いるからです」

「うむ。バハルス帝国は若く優秀な皇帝が国の手綱を取り上手く運営している。スレイン法国は国教のもと一致団結し国の繁栄に努めている。竜王国もビーストマンの脅威に晒されてはいるが、王女の献身的な活動により国としては団結している。聖王国も多少の問題はあれど、聖王女の指導の下亜人への侵攻に対し上手く対処している。だが……ラナー殿下。君の所属する国家は国として破綻している」

「御身の仰る通りです。八本指なる犯罪組織が裏社会で大手を振って活動し、また貴族は彼らから賄賂を受け取り腐敗するばかり。私の父ランポッサ三世は軽んじられ、国が二つに分かれないよう彼ら貴族の顔色を伺うしかありません。バハルス帝国皇帝ジルクニフはそのような事は当然読んでおり……収穫の時期を狙い戦争を仕掛け、国力が落ちるのを待っています。そうなれば王国は───」

「よい。その先は言わなくてもな。……そうなれば多くの人間が死ぬだろう。だが私は我儘でな。君たち人類を救うと決めた以上、より多くの民に幸福を享受させるつもりだ。だがな……ここで最後の問題が出てくるわけだ。それは無論……分かるだろう?」

 

 最後の問題とは何かと問われラナーは少し熟考する。ヒントは多く散りばめられている。彼らナザリックは強大である。彼らは異邦人である。わざわざラナーを勧誘している。そして……信じがたい事に本当に弱者救済を謳っているらしい。それらを線でつなぎ合わせていけばおのずと一つの答えにたどりつく。

 

「御身らは侵略で来たわけでなく、あくまでも災害に巻き込まれたのですよね?そして私ども人類を助ける事を決められた。その過程で現在の王国では問題だと判断され……私を勧誘されました。サトル様達であれば訳もなく王国を滅ぼせるはずなのにそれはしなかった。つまりは王国の改革を期待されている。そのための私なのですよね?」

「良く分かっているじゃないか。……ここに集めたのは私が持つ戦力のほんの一部だが……これだけでもこの世界を滅ぼしてゆうにおつりがくるだろう。だがそれはしない。ラナー殿下が言った通り侵略ではなく救済だからな。……我が腹心アイリスよ!君からも説明してくれないか?」

「ラージャ。……王国には様々な問題がありますが、その問題の殆どは強い王がいれば解決できる物ばかりです。ですのでラナーにはアイリス達協力の元、女王になって貰います」

「反乱を起こすのですね。ですがそれだと問題がありませんか?御身らがどこから来たのか説明が出来ませんよね?」

「ポジティブ。ですのでラナーにはこの後義兄さんやセバス主導の元、少しばかりの訓練を積んでもらいます。そして強くなったあなたは一つの村を救います」

「村?……それは……私に話してくださった王国戦士長、ガゼフストロノーフに関係する物ですか?」

「ポジティブ。ガゼフの暗殺を計画している法国は、近々帝国との国境沿いに位置する村を襲い彼を誘き出そうとするです。そこで強くなったラナーは村を救いガゼフを助けます。そのタイミングで私たちは異界から流れ出しここにたどり着いたかつての仲間の生まれ変わり……すなわちラナーを見つけ出し今は王女としての立場にあるあなたの協力者だと登場するですよ」

「ラナー殿下。君は幼少期からその優秀さを遺憾なく発揮し……周りからは疎まれていたと聞く。そんな君は生まれ変わりなのだと説明するのに()()()()()。別世界の生まれなのだから、子供らしからぬ明晰さを併せ持っていたのだとね。そして……女性軽視の王国では立場故に重宝されることはなく……どこかの貴族に嫁がされる道具としてのみ重宝される日々!しかし───」

「私は実は御身らの世界の生まれであり……前世の記憶とでも言いましょうか?それを持っていてこの国を変えようと邁進していた。でも頭脳以外では小娘の身体能力や立場しかない私では何もできず……そこにかつての仲間であるサトル様達が現れた。そして私は訓練によりかつての力を取り戻し……その力とあなた方の協力を借り王座を簒奪し王国の女王として立つ。そういう事なのですね」

 

 その言葉にアイリスとサトルは何も返さない。沈黙は金。それが答えだ。

 

「王座を手に入れた私は王として上に立ち……クライムに私の従者として相応しい地位も授けられる。そうなのでしょう?」

「……クライムくんか……それは少しばかり違うな。アイリスは仲間として勧誘すると言っていなかったか?君が村を救ったタイミングで女王の従者として彼も我らの同志となる。そうなれば……私どもは君と彼の仲を祝福するつもりだ。それが協力者となってくれる君への返礼だ。どうだろうか?」

 

 どうだろうも何もあるかとラナーは毒づく。こんな軍団をみせられて……クライムの事まで条件に出された上で断れるわけがない。だって彼らが提示した条件はあまりにもラナーにとって魅力的なのだから。実は肝心な部分で反故にする可能性も無きにしもあらずだが……それはないだろうと結論づける。

 

 最大の理由はサトルが持つ余裕の態度。あまりにも隔絶した実力者。それが態々ここまで穏やかな態度で接してくる。やろうと思えば二重の影のラナーを用意してみせたように、王国の貴族全員を彼らの所有物として挿げ替える事も出来るだろうにそれはやらず。あくまでも彼女に対し気遣いを見せる彼を少しは信用しても良いだろうと判断したのだ。

 

「その申し出心から承りました。我が力御身が持つそれに比べれば遥かに微弱ではありますが……誠心誠意仕えさせて頂きます」

 

 ラナーが申し出を受けた事に鷹揚に頷き、サトルはデミウルゴスに目配せする。

 

「では王女殿下様。あなたには私について来て貰いましょう。法国が村を襲うまで10日間は猶予があるからね。それまでに我らの元仲間にある程度見合うだけの実力は身に着けて頂こうか」

 

 デミウルゴスに連れられてラナーが玉座の間を去っていく。それを見送ったサトルは───

 

「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!つっかれたぁ…………」

 

 強く見えるように噴出させていたオーラを解き、玉座の上でぐでーとなる。

 

「みんなもご苦労。もう楽にしてくれていいぞ。解散だ解散」

 

 上手くいった良かった良かったと、玉座に集められていたモンスター達も転移でこの場から自分たちが普段詰めている階層へと消えていく。

 

「良かったですねオーナー!これで弱者救済の一歩を確実に進められたのですよ!」

「お疲れ様ですサトル様。こちらにハーブティーを用意させておりますので、どうぞお召し上がりください」

 

 アルベドの合図と共に<転移門>が開き、一般メイドの1人シクススがティーセットと共に潜り抜けてくる。彼女からハーブティーを受け取り、香りを楽しんだあとサトルは一口含む。

 

「こんな集めて大仰にやる必要があったのかな?普通に応接間に通してお茶を振舞ったりでも良かったんじゃないか?」

「それだとラナーはあんまり納得しないのですよ。多分ですが……アイリスたちの持つ力の一端をみせた上だからこそ、協力者として納得してくれたのです。ですよね?」

 

 アイリスがアルベドに同意を求める。

 

「そうなのです。あの子を念入りに調査しましたが……他人の利用価値だけで判断する節が見受けられたの。そうなると私どもがどれだけの規模なのかを見せつけた方が良いと判断したわ」

「そうなのか……あんな小さな子がそうなったのも理由があるんだよな?」

「ポジティブ。結局のところ周りが無理解だったが故に心を閉ざしてしまってるのです。クライムにだけは執着はあれど、確かに愛情を持ってはいます。ですが……それ以外に関してはあんまり関心がないです。でも───」

「だからこそ……クライム君との仲を条件に出されたら俺たちの計画に協力をする、か。弱者救済であって正義の味方ってわけじゃないが……いかんせん上手くいかないもんだな、本当に……」

 

 頭をふってサトルは「はぁっ」とため息をついてしまう。

 

「どちらにしろ賽は投げられたのです。後はどんな目が出ようとも、ナザリックは進むだけなのです。今から10日後。4つある候補の内どこを選ぶかまではまだ検討段階ですが……法国の特殊部隊『陽光聖典』。彼らが動き出すときがまたアイリス達が動く時なのです。それまでは……アインズ・ウール・ゴウンは長期休暇とし3ヵ月間の疲れをとるのです!」

 

 アーシマ、カルネ、マルーラ、バーハ。この村のどこが襲われるにせよ……その時が新生アインズ・ウール・ゴウンのお披露目となるだろう。






王国:ナザリックが来ようが来なかろうが帝国・法国に目を付けられていた時点で滅ぶのが確約されていた国。負債が多すぎる

原作の王国が助かるプラン:ガゼフ・ラナー・レエブン・ザナックが本気で協力しあいバルブロが死ねば強力な国になれる。なおガゼフはアインズ様がいないと……

ラナー:原作では国を売り滅ぼした邪悪なディズニープリンセス。でも王国が滅んだ要因は滅国の馬鹿のせいなのであんまり邪悪って言われても良く分かんない子

ナザリック戦力:無制限世界級アイテム&石橋を叩き壊してから迂回する連中に時間を与えてはいけない

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