モモンガ様リスタート   作:リセット

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初めての殺人

 その少女にとってその日は普通の日になる筈だった。いつも通り『漆黒の剣』のみんなと冒険者組合で依頼を受けて、いつも通りエ・ランテルの近くに出没するモンスターを退治して日銭を稼ぎ、いつも通り安めの宿で一泊し明日を迎える。それだけの変哲もない日になる筈だったのに。

 

「こんばんわなのですよ」

 

 少女を抱きかかえたのはおとぎ話から飛び出して来たかのような、小さく白く整い過ぎた顔を持つお姫様だった。クレマンティーヌに襲われかけた少女より小さな少女。だが少女を抱く腕はピクリとも震えることなく、女の子とは言え人間一人を抱えているとは思えない剛力を感じさせる。

 

「あ、あのすいません!降ろしてくれないでしょうか」

 

 状況は一切が不明だが、自分よりも小さな子に抱えられたままと言うのは色々と不都合なのか少女は頼み込む。

 

「分かりました。ささ、どうぞ」

 

 クレマンティーヌに向けていた無感情な目を消し、アイリスは少女へとほほ笑んだ後、彼女を地面へと降ろす。アイリスの隣へと立つ形になった少女はまじまじと彼女の全身を観察する。

 

 高級だと一目で分かる真っ白なドレスに身を包み、非常に上等な衣服すらも霞むような気品と美しさを持ったアイリスに状況も忘れ少女は見惚れてしまう。同性の少女ですら意識を数瞬持っていかれるそれは、さしずめ美の暴力だろうか。

 

「怪我はありませんか?」

「えっ…………あっ、はい。その…………あなたは誰なのでしょうか…………」

 

 特に傷を負ったりはしていない少女は、まず自分を抱きかかえたアイリスの正体を探ろうとする。少女からすればいきなり話しかけてきて殺す宣言をした金髪の女も、度を越した美を持つ白銀のアイリスもそう大した差はないのだから。

 

「私ですか。私はアイリス。アイリス・リンウッドと申します。本日エ・ランテルへと引っ越して来た者です。それで…………あなたの名前はなんでしょうか?」

「……私は……ニニャと言います」

 

 特に躊躇することもなく返答したアイリスに少女も名を告げる。その名前に、正確には彼女の生まれながらの異能(タレント)と、限界レベルの高さに覚えがあったアイリスは「この子が……」と少しだけ目を見開く。調査報告書には数行の情報しかなく、クレマンティーヌやラナーと違い顔までは知らなかったからだ。

 

 そんなアイリスの心情など知る由もなく、ニニャの疑いの目は晴れない。アイリスは名を名乗りエ・ランテルへの移住者だと説明したが、それが自分を抱きかかえた理由には一切繋がらないから。

 

 ニニャの動体視力ではクレマンティーヌの刺突は全く捉えられず、その刺突にすら一切触れさせずニニャを助け出すアイリスの速力……ただでさえナザリック最速だった彼女はワールドスキルを抜きにしても、ボス化によりさらに上の領域へと達している。そんなアイリスが助け出したせいで、ニニャには自分が間一髪のところを救われた自覚が一切ない。

 

 ゆえにアイリスに対しても警戒をする。その反応にとても正しいとアイリスはうんうんと分からないように頷きつつも、どうしたものかと悩む。

 

 ニニャが刺された後であれば、クレマンティーヌから颯爽と助け出した救世主に成れただろうが、アイリスは善人が傷つけられそうになっているところを見逃せる性格ではない。例え自分が不都合な立場になったとしても、事前に庇わないなど選択肢にはない。

 

 ではニニャにどう説明したものか。アイリスは脳内でシミュレーションをしてみる。

 

「あそこにいる女性は知人でして……人を殺すのが好きと、ちょっとお茶目な趣味があるのです。偶にああやって発作的に人を刺し殺そうとするので止めるのが大変なのです」

 

 却下だ。これが通ったら絶望しかないとアイリスは首を振る。殺人趣味に理解を示して知人であろうとする人物は、間違いなくそいつも狂人の類いだ。ではこれならどうだろうか。

 

「実はあの女性はスレイン法国の六色聖典なのですが……法国の秘宝を盗んで現在逃亡中の指名手配犯です。偶々この街で見かけたので後を追ってきたところ、ニニャが襲われそうになっていたので助けました」

 

 事実しか喋っていないが、やはり胡散臭いのでこれも却下だ。第一どうして旅人がそんな事を知っているのかと問われたら誤魔化すのが大変難しい。なのでアイリスは説明を放棄することにした。今するべきはこれ以上被害者が出ないようにクレマンティーヌをどうこうすることであって、ニニャに懇切丁寧に教えてあげることではない。

 

「本当は色々と説明してあげたいのですが、あまり時間がありませんので。今度またお会いしましたら、その時に今日何があったのか教えてあげるのです。それでは」

 

 ニニャが何かを言おうとしたが、その前にアイリスの指が軽くニニャの額を軽く叩く。事前動作のないデコピンに思わずニニャは目を瞑ってしまう。冒険者としては致命的なミスだが、技量がニニャより遥か上にいるアイリスの攻撃なのだから仕方もないだろう。

 

 ほんの一瞬とは言え視界を閉ざしたニニャが再度目を開いた時には───

 

「えっ?ここ……?」

 

 先ほどまでいた路地裏ではなく、ニニャも良く見知った中央広場の一角にいた。周囲を彼女は見渡すが金髪ボブカットの女性も、おとぎ話から飛び出して来たかのような白い美姫も見当たらない。

 

「……幻でも見ていたのかな?……」

 

 アイリスが転移系の魔法で飛ばしただけなのだが、無詠唱かつ高位階の魔法を使われたことでニニャには自分に対して魔法が使われた自覚がない。

 

 首を傾げる男装少女は、後日アイリスと再会した時に今日の事が白昼夢ではなかったのだと気づくのであった。

 

 

 

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 アイリスが現れてからニニャが転移で飛ばされるまでの間。クレマンティーヌは一切口を開くこともなく、その場から動くこともなく、ただスティレットを片手に立っていた。

 

 クレマンティーヌ自身にそうしようと思う意図があったわけではない。彼女はいきなり現れたアイリスに対し、内心困惑しつつも状況に対処はしようとした。

 

「あらー。どこのお嬢様かなー。私を睨みつけてどうしたいのかな?」

 

 そんな風に話しかけようと口を動かした瞬間───クレマンティーヌの舌が二つに裂けた。

 

「っっっッッっ!!?」

 

 クレマンティーヌの背に悪寒が走り、腕に鳥肌が立つ。慌てて自分の舌を動かして確かめる。裂けてはいない。一切傷などない、綺麗な舌が確かにあった。その事にクレマンティーヌは疑問を覚える。彼女の感覚では自分は攻撃された。なのに現実にはそんな事は起きていない。

 

 理解不能の現象にクレマンティーヌの額に汗が浮く。分からない。何も分からない。だが何か嫌な予感はしていた。だからその場から逃走しようとして……今度は足首から先が無くなった、ように錯覚した。

 

 今度こそ全身に汗が噴き出る。現実には何も起きていないのに、クレマンティーヌにははっきりと自分の脚が千切られた未来が見えたのだ。

 

「ッ……はぁっ!……かはぁ!!……」

 

 呼吸が乱れる。喉がひりつく。何かが起きているのに、何が起きているのかクレマンティーヌには全く察知できない。だが推測は出来る。いきなり現れた小さな少女。あれが何かをしているのだろう。そうに違いない。

 

 あの少女は魔法詠唱者で、幻術で自分に幻を見せている可能性がある。詠唱をした素振りは見えなかったが、何かしらのマジックアイテムを代償にさせたのかも知れない。あるいは生まれながらの異能(タレント)か。その手の知識に、クレマンティーヌは元々所属していた組織の都合上ある程度詳しい。

 

 ───糞が。お前の前にいるのは英雄の領域に到達したクレマンティーヌ様だぞ!!何余裕酌酌って面で目線を外してやがる!!

 

 何かしらの意図を持ちながら横やりを入れた当人(アイリス)が、クレマンティーヌから視線を外してニニャに向けている事に苛立ちを覚える。

 

 お前如きに意識なんて向ける必要もない。態度からそう言われているのだとクレマンティーヌは読み取り、激情が湧いてくる。

 

 ───舐めんなよ小娘が!魔法詠唱者(マジック・キャスター)がこの距離で戦士相手に舐めプ(油断)とかしてんじゃねえよ!!

 

 クレマンティーヌにとって侮られること以上に苛つくこともない。

 

 殺す。

 

 あの綺麗で端正な顔をぐちゃぐちゃにして二度と見れない面にしてやる。それよりも動きを封じて上で顔が涙や鼻水塗れになるまで拷問してやってもいい。相手が魔法詠唱者でどんな手札を持っていようが関係がない。ニニャを刺突から助けた方法も、自分に幻覚を見せた方法も判明はしていないが近距離戦で戦士が魔法詠唱者に負けることはない。それが世界の常識だ。

 

 脱力からの緊張。クレマンティーヌが得意とする、瞬時に最高速度にまで達する技術を使おうとした時……体が脱力しなかった。

 

「?…………??」

 

 いつものように力を抜こうとしているのに、体が全く反応してくれない。関節も筋肉も強張りガチガチに固まったまま、意思に従おうとしてくれない。

 

 「なんで!?」とクレマンティーヌが思い、何度も脳が全身に命令を送るが……命令に従おうとしてくれない。そうやって固まっている内に、ニニャがアイリスの転移魔法で中央広場へと送られる。

 

 それにクレマンティーヌは気づかない。そんな場合ではないのだから。

 

 コツン。コツン。

 

 ニニャを送ったアイリスが石畳に足音を響かせて近づいてくる。その間にもクレマンティーヌは体を動かそうとするが、一切反応してくれない。彼女の鼓動が大きくなる。動悸が激しくなり、目がグルグルと回り、チカチカと明滅する。

 

 コツン。コツン。コツッ……。

 

 一歩前に出れば手が触れるところにまでアイリスが近づく。彼女の視線にはいつも浮かべている楽し気な空気は何一つなく、小さな子供に買い与えられる人形の方がまだ光があると思わせる、無感情な目をクレマンティーヌに向けている。

 

 深淵の底に覗かれていると、クレマンティーヌは覚えさせられる。赤く透き通った眼なのに、どこまでも深い底なし沼だと。

 

「今から『威嚇』を解除しますが……攻撃、挑発、逃亡。……いずれかのネガティブな動作を行おうとすれば、再度『威嚇』を開始します。出来る限り暴れるような真似はしないでください」

 

 アイリスの言葉と同時に、クレマンティーヌの強張っていた体が突如として制御を取り戻す。全身の力が抜け、ペタリと彼女はへたり込む。

 

「ぜぇっ……。はぁっ……。げぷぅ……!!うぇええええ!!!……おげぇええ!!!」

 

 クレマンティーヌの意思を無視して体が嘔吐を繰り返す。胃の中身を全て捻りだそうと、何度も吐き出す。彼女自身が知らぬ内に与えられていたストレスに耐えかねての行動だ。

 

「お……まえ。私に……私になにをしやが…………何をした!!」

「『威嚇』ですよ。こちらに近づくな!、とか動いたら殺す!、と怒鳴りつけたりして、相手の行動を制限したり。それと同じことを気当たりで行ってみただけなのですが……あなたの反応を見る限りでは、想定以上に効果的だったようですね」

「はぁっ……。はぁっ……。気当たり?……はぁっ。なんの話を……はぁっ……してやがる……」

 

 体に力が入らないクレマンティーヌは座り込んだままアイリスを睨みつけているが、眼には何の力もなく、良く見れば瞳孔が不規則に収縮を繰り返している。

 

 それらに対して、アイリスは自分の『威嚇』が想像以上にこの世界では有効であると判断した。

 

 『威嚇』。それはアイリスの技量由来の特殊な技術である。

 

 ナザリックには近接技量の高い者が多い。その中でも達人と呼べる者は3名。コキュートスとアルベドとセバスだ。この3人は創造主からフレーバーテキストとしてそれぞれ防御術、武器術、格闘術において随一と設定されたおかげか、実体化の際に非常に高い練度の技量を獲得している。

 

 だがこの3名でも、技量の一点においてアイリスの足元にも及ばない。彼女は地球にいた頃に『ユグドラシル』でサトルをサポートするために、専用の戦闘プログラムを作成しアバターに組み込んだ。全盛期の処理能力を有したアイリスが作成した戦闘用のプログラムを、だ。

 

 それは実体化に伴い彼女の技量として昇華され……アイリスは人類が数万年かけても、辿り着けるかどうか分からない領域の武術を獲得した。例えばシャルティアと組み合った際に、100トンを持ち上げる彼女相手に、100キロ持ち上げられるかどうかの腕力で10秒は拮抗してみせたり。

 

 ステータスを1レベルの人間と同等に落とした状態でも、セバスとコキュートス。両名の本気の打ち込みを、このタイミングで来るだろうなだけで逸らして捌ききれる。その領域に……武神と呼んでも差し支えの無い場所にアイリスは立っている。

 

 そんなアイリスがクレマンティーヌに対してやったのは、危機防衛反応を刺激するフェイントだ。今から攻撃するぞと殺気を出して、生物の防衛本能を強く刺激した。武神級のアイリスがそれを行うと、相手の脳を委縮させ、あたかも実際に攻撃されたかのように錯覚すらさせられる。

 

 結果としてクレマンティーヌは当人が気づかぬうちに強いストレスに晒され、死が直前にまで迫ったことで怯えた体が動きを止めた。それがアイリスの行った『威嚇』の正体だ。

 

 アイリスもわざわざ『威嚇』の原理を説明する気はないため、クレマンティーヌには一生をかけても理解は出来ないだろう。もっとも……彼女の一生はもう終わるのだが。

 

「ではオーナー。無力化は済ませましたので、あとはお任せします」

「ああ。任されたとも」

 

 低い声がクレマンティーヌの後ろから聞こえてくる。全身に気怠さが残る彼女は、座り込んだままノロノロと後ろに振り返る。

 

「ひぃ!!あっ…………あ、ああ……」

 

 いまだに当人が気づかぬだけで、『威嚇』による死の気配が頭に残っているクレマンティーヌは、殺気に対してひどく敏感になっている。だから振り返った際にいたサトルとコキュートスに……深い闇のオーラを放つ偉丈夫と、強烈な戦気を纏った蒼い魔獣に尋常ではない反応を見せる。

 

「初めまして、はよしておこうか。クレマンティーヌ。お前は私を知らないだろうが、私はお前を知っているのだからな」

「……なんで……私の名前を……」

 

 つまらなさげなサトルに警戒したクレマンティーヌは立ち上がろうとするが、『威嚇』のダメージがまだ残っているのか。十分に脚に力が入らない。途中まで立ち上がったところでふらつき、自分の吐しゃ物の上へと倒れこむ。

 

「私がなぜお前の名を知っているのか、だったか。今から死ぬ人間がそれを聞いてどうする?」

「…………えっ?死ぬ……誰が…………私が、死ぬ?」

「そうだ。お前は、私によって死と言う慈悲を与えられる。喜ぶがいい。本来であればお前が行ってきた所業には相応の報いがあるところを、苦痛なき死であの世に迎えられるのだからな」

 

 謎の白い少女の『威嚇』とやらで行動不能にされたと思ったら、今度は謎の男が現れて殺すなどと宣言して来た。その言葉が嘘ではないと、クレマンティーヌの本能が人生でも最大級の警鐘を鳴らす。

 

 逃げなきゃ。逃げなきゃ本当に死ぬ。

 

 いきなり死地に放り込まれたクレマンティーヌの体は這ってでも、この場から逃げようと少しだけ動き───

 

「ネガティブな動作は謹んで下さいとお願いした筈です」

 

 アイリスの『威嚇』により強制的に行動を停止させられる。自分の体が、再度何をしても動かなくなったことにクレマンティーヌは絶望し───

 

「<真なる死(トゥルー・デス)>」

 

 その絶望も長く続くことはなく。サトルの即死魔法により心臓の動きすら停止させられたクレマンティーヌは、あっさりとこの世を去った。

 

 生命を失った体は力なく石畳の上に横たわる。その死体に対して掌を合わせて、アイリスは少しだけ拝む。せめて来世があるなら安らかにと。

 

「ダンゾウ!お前は手筈通り、この女の死体を風花聖典に渡してくるんだ」

「御意」

 

 サトルが自分の影に言葉を伝えると、彼の影から忍者が飛び出してくる。ハンゾウと同じヒューマノイドタイプの召喚モンスターだ。彼はクレマンティーヌの死体を担ぐと、高く跳躍しどこかへと消えていく。それを見送ったサトルはポツリと呟く。

 

「これで良かったんだよな」

「ポジティブ。どのような事情があれ、祖国を裏切り巫女を殺し、道中で多くを殺害した彼女はどの国の法でも死罪以外ありえません。……彼女を追っていた風花聖典に生きたまま渡したとしても───」

「───市中引き回しで辱めて、拷問の上で死刑、だろ。そんな目に合うぐらいなら、俺たちの手で殺してやろうとは決めていたが……あんまり良い気分じゃないな」

 

 自分の手でクレマンティーヌを殺害したサトルは、じっと自分の手を見つめる。彼は本当に少しだけ、ショックを受けていた。人間を殺したことに対して、ほんの少しだけしか罪悪感が湧かない自分に、ショックを受けていた。

 

「───誰かを助けるという事は誰かを助けないという事。それには人間の精神じゃ耐えられない。だから完全に人間になるんじゃなくて、死の支配者(オーバーロード)でいようって決めたのは俺自身だけどさ……ここまで感じなくなるんだな」

「オーナー……」

「御屋形様……」

 

 それはサトルが決めた事だ。アイリスの力があれば、種族変更をすることで人間に戻ることも出来た。だがそれをしてしまうと、この先弱者の救済を……エゴイストの道を鈴木悟元来の精神のままでは絶対に進めなくなる。だからアンデッドの肉体のままにすることで、鈴木悟の精神的な負担を軽減しようとしたのだが……その軽減が逆にショックを受ける原因になるのだから、笑えないとサトルは自嘲する。

 

「……大丈夫ですよ、オーナー!仮にオーナーがアンデッドじゃなく、人間へ種族変更していたとしても、きっとショックはそんなに受けなかったのです!」

 

 そんなサトルをアイリスは元気づけようとする。例えどんな時であれ、彼の味方をすると決めている彼女は、サトルがショックを受けたままいるなんてことは許容する気もないのだから。

 

「そうかな?……」

「ポジティブ!だってオーナーは正しいことをしたのです!クレマンティーヌを放置していたら、もっと多くの弱者が彼女に傷つけられていました!だから……オーナーは間違っていません!間違っているなんて言う輩がいたら、アイリスが許しません!」

「ソノ通リデス。御屋形様ガシタコトハ誰カヲ救イマシタ。ダカラ誇ッテクダサイ。御身ハ未来ノ誰カヲオ助ケシタノデス」

 

 アイリスとコキュートスはサトルを慰めようとする。彼が例えば身勝手に大量虐殺をしていた末に、同じ言葉を吐いたなら二人は糾弾しただろう。だが実際に起きた事は、大量殺人鬼を止めただけ。だから殺したことに対して、罪悪感を感じない事はむしろ普通なのだと伝える。

 

「帰りましょうオーナー。もうルプーやぺスが、掃除や家具の配置も終わらせている頃です。帰って、ご飯を食べて、一緒に寝て。そして明日から本格的な人助けを始めるのです。そうやってポジティブを重ねましょう」

 

 アイリスがサトルに手を差し出す。導くと決めた少女が道を指し示そうとする。その光景にサトルはほんの少しだけ苦笑し……手を取り3人は帰路へとつくのだった。

 

 

 

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 とある宿の一室にその人物はいた。女性にも男性にも見える中世的な人物だ。その人物はスレイン法国の特殊部隊、風花聖典に所属する一員である。

 

 彼女───便宜的に彼女とする───彼女は漆黒聖典の裏切り者である、クレマンティーヌの行方を追う一人だ。各地の都市の情報を集め、エ・ランテルにいる可能性が高いと睨み、王国まで来た。今日は宿に泊まり、明日から目撃情報などを集めないといけないなと、就寝しようとしていたところに───

 

「もし───」

「!?」

 

 部屋の中に突如として現れた人物に話しかけられて、彼女の心臓は止まるかと思うほどに勢いよく跳ねた。

 

「そなたは風花聖典の隊員だな」

「!……貴様……何者だ!!」

 

 寝込みに話しかけられたことと、風花聖典の一員であることを知られている事に警戒しか湧いてこない。だが現れて全身黒ずくめの誰かは、その警戒を気にすることも無く会話を続ける。

 

「そなたに届け物がある。受け取れ」

 

 影のような誰かがベッドの上に大きな何かを投げる。投げられた何かを見た時に、彼女はギョッとした。それはクレマンティーヌの死体だった。あまりの急事態に彼女は口をパクパクと動かす。

 

「それはそなたの探し物だろう」

「こ……いや…………ちょっと……何が…………」

 

 追っていた裏切り者がなぜか死体になっていて、いきなりそれを投げつけられた。あまりにも意味が分からない。混乱する彼女だが、それ以上の爆弾を影は更に投げつける。

 

「我が主からそなたらの長に伝言がある。心して聞け。……私はお前達が信仰する六大神と同じ世界の出身である。近いうちに顔を見せに行く。……以上だ」

 

 混乱が収まらぬ内に、より大きな爆弾を投げつけられた彼女が伝言の意味を聞き出そうとする前に───影は部屋の中から忽然と姿を消していた。

 

 目を白黒とさせる彼女が借りた宿の一室には、冷えたクレマンティーヌの死体だけが残っていた。




クレマンティーヌ:生かすか殺すか悩んだ。悩んだけど彼女を許して八本指を許さないとか筋が通らないのでやむなくここで殺害。原作での圧死に比べたら苦しまずに逝けた

威嚇:スキルや魔法によらない技量だけで成立させている技。原理上危機防衛本能を捻じ伏せる胆力か純技量でアイリスを上回らないとレジスト不可

コキュートス:ハムスケがいけるなら魔獣枠で連れまわせるだろう理論。サトルとアイリスの護衛が出来てニッコリ。なお護衛される方の強さが数億倍~数兆倍は上な模様


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