サトルチームがエ・ランテルにザイトルクワエを運んで、大騒ぎになっている頃。
城塞都市から離れた村で、それは起きていた。
その村は高い壁に覆われており、物見櫓を複数備えた村だった。壁の外ではなく、狭い壁の中に畑を拵えた奇妙な村だ。
普通は壁の外の広大な土地を使い、野菜なり穀物なりを育てるものであり、場所が限られる村の中で何かを育てることなどまずありえない。だがこの村で栽培されているのは決して農作物などではないため、表立った栽培など出来ないのだ。
ライラの粉末。通称を黒粉。その原料となる植物の栽培。この村こそ犯罪組織『八本指』が流通させている麻薬の生成拠点の一つなのだから。
そんな村を少し離れた場所から、監視する人影が二つあった。
「わっるい顔をした奴がいっぱいいるね。あの見張り全部悪人だって言うんだから、大したもんだよ」
「う、うん。あの人たち全員、じ、自分たちが悪いことをしてるって自覚してるんだよね」
「調査報告書によると別の拠点には領主に脅されて仕方なく栽培してる人もいるみたいだけど、ここはマーレの言う通り犯罪者ばっかりみたいだね。ま、本当かどうかは確かめてみるしかないよ」
双子のダークエルフ、アウラとマーレだ。二人はアイリスに頼まれている、八本指の組織力を最大限にそぎ落とす作業のために麻薬拠点の一つを落としに来ていた。
「そんじゃま、まずは全員無理やり従わせますか。マーレはあたしの前に出ちゃだめだよ」
「わ、分かってるよ。それに出たところで、お姉ちゃんなら、ぼ、僕に吐息をあてることもないでしょ?」
「まあね。それでもフレンドリーファイアがあるんだから、気を付けるに越したことはないでしょ」
自分の言葉にすごすごと後ろに下がるマーレを確認したアウラは、スキルを発動し吐息を吐く。それだけで眼下の村全体が彼女のスキルの影響下へと置かれる。
「はい。これでおしまい。それじゃ、あそこまで行くよマーレ」
「ま、まってよお姉ちゃん。早いよぉ……」
ひょいひょい崖を降りていくアウラを追って、マーレはゆっくりと下までついていく。その姿に思わず「あんたのそのぶりっ子はいつ治るのよ。別に飛び降りたってあんたは怪我しないでしょ」とは思いつつも、口に出して急かすような真似はしない。創造主であるぶくぶく茶釜から与えられた
だから下で彼を待ってから、ゆっくりとアウラは村へと向かう。彼女の姿を見た物見櫓の屈強な見張りが声を張り上げた。
「これは姉さんじゃないですか! どうしたんです今日はこんなところに!!」
まるで敬愛する先輩にでも声をかけるように、八本指の傘下の男は親し気な声を出す。彼とアウラは初対面だが、アウラの『魅惑』に支配された見張りの脳では、昔から世話になっている姉さんとして彼女は認識されている。
それは彼だけではない。この村の住民全員が、今だけはアウラの事を心から慕う後輩になっていた。
「ううん。別に用事があるわけじゃないよ。ただ様子を見に来ただけ」
「そうでしたか! がはは、姉さんが来るって分かってりゃ、歓迎の準備をしましたのに」
「別にそんなのいらないよ。……あんた等みたいな奴の歓迎なんてさ」
アウラは後半の言葉を吐き捨てるが、見張りはその言葉に対して何の疑問も抱かない。……疑問を持たれたところでアウラとしては別に構わなかったが。
「今日はマーレさんも一緒ですか! こりゃ今夜は何かありそうだぜ」
「そ、そうですね。な、何かはあると思いますよ」
マーレはおどおどとした言葉を口にするが、それとは裏腹な心の底から無感情だと理解できる目を男に対して向ける。道端に生えている雑草でも眺めるような視線をだ。
「そうだ。一つ聞きたいんだけどさ。この村って麻薬の原材料を作ってるでしょ? それを作ってる時ってどんな気持ちで栽培しているのか、教えて貰えないかな?」
「この草を育ててるときですかい? そりゃこれで金を儲けたら、どんな女を買おうかとかですぜ」
「ふぅん……女を買う……ねぇ? でもこの草で造れる麻薬。確か黒粉だっけ? それを売るのって実は悪いことなんだよね。それなのに罪悪感とかはないの?」
「はっ! 姉さんともあろう者が何を言うんですかい。副作用が無いなんてお題目を馬鹿正直に信じて、薬を買う馬鹿が悪いんですよ。それに国が禁止していても、貴族や領主にちょちょいと金色の薬を嗅がせりゃすぐに股を開きますや。
ゲハハと笑う男に「そっかぁ! そうだね!」と笑うアウラだが……その眼は獣を見る目。これから屠殺される害獣に向ける目だった。
「それじゃ村に入れてくれる? 他の人たちとも話がしたいからさ」
「お安い御用ですよ。オラッ! 姉さんの為に早く門を開けろ!」
村へと招き入れられたアウラは次から次へと、見張りの男にしたのと似たような質問を繰り返していく。そして彼女は落胆した。全ての住人が口を開けば「稼いだ金で裏ルートから買った女を殴るのは楽しい」や、「貴族を操るゲームのようだ」と答えたのだ。
全住民がどのような人物であるのかを確かめたアウラとマーレは村を離れ───
「それじゃマーレ。やっていいよ。王国法で彼らは全員死罪確定。縄で吊るのも手間だから……ここで処刑しても良いんだって」
「そ、それはラナーさんが? それともデミウルゴスさんの言葉?」
「その二人に加えてアルベドとアイリス。あとパンドラもだね」
「そ、そうなんだ。うん。それじゃ仕方ないね」
「そうだね。仕方ないよね」
ふぅと息を吐いてこれから皆殺しにする村人───八本指の傘下として働き、数多の人間を苦しめた悪鬼に対して最後の言葉をアウラは吐き出す。
「ぶくぶく茶釜様。あたしやマーレは、これから茶釜様の同族を殺します。アイリスが教えてくれた、リアルのぶくぶく茶釜様がそれを望まれるのかは分かりません。それでも……サトル様の夢のために、殺し尽くします。それをお咎めになられるのであれば……いつかあの世で会った時に、叱ってください。あたしたちはその日まで……最後までお残りになってくださった御方と……サトル様を支え続けると決めたアイリスと共に進みます」
もはや二度と届くことがないと分かっている言葉を、空にアウラは投げかける。最後の懺悔を終わらせたダークエルフの少女は、弟へと合図を出す。
「マーレ……いいよ」
「うん。<魔法範囲拡大化・
マーレが魔法を発動させる。途端村全体の地面が全て泥沼へと変わる。突如として起きた現象に男たちの怒号が夜闇に響き渡り……誰一人として地の底へと沈み行く村から脱出は叶わず。
そこに村があった痕跡すら残さず。大地の底へと八本指の拠点は墜ちていった。
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ザイトルクワエを持ち帰ってから一夜が明け。
太陽がまだ上り始めた頃に、多くの人影がエ・ランテル城壁外にあった。
冒険者組合の職員や組合長、他にも多数の冒険者や騒ぎを聞きつけたエ・ランテル住民が見物する中。城壁外の一部を借り置いておいた魔樹の残骸から、アイリスとコキュートスは素材を回収していた。
魔樹から素材採取のために、アイリスが担ぐのは巨大な戦斧だ。小柄な彼女の倍はありそうな武器だが、それをアイリスは手足のように気軽に振り回す。
<一刀果断>
武技を発動させ刃の届く範囲を拡大させたアイリスが、戦斧を振るって6本ある触手の内1本を斬り飛ばす。長さ300mもあり、太さも直径数十mはありそうな巨木が一太刀で真っ二つにされる光景に、朝から集まっていた観衆からどよめきが起きる。
<千刃執刀>
アイリスの武技は可能性の世界を引き出す。一度だけ戦斧が振り下ろされ───武技の名の通り、千の斬撃が斬り落とされた魔樹の触手から、樹皮を剥がし使いやすいサイズの木材へと変えていく。
似たような技に六光連斬があるが、そちらは自分が一度剣を振るう間に六回の連撃を繰り出す事であたかも一瞬の間に斬撃を放ったように見せる技なら、こちらは真に全てが同時。物理に対する完全耐性を持たない限り、使われた時点で対象を千裂にする技だ。
<能力向上><能力超向上><能力倍化>
アイリスの解体速度に少しでもついていくために、コキュートスも武技を発動させる。身体能力を跳ね上げ、4本ある腕全てにアイリスと同じ戦斧を握り、それを超高速で振るい解体する。
ザイトルクワエが爆速で加工されていく光景に、集まっていた野次馬から驚きの声が上がり続ける。
「なんて……速さだよ」
「まるで見えねえ……」
「───やべえのは威力も範囲もだろ。 あんな強力な武技、お前使えるやつみたことあるか」
「ねえな…………あれが第十位階の魔法詠唱者を守る前衛か」
「話によれば、あのちっこいお姫様もとんでもねえ魔法詠唱者だそうだが……」
「それは流石に嘘だろ。あの体格で怪物みたいな戦士ってだけでも冗談でしかねえのに、魔法まで使えるなんてありえちゃいけねえだろ……普通……!」
その観衆の言葉を、やることもないので同じように見学していたサトルはそう思いたくもなるよなと考える。
(ワールドスキルだったり、ボス化なりで色々とビルドが変わっちゃってるけど、アイリスの本質は前衛回避魔法サポーター。……なんかこっちに来て、戦闘用プログラムとかのせいでとんでも技量の前衛お化けになっちゃったけど。武技を戦士系のスキルとして扱えるから、本気で攻防に穴がないんだよな。アイリスの技量がないと成立しない、オリジナル武技もたくさん開発してたし。あとアイリスのことを怪物って言った奴。お前の顔は覚えたからな)
サトルがあれこれ考えている間にも、似たような声があちこちから聞こえるが、その声は集中しているアイリス達には聞こえない。瞬く間に解体を終わらせた後───
「<
近くで控えていたルプスレギナが呪文を唱えると、ちょっとだけ残っていた死骸から全身が再生される。一度解体したらそれで終わりにさせるなど勿体ない。ザイトルクワエ素材がいらなくなるその日まで、この死骸は無限に再生させる。エコの精神だ。
「これで暫くは色々な研究が出来るのです。コキュートスもルプーも朝からご苦労様ですよ」
「ナンノコレシキ。朝カラ良イ鍛錬ニナリマシタ」
「私は魔法一個唱えただけなんで、なんかした感覚も殆どないんっすけどね。ほらほら、それよりもさっさと木材やら集めて、ご飯にしましょうご飯に」
サトルも加わり、大量の素材をせっせとアイテムボックスに放り込んでいく。素材を全てアイテムボックスに収納したアイリスは、二頭のドラゴンへと話しかけた。
「ではドライグにグイベルは魔樹が盗まれないように、見張っててくださいです」
「承知しております。我らの眼がある限り、何人たりとも触らせませぬ」
「……そこまで気合を入れる必要もないのですが。あ、それとですね。爪を頂けないでしょうか。ちょっとドラゴンの素材も欲しいのですが、在庫を切らしているのです」
ナザリックに帰ればどんな素材であろうが幾らでもあるのだが、アイリスのインベントリにはいれていなかったので彼女はお願いしてみたのだが───
「爪で御座いますね。少々お待ちください。……ふんんんんんっっっっっッツ!」
「爪を一欠けらで良いのですよ!! どうして腕を千切るですか!?」
あろうことかドラゴンは自ら腕を噛み千切った。吹き出る鮮血。漂う血生臭さ。観衆もドン引きだ。
「ふっ。愚問ですな。アイリス様が素材として望むならば、腕の1本ぐらい差し出すのが我らの務め故に」
「ネガティブですよ! うっかり頼み事も出来ないのです! あとその腕はすぐに治すですからね! <大治癒>!」
驚愕しつつも、すぐさま治癒魔法でドライグの腕を治すアイリスを見ながら、ポツリとルプスレギナが一言───
「あの忠誠心融通利かないっす。あれじゃアイリス様にご迷惑だって分かんないんすかね?」
「全クダ。我ラノヨウニ主ガ真ニ何ヲ望マレルノカヲ察シテコソ、忠臣ト言エルモノヲ」
「二人とも鏡って知ってるか?」
(アイリスに言って、過去を映し出す映像機とか造って貰おうかな。それで過去にどんな言動をしてたのか、二人に見せたい)
ルプスレギナとコキュートスを疑わしそうにサトルは横目で見る。そんなこんなで今日も今日とて、エ・ランテル移住組の一日は始まるのであった。
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一度屋敷に帰り朝食を食べた後、冒険者組合長プルトン・アインザックに呼ばれていたサトル達は組合へと顔を出した。
建物に入ると突き刺さる視線の数々。畏怖に憧憬に敬意。そこには敵意のようなものはなく、英雄、あるいはお伽話の主人公にでも向けるような憧れの感情だけだった。
彼らの大半はザイトルクワエの解体を見物しに来ていた冒険者だ。
国を堕とせる神話の魔樹を秒殺した大魔法詠唱者に、竜を従える戦技無双の姫。その傍らに控える麗しき褐色と赤毛の聖職者に、四本の腕から無数の絶技を繰り出す蒼き魔獣。
サトルが組合に顔を出す前に漆黒の剣が、この一行の事を吹聴していたが……目の前で神技に魅せられた面々は、その話が嘘だとは思わない。
ここにいる誰もが神話の英雄がここにいるのだと疑ってはいなかった。
「凄い注目っすね。たは―――! なんか居心地が悪いっす」
ルプスレギナの言う通り、多数の視線による圧にサトルも少したじろぐ。ここまで熱の籠った眼で見られるとは思っていなかったのだ。アイリスも少し困り顔だ。
そんなサトル一行の元へと、受付嬢が駆け寄ってくる。
「スズキ様。組合長が貴方様方をお待ちしております」
受付嬢の声は震えている。彼女もまた見物人の一人。朝から行った神技による解体作業に魅せられたのか、一行に対して熱っぽい視線を送っているが……なんか怖かったのでサトルはその視線に関しては無視する。
2階にある組合長室で、賛美の言葉を吐き出す機械と化したアインザックから幾千幾万の賛辞を一行は貰い───
「これでアイリス達はアダマンタイト級冒険者一行なのです」
「なんか……全然感慨も湧かないな」
アダマンタイトのプレートはすぐには用意できないらしく後日に渡されることになったが、サトルは昨日の今日でアダマンタイト級冒険者になった。
最低ランクから最高ランクへの飛び級。多くのしがらみが普通ならあり、元来であればこんな速さで昇格することなどないのだが……そんな常識は昨日の夕方のドラゴン襲撃冤罪事件と、今日の朝方に行われた魔樹解体ショーの前ではなんの意味もない。
アダマンタイトになった方が色々と動きやすく最初から狙ってはいたものの、あまりにも早すぎる昇格にサトルはあきれ果てていた。
「あの規則だから銅級云々はなんだったんだよ……もう規則の方を変えちまえよ」
サトルはぼやくが、組合にだって言い分はある。
第十位階魔法詠唱者。これだけでもアダマンタイト級として認定するのに十分なのに、そこに加えて放置すれば王国滅亡の可能性が非常に高い巨大魔樹討伐に、難度三百を超える竜を2頭も従えるとなれば銅級においておくわけにもいかないのだから。
組合長室の前で屯っていても邪魔なので、受付のある1階のフロアに一行は降りて───
「そんで、こうスズキさんが眼を抑えながら『起きろ
「あの光景は圧巻であったな。魔樹を死亡させた謎の魔法。あれもきっと第十位階の魔法なのであるな!」
「バロールねぇ……こんな感じの動作で発動する魔法か?」
「違う違う。『起きろ
ルクルットがザイトルクワエを即死させたサトルの動きを再現していた。1階にいた他の冒険者たちもその動きの真似をする。難度二百五十のモンスターを殺しきる超越者の逸話に興味津々なのか、結構受けが良かった。
「がぁあツッああアアア!!!」
サトルには受けが良くなかった。胸を掻きむしりながら膝をつく。ザイトルクワエを抹殺する時に邪気眼が疼き、やたらと格好良くキメポーズをしながら世界級アイテムを発動させたのだが……それが仇となってしまっていた。
(あいつ! ルクルット! 何をしてるんだお前はぁ! まさかやつは存在Xの回し者で俺のメンタルを壊すためにあんな真似を! ころ……いや駄目だ! こんな場面でアンデッド脳になるんじゃないぞ俺! ……し、しかし……な、なぜ!な、なぜだ! なぜ俺はあの時あんな真似を! 別に『起きろ
サトルを襲うのは羞恥心。見た目は20歳程度の外装になっている彼だが、中身はアラサーの成人男性だ。そんなおっさんが眼を抑えながら魔眼がどうのと宣ったのを、客観視させられたことで死にたいほどの後悔が沸き上がっていた。
「アイリス! 頼む! 俺に……時間を遡る魔法を! 過去の俺を殺してくる!!」
「落ち着いてくださいです! 時間遡行の魔法は流石に無理なのです! あと時間遡行が出来たとしても、パラレルワールドが出来るだけで今が変わるわけではないのです! 現時点から見て過去に移動しても、オーナーにとっては過去と言う名の未来でしかありません! オーナーが何に対してショックを受けているのかは分かりますが、とにかく落ち着いてくださいなのです!!」
「しかし……どう見たって第三者視点だと、驚くほどダサいぞあのポーズ! まるで俺が……パンドラみたいじゃないか!!」
「……良いですかオーナー……落ち着いて聞いてくださいです。お兄ちゃんとオーナーは……割とクリソツです」
「なん……だと……」
「オーナーが過去最高にネガティブなお顔をしているのです……」
アイリスが何かを話しているが、サトルには全く聞こえない。なお今までで一番ネガティブだった時の顔は、パンドラがサトルの前で
(えっ? 俺……パンドラにそっくりなの? うっそだぁ…………いや、軍服は格好いいよ? でもそれ以外良い大人がしちゃいけないポーズばっかりじゃんあいつ。そうあれと創ったのは俺だけどさ。……宝物殿に本当は永久に封印しておきたかった黒歴史とそっくり……アイリスもお茶目な嘘をつくんだから)
サトルの脳は精神保護のためにアイリスの言葉を嘘だと認定。その嘘を強固にするために、彼はコキュートスとルプスレギナにも同意を求める。
「聞いてくれよ二人とも。アイリスが俺がパンドラにそっくりだって言うんだよ。ちっとも似てないのにな」
そう話しかけるサトルが期待したのは「全ク似テオリマセンナ」や「アイリス様も酷い事を言うっすね」などの言葉であったのだが───
「……………………」
「……………………」
沈黙。二人は黙して何も語らない。まるで処置なしとばかりに首を振り、二人は掲示板の前まで移動し───
「さぁて、今日はどんな依頼があるっすかね。……おっ、これなんか良さそうっすけど、コキュートス様はどう思うっすか?」
「共同墓地ノ地下神殿ニ夜ナ夜ナ入ッテイク人影ノ調査カ。イイノデハナイカ」
「アイリス。マスターソースを開いてくれないか。二人の設定に鈴木悟はパンドラズ・アクターと似ていないって書き込む」
「オーナーのおめめが過去最高に据わっているのです……」
サトルが「マスターソース……」と叫ぶ
「組合長に呼ばれていたそうですが、どうでしたか!?」
「やはり昇格の話ですよね!」
「ニニャ! ペテル! おはようなのです」
サトルの腕からするりと抜け出し、駆け寄って来た二人に対してアイリスはハイタッチしながら朝の挨拶をする。非常に元気の良い挨拶に、二人はちょっと戸惑いつつも「おはようございます」と返す。二人に対し、黒歴史開示のダメージからなんとか復帰したサトルも挨拶を返す。
「おはようございます。ペテルさん。ニニャさん。アイリスの表現豊かな挨拶に付き合ってくれてありがとうございます」
「ははっ、元気が良いのはうちも似たような物なんでなれていますから」
そう話すペテルの視線の先にいるのはルクルットだ。まだ語り足りないのか、サトルやアイリスの偉業を声高々に口にしている。
「私たちの噂を流してほしいとは言いましたが……ああも熱心に語られると少しだけ面映ゆいですね」
「ルクルットが本当にすみません。……ですがスズキさん達は、本当に讃えられるのに相応しいだけの実力をお持ちです。そんなに謙遜をされては、かえって嫌味になってしまいますよ」
「ですかね」
サトルが肩をすくめるのを横目に、アイリスはニニャに昇格の事を伝えておく。
「ニニャの言う通り昇格の件でお呼ばれしていました。アイリス達は銅からアダマンタイトにひとっ飛びです」
「おめでとうございますアイリスさん! 皆さんならアダマンタイト以外ありえないとは思っていましたが……それでも最高位の冒険者認定、本当におめでとうございます!!」
「ポジティブですよ。まぁ、まだプレートの発行はネガティブですが。……ああ、そうですそうです。この後工房で魔樹を使って、ニニャへの入門装備を造ろうと思っているのですが……デザインなどのご要望はあったりしますか?」
「えっ?……あっ、昨日言われていた件ですか。……えっ!? あの魔樹を使われるんですか!!」
ニニャが驚きの声を上げるが、それも無理はない。<道具鑑定>で魔樹の素材としての品質を、彼女も事前に調査しているのだが……はっきりと言えば、あの魔樹から取れる物は現地基準で全てが国宝級。
ニニャが知っている中で最高レベルの素材と言えばアダマンタイトだが……それを遥かに上回る高級品が魔樹素材なのだ。
仮に王国が全兵力を上げて奇跡を数十回起こし、ザイトルクワエを討伐したとしよう。その後魔樹素材の道具などが市場に流れたとしても、ニニャでは資金が到底足りず購入など出来ない値段がつく。
そんな代物を入門祝いと言われても……ニニャとしては困ってしまう。
「ポジティブ。品質としてはそこそこなので、プレゼントには最適なのです」
「そ……そこそこですか」
「そこそこです。なのでそんなに気後れしなくとも良いのですよ。それに数だけはたくさんありますし」
「は……ははは……ははははは」
国宝品質をそこそこの一言で終わらしてしまう価値観に、ニニャは乾いた笑いしか出てこない。神話の魔法詠唱者怖いな~と彼女は考えていた。
ニニャ───本名をセリーシア・ベイロン。彼女はまだ知らない。弟子入りを願い出た人物たちの真の出鱈目さを。この後価値観が全て壊されることを。まだ何も知らなかった。
サトル:新たな黒歴史がまた1ページ
サトルの格好いいポーズ:エ・ランテル名物に。サトルの精神は死ぬ
この作品内での素材や物品の品質・レベルの考え
最下級 ニニャ達の装備 ~10レベル
下級 金級~ミスリル級冒険者の装備 11~20レベル
中級 オリハルコン冒険者の装備 21~25レベル
上級 ガガーランの装備類 ミスリル製全身鎧 26~30レベル
最上級 王国五宝物 ラキュース装備(魔剣除く) 31~40レベル
遺産 サトルの冒険者時防具 41~60レベル
聖遺物 サトルの冒険者時武器 61~80レベル
伝説 ナザリックで使ってる食器 81~95レベル
神器 サトルやアイリスの部屋着や普段着 96~100レベル
世界 ナザリックの本当の装備類 100~
アダマンタイトは上級~最上級ぐらいの金属 ザイトルクワエは50~65で遺産~聖遺物