モモンガ様リスタート   作:リセット

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セリーシアの日記 

 私───セリーシア・ベイロンは日記をつけている。ペテルやルクルットには紙が高く勿体ないと言われたりするが、師匠……アイリスさんやスズキさんではなく、生まれながらの異能(タレント)で私の魔法の才を見抜き位階魔法を初めて教えてくれた方の師匠だ。

 

 その師匠が記録することの大切さを教えてくれたこともあり、私はみんなが言うように紙が高いとは思いつつも毎日あった出来事などを書き記すようにしている。

 

 普段は一行程度でこんな依頼がありました程度しか書かないが……スズキさんたちのマジックアイテム『砂の箱庭』の中では多くの事を学んだため、書くことも多くなった。

 

砂の箱庭一日目

 

 模型の中で修行をする。普通ではない事を体験させられた私たちに対して、最初に試験として用意されたモンスターも普通ではなかった。それは見た事もないアンデッド。後で聞いたところによればこのアンデッドはデス・ナイトと言うらしく、ギガントバジリスクよりも強いらしい。つまりは銀級冒険者(私たち)が戦うような相手ではない。

 

 模型都市の噴水がある広場で模擬戦を行ったのだが……私たちは相手にもならなかった。デス・ナイトが動いたと思えば、手に持っていたフランベルジュで薙ぎ払われて最初にペテルが脱落した。

 

 もしこの時ペテルがアイリスさんが造った超級の装備ではなく、いつもの装備だった場合上半身と下半身に体が分かれていたらしい。らしいと言うのは実際には、真っ二つに裂けなかったからだ。

 

 頂いた魔法の装備は付与された特殊効果だけでなく、純粋に防具としても優秀だった。動きやすいのにその強度はアダマンタイト以上で、籠められた魔力により常時魔力障壁のようなものが体を覆ってくれる。私たちは兜などの頭部を保護する防具は使っていないが、その魔力障壁によりある程度は肉体が守られるのだとか。

 

 そんな防具を身に着けていたからこそペテルは助かった。薙ぎ払われ噴水まで飛んで行った彼は、石造りの台座に叩きつけられ気を失うだけで助かったのだ。

 

 ペテルが脱落して戦線が崩壊。私たちもすぐに良いようにやられてしまった。ダインはタワーシールドに跳ね上げられて近くの建物の2階の窓にまで飛ばされ、私とルクルットも体当たりで吹き飛んで模擬戦は終了した。

 

砂の箱庭二日目

 

 昨日の反省会の後に、私たちの育成プランとやらをアイリスさんから説明された。タブレットと言う小さなモニターを渡され、そこには私たち漆黒の剣のデータ───情報が多く表示されていた。自分が今どんな職業(クラス)を習得しているのかや、筋力や防御力、魔力量などをステータスとして可視化したものだ。

 

 私たちも職業(クラス)の概念などはあるが、自分がいまどんな職業を取得しているのかとなると殆ど感覚頼り。それを可視化することで、育成の方向性を分かりやすくすると教えて頂いた。

 

 特に可視化することでもっとも分かりやすくなるのは強さの目安───レベルらしい。アイリスさんやスズキさんが度々レベルと口にしていたが、この数値がある程度強さの目安になるのだとか。ある程度とは生産職などは直接的な戦闘力に直結しにくく、レベルが高くても純戦闘系の職業で固めた相手と比較すると劣ると聞かされた。

 

 では私たちのレベルだけれども。私が6でペテルが8。ダインが7でルクルットは8。この辺りの一般市民であれば1、よくて2らしいので私たちは常人に比べると遥かに強い部類に入るらしい。そのレベルの横に()で別の数字も表記されており、私が37でペテルが19。ダインが15でルクルットは17だった。これはその個体が持つ生物的な限界レベルと説明された。ダインは「私が一番低いのであるか」と落ち込んでいたが、スズキさん達が調べた限りでは15もあればミスリル級にまで上がれると推測していた。

 

 私の37がずば抜けて高いものの基準が全く分からないのでどれくらい高いのか最初はピンと来なかったが、あのデス・ナイトが35らしいので私はあの恐ろしいアンデッドよりも強くなれるのだ。

 

 それを知って私は少し嬉しくなった。生まれながらの異能(タレント)と生来の魔法の才が噛み合う私は稀に見る天才と元師匠にも言われたことはあるが、生物としての限界値も高かったのだ。

 

 才能があると言われて嬉しく思わない人なんていない。私は今よりも遥かに強くなれるのだと知って、少し浮かれた。

 

 アイリスさんのレベルやステータスも見せて貰い、浮かれ気分が一瞬で吹き飛んだ。このタブレットと言うマジックアイテム壊れていませんか? 全ステータスが異常な数値を見せているんですけども? 特に魔力量が凄まじく私の数百倍はあるんですけど?

 

 三人もそれを見て言葉を無くしている。スズキさんも似たようなステータス? アイリスさんは頑張って追いつきましょうと言うが、これに追いつくのに何年かかるんですか?

 

砂の箱庭三日目

 

 このマジックアイテムの中にいる間は、街の中央にある巨大な城ですむことになった。城と言っても私たちが知っているような形の城ではなく、スズキさんたちの故郷に昔建てられていた様式らしく見た事もない形状だ。なんでも姫路城という城をモデルにしたらしい。

 

砂の箱庭十日目

 

 スズキさんからサトルで良いと言われたので、今日からサトルさんと呼ぶことになった。アイリスさんは呼び捨てで良いと言うが、とてもではないが師匠を呼び捨てになど出来るわけがない。ルクルットはアイちゃんと呼んで、人の嫁の呼び方じゃねえとサトルさんに魔法で吹っ飛ばされていた。

 

砂の箱庭十五日目

 

 初日からとんでもないアンデッドと戦わさせられたことで、少し大丈夫なのだろうかと言う気持ちがあったが……お二方の教え方は丁寧だった。

 

 もっと早く教えられる……それこそ十日もあれば最強状態になれる育成方法もあると聞かされたが、そちらは超高確率で頭がおかしくなる詰め込み型。絶対にお勧めしないと言われ、私たちも頭が壊れるのは遠慮したかったので丁重にお断りした。

 

 いずれにせよ箱庭の中の時間は外よりも早い。一度本当に時間の流れが違うのか確かめるために外に一度出たが、その言葉も真実だったので今は集中して稽古をつけて貰う。

 

砂の箱庭二十八日目

 

 魔法を使う時には世界への接続が必要になる。アイリスさん曰く世界そのものに巨大な魔法の式───位階魔法が刻まれており、そこに接続することで魔法の式を取り込む。取り込んだ魔法式に魔力を流し込んで発動させるのが位階魔法のメカニズム。アイリスさんは巨大サーバーからデータをダウンロードし、インストールがどうと謎の言葉を最後には用いていた。

 

 その取り込む際に生物としてのレベルが足りていないと、より高位階の魔法は取り込めない。それがアイリスさんの理論だった。魔法詠唱者系の職業レベル自体が器になる以上、根本的にレベルそのものを上げないと第三位階魔法以上は覚えられない。だから魔法を覚えるにはレベル上げが一番良いのだとか。

 

砂の箱庭三十三日目

 

 レベル上げにはモンスターとの戦闘が一番有効とのことなので、サトルさんの召喚した多数のモンスター───特にアンデッドを中心に私たちは毎日のように戦っている。見た目はスケルトンにしか見えないのに、驚くほど手強い。この強大な装備が無ければ、多分私たちは何度も死んでいるのだろうと思うほどの戦いを経験を重ね実力を積み重ねていく。

 

砂の箱庭四十一日目

 

 ここは<永続光>の魔法が籠められた明かりが幾らでもあるため、夜になっても勉強が出来る。だから私は貰った教材で自習していたのだが、いくつか分からない部分があった。この時間であればまだアイリスさんが起きているので聞きに行く。師匠達の私室は襖が少し開いていた。そこから少しだけ部屋の中が見えて───裸になったアイリスさんにサトルさんが覆いかぶさっていて───

 

砂の箱庭四十二日目

 

 昨日の光景が眼から離れない。扉の外に人がいてもアイリスさんなら気づくらしいが、サトルさんとの情事に夢中だったのか私に気付くこともなく。師匠たちはひたすら交わり合っていた。

 

 夫婦! 夫婦なんだからおかしくはないよね! うん!

 

 でもその日はアイリスさんとサトルさんの顔をまともに見れなかった。サトルさんはとても優しそうな雰囲気の人なのに、アイリスさん相手だとあんな獣みたいな感じになるんだ……アイリスさんもサトルさん相手だと普段の陽気な可愛さが全部消えて、あんな獣みたいな声を出すんだ……

 

 

砂の箱庭五十六日目

 

 久しぶりにタブレットで現レベルの確認を行う事になった。レベルはどれくらい強くなったのか分かりやすい指標だ。サトルさんの繰り出すアンデッドは、ギリギリ私たちが倒せるレベルに調整されているので強くなった実感が得にくい。なのでこうやって視覚で分かりやすく、これくらい強くなりましたと直接目で見て確認できるのは非常に大助かりで───

 

「? みんなのレベル上限が上がっているのです……」

 

 アイリスさんがタブレットを見て首を傾げる。なぜかは分からないが私たちの生物的上限が上がっていたのだ。私であれば以前は37だったのに、今は38に上昇している。アイリスさんにも原因は不明らしい。

 

砂の箱庭五十七日目

 

 レベルの上限が上がっていた理由が判明した。原因は私たちがこの箱庭に入ってからずっと口にしていたサトルさん達の故郷の食物だ。

 

 なんでもあの食物は王国内で流通している物と比べると非常に高品質で、なぜか魔力まで帯びているような野菜まであるらしい。それを毎日毎日食事して血肉に変えていた事で、細胞自体がより強固になっていたのだ。

 

 アイリスさんはこの現象を黄泉戸喫と呼んでいた。別の地域の食事を口にすれば、その地域の住人と同じ存在になる概念だと教えられた。

 

 ルクルットは「食事をするだけである意味パワーアップ出来るなんて楽だぜ」と言っていたけど、肉体が当人も知らない内に変質する食物って口にしても大丈夫なんですか?

 

砂の箱庭九十三日目

 

 私はついに第四位階の魔法へと到達した。それと同時に私の持つ生まれながらの異能(タレント)の可能性の扉も開いた。私が持つタレント『魔法適正』は通常の倍の速度で魔法を習得できると言う効果なのだが……通常では習熟できない高位の魔法であっても、一つ上の位階までであれば習得可能となるのだ。

 

 アイリスさんによれば修行を始めたての時の私のレベルでは、第二位階魔法は覚えられない筈なのに習得出来ており……今も通常なら第三位階までの筈が第四位階を覚えられた。

 

 サトルさんからも、タレントと組み合わせればいずれは第九位階に到達できると太鼓判を押された。私が……第九位階魔法詠唱者……

 

砂の箱庭百七日目

 

 最近体付きがより女の子っぽくなってきた。今までは服装やサラシで胸を抑えることで誤魔化してきたが、どんどん育つ胸などのせいで、男装で通せなくなってきている。

 

 顔も美形の少年で誤魔化せるのは、あと数ヶ月が限界だろう。自分で言うのもなんだが、私は世間一般では綺麗な方に入るのだと思う。

 

 だがそれが嬉しいかと言われたら……なんとも困る。アイリスさんたちに出会う前ならば、私は男性に産まれたいと思っていた。王国では女性に産まれてもいいことなど何一つない。冒険者稼業ではそうでもないのだが、この国では女だと言うだけでとても不利だからだ。

 

 帝国などは現皇帝の鮮血帝は身分や性別に関係ない実力主義者で、有能であれば自らスカウトもしたりと女性だからと見下すこともない。法国もエルフ差別や亜人差別は噂として聞いた事はあるが、性別で不利になることはないらしい。聖王国と竜王国は国のトップが女王なこともあり、表立った女性差別は聞いた事がない。

 

 だがこの国───リ・エスティーゼ王国は違う。どこかで女性だと言うだけで軽視する風潮がある。糞貴族にしても国の中枢に居座るのは男ばかりで、女貴族が重鎮の座についた記録はない。

 

 黄金と呼ばれる民に優しい王女もいるが、彼女も政治に本格的に参戦する資格はないと聞く。

 

 どこまで行っても王国で何かを成すには女では不利なのだ。場合によっては玩具とすら思われている。それこそ……あの領主(ゴミ)の妾にされた姉のように物としか思われてないことすらある。

 

 そんな国で綺麗であったとして何の役に立つのだろうか。それこそ姉のように貴族に無理やり誘拐されるかもしれない。冒険者仲間であっても、力づくで無理やり……。そんな危険を冒すぐらいなら男だと演技をした方がよほどましだ。むろんペテル達の人柄は良く知っている。彼らがそんな事をするわけがないことも。

 

「みんなに……言わなきゃいけないよね」

 

 これ以上は体型もあって誤魔化せない。だから打ち明けよう。私は女だと。彼らを信じて。それに───

 

「アイリスさんみたいな人もいるしね」

 

 私が知っている中でもっとも可愛いのは誰かと言われたら……間違いなく現師匠の一人であるアイリスさんだ。

 

 童話のお姫様のように可憐で……竜を従える苛烈な大英雄。性別なんて関係ない。アイリスさんは私より強い存在はいますと言うが、そんな訳がないと私は確信している。三か月の間手解きを受けて来た今なら即答できる。この人より強い存在なんていない。サトルさんも常々自分よりもアイリスさんの方が強いと発言している。だからそれが真実なのだろう。

 

 私の師匠となってくれた私より小さい少女は、この世で最強と呼べる頂きにいる人。その名の前では男も女も関係がない。そんな凄い人の弟子である私が、何かを誤魔化していてはいけない。そう……私は誤魔化さない。私は……私なんだ!

 

砂の箱庭百八日目

 

 漆黒の剣のみんなに私の性別や本名を打ち明けた。

 

 本名は初めて知ったけど、女の子なのは知ってたと返された。はぁっ!?

 

「あのさぁ……言っちゃあ悪いけど誤魔化せるわけねえだろ? 少年を騙るにはお前さんは可愛い顔すぎるぜ?」

 

 ルクルット貴様! 気づいてたならどうして言わない!

 

「貴様って……俺お前さんがそんな風に言うの初めて見たぜ」

「ニニャ……ああ、いや本名はセリーシアであるか。……女の子が男の振りをするには、何か事情があると思うのが普通なのである。冒険者は詮索禁止。黙って見守るのが、大人の務めである」

 

 もう……本当に……この人達は……

 

「受け入れられて良かったのですねセリーシア。あなたの仲間はみんな良い人たちなのですよ」

 

 そう言ってアイリスさんに後ろから抱きしめられた。サトルさんも私の頭を撫でようとして……アイリスさんにやんわりと止められていた。

 

「オーナー? 女の子の髪は命と同等。安易に触っちゃいけないのですよ?」

 

 アイリスさんはサトルさんの事が大好きらしいが、全肯定はせず駄目な事には厳しいようだ。

 

砂の箱庭百五十日目

 

 私たちは相当強くなった自負がある。初日はなす術もなくボコボコにされた強敵……デス・ナイト相手でも防戦に限れば互角に戦えるほどになった。それでも師匠達の壁は分厚い。ペテルとダインは二人がかりでサトルさんに挑むが、近接のみの縛りをしている彼相手でも一切傷をつけられない。

 

 サトルさんの技量はアイリスさんに比べると遥かに低いらしいが、それでも二人から見ると遥かに上。二刀大剣を受け止められずに百メートルほど飛んで行った。私たちは本当に師匠達に少しでも近づけるんだろうか。

 

 

砂の箱庭二百三十日目

 

 ついに私は第五位階魔法へと手をかけた。それと同時にパーティー全員でだが、なんとデス・ナイトを倒すことも出来た。倒したと思ったら、まだ動いておりちょっとペテルが事故りかけたものの……それでも私たちが知る限り最強のアンデッドを倒せた事実に、みんなで歓喜した。アイリスさんもサトルさんも素晴らしいと拍手をくれた。

 

 あまりの嬉しさに少し涙が出て───

 

「じゃあおかわりだな」

 

 追加でお出しされたデス・ナイト2体に涙が引っ込んだ。正気ですか師匠!?

 

砂の箱庭二百五十日目

 

「しゃああああああああああああああ!!!!!」

「おらあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁるうううううぅㇽㇽㇽ!!!」

 

 ようやく……ようやくみんなでデス・ナイト2体同時討伐を成功させた!!ペテルもダインもルクルットも情緒が壊れているが、それも仕方がないだろう。本当に命がけの戦いだったのだ。これ以上の死闘は二度とないだろうと言うぐらいの死闘。

 

 サトルさんの指揮下で動くデス・ナイトはアンデッドとは思えないコンビネーションを発揮し、私たちを追い詰めたが……路地裏に誘い込み家を崩して生き埋めに。むろんそれぐらいならデス・ナイトはすぐに這い出てくる。

 

 そうならないようにダインがドルイドが習得できる位階魔法で木を生やし、拘束を強化。そこに私がこれでもかと魔法を撃ち込んでようやく仕留め切ったのだ。

 

「素晴らしい! これほど早くデス・ナイト同時討伐を成功させるとは! 本当に……素晴らしい!!」

「ポジティブ!! これなら予想よりも早く卒業試験に移れそうなのです!」

 

 師匠たちの言葉に私は一瞬で真顔になる。みんなも真顔になる。だって知っているのだ。サトルさんにしろアイリスさんにしろ、こういう言動の時には何かしらの無茶ぶりをするのだと。

 

「……良い反応です。例え目の前の敵を倒したとしても残心を残す。そうでなくてはならないのですよ」

「ではその真顔に応えるとしましょう。出てこい! 我が傀儡たちよ!」

 

 サトルさんの言葉に次々と新しいアンデッドが現れる。デス・ナイトもいれば、全身が黄色と緑色に点滅するオーラを纏った馬のようなアンデッドもいる。エルダーリッチのようなローブに身を包んだスケルトンもいれば、指が途中から刃物に代わっている仮面を被り、トレンチコートを着たアンデッド。多種多様なアンデッドが出現し───

 

「では我が弟子たちよ。君たちに卒業試験を課すとしよう。ここにいるアンデッド全てに打ち勝て! それが終了すれば……皆さんは晴れてこの砂箱から巣立てます」

「レッツトライ! なのですよ!」

 

 人間卒業試験が始まってしまった。

 

砂の箱庭三百六十二日目

 

「みんな……生きているか」

「生きているのが不思議なのである」

「俺……手足の感覚がないんだけど。これ繋がってる? あっ……右手と左足がねえわ」

「……の……ど……───しゃべ………………」

「セリーシアは喋らなくても良いですよ。喉を使い過ぎたでしょう」

 

 私たちに課されたとんでも試験。それがようやく終了した。なぜ勝てたのかは私たちにも良く分からない。多種多様なバフを盛り、地形を活用し、相手が巨体であれば閉所に押し込んで焼き殺したり。

 

 特に私は攻撃役として魔力を使いまくった。アイリスさんに教えて貰った位階魔法とは全く違う体系の魔法……文字魔術(ルーン・マジック)まで駆使してこれでもかと気合を体に入れた。

 

 最後辺りには血管に直接ポーションをいれて疲労を飛ばしたり、師匠直伝の分割思考(マルチタスク)で同時に4つの魔法を使ったりとかなりの無茶をする羽目になった。

 

 それでも───

 

「勝った……んですね」

「ああ……生き延びたんだ俺たちは」

「ふふ……あははははは! はははははははは!」

「すげえ……すげえぞ俺たちは! きっともう師匠達以外には負けねえぞ! アダマンタイトだって夢じゃねえ!」

 

 全員で笑い合う。師匠達の人間卒業試験(無茶振り)を乗り越えたことに。この先の人生においてこれ以上の難題は、きっと存在しない。

 

私は願う(I wish)。彼らの体力や魔力、全てを全快させてあげてください」

 

 師匠───サトルさんとアイリスさんが姿を現す。二人はにこやかに笑っていて……なぜか普段とは全く違う恰好をしていた。アイリスさんは初めて見る白い祭服に、その上からケープを羽織り、頭には丸い帽子を被っている。

 

 サトルさんは黒いズボンに黒いシャツ。ところどころに金の刺繍が入った、フード付きの黒いローブで身を飾っている。

 

 御二方はなぜかフル装備だった。

 

「卒業試験。お疲れさまでした。みなさんは晴れて私どもの弟子を卒業です」

「それでですね。オーナーとご相談したのですが……最後に……本気の私たちを、ちょっとだけ見せてあげようと決めたんです。みんなが師匠と呼んでくれた私たちの実力を……ほんのちょっとだけですが」

 

 その言葉にペテル・ダイン・ルクルットを顔を合わせ───

 

「そういや……この一年間の間、本気ってやつはアイリスちゃんもサトルさんも見せてはくれなかったもんな」

「面白いじゃないですか! 世界最強に挑むチャンス! ここで引くぐらいなら……弟子入りなんてしてませんよ!」

 

 みんなはやる気のようだ。もちろん───

 

「アイリスさん! サトルさん! お二人の胸を───お借りします!!!」

 

 私もやる気だ!二人ともその言葉に朗らかに笑ってくださり……次の瞬間にそんなタレントを持っていない私たちでも、可視化できるほどの大魔力が空へと立ち上がり───

 

 これ以上のことを私は日記に書き記すつもりはない。ただ……私が抱いた確信。アイリスさんとサトルさんがこの世で最強。その気持ちが揺らぐことはないだろう。

 

 あの御二方が負ける姿。それを想像するには……私たちの師匠たちはちょっと人外過ぎるのだ

 




アイリスのステータス:偽装して下方修正したステータスを見せた。魔力量も偽装ステータス

ユグドラシル産食物:食べ続けると肉体がプレイヤー仕様に近づく。より高品質な食事であればあるほど変換効果が高い。漆黒の剣が食べていたのは全て伝説級以上

漆黒の剣のレベル ()内は上限レベル

ペテル:8→28(31) アダマンタイト相当
ダイン:7→27(27) アダマンタイト相当
ルクルット:8→30(33) 英雄級
セリーシア(ニニャ):6→46(52) 逸脱者 

魔法適正:魔法を通常の倍の速度で習得可能。自身が従来覚えられる位階魔法より一つ上の位階魔法も習得可能
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