エ・ランテルの共同墓地。この都市の西側地区の大半を使った一角。他の王国都市にも墓地はあるが、この都市の墓地が王国内でも最大規模の墓場である。
墓地の最奥には霊廟があり、地下には神殿が広がっている。その神殿にはとある組織の人間たちが巣くっていた。
ズーラーノーン。
王国・帝国・法国・聖王国・竜王国。人類国家全てからアンデッドを使役し、過激な行動をとるカルト集団として認定されている危険な集団だ。
思想もさることながら、それ以上に十二高弟と呼ばれる幹部格が危険視されている。サトルらナザリックが殺したクレマンティーヌも十二高弟の一人であり、英雄級であるクレマンティーヌの実力を凌駕している者すらいる。
そんな強者が揃う十二高弟の一人である、カジット・デイル・バダンテールはエ・ランテル地下神殿で頭を抱えていた。彼を悩ませているのは昨日誕生したと言うとある冒険者一行だ。
「その情報、確かなんじゃな」
「はい。エ・ランテルの冒険者組合に、アダマンタイト級冒険者が誕生。その冒険者一行───『黄昏』はあくまでも噂話に過ぎませんが。……第八位階以上を行使する魔法詠唱者だとか」
「第八位階……のう。それは流石に噂じゃろうが……アダマンタイト自体は本当だろうよ。そいつらが、その外にいるドラゴンとやらを率いているのだろう?」
「そのようです。あのドラゴンがどの程度の脅威なのかは不明ですが……ただ我々の邪魔になると思われます」
「言われんでもそれくらい分かっておるわ。しかし……なぜじゃ……なぜそのような強者がこの都市に現れる。儂がどれだけの歳月をかけて準備をして来たと!……」
カジットは赤黒いローブを翻し、神殿の奥へと進む。体毛が一切なくアンデッドのように目はくぼみ、やせこけた顔を歪ませ怨嗟の声を漏らす。
彼には数十年をかけた夢があった。余人が聞けば世迷言と切り捨てるような夢が。カジット自身もそれを他人がほざけば、狂っていると吐き捨てるような夢だ。
だがその夢のために数十年。このエ・ランテルの巨大墓地に目をつけ、この都市で準備すること五年。まだ時間はかかるものの、とある秘宝と組み合わされば目的も達成できたはずなのだ。なのに……今になって竜を従えるような英雄がこの都市に出現した。その冒険者がどのような性格なのかは、まだ分からない。それでもカジットの目的を知れば間違いなく止めに来るだろう。なにせ彼の目的が叶えば、この都市は数万人が死ぬ死の都となるのだから。
ふざけるな! 突然出現した余所者に……儂の夢の邪魔などさせるものか!!!
そう叫びたい気持ちを抑え、カジットは知恵を振り絞る。なんとか……なんとかせねばならないと。思考を回転させて───
「そう言えばあやつが姿を消したが。荷物はここに置きっぱなしじゃったのう。……あのイカれ女、そう言えば何か法国から秘宝を盗んで来たと言っておったが……何を盗って来たのかは言っておらんかったな」
もしかしたらその秘宝が何かの役に立つかもしれない。そう思いカジットはイカれ女───クレマンティーヌの荷物の物色に向かうのであった。
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漆黒の剣はサトルらの訓練を終了した後、夜も遅いと言う事で屋敷で一夜過ごさせて貰った。セリーシアは箱庭の一年で髪も伸びていたので、最初はアイリスが切ろうとしたのだがそれを彼女は断った。切る代わりに髪の手入れをアイリスに教えて貰ったり、メイド達に着せ替え人形のように扱われたり、アイリスに添い寝されてまるで妹のように扱われたりにと色々とあり。
「それでは本当に弟子卒業です。あとは貴方たちが自分でどんな道を歩むのか決めるのです。歩む道は多くあり、今のみんなならどんな道でも選べます。……最後に、私が伝えたいことは一つだけ。鍛えた力は出来る限り他者への施しに使ってあげてください。それだけです」
「次に冒険者組合で出会った時は、師匠と弟子じゃなくて。あくまでも冒険者仲間だ。それではペテルさん、ダインさん、ルクルットさん、セリーシアさん。貴方達に希望の導きがあらんことを」
そう言って見送られた漆黒の剣は、冒険者組合への道を行く。箱庭の中では衣食住が保証されていたが、外では一年前と同じように自分達で金を稼ぎ暮らしていかねばならない。その過程で誰かを助けたりすることが……きっと鍛え上げてくれた師匠達への何よりもの贈り物になるのだから。
「こうやってよ。エ・ランテルの路地を歩いていても、本当は一日しか経ってないんだから不思議だよな」
「ですね。『砂の箱庭』では私たちは一年を過ごしたのに……他人から見たら一日しか年を重ねてないんですよね」
「体格は多少大きくなったであるがな。それもセリーシアに比べると微々たる差ではあるが」
男三人の視線がニニャ……もはやその名は捨てて、今は本名であるセリーシアを名乗る少女に向けられる。箱庭に入る前に比べると、明らかに女性らしく成長した少女にだ。
アイリスに言わせれば栄養素が全く足りていなかったセリーシア。冒険者としてのストレスだったりで成長期が遅れていたのもあり、年の割に発育が遅れていたのだが……箱庭の中で栄養たっぷりな『ユグドラシル』産の食材を大量に使った料理を三食しっかりと摂取し、睡眠時間まできっちりと取った事で四人の中で体が急成長。
身長はあまり伸びなかったが、体付きはもう少年では絶対に誤魔化せない体へとなっていた。
「なんですかみんなしてそんなにじろじろと見て! アイリスさんが用意してくれた料理が良すぎただけですからね!」
「アイリスちゃんの料理……ねぇ。お前さんはほんとにアイリスちゃんにベタ惚れだな。箱庭前と違って髪を短くしなかったのは、アイリスちゃんと同じ髪型にしたいからだろ」
「なぁっ!!」
「あっ、それで切るんじゃなくて手入れの方法を」
「だがセリーシアの気持ちも分かるであるな。わが師達の事を知れば知るほど、あの領域に少しでも近づいてみたいと、思ってしまうであるからな」
「近づくっつっても、千年かけても万年かけても俺は無理だと思うぜ? 特に最後に見せてくれた本気なんざ……」
「『
「『
四人の脳裏によぎるのは、最後にご褒美として見せて貰った二人の本気。漆黒の剣が師匠である二人が絶対者なのだと確信した終着点。世界の名を冠する比翼連理の力だった。
そこからも話に花を咲かせつつも、漆黒の剣は冒険者組合を目指す。
たどり着いた冒険者組合でいつものように掲示板から依頼紙を取り、受付に持って行って……成長したセリーシアに対して誰だお前と揉めたりもしたが、それはご愛嬌だろう。
なんとか別人じゃないと誤解を解きつつも、銀級冒険者が受けられる討伐の依頼を受ける漆黒の剣。いつものように───当人たちの視点では一年ぶりのゴブリンやオーガの退治依頼だったが───
「ゴブリンってこんなに弱かったか?」
「オーガもダインが
「セリーシアも大概でしたよ? <魔法の矢>が当たったオーガが肉片になるなんて……」
箱庭で自分たちは強くなった。それは初日にはボロ負けした、デス・ナイトを倒せた事で理解はしていた。それでも自分達がどの程度まで強くなったのか……漆黒の剣には実感がなかった。
……なにせ箱庭の中で戦う相手は、常に同格かそれ以上の格上ばかり。サトルもアイリスも決して弱敵など用意はしなかった。サトルは漆黒の剣にぶつけるモンスターの中にゴブリンもいくつか用意はしていたが、殆どが20から40レベルの個体ばかり。
さらには人類の中で強者と呼ばれる人たちが、どの領域にいるのかを漆黒の剣の面々は知らないのだ。それこそ自分達が。例えばペテルであれば、自分が王国最強の戦士ガゼフと一騎打ちでも勝てるようになっていることを知らない。
比較対象が超級のモンスター達と……よりにもよって世界級の二人なせいで感覚がずれていたのだ。
「俺たちひょっとして……とんでもなく強くなってないか?」
「ええ。まずは金級やミスリル級を目指そうと考えていましたけど……」
「私たち既にアダマンタイト級……だったりするんですかね?」
セリーシアの言葉に誰も「まさかそんな」とは言わなかった。想像以上に自分達が強者や英雄側になっていたのだと。気づいてしまったから。
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箱庭から出て早四日。
強くなっていても、何かしらの功績───例えば難度250の魔樹を討伐したり───が無ければ昇格は難しい。
なので漆黒の剣は修行前と変わりなく、いつも通り冒険者としての依頼を受けていた。依頼を達成して日銭稼ぎをする傍ら、セリーシアは人探しの魔法の研究を宿でしていた。
姉を見つける。それを叶えるためにセリーシアは冒険者となったのだ。領主が姉を売り払ったと噂を聞いた時には両親に探そうと訴えたが……どうせ死んでいると突っぱねられた。だから衝動的に村をでて、あてもなく彷徨う内に野垂れ死にかけて。運よく魔法の才を見抜ける人に魔法を教えて貰い。
そこからは自分で金を稼ぐために冒険者になって。漆黒の剣のみんなとチームを組んで。冒険者チームの名前はセリーシアのとある提案から今の名前になり。
そして路地裏で殺人鬼から助けられて。その助け人は金輪際二度と現れない、遥か頂点に白く輝く星のような存在で。
「っといけないいけない。こんな風に思い出を振り返ってる暇があるなら、姉さんを見つけるための魔法を早く取得しなきゃ」
セリーシアは思い出を振り返る事を止めて、改めて魔法の勉強を再開する。そうでなければ───
「頂いたこれも役に立たなくなるしね」
彼女が手で弄るのは小さな指輪だ。見た目は飾りもついてない鉄の指輪だが、これには第十位階の蘇生魔法が籠められている。もし姉が探した果てに亡くなっていたりしたら、使えばいいと渡されたマジックアイテムだ。
これともう一つ。超級なんて言葉では表現できない、最高位のとある物品を卒業祝いとしてセリーシアは貰っている。最後まで師匠である二人に世話になりっぱなしなのだ。それに報いるためにも、早く新たな魔法を取得しなければならない。
そうやって勉強している内に夜も深まる。<永続光>の籠められた明かりがあるが、だからと言って睡眠時間を削ってまで勉強をしてはいけない。それはアイリスとの約束だった。無理をするよりもベストパフォーマンスを維持した方が効率がいい。だから今日は寝るかとマジックアイテムの明かりを消そうとしたところで───
ドンドンと部屋の扉を叩かれる。
瞬時にセリーシアの脳が戦闘用の思考に切り替わる。普段と違うことがあれば、すぐさま臨戦態勢を取れ。箱庭の一年で培われた経験の賜物だった。机の傍らにおいていた杖をすぐさま握りしめる。
空中に
「おいセリーシア起きてるか! 俺だ! ルクルットだ! 起きてるならいますぐ出てこい!」
聞こえてきた声はチームメンバーであるルクルットの物だった。すぐさまルーンを消し、扉を開ける。
「どうしたんですかそんなに慌てて!」
「冒険者組合から緊急収集だ! 墓地からアンデッドが溢れかけてるんだとよ!!」
「! 分かりました! すぐに身支度を済ませます!」
ルクルットの言葉に何かが起きたのだと察したセリーシアは、すぐに装備を身に着け彼と共に宿の一階へと向かった。
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「これは!」
宿の下で待っていてくれたペテル・ダインと合流したセリーシアは、すぐさま<
「ペストーニャさん。どうされたんですか!?」
「おや? セリーシア様。これはこんばんわですわん。貴方方も招集されたのですね……あ、わん」
「あっ、はいこんばんわ。……じゃありません! 一体どうしてここにペストーニャさんがいるんですか?」
セリーシアが驚くが、それも無理はない。彼女……ペストーニャのことは漆黒の剣も知っているがそれはメイドとしてであり、冒険者や衛兵が緊急収集されているような場面で出てくるような人物ではないと思っていたからだ。
「私がここにいる理由ですかわん? つい先ほどお屋敷まで組合の方がサトル様をお呼びに来られたのですが、残念ながら『黄昏』の皆さまは諸事情があって現在エ・ランテルを離れているのです。ですが主のいない家を預かるのがメイド長である私の仕事。現在サトル様はこの都市で住まわれている。であればこの都市自体が、サトル様の現在の家と言い換えられます。ですので招集を受けたサトル様に代わりまして、こちらに赴いたのです。……あ、わん」
「そ、うでしたか。何というか……ペストーニャさんも御強いん……ですか?」
「勿論で御座います。この墓地に出る程度のアンデッドに、負ける程度の私では御座いませんので……あ、わん」
サトルさんに仕えるメイドだし、そんなもんなのかも知れないとペストーニャの言葉に納得する漆黒の剣。彼らは次に周りを見渡して───
「まだ衛兵も冒険者も殆ど集まっていませんね」
ペテルの言うように墓地正門には他にも人が集まっているのだが目に見えて少ない。その少ない人数も正門を叩く悍ましい数のアンデッドに怯えて正門を離れ、また亜人か異形にしか見えないペストーニャを警戒し遠巻きに眺めているだけ。都市の衛兵と言っても殆どは一般市民に毛が生えた程度の実力しかなく、冒険者にしても集まっている殆どが銅や鉄。漆黒の剣と同じ銀は三組しかおらず、それ以上のランクの冒険者は金級が一組だけ。
弱いアンデッドが百体程度であれば、ペストーニャや漆黒の剣を除いても問題なくここに集まった戦力でもどうにでもなるだろうが……明らかに千はいるだろうアンデッドの群れ相手に出来るほどではない。
「漆黒の剣の皆様は、私と同じように転移で来られたのですよね? その分だけ早く来られたのでしょう」
「あー、そうか。セリーシアが<上位転移>を覚えたり、サトルさん達が<転移門>で移動するから麻痺してたけど……」
「転移って恐ろしい時間短縮になるんでした。一年も普通に移動してないと感覚が狂いますね」
「……ミスリル級冒険者や衛兵を待っていては、あの門が破られるやもしれないのであるな」
全員の眼が正門に向く。今も無数のアンデッド達が門を破ろうと体をぶつけている。濁流染みたアンデッド達は、体が壊れることも厭わずに手足を叩きつける。
ギシギシと金属製の門は今にも壊れそうな音を上げている。あれが壊れれば、いずれはアンデッドが街に溢れかえるだろう。そうなれば収拾はつかなくなる。
一般市民も多くいる中では広域殲滅向けの魔法なども使い辛い。悠長に救援を待っていては取り返しがつかなくなるだろう。
「このままでは扉も持ちそうにありませんし、門のところにいるアンデッドは対処しておきますわん。<魔法範囲拡大化・治癒領域>」
ペストーニャが範囲型の回復魔法を唱える。対象は正門のアンデッド達だ。負のエネルギーで動くアンデッドにとって、正のエネルギーである治癒系の魔法は身を焦がす毒となる。
瞬く間に正のエネルギーを流し込まれたアンデッドが次々と倒れては消えていく。まるで火に自ら飛び込んだ虫のような勢いで消滅する。数が多かろうが、集まっていたアンデッドは多くがレベルで言えば一桁台。100レベルの回復特化信仰系のペストーニャにとっては敵にすらなり得ない。
「しばらくはこれで門が壊されることはありません。それにしても……この都市の墓地ではアンデッドがこんなに出現するものなんですかわん?」
「いいえ。時たまアンデッドが湧いたりはしていますが、それも数体程度で普段であれば衛兵でも対処出来る筈なんですが……」
「では普段とは違うことが起きていると? それはなんなのでしょうか...あ、わん」
「セリーシア。魔法で墓地を調べて貰えますか。門のところだけで先ほどの有様なら、墓地内部にはもっと大勢のアンデッドが溢れているかも知れませんし、何か原因などがあれば判明するかもしれませんので」
「分かりました。<探知阻害><探知対策><偽りの情報><虚偽情報><攻性防壁強化><遠隔視><視覚共有>」
探知などの魔法を使う際には、事前に必ず対抗魔法を使っておくこと。サトルから口を酸っぱくして注意されているセリーシアは教えに従い、いくつかのカウンター魔法を使っておく。セリーシア自身も自分に第七位階魔法
魔法の眼を創り出したセリーシアは視覚を四人と共有させる。架空の眼は墓地を上空から俯瞰していく。
「うへぇ、すっげぇ数」
「これはまた……五千はいるであるか?」
「見る限り強力なアンデッドはいないようですが、それでもこれだけ数が揃うと厄介ですね」
「<竜巻>や<天雷>で薙ぎ払っても時間がかかりそうだな……ん?」
上空から視認していた五人は墓地の最奥の霊廟付近に、人影がいるのを発見する。最初はアンデッドかと全員思ったが、どうやら違うらしいと気づく。集団は全員が似たような恰好をした人間のようだ。その集団に囲まれるように裸同然の少年が立っており───
「あれは……ンフィーレア・バレアレ氏、であるな」
「ンフィーレア様? ああ。確かこの都市でも有数のタレントを持つ薬師でしたかわん?」
「そうです。ンフィーレアさんはどんなアイテムでも扱えるタレントを持っている有名人ですが……なぜあんな場所に?」
「遠くて分かりづれぇけども、どうも目が虚ろだな。あれ洗脳とかされてるんじゃねえか?」
「少し調べてみます。<魔法探知>。…………あれは……<上位道具鑑定>。……ルクルットの推測通りですね。ンフィーレアさんが頭につけているサークレットがありますよね。あれを<遠隔視>を通して調べてみましたが、どうもスレイン法国が作成したマジックアイテムのようです」
「法国のマジックアイテム? なんでそんなもんがここに」
「そこまでは分かりませんが……<上位道具鑑定>で調べた限りでは、あのアイテムを装着すると五位階以上の位階魔法が使えるようになるみたいです。ただその代償に使える人がかなり限られるのと、装着した人の自我が失われてしまうようです」
「第五位階以上ですか。前までなら凄いアイテムだってはしゃいだかも知れませんが───」
「───自我を失ってようやく第五ってのもなんか微妙だな」
ルクルットが気を吐くが、それは漆黒の剣全員の総意だった。この一年で第十位階を連打する師匠達に鍛えられたのと、メンバーであるセリーシアが、タレントによるブーストと魔法上昇による位階引き上げと
「マジックアイテムの効果は置いといてだ。あのアイテムは使用者が限られるんだよな。そんでもって自我を無くすってことはだ」
「無理やり装備させれば強制的に魔法を吐き出す装置に変えてしまえる。使用者が限られるデメリットも、バレアレ氏であれば無視できるであるな」
「ならンフィーレアさんは拉致されてあそこに連れていかれて……あのマジックアイテムを装備させられて、何かしらの位階魔法を使わさせられている?」
「それで正解だと思います。<不死の軍勢>。ンフィーレアさんが発動させられている魔法です。第七位階の魔法で低位のアンデッドを無数に召喚する魔法ですね。それが墓地内にアンデッドが溢れた原因かと」
「ンフィーレアさんのお店で一度ポーションを買ったことがありますが、とてもではないですが自分から進んで自我を失うようなマジックアイテムを装着するような人には見えませんでしたし……ましてやアンデッドを召喚するような人とも思えません」
「ならやっぱり拉致したで正解だろうぜ。しかしそうなるとあの囲んでるやつらが拉致したんだろうが……あいつら誰だ?」
謎の集団が誰なのか。それをある程度探るまでは踏み込むべからず。これもサトルの薫陶だった。情報収集をしてから一気に奇襲をかけて叩くべしが彼の戦術であり、無策に突っ込むのは下の下。アイリスからも敵を知り己を知れば百戦危うからずと教えられているのもあり、恰好や顔から正体を探ろうとする。
セリーシアも生命力や魔力を測る魔法で、事前の情報収集を怠らない。もっともこの情報は偽装して当たり前の情報なので、目安にすると酷い目にあってしまうが。実際箱庭で酷い目にあった。
そんな中でペストーニャが「あの顔に見覚えがありますわん」と口にした。
「法国で情報を集めた時に、指名手配犯の似顔絵なども集めましたので。その中に確かあの毛のない人物が載っておりましたわん」
ペストーニャは自分のインベントリから紙束を取り出す。パラパラと捲り、お目当てのページを見つけたのか「ここですわん」と漆黒の剣に見せる。
「ズーラーノーン幹部!」
「あのカルト共の十二高弟様かよ。こりゃぁ、また大物が出てきたな」
「しかしズーラーノーンであれば、アンデッドを呼び出すのも納得であるな。やつらは過去にも、何度も、何度もアンデッド絡みの事件を起こしているのである」
「何を企んでいるのかは伺えませんが……止めないと間違いなく不味い事態になりますね」
「……セリーシア。あの霊廟まで転移で飛べますか?」
「大丈夫です。何の問題もありませんよ」
ズーラーノーン幹部を止める。普通であればそれほどの相手となれば、冒険者ならオリハルコン以上が出張る案件だ。しかしこの都市にいるオリハルコン以上の冒険者は、サトル達『黄昏』のみ。その『黄昏』が不在の今、この都市の最高戦力はミスリル級冒険者だ。
だが漆黒の剣の顔に陰りはない。強くなった自分たちであれば、ズーラーノーンの12高弟が相手でも見劣りはしない筈だと言う自負。セリーシアに至っては第十位階にすら届いた魔法詠唱者だ。
それにペストーニャと言う、恐らくは師匠であるサトルやアイリスには届かないがそれでも強力としか言えない助っ人もいる。だからそれほど心配はしていなかったのだが───
「残念ながら私はズーラーノーンの元には参りませんよ」
「え!? そ、それはどうしてですか……」
「私は今から共同墓地に湧いたアンデッドの処理をしてきます。弱敵とは言え、放置すれば大変な事になるかと……わん」
「確かに……そろそろほかの冒険者も駆けつけるかもしれませんが、それでもあの数の対処となればペストーニャさんの方が適任かもしれませんが───」
少しだけ不安そうな声をペテルは出す。修行後初の対人戦。それも相手は音に聞こえたズーラーノーンの幹部だ。セリーシアがいるから勝てはするだろうが……それでも一抹の不安は拭えない。
そんな彼らに対してペストーニャは優しく声をかける。
「皆さまなら大丈夫です。サトル様とアイリス様が卒業に足ると判断したのです。ならば負けるはずがないですわん。それに───」
ペストーニャの視線がセリーシアに向く。
「───特にセリーシア様。アイリス様は本当にあなたの成長を喜ばれておりました。妹が出来たようだと。想定以上に成長なされたと。あの方は本当に凄くないと凄いとは言いません。『そんなに凄くないのですよ』。そう言われるでしょう。……あ、わん」
「私が凄い……ですか?」
「はい。一年程度では才能があっても、辿り着けて四位階程度だと推測されていました。そこから先はもっと時間がかかると思われていたのです。ですがあなたはその想定を超えて第八位階に。<
ナザリックと言われても漆黒の剣はピンとは来ないが。それでもペストーニャの言い方から、彼女なりの賛辞をくれたのだろうと判断した。
今はまだ分からなくとも……その言葉の意味を知った時に。きっとセリーシアは喜ぶだろう。だからこれ以上はペストーニャも言葉を飾らない。彼女は既に最大級の称賛をしたのだから。
門を飛び越えて墓地に消えていくメイド長を見送った後、漆黒の剣は墓地最奥の霊廟に飛ぶための準備をする。
「私たちの実力はオリハルコン以上に伸びている筈です。ですのでミスリル級……『クラルグラ』や『天狼』、『虹』が来ても足手纏いになると判断します」
「異論はねえぜ。つうかセリーシアとかフールーダの爺さん以上だろ? 一緒に戦いなれてねえ相手を連れて行って、巻き込んだりしたら大変だからな」
「相手はその危険度から、国すら手を出すのを恐れていたズーラーノーンである。無意味に怪我人や死者を出す恐れがある行為は控えるべきであるな」
「相手の実力は未知数。向こうには第七位階を使えるンフィーレアさんもいます。なので……
セリーシアの言うあの子達。それは彼女が覚えている三つの第十位階魔法の一つ
「<
普段連れ歩くには大きすぎるため、サトル邸の庭で放し飼いにさせてもらっている魔獣をここに呼び出す。
召喚したモンスターや味方が遠く離れた場所にいる時に、近くに呼び寄せる第七位階魔法をセリーシアは発動する。
彼女の足元に魔法陣が描かれ、そこから二頭の獣が飛び出してくる。
一頭は四つ足に犬にも獅子にも見える頭を三つ持ち、蛇の頭が付いた尻尾を持つ大型高位魔獣。名をケルベロスと言う。
もう一頭は双頭の巨大な犬だ。ケルベロスに負けない巨体に蛇の尾を持つ魔獣。こちらも高位に属する魔獣でケルベロスと同等の力を持つ。オルトロスと呼ばれるモンスターだ。
漆黒の剣を遠巻きに眺めていた冒険者と衛兵が、姿を現した二体の魔獣に息を呑む。『黄昏』のアイリスが従える竜に比べれば劣るものの、それでも難度換算で200前後の魔獣はさぞ恐ろしく見えるだろう。
「な、なぁ……今のって」
「あの女の子が呼んだのか?……」
「さっきの犬頭のメイドと何か相談してたみたいだけど……あいつら誰だよ」
「銀級冒険者……だよな」
「前に見た事があるけど、確か『漆黒の剣』ってやつらだが……あんな可愛い女の子はいなかったと思うが」
「墓地にはアンデッドが溢れるわ、そのアンデッドが急に倒れて消えるわ、犬頭が壁を飛び越えていくわ今日は厄日か何かか!!」
「あいつらまさか墓地に行くつもりか!」
そんな声が聞こえてくるが、集中している漆黒の剣には聞こえない。
彼らは二体の魔獣に分かれて騎乗して───
「<
墓地の霊廟まで転移魔法を発動した。
セリーシア:純魔特化型の天才。素が七位階。タレントのブーストで八位階。ナザリック評価で単体なら強化前エントマ・シズと同格。魔獣込みなら強化前ナーベやルプーも超える
イビルアイ:感想でセリーシア(ニニャ)と引き合いに出されていた吸血姫。レベルと種族値が高い分単体かつ近~中ならイビルアイが有利。中~遠の撃ち合いだと純魔構成で魔法砲台になるセリーシアが勝つ。魔獣を出されたらイビルアイに勝ち目が無くなる
蒼の薔薇:こちらも感想で漆黒の剣との比較があったアダマンタイト冒険者チーム。魔獣抜きでも後衛のセリーシアから第七や第八の高火力魔法や高倍率のバフが無数に飛んでくるので蒼の薔薇が非常に不利。魔獣を出したら今度は殺さないように手加減するのが難しい。そんなパワーバランス
ケルベロス&オルトロス:文字魔術で簡易儀式+魔法上昇で<第10位階怪物召喚>を使用。位階魔法自体にルーンを組み込んで召喚魔法のセオリーを無視している(永続化・術者よりレベルの高いモンスターを呼ぶ・2体同時)
第10位階怪物召喚:レベル60~70のモンスターを召喚出来る。『ユグドラシル』の100レベルプレイヤーからしたら片手間で潰せる程度のモンスター。転移後世界基準では隊長と番外抜きの漆黒聖典が壊滅しかねないレベルの脅威