「卒業祝い……ですか?」
卒業試験が終わり、サトルとアイリスの本気への挑戦も終わってあとは外に出るだけ。その段階になったところで、アイリスがそう提案したのだ。
「ポジティブ。入門祝いがあるなら、卒業祝いもあって然るべきなのです。貴方達4人は、私たちの故郷の食事による才能の解放があったとは言え、それでも立派になりました。そんな自慢の弟子には特別な物を贈る。これこそ師匠なのですよ!」
えっへんと胸を張るアイリス。まるで子供のような真似をしているが、もはや見慣れた光景なのか漆黒の剣はそこには突っ込まずに「卒業祝いか」と呟き少し考える。
あまりにも色んな物を貰って来たので、流石にこれ以上は貰い過ぎな気もしているのだが……この小さな師匠はかなり押しが強く、こうと決めたら一直線に突き進む人だと良く理解しているので断ったりはしない。むしろ断ったら「その謙遜! 素晴らしいのです!」とかなんとか言って、とんでもない物をどっさり渡されそうだ。だから漆黒の剣は集まって相談し、一つの事を決めた。
「アイリスさん。それでは卒業祝いなのですが……私たちの分も合わせた何か特別な一品を、セリーシアに上げて頂けませんか?」
「ネガ? ……それはどうしてですか?」
「私たちのチーム、『漆黒の剣』の名前の由来を覚えておられますか?」
「…………ポジティブ! 大体わかったのですよ。皆が集めようとしていたと言う十三英雄の四大魔剣! あれが一本は既に発見されていて、四本は絶対にチーム全員で集められない。もし残りの三本を見つけたとしても、必ず一人はあぶれてしまう。だからそのひと振りの代わりを……セリーシアに上げたいのですね」
「御察しの通りです。アイリスさんから四本全てを、私たち全員が持つ夢は叶わないと聞かされた時には少し気落ちもしましたが……仮に四本揃ったとしてもセリーシアは剣を使わないですからね。それならいっそのこと、漆黒の剣の代わりになるような素晴らしい何かを彼女に上げてくれませんか?」
「ポジティブ! それならお安い御用なのです! ……ですが構わないのですか? アイリスが用意できるアイテムは、自慢じゃないですが非常に良い品質ばかりです。それを無条件で手に入れられるチャンスを棒に振っちゃうのですよ?」
「構いません。元々は彼女の弟子入りに付いてきただけですからね。既に私たちはこれだけの───」
ペテルはそう言って自分の装備を指さす。
「こんなに素晴らしい装備を貰っています。それだけに留まらずこの一年間たくさんお世話になりました。だから構いません。それに……私たち三人にとっては仲間である以上に、セリーシアは妹のような存在です。私には弟や妹はいませんでしたが……一番末っ子に何かをしてあげたいと思うのが……兄でしょう?」
そう言ってペテルは笑う。その言葉に「何を言ってるんですかペテルは!?」とセリーシアはちょっとだけ膨れ、ルクルットは「照れてやがんのこいつ」とからかって、ダインは「がはは」と豪快に笑う。それを見たアイリスは目を細めて彼らを見て───小さな声を、誰にも聞こえないように絞り出す。
「───あなた達が私の初めての弟子で良かった。私がかつて憧れ共存を目指した……優しい人間で」
「アイリスさん? 何か言われましたか?」
「仲のいい四人兄妹だと言ったのですよ! ……ではみんなの願い聞き届けたのです! アイリスが……私が知る
アイリスはそう宣言し、箱庭の中で三日かけてそれをサトルと共に造り上げた。渡すときにセリーシアが泣き出すほどのとんでもない杖を造り上げた。
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カジット・デイル・バダンテールにとって、それは幸運な出来事であった。
同じ高弟のクレマンティーヌが自分の元を訪ねて来たと思ったら、荷物だけを残して姿を消し。その荷物の中にはスレイン法国の秘宝である『叡者の額冠』が遺されていたのだ。
このマジックアイテムはセリーシアが鑑定したように、第五位階以上の魔法を扱えるようになるアイテム。十位階にまで手を伸ばした者にとっては無用の長物だが、従来の感覚からすれば秘宝と呼ぶのに相応しい逸品だ。
百万人に一人かつ女性しか使用できない縛りがネックではあるが、それもエ・ランテルに限れば無いも同然になる。
ンフィーレア・バレアレ。あらゆるアイテムを───この世に存在する使い手を選ぶようなマジックアイテムですら、無条件で使用できる破格のタレントの持ち主。マジックアイテムには『叡者の額冠』のように特定の職業に付いている物や、特定の人物しか扱えない物などもごまんとあるが……ンフィーレアはその全てをわが物として運用できる。
そんな貴重なタレントを持つ人物が、護衛なども付けず無防備に店番などをしている。エ・ランテルは王国内では治安が良い部類に入る都市であり、バレアレ薬品店がある区画は都市内でも安全な地域だが……それでも不用心だとカジットは嗤った。
『叡者の額冠』を扱える人物はいつでも誘拐出来る。だからあとはタイミングだ。竜すら従えると言うアダマンタイト冒険者チーム『黄昏』が、この都市を離れる瞬間を待つだけ。そうすれば……夢への一歩を自分は踏み出せる。彼の夢───それは母を蘇らせる。
カジットの母の死因は病死だった。だが彼はそれに納得できず、蘇生魔法の研究をした。けれど従来の信仰系蘇生魔法では母は蘇生することはできないと知り、絶望し……一つの希望を見つけた。信仰系で駄目ならば、魔力系ならば。全く違う蘇生方法を確立させれば良いのだと気づいたのだ。
しかしそれには人間の寿命では届かない。不老の魔法も存在しない。ならば不老の存在になればいい。不滅の肉体を持つ、アンデッドに。
そのために彼はズーラーノーンへと入り、アンデッドになるための研究をして一つの解に辿り着いた。『死の螺旋』と言う回答に。
『死の螺旋』とはアンデッドの発生方法に目をつけた大儀式だ。アンデッドは負のエネルギーが溜まると発生する。そしてアンデッドがいれば負のエネルギーは高まり、そのエネルギーによって新たなアンデッドが誕生する。
それが繰り返されると負のエネルギーは際限なく高まっていき、いずれは強大なアンデッドが誕生するほどのエネルギーへと膨れ上がる。普通であればそうなる前にアンデッドは退治され、負のエネルギーは霧散してしまうが……人為的に大量のアンデッドを発生させてしまえば駆除は追いつかなくなり、最後には莫大な負の力だけが残る。
その魔力を使う事で人間の体を捨てて、アンデッドになる。それがエ・ランテルで5年の準備をしてきたカジットの目的だ。
高位階のアンデッド召喚魔法を使える算段は立った。あとは本当に待つだけ。唯一邪魔になるであろう『黄昏』が都市を離れてくれさえすれば。もはや自分は止められない。アダマンタイト級冒険者達が帰って来た時には、エ・ランテルは死の都市になっている。
そしてチャンスはすぐに訪れた。都市の正門を見張っていた門弟から依頼主らしき女性と思われる───思われると言うのはフード付きのローブで全身を覆っており、身長からそう推測するしかなかった───人物と、その
門弟は夜まで見張りを続けて、『黄昏』が帰ってこないことを確かめてから霊廟まで帰還。夜間は街道などは明かりもなく、暗すぎるためよほどの理由がない限りは冒険者はどこかで野宿をしてから帰ってくるのが鉄則だ。ゆえにここしかないとカジットは決断した。今日『死の螺旋』を行うと。
ドラゴンはまだ都市の近くにいるようだが、自分たちを止めるために都市内で暴れたりすれば逆に死人が増えるだけ。『黄昏』がまともな思考をしているのならば、都市で何かが起こっても介入はさせないようにしているだろう。
門弟から報告を受けたカジットはすぐにバレアレ薬品店を強襲。その際にンフィーレアの家族だろう祖母に目撃されたため、彼はその老婆を殺害した。アンデッドにでも変えてしまおうかとも思ったが、下手にアンデッドにして外をうろつかれて騒ぎになっても厄介だと思いなおし、死体は放置してきた。
そして霊廟まで引き返しンフィーレアに『叡者の額冠』を装着させ、儀式を行い……目論見通り第七位階魔法<不死の軍勢>の発動に成功。あとは都市全体に数千、数万のアンデッドが溢れだし、不死者が跳梁跋扈する死の都となるのを待つだけ。そうすれば……ようやくアンデッドへと転生でき───
ズゥゥゥン!!
そんな低い音を立てて、カジットたちズーラーノーンの近くに何かが降り立つ。
「な、なんじゃぁあ!」
カジットはそんな声を漏らす。想定より早く負のエネルギーが溜まって、何か強力なアンデッドでも湧き出したかと音の方向へと目を向ける。
「……魔獣と…………人間か?」
そこにいたのは魔獣二頭とその魔獣に跨った漆黒の剣だ。彼らは自我を失ったンフィーレアによって、転移に対するカウンターが仕込まれている事を警戒して霊廟には直接飛ばず、少し離れた場所に転移。
そこからは魔獣の速度に任せて移動。途中アンデッドが彼らに向かってきたものの、ケルベロスとオルトロスの速度には追いつけない。瞬く間に霊廟まで駆け抜けてみせた。
───こやつらは……銀のプレート? ならば銀級冒険者か。それと見た事もない魔獣じゃが……
急に現れた存在にカジットは警戒するが、闖入者が銀級の冒険者と分かると警戒心を数段弱める。
銀級冒険者とはカジットにとって、簡単に殺せる連中でしかない。魔獣だけはなんとも言い難いが、それでも図体の割りには
「カ、カジット様! やつらはなんなんでしょうか!?」
「狼狽えるでないわ。首元をよく見よ。奴らは冒険者だ。それもただの銀級冒険者じゃ。魔獣を連れているのは珍しいが、その魔獣も大したことがない。……全くこんなことを一々説明させるでないわ」
やれやれと首を振って嘆かわしいと反応するカジット。儀式を邪魔するかのように表れた冒険者を前にあまりにも舐めた態度だった。
その反応に対して───
『うわぁ……全くこれっぽっちもケルベロスとオルトロスのやばさに気づいてねえ』
『反応的に、セリーシアが事前に使っておいた情報偽装系の魔法を見破れていない……と言う事なんでしょうか?』
『いや、それは演技かもしれないである。見破っていても、見破っていないように嘘をつく。それで師匠達に酷い目に合わされたのを忘れたであるか?』
『……あの時はペテルの眼が潰されて、ダインの耳が削ぎ落されて大変でしたね』
無詠唱化した<集団伝言>をセリーシアが使い、漆黒の剣全員が念話でやり取りをする。<伝言>の魔法は使い方を誤った結果、国が滅ぶ要因にもなった魔法のため人類国家では軽視されている魔法だが、近距離で相手に知られないように会話をしたい時には便利だ。
『見破られていない前提になりますが。ズーラーノーンには大型の犬程度にしか認識出来ていない筈です』
『了解しました。では情報偽装を解くのは戦闘になってから。事前の打ち合わせ通りでお願いします』
『心得たである』
『あいよ。そんじゃま、まずは話を聞いて、こいつらが本当にズーラーノーンなのかどうかを確かめますか。ま、ンフィーレアさんをこんなところに連れて来てる時点で、十中八九黒だろうけどな。さっきカジット様って呼んでたし』
漆黒の剣にはここに到着したと同時に、奇襲をかける手もあったが……もし彼らが手配書のそっくりさんで、あそこにいるのもンフィーレアのそっくりさんだった時非常にまずい立場になるため、それはやめておいた。
てへ。人違いでした。首斬ったり魔法で黒焦げにしたり心臓を射抜いたり魔獣をけしかけたりしてごめんね? 手足まだ繋がってる? 心臓動いてる? あっ、し、死んでる…………
洒落ではすまない。ズーラーノーンを止めた冒険者じゃなくて、殺人鬼になってしまう。それは避けなければならない。きちんと確認して。動機も確かめて。それからようやく捕縛するにしろ壊滅させるにしろ行動を起こせるのだ。
間違いなくこいつらはズーラーノーンで今回の騒動の原因だろうと確信はしているが、二頭の魔獣から降りた漆黒の剣は一応。本当に念のための確認作業を行うことにした。
「私たちは冒険者組合の緊急招集を受けた冒険者チーム『漆黒の剣』です! この墓地では現在アンデッドが無数に出現する異常事態が発生しています! あなた方はここで何をされているのですか! 巻き込まれた市民ならすぐに墓地入り口まで送りますが!」
「ふん。白々しい真似を。儂らが無辜の民にでも見えるのか? それとも銀級とはその程度か」
誤魔化すでもなく、ただ馬鹿にするだけの言葉に質問した側が絶句してしまう。
『おいおいマジかよ。こっちの言葉に乗っかって騙すチャンスなのに、棒に振りやがったぞあいつ』
『何も考えてないのか、こちらを油断させるためにあえてそう振舞っているのか。それとも偽装が上手くいきすぎてて、こっちを完全に銀級だと侮っているのか……判断が難しいですね』
サトルとアイリスからこういった場面なら無害なふりをして、こちらが後ろを向いたところに躊躇なく魔法を撃ち込んで来たりする輩もいると教えられている。ちなみにそれをやったのは、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明ことぷにっと萌えだ。
漆黒の剣にしても訓練の中で美少女な見た目の吸血鬼を用意されて、泣き落としと弱い振りからの自爆戦術をされたこともある。その類いも警戒してセリーシアは、周囲に地雷系の設置型魔法を無詠唱で仕込んでいたのだが……無駄になってしまっただろうかと考えてしまう。
「ではあなた方は市民の方ではないと? 墓地にアンデッドが溢れている状況で、そのような事を口にすると言うことはこの件に関与しているとして身柄を拘束させていただきますよ」
「はっ! お主らが儂を捕える? たかが
「! ……ズーラーノーンの高弟! なぜそんな人物がここに!?」
さも今初めて知りましたと言わんばかりに驚くペテル。この1年でこう言う時の演技力が身についたのか、自然と振る舞う。
『言質は取れましたね。仕掛けますか?』
『まだである。念の為に目的も聞き出しておくである。それに時間を稼げば、ペストーニャ氏が墓地のアンデッドを浄化する時間が稼げるである』
『分かりました』
「くくく。流石に儂らの名ぐらいは知っておるようだな」
「有名ですからね。しかしなるほど。ズーラーノーンであれば、アンデッドの召喚ぐらいは行いますか。ですが目的が見えませんね。ここに来るまでに、無数のアンデッドを見かけましたが、あれだけの数を揃えてこの都市でも堕とすつもりですか?」
「堕とす? まさか。この都市などどうでも良い。儂の目的はそのような矮小なものではないわ」
「へぇ。ではそうですね。念の為に聞かせてくれませんか? そこにいるのはンフィーレア・バレアレさんですよね? ンフィーレアさんがなぜここにいるのかは分かりませんが……見たところ意識がないように見えます。ンフィーレアさんがいる理由や、アンデッドを多数召喚してまで行おうとしている崇高な目的とやらを」
「……良いじゃろう。お前達はこれから死んでアンデッドになる。冥土の土産に聞かせてやろうではないか。おっと、アンデッドになったら冥土に行くことも出来んか」
全てが上手くいっている全能感がカジットの気を大きくしているのか、その口は滑らかに滑る。だがそれも無理はない。文字魔術で強化された認識の偽装魔法により、ペテル達はどこにでもいる弱い魔獣を連れただけの銀級冒険者としてしか彼の目には映らない。
この偽装を破るには高い抵抗値が無ければいけないが、残念なことにカジットにはそんな物は備わっていない。いつでも殺せる相手に警戒して口を噤むのは難しい。目的であったアンデッドへの転生が目の前まで来ているのも増長させた原因だろうが……何はともあれペラペラとカジットは自慢するように喋ってくれた。
母の蘇生など門弟達も初めて聞く内容もあったが、それを指摘する者は残念ながらここにはいない。カジットのワンマンショーは少しの間続き語り終わり───
「なるほど。詳細に語って下さってありがとうございます」
ペテルは聞いてる途中から頭が痛くなっていたが、それはおくびにも出さない。語る内容が狂人のそれであり、とてもではないがまともな内容ではなかったからだ。
「そう言えば今話してくださった内容に無かったのですが……ンフィーレアさんにはお婆さん……バレアレ薬品店の店主であるリイジー・バレアレさんがいたでしょう? 薬品店に直接乗り込んで拉致したなら、あの人もいたはず。どうされたんですか?」
「ああ。あの婆さんか。儂の孫をどうする気じゃと、騒ぎよったから殺したわ」
悪びれもなく殺したと言い切るカジットに、漆黒の剣は鼻白む。まるで道端に虫がいて、邪魔だから踏み潰しましたと言わんばかりの態度に、「はぁ?」と言わんばかりの雰囲気が漆黒の剣の間に流れる。
「母親を蘇らせようとしているのに、他人の家族はどうでも良いと言わんばかりですね」
「当たり前じゃろうが。儂の母とその他の命が同等な訳がなかろう。……儂も別に快楽殺人鬼というわけではない。邪魔をしたり目撃者にならなければ殺す必要も無かった。リイジー・バレアレ。奴が死んだのはあえて言えば、自己責任だ」
「それは……本気でそう言ってるんですか?」
「伊達や酔狂で言うわけがなかろう。それに儂が直接殺さなくとも、数時間後にはアンデッドに貪られて死んでいたであろう。ならば苦しまずに死んだ分、運が良いのではないか」
あまりにも隔絶した価値観に少しの間漆黒の剣は言葉を失う。その姿に甘ちゃん共がとカジットは内心吐き捨てる。目的のために手段を選ぶのは阿呆のする事だと考えているからだ。
彼の同僚であるイカれ女……クレマンティーヌと違って意味のない快楽殺人は好まないカジットだが、逆に言えば意味があるなら大量殺人も厭わない。目的に必要なら殺すだけだ。そもそも殺人を嫌悪するような輩はズーラーノーンに所属することもなく、幹部にまで上り詰めはしない。そんな事も分からないのかと、目の前の冒険者達をカジットは見下す。
「なんですかそれ」
「セリーシア?」
そんなやりとりの中。セリーシアが口を開く。あくまでも交渉や会話はリーダーであるペテルに任せるとしていたのだが……家族を誘拐し、あまつさえ遺された者を殺害する。それに我慢できなかったのか彼女は矢継ぎ早に言葉を吐きだす。
「何が運が良いですか! そもそもお前がンフィーレアさんを浚ったりしなければ、リイジーさんは死ぬこともなかった! なのに言うに事欠いて! 家族を蘇生させるために、色んな人に迷惑をかけて! 挙句の果てには数万人が死ぬ儀式の実行! それの何処が崇高なんですか!」
「セリーシアの言う通りだ! 何が夢だこのカルト野郎! 人様の家の婆さん殺して、孫を誘拐した奴がご大層な理想みたいに語ってんじゃねえ!」
「そんな誰かを殺してまで蘇らせたとて、その母親とやらは喜ぶのか? 喜ばないのである。……貴様の言葉は、過去の妄執に憑りつかれたアンデッドの戯言でしかないであるな」
漆黒の剣はカジットを罵るが、彼はふんと鼻を鳴らすだけだ。
「家族に不幸も起こっておらぬガキ共が偉そうに。何の経験もないであろう、お前らのような若造が何を言ったとて響かんよ」
「なんだと?」
家族に不幸が起きていない。その言葉に漆黒の剣全員が色めき立つ。それはあまりにも人を馬鹿にした言葉だからだ。王国にしろどこの国にしろ、村に住んでいれば多くの脅威がある。それこそ目の前にいるカジットのように平気で人を浚う悪党や、人類にとって脅威になるモンスターに襲われることも多々ある。エ・ランテルのような都市にいても、戦争に駆り出されて死亡することだってある。そんな多くの脅威によって家族を亡くす物は多いからだ。そして───
「自分だけが……不幸の英雄気取りですか」
セリーシアのように、貴族の気まぐれで家族を奪われる者もいる。だから……彼女は頭に来ていた。目的のために手段を選ぼうとしない。そのあまりにも我の強い在り方に。苛ついていた。
「そんなに不幸自慢がしたいならつきあってあげますよ。───私にも助けたい家族がいます。その人を助けるために村も両親も捨てました。今までを捨てて……新しい人生を始めたんです」
「ほう? それでその家族とやらは助けられたのか?」
「いいえ。どこに行ったのかも分からない。生きているのかも知らない。もう見つからないのかもしれない。それでも……助けたいと思って、冒険者をやって日銭を稼ぎ今も探しています」
「結局は見つかっていないと。その話を聞いて儂にどうしろと? お前の探す家族とやらを見つける手助けでもして欲しいか?」
「手助けなんていりませんよ。
セリーシアの言葉を聞いても、カジットは何も感じない。こいつらは綺麗ごとをほざくだけの、英雄ごっこをしたい冒険者だと見下すだけだ。
「ズーラーノーン十二高弟……カジット。アンデッドを使った都市機能の崩壊未遂、誘拐及び殺人の現行犯として貴方を捕まえます。抵抗するなら命の保証はしません。大人しく縄に付くなら怪我はさせません。投降することをお勧めします」
ペテルがここに来て初めて剣を抜く。その動きに合わせてルクルットは弓を構え、ダインはメイスを両手で持ち、セリーシアはいつもの杖を抜こうとし……思い直す。アイリスから戦力の逐次投入は控え潰すと決めたなら、惜しまず全力で叩き潰せと教えられている。だから文字魔術で<宝物庫>の鍵を開け、
「投降? 随分と上からの物言いを。……まぁよい。どうせ貴様らは今から死ぬからな。小僧共。儂が長々とお喋りに付き合っていたのは、暇つぶしと言うわけではないぞ」
カジットが手にずっと持っていたそれを天に掲げる。それは鉄のようでもあり、ガラスのようにも見える球だった。奇妙な鳴動を見せるマジックアイテムであり、まるで生き物のように鼓動を打っているようにも錯覚する。
「喜べ哀れな冒険者共よ。この至高の宝珠には既に膨大な負のエネルギーが溜まっておる! まだ儂をアンデッドに変化させるには不十分ではあるが、貴様ら如きを殺すには十分なだけのエネルギーがな! 光栄に思え! 儂がお前らを殺してやっても良いが……くだらぬ会話の礼に、最強と呼ばれるに相応しい伝説のアンデッドの力で以って葬ってやろうではないか!!」
『!!!』
その隙をつくようにカジットの手にある宝珠が一際高く脈を打ち。
大地が動き、地面からアンデッドが飛び出してくる。そのアンデッドを見た瞬間に漆黒の剣は目を丸くする。まさかと。まさかあれがあいつの言う最強のアンデッドかと。
その反応にカジットは気を良くする。こんな銀級冒険者のガキどもでも、このアンデッドの恐ろしさぐらいは理解できるかと。気分が良くなったのか、カジットはまたもや自慢げに口を開く。
「無知な貴様らに教えてやろう。このアンデッドこそ伝説に謳われし───」
「ただの
さぁ説明してやろうと言うところで、ルクルットから罵倒が飛び遮られる。罵倒を飛ばすのはルクルットだけではない。
「何が無知な貴様らであるか! 無知なのは貴様である! 自慢げに語るなら、せめて
「デス・ナイトを誇らしげにお出しするお前に、
「最強のアンデッドを名乗って良いのは、この世にたった一人です。デス・ナイトが最強なんて烏滸がましい!!」
散々ボロクソに罵倒する漆黒の剣に今度はカジットが眼を丸くするが、ペテル達が言いたくなるのも仕方ない。箱庭の中で試しにやってみようと、彼らは今口にした国を単体で滅ぼせるアンデッドと鬼ごっこをさせられた事もあるのだ。
そんな環境で一年生き延びた彼らに、はいこれが最強と中位のアンデッドをお出しすれば駄目だしをしたくもなるだろう。
「はぁ……」と息を吐く漆黒の剣。だが決して臨戦態勢は解かない。相手の手と口が動くなら気を抜くなだ。気を抜いたその瞬間に、<朱の新星>や<万雷の撃滅>が飛んでくるのかもしれないのだから。実際飛んできたことがある。
『セリーシア。戦闘が始まったらどちらにしろ偽装は解けるのですよね? ならこれ以上は魔力も無駄でしょうし、解いてください』
『了解です』
認識系の阻害を解くと同時に。今まで誤魔化されていた魔獣二頭の圧が解放される。その圧を受けてぶわぁっとカジットや門弟達の顔に汗が浮く。
「なぁあああ! なんじぁ……なんじゃこの威圧感は!!?」
ここに来てようやく。カジットは自分は何かを間違えたのではないかと。ようやく思い至り始めていたが。その前に。そんな思考全てを吹き飛ばす代物が顕現した。
「<宝物庫>。オープン」
セリーシアは一つの呪文を唱える。それはサトルやアイリスが使うアイテムボックスによく似た何か。<
そこから一つの杖をセリーシアは引き抜いた。瞬間……墓場内の負のエネルギーが軋みを上げる。
カジットが持つ宝珠に引き寄せられるように蠢いていた、マイナスの力。それらが彼女が<宝物庫>から取り出した、たった一本の杖が持つ魔力に押し負けているせいだ。
何の変哲もない杖。セリーシアの身長と同じくらいの長さの漆黒に塗られた杖。持ち手の部分が握りやすいようにうねり、上部は渦を巻いている杖。唯一変わっているのは上部の渦の中に、魔法の力でかどこにも取り付けられていないのに丸くて白い宝石が浮いているくらいだろうか。
そんな何てことの無い杖の筈なのに……場に出た瞬間に全てを支配したかのような、錯覚すら覚えさせられる絶大な大魔力が放出される。
だがそれも無理はない。所詮はどれだけ負のエネルギーが発生したとしても、一都市の一墓地の力に過ぎないのだ。それに比べてセリーシアが握る杖は
あまりにも桁が違うと分かるそれに、カジットは自分の手の中にある至高の宝珠が途端に露店で売っているような子供向けの玩具に感じられてしまう。
伝説のアンデッドであるデス・ナイトを罵倒される。狂っていると分かる二頭の魔獣。世界そのものが出現したとしか思えない、謎の杖の出現。
『黄昏』が不在で、『叡者の額冠』が手に入る幸運。それら全てを塗りつぶす、不幸が幕を開ける。
ズーラーノーンVS漆黒の剣:原作では抵抗虚しく一矢報いることも出来ず全滅させられた対戦カード
VSクレマンティーヌも実は書きたかった
銀級と舐めて遊んであげるから三人で来なよ~て煽られるけど俺一人でやるさとペテルと一騎打ち
ボロ雑巾にして遊ぼうとするけどペテルに普通に追い詰められてどんどん余裕をなくすクレマン
舐めんじゃねえぞ! 銀級如きがよ! で突撃かまそうとするクレマン
いざ突撃かまそうとしたところを意識外からのダインの拘束→ルクルットの矢が腹にクリティカルヒット→動きが止まったところをペテルが首斬り
三人で来いって言っただろ?
大体こんな感じの展開