モモンガ様リスタート   作:リセット

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冒険者チーム 『漆黒』の剣 後編

「ルーンを位階魔法に刻んだ……ですか?」

「はい! 文字魔術(ルーン・マジック)は凄いです! これと位階魔法を組み合わせたら、構築できる魔法のパターンが爆発的に増えたんです!」

 

 人間卒業試験が始まる少し前。アイリスはセリーシアに文字魔術(ルーン・マジック)を教えたのだが、それがいかに凄いのかを弟子から熱弁されていた。

 

 文字魔術(ルーン・マジック)はかつてドワーフの国で栄えていた物体に魔力を籠めた文字を刻むことで、その物品をマジックアイテムに変化させていたルーン技術をアイリスが魔法へと体系化させた特殊技術である。

 

 アイテムに意味ある文字を刻めば、その文字の通りの魔法効果が発動する。火のルーンを剣に刻めば燃える魔法剣に。杯に水のルーンを刻めばいつでも水が飲める魔法の杯に。

 

 それを体系化させた文字魔術(ルーン・マジック)は、魔力でルーンを書くことで魔法を発動させる。火のルーンを空中に書けばそこから火が飛び出て、破壊のルーンを物体に刻めば壊すことが出来る。

 

 位階魔法に比べると発動速度に難があるものの、魔力の消費量が少なく位階魔法よりも習熟し易い特性はセリーシアにぴったりだと思い、アイリスは教えたのだが……位階魔法と組み合わせた発言に本当に驚いた顔をする。

 

「どうされたんですかアイリスさん? 難しい顔をされていますが……」

「ネガティブ。少し考え事をしてたのですよ。……そうですね。そのルーンと位階魔法の組み合わせですが、見せて貰えますか?」

「分かりました!」

 

 入った頃は時たま陰のある顔を見せたりもしていたが、アイリスに影響されたのか元気な返事をするようになったセリーシア。彼女はアイリスと共に魔法を使っても問題ない場所に移動して───

 

「ルーン刻印永続<魔法三重化・火球(ファイヤーボール)>!」

 

 空中にルーンを描いてから、位階魔法を発動。セリーシアの手元に魔法陣が出現し、それと同時に浮かんでいたルーンが消滅する。

 

 飛んでいく三つの火球は地面に着弾。辺りに火を撒き散らしそのまま消えるはずだが───

 

「───消えない……ポジティブ。文字通り、永続効果を持たされた火球(ファイヤーボール)へと強化したわけですか」

 

 アイリスの言葉通り<火球>はその場に火溜まりを作り、周囲に消えることない火炎を無数に産み続けているのだ。

 

「そうなんです。他にもこんな風に……ルーン刻印持続・直線<火球>!」

 

 先ほどと同じように<火球>の魔法を使うが……今度は火の球が飛んでいくのではなく、熱線がセリーシアの手から放射される。

 

 その光景を「バーナーみたいです」とアイリスは表現する。

 

「ルーン消去……アイリスさん……いえ、師匠! 文字魔術(ルーン・マジック)を開発されたのは師匠なんですよね! これだけ多彩な変化を加えられる魔法の開発…………師匠は天才です! 魔法の神としか言えません!!」

「もの凄くおめめがキラキラしているのです。あと師匠呼びはしなくとも良いのですよ……とても期待されているところ悪いのですが、アイリスは既存体系を纏めて再編成しただけですよ。それに……文字魔術(ルーン・マジック)はそこまでポジティブじゃありません」

「ポジティブじゃない?」

「ポジティブじゃないです。そうですね。実際にどうしてポジティブじゃないのか、見せた方が早いですね。ルーンを魔法に刻む。こんな感じでしょうか。ルーン刻印威力上昇<魔法の矢(マジック・アロー)>」

 

 セリーシアがやったのと同じようにルーンを空中に刻み、位階魔法を使うが……ルーンは霧散し、<魔法の矢>も発動しなかった。

 

「えっ?」

「……これがポジティブではない理由です。位階魔法と文字魔術(ルーン・マジック)は体系の違う魔法。水と油のように混ざる事なく反発します。ドワーフの国でも位階魔法による魔化と、ルーンによる魔化は両立しないらしいのですよ。なのに……セリーシア。あなたはどうも違うみたいです」

「私だけが違う……んですか? でもどうして───」

「ムムム……魔法の適正。文字通りあらゆる魔法に適性を示すタレント? なら……いえ、まだ仮説ですねこれは。それも珍説……。とにかく! セリーシアはどうやら位階魔法にルーンを組み込める天才みたいです! じーにあすです! 千年に一度の天才なのですよ!」

「私が天才……?」

「ポジティブ! あなたがその才を磨けば……誰もあなたを超えられない。最優の術師に……当代最高の魔法詠唱者になれるのですよ!」

 

 これは箱庭での一幕。アイリス達が師匠にならずとも、順当に育てば20代後半には逸脱者一歩手前の英雄級にまで近づけた少女のエピソード。魔法に愛された少女の物語───

 

 

 

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 <宝物庫>から抜いた漆黒の杖を握りしめながら、セリーシアはそれを重いと感じた。羽毛で出来ているかのように軽い杖なのに、彼女の手はとても重い荷物でも持っているかのように震えている。

 

 彼女が感じるのは卒業祝いと呼ぶには、あまりにも過ぎた杖が持つ魔力量とそれを持つことへの責任の重さだ。

 

 ───アイリスさんはこれを『世界』と呼んでいた。一つの世界そのものを形にした杖だと。……それは本当だと思う。これはあまりにも……重い。

 

 渡されそうになった時には、涙目になり受け取れないとセシーリアが本心からそう断った程の神話の武器。入門祝いとして受け取った諸々だって、国宝級のそれだったのに……この杖の前では全てが霞む。そんな武器なのに───

 

「ネガティブ。私はあなたにこそ、これは相応しいと思い形にしました。確かにこの杖はとても怖い武器です。あなたにしか使えないようにプロテクトをかけてはいますが……もしそれを解除され、運用されたとしたらとても大変な事になると思います。でも───」

「───アイリスと私は、君ならそれを使いこなせると信じて造り上げたんだ。だから受け取って欲しい。あー……まぁ、なんだその。あれだよ。私も……妹がいたらこんな感じだったのかなとか、色々と楽しませて貰ったからな。新しい想い出に対する礼みたいな物も含んでいる。だから、遠慮せずに。ほら」

 

 師匠たちに最後は押し切られて渡された世界の杖。名前は好きにつけなさいと言われた、それを強く握りしめる。今はまだ、自分はこの杖に相応しいとはセリーシアは到底思えない。それでも……いつかはこの杖を上げて良かったと。あの二人に思って貰えるように。ただ……精進するだけだ。

 

「だから行こう、ニニャ。あなたの力を借りるね」

 

 かつて少女が名乗った偽名を持たされた、意思持つ杖が目を覚ます。

 

【ルーン解放。収納展開】

 

 この杖の持つ機能の一つ目が起動する。武器としては純粋に魔法に絡むステータスを上昇させる杖だが、それとは別にアイリスはウロボロスを使って世界級相当の別効果まで持たせた。その一つが魔法の装填機能。

 

 とぐろに浮かぶ白い宝石に、予め装填しておいたルーン文字が空中に投射される。数多の文字が踊り子としてセリーシアを飾り、闇の中を照らし出す。

 

 文字魔術(ルーン・マジック)の欠点は発動速度。その欠点を克服するため、銃弾のようにルーンを補充しておき、必要に応じて取り出す事でその手間を短縮させる。無論ルーン以外にも位階魔法も複数装填してある。

 

【補助宝玉創造】

 

 二つ目の機能も解放される。

 

 今度は人の頭部ほどのサイズの球が九つ、術者であるセリーシアの周りに浮かび上がる。

 

 補助宝玉は名前の通り、セリーシアをサポートするためのシステムだ。九つの宝玉は術者の傍を浮遊し、必要に応じて自動で迎撃用の魔法を発動したり補助魔法を使ったりする。この宝玉が使える魔法能力はセリーシアに準ずる。

 

【ルーンによる儀式魔法陣固定。世界基盤に接続】

 

 そして最後の効果。杖上部のとぐろを覆うように、球形の魔法陣が展開される。儀式魔法陣の効果によりセリーシアは第八位階魔法詠唱者から第九位階魔法詠唱へと引き上げられる。そして───

 

「ルーン刻印効果上昇<魔法持続時間延長化・上位神聖付与(グレーター・サークレッド・エンチャント)>!」

 

 ()()()の高位階魔法を使い、ペテル・ダイン・ルクルットの持つ武器に神聖属性が付与(エンチャント)される。

 

 通常では絶対にありえない現象。なぜならセリーシアは魔力系の魔法詠唱者。魔力系だけに集中することで、第八位階に到達して見せた特化型なのだ。

 

 その構成では絶対に信仰系なんて習得することはできない。しかし出来ないを出来るようにするのが世界級アイテム。

 

 これこそ最後の効果。魔法系統の拡張機能。もっとも高い位階の系統を参照し、別系統魔法であってもその系統と同じ位階まで解放される。

 

 セリーシアであれば魔力系第八位階魔法詠唱者。それを参照することで、信仰系も精神系もその他の系統も全て扱える第八位階の魔法詠唱者となれる。 

 

 事前に魔力系統の強化魔法は三人にかけておいたが、それとは別に今度は信仰系と精神系の魔法を使って漆黒の剣全員を強化する。宝玉も魔法を使っているのかビカビカ光り、セリーシアのバフ作業を補助し始めた。

 

「……な……にをしているのだ。あの小娘は─……っく。ええぃ。何か良く分からんが、儂をどうにか出来ると思うでないわ!!」

 

 カジットは吠えるが、その声は震えている。本来の能力を解放した魔獣と、世界級装備が持つ魔力を無視できるほど彼は人間を辞めてはいない。

 

 それでも虚勢を張り、手に持っていた宝珠は使い更にアンデッドを召喚しようとし───

 

「抵抗するなら容赦しねえぞ!」

 

 バフ作業も終わったのか、ルクルットは矢を番え放つ。カジットの腕に矢が刺さる───どころか当たった部分を中心に肉が弾け、骨が砕け、ぶつりと音を立てて右手が地面に落ちる。

 

「ぐ、ぎぃあがあああああぁああっっっっあッッッ!!!」

 

 激痛にのたうつカジット。ただでさえ英雄級へと到達していたルクルットに、これでもかと強化魔法が盛られたのだ。その速度にカジットも門弟も全く対応できていない。

 

<能力向上><能力超向上>

 

 矢に続き今度は武技を発動したペテルが飛び込んでいく。狙うのはカジットのもう片方の手だ。宝玉を持てないように斬り落とすつもりだ。

 

 疾風の如く飛び込んでいく彼の早さに対応できる人間はこの場にはいない。対応できるとしたら───

 

「主人想いなんですね。尊敬しますよ」

 

 ガギィッ!と金属音を鳴らしながら、付きこまれたフランベルジュを盾で受け止める。

 

 デス・ナイトだけは慌てている門弟たちと違い、冷静に対処して見せた。上から下からフランベルジュを振るい、目の前の人間───ペテルを殺そうとするが……全て盾で弾かれてしまう。

 

 グゥオオオオ!!!

 

 アンデッドにとって生ある存在は殺したいほど憎い存在。しかも目の前の矮小な生き物は、自分を召喚した主を傷つけたであろう奴の仲間。それに全て受け止められることに、怒りの咆哮を上げて更に攻めたてる。

 

 それでもペテルの体幹は崩れもしない。レベルではデス・ナイトの方が上回ってはいる。だがデス・ナイトでは絶対にペテルは崩せない。それはこのアンデッドの能力の仕様上、仕方のない事だった。

 

 デス・ナイトは35レベルのアンデッドだが、その能力は防御に特化しており攻撃能力は25レベル相当の強さしかない。

 

 防御方面では敵意を引き付ける効果が高く、食いしばりスキルにより一度だけどんな攻撃にも耐えることから優秀なのだが……反面攻撃面に乏しい性質を持つ。

 

 それに対してペテルはレベルでは負けるものの、全身が遺産級以上と装備の質でデス・ナイトを大きく上回る。加えてルクルットと同じように、セリーシアから高倍率の強化魔法による支援も受けている。

 

 だからデス・ナイトがどれほどフランベルジュを叩きつけ、タワーシールドで殴ろうが……怯まない。恐怖心も感じない。デス・ナイトからの攻撃などとっくの昔に慣れており、目の前のアンデッドが子供にしか感じない武神に腹を手刀で貫かれたことすらある。そんな経験を積まされたのだから、どうして恐怖を感じようか。それに───

 

「師が操ったデス・ナイトとは大違いであるな。師のアンデッドはこのような隙など晒さなかったであるぞ」

 

 後ろに近づいていたダインのメイスが膝に打ち付けられたことで、デス・ナイトは体勢を崩す。サトルのアンデッドならここから仕込まれた<核爆発>が起動して、迂闊にも近づいた敵を巻き込んで自爆するのだがそのような事が起きる気配もない。

 

 そのチャンスを見逃すペテルではない。武技を使用し───

 

<一閃>

 

 アンデッドの首が飛ぶ。防御力を無視し当たった部分に応じてダメージを与える武技は、セリーシアの付与と併せることでデス・ナイトですら一撃で瀕死に追い込む。だがこのモンスターには必ず一回は耐える特殊能力がある。

 

 首が落ちても、尚動こうとして───

 

「終わりである」

 

 ダインがメイスを振り下ろし止めを刺す。

 

 カジットが用意したアンデッドが瞬殺される様に、門弟の間に動揺が走る。あまりにも戦いになれていない反応だが、好機と捉えたのかルクルットが動く。

 

 彼の狙いはいまだに痛みにもだえ苦しむカジット……ではなくンフィーレアだ。彼を救出するために走り出す。門弟たちがようやく動きだし、それぞれ何かしらの位階魔法で迎撃しようとした、が───

 

「ルーン刻印対象識別! ルーン刻印領域化! ルーン二重刻印効果上昇<魔法効果範囲拡大化・上位魔法排除(グレーター・マジック・リジェクション)>!」

 

 魔法を強制的に打ち消す力が、ルーンにより敵味方の識別機能を持つフィールド魔法として発動。

 

 門弟たちの<魔法の矢>などが、ルクルットに当たる前に消滅する。その現象に目を見張るが、すぐさま次の魔法を唱えるが……不発。霊廟付近はセリーシアの領域に書き換えられている。

 

 彼女の許可なくして、ここでは魔法は使えない。許可なく魔法を使いたくば、第九位階以上の魔法が必要となるが……ンフィーレアを拉致しなければ、第五位階の魔法も使えない、ズーラーノーンが使えるわけもなく。

 

 ズーラーノーンの門弟は全員が魔法詠唱者。魔法を封じられては何も出来ない。

 

 妨害されることもなく、ンフィーレアの元に辿り着いたルクルットは、少年を抱えて離脱する。

 

「待てぇえええ!! 逃がすなぁあああ!! 骨の竜よ! やつを止めろ!!」

 

 痛みに苦しみながらも、指示を出すカジット。彼も門弟と同じく魔法を封じられており、当人は何もできないが命令は出すことが出来る。地面から巨大な骨で出来た竜が飛び出す。それも一匹ではなく、四匹もだ。

 

 骨の竜は命令通りルクルットを追いかけようとして───ケルベロスとオルトロスに襲われ粉々に破壊されている。大きさだけなら骨の竜の方が遥かに巨大だが、強さには大きさ以上の差があるのかまるで相手になっていない。

 

 瞬く間に破壊された骨の竜が、パーツに解体されて辺りに散らばっていく。その光景を呆然自失と言った体で見るカジット。

 

 ───なぜ……なぜこうなっている? なにがあってこうなった? あいつらはなんじゃ? あいつらは……

 

 ケルベロスとオルトロスは漆黒の剣を回収し、距離を取る。なぜ距離を取ったのだろうとズーラーノーンは疑問に思い───その答えはすぐにやってきた。

 

「ルーン二重刻印効果上昇! ルーン刻印永続<魔法抵抗難度強化・石化の雲>!!」

 

 いつの間にか魔獣と同じように距離を取っていたセリーシアが魔法を発動。彼女の詠唱に応えるように、周囲に浮いた九つの球が強く光り、発動された<石化の雲>を強化する。

 

 ───儂のゆ─…め─………ついえ……

 

「おか─…」

 

 最後に何かをカジットは口にしようとしたが。それを言い切る前に。砂埃に呑み込まれた彼は、門弟たちと一緒にセリーシアが解除しない限り二度と動くことのない石像へと姿を変えられた。

 

 

 

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 ズーラーノーン高弟カジット、及びその門弟たちを止めた後。漆黒の剣はンフィーレアの自我を奪っていたマジックアイテム、『叡者の額冠』を破壊して彼を救出。ついでにカジットの持っていた宝珠もまだ残っていたので、危険と判断しこれも破壊。

 

 意識を取り戻した彼に何があったのかを説明した後、ケルベロスとオルトロスに騎乗して墓地内のアンデッドの処分に向かった。

 

 途中ペストーニャがいたので彼女と合流。ンフィーレアはペストーニャの事をアンデッドと思ったのか大層驚いていたが、漆黒の剣が違うと説明したことでなんとか平静を取り戻し。

 

 <不死の軍勢>で召喚されていたアンデッドも大半がペストーニャの手で滅されており、残っていたものも片付け終わった頃に衛兵や緊急招集を受けていた冒険者達と遭遇した。

 

 アンデッドの騒動にズーラーノーンが関わっていたこと。ンフィーレアの誘拐。二頭の魔獣。ペストーニャの事などを漆黒の剣は説明した。

 

 その後は本当に色々とあった。霊廟地下神殿の調査や事情聴取と、とにかく漆黒の剣は忙しかった。

 

 それらも全て終わったところで、一同はンフィーレアの元へと訪れた。今回の事件で唯一亡くなった被害者、リイジー・バレアレの弔問に伺うためだ。

 

 漆黒の剣が店に入ったら、普通にリイジーは生きていた。

 

「蘇らせておきましたわん」

 

 最高位階の蘇生魔法を使えるペストーニャに取って、老婆一人蘇らせるのは大した手間でもなかったようだ。

 

 ともあれこれで共同墓地騒動も全て終結。バレアレ家からはペストーニャと共にこれ以上ないほどの称賛を受けた後、漆黒の剣は日常へと戻っていった。

 

 そんなこんなで事件が解決してから一週間。共同墓地には平穏が戻り、エ・ランテルが『死の螺旋』による死の都となる事もなく。平和な時間が過ぎた頃に、『漆黒の剣』は組合長から直々に呼ばれていた。

 

「こうやって直に顔を合わせて話すのは初めてかな。私の名前は知っているだろうが、改めて自己紹介をさせて貰おう。プルトン・アインザック。この冒険者組合の組合長を務めさせてもらっている者だ」

「冒険者チーム『漆黒の剣』のリーダー、ペテル・モークです」

「同じく『漆黒の剣』所属、レンジャーのルクルット・ボルブです」

「『漆黒の剣』所属、ドルイドのダイン・ウッドワンダーである」

「『漆黒の剣』の術師、セリーシア・ベイロンと申します」

 

 これがミスリル級や白金級ともなれば話は別だが、漆黒の剣はあくまでも良くいる銀級冒険者に過ぎない。なので改めて自分達の名前を名乗っておく。

 

「……長々と前置きをしても仕方がないから本題に入ろう。君たちの昇格の件についてだ」

 

 どこか申し訳なさそうな顔をしながら、ここに漆黒の剣を呼んだ理由をアインザックは切り出した。

 

「まずはこれを受け取って欲しい。今日から君たちが持つプレートだ」

 

 アインザックが自分の座っているソファーの脇に置いていた箱を取り、漆黒の剣の前に置く。ペテルはリーダーとしてその箱を開けて───

 

「オリハルコンですか」

「……そうだ。この件に関しては本当にすまない。ズーラーノーンによる都市壊滅を未然に防ぎ───」

 

 アインザックはチラリとセリーシアを見る。

 

「───第八位階魔法詠唱者を擁する諸君らなら、本当はアダマンタイトでも問題無かった筈なんだ。しかしアダマンタイトへの飛び級昇格の前例は君たちも知っての通り───」

「『黄昏』……サトルさん達ですね」

 

 コクリと一回頷き、紅茶を一口飲みアインザックは唇を湿らせる。

 

「冒険者組合には本山のようなものが無く、それぞれの都市の組合に昇格などの采配は委ねられている。試験による昇格は大体どこの組合でも同じだが、『黄昏』や君たち『漆黒の剣』のような飛び級の場合、一番最初にそのランクに昇格したチームが基準となる。これは知っているね?」

「分かっています。だから私たちはオリハルコンにしか出来なかった。そうでしょう?」

「私の力が足りず、済まない」

 

 深々と頭を下げるアインザック。つまるところこの都市で今後飛び級昇格でアダマンタイトになるためにはチーム『黄昏』と同等の実力を持ち、難度200を超えるようなモンスターを討伐出来ないと無理と言う話だ。

 

 だから漆黒の剣はアダマンタイトではなく、その次のランクであるオリハルコンまでしか上がれなかった。

 

 それらの話を聞いた後、オリハルコンのプレートを貰い組合長室を出ようとしたところで───

 

「最後に君たちに聞きたい事がある」

「なんでしょうか?」

「その……だな。君たちは『黄昏』───スズキ君たちがどこに行ったのかを知らないか? 彼らが組合に姿を見せず、もう十日間は経つんだが……」

「……申し訳ありません。私たちもサトルさんやアイリスさんがどこに行ったのかは、聞いていないんです。ペストーニャさんやエクレアさんに聞いても、行先までは教えて頂けなかったので」

「そうか。君たちも教えては貰っていないのか……」

 

 ペテルの言葉に残念そうにするアインザック。それを尻目に漆黒の剣は組合を後にするのだった。

 

 

 

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「今日から俺たちはオリハルコン級! っつっても、なんか変わった感もねえなー」

「受けられる任務が増えるくらいですからね。とは言っても、今後はお金に困る事もなくなるので、ダインが良く口にする糊口を凌ぐために仕事をする必要は無くなって、生活自体はとても楽になりますよ」

「良い事である! 日々の生活の余裕は心の余裕! 余裕が無ければ視野も狭くなるであるからな」

 

 オリハルコン昇格と共に、墓地騒動の早期解決に対する謝礼金もどっさりと貰った漆黒の剣はいつも使っている安めの酒場ではなく、ちょっとお高めの酒場で昇格祝いの祝杯を上げていた。

 

 そんな一行が首に下げる真新しいオリハルコンのプレートを周囲の人間はみて───

 

「おい! あいつらってまさか───」

「ああ。オリハルコンのプレートに違いねえ。ってことはあいつらが、ズーラーノーンをぶっ倒した、やべえ魔獣を引き連れているって言う───」

「───漆黒の剣。噂じゃ本当はアダマンタイト級に匹敵するって言うが……見た目はあんま強そうじゃねえな」

「おい! 見た目で判断して喧嘩売るんじゃねえぞ! 痛い目に合うから絶対にやめろ! 『黄昏』のアイリスみたいな、ちっこいのにやべえのがいるって知ってるだろお前!」

「『黄昏』ねえ? そういや全然姿を見ねえけど、あいつらってどこにいるんだ今?」

「さぁなぁ。共同墓地の騒動前になんか街を出ていくのを見たって話もあるが、真偽は定かじゃねえ噂話の類でしかねえな」

 

 やいのやいの聞こえてくる話に、耳を澄ませていたセリーシアは出てきた名前に反応する。

 

「師匠達どこに行っちゃったんだろう」

「ペストーニャさんによれば、ちょっとした用事を済ませに行っているらしいですが……師匠達がこれだけ時間をかける用事って何なんでしょうね?」

「気になるっちゃ、気になるが心配することでもねえからな。サトルさんやアイちゃんがピンチになることなんかないだろ」

「アイちゃん呼びしてたら、また吹っ飛ばされるであるぞ?」

 

 そんな話をしながらも時間は過ぎていき、酒場に併設された宿で一泊した後。

 

 漆黒の剣はオリハルコン冒険者として、依頼を受けに行くために宿を出たところで───

 

「おはようございますわん」

 

 ペストーニャに挨拶をされた。

 

「おはようございますペストーニャさん! こんなところまでどうされたんですか?」

「先ほどサトル様からもう着くと<暗号伝言>がありましたので、皆さまにもお伝えしようかと思って来たのです。どこに行かれたのかを心配されていましたからね……あ、わん」

「師匠達帰ってくるんですか!? それなら無事オリハルコンに昇格した事を伝えたいです!」

「では一緒に正門まで行きましょうかわん」

 

 冒険者組合ではなく、エ・ランテルの城門までペストーニャと共に転移。そこには既に他のメイドやバードマン───エクレアも待機していた。

 

「おはようございますエクレアさん」

「おお、これはこれは。おはようございますセリーシア様。今日も見目麗しいですね! 私のこのカールを巻いた毛と同じくらいには美しいですね」

「それ褒めてるんですか? まぁいいか。それよりも皆さんもこちらでお待ちしていたんですね」

「勿論ですとも! このエクレア・エクレール・エイクレアー! 主をいの一番に迎えるのが執事助手としてのお役目ですゆえ!」

 

 そう返答するエクレアに「そうなんですね」と返すセリーシア。エ・ランテルの門番兵達は見た目からして異形種なエクレアを奇異な目で見ているが、箱庭の中で一年間多様なモンスターを見慣れたせいか、セリーシアは特に物怖じしたりしない。ペストーニャと同じで普通に会話が成立する彼に、脅えたりする必要もないと知っているからだ。

 

「あっ、そうだエクレアさん。前は聞いてもはぐらかされましたが、サトルさん達は結局どこに行って何をしていたんですか? もう帰ってくるんですし、教えて頂いても良いと思うんですが?」

 

 その言葉に「もう隠す必要もないですわん」とペストーニャと答え、エクレアも「そうですね。では教えて差し上げましょう!」と返す。

 

「一言で言えば、この地域で一番偉い人との話し合いでしょうか。それとある物を取りに行っていたのです。……鳥とかけた洒落じゃありませんよ?」

「分かっていますよ。それにしても取りに行く? なんでも持ってそうなサトルさんやアイリスさんが、わざわざ取りに行く物なんてあるんですか?」

「取りに行っている物が、ちょっと特殊な物でしてね……あっ、見えました見えました。帰ってこられましたね」

「? どこですか? 街道には見えませんが……」

「道ではなく上ですね。空の方に注視してください」

「空? 飛んで帰ってくるってことで──…………」

 

 セリーシアは空を見て……久しぶりに言葉を無くした。もうこれ以上驚くことなんてないと思っていたのに、それを見た瞬間。絶句した。

 

 エ・ランテルから南側。遠く離れた上空にそれはあった。最初は点にしか見えなかったが、近づいてくるにつれ全貌が見えたそれ。

 

 それは巨大な島だった。空に浮かぶ島。エ・ランテルそのものと同じぐらいあるのではないかと言う巨大な島の上に、モンサンミッシェル大聖堂を巨大にしたような城が乗っている。

 

 そんなものが自ら動きながら、エ・ランテルへと近づいてくるのだ。

 

 驚いていないのはペストーニャらメイドとエクレアだけで、漆黒の剣も含めて全員がそちらを見て言葉を無くしている。

 

「あれ……なんですか」

 

 ようやく口が動くようになったのか、あれを知っていると思わしきエクレアにセリーシアは問い質す。

 

「あれですか? アースガルズの天空城や、その見た目から非公式には『ラピュタ』などと言われていた代物です。正式名称はキルヴィス浮遊要塞でしたかね?」

 

 「それでは通じませんよ」とペストーニャは口を開き───

 

「セリーシア様が知っている単語で説明するならば……はるか南の砂漠の真ん中にある都市、エリュエンティウの上空に浮かぶ天空城。かつてこの世界を一時的に支配した者たち。八欲王が使っていた居城ですわん」




リスタート2 終了。次回からリスタート3 エリュエンティウ

エ・ランテルでの飛び級昇格基準:アダマンタイト→『黄昏』
                オリハルコン→『漆黒の剣』
                
漆黒の剣の強さ

世界杖無し:難度220くらいの通常モンスターまでなら死闘になるが狩れる
世界杖有り:鎧ツアーが本気にならないとまずいレベル。レベル差補正によるダメージ減衰があるから勝てはしないけど負けもしないぐらい

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