モモンガ様リスタート   作:リセット

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誤字脱字報告いつも助かっております。特にセリーシアとセシーリアの間違いは本当に助かっています


リスタート3 エリュエンティウ クライム
王位の条件


 世の中には理不尽な事が多い。どれだけ強大な力を持っているように見えても、時にはそれを大幅に上回るような厄災に見舞われる事もある。

 

 巨岩を叩き割る力があっても、地震を止められるわけではない。空を飛ぶ力があっても、宇宙の果てまで飛んでいけるわけでもない。

 

 人がドラゴンに襲われたら大半はなす術もなく、甘んじてその暴力を受け入れるしかないように───自身を上回る運命の渦に呑まれたら誰にも、そう誰にもどうしようもないのだ。

 

「どうして私はここにいるんだろうね…………」

 

 その渦に呑みこまれた可哀そうなドラゴン───ツァインドルクス=ヴァイシオンは巨大な広間の中心で意味も無く呟いた。

 

 ツアーがいる広間は彼が評議員を勤める評議国にある拠点の一室ではなく、かつてこの世界を荒らしまわった八欲王の大拠点───キルヴィス浮遊要塞の最深部。ナザリック地下大墳墓で言う玉座の間に当たる大広間だ。

 

 ドラゴンの巨体であるツアーが立ち上がっても、なお遥か上に天井があり。複数の煌びやかなシャンデリアが魔法の力で空中に浮かび、太陽の如き明るさで室内を照らし出している。

 

 床は白磁のような物質で出来ているが、ツアーが時折尻尾をビタンビタンと叩きつけても揺るぎもしないほど頑丈だ。

 

 部屋の中央には紋章の描かれた青い巨大な絨毯が敷かれており、その上には百人が同時に使えそうな長机が置かれていて、その上には多種多様な食事が湧き出てくる魔法のテーブルかけがかけられている。

 

 そのテーブルと椅子に腰かける面々を横目で見ながら、ツアーは再度「どうして私はここにいるんだろうなぁー~」と口にした。

 

「……あいつ壊れたレコードみたいになってるな」

 

 その姿に腰掛ける人物───サトルが呆れたような物言いをしながら、テーブルかけの魔法を起動しドリンクを出して少しだけ口に含む。

 

「しょうがないのです。世界の守護者を名乗り、数百年の間頑張ってたお役目の一つが解決しちゃったら、誰だってああなっちゃうのですよ」

「にしても気が抜け過ぎじゃないっすか? 最初は『私が世界を守る。そう、私が世界を守るのだ』とかなんとか言って、格好つけていたのに」

 

 サトルの膝上に座りながら焼き菓子を食べているアイリスの言葉に、ルプスレギナが合いの手を入れる。

 

 「誰にだって格好を付けたい時期はあるのです」とアイリスが言うと、「分かる。それな」とサトルも同意する。「そんなもんすかね?」と首を捻るルプスレギナ。

 

「……聞こえてるよ。別に格好をつけてああ言ったわけじゃないさ。あの時の私にはあれが最善だったんだ。君たちの言葉を……ただ言葉だけで信じるには判断材料も少なかったからね」

 

 同じ大広間にいる三人と、ここにはおらず城内を出歩いている三人。『ユグドラシル』のプレイヤーを信じるにはあまりにも多くの経験をツアーは積んできた。だから信用は出来ても信頼は出来ない。その結果としてサトル達の天空城攻略戦に鎧ではなく、本体で来る羽目になり───百年の揺り返しで来た人物であるサトルが人柄は善ではあるものの、過去最悪の人物であると察してしまった。

 

 ───父よ。あなたはやはり間違えていた。絶対に招き入れるべきではない厄災を呼び寄せた。慈母(マザー)も決してこのプレイヤーと関わるべきではない。……彼らに罪はない。私たちが招いた罪だ。他の竜王達にも知らせるべきだろうか。敵対するなと。()()はどうしようもないと。ああ……頭が痛い

 

 物思いにふけながら、貧乏ゆすりをするように尻尾をビタンビタン揺らすツアー。ふと自分の手元を見ると何枚かの鱗が落ちている。それを見ながら「人間はストレスを感じると髪の毛が抜けるんだったね。竜がストレスを感じると鱗が剥げるのか。はは、初めて知ったよ……はぁ……」とツアーは独り言をブツブツ唱える。彼は一人ああだこうだと頭を悩ませる。

 

 そんなツアーを「今はそっとしておきましょう」と放置する事にする三人。エ・ランテルに近づいてきたところで、サトルはペストーニャにそろそろ着くと連絡を入れておく。

 

「そろそろエ・ランテルからこっちが見えるかな?」

「街の人たち全員びっくりすると思うのですよ」

 

 主従二人は呑気に焼き菓子を食べ合いっこさせて会話に興じているが、街ではびっくりどころではない騒ぎになっていたりするのだが……エ・ランテルの住人には今後を思えば慣れてもらうしかないだろう。

 

 ともあれ十日間の遠征を終えて天空城と共に、エ・ランテルへと帰って来たアダマンタイト冒険者チーム『黄昏』。彼らは漆黒の剣がズーラーノーンの墓地騒動を鎮めたりしている間に、一体何をしていたのか。

 

 どうして八欲王のギルド拠点であるキルヴィス浮遊要塞の攻略をしたのか。そもそもどうしてツアーも一緒にいるのか。それはサトル達が漆黒の剣を見送った後にまで、時間を遡ることになる。

 

 

 

      ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「───希望の導きがあらんことを」

 

 手を少しだけ振るサトルと、元気よく全身を使って手を振るアイリスに見送られて漆黒の剣の姿が遠ざかっていく。その姿も完全に見えなくなったところで、サトルは一つ背伸びをした。

 

「一年間先生をやってみたが……良い人たちだったな」

「ポジティブ。良い子達なのですよ。あの子達ぐらいこの世界の人間がみんな良い人なら良かったのに。そう思わずにはいられないくらいには、善良な人間なのです」

「そうだな。ああ、本当にその通りだ。……年の離れた弟や妹がいたら、あんな感じだったのかもしれないな」

「ん~……オーナーもお兄ちゃんって呼んでみましょうか?」

「それは遠慮しておく。俺はオーナーが良いよ」

「……ポジティブ! ラージャです! 今後もオーナーはオーナーなのですよ!」

 

 そんなやり取りをしつつ、屋敷の中へと二人は戻る。さて今日は冒険者として依頼をこなすか、それとも街に出てボランティアでもするか。そんな風にサトルは考えながら、部屋着から冒険者用に用意した黒コートに着替えたところで───

 

『サトル様。聞こえますか?』

 

 どこかから<伝言>がかかってくる。その声は聞き覚えがあるもので、彼女がようやくこちらにこれる準備が整ったかとサトルは考える。エ・ランテルで会おうと分かれて以来、顔を合わせたりしていなかった人物。最後に見たのは従者の少年と手を繋いでいた姿だっただろうか。

 

『ラナー殿下か。どうした?』

『手筈通り王宮でするべきことは終わりました。これで自由に動けるようになりましたので、クライムと共にそちらに向かわせて頂きます』

『承知した。ではこちらも迎え入れる準備を済ませておく』

 

 <伝言>をかけて来たのはカルネ村で別れたラナーだった。サトル達はナザリックに戻り、その後は上位影の悪魔(グレーターシャドウ・デーモン)やハンゾウ達にラナーの事は任せていたので実は少し心配していたのだが……<伝言>で聞く限りはトラウマで精神がおかしなことになっているようには思えない。

 

 少しは快復したのだろうかと思いつつ、サトルは私室から出て一階の食堂に向かう。

 

「ペストーニャ。エクレア。これからラナー殿下とクライム君がここに来られる。準備をしていて貰えないか?」

「承りましたわん」

「承知致しましたサトル様。最高級の茶葉を用意し、これ以上ないほどの至福の時間をご提供いたします!」

 

 メイド長と執事助手に任せておけば、客の迎え入れなどは大抵なんとかしてくれる。なので準備に関しては二人と一般メイド6人に全てを一任し、サトルはあいりすらぼへと足を向ける。らぼに行く理由は無論アイリスの元へ行くためだ。

 

 漆黒の剣を鍛えるために『砂の箱庭』を使ったが、あれは一度使うごとに調整が必要になる。メンテナンス方法はエ・ランテル組だとアイリスしか知らない為、彼女が手ずから作業をするしかないのだ。

 

 生体認証……サトルの場合死体認証になるのだろうか。認証を済ませ研究施設に入り、アイリスがいるであろう箱庭にある部屋に行く。

 

「! どうされたですかオーナー? 今日何をするのか決まったですか?」

「ああ。これからラナー殿下がこちらに来るみたいでな。みんなで出迎えだ」

「ラージャ! ラナーが来ると言う事は……クライムの訓練もすることになるのです! セリーシア達漆黒の剣のおかげで育成ノウハウの経験値も溜まったので、ラナーと違いクライムは安全に強くなれるのです!」

「……うん。安全に出来るな! ラナー殿下のような被害者はもう出ないからな!」

 

 ナザリック式育成術は第一号であるラナーの尊い犠牲と、漆黒の剣四人の成長により体系として確立された。今後更に弟子が増えていき、ノウハウが溜まれば溜まるほど最適化されていくことだろう。

 

 『砂の箱庭』の調整の難しい部分は既に終わらせていたので、残りの部分はらぼに組み込んだ自動システムに任せてアイリスも屋敷の方に向かう。

 

 サトルが屋敷に戻った時にはお茶や茶菓子の準備も済んでおり、あとはラナーとクライムが来るのを待つだけ。それから少しばかり待った後に───

 

『では<転移門>を開きます』

 

 とラナーから<伝言>が入り、言葉通りに<転移門>が出現しそこから二人が出て来て───

 

「お久しぶりですサトル様。その後はご健在でしょうか?」

 

 別れた時に来ていた神器級の装備ではなく、恐らく王宮で使っていたのであろう水色のドレスを着たラナーがカーテシーをする。その所作には一切の淀みがなく洗練されており、長い時間をかけて築き上げられた動作なのだと見て取れる。サトルも「これが真の上流階級! 優雅な動作が自然と出てくるのか!」と驚愕気味だ。

 

 ナザリックでラナーともっとも長い時間一緒にいたのはデミウルゴスな為、実のところラナーとはそんなにサトルは話をしたことがない。クライムの前でボロが出ないように気をつけないとなと、心に喝を入れながらサトルも口を開く。

 

「……久しぶり、と言うほどに時間が経つわけではないがな。ラナー殿下の方も健在で何よりだ。トラウマの方は少しは快復したか?」

「ええ。本当に少しだけですが。前よりは泣く回数も減りました。それもこれもクライムのおかげです」

 

 その言葉に場にいる全員の視線がクライムに向く。急に注目を浴びた事で少しだけ体をビクリとさせているが、王宮で捨て犬と影口を叩かれ奇異の視線を集めて来た経験は伊達ではない。怯んだのは本当に十分の一秒あるかどうか。すぐに背を伸ばし、はきはきと少年は挨拶をする。

 

「ラナー様の従者をしているクライムと申します! 本日よりサトル様の元でお世話になります! どうかよろしくお願い致します!!」

 

 深々とお辞儀をするクライムに、「はい。これから共に頑張りましょうわん」や「いやぁ、真面目っすね。ユリ姉みたいっす」とそれぞれがそれぞれの挨拶で返していく。

 

 王宮に本来いる筈のラナーがどうしてエ・ランテルに来たのか。その話をするためには更に時間を遡り、サトル達がカルネ村を離れた頃にまで時を戻す必要がある。

 

 

 

      ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 ガゼフ・ストロノーフはランポッサ三世から任を受け、50人の戦士団と共に辺境の村々を目指していた。目撃された帝国兵の調査のためだ。戦争の時期からは外れており、帝国がわざわざ辺境の村近くに出没する理由などない。だがガゼフは嫌な予感がしていた。戦士の予感とは時に理屈を超越する。

 

 だから馬を乗り潰す勢いで走らせた。少しでも早く。一秒でも早くたどり着くために。副長やその他の部下はその判断に逆らったりしない。彼らは全員ガゼフに……王国最強に憧れついていくと決めた漢たちだ。その先がもしかしたら地獄かも知れないとしても……ついていく。

 

 いくつかの村を回り最後の村へと向かう。どうか杞憂であってくれと。そう願いながら戦士団はカルネ村へと向かい───

 

「ラナー様! ストロノーフ様が来られました!」

「ようやく来たのね。もう今日は来ないのかと思いましたわ」

「クライム! それと……装いも髪型も違いますが……まさかラナー殿下ですか!!?」

 

 ボロボロになった帝国兵と思わしき拘束された集団。その集団を囲む黒ずくめの忍者。王宮でその姿をほぼ毎日見る第三王女の付き人。そして……なぜか胸当てなどを身に着け、軽戦士のような出で立ちをしたラナーに出迎えられた。

 

 かくかくしかじか。

 

 何が起きたのか。どうしてここにいるのか。それらを言葉巧みにラナーはガゼフに吹き込んでいく。15分ほどかけて説明も終了。ガゼフは最初は「まさか」と首を振っていたが、クライムとラナーを見間違えるわけがない。しかしラナーが逆賊を撃退したと納得させた一番の要因は───

 

「本当の私はこれぐらい強いんですよ?」

 

 と悪戯気味にラナーが指でちょんと押したら、ガゼフが20mほど飛んで行ったせいだろう。

 

 その後は帝国偽装兵達を戦士団の馬に乗せ王都まで帰還することに。来るときには数日時間をかけたガゼフ達だが、帰りはラナーの転移門で帰ることになった。

 

 王国では魔法が軽視されがちで、王に仕える前には傭兵として、仕えてからは戦士団団長として数多の戦を経験したガゼフにしても魔法の脅威となると疎いところがあったが……転移魔法の運用次第では兵站や戦術そのものが変わってしまうのでは。その可能性に彼が思い至ったりする一幕がありつつも、戦士団は戦う事もなく無事に王宮へと帰還した。

 

 流石に王都内に直接転移はせず、近くまでの転移としそこからは馬での移動とした。なおこの際ラナーが一緒にいると門番への説明が大変面倒なため、彼女とクライムはもう一回<転移門>を発動し先に王宮へと帰った。

 

 王都の門番達は想定よりも早い帰りの戦士団に驚きはしたものの、賊を捕えて帰って来たガゼフらを素直に迎え入れた。

 

「流石は戦士団! 誰一人怪我もせず、帝国兵どもを捕まえてくるとは!」

 

 そんな賞賛の言葉を投げかけられるが、ガゼフも含めて戦士団は渋い顔をするだけだ。自分達は完全に出遅れた口で、帝国兵を打倒したのは全て本来の力を取り戻したと言うラナーの手腕。

 

 指先一つでガゼフをダウンさせる第三王女がいなければ、カルネ村には多くの被害者が出ていただろうと帝国兵の装備からすぐに推測できた。それを自分達の手柄のように褒められたとて嬉しい物でもない。

 

 しかしラナーのことを話すわけにはいかない。ラナーからはお父様───ランポッサ以外にはあなたが倒したことにしろと言い包められており、また王女のことを説明するにはあまりにも荒唐無稽過ぎた。捕えた兵も<記憶操作>の魔法でガゼフに倒されたと刷り込まれているのだから猶更だろう。

 

 だから戦士団は苦笑いするだけだ。その胸中にはどのような想いを秘めていたとしても……表には出さない。出す意味もない。

 

 王都の門を抜け、王宮へ。

 

 ガゼフは王の懐刀として、何があったのかを宮廷会議で報告をした。王派閥の貴族は流石ランポッサ三世の右腕と労いの言葉を口にし、貴族派閥は面白くなさそうに鼻を鳴らしながら一応拍手を贈る。

 

 貴族派閥としてはガゼフが死んでいてくれた方が良かったのだから、それはそれは面白くもないだろうと分かる態度だった。

 

 しかしその態度を咎める者はいない。下手に突いても蛇が飛び出すだけであり、王派閥としても指摘して何かが変わるわけではないと今までの歴史が物語っているからだ。

 

 そこからもガゼフとしては聞くに堪えない会議が続く。帝国兵がどうして辺境の村を襲撃しようとしたのか。それはこれから拷問官達が聞き出す事になるが───

 

「帝国の謀略なのでしょうが無駄なことをしますね」

「全くですな。我らの力を恐れて少しでも力を削ぎ落しておきたいのでしょうが、無意味な事を。たかが辺境の平民が少し死んだくらいで、何も変わるわけがなかろうに」

「がははははは! 全く伯爵の言う通りですな! ジルクニフ……4つしか名を持たない偽物の王に、そんなまともな思考があるわけもないですな」

「今年の戦争では撃退ではなく殲滅させてやりましょうぞ。その脚で、帝都に攻め入られた時のやつの顔を拝みたいものです」

 

 恰幅の良い貴族派閥の男たちが嗤う。自分達の力は絶対であり、20代前半の若造が治める帝国に負けるわけがないだろうと、本気で信じ込んでいる愚か者共の笑い声。

 

 馬鹿どもが! 彼我の戦力差も読めないのか!

 

 そう怒鳴りつけられたら、どれだけ楽だろうかとガゼフは悔やむ。戦場で直接剣を合わせる彼だからこそ、帝国との戦力差を嫌と言うほど思い知っている。向こうが本気になれば自分がどれだけ奮戦しようとも、絶対に敗北する。それを実力があるがゆえに、ガゼフは理解してしまっている。

 

 なのに大半の貴族は帝国との戦争に本気で勝てると思い込み、力を合わせることもなく内部での権力闘争に明け暮れるのみ。一部の良識ある貴族は危機感を持っているし、ランポッサもガゼフの忠告に従いそんな環境を少しでも変えようと苦戦しているが……生憎上手くいっていない。

 

 そんな苦痛の時間の中、ガゼフは一つの事を思い描いていた。もし……もしラナー殿下が帝国との戦争に出れば。自分を簡単に打ち倒すような絶対強者。その強者の仲間だったと言う、神話の集団も手を貸してくれたら。この国は根本から変われるのだろうか。そんな思考をするが。それを決める権利は戦士長なんて立場しか持たないガゼフにはない。

 

 ガゼフにとっての苦痛の時間も終わり、彼はランポッサ三世と一緒に王宮の廊下を歩く。ガゼフは自分を取り立ててくれた王を改めて見る。年々やせ細っていき、覇気を失っていく王。戦で膝をやってしまい杖無しでは歩けない老人、それがガゼフが心から仕える王だった。

 

 その姿を見ながら、いつになれば我が王は心労が絶えない日々から解放されるのだろうとガゼフは不敬にも考えてしまう。

 

 本来であれば王位はとうの昔に第一王子に譲っても良い年齢。なのにランポッサがまだ王位についているのは、その王子の性格と頭に難があるせいだ。第一王子───バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフが王となれば、確実にこの国はより堕落していくだろう。

 

 

 第一王子が問題なら、では第二王子と行きたいが……彼───ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフもまた王宮での評価はあまり良くない。常に不遜な態度を取り無能としか思えない言動を繰り返すからだ。見た目も王族の中では劣る部類に入る彼は、人望───カリスマの面でも難があるため、彼もまた王位継承の相手としては不適切だ。

 

 ザナックは兄であるバルブロに敵視されるのを防ぐために、無能の振りをしているだけなので不遜な態度などに関してはどうとでもなるのだが……それでも国を率いる人間としては他者を引き付ける魅力に欠けており、どうにも上手くいかない。

 

 だからこの国にはランポッサが諸手を挙げて王位を譲れるような人物がいない。仮に大貴族の中から次の王が出て来たとしても、必ずこの国は割れる。あるいはその前に帝国に呑み込まれるか。

 

 結局のところこの国には、帝国のジルクニフのような絶対的なリーダーがいないのだ。人望も力もあったランポッサは年を取り衰えた。バルブロは人望はあるが、国を取り仕切れるだけの知力がない。ザナックは知力はあるが、カリスマが欠けている。

 

 だから……そう、もしもだ。もし、国を取り仕切れる知力を持ち。人を魅せる人望を持ち。敵対者を力づくで抑え込めるような武力も兼ね備えている人物がいれば。更にはその人物には国すら超える強力な後ろ盾がいれば。更に更にその人物が王の直系であれば。

 

 その思考をガゼフは途中で打ち切る。自分はあまりにも不敬な事を考えていると首を振る。この国には女性が王位を継いだ記録はない。間違いなく貴族派閥は伝統を盾に大反対するだろう。それに人ではなく、天使になった者が王となっても民衆は付いて来てくれるのだろうか。あまりにも不確定要素が大きすぎる。だから彼はその思考を捨てる。自分はあくまでも王の剣であれと。

 

 一度深呼吸をした後。

 

「王よ。少しばかりお伝えしたいことがございます」

 

 ラナーから頼まれていた事。お父様を呼んできて欲しい。それを伝えるのであった。





ツアー:鱗が剥げる。信じられぬものを見た

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