モモンガ様リスタート   作:リセット

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無限の成長 

 今まで見てきた中で一番楽しい夢から覚めたサトルの眼に、ここ数日で見慣れたエ・ランテル屋敷の天井が映る。

 

「……あり得た可能性、か」

 

 4人と話をした記憶は、しっかりとサトルの中に残っている。楽しくて……永遠に続くと思っていた日々の延長戦。僅かな時間でしかなくとも、黄金の日々を補完してくれた可能性の具現化。

 

 けどそれは可能性でしかない。ここにはない時間。サトルが知るあの4人は今も地球にいて、ここにはいない。だからこそ……あれはとても楽しい夢だった。会えない人たちに、もう一度会える。それはとても良い事だと、そうサトルには断言出来る。

 

 だが夢の中に居続けたいかと言われたら、サトルは違うと否定する。

 

 確かにあれは楽しい時間だった。けど現実にだって楽しいことはある。……地球の頃には口に出来なかった天然食材を使った食事。地球時代のサトルの賃金では買えないような、ナザリックの高級家具に衣服の数々。衣食住、全てが今は満たされている。実体化当初はモモンガ様モモンガ様と礼賛するだけだったナザリックのしもべ達も、今ではかなり緩くなり普通に遊んだり冗談を言い合える仲になっているから寂しいとも感じない。それに───

 

「…………オーナーの……もっと……おくに……」

 

 なんか変な寝言を呟いているアイリスだってここにいる。

 

「アイリスの脳内はピンクなのか?」

 

 寝言に思わずサトルは突っ込んでしまう。散々彼がベッドの上で可愛がったのに、もう欲求が溜まっているのかアイリスはピンクな夢を見ているようだ。

 

 兎を模した着ぐるみパジャマを着た彼女は、どんなプレイの夢を見ているのか分からないが、絶対に離すものかとサトルに力強く密着している。その力は予想以上に剛力で、これがサトルで無く普通の100レベルプレイヤーであれば、瞬時に骨が砕け肉が千切れているだろう。

 

「……やっぱり。アイリスの力が強くなってるな」

 

 ……箱庭から出てきたアイリスを抱いたサトル。その時から彼は少し違和感を感じ取っていたのだが。夢で教えられたとある事実───『世界意思』による能力の上昇───から、自分が抱いていた違和感の正体をようやく理解した。

 

 明らかに箱庭に入る前よりも、アイリスの腕力が強くなっているのだ。最初は力加減を珍しく間違えているのかとも思ったが……恐らく能力の向上に対して、力の抜き具合が伴っていない。サトルは物理攻撃に対する高い耐性を有し、ステータスとしての物理防御が非常に高く生命力も比例して高いのでなんともない。けれどだ。もしこの上がったパワーの目測を見誤り、アイリスが力加減を間違えて他人をポコンと殴ったりしたら……

 

「あ、やばい……絶対やばい!! アイリス! アイリス、起きるんだ!! 凄く大切な話がある!!!」

 

 慌てたサトルはアイリスを揺すって無理やり起こす。

 

「……ポジュ? どしたですかオーナー」

 

 閉じていた眼を開き、ルビー色の眼を覗かせるアイリスにサトルは夢の事や、そこで教えて貰ったアイリスの事を説明する。

 

 話を聞き終えたアイリスはタブレットを取り出し、自分のステータスを確認。「しまったのです」と額を抑えて、渋面を作った。

 

「箱庭の中でクライムのステータス確認は頻繁にやっていましたが、アイリス自身の確認を忘れていたのです。……うっかりネガティブなのです。目算でこれぐらいだろうと睨んでいましたが、予想以上に『世界意思』の強化速度が速いのです」

「アイリスが計算違いをするなんて珍しいな」

「───ワールドスキル内に搭載された『世界意思』のパワーで、ワールドスキル自体も強化されるのです。そうなれば『世界意思』の自動上昇効果も当然強くなります。その無限ループにより、アイリスは強くなるのですが……ワールドスキルは突貫工事の賜物。計算に狂いが生じても、おかしくないのですよ……」

「……クライム君よく死ななかったな」

 

 箱庭の中で強化アイリス相手に組手をしていた少年……今は青年となった彼がよく無事に出てこれたものだと、思わずサトルは感心してしまう。

 

 その事に「面目ないのです」とアイリスは項垂れる。

 

「今回ポジティブな要素があるとすれば、年数と上昇幅からどんな計算式になっているのかは概ね把握できたことなのです。今後は力加減を間違える事はないのですよ。…………気を取り直して…………こほんこほん。オーナーの見られた夢。それは間違いなくありえた可能性の一つに他なりません。……良い夢でしたか?」

「───ああ。これ以上ないくらい……良い夢だった」

「それはとてもポジティブなのですよ。……それにしても『助けた俺にでも伝えてください』、ですか。アイリスのスキルに影響されて具象化した現象だからこそ、その可能性が決して夢物語ではないとわかっていたのでしょうね」

 

 サトルが見ていた夢に対する感想を述べるアイリスだが、妙にニコニコしており「どうした?」とサトルは思わず聞いてしまう。

 

「『世界意思』に関してはアイリス自身にも、確証が持てなかったので今まではオーナーにも秘密にしておりました。しかし今回の事で、正しく機能していると確信が持てたので、改めてご報告させて頂きます。オーナー。仮に、ですが。もしこのまま年を重ねれば、いずれ私は全能の領域に足を踏み入れます。そうなれば……もはや叶えられない願いは無くなります」

 

 一人称を変えてまで全能と呼称したアイリス。それに叶えられない願いはない。それが意味するところとはつまるところ───

 

「……まさか。まさか! 夢の中であった茶釜さんはまた会いましょうって。ウルベルトさんの俺に伝えてくれってあの言葉の意味は……そういう事なのか!!」

「───ポジティブ。私はあらゆる世界に遍く存在する全能神になれます! その可能性の世界とこの世界を繋げて移動することも! 地球への帰還も!! 不可能じゃなくなるのです!!!」

 

 どやぁ! と胸を張るアイリスの出鱈目さに、改めてサトルは目を見張る。ワールドスキルの万能さは十二分に理解していると思っていたが、まさか全能とまで呼べる物だったとは……

 

「それは……何年くらいかかる?」

「今の成長曲線ですと、大体1()()2()()()くらいなのです。そこまで育てば、宇宙の創造も無限に存在する次元世界から地球を見つけることも出来ちゃうのです!」

「───は、はは。凄い…………凄いぞアイリス!! まさか……そんな……確証が無くても言ってくれれば良かったのに!! 1人でそんな凄い可能性を楽しむなんてずるいぞ!!!」

 

 思わずサトルはアイリスを抱き寄せる。「お―――オーナーがとても歓喜してるのですよ」と、アイリスは間の抜けそうな声でサトルの行動にリアクションを取る。 

 

「ネガティブ。『世界意思』が機能せず、ぬか喜びさせちゃう可能性もあったので言い出せなかったのです。でもアイリスの杞憂は杞憂でしかなかったのです。……オーナー。アイリスの言葉は……とってもポジティブでしたか?」

「ああ……ああ! 俺はもう一度……ちゃんとウルベルトさんに……ありがとうが言えるんだな!!」

「……それだけじゃありません。亡くなったギルメンや……オーナーの御両親を蘇らせる事すら、決して難しい話じゃなくなります」

「!! そんな……それすらも……アイリスは叶えられるのか。……違うな。そんな大それたことすらもこなせるからこその───」

「───全能なのです。とはいえ、それはずっとずっと先のお話。1万年以上先の可能性でしかありません。オーナーが……私たちがこの世界の生命に、希望を上げられた時のご褒美のようなものです。だから───頑張りましょうオーナー。そんな未来が来ることを信じて。みんなと。一緒に」

「頑張るさ! そんな未来が待っているなら……どこまでも、全力でやるしかないだろ?」

 

 サトルが見た夢から芽生えた一つの希望。いずれアイリスは絶対の存在になる。そんな未来を明るく迎えるために。主従は一層に、明日を見ましょうと約束するのであった。

 

 

 

    ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 二人で遥か未来に思いを馳せた後、そう言えばまだやってなかったと言うことでおはようのキスをして。それからメイドを呼んで着替えを手伝って貰う。……別に二人とも自分で着替えられないわけではないが、「私たちのお仕事/生き様です!」と説得されたのでされるがままだ。

 

 サトルには信じられないが、メイド達は仕事好きなのだ。今はちゃんと休憩も休日も取るが、以前は24時間働けますかを実践していた生粋のワーカーホリック。……メイドに限らずナザリックのしもべ全員がそんな感じだったが。

 

 そんなワーカーホリックなメイド達はちゃんとサトルの要望通り、休みを取ってくれている。ならば仕事をしている間は、その職務をこなすのをサポートするのも仲間の役目だろうと甘んじているのだ。

 

 ただ何を着用するかに関してはサトルが自分で選んでいる。一度だけナザリックにいる頃に、メイドのセンスに任して見たのだが……ボタンが宝石で出来ていて、やたらとギラギラ輝く金のアビ・ア・ラ・フランセーズを用意されて辟易したことがある。

 

 あまりにも派手過ぎるし、サトルの趣味から外れた服装だった。それにアイリスの趣味からも外れていたらしく───

 

「オーナーは今から王国か帝国の舞踏会にでも参加するですか? 違う? 普段着としてそれを着る? ……着るのがオーナーじゃなければ、ゲームセットなのです」

 

 と悲しい顔をされた。以来サトルはメイド達には悪いが、彼女らの服装センスをあまり信用していない。

 

 悩んだ末に白いワイシャツにクラシカルな黒のベスト。黒いパンツと茶の革靴にサトルは着替える。シンプルな服装だが、がっしりとした体格のサトルが着ると顔の良さと相まって名家の若旦那と言った雰囲気になる。アイリスがどこかから取り出した、10点の札を掲げる。どうやらお気に召したようだ。

 

 アイリスの方はと言うと、赤いロングスカートに黒エプロン。アルザス民族衣装をアレンジした服だ。

 

「どうですかオーナー? とてもポジティブだと自慢げですよ!」

 

 アイリスの言葉にサトルは心から同意。内心で100点を付けた……もっともよほど酷い恰好でなければ、アイリスのコーデに100点しかつけないが。

 

 着替えた後は食堂に転移。朝食兼昼食のシーフードグラタンを仲良く並んで口にする。

 

 サトルはアンデッド特性で、アイリスはワールドスキルの影響により別に外部から栄養補給をしなくとも問題ないが、美食が持つ魔力に心が鷲掴みにされている主従が食事を抜くなどありえない。

 

 食事も終われば談話室へと移動。先に起きていたらしいラナーと、今後の打ち合わせをするためだ。

 

 談話室は25畳ほどの間取りで、壁も床も天井もザイトルクワエと同等か、それ以上の木材を使った板張りで出来ている。部屋の中央には布張りの赤茶色のソファー───布張りと言っても安物の繊維ではなく、高レベルレイドボスのドロップ素材を惜しみなく投入している───が並ぶ。部屋中に掌サイズの光る玉が浮かび、室内を落ち着いたシックな色で照らし出してくれている。

 

 この部屋にある壺や絵画などは、一つ一つが伝説級以上の品質を誇る。もしここに王国貴族を招待でもしようものなら、例え六大貴族であろうとも桁違いの財力を感じ取り、嫉妬心を隠すのは無理だろう。

 

 そんな部屋に、先に来ていたラナーとクライムはと言うと───

 

「なんてことをするのクライム! 大ジャンプ中のサンダーは人道に反するわ!!」

「申し訳ありませんラナー様! 例え御身が相手でも、勝負となれば手を抜くわけにはいきません!」

 

 屋敷に組み込まれた空中投影式ウィンドウを使い、レースゲームで遊んでイチャついていた。

 

 ソファーはいくつもあるのに、ラナーはわざわざクライムの膝上に乗っている。訓練前であればクライムとラナーには殆ど身長差がなく、膝の上に乗るとクライムの視線が遮られたりしていたが……今のクライムはがっしりと言う言葉が似あう青年である。ラナーが膝上に乗ってきても、何の問題もない体格差になっていた。

 

 ラナーより遥かにクライムは長身になった。小型犬から大型犬への進化だ。そんな彼への甘え方をラナーなりに模索した結果が膝に乗るだった。

 

「二人の仲がよさそうで何よりなのですよ」

「あら。おはようございますサトル様、アイリス様」

 

 ラナーが挨拶をして、クライムもそれに続く。アイリスとサトルも挨拶を返し───

 

「ラナーもクライムもこの屋敷のベッドで寝るのは、初めてだったでしょう。どうです。ポジティブに寝れましたか?」

 

 この屋敷をウロボロスで改造した者として、客人でも快適に過ごせたかどうかをアイリスは問うただけなのだが───

 

「まぁ! アイリス様は大胆な質問をされるのですね」

「ねっ!! その、確かに寝ましたが、ポジティブかと言われると!! いや、これ以上ない体験でしたので、ポジティブではあるのですが……」

 

 ラナーはポッと頬を赤らめて。クライムは何かを誤魔化すようにしどろもどろになってしまう。その反応にアイリスとサトルは顔を見合わせる。

 

『これは……大人の階段登ったみたいなのです』

『みたいだな。……どっちから誘ったと思う?』

『間違いなくラナーです。ですがそんな無理強いな誘い方ではないかと。クライムの方も、4年ぶりの再会で愛しさや切なさが爆発していたので。ラナーが上目遣いに頼んだら、あっさりと転んだと思われます』

『ラナー殿下の方は重めの感情を持ってたみたいだが、クライム君もクライム君でラナー殿下に対して重い感情があったみたいだからさもありなん、か。……あんまり触れるのも可哀そうだし、スルーしようか』

『ポジティブ』

 

 <伝言>で素早く二人はやり取りをして。この件に関しては、放置することにした。無理矢理であれば咎めたかもしれないが、相思相愛な男女の行為にあれこれと口を出すほど野暮でもない。サトルとアイリスに、馬に蹴られたい趣味はないのだ。

 

 アイリスが投影式ウィンドウを操作して、映像をゲーム画面から王都の俯瞰画像に変える。ラナーと王都に関する打ち合わせをする為だ。内容としては区画整理の問題や、修繕に関する問題。それにかかる費用の捻出やどこに予算を振り分けるのか。そう言った問題だ。

 

 今の王都はメインストリート以外は整備がされておらず、しょぼくれて古臭い都市でしかない。また無秩序に建造を繰り返し、後先の事を考えず都市全体の増改築をしたせいで、街全体がスラム街と言ってもいい有り様だ。何せ王族(ラナー)が行けるような場所に、孤児(クライム)が住み着いていたのだから。

 

 なのでラナーの即位と同時に、都市全体の開発計画を進めるつもりだ。王都の事情に関しては、長年住んでいたこともありラナーが良く理解している。彼女の頭の中には、自分ならこんな風に都市を近代化してみせるといくつものプランが入っていた。それらに対し建造物の構造計算や、土地の利用方法に規制などの案をアイリスが補完していく。

 

 ラナーは1を聞いて10を知る天才。アイリスの言葉から即座に計画を修正し、これではどうかとすぐさま案を出す。それに対しアイリスもすぐさま問題点をピックアップ。二人の間で人材の確保をどうするのかや、改修の間どこに今住んでいる住民を住まわせるのかが話し合われていく。

 

 その間クライムとサトルはと言うと……有体に言えば暇だった。日照問題がどうとか、補填費用がどうとか言われてもちんぷんかんぷんだ。魔法都市計画などの興味を抱く単語も出て来ていたが、それらの有効活用などと言われても……と言ったところだ。

 

「お暇でしょうし、オーナーはクライムと向こうでお時間を潰していてくださいです」

「クライムはサトル様の話し相手をしていてね」

 

 ……アイリスとラナーからもそれを見抜かれ、早々に戦力外通告を喰らった野郎二人は談話室に置かれていたアクアリウムの前に陣取り、水槽の中の熱帯魚を眺めていた。

 

 ただサトルにもクライムにも別にアクアリウムの趣味があるわけでもない。嫁二人が真剣な話をしているのを横目に、別の投影窓を出してゲームをやるのもなんとなく気が引ける。やることも無くなったので、サトルは隣に座るクライムを見やる。

 

「……デカくなったな」

「?どうされたのですかサトル様」

 

 サトルの体感では僅か一日半で急激に成長したクライムを改めて観察した事で、なんとなく出た言葉なだけなのだが、それに対してクライムは反応する。このままアイリスとラナーの打ち合わせが終わるのを待っていても暇なので、ふと呟いただけの言葉からサトルは話を広げる事にする。

 

「つい二日前までは私の肩辺りまでしか身長がなかったのに、今では私よりも大きくなってることに対する感想だ。……男子三日会わざれば刮目して見よとは言うが、この言葉を創った人物も流石にクライム君のような例は想定していなかっただろうな」

「男子三日ですか。そう言われると少し複雑です。私自身の体感時間ですと、4年間の頑張りの産物になりますから」

「……すまない。そうだな。別にズルをして、クライム君は大きな体を手に入れたわけじゃないからな。それなのに私の言葉は、少し浅慮過ぎた」

「あ! すみません! 私もそのような意図があったわけではありません。……サトル様の言葉にも、納得できる部分はあります。王宮から離れてまだ二日目。それなのにこんなに体が成長しては、間違いなく知り合いからは色々と疑われますからね」

「クライム君と知り合いと言うと、確かガゼフ・ストロノーフや戦士団に王城の勤め人か」

「ストロノーフ様や戦士団の方々はまだしも、他の兵士の方やメイドの皆さんが知り合いかと言うと、怪しいところがあります。私は彼らから除け者にされていましたから」

「……ラナー殿下から話を聞いてはいたが。随分と王宮では苦労したようだな、クライム君は」

「今となっては、あの程度は苦労とも思わなくなりました。それに『蒼の薔薇』のガガーラン様やラキュース様のように、強者であっても私の事を認めてくださる方はおりましたから。……だからこそ、次に会った時にどう説明したものか悩みます」

「ふむ……必要であれば、ラナー殿下に渡したような見た目を誤魔化すアイテムも用意できるが、どうする?」

 

 サトルの提案に「そうですね」と数秒クライムは考えた後───

 

「申し出はとても嬉しいですが、遠慮しておきます。昔憧れていた、ガガーラン様やストロノーフ様のような姿に成れたのを隠すのも、勿体なく感じますので。それに今後は、ラナー様の……ラナー女王の護衛として私は隣に立つことになります。その際に少年の見た目だと、格好がつきません」

 

 クライムの言葉に、そう言えばこの世界の人間も外見である程度判断する価値観だったなと思い出す。レベルと言う存在の認識は無くても、イビルアイのような見た目と強さが直結しない例があるのに、なぜか小柄であれば自分よりも筋力が弱いと思い込んだりする習性があるのだ。

 

(あれなんでなんだろうな? 似たような職業構成なら、2レベルも違ったら成人男性を10歳ぐらいの女の子が持ち上げたりできるのに。情報魔法で相手のステータスを、大まかでもいいから確認する癖とかが無いせいだろうか?)

 

 ……サトルはこんな疑問を抱くが、王国に限らず人類国家の場合大体見た目通りの強さであることが多い。ナザリックがあまりにも簡単に、レベル上げを行える環境を用意できるせいで彼の感覚は狂いつつあるが、そもそも1レベル上げるだけでも常人であれば困難を極める。更には殆どの個体が13から16辺りでレベル制限にぶつかるのだから、より一層外見と個体としての戦闘力は比例する。アイリスやシャルティア、マーレやアウラのように見た目は子供にしか見えないのに、その気になれば世界を滅亡に追いやれる存在が例外過ぎるのだ。

 

「それに……身長が伸びた事で、かなりいい事があったんです。サトル様であれば、同意して頂ける事だと思うんですが」

「私が同意出来る事? それは一体……」

「ラナー様を……抱きしめた時に体全体で包み込む形になるんです。その時に……ああ、私が守らないと! そんな気分に浸れるんです」

「滅茶苦茶良く分かる! あれ庇護欲凄いよな! あ、絶対守らなきゃ……って脳に麻薬が出る感じだろ!」

「それです! ああ、この瞬間のために私の4年間はあったのだな……そんな風に頭がふわふわになって。……昔から、ひっそりとラナー様に恋心を抱いていました。それが報われたのだと。どうしようもなく、頭が幸福になってしまうんです」

 

 クライムが素直に心情を吐露するのを聞いて、サトルは「おや?」と首を傾げる。修行前のクライムとは、少し話しただけだが、その時の彼はこんな風に思いの丈を出すタイプではなかったような気がしていたのだが……違うなとサトルは思い直す。4年間。それだけあれば人は少しぐらいは変わるよなと。そう思い直したのだ。なにせその4年の間に、アイリスが『世界意思』の能力で以前以上に強大になった。そのくらい4年とは、長い。

 

「4年間か……クライム君にも色々とあったんだろうな。……それだけの時間があったんだ。クライム君自身は、自分が納得できるくらいには強くなれたのか?」

「───はい! ……傲慢かもしれませんが、以前の私とは次元が違うと自負しています。ストロノーフ様が相手であろうとも、一太刀で決着を付けられます」

「ほう? 随分と自信があるんだな。私が知っている君であれば、そこまで自信満々に言い切る少年ではなかったのだがな」

 

 サトルの言う通り、今のクライムには自信が溢れている。以前の彼は、自分はラナーに選んで貰ったのだから恩返しをしないといけない。そんな切羽詰まった心境からどこか余裕が無かったのに、そんな少年時代の面影はすっかり消え失せ、今は強者特有の余裕に満ち溢れている。

 

 それだけアイリスの訓練を乗り越えたことが、確固たる自信の裏付けになっているのだろうと、サトルは心の中であたりをつける。

 

 それからクライムの好きな食事や、今までの人生。ラナーにどれだけ感謝しているのか。そんな話をサトルが聞いていると───

 

「お待たせしたのです。王都開発計画案は大体纏まったのですよ」

 

 話が終わったのか、アイリスとラナーが二人のところまで来た。

 

「お疲れ。有意義な打ち合わせだったかい?」

「ポジティブ。トントン拍子に話が終わったので、とても楽なのですよ」

「それは良かったじゃないか。……ところで、どんな結論になったんだい?」

「王都を一度更地にする事にしたのです」

「更地か……うん? 更地?」

 

 サトルは自分が何か聞き間違えたかと、思わず疑問形で返す。しかし間違いではないらしく、アイリスは再度同じ言葉を喋る。

 

「更地です。ラナーと何度もシミュレーションしてみたのですが……今のまま都市全体に手を入れるよりも一度全部壊して、0から作り直す方が手っ取り早いのですよ」

 

 更地と聞いてサトルだけでなくクライムもギョッとしていたが、そこからどうして更地にした方が早いのかを、ラナーとアイリスから詳しく聞かされた事で納得。そしてこの計画で進める場合、遥か未来の成長したアイリスならまだしも、現在のアイリスでは用意できないとあるものが欲しいとアイリスは言う。それが何かと言うと───

 

「キルヴィス浮遊要塞。王都を更地にして魔法都市として開発する間、住民の一時的な引越し場所としてあれを手に入れたいのです」

 

 サトル達よりも先に、『ユグドラシル』から転移したとある八人のギルド拠点。都市としても機能する天空城であれば、王都の住民を全員問題なく収容出来るのだとか。

 

「アースガルズの天空城か。あれなら確かに、仮設都市として十分に機能するな」

 

 サトル自身は『ユグドラシル』時代に、直接お目にかかったことはなかったが、九つのワールドに一つずつしかなかった最大規模のギルド拠点の一つが、天空城───キルヴィス浮遊要塞なのだ。課金による改造などを考えない場合のギルド拠点としてはナザリック地下大墳墓よりも大規模なダンジョンであり、そこから間違いなく重課金による拡張がされているとすれば……それはもはや巨大どころでは済まない。王都市民どころか、王国住民全員が住む事すら可能だろう。

 

「ポジティブ。どちらにしろ、どこかのタイミングであそこの攻略は必要不可欠でした。それに───」

 

 アイリスの視線がサトルから外れて、壁へと向けられる。そこには壁しかなく他にはなにもないのだが、ワールドスキルが成長した事で更に知覚能力が増大したアイリスには、白い鎧の姿がはっきりと見えていた。

 

「ツアーもどうやら近くに来ているようです」

「白金の竜王か。確か浮遊要塞のギルド武器は、ツアーが持っているんだったな。ならちょうどいい。あいつと接触して───」

「───ギルド武器を譲ってもらいます。……ツアーとの会談が無事に終わりましたら……キルヴィス浮遊要塞攻略戦。───GVGの時間なのです!」





ガゼフ:元王国最強の戦士。クライムから一太刀あれば勝てると思われている。今のクライムから1ガゼフの強さしかない彼が一太刀なんて浴びたら……

クライム&サトル:原作だと接点があまりない二人。直接顔を合わせたのはゲヘナの時と滅国の茶番劇ぐらいだろうか

全能:世界意思で強化⇒ワールドスキル内の世界意思も強化⇒世界意思で強化⇒ワールドスキル内の世界意思も強化のループを繰り返し、いずれアイリスがたどり着く場所。なんでもできる

次回:突撃!となりの(国の)竜王さん

浮遊要塞攻略戦の展開

  • 死の支配者サトル無双
  • 武神アイリス大暴れ
  • 蒼き軍神コキュートス推して参る
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