トブの大森林近くの広大な草原。かつてのナザリック実体化跡地であり、現在は何もない場所に一つの人影があった。
白金の竜王───ツァインドルクス=ヴァイシオンだ。とは言っても竜の姿ではない。あくまでもこの草原にいる彼は、始原の魔法で操作している人型鎧の端末に過ぎない。
見た目は人間の成人男性程度の白金の鎧。それがそろそろ月が出そうな時間帯に、一人で草原をうろうろしているのには、勿論理由がある。
「この辺の筈なんだが……特に争った形跡もないね」
独り言を呟くツアー。彼が鎧を操作してここまで来たのは、始原の魔法の行使を竜の感覚で捉えたからだ。
どこの竜王が使ったのかは分からないが、おそらく争いに使われたのだろうと見做した上で調査に来たのだが……その予想は外れ、草原には何もなかった。
「……私の感覚も鈍ってきたかな」
ツアーは1人で苦笑する。自分も年を取ったのだろうかと。現存する竜の中でも、彼はかなりの高齢だ。竜としての成長は当の昔に止まっており、これ以上加齢で強くなることもない。
彼より高齢の竜もいるにはいる。だがそれも数える程度でしかない。500年前のユグドラシルプレイヤーとの戦争で、多くの竜が死んだからだ。生き残っているのは大戦に参加しなかった者か、ツアーのようにギリギリで生き残った強者だけだ。
ツアーと同年代の竜は少なく、それより年上の竜も数えるばかり。自分は若いつもりだったが、いつの間にか年寄り側の竜になっていたのだなと、ツアーは再度苦笑する。
「何もないなら、別に問題もない、か」
ひょっとしたら戦闘ではない、何か別の意図があって始原の魔法が使われたのかもしれない。それでも現状なんの痕跡もないのであれば、ツアーがこれ以上できる事もない。
とは言え、このまま鎧を本体に戻すのも芸がない。せっかくここまで来たのだから、昔トブの大森林に封印したあの魔樹の様子でも見て帰ろうかと踵を返したところで……ツアーの動きが止まった。
先ほどまで誰もいなかった草原に、4人の人影が佇んでいた。先ほどまでの、のんびりと表現できそうな空気が消え、ツアーの警戒レベルが一気に引き上げられる。
───いつ……いつだ! いつ彼らはここに現れた!
鎧越しとは言え、ツアーは竜特有の超感覚を発揮できる。その知覚力は<完全不可知化>すら見破るほど。それなのに……4人組がいつここに出現したのか、全く察知出来なかった。竜の知覚能力を悠々とすり抜ける。それが出来る人物に何名か心当たりはあるが、それでも4人同時となると───
「───初めまして、だな。
「!! なぜ私の名前をッ!」
4人組の中の1人───サトルから自分の名前を呼ばれたことに、ツアーは動揺する。見た事もない人物に名を知られている。それ自体は別に構わない。ひとかどの人物であれば、
目の前の連中が誰なのかをツアーは知らなくとも、自分の知覚を潜り抜けるような強者だと言うのは理解できる。そう言った手合いがツアーの名を口にするのも、まだ分かる。だとしても───
───なぜ私の鎧の事まで把握されている!? この鎧の事を知っている人物は少ない。存命している中だとリグリットやイビルアイくらいしかいないのに……なぜ? それにおびき寄せただと?
始原の魔法の件。それがあったからツアーはここまで来たのだ。しかしツアーから見て初対面の男でしかないサトルの言葉を信じるならば、それ自体が仕込みだと自白しているに等しい。
つまり、自分は何か罠に飛び込んだ。いや、飛び込まさせられたのだ。それを理解したツアーは、念のために持ってきておいた槍、ハンマー、大剣、刀を宙に浮かべいつでも戦えるよう臨戦態勢に入る。
「そう急くな。私は別にお前と戦いに来たわけではない。話をしに来ただけだ」
「……その言葉を信用しろと? 一方的に私の名を知っていて、数も多いそちらを信用するのは難しいと思うが?」
「確かに。だが見ての通り、私たちは何の武装もしていない。それなのに武器を向けるのは、些か早計ではないかな」
「……………………」
確かに。サトルの言う通り、4人───サトル、アイリス、ラナー、クライムは聖遺物装備すら身に着けていない。全員何の効果も付与されていない、エ・ランテルの街中で売っているような質が決していいとは言えない服装に身を包んでいる。
あくまでも話し合い。その言葉を鵜呑みにするのは危険だが……かと言っていきなり仕掛けるような真似をするのも確かに早計ではあるなと、ツアーは武器を下す。だからと言って警戒を緩めるわけではない。向こうは自分に用があって、ここに来たのだろうから警戒を緩める理由がない。
「感謝するヴァイシオン殿」
「……礼は結構だ。それよりも、お前たちは何者だ」
「私たちか? 私は鈴木悟。……ヴァイシオン殿の分かるように言うならば、『ユグドラシル』のプレイヤーだ」
「……なるほど。既に百年の揺り返しは起っていたのか」
嘆かわしいとでも言わんばかりに首を横に振り、ツアーはひっそりとため息をつく。向こうから接触されなければ、破壊と混沌を齎す厄災の申し子達が来ていることに気付かない自分の間抜けさにだ。
それと同時に警戒を更に強める。『ユグドラシル』のプレイヤーが自分の事を認識している上に、それを明かした上で自分に会いにきた。ならばそれは陽気な挨拶などではないだろうから。
「……そちらのお嬢さん二人と青年もプレイヤーかい?」
「少し違う。この子は───」
サトルが自分の手をアイリスの頭に乗せる。
「アイリスはNPCだ。そう言えば……ヴァイシオン殿には何のことか良く分かるだろう?」
「……ああ。つまり君は……ギルドと共にこの世界に来たわけか。それは随分と───」
厄介だとツアーは心の内で言葉を紡ぐ。ユグドラシルのプレイヤーが単独で転移してきただけならば、どうとでもなる。だがギルド単位で転移してきたらどうなるのか。それも強大なギルドが、だ。それを500年前に嫌と言うほど思い知ったからこそ……ツアーは再度溜息を内心で吐く。ひょっとすれば一番最悪の形で、プレイヤーが来たのではないかと。
「その子がNPCで鈴木悟、君がプレイヤーなら、残りの二人はプレイヤーでもNPCでもないと?」
「……そちらの青年はこの世界の現地人だ」
「お初にお目にかかります。ラナー王女殿下近衛のクライムと申します」
「ラナー王女? 確かリ・エスティーゼ王国の第三王女だったと記憶しているが……もしやそちらのお嬢さんがそうなのかい?」
ツアーが最後の一人であるラナーを見やる。
「アーグランド評議国永久評議員、ツァインドルクス=ヴァイシオン様。初めまして。私はリ・エスティーゼ王国第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します。そして……『ユグドラシル』の元プレイヤーです」
「元? それはどういう意味かな?」
あまりにも聞きなれない表現に、思わずツアーは首を傾げる。
そんなツアーの問いにラナーはもはや言いなれた様子で、自分の前世の事などを淀みなく口にする。それを聞き終えたツアーは───
「……そう、か。そんな可能性もあったんだね……」
ツアーはそんな事があるのだろうかとは思わない。父が……竜帝が行使した始原の魔法は魂に干渉する大魔法。ならば生まれ変わりの一つや二つぐらいは副次効果として起こったとて、不思議ではない。だからこそ、ツアーの気は更に滅入ってしまう。かつての自分達の過ちは魂の生死にすら干渉している。あまりにも、悍ましい結果でしかなかった。
「……それで? 君たちが特殊な事情を抱えたプレイヤーだと言う事は理解した。だが今の説明の中には、私をここに誘き出した理由が一つも含まれていない。どのような手段を講じたのかは存じはしないが、意図があったからこそ、ここに呼び出したのだろう? それは何だ」
「理由か。いくつかあるが、まずは一つ目。この世界に我々は移住することになる。その許可を貰いに来た」
「許可? ……生憎だが許可と言われても、何のことかは良く分からないな。私が君たちに、何を許可しろと言うつもりだ?」
「とぼけるな。お前がこの世界の守護者として、『ユグドラシル』のアイテムやプレイヤーを監視しているのは調べがついている。……私たちはラナー殿下の後ろ盾として、この世界に根付くつもりだ。……ギルド全体で動くことになれば、当然動く力も強大になる。そうなればお前はここでの接触がなくとも、守護者として動き我々に近づいていただろう。……その時、我々に対してお前は何と問うていた?」
サトルの言葉に、こちらの事情は既に筒抜けになっているかとツアーは口の中で言葉を転がす。もしサトル達の側から接触が無ければ、ツアーとの邂逅はもう少し後になっていただろう。その時自分なら何を問うたか。ツアーが問う事とは───
「君たちはこの世界で何をするつもりか? だね。……私に許可を取ろうとする。それに今までの会話の流れ。そこから察するに、君たちはこの世界に破壊と混乱を齎す気はない。そう受け取ってもいいのかい?」
「ヴァイシオン殿の語る混沌。それがどこを指すまでかは知らないが、ラナー殿下が生まれ変わり、16年間育ったこの世界に、かつての八人や魔神のように無秩序な殺戮や侵略を行うつもりはない。あくまでもラナー殿下が望む、平穏な国策のために力を貸すだけだ。ただその過程で異種族の侵略などがあれば、我々は殿下の民草を守るために反撃は行う。それでこの世界の生物が死ぬかもしれないが、その分くらいは大目に見て頂きたい」
「ふむ……別にそれくらいなら構わない。自分から攻めておいて、殺される者まで守るつもりは私にもない。それは攻めてきた側の自己責任だ。……ただし。君たちが力に任せ、反撃ついでに敵国に乗り込み、虐殺などを行うのであれば……私は守護者としての責を果たしに行く」
「了解した。私も無駄な殺しは好まない。その条件であれば呑もう。次に二つ目。この先、リ・エスティーゼ王国はラナー殿下の指導の下、大きく生まれ変わる。その暁には、隣国であるアークランド評議国と関係を持ちたい。その橋渡しを、永久議員である貴殿にして貰いたい」
その申し出にツアーは「ふむ?」と考える。アーグランド評議国は亜人種の国だ。そんな国と人間種の国である王国は、隣国でありながら今まで何の外交関係もない。その理由は主に三つ。
一つ目は人間種の国である王国が、亜人種国家を嫌っていたからだ。民衆にとって人間ではない亜人は恐ろしい存在でしかなく、もし襲われたりすれば一方的に殺されるパターンの方が多い。そんな関係性でしかないのに、どうやって仲良くやれと言うのだろうか。
二つ目は王国と外交関係になっても評議国に何のメリットもない事だ。言ってはなんだが、王国にはこれと言った特産品などがない。魔法関係の技術開発も遅れているせいで、文明も大して発展していない。そんな国と外交を結んだところで、評議国に得るものが何一つとしてない。
そして三つ目。ある意味これが一番大きな理由になるのだが……貴族の問題だ。プライドだけは高い貴族が、亜人国家とやっていけるかと言うと……とても難しい。自分達が脆弱な種族でレベルも大したことが無く、何の根拠もないのになぜかこの世で最も優れていると自負している彼らに、果たして外交が可能かと言われると……だ。そもそも王国が付き合いのある国自体が、せいぜい聖王国くらいなのだが。隣国の帝国とは戦争状態で、法国からは内心早く滅びて帝国に併呑されろと思われているくらいなのだから、外交に必要なスキルが育つわけもない。
それらの事情から関係もなかったのだが、プレイヤーが運営する国となるとツアーとしても事情が変わってくる。
ギルド単位で来たプレイヤーは、意図はどうあれ災害のようなものだ。力業でこの世界に大規模な被害を齎すことが出来る。
───鈴木悟はプレイヤー。ラナーは生まれ変わりなんて特殊な形態を踏んだプレイヤー。この二人以外にもプレイヤーがいるのだろうか? あと何人プレイヤーがいる? NPCもこのアイリスと言う少女以外に何体いる? ……このアイリスと言うNPCはどの程度の個体だ? 魔神程度なのか? それともあのエリュエンティウにいる怪物共と同等の強さなのか? ……魔神程度ならまだいい。だがあの天空都市の方と同じだとして……同じぐらいの個体数がいたら? プレイヤーの方もあの八人と同数かそれ以上いたら? 無理だ。1対1に持ち込めればまだ勝算はあるだろう。だが複数で囲まれたら……無理だな。私一人ではどうしようもない。東方を任せている腹心の竜王を呼び寄せても……無理だ。500年前ならまだしも、今の私たちにやつらと同等の相手かもしれないギルドを相手に出来るだけの力は残っていない。……違うか、500年前でも無理だった。
ツアーの脳裏に浮かぶのは苦い記憶。八人の超越者が30人の怪物を従えて、各地の竜王を殺し回った思い出。ツアーの友も数多くが死んだ戦い。あれが今度起きれば……今度こそ自分も死ぬ。
「承知した。私としても、君たちと好き好んで争う気はない。そちらが穏便に外交を結びたいと言うのであれば、申し出を受け入れよう」
「感謝する。どのような外交にするかはラナー殿下に任せるが……悪いようにはしないつもりだ」
「……今はその言葉を信じよう。これで二つ目が終わったわけだが。まだ何かあるのか?」
「ある。むしろこれが最も重要なことだ。……ヴァイシオン殿。貴殿が持つ、とある物を譲って欲しい。もちろんただとは言わない。こちらも相応の物品を差し出すつもりだ」
「私が持つ物? ……何を要求するつもりだ」
「───ギルド武器」
サトルがその言葉を口にした瞬間。ツアーが纏う空気が急激に冷え込む。本当に温度が下がったわけではない。既に太陽も落ちているが、もうすぐ夏になろうと言う時期なのだから夜になってもそこまで気温は下がらない。変わった原因は一つ。ツアーが殺気を出し始めたからだ。
「……鈴木悟。私の事を調べた時に、ギルド武器の情報も手に入れていたか。そして……私に対してそれを要求すれば、どう反応するかも調べていたか?」
「無論だ。貴殿は世界の守護者を名乗る身。それなのにギルド武器が欲しいと伝えれば、今やっているように殺気の一つや二つは出すだろうさ」
「そうか……それを理解した上で、私にギルド武器を要求したか。……ならば口にする必要もないだろうが、それでもあえて言わせて貰おう。断る」
はっきりとした拒絶の意を始めてツアーは示す。絶対にその要求だけは受け入れられないと。
「まぁ、そう言うだろうとは思っていたが……それでも、私の要求は変わらない。ツァインドルクス=ヴァイシオン。ギルド武器を、頂けないか?」
「断る!! お前達プレイヤーに……あれは渡せない。……あの武器がどうして私の元にあるのか。どうして私があれを守っているのか。それも理解した上での要求か?」
「……そうだ。私は……私たちは全てを知っている。なぜギルド武器がお前の手元にあるのかも。どうしてギルド武器の傍からお前が離れないのかも。全てな」
サトルの言葉に冷えていた空気が、今度は熱され始める。チリチリと大気が焦げ付くかのような、猛烈な殺気。ツアーが激怒しているのだ。常人であれば心臓が止まりかねないほどの殺気。だがサトルはこの程度の殺気では動じない。アイリスもラナーもクライムも。この場にいるのは全員が超越者。誰一人として後ろに下がったり───
ラナーだけはよく見たら少し後ろに下がっている。殺気のせいで多分トラウマが刺激されたのだろう。慌ててクライムがラナーを後ろから抱きしめて慰めている。
「あれは何だ?」
「気にしないでくれ。偶によくあることだ」
一瞬毒気を抜かれかけたのか、ツアーがラナーとクライムを指さす。それにサトルが合いの手を入れる。
「……そうか。………………ギルド武器は渡せない。何があってもな」
仕切り直したツアー。ラナーがクライムの胸に顔を埋めて、しゃくり上げているのは無視する事にしたらしい。
「どうしても渡せないか?」
「無理だ。……渡すつもりは毛頭もないが。一応聞いておこうか。あれを手に入れたとして、君たちは何をするつもりだ? ギルド武器は特定の人物にしか扱えない。なのになぜ欲しがる?」
「……ラナー殿下の国策に天空城が必要でな。あれを手に入れる一環として、ギルド武器が必要なんだ。……ヴァイシオン殿。私たちに渡すリスクを、そちらの立場を考えれば簡単に呑むわけにはいかないのは承知だ。もし私が悪用するつもりであれば。あるいはギルド武器を破壊してしまったら? ……その時に起こる災害。それが何を齎すのか」
「そこまで理解しているのに……それでもギルド武器を欲しがるか。……これが最後の質問だ。もし私が渡すのを永遠に拒んだら……君たちはどうするつもりだ?」
もはや是非もなしとばかりに、ツアーの放つ殺気は大気をひりつかせている。恐らく……これはツアーの……この世界最強の竜王の最後通告。これの返答次第では、敵対もやむを得ないと。彼は覚悟している。ツアーはサトル達の規模をまだ計りかねている。自分が死ぬリスクも承知している。それでも……ギルド武器をプレイヤーに渡すリスクは絶対に、許容しかねる。だからこその最期の質問だった。
その質問に対して、ここまで一度とて口を開いていなかったアイリスが返答する。
「ツァインドルクス=ヴァイシオン。貴方の考えている通りの手法を取ります。力づくであなたから奪います。……私たちはラナーの考えるよい世界のために、力を尽くします。その過程において、国策の事がなくてもエリュエンティウは放置できません。あの都市……より正しくは30人の都市守護者。主無き今、魔神へと堕ちかけている彼女らを無視は出来ない」
「……まるで自分達なら、あの都市守護者達をどうにか出来ると言っているように聞こえるね」
「できます。この世界の戦力では無理でしょうが、私たちならできます。……ツアー? 私たちを信じてください。ギルド武器を譲って頂ければ、代わりに私たちが持つ世界級アイテムをあなたに渡します。そして……私たちが何とか、あの都市守護者をどうにかします。ですから……どうかギルド武器を渡してください。決して悪いようにはしません。貴方が私たちにギルド武器を渡すのを拒んでいるのは、あの都市守護者の件と……中にあるマジックアイテムや世界級アイテムの事があるからですよね? 私たちが欲しいのはあくまでも、ギルド拠点としての天空城だけなんです。中のアイテムは貴方に全て譲ります。ですからどうか……ギルド武器を譲ってください。お願いします!!」
ツアーから見て小柄なNPCでしかない、アイリスが世界級アイテムすら渡すと宣言し頭を下げて頼み込む。それに対して……ツアーは心が動きそうになるのを無理やり抑えつける。魔神戦争。それがどんな被害を招いたのか。それを当事者として……十三英雄として知っているからこそ、ツアーは首を縦に振らない。目の前のプレイヤーとNPCがギルド武器で何をする気なのかは分からない。分からないが……もしギルド武器が破壊されたり、ギルド武器があの都市守護者達の手に渡ったらどうなるのか。
その未来が予想出来てしまうからこそ……やはり渡せない。世界級アイテムと引換だとしても呑めない。この小さなNPCは自分達ならどうにか出来ると言うが、そんな言葉だけを信用なんて出来るわけがない。だから───
「断る!!! 私にはこの世界を守る義務がある!! ───私が世界を守る。そう、私が世界を守るのだ!! 私たちの過ちから、この世界を守らなければならない!! そのためにも、ギルド武器は渡せない!!」
ツアーの殺気と共に、4つの武器が宙に浮かぶ。
「───結局こうなるわけか」
「仕方ないのですよ……ではツアー。悪いですが、浮遊要塞のギルド武器は無理やり貰います」
「出来ると思うか!!」
力づくで無理やり奪う。そう宣言した相手に躊躇する必要などない。ツアーは宙に浮かせた武器の中から、薙刀に似た形状の槍を向け飛ばす。その速度は超速であり、並の100レベルプレイヤーでも避けるのは困難だろう。だが当たったところで、プレイヤー相手では小手調べにしかならないと長い経験からツアーは熟知している。だからこれはただの牽制でしかない。
どう防ぐのか。それとも直撃するのか。その反応から魔法詠唱者なのか、それとも戦士系なのかをツアーは見極めようとして……サトルにあと数センチと言うところまで槍が近づいたところで……アイリスがツアーの方を見て───
プツン
「………………は?」
ツアーは思わず声を漏らす。鎧のツアーがではない。本体のツアーが……竜の口から声が漏れた。
「鎧と……無理やり切り離された?」
遠隔で鎧を操作するために、意識を鎧に移していたのに……いきなりそれが途切れたのだ。ツアーが最後に見たのは透き通った赤目が、こちらを見つめていた姿だ。
「何が……」
ツアーの声には狼狽の色しかない。今まではありえなかった現象。こんな……鎧と遮断されたことなんてツアーは一度とてない。
「いや、それは置いておこうか。まずはギルド武器だね。鈴木悟……あのプレイヤーは私の事を調べていると言っていた。ならギルド武器がどこにあるのかも、私がどこにいるのかも承知の筈。ここは始原の魔法で守られているから直接転移は防げるが、徒歩や飛行で来られたらどうしようもない、か。はぁ……まずは拠点を移すしかないか」
評議国からは離れる事になるが、ツアーの拠点は別にここだけではない。世界中に彼は拠点を持っている。自分の事を調べていると言っていたが、流石に全ての拠点を調査はされていないだろうとツアーは高を括る。と言うよりも、全て抑えられていたらどうしようもなくなる。
嫌な予想を振り切るように首を振り、ギルド武器を回収しようとツアーは視線をやり───
「おっ! ようやくこっちに気付いたっすね。竜の感覚は凄いらしいっすけど、あんまり大したことないっすね」
「先ホドマデ鎧ノ操作ニ集中シテイタノダ。ソコヲ責メラレテハ、奴モタマッタモノデハナイダロウ」
「????????????????」
何かギルド武器の前にメイドと蒼い蟲がいた。ツアーの思考が真っ白になる。
───なんで? あいつらだれ? なんでここにいるの??
混乱の極みに達したツアーだが、彼の受難はまだ終わっていない。
「コキュートスもルプーもお疲れ様なのです! ギルド武器の見守りありがとなのです!!」
「アイリス様やサトル様もお疲れ様っす! 現地の声はばっちり聞こえてたっすよ!!」
ギルド武器がある方とは別の方向から声が聞こえて来た。その声はつい先ほどまで会話していた相手の声で───震える瞳をツアーは声の方に向ける。そこにいたのは……先ほどの4人組に違いなく───
「これは返しておくですよ」
ポイっと。軽い感じでツアーの目の前に投げ込まれたのは、彼が先ほどまで操作していた白金の鎧……の筈だ。筈と言うのも、元の形がなんだったのか分からないレベルでスクラップにされているからだ。上半身と下半身はズタズタに分断され、胸と腹の部分にはこぶし大の穴が複数開き、兜に至ってはプレス機にかけたアルミ缶のような有様だ。
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
曲がりなりにも90レベルの戦士職並みの性能を持つ白金の端末鎧。プレイヤーが相手でも、相手との相性によっては互角に戦えるだけの性能を持つ鎧なのに……それが簡単に残骸にされたことに。
ツアーの開いた口は塞がらなかった。
アイリスやサトルのステータスを乗せるかどうか悩んでる(ワールドスキル時の数値が壊れているせい)
のと
この後の天空城攻略戦で3パターンあってどれを書くか悩んでるのでアンケート実施
同一話にアンケートを二つ入れられないので一つ前の話(無限の成長)に天空城攻略戦のアンケート入れました
アイリスとサトルのステータスについて乗せるか否か
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見てみたい
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別にいらないかな