モモンガ様リスタート   作:リセット

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世界王者

 城塞都市エ・ランテルの南にあるスレイン法国を超えて、更に南へと下った砂漠の真ん中にポツンと一つの都市が存在する。

 

 エリュエンティウ。

 

 現在から500年前に建立された都市であり、サトルと同じようにサーバーから引き抜かれた八人のプレイヤーが最初に創り上げた場所でもある。

 

 上空にはモンサンミッシェル大聖堂をモデルに運営が創り上げたダンジョン……キルヴィス浮遊要塞が浮かび、そこから無限に水が湧きだし、眼下の都市へと豊富な水が流れ込み町全体を潤している。

 

 砂漠の真ん中でありながらも大量の水により大地は細かい砂でなく、地面はしっかりとした土になっている。また何かしらの魔法が働いているのだろう。数多の植物が生い茂り都市全体に緑の色どりを添えている。

 

 都市の建造物は石と土を固めて焼いたレンガを素材とした構造であり、ムデハル様式を参考にしたのであろう建物が数多く建てられている。

 

 都市全体には城壁などはなく、代わりに魔法結界が上空の浮遊要塞も抱き込む形で張られており、外部からの侵入を拒んでいる。魔法結界はこの世界の基準値からは大きく外れている高度な代物で、並大抵の者では打ち破れぬほど強固だ。

 

 竜王などであれば始原の魔法を用いる事で、この結界を突破できるかもしれないが……例え彼らであろうとも、この都市に力づくで侵入することは容易ではない。

 

 それは都市を守護する30人の存在があるからだ。八人のプレイヤーが所属していたギルドのポイントを使い、製作された100レベルの戦闘特化のNPC達。この世界の基準からすれば桁違いとしか言えない魔法の武具───伝説級や神器級の装備に身を包んだ超越者の群れ。

 

 一体一体がツアーには劣るが、それでもレベル90台の竜王が相手でも単独で勝利を手に出来る実力者ばかりが揃っている。

 

 だから竜王達もこの都市には手を出す事は諦めた。この世界を荒らしまわった八欲王所縁の土地など、本当であれば焼却し、地上から消し去ってやりたいと思っていても……返り討ちにあう可能性を考慮すれば、あまりにもリスクが高すぎた。

 

 そうやって放置される事数百年。過去には十三英雄がこの都市を訪れた事もあるが、それ以外からは近寄りがたい都市となってしまった過去の遺跡。

 

 そんな都市の前にサトル達7名はやってきていた。

 

「ここがエリュエンティウ……か」

「ポジティブ。あの八名が最初に創った場所であり……最後まで残った土地。もはや住人すらいない……物悲しい廃墟なのです」

 

 魔法結界を前に、アイリスは目を伏せて話す。彼女の言う通り、エリュエンティウにはもう住民はいない。八欲王存命の頃ならまだしも、周囲一帯を砂漠に囲まれたこの都市に住むメリットは非常に薄い。ただでさえこの都市に元々住むことを許されていたのは、人間種のみ。

 

 当時の八欲王は亜人種や異形種を殺しまわった集団。そんな彼らが自分達の創り上げた都市に、亜人や異形が住むことを許すわけがない。だが砂漠の真ん中に、他の都市との交流もない状態で住み続けられるほど人間種は強靭ではない。

 

 八欲王が亡くなってから1年経つ頃には、竜王の報復を恐れた人間が数名逃げ出した。10年経つ頃には、数割の人間が不便さから消え去った。100年経つ頃には……残った人間も寿命で亡くなって。そこから更に100年が経った時には……この都市からは全住民が消え去ってしまい。<維持>や<保存>をかけられた建造物は、魔法結界と併せて無事だとしても……残された空虚な箱でしかない。

 

 誰も住んでいない虚ろな都。見た目は非常に立派だが、都市としての活用されなくなった廃墟の街。それが……エリュエンティウだった。

 

「中に入りましょうオーナー。踏み入れば都市守護者達もこちらに気付きます」

「……そうだな。頼めるかい?」

 

 ラージャ。サトルの返事を受けたアイリスは一言だけ返し、魔法結界の前へと進む。

 

 ツアー含めて全員が見守る中、アイリスは結界へと指を向けて空中に文字を描く。

 

「……これで通れるです」

 

 アイリスが文字魔術(ルーン・マジック)で描いたのは解錠を意味する言葉。初めて見る奇妙な魔法にツアーは胡乱気な眼を向ける。

 

 竜王の視線の先で、まずはアイリスが結界をすり抜ける。続いてルプスレギナが結界内に入る。コキュートス、ラナーとクライム、サトルの順番で次々と魔法結界内に。

 

 それを見たツアーも同じように結界の内部へと踏み込んだ。

 

「本当に誰もいないっすね」

「ソノヨウダナ。誰モ住ンデイナイ廃墟ノ街、カ。些カ……物寂シサヲ感ジルナ」

「ポジティブ。都市は誰かが住んでこそ、都市なのです。誰もいない。誰も住もうともしない。そんな街は、ただの箱でしかないのですよ」

 

 都市の道は元は整備されていた形跡を思わせる石畳だったが、今は罅割れてそこから僅かに雑草が生えている。誰も手入れをせずに数百年が経過した痕跡だった。むしろそれだけの年数が経ちながらも、未だに道としては機能しているのだから、八欲王がどれだけ手間をかけてエリュエンティウを建設したのかが窺える。

 

 ぽつぽつと話をしながら、一行は我が物顔で都市内の道を歩く。その途中、最初にアイリスがそれに気づき。全員が遅れて反応する。

 

「囲まれているな」

「ポジティブ。30人全員ではないようですが……12人いるです」

「意外っすね。てっきり、いきなり仕掛けられるものかと思っていたっすけど」

「向コウモコチラガ何者ナノカヲ計リカネテイルノダロウ。マダ様子見スルグライノ知性ハ残ッテイタカ……」

 

 ……大通りのど真ん中にいるサトル一行。彼ら7名を中心に、複数の気配が取り囲んでいるのだ。その気配を向こうは隠していない。分かりやすい程の敵意を出している。だがコキュートスが推測したように、様子を窺っているのか出てこようとはしていない。

 

「……まだ魔神には堕ちていないみたいだな。なら会話や交渉が可能であると判断する。それでいいか?」

 

 サトルの問いかけにツアー以外は頷く。ツアーだけは、てっきりこいつらは自分にやったように、何かしらを仕掛けると思っていたので、その分意外そうにサトルを見る。

 

 その視線に全員気づいてはいたが、ツアーと会話するために来たわけでもないので放置。しかし交渉をすると言っても、別に何か特別な何かをするわけではない。普通に浮遊要塞を譲ってくれと頼むだけだ。無論そんな事をすれば、ギルド拠点に紐づくNPCが受け入れる訳がない。なにせ自分の命もかかっているのだ。そんな要求をすれば、間違いなく相手は有無を言わさず殺しに来るだろうが……それでも穏便にすむ方法があるならば、そちらをサトルは選択するつもりだった。NPCの性質からすれば、間違いなく絶対に受け入れないとは分かっている。それでも、自分の自己満足のためだとしても。念のために話だけはするつもりだった。

 

「───囲んでいる連中! お前たちはNPCだろう! 話がある!! 姿を見せてはくれないか!!!」

 

 サトルの問いかけに、囲んでいた敵意が僅かに揺らぐ。戸惑っているのか、それとも気づかれたことに動揺しているのか。あるいはどちらもか。何にしろサトルの声は届いているのだろう。

 

 揺らいでいた意識の波が落ち着いた頃。遠く離れた建物の影から、二人の人影が飛んでくる。

 

 飛んできたのは羽の生えた人間───羽がある時点で人間種ではなく、異形か亜人だが───で、片方は青く長い毛を三つ編みに結わえ後ろに流している女性で、もう片方は長い金髪を踵まで無造作に伸ばしている。

 

 鳥の羽の装飾が付いた兜に白い鎧を着込み、腰にはドレープ付きの布をスカートのように垂らした二人組。彼女らこそ天空城のNPC。全員が戦乙女(バルキリー)で構成された軍団。500年前に猛威を振るった怪物達の一員だ。

 

「……貴様らはなんだ? ここは我らが神が創りし楽園(エデン)。土足で踏み入れて良い場所ではないぞ、痴れ者どもがッ!!」

「後ろにいる竜……忘れもせんぞ。よくもまぁのこのこと顔を出せたものだな!? ツァインドルクス=ヴァイシオン!! 我が主に仇名し……最後には裏切った外道がぁ!!!」

 

 敵意どころではない。殺意を滲ませて戦乙女達は吠える。その反応に対し身構えるツアー。いきなり一触即発な状況に陥る。その事に「うわちゃぁ……」と顔を抑えるアイリスとサトルとルプスレギナ。ツアーの背後に関しては、一切を知らされていないクライムとラナーは「この竜何したんだ?」とツアーの方を見る。

 

「……すまない。怒りに任せているところ悪いのだが……お前達はあの天空城のNPCで合っているか?」

 

 そう尋ねたサトルに対して、青髪三つ編みの戦乙女がいきなり腰にぶら下げた剣を抜剣。サトルに対して白刃が閃き───

 

「させると思うですか?」

 

 アイリスが指二本で剣を止める。その事に青髪は目を見開く。まさか指で白刃取りをされるとは思わなかったのだろう。

 

 あっさりと離れ業を見せるアイリス。そんな彼女が何者なのかを、金髪の戦乙女は勘付いたのか口を開く。

 

「貴様は……プレイヤーか?」

「NPCですよ。つまりあなた達と同じです」

「あ゛? 私がお前と同じ? 私がお前と同じ!!? この、私が!! いと高きところにおられる偉大な主に創られた私がぁあ゛!! お前のような三流プレイヤーが創ったであろうカスとぉ!!? 同じぃ!!」

 

 アイリスの言葉に、いきなり激高する金髪の戦乙女。あまりの瞬間湯沸かし器っぷりに、アイリスも目を白黒とさせる。

 

「……訂正します。どうやら私と貴方達は全く違うようなのです」

「……それでいい。分を弁えろ、糞砂利が」

 

 向こうのあまりの口の悪さに、もう交渉とか無理なのではと言った空気が一同の間に流れるが……気を取り直してサトルは口を開く。

 

「あまり私のNPCを悪く言わないで欲しいが……」

「お前がプレイヤーか。随分と出来の悪いNPCを引き連れているようだな。きちんとペットの躾はしておけ」

「…………………………」

 

 この時点で、もうこいつらとの交渉とか止めようかなとサトルは諦めかけた。後ろの方でルプスレギナとコキュートスの気配も膨れ上がりつつある。サトルへのあまりにも舐めた口の利き方と、仲間であるアイリスをペット扱いされたことが腹に据えかねているのだろう。

 

 もしここに来ていたのが、ナーベラルやシャルティアであれば……この時点で交渉など無視し、サトルの制止も振り切って目の前の戦乙女達を挽肉に変えていただろう。

 

(いやいや。何を諦めようとしているんだ俺! 俺の方から話があるって言ったんだから、勝手に打ち切ったら駄目だろ! がんばれ俺! ヤンキー娘に負けるな俺!)

 

「……そうだ。私はプレイヤーだ。それで……このドラゴン、ヴァイシオン殿と何があったのかは多少は知っているが、彼がここに来たのはただの成り行きなので、今は存在を無視して欲し……無視して頂けないだろうか」

「……良くない。お前はプレイヤ―だとして、なぜここに来た。ツァインドルクス=ヴァイシオンまで連れてだ」

「───ここに来た理由を問うか。……私たちはあれを、天空城を必要としている。出来得るならば、あの拠点をもらえな───」

 

 そこまでサトルが言ったところで。アイリスに剣を止められた後、剣を鞘に納めていた青髪から強烈な殺気が噴出する。青髪だけではない。金髪からもだ。

 

「貴様はプレイヤーだろうがぁ!! それななななあにぃ!! わたしたにきいい!! 拠点をよこせぇえええ!だとぉ!!」

 

 あまりの怒りに金髪の呂律が回っていない。口角泡を飛ばしながら声を発している。その有様にサトルは思わず後ろに下がってしまう。あまりにも情緒不安定な精神状態に天空城のNPCはなっていた。

 

(こわ……これが魔神に成りかけのNPC……なのか? 主を無くした事で、あり方が大きく歪んでしまうってアイリスは教えてくれたけど)

 

 目を血走らせた気狂いのような表情からは知性など感じない。確かにギルド拠点の件を持ち出されたら怒りは抱くだろうが、それでもこの雰囲気はそんなものでは済まないと、サトルは感じたところで───

 

「やはり魔神一歩手前ですか……一つだけお尋ねしてもいいですか?」

 

 アイリスが金髪に話しかけると、彼女はギョロリと眼を動かす。インベントリから武器───巨大な突撃槍(ランス)を持ち出した金髪の戦乙女は、それを構える。

 

「な、なああああああ、な、なにだ糞砂利ぃいいいい!!!」

「貴方達はここを覆う魔法結界から、抜け出せないようにされていますよね」

 

 そうアイリスが言った途端。ランスをゆらゆらと揺らしていた金髪の動きがピタリと止まってしまう。まるで電池が切れた玩具のように、急にだ。そんな風に止まったかと思えば───

 

「ぎぃいい!! ふぎぁあああ!!!」

 

 今度はランスを何回も石畳に突き刺しまくる。理屈も糞もない気狂いの動きに、サトルは引いてしまう。どう見ても頭が壊れている動作に、サトル以外も困惑している。

 

 もはや言葉を話せなくなった金髪に代わり、青髪が言葉を引き継ぐ。

 

「───そうだ! 私たちはこの都市から出られなくなった……リク様が……リク様がこの結界から、私たちを出られない様に……出さない様に───」

 

 血を吐くかのように青髪は言葉を吐きだす。そこからは言葉が崩れていて分かりにくかったが……聞いてもいないのに、彼女も壊れているのか青髪は延々と話をする。彼女が語るのは、この都市で何があったのか。その真実だった。

 

 八欲王は全員自滅で亡くなった。そう伝説では語られているが……実は違う。たった一人だけ、生き残った人物がいたのだ。

 

 それが青髪が口にしたギルド長のリクだ。殺し合いの末に何度もレベルダウンした彼だが、最後の死亡前に『流れ星の指輪』を使いきり、ほとぼりが冷めた頃に復活するように『星に願いを』を使用した。

 

 そして数百年が経ってから蘇生し……もう一度悔い改めて生きようとした彼は、十三英雄のリーダーとして活躍することになる。

 

 しかし最後には悲しいすれ違いがあり……自分まで亡くなればNPC達が魔神になると危惧した彼は、ギルド武器を使い都市を覆う魔法結界から戦乙女達が抜け出せないように封印を施した。

 

 そしてギルド武器はリクの手からツアーへと渡り……ツアーは自分の手を汚す事になった。

 

「リク様は……リク様は言っていた! 自分はツァインドルクス=ヴァイシオンに殺されるだろうと! でもそれでいいと……ふざけるなぁ!!」

「……今の話に嘘はないですかツアー?」

「───君にツアーと呼ばれる覚えはないんだが……私に聞かなくとも、魔法結界の件も知っている君たちなら。とっくの昔に知っているんじゃないのか?」

「ポジティブ。……だとしても、貴方自身の口から肯定の言葉が欲しいです」

「……あのNPCが言う言葉は真実だ。十三英雄として活動していた時に、リクだけがこの都市からマジックアイテムを持ち出せた。その事を問い詰めても、『ユグドラシル』で攻略したことがあるからだとしか教えてはくれなかったが……ギルド武器を渡された時に全てを教えてくれたよ。そして……生きる事に失望していた彼を、私は叩き潰した。過去の因縁と……縁を切るために」

「ありがとうございます。……さて。この都市からは出られなくなった貴方達。なぜそうしたのかはもはや明白。魔神化。それをリクが懸念したから。……そして懸念通り、貴方達は既に魔神に成りかけている。……そうですね。もし仮にここから出られたとして。その時貴方達は何をされますか?」

「決まっている! まずはそのドラゴン、ツァインドルクス=ヴァイシオンを殺す! 次にリク様に助けられておきながら、あの御方の心を助けられなかったこの世界の住民共を皆殺す! そしてこの世界を墓標にする! 我らが主がいた証として、数億の魂を捧げる!! それだけが我らに遺された唯一の意思だ!!!!」

 

 ……これが魔神化だった。主を無くしたNPCが行きつく先。主のために存在するNPCが主を無くせばどうなるのか。どこかでこう思ってしまうのだ。

 

 全部滅んでしまえばいい。何もかも……主に焚べる燃料になってしまえと思考が固定化されてしまう。一種のロジックエラーだ。

 

 それは別の時間軸でアイリスも陥った現象。サトルを亡くし、失望し、絶望した彼女は星を炎と熱が支配する死の世界に変えてしまった。存在Xをあぶり出す為に、命乞いをする生命を全て八つ裂きにして、焼き尽くした。それがどれだけ歪んだ思考なのか一切気づかずに……行える手段を持っていたせいで完遂してしまった。

 

 八欲王最後の生き残りであるリクが亡くなってから100年以上。NPC達が魔神になってしまうには……十分な時間が過ぎてしまっていた。

 

「オーナーは交渉をしようとしましたが……彼女たちの精神状態では、会話による交渉は不可能だと判断します。よろしいですか?」

「……ああ。仕方がない。もう……あのNPC達は壊す事しか、頭にないんだな」

 

 サトルも交渉を諦める。とてもではないが、説得できるとは思えない。仮にこの戦乙女達を説得できる者がいるとしたら、それは亡くなった八欲王達だけだろう。

 

 唯一リクだけはまだ蘇生を試みれば、復活は出来るのだが……生きる事に失望した彼をこの世に蘇らせる気はアイリスにもない。その眠りを邪魔はしたくはない。

 

「お前達には悪いが……あの天空城は奪わせて貰う。そして、この世の命の殲滅を前提にしているお前達を捨ておく気もない。……八欲王が亡くなってから400年。リクとやらが亡くなってから100年。……いい加減お前達も眠れ。そんなに主人の事を思うならばな」

「……はッ! まさか……さっき剣を止めたから……同じユグドラシルのプレイヤーだから……私たちに勝てると思っているのか? 甘いんだよ!!」

 

 青髪の言葉と同時に。サトル一行の周りに人影が無数に降り立つ。

 

「ひぃ、ふぃ、みぃ───30人全員いるっすね」

「全員呼ンダノカ。戦力ノ逐次投入ハシナイ。良イ判断ダ」

 

 取り囲んだのは、全てが戦乙女(バルキリー)。全員が実体化直後のシャルティア並の戦闘力を持ち、その気になればこの世界の生命を皆殺しに出来かねない怪物の群れがたった7名を殺すために集結していた。

 

 ツアーは冷や汗が全身から出ているような錯覚に陥る。結界外まで逃げ切れば、戦乙女達は追ってこれないが……果たして逃げ切れるだろうかと言う怖気が全身に走る。

 

 ラナーも過去のトラウマからか、顔を真っ青にさせている。

 

 そんな集団に囲まれながらも───

 

「まぁ、結局こうなるんだよな」

「ポジティブ。でも想定内なのですよ」

「そっすね。ちゃちゃっとやりますか」

 

 サトル達は余裕の態度を崩さない。たった30名。集まった全員を無詠唱化した<万物解析(オール・アナライズ)>で調べたが、普通の100レベルの域を超えてはいないと確認している。

 

 つまりサトル達が負ける要素はどこにもない。それがゆえの余裕だった。さて口火が切られるかと緊張が高まったところで───

 

「御屋形様。御願イガ一ツアリマス」

「ん? なんだコキュートス」

「今回ツァインドルクス=ヴァイシオンヲ連レテ来タノハ、我ラノ力ヲ見セツケル事デ奴ノ心配ヲ無クス事モ意図サレテイルト、御前様カラ伺ッテオリマス」

「その通りだ。俺たちがどれだけの力を持つのか? それを知ってくれたら、幸いかなと思って連れて来たんだが……」

「ソレナラバ、コノ戦。私ニ預ケテハ頂ケナイデショウカ? ……アノ力ヲ使イ、私タチガ単体デモ優レテイル事ヲアノ竜王ニモ覚エテ貰エレバ、今後ハ更ニ活動シヤスクナル筈デス」

「あの力? ……そうか。世界級(ワールド)エネミーの力を使うつもりか?」

「ハイ」

 

 そのお願いにサトルは手を顎に当てて少し考える。あれを見せても良いのだろうかと。そう思いアイリスの方に目を向ける。

 

 彼女もその話を聞いていたのだろう。サトルとコキュートスの方を向いて一言───

 

「やっちゃえですよ! コキュートス」

 

 アイリスは許可を出した。ならばサトルにも異論はない。コキュートスに改めて目線をやり、やってしまえとアイコンタクトを送る。

 

 そうやってサトル達が目線を外したことを好機と見たのか、戦乙女の内何名かが魔法を使う。

 

「<魔法三重最強化・紅焔>」

「<魔法三重最強化・超酸の霧>」

「<魔法三重最強化・大溶岩流>」

 

 他にも数発の魔法が行使される。その攻撃に即座に反応し、その場から飛びのく一行───と言いたいところだが、ツアーとラナーの反応が遅れたのか、まだその場に留まっている。ラナーを守るためかクライムも動いてはいない。

 

「あっ、まずいですよ」

 

 すぐさま引き返して障壁魔法を張るアイリス。止まったような時間の中、ツアーの傍で<聖壁>を張り、今度はラナーに防御魔法を使おうとしたところで───クライムと眼があった。

 

 大丈夫です。

 

 彼の口はそう動き、いつの間にか手にバスタードソードを握っている。それが何を意味するのかを悟ったアイリスは、お姫様を守る騎士の役目をクライムに譲る事にする。

 

 アイリスからは止まっているように見える魔法。ラナーやツアーからすれば超高速の魔法が着弾。火柱が吹き上がり、全てを溶かす酸が撒き散らされ、溶岩の波がツアー、アイリス、ラナー、クライムを呑み込む。

 

 その攻撃が止み、煙や溶岩が消えていく。アイリスが守ったツアーは当然のように無傷。そしてクライムが守ったラナーはと言うと───

 

「は?」

 

 誰がその言葉を漏らしたのか。戦乙女かも知れない。あるいはそれを見ていたツアーかもしれない。ラナーは無傷だった。正確にはクライムが守り切った事で無傷だった。

 

 撃ち込まれた魔法は恐ろしく強力な物ばかりであり、この世界の住民のように第三位階魔法までしかないと言う事はない。使われた魔法は全て第九位階魔法以上で、使ったのは100レベルの戦乙女。普通に考えれば簡単に防げるようなものではない。それこそアイリスのように馬鹿げたステータスから繰り出した強固な防御魔法を使うか、あるいはそれに匹敵するような防御スキルを使う必要がある。

 

 ……クライムが使ったのは後者。どんな魔法でも攻撃でも、タイミングさえ合わせれば絶対に防御出来るスキル。それはツアーも500年前に見た事があったスキルであり……サトルも何度も見たスキル。

 

次元断層(ワールドリジェクション)……」

 

 サトルの口からスキルの名が漏れる。それは『ユグドラシル』でも、たった9名しか使えなかった超級のスキル。アインズ・ウール・ゴウンに所属していた最強の戦士、たっち・みーの職業『ワールドチャンピオン』でしか使えない、絶対防御とまで呼ばれた代物。

 

 それをあろうことかクライムが使って見せたのだ。彼がどんな訓練を積み、どんな職業を獲得したのかは全く聞いていなかったサトル。

 

 コキュートスが世界級エネミーとしての力を実演するその前に。この世界出身の生物としては、破格のそれをクライムは披露してみせた。





リク:八欲王の生き残り。最後はもう一度仲間を自分の手で殺したことに絶望。ツア―の手で殺して貰った

都市守護者:全員戦乙女(バルキリー)。魔神化まであと一歩くらい

魔神アイリス:IFルートのアイリス。上記の都市守護者と同じで魔神化してる

感想で予想もあったようにクライムはワールドチャンピオン獲得

次回は世界級エネミー『五色如来 蒼のコキュ―トス』
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