蒼の薔薇
エ・ランテルにサトル達『黄昏』が浮遊要塞を持ち帰ってから1週間が経つ頃。
王都のアダマンタイト冒険者チーム『蒼の薔薇』のラキュースは、第二王子ザナックに会うために王宮を訪ねていた。
ラキュース───正式名称をラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと言う。彼女は長い名前が示すように、貴族の御令嬢である。長い金髪に活発そうな翡翠の目。健康そうなピンクの唇に整った目鼻。容姿を仮に数値化した時、国最高峰のラナーには及ばないものの、人によっては生命力の輝きを放つ彼女の方が好ましいと感じるほどの優れた外見を保有する女性だ。
貴族令嬢な彼女だが、その在り方は一般的な貴族とは訳が違う。幼少期から英雄に憧れ、また間近にアダマンタイト級冒険者として活動している叔父がいた事もラキュースの生き様に強い影響を与えたのだろう。あろう事か彼女は家出し、その足で冒険者組合を訪れて登録。そのまま才能に任せて突き進んでいたら、自分も叔父と同じアダマンタイト級冒険者になった強者だ。
今は両親とも和解し、偶には実家に戻ったりもしているが……それでも貴族の令嬢として振舞うよりも、冒険者として活動する方が性に合っているのか、冒険者を止める気は全くないようだ。
そんな彼女はラナーの友人でもある。貴族令嬢としての名前を名乗る事を許されている彼女は、アダマンタイト級冒険者としての知名度も相まって、冒険者でありながら個人で第三王女に会う事が出来る。
しかし友人とは言っても、親友だと思っているのはラキュースだけである。ラナーの方はと言うと、優しい王女の側面を見せたら簡単に掌の上で転がってくれる、多少賢しく実力だけはある利便な手駒程度にしか彼女の事を思っていなかった。失うと困るが、最悪自分のお願い事の最中に不慮の事故にあい、亡くなったら亡くなったで構わない程度の思い入れ。……今のラナーであればそこまでは思わないが、素直に友かと聞かれたら……と言ったところだ。
ともあれラキュースはラナーの事を大切な友だと信じており、用が無くともラナーに会いに王宮に来ることはあるが……現在ラナーは王宮を離れており、率先して訪れる事はない。
それなのに彼女が王宮を訪ねたのは、ザナックに話があると呼び出されたからだ。アダマンタイト冒険者ともなれば、王族の申し出を拒否することも出来る。だがザナックに尋ねたい事がラキュースにはあった。
なお今回は『蒼の薔薇』として呼び出されたのだが、他のメンバーはと言うと───
「悪りぃな。王族と会うってのは、柄じゃねえし、礼儀だなんだは堅っくるしいから、パスするぜ」
「私もガガーランに同意だ。何が悲しくて、あの王子の誘いを受けねばならん」
「……私もいかない。デブに用はない」
「右に同じく」
びっくりするくらい誰も来ようとはしなかった。まともな返答はガガーランだけで、残りの3人は暴言しか言ってない。無理に誘ってもどうせ来ないとラキュースも分かっているので、4人には留守番を任せて彼女は1人で王宮へとやって来た。
貴族令嬢としての手解きを受けているラキュースは、王宮内で失礼のないマナーを守れる。きちんと手順を踏んで入室し……そこにザナックだけでなく、六大貴族のレエブン候もいた事に少し驚いたものの、それは表に出さずカーテシーや王族への礼を尽くす。
そこから日常の世間話をある程度したところで……ザナックは今日ラキュースを呼び出した本題を話す事にした。
「ところでな、アインドラ殿。貴女が王国最強の冒険者チーム『蒼の薔薇』のリーダーである事を見込んで、一つ尋ねたいことがあるんだ」
そんな前置きにどうしたのだろうと、ラキュースは考え込む。彼女がそんな疑問を抱いたのは、ザナックの態度がいつもと全く違うからだ。
アダマンタイト冒険者とは言え、王族であるザナックが貴族令嬢でしかないラキュースを殿と付けて呼ぶことは通常ありえない。呼び捨てにするか、つけたとしてもさんぐらいだろう。
いや……それだけではないとラキュースは違和感を覚える。彼女が知るザナックとは、無駄に太り皮肉屋で、親友であるラナーの事を腹違いの妹と呼称するような不躾な男なのだ。なのに今日は違う。普通に世間話が出来てしまった。その事に今更気づいた彼女は、「なぜ?」と感じるが……その事ばかりに気を取られていては、自分が失礼な女性になってしまうと、ザナックの質問に答えを返す。
「どうされましたか、ザナック殿下」
「貴女方『蒼の薔薇』が、今まで相手にしたことのあるモンスターで最も手強かったのは何と言うモンスターだろうか?」
これまた奇妙な質問だと思った。ラキュースの知るザナックとは、冒険者の強さに興味を持つようなタイプでもないからだ。とは言え、アダマンタイトの実力に関心を示す人と言うのは珍しい訳でもない。この手の質問はラキュースも今まで何度もされている。スラスラと口が動く。
「私たちが討伐した中ですと、ギガント・バジリスクが一番手強い相手になります」
「なるほど。……そのギガント・バジリスクだが、冒険者が使う難度で表すとどれくらいの数値になる?」
「そうね……大体80から90くらいです」
「そうか。貴女方でも、90までしかないのか……」
ザナックは指を二重顎に当てながら、難しそうな顔をする。ザナックだけではない。レエブンも困った表情をしているのだ。
「アインドラ殿。今から私が、いくつか難度を口にする。それに対してアダマンタイト級冒険者として、自分達なら討伐できるかどうか? あるいは人類で対処可能かどうか? その助言を頂けないか?」
レエブンも、ザナックと同じように奇妙な質問をする。その行動に対して、ラキュースは自分が何か試されているのだろうかと不審がる。ひょっとしたら、この二人は何かを自分達『蒼の薔薇』に依頼しようとしているのだろうか。その前振りとしての質問なのだろうか。
「構いません。殿下とレエブン候のお役に立つのであれば、幾らでも助言させて頂きますわ」
ラキュース個人としては、暗愚なザナックと蝙蝠なレエブンと思い込んでいる二人を信用も信頼もしていない。しかし二人は曲がりなりにも、この国で最高権力を持つ大貴族と王族の直系。悪感情を抱かれても得などなく、せっかく和解した両親にも迷惑をかけてしまう。それに今のように聞いてもいいのかどうかを、きちんと手順を踏んでくれるのであれば、別に困りもしない。
「すまないな。ではそうだな……まず難度150。難度150のモンスターが王国に現れたとしよう。『蒼の薔薇』なら討伐できるだろうか?」
「……難しいですね。私たちはチームとしては90から100程度しかありません。唯一イビルアイだけは、相手を出来るかもしれません。でもあの子の相性が悪いと、とてもではありませんが……」
「難しい、か。ではここからは討伐は不可能だと前提を置いた上で聞くが。難度200のモンスターが現れたら?」
「王国だけでは討伐できないわ。叔父たち『朱の雫』に力を借りたとしても、多分手も足も出ない。人類総出で戦わなければ、撃退すら不可能だと思います」
「200の時点でその規模になるか。なら250の怪物が現れたら?」
「……人類は壊滅します」
「そうなるか。ではこれが最後だ。難度300の竜が空から無数に落ちてきたら……この世界はどうなる?」
あまりにも真剣に絵空事を聞くレエブンの剣幕に、ラキュースは本当にどうしたのだろうと心配になる。
難度300。そんな怪物が現れるわけがない。それはラキュースが昔読んで憧れた、絵本やお伽話の英雄が命を賭してようやく勝利できるような竜のような怪物の話。現実にも竜はいるが、それにしたって300もないだろう。それだけの力があれば、この世は竜の天下になっている。けど現実にはそうではなく、竜はこの世を支配せず人間は繁栄を許されている。だからラキュース個人の回答としては、難度300なんて存在しない、だ。そもそも250だって空想の産物に過ぎない。それなのに六大貴族の良い大人が、真剣な顔つきで絵本を読んだ子供が読み聞かせてくれた親に聞くような事を口にするのだから……何となくラキュースとしてはレエブン候は蝙蝠なんて呼ばれているが、案外可愛いところがあるのかもしれないと感じていた。
「空から無数の竜ですか。その場合は、この世界の終わりでしょうね」
ふとラキュースはそう答えながらも、ちょっとだけ妄想をする。魔剣キリネイラムを手に竜の群れに突撃する自分。魔剣の力を解放して戦う自分。この世を終わらせる軍勢を追い返す自分。
やだ超格好いい。
……英雄に憧れたラキュースは、英雄っぽい言動や妄想が好きな女の子だった。
「この世の終わりか。言い得て妙だな」
果実水を一口含み、口を湿らせるザナック。彼の言葉にレエブンも非常に同意する。お伽話の大軍勢を……難度300の竜の群れを。中段ドラゴンズなどと名付けられたドラゴンの群れを、ラナーに案内されたナザリックで見せられた二人。
彼ら二人は改めて知りたかったのだ。ラナーが持つ戦力の規模がどれだけ桁違いなのかを。玉座を貰うと宣言した彼女の後ろ盾の出鱈目さを。
そのために時間を貰ってまでラキュースに来てもらったのだ。アダマンタイト級冒険者の彼女目線で見た時、難度300とはどれだけの脅威なのか。答えは自分達の思考と大して変わらない。第三王女とその仲間がその気になれば、王国どころかこの世界全てを焼き尽くしてしまえる。
その結論の後押しが欲しかった。それだけだった。
そこからもいくつかの話をした後、そろそろお開きにしようかと言うところで───
「ザナック殿下。良ければで構いません。巷で噂になっている、あの話は本当なのかどうか、教えては頂けないでしょうか?」
ここに来た目的をラキュースは切り出す。彼女が知りたいと言う噂。それが何なのかをすぐに察したザナックは、別に隠す事でもないと質問に答える。
「腹違いの妹の事か?」
「はい。彼女が……ラナーは昔完治したと思われていた、重い病気が再発したから、それを治すために王都を離れたと。そう耳に挟みました」
ラキュースの言葉に、「あいつどういうルートを使って噂を流したんだろうな」と疑問を呈するザナック。天使の件があるから数名のメイドしか最後には接触していなかったのに、三週間かそこらで王宮に来ていなかったラキュースにまで伝わっているのだから、とんでもない伝播力だった。
あいつ天使の件とかなくても、なんか普通に化物なんじゃないかと思いつつも───
「重い病気、ね。まぁ……重い病気ではあるな」
「そ、それはどういった病気なんですか!!」
「あー、そうだな。背中と頭の病気……になるんじゃないか?」
何処か投げやりにザナックは答える。背中から羽が生えて、頭の上に
「そうでしたか……背中だけならまだしも、頭……脳にも何か障害が残るような病気に……」
何を想像しているのかは分からないが、どうも勝手に想像以上に重い病気だとラキュースは思い込んでいるようだ。……確かに想像以上に重い心の病気に、ラナーはかかってはいるが……心が脳の創り出す現象だと言うならば、頭に重大な障害が出ているとは言えるかも知れない。
その姿を見たザナックは少し検討して───
「そんなに心配なのであれば、妹に会いに行ってやったらどうだ」
「え? 今どこにいるのか、場所を教えて頂けるのですか?」
「構わんよ。アインドラ殿はあいつの友人なのだろう? なら会いに行ってやれば、あいつも少しは喜ぶ……多分喜ぶ……歓迎くらいはするだろ」
ラナーの本性を知っている……と言うか知らされたザナックは、なんとも不安そうな回答をするが……本当に心の底からラナーの心配をしているラキュースは気づかない。
「あいつなら今はエ・ランテルにいるそうだ」
「エ・ランテル? あの城塞都市に療養の場なんてあったかしら……」
「あの都市には、現在凄腕の医療術師とやらが滞在していてな。それを頼ってあの場所にクライムと二人でお出かけ中だ」
「そう……クライムと一緒に……クライムと二人で? すみませんザナック殿下。ラナーがクライムを連れていくのは分かりますが、二人でと言うのは……」
「言葉通りの意味だ。腹違いの妹の病気は心に関わる病気でな。あまり大人数に周りを囲まれると、余計に悪化するのだとよ。だから人数を出来るだけ減らし、クライムだけを連れていったのだが───」
「そんな! そんなまさか!! ランポッサ陛下は実の娘の護衛を、一人だけに任されたの!!」
思わずラキュースは立ち上がってしまう。それだけ今の話が信じられなかった。
ラナーは『黄金』とまで呼ばれる国の宝。彼女の事をランポッサが可愛がっていたのは、王を良く知る人物であれば精通している情報だ。それなのにエ・ランテルに赴いたらしいラナーの護衛の戦士が、クライム一人など……
それだけではない。そんな事情を抜きにしても、ラナーは王族なのだ。そんな彼女の護衛であれば、せめてエ・ランテルまでガゼフのような強者が勤めるべき。仮にそれが無理だとしても……せめて自分達のような強者を……アダマンタイト級冒険者を雇ってくれれば。
そもそもクライム一人だけを護衛に、謎の医療術師とやらの元に王女を預けるのも言語道断。まずありえない行為。
そこからラキュースは出来る限り、努めて冷静に話したと自分では思う。ただまるでラナーが見捨てられたかのような行為に、予想以上にショックを受けながら王宮を後にした。
それを見送ったザナックとレエブンは───
「アインドラ殿は良き御仁ではありますが、まだ精神性は成熟していないようですね」
「それぐらいの方が、あの妹の相手をするならちょうど良いんだろうよ。それよりも。……アダマンタイト級冒険者でも、難度は100ぐらいまでが限界か。俺たちの国は、よほどの化物の手の上にあるようだ」
今回ラキュースを呼んだのは、本当にただの確認作業に過ぎない。自分はもう玉座に座る事は絶対にないのだと、確認するだけの作業。……ザナックはただ国を良くしたいだけだ。権力闘争に明け暮れるだけの貴族や、現実が見えず不和を撒き散らすだけの内部抗争をどうにか止めて、まともな国にしたいだけ。その願いはラナーが叶えると言う。……どこまで妹がそれを約束してくれるのかは分からないが、彼女の後ろ盾は世界を焼き尽くせる神話の軍。ラナーが白と言えば全て白になり、黒と言えば黒となる。だからザナックはラナーを信用するしか残されていない。彼女がやろうとしている、突出した武力による革命。それへの協力しか、道は用意されていない。
ラナーのやろうとしていることは、普通であれば短絡的な行為だ。ザナックも一度は考えたが、そんな戦力を彼の立場では用意できないため切り捨てた案。レエブンの協力があっても、そんな真似をすれば国が割れ多くの死者が出る。だがラナーが動かせる戦力であれば……死者は出ない。最初から戦いとして成立しない。あれを見て、それでも挑もうと思えるような胆力のある貴族なんて存在しない。
「俺たちはあいつに打ち明けられた時点で、一蓮托生だなレエブン候」
「分かっております、ザナック殿下。私はリーたんに無事領地を渡せれば、他に何もいりません。あの悪魔……いえ、天使でしたね。ラナー殿下の革命後、滞りなく統治ができるよう私の派閥を動かしておきます」
少しでも国を良くしたいと願った王子と、子供に完璧な領地を引き継ぎたい大貴族。二人は改めて自分達の立ち位置を確認して───
「革命とは穏やかじゃないわね」
いきなり話しかけられたことに、二人の心臓は跳ね上がる。声を発したのは、いつの間にか部屋に入って来ていたメイドだった。まずい話を聞かれたと、声の方に振り向き……二人はそのメイドを見て、胸を撫で下ろす。
「驚かせないでください。危うくメイドを一人、処分する必要があるかと肝を冷やしましたよ」
「全くレエブン候の言う通り。お人が悪すぎますよ、
そのメイドはあろうことかアルベドだった。頭の角と腰の羽は隠しているが、それ以外のプロポーションは全く隠していない。
濡羽色の漆黒の髪も、度を越えた美人としか言えない美貌も、金の瞳も、メイド服の上からでも目立つ胸も隠してはいない。
正真正銘ナザリック統括守護者のアルベドが、メイドとして王宮で働いていた。
「私だから問題ないと考えるのは早計よ? 今のが本当にただのメイドなら、その子は本当に処理する必要が出て来ていたわ。もちろん私たちの力であれば、人間一人秘密裡に消す事くらい訳もないけれど……そうなった時、私たちの主はきっと悲しまれるわ。そうなれば……貴方達の立場が盤石かどうかは、再検討が必要になるわね」
アルベドのねっとりとした声と、絡みつく視線を受けて二人は兜の尾を締め直す。自分達の命は握られているも同然なのだと。自分の脅しに素直な反応を示す二人に対し───
───まぁ、本当に再検討なんて事はしないけれども。そんな事をすれば、アイリスに後から一杯怒られるもの。多分サトル様と二人がかりで。正座で説教されたデミウルゴスみたいに……でも正座しながら、サトル様にちょっと怒られてみるのも悪くないかも
王宮メイド、アルベド。彼女はザナック推薦のメイドとして王宮に潜り込み、ラナーに代わって頭脳をフル活用して暗躍していた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
王宮でラナーの噂が真実である事。また居場所を教えられたラキュースは、宿に戻り『蒼の薔薇』の仲間に、エ・ランテルに向かいたい旨を伝えていた。
それを聞いた面々はと言うと───
「俺は別に構わねえぜ。エ・ランテルには長ぇ事行ってねえし、あの童貞の顔も見てえからな」
「鬼リーダーが行きたいなら賛成」
「左に同じ」
「ラキュースはあの王女様が心配なのだろう? 私も別に構わん。そろそろ向こうで、帝国の情報なども仕入れたかったからな」
全会一致で可決された。それじゃ移動する準備をするかと全員で宿を出る。
冒険者チーム『蒼の薔薇』。チームメンバー全員が女性で構成されており、全員色々と濃いメンバーだ。
リーダーであるラキュースは、夜な夜な英雄ごっこに勤しむ成人女性。
チーム最強のイビルアイは、人間ではなく250年生きた吸血鬼。小さな体に長い金髪。赤いフードで体を覆い、いつも仮面で顔を隠している。
見た目の濃さならガガーランが一番だろう。大男に見間違えられる高身長に分厚い筋肉。ガテン系姉御であり、童貞の一番を食う事が大好きな肉食系。粗野な言葉遣いに見目麗しいとは言えない外見。だが面倒見が良く、人を殺したりしない亜人種や異形種まで迫害されるのを嫌う性格から意外と隠れファンが多い女傑だ。実際帝国には彼女の大ファンがいる。
そして双子忍者のティアとティナ。オレンジ色に近い金髪に、スレンダーな肢体。外見の良さから男に言い寄られることも多いが、片や女好き。片や小さな少年好きと困った性癖をしている。
彼女らは奇人の集団である。
「しっかし王様も思い切った事するもんだな。姫様の護衛を、あの童貞一人に任せるってのもよ」
「同感」
「薄情」
「ふん。大方病気が再発した娘を疎ましくでも思ったんじゃないか? 王女の価値は政略結婚に使えるかどうかだ。病気持ちとなれば、欲しがる貴族も減るだろ」
「イビルアイ! そんな言い方は止して頂戴! ランポッサ陛下はそんな方じゃないわ!」
「あ、いや……すまん。言い過ぎた。……だがラキュースも少し不思議に感じたのだろ? 今までとは行動が違い過ぎると。……人の心は移ろいやすい。昨日まで優しかった人間が、今日こちらを化物のように見る事もある」
イビルアイの言葉にラキュースが黙り込む。人はある日急に迫害を始める。それをアンデッドであるイビルアイは、嫌と言うほど思い知っているのだろう。だからこそラキュースは何もいえなくなり……少しだけ空気が重くなる。それを吹き飛ばすようにガガーランが、声を張り上げる。
「まぁ、あれだな。確かにクライムだけってのは、ちっとばかし不安要素だが、あいつだって努力してそれなりに強くなってる。冒険者になっても金級でやってけるくらいには、実力だって身に付けてるぜ」
「……金級は少しはましではあるけど」
「大して強くない。王女の護衛としては不十分」
「そんな言い方してやんな。あいつは孤児出身なのに、城の中でもかなり腕が立つ兵士なんだぜ。姫様のために頑張ってんだから、それは評価してやらなきゃ可哀そうだ」
「そうよ二人とも。クライムはラナーのために努力をしてる。特別な立場に相応しいようにね」
ティアとティナを嗜めるようにガガーランとラキュースは言葉を放つが───
「二人とも、あまりあの小僧を甘やかすような真似はするな。あいつ自身のためにもならん」
イビルアイが二人の言葉を斬り捨てる。
「おいおい、おちびさんよ。俺は、別にクライムを甘やかしてなんていねえぜ?」
「……はぁ。別にここでどうこう言う分には結構だが、小僧の前ではやめておけ。あいつ自身が自分には才能がないと分かりきっている。それなのに頑張ってるなんて褒めても、慰めにもならん」
「イビルアイに賛成」
「イビルアイは今日もいい匂い。くんかくんか」
「おい嗅ぐな! やめろ!! 今良い話をしようとしているんだから!! ……全く。話を戻すぞ。……ラキュース。はっきりと言えばどうだ。あの小僧では王女の護衛には不足だと」
「それは……」
「本当はそう感じたから、第二王子の前で立ち上がってしまった。……もし小僧がガゼフやガガーランぐらいの実力者であれば、別にお前もそんな反応はしなかった。護衛が一人であったとしても、あの実力なら大丈夫だと判断できた。……結局心のどこかで、小僧では力不足だと。思ってしまったんだ」
諭すようなイビルアイの言葉に、ラキュースは再度黙り込んでしまう。そこからもイビルアイの言葉は続く。
「あの小僧の努力は私も認めるが、それが実を結ぶことはない。奴には剣の才能も、魔法の才もない。ガゼフ・ストロノーフどころか、ガガーラン。お前の足元にも及ばない」
「そいつは……そうかもしれねえがよ。けど結ばなくたって努力している事はイビルアイだって分かってんだろ?」
「ああ。だからこそ希望を持たせるような事はしてやるな。才能とはいきなり生えてくるものではない。それは蕾のようなもので、持つものは最初からどこかで片鱗を見せる。平凡に見えても、選ばれた人間は急激に才能を開花させたりするが……あの小僧にはそれがない。人一倍努力をしているのに、金級止まり。努力の量では、ラキュースを上回る。だが咲く蕾がないのだから、開花しない。……私が見る限り、あの小僧はもう強くはならない。奴自身が王女を守るに相応しい戦士になろうとしても、なることはできない……可哀そうだがな」
250年生きた吸血鬼。長い間積み重ねてきた経験と歴史から、それは覆らないとイビルアイは断言するのであった。
アルベド:王宮メイド。ラナーに代わり思考誘導などで暗躍している。ザナックのブレイン役をやったりも
蒼の薔薇:ようやく御登場。ティアとティナが頭の中でごちゃごちゃになりやすい