異形のメイドに見送られ、サトル邸から這うように逃げ出したブレイン。
彼の思考は、恐怖と絶望にだけ染められていた。エ・ランテルの誰もが『黄昏』は別格だと評していたが、あれはそんな領域の話ではない。
ブレインは分からされた。きっとあいつらは人間ではない。人間の形をしているだけであって、全く違う。生物なのかどうかすらも疑わしい。
……そんな連中がブレインも、ブレインが所属する傭兵団も皆殺しにすると宣言した。それを誰も咎めない。野盗を擁護する市民なんていない。むしろ称賛するだろう。流石だと。よくやったと。これこそ英雄だと。
ブレインの首には見えない縄がかけられた。彼の体は絞首台か断頭台に乗せられている。縛られるか、首を落とされるか。どちらにしろ、待っているのは死だけだ。
怖い。死が怖い。自分では抗えない死がすぐ傍まで迫っている事実にブレインは震える。
彼は走った。後ろを何度も振り返り走った。すぐ後ろに『黄昏』がいるのではないかと怯えながら。足が恐怖に震え、何度転びながらも立ち上がり必死の形相で駆けるブレインに何事かと市民は奇異な視線を向けるが、そんな些細でどうでも良い事に彼は構っていられない。
這う這うの体で貧民街に辿り着いたブレインは、ザックの家に上がり込む。どこかに出かけているのか彼はいなかった。……いようがいなかろうが、ブレインにはどっちでも良い。棚から酒を取り出し浴びるように口に含む。とにかくブレインは酔いたかった。酔ってこの恐怖を一時的にでも取り除きたかった。
飲む。呑む。呑んで飲んで呑んで飲んで呑んで飲んで呑んで飲んで呑んで飲んで───
一向に酔えなかった。
「クソがああああ!!!」
酒瓶を地面に叩きつけ、彼は吠える。
「クソ……糞……死にたくねえ……死にたくねえ……」
ブレインは頭を掻きむしる。何度も死線を潜り抜けたと信じていた。けれどそれは死線であり、死ではない。乗り越えられる障害でしかなく、今まさに迫っている死に比べればなんてこともなかった。
「あいつらは……今日野盗調査に出るって言ってた」
ならどれだけ自分の時間に猶予はあるのか。ここから洞窟まで歩いて数時間。ブレインが全力で走れば、1時間もあれば辿り着く。『黄昏』が依頼を受けて、洞窟に行くまでどれだけの時間がかかるか。
「あいつらが動くよりも先に洞窟に行って、全員殺して俺の荷物を処分すれば……駄目だ。『黄昏』は蘇生とやらが出来ると言っていた。そんな証拠隠蔽をすれば、あの怒りに油を───」
ブレインの体が一際強く震える。サトルに首を掴まれて持ち上げられた時、心身にまで恐怖が刷り込まれた。ひょっとすればあの時心臓が止まっており、ここにいる自分は幽霊ではないかと思うほどの恐怖をだ。
そこまで考えたところで、ブレインは気づく。『黄昏』は自分の素性を調べ上げていた。きっと自分以外のメンバーも調べ上げている筈。つまり……ザックの事も割れていて、この隠れ家も割れている。
ブレインはザック宅を出る。とにかく……今は少しでも時間を稼ぎたい。その思いで街を出立。洞窟にある自分の資金などの回収へと向かったが───
「は……はは……そうだよな。あんな化物共なんだから、そうなるよな」
エ・ランテルから隠れ洞窟までブレインは全力で走り抜けた。武技を使い身体能力を向上させ、全速力でだ。心臓が張り裂け、脚が千切れそうになるほどの負荷。ザック宅で2時間ほど潰してしまったが、それでも洞窟までは1時間かかっていない。なのに……そこには何もなかった。『死を撒く剣団』の痕跡が消えたとか、そんなレベルではない。洞窟そのものが消滅していた。
ペタリとブレインは地面に座り込む。『黄昏』があまりにも迅速果断に動いていた。こんな速さで傭兵団を地形諸共消滅させるような怪物連中に、自分は死刑宣告をされたのだと、ブレインは乾いた笑いを発する。
壊れたブレインが見るのは自分が大枚をはたいて購入した刀。それを抜き、じっと考える。自殺すればこの恐怖も一時的に消えるのだろうかと。『黄昏』は蘇生させると宣言したが、蘇生されるまでの間だけでも消えてくれるなら良いのでは。そう……ブレインは思いつめる。
銀色に鈍く輝く刃をどれだけ見つめていたのだろう。ザリッと言う砂利が擦れる音がブレインの後ろからした。
「……アングラウス様。それで首を掻き切ったとしても、何も解決はしません。それはただの逃げです」
そこに立っていたのは……クライムだった。少し険しい顔をしたクライムが、近づきブレインの横に座り込む。
「……どうして……どうしてクライムさんがここに?」
「アイリス様に無理を言って、どこにいるのかを教えて頂いたんです。……アングラウス様とサシで話がしたかったので」
「俺と……話を?」
クライムと話と言われても、ブレインにはピンと来ない。クライムだって『黄昏』の知り合いであれば、自分の素性を知った筈だ。そんな彼が話とは一体───
「───洞窟にいた『死を撒く剣団』は全員その場で処罰。死体は洞窟に埋まっています。性処理係として捕らわれていた女性は、全員ペストーニャ様管理の元、神殿へと預けられました」
「…………………………」
「エ・ランテルに潜んでいた傭兵団団員も、『黄昏』の皆様が持ち帰った証拠品から衛兵に突き出されることが決定しました。後日、彼らの公開処刑が行われます」
……クライムの言葉にブレインは理解した。彼は自分を捕まえに来たのだと。城塞都市の衛兵程度なら斬って逃げられるかもしれないが、クライム相手に抵抗する気など起きない。
「なら俺も……処刑台に送られるんだな」
「……いいえ。『黄昏』の皆様は、アングラウス様の処遇をどうするか私に委ねてくれました」
「───な……に?」
クライムの眼がまっすぐにブレインに向けられる。青年の手にはいつの間にか、鞘付きのブロードソードがあり、いつでも抜けるように手が添えられている。
「私との問答次第で、アングラウス様の未来が決まります」
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『死を撒く剣団』のねぐら跡地でブレインとクライムが出会う数時間前。
クライムは屋敷の監視システムが映し出す、応接室の様子を見て難しい顔をしていた。
ブレインをアイリスに紹介すると約束したクライム。最初はそんなに重大な話になると、彼は考えていなかった。アイリスであれば、自分にそうしてくれたようにブレインに厳しくも優しく学ぶ機会をくれる。そう考えていたのだ。
アイリスが箱庭から出てくるまでの間、それを相談されたサトルもブレインの事を面白そうな御仁だなと笑っていた。サトルは調査報告書の内容を全て暗記しているわけではない。ブレインの事をすっかり忘れていたのだ。
24時間が経ってもアイリスが出てこなかったので、心配したサトルも箱庭に入り二人は戻って来たのだが───なぜかアイリスのビジュアルが大きく変動していた。
ラナーやクライムでも一瞬怯みそうになる強烈な存在感を持っていたアイリスに、クライムはブレインの事を相談。最初は学びたい人がいると伝えたら、「どうしたですか?」とニコニコ笑っていた彼女だが、ブレインの名が出た途端豹変。
ラナーはブレインの「色んなもんを切り捨てて来た」発言から、彼が犯罪にも手をだしていると察していたので特に驚くこともなくアイリスの反応に「やっぱり」としか思わなかったが……クライムとサトルは面食らう。
なぜそんな反応をしたのかをアイリスから説明された事でサトルは激怒。「恥知らずがぁッ!!」と彼は叫んだ。
しかしクライムは……それを信じられなかった。信じられないからこそ応接室から追い出された後も、ブレインを監視して。サトルに詰問されて自分が犯罪者であることを自ら自白するブレインの言動にショックを受けた。
なぜそこまでクライムがショックを受けたのか。それはクライムが受けたブレインへの印象と大きなズレがあったからだ。
【戦士の人柄とは攻撃の手の中に出ます】
少し未来でアイリス自身がラナーに語る理屈。ブレインと手合わせしたクライムは、彼が悪人ではないと思っていたのだ。純粋な太刀筋だと。まっすぐな性格だと。だから初対面ながら、アイリスを紹介しようとクライムは思えたのだ。彼は悪人ではないと。
けれどブレイン自身は自分が犯罪者だと自覚していると言う。そしてアイリスからの死刑宣告。それを見てクライムは一つ決断した。彼が本当に悪なのかどうかを確かめたいと。もし悪であれば……どうしようもない外道なのであれば、リ・エスティーゼ王国の兵士として彼を斬って処罰する。
もしも自分の印象が正しく、彼が本質的には悪ではなく。……この先償える性格なのであれば、その機会を上げられないかをアイリスに直談判しようとも。
そう思いクライムは立ち上がり───
「その判断は辛い思いをするかもしれないから止めなさい」
一緒に監視映像を見ていたラナーがクライムを止めようとする。クライムが直談判したところで、アイリスもサトルも納得はしない。
「ラナー様は私が何をしようとしているのかを、分かっておられるのですか!?」
「ええ。大方アングラウスを助けたい。そんなところでしょう? でも無駄よ。クライムの言葉なら多少は聞いてくれるけども、それでも御二方は止めないわ」
自らの主に無理だと断言され、クライムが言葉に詰まる。彼にだって分かっている。4年もアイリスに手解きを受けたのだ。彼女を納得させるには、相応の理由が必要になることぐらいクライムだって承知している。それでも───諦めないのがクライムがクライムである由縁。
「だとしても……私はアングラウス様が、アイリス様が語る悪ではないと思います。あの方は、確かに身勝手に人を斬ったかもしれません。……きっかけが。切っ掛けさえあれば、変われる。私がアングラウス様と手合わせをして得た印象は、まっすぐな武人です。この印象が正しければ、あの方は更生できるかもしれない。だから抗議します! どうか命だけでも助けられないかと!!」
語るクライムに対し、ラナーは「本当に諦めが悪い……」と少し呆れ……そんな彼だからこそ、きっと自分は彼を愛しているのかも知れないとラナーは自嘲する。
ラナー個人としてはブレインの命なんて、正直毛ほども興味が無い。彼女から見たらブレインはただの良くいる犯罪者でしかない。しかし……クライムが。彼が助けたいと願うならば、ラナーはクライムの味方をする。アイリスやサトルに恩義はある。それを考慮しても、ラナーが一番誰の味方をするのかと言われたら、それはクライムだ。どんな目的を掲げるにしろ、クライムがあってこそのラナー。だから───
「ならアイリス様とサトル様の説得は私がするわ」
「えっ?」
「貴方が説得しても、御二方は納得しない。だから代わりに私が説得をする。だから息巻くのは止めなさい」
ラナーは薄く微笑む。そしてブレインが出て行き、野盗殲滅のために出ようとしていたサトルとアイリスを止めて、彼女は二人を説得しにかかる。と言っても、そんなに難しい説得ではない。クライムと違い、ラナーがブレインの助命をするならサトルはまだしも、アイリスは呑まざるを得ないから。
「アイリス様。サトル様。少しだけ、ご相談があります」
「うん。 どうした? 私たちは今から冒険者組合に行き、『死を撒く剣団』の掃討に行くところなので、手短に済ませてくれると嬉しいんだが……」
「私どもも応接室でのやり取りを拝見させて頂きました。その事でのご相談です。……ブレイン・アングラウス。彼の身柄を私に預けて頂けませんか?」
ブレインの名をラナーが口にすると、サトルが一つ舌打ちをする。アイリスを斬っていた可能性があると抜かした彼を、許す気などサトルには毛頭ない。本当はあの場で首をへし折って殺すつもりだったのだ。
アイリスが止めても手を離すのをサトルは少し悩んだ。アイリスが止めても悩んだのだ。……鈴木悟と言う人間を正しく評価するなら短気の二文字。エリュエンティウのNPCは最初から思考が壊れていると知っていたから、アイリスをペット扱いされても大して気にも留めていなかったが……ブレインは違う。彼は自分の意思でアイリスを斬ると明言したのだ。
ならば是非もない。惨たらしくとまでは言わないが、サトルが大切だと認識する誰かにケチをつけられて、彼は我慢が出来る性格ではない。
とある時間軸ではアインズ・ウール・ゴウンに少しケチをつけられただけで、王国の使者を死者にした。
ある時間軸では、ナザリックに自ら招き入れる作戦にGOサインを出しながらも、実際に踏み入られたら土足で入り込んだと不機嫌になり、ギルドメンバーの名を騙られただけで怒り狂った。
自分が馬鹿にされる分にはサトルは気にも留めないが、自分が心を許した相手が舐められるのは殺すだけでは済まさない。……アイリスが所有物になって以降は精神的に安定しているため、拷問してでも殺すとまではいかないが……それでもアイリスにケチをつけたブレインは、殺しても問題ない犯罪者。……仮にだ。円卓会議の時、アイリスはギルドメンバーを普通の人間と表現し、NPCの事を忘れてしまうような人だと断言した。
もしこの時。発言したのがアイリスで無ければ。ウルベルトの名代でもあるアイリスで無ければ。サトルが好ましいと思う彼女で無ければ。サトルの中で『ユグドラシル』時代のアインズ・ウール・ゴウンが思い出に昇華されていなければ。間違いなくサトルはギルドメンバーにケチをつけられたことに激怒していた。発言主がアイリスで無ければ、怒りに任せてその人物を殺していた。
……それが鈴木悟と言う人間だった。どうしようもなく友人想いで仲間想いで……感情が重い。感情抑制が無ければ、一度熱すると中々引かない。
そんな彼にブレインの身柄を預けて欲しいと願えば、ラナー相手ですら思わず舌打ちしてしまう。しかしそれでもラナーは確信している。サトルは納得しないだろうが、自分がそれを口にする分には
「……ポジティブ。承知しました。ブレインの身柄は、一旦ラナーに預けます」
「!!! アイリス! 何を!!!」
サトルは驚愕する。眉間を揉みながらも、アイリスがラナーの申し出を受け入れたのだ。ブレインに対して死刑宣告をした彼女が、あっさりと引き下がった事に心底驚きの声を上げてしまう。
「……なるほどクライムですか。ならラナーは彼の味方をしますか……一応尋ねておきます。それはラナー自身の助命嘆願……と言う事でよろしいですね?」
「はい」
「あくまでもブレインのみを対象とした助命になりますが、よろしいですね?」
「はい」
「なら彼が野盗の一員である証拠類は戻り次第、貴方に預けます」
「ありがとうございます。ああ、それと。デミウルゴス様にもよろしく言っておいてください」
「流石……流石なのですよ。きっちりそこにも釘を刺してくる辺り、流石としか言えないです」
「ええ、
「ではその手筈で通します。……行きましょうか、オーナー。コキュートスもルプーも」
「えっ?……えっ!?」
アイリスとラナーのやり取りについていけないサトルは両者を交互に見る。あまりにも不可解なやり取りだった。それはサトルだけでなく、コキュートスとルプスレギナも頭にはてなマークを浮かべている。
「ああ、ごめんなさいなのです。みんなには向こうで説明しますので、今は組合にごー・あへっど! なのですよ!!」
困惑する三人の手を引いて、『黄昏』は屋敷を後にして。組合へと行き、依頼を受けた後。『死を撒く剣団』のアジトへと、転移魔法で突撃した。
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剣団のねぐらは速やかに制圧された。突入と同時にアイリスが広範囲<威圧>で団員を行動不可にした後、サトルの絶望のオーラVやコキュートスのフロストバーンで殲滅。性処理用として捕らえられていた女性たちの近くにいた団員は、<完全不可知化>を使ったルプスレギナが近づき撲殺。
全員を1分かからず始末した後、女性たちの忌まわしい記憶を処理して寝かしつけていたアイリスにサトルは疑問を投げかける。
「……アイリス。どうして、ラナー殿下の提案をあんな簡単に受け入れたんだい?」
ささくれたっていたサトルの精神も、被害者である女性達を救出した事で多少納まったのかその声は優しい。……そうでなくとも、サトルがアイリスに対して、プレイ以外で低い声を出すかと言われたら疑問ではあるが。
「……ラナーがブレインの助命嘆願を出しました。その時点で、ラナーとラナーの許可がある人間以外は、彼に手出しが出来なくなりました」
「? ラナー殿下がどうしてブレインの身柄を預かったのかは知らないが……それがどうして手出しが出来なくなる理由に?」
サトルの疑問はもっともだ。ブレインは王国法では死罪確定の犯罪者。それをラナーが庇うと、どうして手出しが出来なくなるのだと。
「……私たちが善悪の基準を持ち出すとナザリックが法になってしまう。だから弱者救済の際、誰かの命を奪うならその地域の法に則る。これが私たちの原則だと覚えていますか?」
「ああ、それは理解している。例外なのはエリュエンティウの都市守護者みたいに、法もへったくれもない『ユグドラシル』絡みのみ。そう覚えてるが……」
それがどうしてブレインの処遇をラナーに預ける理由になったのか、サトルには皆目見当がつかない。
「……王国の法に従えば、ブレインは処刑対象です。ですが、たった一つ。ある場合に於いてのみ、彼は処罰されません。……この国では貴族や王族は特権階級。彼らが白と言えば白になり、黒と言えば黒なのです。上流階級は、仮に人を殺しても、相手が同じ貴族で無ければ罰せられません。上流階級であれば、セリーシアの姉であるツアレニーニャを誘拐同然に攫ったように、法が正当性を保証します。……私たちが『八本指』を秘密裏に処刑して問題ないのも、大義名分としては、
「王族や貴族の特権? ……まさか!!」
「そのまさかです……特権階級の
「釘って……一体何の釘を?」
「……予定通りであれば、彼女はちょうど今頃女王として玉座についていた頃でしょう。そうであれば、王の代替わりに伴い恩赦が出されるか……ラナーが優しい女王の側面から死刑廃止に動く事も出来た。そうなってないのは、一体誰のせいなのか? だから義兄さんの名を出して、それを問うたのです」
つまるところラナーはこう言いたいのだ。人を巻き込んで好き勝手抜かしてんじゃねえぞ。お前らの監督不行届のせいで、こっちは精神的に酷い目にあってるんだぞ、だ。
酷い挑発だが、彼女はアイリスであればそれをきちんと読み取り、考慮すると読んでいる。
「……どうしてラナー殿下はそんな事を?」
「彼女は私たちの絶対的な味方ではありません。あくまでも、協力者。彼女が真に味方をするのはこの世でたった一人、クライムだけです。恐らくクライムが、ブレインに訳を問い質したいと願ったのでしょう。ならば彼女は動く。……こうなった時点で剣団の他のメンバーはまだしも、ブレインをどうするのかは、クライムの手に委ねられました」
納得が行っていないのか、サトルは黙り込む。彼はブレインを殺す気でいたのだ。何があっても、絶対に。なのにラナーが保護した事で、その目論見が崩れるなど───
「もう手出しは……できないのか!? ブレイン・アングラウスは許されるのか!! 多くを殺したのに!!!」
「ポジティブ。ですがネガティブでもあります。恐らくブレインとの問答次第では、クライムは彼を斬ります。あくまでも彼の命をどうするかは、クライムの手に委ねられただけ。その結果次第では処刑されます。なので……クライム次第となりました」
オーナーには残念かもしれませんが。
その言葉を受けて……自分の手で憎き悪党を殺せない事に苛立つサトルは洞窟に八つ当たりした。その結果がブレインの見た、洞窟消滅の真相だった。