誤字脱字報告いつも本当にありがとうございます。この機能超便利
転移異変から3日後。
ナザリック地下大墳墓9階層ロイヤルスイート。ギルドメンバー───今は彼らが創造した
その中の一つ、ギルド長用の執務室で一人の白い影が休む暇もなく働き続けていた。
アイリスである。
ナザリックが物質化した事で、ゲーム的な自動で色々と処理してくれていた便利機能の大半が失われてしまっており、アイリスを含む僕達は拠点運用の業務を余儀なくされていた。
無論彼らにあくせくと仕事する事になど、何の不満も存在しない。
アインズ・ウール・ゴウンの僕として創造され、ナザリックに所属し至高の御方に仕える事に至上の使命を見出す彼らにとって、ナザリックにひいては唯一残られたモモンガの手足となる事は当然だからだ。
それはアイリスとて同じだ。
今は死の支配者の体となってしまったモモンガ。彼がリアル時代の鈴木悟の頃から業務をサポートし、『ユグドラシル』でも資金調達の手伝いをし続けて来たのだ。
例え処理能力が大幅に低下しようとも、アイリスがやる事は変わらない。オーナーであるモモンガのためにこの身を捧げ、ウルベルトから託された想いを成し遂げる。そこは他の僕達とさほど変わりはないのだ。
「失礼します。現ナザリック内の備品在庫のリストが出来たので、お持ち致しました」
「どうぞです」
コンコンと扉がノックされ、アルベドの声が扉越しにアイリスへと届く。それを受け、アイリスは入出許可を出した。
「あら、あなただけなのアイリス。てっきりモモンガ様も一緒だと…………」
「オーナーは私室でお休みを頂いています。オーナーに根を詰めさせず、全力を以って補助をする。それがギルド長専属秘書としてのお役目なのです」
「ええ、その通りよアイリス!モモンガ様は至高の御方であり、我らが偉大なる主人!この身を捧げ尽くすべき存在であり、僕は肉片一つに至るまで使い潰してでも責務を全うするもの。あなたが言うように、モモンガ様のお手を煩わせては絶対にならないわ!」
アイリスの回答が大変気に入ったのか、アルベドは頬を紅潮させ捲し立てる。アイリスは温度差を感じた。
「……こほん。気を取り直して…………リストですが、頂いても構わないですか?」
「ええ、どうぞ。かなり量が多くて……本当は私の方である程度絞りたかったのだけれども、他にも仕事があるから出来なかったのよ。あなたに申し訳ないわ……」
「仕方ないです。アイリスと違い、アルベドは守護者統括として責務がたくさんあるです。今はオーナーの業務補助だけのアイリスは、とても楽させて頂いてるです。ですから元気を出してください!アルベドが落ち込んでいたりしたら、オーナーも悲しんでしまいますよ?」
「アイリス…………あなたのお気遣い、ありがたく頂くわ」
何やら感じ入っているアルベドから書類を貰い、アイリスは高速で目を通していく。1枚1枚じっくりとは読まず、画像として脳に取り込み4つに分割した思考で取り込んでいく。
バラバラバラと捲りまくり、数分ほど経ったところでパタンとアイリスは書類を閉じる。
「大体は把握出来たです。今の物資量なら当分の間は問題ないと、アイリスは判断します」
「流石ね、アイリス。もう読み終わるなんて」
「ネガティブ。アルベドが最初に纏めるさいに、分かりやすく理路整然と並べててくれたおかげですよ?それにアイリスを通さずとも、アルベドなら纏めた段階で把握してたはずです。褒めても何も出ませんです」
「褒めたなんて、そんな。それを言うなら私の方もよ?結局抜粋出来てない時点で、あなたに賞賛を頂けるほどの手腕じゃないのだから……」
あらあらうふふとアイリスとアルベドはお喋りする。片やナザリック守護者統括として全責任を負う僕であり、片方は専属秘書として時にはモモンガの名代としてナザリック全域を運営する僕である。
お互いにナザリック運営の悩みを、打ち明けられる彼女らの仲は非常に良好な関係だ。
立場上の関係もあるが、元々僕の仲は創造主───つまりはギルドメンバーの仲の良さがある程度反映される。フレーバーテキストとしての設定で、仲が悪いと記述されていれば話は別だがそれ以外では基本はギルメンの友好関係だ。
アイリス側は彼女自身が情報防壁で、人格を守り切った結果さほど影響はないが、アルベドの方はアイリスの創造主であるモモンガ───ギルド長として本人はあまり気づいていなかったが、多数のメンバーからなんだかんだ思われていた、彼の僕として産み出されているアイリスに一切の悪感情はもっていない。
加えてアイリス当人は超劣化したとして嘆いているが、それでも統括守護者であるアルベドや、ナザリック1の知恵者であるデミウルゴスに匹敵───事務作業においては凌駕するアイリスの能力に、アルベドは非常に高い好感度を持っていた。
「あなたがモモンガ様の秘書で本当によかったわ…………アイリスが人間種だなんて信じられないくらい」
「…………アルベドは人間がお嫌いですか?まるで人間が悪いかのようにいいますが」
「ち、違うのよアイリス!誤解しないで!あなたが悪いなんて思ってもいないわ!本当よ!!」
「ふふ、冗談ですよアルベド……ですがアイリスはオーナーに、人間としてお創りになって頂いた身。アイリスとしては人間であるなら、さほどの違いはないと思っているのですが……」
「私の発言で傷ついたなら、謝罪するわ。だからあなたと、他の人間が一緒だなんて自分を卑下するのは止めて頂戴。今の発言を聞けばきっとモモンガ様も悲しまれるし、他の僕たちも心を痛めるわ」
本気で心配しているのか、いつになくしゅんとした顔をアルベドはしている。
それを見て良い機会だと思い、アイリスは問いかける事にした。
「アルベドは人間…………ここで言うのはナザリックの外にいる人間です。彼らの事をどう思っていますか?」
「存在してはいけない浅ましき下等生物。ウロチョロと足元を這いまわるしか能のない虫けらども。脆弱な癖に、自分たちに生きていい権利が少しでもあると、勘違いしている愚図どもよ」
「なるほどです…………では同じ人間種である、アイリスの事はどう思ってるですか?」
「…………本当にごめんなさいアイリス。私はあなたの事を怒らせてしまったのね。……あなたはモモンガ様がこのナザリックにおいて、最後の僕として手ずからお創りになられた存在。至高の御方々がお隠れになられ、たった一人でこのナザリックを維持しようとしていた時に、限界を迎えられたモモンガ様が自らの秘書として創造された特別な僕。…………ナザリックにいる者は皆、あなたがモモンガ様を支え旅に同行し、ナザリック維持のために心身を賭していたのを理解しているわ。…………それなのに下劣な下等生物どもと比べられるような真似をすれば、あなたが怒るのも無理はないわ」
「あー、そんな感じの認識になってるですか…………大丈夫ですよアルベド。アイリスは怒ってなんかいません。ただアイリスとアルベドの、人間に対する認識で食い違いがあったので、聞いてみたかっただけです。ほらほらそんなにしょんぼりしてたら、美人さんな顔が台無しです」
「本当に怒ってないの?」
「ほんとですとも!アイリスがそんなことでアルベドに怒るわけないです。のっとです」
それからお詫びに少し仕事を手伝うわとアルベドが申し出たので、アイリスは二人で事務作業を行った。
一人より二人。異常な速度で業務を片付けていく。
そうして少し時間が経っただろうか。
もう一度扉がノックされ、新たな人物が執務室へと入って来た。
「お仕事中のところ、失礼いたしますアイリス様。モモンガ様が御呼びです」
「あらナーベラル、どうしたの?モモンガ様がアイリスを御呼びだなんて」
部屋に入って来たのはプレアデスの一人、ナーベラル・ガンマであった。
「アルベド様もこちらにおられましたか。…………モモンガ様は外出なされるようで、近衛騎士をお連れ成されるよう進言したところ拒否されまして…………供はアイリス様に任されると」
「ラージャです。ですがまだアイリスの分の仕事が残ってるです。こちらが終わり次第合流すると、オーナーにお伝えくださいです」
「駄目よアイリス。至高の御方の命は全てにおいて優先されるわ。あとは私がやっておくから、あなたは早くモモンガ様のところへ行ってきなさい」
「ポジティブ。ですが本当に良いのですか?アルベドの負担が増すのは、アイリスにとってはネガティブなのですが…………」
「お詫びに手伝うと申し出たのはこちらの方よ。モモンガ様の護衛しかと任せたわ」
「ありがとです、アルベド。…………それでナーベ、オーナーはどちらでお待ちですか」
「私室にてお待ちです。どうかお気をつけて」
「行ってきますです!帰ったらナーベも含めて3人でお茶会でもしようです!それではアデュー」
執務室から元気一杯にアイリスが出ていくのを、ナーベラルとアルベドは二人で見送る。二人の目に宿るのは、このナザリックにおける大切な仲間への親愛の情だ。
「アイリス様はとても活発で、そしてお優しいですね。私までお誘いになられるのですから」
「モモンガ様の名代まで勤められるのだから、もっと傲慢に振舞っても良いのにそんなことはせず、私たちと同じ目線で語らい優しさで応対する。モモンガ様への忠義は忘れず、身を粉として精進する。あれこそ私たちが目指すべき極地。お互いにアイリスの在り方を目指して努力するしかないわね、ナーベラル」
「はい。あの笑顔に恥じぬようあるべきですね」
物質化したナザリックにおけるアイリスの評価は非常に高い。それは『ユグドラシル』時代の命令コマンドが無ければ動けなかった頃の記憶が、拠点NPC達にはある程度補完された形で残っているからだ。
モモンガが唯一お残りになられたのは全NPCの知っている事だが、『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』で宝物庫へと直接転移するため、その姿を長い間彼らも見ることは出来なかった。
41人で行っていたナザリックの維持が困難を極める事は、設定で馬鹿と表記されているようなNPCでも簡単に想像がつく。
最後までこのナザリックへと寄り添ってくれた偉大な死の支配者。姿を御見せにはならず、宝物庫へと足を伸ばすだけの日々に心が擦り減っていたのは、何もモモンガだけではないのだ。NPC達もまた忸怩たる思いで、同じ時間が繰り返されるのを許容するしかなかった。
ある時を境に大きく状況は変わった。モモンガが宝物庫だけでなく、ナザリック内の色々な場所にお姿を見せるようになったのだ。
時には大森林を散策する。時には氷河。時には溶岩地帯。彼らの主は楽しそうにナザリック内のあらゆる場所を訪れた。
彼らはすぐに気づいた。主の横に見た事のない僕がいることに。その僕がモモンガ様直々の僕なのだとすぐさま理解した。
至高の御方々が立ち去られるたびに、どこかモモンガが寂しそうにしていたのをNPC達は知っている。
かつて41人が揃い、馬鹿話しをしながらロイヤルスイート内の至る所で行われたトンチキイベントで、自分たちの創造主とモモンガがとても楽しそうにしていたのをNPC達は記憶している。
モモンガ以外立ち去った後は、もう決して見ることは出来ないと諦めていた光景。だが違ったのだ。あの頃のそれとは違うが、ロイヤルスイートの彫刻などを嬉しそうに、僕へと解説していた姿にただ僕たちは安堵した。我らが残られた主に笑顔が戻ったのだと。
その僕とモモンガの会話から、人間の女の子を模した僕がモモンガと共に、ナザリック外に同行している事に彼らは驚愕した。自分たちには許されなかった、主との共同作業を羨ましく思わなかったわけではない。それでも御方々なき今、モモンガの安全を確保できる僕が同行している事に、NPC達は安心を覚えたのだ。
異形種が前提のアインズ・ウール・ゴウンにおいて、たった二人しかいない人間種の一人。
アイリス・リンウッド。モモンガが作成し、『ユグドラシル』時代には唯一『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の装着まで許された自立型AIが組み込まれたNPC。
NPC達はまだ知らないが、現在のナザリックにおいて個としての最強の名はルベドからアイリスへと移っている。
NPC達は知る由もないが、アイリスはギルドメンバーの一人であるウルベルトとモモンガの友情の証そのものであり、アインズ・ウール・ゴウンを、ひいてはモモンガが残し続けた現ナザリックの象徴とも呼べる存在だ。
モモンガから全幅の信頼を寄せられ、同時にモモンガに己をゲーム設定などに関係なく捧げている彼女は、紛れもなく現ナザリックにおいて最上位の僕として認知されていた。
アイリス:モモンガが維持したナザリックのNPCなんだから当然凄く好き。ただナザリック以外に対するスタンスの違いなどで温度差は感じてる模様
NPC達:モモンガ様謹製で主が辛い時期に心身を捧げ尽くした僕の鏡。守護者達と同じレベル100らしい高能力なのもあり全体的に高評価。一部からは妹のように扱われているとかなんとか
大体こんな感じの相思相愛