モモンガ様リスタート   作:リセット

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ブレインリスタート

 砦から人を救出することで、贖罪の道を歩ける事を証明しろと師匠であるクライムにブレインは諭された。それにやるさと答えたはいいが、砦の傍に移動して彼は少し困った。

 

 元々竜王国が所持していた砦は、そう簡単に侵入されないように強固な造りとなっている。門は固く締まり、壁は高く昇れるような高さではない。

 

 第三位階以上の魔法詠唱者であれば、飛行魔法を使い易々と砦内に入れるであろうが、生憎とブレインは純戦士。そんな方法は所持していない。

 

 幸いにもビーストマンは見張りを立てていないのか、砦にはあっさりと近づけたが……さてどうしたものかとブレインは悩む。

 

 どうやって砦に侵入するのかと、ブレインが考えていたら───

 

「行きましょう」

 

 ブレインのベルトを掴んだクライムは跳躍。人を一人抱えたまま、20mほど垂直に飛び上がった。自分の師匠になったクライムのとんでもない身体能力に、ブレインは目を見張る。技も大概であったが、純粋な肉体の強さも飛びぬけている。

 

「ここからはブレイン一人でどうにかしてください。これ以上私が手を貸すと、『黄昏』も納得はされません」

「承知しました。クライム師匠はその間、どちらに?」

「私はビーストマンが捕まっている人間を人質にしないかを、隠れて監視します。私の武技であれば、隠れたままでも妨害は可能なので」

「姿を見せずとも! ……なるほど」

 

 つまりこれは本格的に試験なのだ。踏み絵と言ってもいいだろう。ブレインは試されている。それに彼は納得する。本来であれば処刑しかなかった道に、可能性を示そうとしてくれているのだ。

 

 そうしてクライムと別れたブレインは一人、ビーストマンに占領された砦を探索する。探索と言っても、どこに竜王国の民が捕らわれているかは調べがついている。幸いにもビーストマンには侵入者への対策として、罠などを仕掛ける文化はないのか妨害されることはなかった、が。彼らは種族特性として気配察知を取得しており、鼻も良い。

 

 クライムは砦の城壁上に陣取り、上手く隠れているようだが……ブレインはその手の技能は習得していない。

 

 すぐにビーストマンに囲まれ、ブレインは孤軍奮闘を演じることになった。ビーストマンは亜人種らしく、人間に比べると皮膚は硬く、筋肉は強靭で、鋭い爪に鋭い牙。高い身体能力とレベルはブレインより低いが、種族特性の関係上強敵だ。

 

 しかし……それでもブレインは英雄一歩手前の人類上位。レベル差による補正値などから並のビーストマンは簡単に寄せ付けない。

 

 迂闊に飛び込んできた獅子頭のビーストマンに一閃。一太刀で首を飛ばす。返す刀で後ろから襲い掛かる熊頭を武技<斬撃>で唐竹割りに。

 

 これならどうにかなるかとブレインが冷静に状況を判断していたところに……そいつはやってきた。スラっとした体躯に、細い目の狼男(ウルフマン)

 

「お前らだけでは無理だな。そいつは強い」

 

 余裕そうな態度の狼男にブレインは刀を持つ手に力を籠め直す。彼は確信した。この狼男こそがクライムの言っていた難度75のビーストマンなのだと。

 

「はぁ……最近は雑魚ばかりで退屈していたところだ。お前は簡単に壊れてくれるなよ」

「抜かせ」

 

 狼男の言葉に短くブレインは返答する。それ以上のやり取りは必要がない。ここからは周りを取り囲んでいるビーストマンに対処しつつ、どうやって目の前の強者に打ち勝つかだけだ。それをしなければ、ここに囚われた弱者(人間)を助けられはしない。

 

 狼男が動く。その早さは疾風の如く。人間でその速度を叩きだせるのは、今は亡きクレマンティーヌくらいであろう速度。しかし迎え撃つは最速の太刀を求めて修練した剣鬼。

 

 彼は既に武技<領域>を発動している。自身の知覚能力が向上する。自分を中心に半径3mを識別する円。小麦の一粒すら把握し、それのみを両断させられるだけの精密動作性すら獲得するブレイン独自の<武技>だ。

 

 例えどれだけ早かろうが───クライムレベルが相手だと無理だが───ブレインの五感は捉えて見せる。それに一撃必殺の<神閃>を組み合わせた秘剣・虎落笛。相手が上位のビーストマンであろうとも、頸部を断てる自信がある。

 

 狼男が領域内に侵入する。そして放たれる神閃。その一太刀は……硬い感触に遮られる。しまったとブレインが思ったのも束の間。衝撃。彼の体が吹き飛ぶ。

 

「っぐ!!」

 

 すぐに体勢を整え直し、近くのビーストマンを上半身と下半身に分断。クライムとの手合わせが役に立った瞬間だった。

 

「今のは……武技か」

「ご明察。お前の攻撃は面白いな。首が斬られると思ったぞ」

 

 ブレインの太刀は確かに当たった。しかしアダマンタイトの塊にでも叩きつけたかのような衝撃がブレインの手には返って来た。

 

 狼男の首を見れば、少しだけ切れている。だが少しだけであり、断ち切ったわけではない。ビーストマンらしく耐久性に任せて防いだわけではない。それだけであれば、僅かにレベルが高いブレインなら補正値の関係で首を落とせた。

 

 ……ブレインが考察し、狼男が肯定したようにそれは武技の成果だった。<硬化>。それが狼男の使っている武技だ。名前の通り、肉体強度を引き上げる武技。それによりただでさえ鉄の如き強度を誇っていた狼男の肉体強度は、アダマンタイトとまでは行かないまでも、オリハルコン並みの強度に変貌している。

 

 つまりこの狼男は全身にオリハルコンの鎧を着込んでいるのと同じ硬さを持つのだ。その上で、クレマンティーヌの如き速力も種族特性で保持している。

 

 ……1対1ならまだブレインに勝ち目はある。だが……まだまだ他のビーストマンも大量に残っている中で、単独での戦い。真なる死闘が幕を開けた。

 

 

 

    ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 腕は……まだ動く。足は……まだ動く。

 

 ブレインは何度も確かめる。自分の体はまだ動けると。

 

 足元にはビーストマンの死体。ライオンや虎と言った肉食獣の形をした、二足歩行の亜人達。ブレインは10まで斬って捨てたのは覚えている。そこからは何体仕留めたかなど数えていない。

 

 それでも数は見るからに減ってきている。かなりの数を斬ったから怯えて逃げ出せばいいものを、指揮官である狼男がまだ生きているからか、士気はまだまだ高い。

 

 それに対して、自分の生命力が下がりつつあるのはブレインも自覚していた。クライムに諭される前の自分であれば、救出など忘れて逃げ出していただろう。しかし約束したのだ。助けると。約束したのだ、贖罪の道を歩むと。

 

 ならば引く訳にはいかない。引けば終わり。引いたら駄目なのだ。

 

 ───ここで踏ん張るしかねえ。俺が折れたら……この砦に捕まってる連中はどうなる? ……なるほどな。これがクライム師匠の言っていた自分が死ねば終わりってやつか

 

 けれど、踏ん張ろうにもこのまま消耗戦をしかければ、いずれブレインが敗北する。故に───

 

 ───賭けに出る。ずるずると戦えば敗北は必至。……死中に活あり、だったか。昔俺に剣術を教えてくれた奴が、そんな事を言ってたか

 

 こうぅぉ───

 

 深呼吸を一つ。二つ。全身に活を入れ直す。見据えるのは大将首一つのみ。それ以外は狙わない。

 

 ───こいつらの士気を担ってるのは、間違いなくあの狼頭だ。あいつさえ仕留められれば……残ってる連中の心を折れる。ならば落とす首は一つだけ。

 

<能力向上>

 

 武技によりブレインの身体能力が上がる。

 

<領域>

 

 能力向上に加えて領域の発動。ブレインの体にかかる負荷が増す。武技を発動するには集中力を消耗する。この総量はレベルを上げる等で増やすことが出来る。

 

 そしてブレインにはこの集中力の容量を増やすタレントを備え持つ。彼のタレント無くして、能力向上と領域の同時発動は叶わないだろう。

 

 居合の構えを取ったブレインを警戒してか、狼男の動きが止まる。

 

「その構え……俺の首を裂いた技か。……いいだろう。乗ってやろう! その技では俺に通じぬ事を、再度見せてやる!」

 

 狼男が周囲のビーストマンに目配せし、クラウチングスタートの構えを取る。指揮官である狼男もここで決めるつもりだった。

 

 予想以上に強敵であるブレインの相手をこれ以上すれば、損害が大きすぎると判断したのだ。

 

 両者の間に緊迫した空気が張り詰める。限界まで張り詰めていった空気がピンと弾ける……前にブレインの領域が後方から近づく虎頭と犬頭のビーストマンを捉える。

 

 そちらに意識を割こうとした時点で、狼男の脚が僅かに動く。ブレインはここで気付く。先ほどの目配せは手を出すなではなく、タイミングを合わせて挟撃しろと言う意味だと。

 

 先に近づく虎頭に対処すれば、狼男への対処が遅れる。この状況で危険なのは狼男の方だ。だから迎撃するなら指揮官でもあるそちらの方。その他のビーストマンの攻撃は全て無視する。だがまともに受ければ肉体が耐えられるかは分からない。だから───

 

<能力超向上>

 

 ステータスを上げる。物理防御も上がり指揮官である狼男以外の攻撃には耐えられるようにはなった。だがその代償は大きい。

 

 ───こ……の状態で……<神閃>は使えるか?

 

 ブレインの集中力でも3つの武技を使ったまま、<神閃>に耐えられるかは賭けだった。今までこれだけの武技を同時に使ったことなどない。しかも───

 

 ───<神閃>だけではあの狼男の硬さを抜けない。更に武技を重ねなければ……殺し切れない!!

 

 極限まで引き延ばされた時間の中、ブレインが思い浮かべるのは絶対的な恐怖。自分の首を掴んだあの灼眼の男。あの男を前にした時に比べれば、今は何と穏やかなのだろうかと。

 

 絶体絶命に近い状況の中、ブレインはいやに冷静だった。思考がさえわたっていると言っても良い。領域に侵入したビーストマン達の爪が体に突き刺さる。チェーンメイルを服の下に着ているが、それを突き破り筋肉に刺さる。

 

 内臓には届いていない。それでも血は出る。痛みはある。だが体を動かすのに必要な筋肉は避けるように動いた。

 

 そう……手は動く。足は動く。痛みはある。逃げ出したいほどの痛み。それでも……冷静にブレインの思考は突撃を仕掛ける狼男だけに向けられる。

 

 サトルの絶対的な殺気に……アイリスの放つ威圧に比べれば、何てことの無い痛みに思考は鈍らない。左眼に何かが刺さり見えなくなった。だが領域を発動している限り、敵を見失わない。

 

 手は腰の刀に添えられる。何度も何度も繰り返した動作。強さだけを追い求めた強さ。それを超える時が来たのだと、ブレインは悟っていた。強さを求めながらも、今までは自分の肉体を限界まで追い込んだ気になりながらも、本当の限界を超えようとはしていなかった。

 

 今だけは、これからは、自分のためではなく。誰かのために。

 

<神閃>

 

 刀が鞘から解き放たれる。それはブレインが独力で辿り着いた神速の斬撃。しかしこれだけでは狼男の首は取れない。

 

<四光連斬>

 

 武技が重ねられる。現れるのは4つの同時斬撃。御前試合でガゼフが使った武技。ブレインはこの武技を凄まじい技だと思った。彼は純粋故に、勝ちたい敵の技に憧れこれの練習も積み重ねた。しかし自分を打ち負かした宿敵の技ゆえに、悔しさから実戦で使う事はなかった武技。

 

 しかしそんなプライドは過去に。今の自分は自分のためだけに技を振るうのではない。このビーストマン達の後ろにいる人を救うために。だから拘りは捨てる。

 

 <四光連斬>は肉体負荷が高すぎることから、ガゼフでも迂闊には使わない技だ。全ての斬撃を狙った箇所には彼でも当てられない。だから周囲を囲まれた時に、誰でもいいから当たれと放つ周囲攻撃技。

 

 それを<領域>と組み合わせる事で、ブレインは単体に対する一撃必殺に昇華する。超知覚がばらけそうになる斬撃を纏め上げる。

 

 <神閃>の同時4連撃。この瞬間だけは……ブレインは英雄の領域に到達する。

 

 飛び込んだ狼男の首は一太刀であれば防げたかもしれない。だが……能力向上に加えて能力超向上まで発動した<神閃>4回は耐えきれない。

 

 かぁああんンッッッ……

 

 金属を断ち切ったような音。<硬化>の武技を抜き、ブレインの太刀が狼男の頚部を断つ。何が起こったのか分からないと言った顔をした指揮官の頭が地面に落ちる。

 

 その光景に周りのビーストマンの動きが止まる。呆けた顔をする。その間にブレインは動く。自分の領域内にいたビーストマンの首を落とす。

 

「アッ………………」

「うそ……だろ。お(かしら)が……」

 

 自分達の中で一番強い狼男の死により、動揺が広がる。今までブレイン相手に戦えていたのは、狼男あってこそ。その前提が崩れた今───

 

「次は……どいつだ。俺はまだ……戦えるぞ!!」

 

 ブレインがかかってこいと吠える。眼が潰れた人間が、未だに闘志を燃やしていると理解したビーストマン達は───

 

「に、逃げろぉおおお!!!!!」

「本隊を呼べぇ!!!」

 

 これ以上戦えば、今度は自分達も死ぬ。その恐怖に呑まれた彼らは一目散に砦から逃げ出していく。全員の後ろ姿が見えなくなったところで……ブレインは膝をついた。

 

「…………………………」

 

 彼は言葉も発せない。武技の同時5つ運用。それも負荷の高いものばかり。ブレインと言う人間の限界を超えた挙動により、彼の体は限界を迎えていた。眼から血の涙が零れ、鼻からは血が垂れる。脳は負荷により頭痛が止まらない。背筋は震え、吐き気が収まらない。心臓は壊れたのかその鼓動を徐々に弱くしている。

 

 あと数分すれば……ブレインは死ぬだろう。自ら限界を超えた負荷により。その事にブレインは何の後悔もなかった。自分の肉体を慮っては見られない領域に踏み込めた。自力で壁を踏み越えたのだ。

 

 ───クライム師匠の言う通りだな。俺は強くなろうとか、考えて……結局自分可愛さに何も出来ていなかった。……今日初めて自分を捨てて……そこに辿り着けるとはな……愚かだった。本当に、俺は愚かだった

 

 一人だけではたどり着けない強さに束の間触れられた。その事実に……ブレインは満足していた。なんならこのまま死んだとしても……納得できるくらいには満足していた。

 

 しかし……監視下で面倒を見ると言った彼がこのまま死なせるわけがない。

 

「……見事でした。ブレインはやり遂げました。……ポーションをかけますよ」

 

 彼の戦いを見守っていたクライムが現れ、頭から薬剤をかける。それは主であるラナーが持っていた、ナザリック産の神器級品質のポーションだ。

 

 一瞬きの間にブレインの傷が治っていく。初めて見る超回復を齎す桁違いの効能を持つポーションに、ブレインが眼を見張る。

 

「クライム師匠……俺は……これで良かったのでしょうか?」

「少なくとも、この砦は落としました。それがブレインの成果です」

「……そうか……そうなのか……俺は……やったんだな…………」

 

 死闘を生き延びたことか。それとも師匠であるクライムに褒められたからか。ブレインの目尻から液体が漏れる。それを見たクライムは僅かに微笑んだ後───

 

「泣いてる場合ではありません。ここに囚われていた人たちは、まだ自分達がビーストマンに殺されるかもしれないと、恐怖に震えているかもしれません。すぐに助けに行きましょう」

「……はい! ついていきます、クライム師匠!!」

 

 師弟となった二人は、砦の牢屋を目指す。クライムの事を師匠と慕うブレイン。その姿を、砦の城壁上から見る白い人影があった。

 

「なるほど。なるほど。そういう可能性も……あったですか」

 

 アイリスが城壁に腰掛けながら呟く。二人の姿は建物の内に隠れて見えなくなるが、彼女の眼は二人をきっちりと捉えている。

 

()()にしろ、この世界にしろ……ブレイン・アングラウスはクライムと言う人間に酷く影響されるのですか。しかし影響されれば、まっすぐな武人になれる……なるほど……そもそも精神面が育ってなかったからこその、傭兵団に身を置く行為。……曇っていたのはアイリスの眼でしたか。これは……アイリスの失態なのです。藍より出でて藍より青し。更生が可能であるのに、それを見落とすとは……アイリスの眼もまだまだなのです。クライムの方が、よほど冷静に物事を見ていましたか……見事なのです」

 

 アイリスが見るのはここにいる二人だけではない。二人に重なって見える、本当の世界。一番可能性が高い場所。可能性を見れる彼女だからこそ……それを見なければならないのに、見落としていた。

 

「そうなるとクレマンティーヌも……なるほど。しかし彼女の動向は、法国が決める事。ブレインはラナーの助命があったからこそ。ままならないものなのです。いっそのこと、ウロボロスに傾城傾国を乗せて世界中の人間の記憶を書き換えてしまえば……駄目ですね。武力は肯定したとしても……完全洗脳まで肯定しては。やろうと思えば出来てしまいますが……それは分を超えてしまう。死よりも悍ましい結果になる。何でも出来るは何も出来ない。完全な装置に徹すればあるいは……駄目ですね。結局アイリスの意思が反映されますか」

 

 自分の存在は果たして良いのか悪いのか。アイリス自身にも判然としない。だからこそ───

 

「今回の一件はある意味最良だったのかもしれませんです。アイリスがブレインの処遇を決めていたら、更生出来る人物ですら……何があっても処刑する世界になっていた。間違いなくラナー政権に対する反逆者は出てくる……それの処分も処刑以外に無くなっていた。彼らとの対話の機会すら失う可能性が……やはり最終はラナーと話し合って、民主主義に……無理ですね。他種族までいる以上、纏まるわけがない。ある程度教育が進むまでは、恐怖政治で私達を恨ませ頭を抑えて、わだかまりが消えるまで時間を置くしか……」

 

 出来る限り取りこぼしの少ない世界。それに必要なあれこれにアイリスが頭を割く作業に終始していると───彼女の知覚がとある波動を捉える。

 

「オーナー!!? 何を!!」

 

 世界級エネミーの波動を捉えたアイリスが慌てて立ち上がる。遥か彼方……エ・ランテルに出現したその力に……彼女はすぐさま転移した。

 

 

 

    ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 ブレインとクライムを監視していたナザリックの一同。ラナーだけは自室への謹慎となりいないが、それ以外は食堂に集まって動向を逐一監視していた。

 

「うーん、ちょっと温い結末っすけど。……これはこれで仕方ないのかもね。本当に甘い坊や。昔の私なら、ここで乗り込んでひっくり返して遊んで上げたけれど、それは獣王メコン川様に申し訳が立たないわね」

「おや? 久しぶりにルプスレギナの悪女モードを見ましたわん」

「あらいやだ。悪女モードなんて酷い事を言いますね、ペストーニャ様は。本当の私はこっち。っす口調は演技なんですよ? ペストーニャ様のわん口調と同じです」

「キャラ付けとしては分かりやすさ優先ですわん」

 

 監視映像の中では最終的にブレインが打ち勝ち、彼はクライムと共に牢屋から人間を救出している。

 

 ナザリックのしもべ達は最終的に根性を見せたブレインに対して、そこまで嫌悪感はないのか大人しく見守っていた。

 

 ……ビーストマンは元々、ナザリックがいずれ討伐に出る予定だった。だからビーストマンが殺された分には、別に何も思っていない。あの亜人達は自分達の意思で、竜王国に攻め込んでいたのだ。ナザリックが掲げるのは、あくまでも弱者救済であって、博愛主義ではない。あの亜人達が死んだ分には、何も思わない。反撃されて殺されたくなければ、最初から攻め入るなとすら考えている。

 

「見事ダ。マサカアノ男ニ、コレダケノ武人トシテノ資質ガアルトハ……我ガ眼モ存外役ニ立タンナ」

 

 コキュートスとしては、今後今日のように誰かを守るために刀を振るうのであれば……ブレインには情状酌量の余地があると考えている。もしそれを忘れたならば……改めて斬りにいくつもりではあったが。

 

 メイド達はちょっと白けた感じではあったが……まぁ、別にいいかと放任している。これで許せないとあれば、アイリス様が何かするだろうと信頼していた。

 

 ペストーニャは人間の可能性を見せたブレインに感心している。確かにこれまでの罪はあるものの、それをクライムの監視下で償おうとするのであれば赦すのが彼女の在り方だ。

 

 ルプスレギナはここで飛び込んで、「やっぱり死刑っす!」とやったら面白いかなと考えているが、それをするとアイリスに後から凄く怒られそうなので黙認することにした。

 

 エクレアもペストーニャの意見に近いのか、「よく頑張りましたね」とフリッパーを叩いている。

 

 元々邪悪よりなナザリックのしもべ達だが、アイリスとの円卓会議以降ナザリック外への嫌悪感も薄れており割と和気あいあいとした空気が食堂に流れている。

 

 流石に喜んでブレインを迎え入れると言うほどではないが……アイリスが面倒を見たクライムがそう判断するのであれば、任せてもよいかと───

 

「ふざけるなよ………………………………」

 

 ナザリックの面々の和気あいあいとした空気が冷える。サトルの底冷えする声に場が冷めきってしまう。

 

 他の面々は納得したかもしれない。けれど。しかし……しかし、しかし、しかししかししかし……彼だけは納得なんてしていない。不満しかない。不満なんてものでは収まらない。

 

「なんでだよ……なんであいつは許されている……そいつは犯罪者だぞ。ブレイン・アングラウスは犯罪者なんだぞ? ここで見逃して、お前が鍛えて力をつけたら、また誰かを斬るかもしれないんだぞ? 屑は絶対に裏切るんだぞ? そいつは……アイリスを斬るって公言したカスなんだぞ……お前の師匠をだ。なぁ、クライム……お前には師匠への恩はないのか? 才能が無かったお前に、ウロボロスを使ってまで才能をくれたのは誰だ? お前のために4年も時間を割いたのは誰だ? お前をワールドチャンピオンにしてくれたのは誰だ? お前の武器や鎧を用意してくれたのは誰だ? アイリスだろ? お前だって応接室でのやりとりを見てたんだろ? それなのにアイリスを斬るなんて口にするゴミ屑をお前は擁護して、鍛えるなんて言うのか? お前が他者を鍛えられるだけの力を付けられたのは誰のおかげだ? アイリスだろ? アイリスじゃないのか? お前には犬猫でも持てるような恩もないのか? 恩を仇で返すつもりか? …………()()()()()()()()()()()()()()()

 

 サトルから漏れるのは怨嗟の声。煮えたぎるような怒りが、ブレインと共に……クライムにも向けられるのであった。





Q:ビーストマンからしたら悲惨じゃない?
A:最初からナザリックが踏み潰すリストに入ってるので 

「この先多くを助ける過程で、多くを私たちは傷つけます」
「───分かってる。人間に敵対し迎合しようとしない、竜王国のビーストマンやアベリオン丘陵の亜人の多くを俺たちは踏み潰すことになる。そいつらだけじゃないな。人間だって昨日のクレマンティーヌのように、かなりの数を粛清する」
「ポジティブ。それぐらいの荒療治でなければ、この世界の改革は叶いません───

リスタート2 「殺しの苦悩 支える者達」から抜粋

次回鈴木悟大爆発回 くがね先生の雑感を読んだり原作での振る舞いを見てる限り絶対に避けては通れない問題に触れる回になります 
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