蛇にゾッコン。   作:元ちょこちょこっと

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第14話

 破面化するのは、バラガンよりもグリムジョーらが先になった。バラガンは未だ藍染に反感を抱いているため、破面化についても警戒心を露わにしている。よって、グリムジョーたちに実験台になってもらうつもりなのだ。

 

「じゃあ、まずは俺からだ」

 

 いの一番に名乗り出たのは、グリムジョー。一刻も早く新たな力を手に入れたくて堪らない、というような顔を作っているが、菊理はこれをブラフだと看破した。部下、あるいは同胞のシャウロンたちに危険が及ばないかどうか、自分の身一つで見極める気でいる。群れのリーダーだけあり、器だな、と菊理は思った。

 

「待て、グリムジョー。どんな危険があるか分からん。ここは私から——」

「黙ってろシャウロン。俺は早く力を手に入れてえんだ」

 

 説得する参謀を押し退け、豹王は藍染の前に歩み出る。

 

「名を、聞いておこうか。無論菊理から君の話は聞いているが、他人の口から聞くのと、君の言葉を聞くのとではまるで違う」

「……グリムジョー・ジャガージャックだ」

 

 藍染を睨む目が鋭い。この虚は、藍染に忠誠を誓う気など毛頭ないということを窺わせるような視線。東仙が、鈴虫に手を掛けた。

 

(やばいな、東仙さん怒ってるよ)

 

 正義と理を重んじる彼にとって、秩序を乱す輩は最も許せない。

 

「では、グリムジョー。君に新たな力を与える。既に聞き及んでいるとは思うが、改めて説明しておこう。これから君に行うのは、虚の破面化だ」

「破面」

「そうだ。仮面を剥ぎ、死神に近付くことで虚の限界を越えた力を手に入れることができる」

「……何か問題点はあるのか?」

 

 口を挟んできたのは、シャウロンだ。余程グリムジョーが心配らしい。

 

「無いよ。強いて言うなら、姿がヒトや死神に近付くくらいか」

「なら、何も問題ねえな」

「そうか。何よりだ」

 

 藍染が崩玉を翳すと、立方体の結界がグリムジョーを閉じ込める。凹んだ部分に崩玉を入れる。

 すると、結界内に変化が起こり始めた。爆発的な霊圧の上昇。仮面が砕けていき、グリムジョーが叫びを上げる。やがて結界が爆散し、視界を煙が遮った。

 

「……気分はどうかな、グリムジョー」

 

 藍染が問うその先には、先程とはがらりと姿を変えたグリムジョーの姿があった。身長は高く、凶悪な面構え。細身ながら筋肉質で、服を纏っていない。菊理は思わず目を逸らした。

 

「へっ。最高の気分だ。今までとは霊圧が段違いに上がってやがる」

 

 グリムジョーが軽く霊力を放つと、彼の同胞たちから歓声が上がった。霊圧の量、質ともに以前とは一線を画している。豹王は今、新たなステージに立ったのだ。

 

「今ならてめえにも勝てるぜ、白鷺。……なんで他所向いてんだてめえ」

「良いだろう、別に。それより早く服を着たらどうかな。寒くないか」

「はっ、生娘みたいな反応しやがって」

 

 みたいな、ではなく事実そうなのだが、それを主張する意味もないから、黙っている。すると、ギンがグリムジョーに持ってきた服を手渡した。面倒だと言いながらも、意外とオシャレ気質なのか、グリムジョーはいそいそと着替え始める。それを他所に、菊理はギンにそっと話し掛けた。

 

「用意が良いね」

「ボクは藍染隊長の実験にずっと付き添ってたんや。破面は生まれてくる時裸やから、菊理は外した方が良えんとちゃう?」

「虚が男の時はそうかもね。でも女性だったら、私が人払いしてあげないと可哀想だよ」

 

 使命感に燃える菊理。女性の破面は私が守る、と言わんばかりだ。

 

「それもそうやね。じゃ、その時はよろしく頼むわ、菊理」

「うん、任された」

「じゃ、取り敢えず一緒に向こう行こか。藍染隊長、どんどん破面化させるつもりみたいやし」

 

 見れば、藍染は既にシャウロンを破面化させようとしているではないか。ギンに連れられて、菊理は現場を離れるのだった。

 

 

 

 

 バラガンらも破面化を果たし、かなりの数の破面たちが集まった。元々破面化していたグランドフィッシャーやドルドーニなども仲間に加わった。藍染たちは最早、虚圏に於ける一大勢力となっているのが現状である。尸魂界の目が無いため、かなりやりたい放題出来るのだ。

 

 元々虚は群れを成すものではないため、虚圏にはマトモな組織もあったものじゃなかった。精々バラガンの王国くらいのものだ。そこに、傘下に加われば新しい力を与えてくれるという、謎の組織が生まれた。知性を持った虚が、多く集まって来る。あるいは菊理たちが自ら勧誘に赴く。そうすることによって、次々と規模を拡大していった。

 

 さて、そうなってくると問題も起こる。仲間内での諍いだ。

 やれどちらが上だの、やれ態度が気にくわないだの、やれもう従う必要は無いだの。初めこそ東仙たちが対処していた(藍染はあまり関心が無いようだった)が、破面たちの力は強く、抑えるのは只事ではない。よって、法と地位が必要だと考えた彼は、藍染にそれを作るよう進言した。

 

 結果、虚夜宮内での簡易な掟と、数字による地位の管理が設けられた。

 

 実力のある者たちには、生まれた順に数字を与える。そして、その中でも特に飛び抜けた実力を持つ者には『(エスパーダ)』の称号が与えられた。元々はバラガンの精鋭たち七人を指す称号らしい。

 バラガンやグリムジョーを始めとした、大きな霊圧を持つ破面たちが刃に任命された。

 

 一方、菊理、ギン、東仙の三人は統括官として破面たちを厳しく取り締まり、あるいは指示を出す立場となった。だが、言うことを聞かない相手も多く、特に菊理は少々苦戦していた。

 

「はあ。皆、私が女だからって軽く見てくるんだよなあ」

 

 鉢植えの花に水を遣りながら、菊理は大きく溜め息を吐く。この虚夜宮は男所帯で、女性がほとんどおらず、肩身の狭い思いをしていた。

 

(こうなったら、次何か起きた時は実力で押さえつけるしかない! 実力行使は好きじゃないけど、止むを得ないよね。うん)

「おや、花を愛でているのですかなお嬢さん(チーカ)

 

 菊理が決意を固めていると、ダンディなおじさんが声を掛けてくる。よくよく見ると額に虚の仮面のようなものを付けていることからも、彼が破面であることが分かる。

 

「やあ、こんにちはドルドーニ。綺麗だろう?」

「ええ。花など久しく見ていなかったものですから、余計にね。何せこの虚圏には緑がない」

「寂しいことだ。少しずつでも良いから、緑化が進められればと思わずにはいられないよ」

 

 彼女は尸魂界から持参した花々を土ごと砂地に植え替え続ける。彼女に与えられた宮の近くは、この白と黒が支配する虚圏において、色彩鮮やかな空間である。女性であるチルッチなどもよく寄ってくるのだった。

 

「しかし、こんな砂漠に花を植えたところで、しっかり育ちますかね?」

「植物というのは意外にしぶといものだから、砂だろうが育つものは育つよ。種類によるがね。それより問題は、この虚圏に水気が全然ないということだ。今は水を放つ鬼道で水を遣ってるんだが、私がここを離れてしまうと枯らしてしまうかもしれない」

「難しいものですな。まるで女性のように繊細だ」

 

 唸るドルドーニ。やがて彼も、菊理の緑化運動を手伝い始める。掌で押さえてから鉢植えをひっくり返し、根の張った土を砂地に植える。しばらくそれを繰り返した後、菊理の鬼道で水を遣る。

 まだ規模は極めて小さいが、徐々に増やして、自分の宮の周囲を花で埋める計画を立てている。

 

「やはり花は良いものです」

「そうだね。枯らさないよう気をつけなくちゃ」

 

 菊の花を指で軽く弾きながら、菊理はくすりと笑った。

 

 

 

 

 ある日の菊理は、鬼道衆の仕事の一環で、真央霊術院の臨時講師として派遣された。久々に見る学舎に郷愁染みた思いを抱きながら、その敷居を跨いだ。

 

「白鷺、久し振りだな、何十年振りか」

「大海原教諭。お久し振りです、まだ教師をなされていたのですね」

「はっはっは、貴様や松本、市丸のような宝石が稀に見つかるものだから、宝探しが止められない。年甲斐もなく張り切ってしまうのだよ」

「光栄です。今はどうです? 磨き甲斐のある石は見つかりましたか?」

「ああ、四回生にな。聞いて驚くな、一回生の時、巨大虚(ヒュージ・ホロウ)に立ち向かった者たちがいる」

「へえ……勇敢ですね」

 

 無謀とも思ったが、大海原が気分を良くしているところに水を差すこともないだろう。菊理は笑顔を貼り付けて、大海原の案内に応じる。授業を行うのは、その生徒たちのいるクラスだという。

 既に演習場に集めてあるということで、教壇に立つという経験は出来そうもない、と少々残念に思った。しかし、生徒たちの前に出れば、瑣末な考えは捨てなくてはならない。

 

「こんにちは、一組四回生の諸君。私は鬼道衆副鬼道長、白鷺菊理だ。本日は諸君に鬼道の真髄、その一端を教授するために来た。今後も授業を担当する機会があるかもしれない。あるいは、諸君が護廷隊、あるいは鬼道衆に入隊した際に共に仕事をするやもしれない。とにかく、末長くよろしく頼むよ」

 

 屋外教習であるから黒板は無く、菊理は鬼道で文字を描いて見せた。鬼道衆としては丁度良いアピールになるだろう。

 さて鬼道の授業が始まると、菊理の目は三人に注がれることとなる。

 

 一人は根暗そうな金髪の男子生徒。授業内容を卒なくこなしている。筋肉の付き方から見ても、バランスの取れた能力を持った秀才型だと分かる。ただ、性格は暗く、彼の鬼道の成功を見ても反応する者は少ない。

 もう一人は、金髪の少年を褒める、威勢の良さそうな赤髪の男子生徒。彼は先の金髪よりもワイルドで、十一番隊にいそうな粗雑なタイプに見える。その証拠に、彼は鬼道がさっぱりで、赤火砲を詠唱破棄してビー玉程度の火にしてしまっており、周囲から爆笑を引き起こしている。

 最後が、それを見てくすくす笑う、お団子頭の可愛らしい女子生徒だ。彼女の鬼道を見た菊理は、思わず感心した。

 

(安定しているし、無駄がなければ澱みもない。澄んだ霊圧だ)

 

 余程イメージをキチンとこなさないと、こうはならない。菊理は彼女の下に歩み寄る。

 

「君、名前は?」

「え、私……ですか? 雛森です。雛森桃と言います」

 

 その名前を聞いて、菊理の眉が僅かに上がった。そういえば数年前、ギンから話を聞いた覚えがあった。霊術院に、藍染が駒にしたいという生徒が数人いる、と。改造虚の実験の際見つけた人材で、三人の一回生だったそうだ。先ほどの大海原の話と照らし合わせて、目の前の少女こそ話に上った生徒であると確信する。

 

(ちぇっ、藍染さんのお手付きだったか。鬼道衆に誘おうと思ったのに)

「あの?」

「いや、君の鬼道は素晴らしいな。霊圧の回りが見事なまでにスムーズだ。詠唱の一節一節にも気を配っている証拠だね。皆も見習うと良い」

 

 菊理——現役の副鬼道長に手放しで褒められたことでか、雛森に歓声が上がる。騒がれた彼女は、照れて少し顔を赤くしながらも、ありがとうございますと礼を言った。

 

「やるな、雛森! ようし、俺もやってやるぜ!」

 

 そう言って、二巡目に入った赤髪の少年は鬼道の詠唱を始める。負けず嫌いだな、とそこは内心で褒めながら、菊理は眉を寄せる。霊力の込め方がめちゃくちゃだ。お陰で霊圧の上昇の仕方は歪。止めようとするが、もう遅い。

 しかし、鬼道を撃つ先には的しかないので安心だ、と菊理は思ったのだが——どこにでも不良というのは居るものらしく、気の抜けた顔の男子生徒たちが、用意された的の奥からひょっこりと顔を出すのが見えた。

 赤髪の生徒からは、見えていない。不良たちが避ける気配もない。チッ、と菊理は舌打ちする。

 

「破道の三十一『赤火砲』」

 

 全長何メートルあるのか。巨大な炎の砲弾が放たれた瞬間、その直前に瞬歩で移動していた菊理が目の前に現れ、彼は言葉を失う。暴発した鬼道の威力から、彼女の身体が燃やし尽くされるのも十分にあり得る威力だったからだ。

 生徒たちの中には目を覆う者さえいた。

 しかし——惨劇は起こらず。

 バシュッ、という空気の抜けたような音と共に、少年の放った鬼道は消え去った。沈黙が支配する中で、真っ先に声を張り上げたのは菊理だ。

 

「そこの男子生徒! 的の先でたむろするとは一体どういう了見だ!」

 

 瞬歩で近付いた菊理は、不良生徒たちを縛道で縛り上げ、短く説教をした後反省文でも書いてこいと大海原の下へ投げ飛ばしてくる。

 ふう、と一息ついた彼女は、呆然としてしまっている生徒たちに謝罪する。

 

「済まない、くだらないことに時間を取ってしまったな。再開してくれ」

「あ、あの」

 

 静かな生徒たちの中で、手を上げながら発言したのは、先ほどの赤髪だった。

 

「君か。名前は……」

「阿散井恋次です」

「そうか。災難だったね、阿散井。的の先にあんな馬鹿者共がいたとは。危うく君は罪に問われるところだった……いや、そこは私の監督不行届か。済まない、謝罪する」

「いえ、謝らないでください。白鷺先生はしっかり止めてくれました。俺……自分は気にしません。それより、さっき自分の鬼道を……」

 

 そこまで言ったところで、ああ、と菊理は謝る姿勢を崩して恋次に詰め寄る。

 

「それはそれとして、鬼道を暴発させるとは何事だ。三十番台だから良かったようなものを、これがもし六十、七十番台なら、周囲の人間だけでなく君自身すら危険に晒しかねない。一刻も早く鍛錬して克服してくれ」

「は、はい……すみません、努力します」

「よろしい。で、何か質問があったようだが?」

 

 切り替えの早い菊理に戸惑いながら、恋次は先ほどしようとした質問を口にする。

 

「先ほど自分の鬼道を止めた時の……あれはどんな鬼道なんですか?」

 

 弾くでもなく、止めるでもなく。術そのものが消失したような光景だった。それを生み出した術とは、一体何なのか。

 

「どんな鬼道も何も、君と同じ赤火砲だが」

「へっ?」

 

 菊理はやれやれと内心で思いながら、恋次だけでなく耳を傾ける生徒たちにも説明する。

 

「君たちも教本を読んで知っている事象だ。『反鬼相殺』という。同質・同量の鬼道を反対方向の回転を加えて放つことで、鬼道を打ち消すことが出来る技術さ」

 

 そこまで説明しても、妙な騒めきは収まらない。不思議に思う菊理だったが、生徒たちからしてみれば当然のことだ。彼らも知識として『反鬼相殺』は知っている。しかし、あれだけ巨大で高威力の炎の塊を、全く同じ質・威力に調節し、逆回転にしてぶつけるとは。それも、あの一瞬で、汗ひとつ掻かずに。

 実際は菊理は左利きなので、霊圧の回転を逆にする必要は無かったのだが、それを差し置いてもその技量は卓越している。

 

「凄い……」

「まあ、君たちのような優秀な生徒に教鞭を執るのは、優秀な者でなければならないからね。当然のことだよ」

 

 菊理の物言いは、男女問わず生徒の心を鷲掴みにした。自分の力量を謙遜せず、生徒の実力も認める良い先生という印象を持たせたのだ。また、男からは容姿故、女からはボーイッシュな話し方故に好感度もうなぎ登り。

 

「では、授業を続けよう。私に聞きたいことがあれば、何でも聞いてくれ」

 

 菊理の下には、質問者が殺到した。

 

 

 

 

 生徒たちから絶賛された菊理の授業が終わり、生徒たちは学舎へ戻っていく。その中で、菊理はそっと雛森を呼び止めた。

 

「白鷺先生?」

「済まないね。少し君に話があったものだから」

 

 読まれないよう、菊理はポーカーフェイスを崩さない。生徒たちに気に入られた笑顔のままだ。ギンを見ているうちに、こういう演技力も高くなってしまった。

 

「君の鬼道は素晴らしい。丁寧で速い。気に入ったよ。どうかな、私の下で働かないか?」

 

 断られるのが分かっているから、勧誘も気楽なものだ。雛森は少し迷って、

 

「すみません。私、目標は決めているんです」

「……残念だな。目標というのは、護廷隊かい?」

「はい。尊敬する人がいるんです。私、その人の役に立ちたいんです」

 

 彼女の脳内で浮かべるのと同じ人物の顔が、菊理の頭を過る。もっとも、表情まで同じとは限らないが。

 

「そうか。何か希望があれば、是非話してくれ。私は護廷隊にも多少口が効く。少々裏技だが、君を望む部隊に入れてあげよう」

「え……でも、それって」

「別に不正をしようって言うんじゃない。護廷隊は通常、卒業生の配属先をランダムに決めるが、指名制度というものがあってね。各隊が欲しい人材は、ある程度好きに取っていけるようになっているんだ。例を挙げるなら、現三番隊長の市丸隊長も、この指名制度で五番隊に配属された」

 

 五番隊、というところで、ピクリと雛森が反応する。分かりやすい、と内心で思いながら、菊理は話を進める。

 尤も、五番隊が話に上った時点で雛森が疑いを持つことなどないだろう。憧れの人が、不正に手を染めているなどとは考えない。

 

(不正どころか大罪人なんだけどね、あの人)

 

 最終的に雛森は、分かりましたと後々菊理を頼る方向で心を決めたようだった。

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