蛇にゾッコン。   作:元ちょこちょこっと

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第26話

「こりゃまた、随分派手にやられたね。ほら、見せて御覧」

 

 帰り道の黒腔で、ドロドロと派手に血を流すグリムジョーに善意でそう言ってやるものの、彼は不機嫌を隠そうともせず、そっぽを向くのみだ。前回の独断行動時に続き、帰刃を妨害されたのが余程気に食わないと見える。こんな態度ではまたルピが煽りを入れて、今度こそ殺し合いに発展するのではと思われたが、彼は何も言ってこない。意外だな、とルピを見てみると、血走った目で親指を噛んで、ブツブツと何やら恨み言のようなものを呟いている。どうやら、別のことに気を取られているだけらしい。

 やれやれ、と菊理は肩を竦める。彼はつい先ほどの戦闘で、散々コケにした日番谷に敗北したのが余程腹に据えかねるようで、ちっこい頭を縊り殺すだとかなんとか言っているようだ。陰気だなあ、と同じく浦原に一本取られたヤミーの健在振りを見て思う。勿論彼も腑が煮えくり返るような思いをしたのだろうが、彼が司るのは『憤怒』。怒りには慣れっこで、それとの付き合い方も一日の長がある。怒りの溜め込み方、発散の仕方が上手い。

 他のメンバーに関しては痛手を負ってすらいない。ワンダーワイスは終始鳥と戯れており、戦闘行為に参加したのは、浦原喜助に虚弾を打った一度のみ。怪我一つ負っていない。ウルキオラも、織姫を拉致した際の護衛が貧弱だったこともあり、無傷。菊理も、鉄裁の鬼道を少し食らった程度だ。彼らの心情はともかくとして、結果だけみれば勝利と言える。

 

「織姫ちゃんは明日こっちに来るんだろう、ウルキオラ?」

「ええ。既に()()は付けてあります」

 

 比喩がなんかエロいな、なんて首輪を付けられた織姫の姿を思い描きながら、労う。

 

「そうか、良くやってくれた。君自身、今回の仕事はどうだったかな。退屈だった?」

「いえ、特に思うところはありません」

 

 それは多分退屈だったということだろう、とツッコむことはしないで、苦笑い。ウルキオラの情動はまだまだ発達していないようだ、と悲しく思う。後ろのルピは悪い例だが、ほんの少し、百分の一でも良いから学んだ方が良いだろうに。切っ掛けはともかくとして、とにかく感情を得るのは大切なことだ。ワンダーワイスも、言語能力などが削られてはいるが、感情は削っていない。それだけ、生物にとって感情というのは大切なものなのだ。

 菊理もまた、ある感情を原動力として日々を送っているものだから、その影響力はよく知っている。

 

「さて、帰ったら暫しの休養だ。皆は傷を癒すことに努めると良い。早く治して欲しければ、私に言ってくれ」

 

 じゃあ頼む、と巨体で前に出るのがヤミー。グリムジョーは相変わらず素っ気ない。とはいえ、破面の自然治癒力ならば、一日あれば治りはするだろう。ルピも、生意気な口を利いて治療を拒否する。無様にやられたその上で、十刃落ちしたグリムジョーが受けなかった治療を受けたとあっては立場がないということだろう。

 

「普通の回道で良いや、傷はそんな深くないみたいだし。歩きながらやってあげるから、気にせず進むと良い」

「へえ、歩きながら出来るのか。器用なモンだな」

「このくらい何でもないさ。四番隊の席官なら誰でも、欠伸をしながらだって出来る」

 

 賞賛するヤミーの後ろから回道を掛ける。傷はそうでもないが、霊圧の消費が中々多い。着くまでには治るだろうが、少々時間が要るなと目算した。その間、じろっと半目でこちらを見ていたルピが、ふと口を開いた。

 

「……白鷺統括官、卍解出来たんですね」

「ん? ああ、隠していたつもりはなかったんだけどね。ほら、喧伝するのも間抜けだろう?」

「人が悪い……」

 

 何やら心外な評価を受けて、さしもの菊理もムッとする。この糞餓鬼め、と内心で罵倒してやり、傷を治してくれとせがまれても問いあってやらないと心に決める。

 

 それがまさか、もの言わぬ下半身だけとなってしまうとは、全く考えてはいなかったが。

 

「力が戻ってきやがった! 俺が、俺が6番(セスタ)だ!」

 

 織姫のチカラ、『事象の拒絶』によって失くした腕を取り戻したグリムジョーは、続けて剥がされた六番の数字を彼女に治させた。その、直後の凶行の結果がコレだ。残念だが菊理は彼のことが嫌いだったので、無惨に殺されようが何とも思わない。

 織姫が術を掛けて治癒してやろうとする。この状態から治せるのか、と彼女の権能に畏怖を覚えながらも、菊理はやんわりと制止した。

 

「ああ、放っておいて構わないよ、織姫。こっちで処理しておくからさ」

「そんな言い方……仲間だったんじゃないんですか?」

「部下だよ。グリムジョーもそうだが、彼は結構血の気が多くてね。さっき君も酷いことを言われただろう」

 

 グリムジョーの腕を治せないなら、お前を殺すぞとか、お前に価値なんてないんだとか。そんな事を言っていた。藍染におちょくられて気が立っていたにしても、初対面の女の子に向ける口ではない。

 

「それは、そうですけど」

「仮に君が、ルピを蘇らせたとしよう。その後彼は何をするか。言うまでもない、彼を殺そうとした、グリムジョーとの殺し合いだ。不毛だよ。たとえこの場で私や藍染様が力尽くで止めたとしても、同じ数字を持つ彼らは結局どこかで殺し合う。君に出来るのは、精々どちらを見殺しにするか決めるくらいさ」

「……そんな」

「そんなのはキツいと思うね。私だってやりたくないし、君のような可憐な少女にさせるなんてのは尚更さ。なら、ここで動かないでおくのが一番良い。我々は一応死神だが、神ではない。戦い以外で生者が誰か決めるなんてのは、傲慢な奴のすることだよ」

 

 しゅん、と織姫は肩を落としてしまう。悪い事をしたな、とは思うが、ここで忠告しておかないと、本当に言った通りのことが起きてしまう。

 

「……良いのか、白鷺」

「え、何がです?」

 

 グリムジョーを睨みつけていた東仙に、何やら耳打ちされる。織姫には聞こえていないようだ。

 

「市丸はルピと気が合っていたようだが」

「ああ、あれフリですよ」

「何?」

「声のトーンが、楽しんで話してる時よりちょっと低かったんで。すぐピンと来ましたよ。多分彼の性格が面倒臭いってこと、すぐに分かったんでしょうね。話を合わせてただけです。というか——いえ、なんでもありません」

 

 そう言ってやると、東仙は押し黙ってしまう。不審に思い振り返ると、明らかにドン引きした様子で東仙が立っていた。

 

「なんで引いてるんですか」

「私は目が悪い分、聴覚や嗅覚に自信があるのだが……市丸の声で心情が読み取れた試しがない。白鷺の耳は魔物か何かのモノではないのか」

「失礼ですね。ギン限定ですから。それに勿論全ての感情が読み取れるワケではないので、どうぞご安心を」

「……市丸にも同情する」

「ちょっと、どういう意味ですかそれは」

 

 東仙に小一時間ほど問い詰めてやりたかったものの、菊理にはすぐに織姫を自室へ連れて行くよう指示が出る。一応、彼女の監視はウルキオラの役目であるが、女同士というのは何かと都合が良いから、手伝いを任されたのだ。

 

「……菊理さんは、元々死神だったんですよね」

「ん、まあね。それがどうかしたかい」

「どうしてこっちに着いたんですか?」

 

 はた、と織姫の顔を思わず見ると、彼女もなんだか目をパチクリと不思議そうに瞬かせている。何だか可笑しくなって、菊理は噴き出した。

 

「君、面白いね織姫」

「そうですか? 友達から変な子、ってよく言われますけど」

「そりゃ、変だよ。普通、初対面の相手にそんな質問する? 今の人間たちはそうなの?」

「ええと……どうだろ。私が変わってるってことは、皆はしないんじゃないかなあって思います」

「だよねえ、良かった。さて、なんで私が藍染さん側に居るのか、って質問だったかな? 乱菊にも聞かれたなあ、それ」

 

 参ったね、と菊理は苦笑いする。

 

「他の人にナイショにしてくれるなら、特別に教えてあげても良いよ」

「も、もちろん言いません!」

「ははっ、ありがとう。私がこちらにいるのは、割と単純な理由でね。好きな人がこっちにいるから、それだけなんだよ」

 

 あまりに端的な答えであるから、さぞかしガッカリしていることだろう、と薄目で織姫を見てみると、彼女は真剣な目で頷いている。それが何だか嬉しくて、菊理もニコニコと笑顔を浮かべる。

 

「期待に添えない答えだっただろうか?」

「ううん、素敵な理由だと思う」

「そうかな。私も後悔とか、そういったことはしていないけど……部下からはくだらないと言われるし、組織を裏切る理由としては弱い、っていうのが一般的な意見らしいよ」

「じゃあ、私が変わっているからそう思うのかも」

 

 そう笑う織姫に、今度は菊理がキョトンとした顔を作ってしまう。そして、すぐに噴き出した。本日二度目である。

 

「いやあ、参った。一本取られたね。ホント、君は愉快な子だよ。何か不都合があれば、私に言ってくれ。男所帯だから、皆色々と疎くてね。女同士、助け合っていこう」

「はい。……あの、菊理さん」

「なんだい?」

「菊理さんの好きな人って、藍染様なの?」

 

 本日三度目。

 今度は加えて爆笑である。腹を抱えて、床をバンバン叩きながら涙を流して笑い転げる。

 

「わ、私が、藍染さんを、くくっ、くひひひっ! ぶふっ、腹筋が死ぬ! フーッ、フーッ……や、やっぱり面白いなあ。織姫ちゃん。気に入ったよ!」

「そ、そんなに笑うことかな?」

「いや、あまりに想像できなくてね。私が藍染さんと、その、男女のお付き合いをしているところがさ!」

 

 散々脳内ではギンといちゃついている菊理であるから、そこが藍染にすり替わるのをイメージすると、なんだか悪質なコラージュにしか思えないのである。ちなみに、菊理が爆笑して息を整えている間、玉座の藍染は正体不明の不快感に見舞われていたらしい。

 

「そんなに笑ったら、藍染様が可哀想だよ」

「そうは言っても……ま、確かにそうだね。でも、百パーセントあり得ないことだよ。私が好きな人は別にいるからね。おっと、誰かは自分で想像してくれ。すぐに答えを教えたらつまらないし」

「う、うん」

 

 元々候補も多くないし、大体絞れてしまってはいるのだが、それについて言及はしない。菊理の親しみやすさは、敵地に囚われた織姫の心に余裕をもたらす。

 

(好きな人のために、かあ。なんだか羨ましい)

 

 織姫もまた、一護たちのためにこうして囚われる形で藍染の懐に潜り込んだ訳だが、自分の気持ちに正直に生きる菊理の様子は織姫にも好ましいものだった。

 

「では、私はこれで失礼するよ」

 

 じゃあねー、と手を振りながら部屋を出る。可愛らしく、良い娘だった、と新しい話し相手を思い返しながら、彼女のいる部屋の前の階段を降りる。すると途中で、ウルキオラに遭遇した。

 

「やあ」

 

 軽く手を挙げて挨拶すると、彼はぺこりと会釈で返す。

 

「あの女は?」

「部屋で休んでいるよ。着替えも終わったし、話しに行くと良い」

「そのつもりです。私は、藍染様にアレのことを一任されていますので」

 

 ウルキオラはじろり、と感情のない瞳で菊理を睨んだ。本人はただ目線をくれてやっただけだと言うだろうが、睨むというのが適切なくらいの眼光である。

 

「貴女が藍染様に進言した、と聞きましたが」

「あー、バレた? 嫌だったかな」

「いえ、構いません。ただ、私を推薦した意図が分からなかっただけです」

「なるほど。それに関しては、その内分かるだろうと言っておくよ。一応言い訳をさせてもらうと、織姫の世話を焼くことは、君にとってプラスになると踏んだんだ」

「…………はあ」

 

 いまいち理解していない様子だが、まあ頑張りたまえと肩に手を置き激励する。彼は曖昧に頷いて、織姫の部屋に向かった。部屋デート。甘美な響きである。私もギンと部屋デートしたい、と煩悩に塗れた考えを巡らせて、菊理はスキップしながら立ち去った。実際は別にデートではないので、二人がちょっと固い空気で一言二言交わしただけである。

 

 

 

 

 菊理が自室で、星見華の言弾に鬼道を詰め終わった、ちょうどその頃であった。突然の巨大な霊圧の出現に、虚圏全体の大気が震える。明らかに隊長レベルであるにも関わらず、隠そうともしないこの霊圧は——

 

「黒崎、一護君か」

 

 まさか、織姫が攫われて数日もしない内に乗り込んでくるとは。余程彼女を大切に思っているらしい。それが恋愛感情であるにしろないにしろ。後の二名は、考えるに同じ旅禍の茶度泰虎と石田雨竜だろう。三人で乗り込んでくるとは、無謀も良いところだ。若いって良いなあ。

 

(まあ、私もギンのピンチとあれば、単身で乗り込む覚悟ではあるけれど)

 

 カチ、と言弾を全て装填し終えた菊理は、部屋の扉が叩かれる音を聞いて開けるように言った。侍女の破面が、伝令を届けにきたらしい。十刃と統括官を集め、侵入者の対策を講じるようである。

 

 菊理が藍染の下に向かうと、菊理以外の二人は既に到着していた。また、十刃も既に集まっている。十刃を態々集めたというのに、藍染の指示は単純極まる。いつも通りに過ごし、敵がやってきたのなら撃退せよ、と。つまり、こちらからは手を出すなと言っている。それが分かっていない者も何人かいるようだが、釘を刺さないなら藍染も自由にさせるつもりだろう。菊理は何も言わなかった。

 

 十刃たちが各々の宮に戻っていった後、藍染がぽつりと口を開いた。

 

「上手く釣れたね」

 

 織姫という餌に、見事黒崎一護らは掛かってくれた。

 彼は井上織姫の持つ能力の強大さに目を付けた。否、藍染だけではない。浦原喜助も、山本重國もそうだ。だから浦原は織姫を戦いから遠ざけようとしたし——だから尸魂界は、新たに戦力を投じようとしている。

 モニターの中で、砂漠の主である破面ルガカンタ相手に、朽木ルキアと阿散井恋次が一護らに加勢した。

 まさか彼女らが独断で来ているとは知らない藍染は、ほぼ間違いなく隊長格も後々こちらに送り込まれるものと確信していた。副隊長レベルを二人だけ、というのは戦力の分配としては中途半端過ぎる。山本重國の戦略眼は、そこまで衰えてはいないだろうと。

 そしてやって来た隊長格らを幽閉する準備は整っている。もしやすれば虚圏は落とされるかもしれないが、王鍵の創生が叶えば、この城は不要なのだ。

 

「隊長格が投入され、しばらくしたら我々は空座町へ向かう。急ぐ必要は無いが、準備をしておいてくれ」

 

 そう言って、藍染は部屋に戻っていった。今頃、ウルキオラは織姫に侵入者の件を伝えに行っているだろう。自分は何をするか考えて、取り敢えずギンと一緒にいることにする。一護たちが三ケタの巣を通るのを眺めたり、藍染が勝手な行動を取るザエルアポロを虐めたり、ギンがルキアと海燕の身体を乗っ取ったアーロニーロが出会うように、回廊操作をしたりと色々している間に、ついに十刃の一角が落ちた。

 

「あー、アーロニーロ負けちゃったよ。相討ちって本当かな。ルキアは良い子だったから、死んだとなると残念だ。白哉も悲しむだろうに」

「もう離反した言うのに、まだ朽木隊長のこと心配しとるん?」

「まあ、そりゃあね。友達だからさ。いや、()()()が正しいか。向こうはもう友達と思ってくれてないだろうし」

 

 なにせ、平静とした顔の裏で、妹を処刑する計画を立てていたのだから。嫌われも恨まれもするだろう。合った瞬間に卍解されてもおかしくないレベルだ。案外卍解の相性も悪いし、戦いたくはなかった。

 

「ルキアがこっちに来てるから、白哉もこちらに来るだろう。戦わなくて済んで良かったよ。相性的にも心情的にも」

「菊理、朽木隊長のこと好きなん?」

「百パー無い」

 

 なんだか織姫といい、本日は的外れな指摘をされる日だ。ギンに勘違いされたら堪らないので、即刻否定する。白哉は友人として好きだが、彼女の心を占める存在は唯一人だ。

 

「友達としては好きだけど。敵になるなら容赦はしないよ。彼は難敵だが、まあなんとかなるだろう。どんな相手でも、死ぬ気でやればなんとかなるものだ」

「そうやろうか。山本総隊長とか、バラガンとか相手でも?」

「まあ、戦ってみないと分からないけど……山本重國は、流刃若火の炎を私の卍解で跳ね返せば、あるいは。バラガンなら、彼の死の吐息が追いつかない程の速度で鬼道を撃ち込み続けるだけで良いだろう。地力で優っている相手にはゴリ押しで、負けてる相手には策略で勝つのさ」

「そんなら、藍染隊長は?」

 

 ギンの言葉に、得意げに語る菊理の手が止まった。

 

「……藍染さんかあ。私は鏡花水月に掛かってないから、まだマシだけど。目を閉じて戦わなきゃいけないのが大変だよね。視覚無しで彼に勝つ方法……うーん、難しい」

「難しい、ってことは、方法が無いわけや無いんやね」

 

 心なしか、ギンの声色が高くなった気がして、気分を良くした菊理はまあね、と胸を張ってみせる。

 

「近付いたら勝ち目無いから、私なら距離を取って戦うかな。視覚がない分の遅れをカバーできるし、鬼道は卍解で跳ね返せば良いし……瞬歩で近づかれたらヤバいね。藍染さん、私よりかなり速いし。うーん、空中に地雷のように鬼道を仕掛けてみるとかかなあ。藍染さんの予想をスカし続けるしかないのがしんどいね」

 

 山本重國も同様に強いのだが、菊理は身近な存在である藍染に対しては、より明確な実力差を感じる。端的に言って、勝ち目が薄いことを理解している。それでも、ギンへの見栄を張るための意地として、

 

「まあ……相討ちくらいなら、もしかすればなんとかなるかもね」

 

 そんな虚勢を口にした。

 

「相討ちって」

「うん。まあ、私って今まで、死ぬ気で戦ったことってないからさ。自分の命を犠牲にするつもりで戦えば、藍染さんもどうにか倒せるんじゃないかな。彼の底が見えてないから、なんとも言えないけど」

「……そっか。でも、菊理は自分の命をもうちょっと大切にせなあかんよ」

「——ありがとう。君が言うなら、そうするよ。私の命は、私だけのものではないしね」

 

 私の命は、君のものだから。

 菊理はにこりと笑って、ギンの肩を叩いた。

 

「心配しなくても良いよ。きっと、すぐに終わる……いや、終わらせる。私が」

「————菊理」

「さ、行こうか」

 

 菊理は東仙の手伝いとして、黒腔の準備に向かった。その背中を眺めて、ギンは彼女の命を散らせまいと決意する。やはり、自分がやるしかない。他の誰にも、それは出来ないことなのだから。

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