蛇にゾッコン。   作:元ちょこちょこっと

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第28話

(成長したね、雛森)

 

 伏火、曲光、赤火砲。これらを練り合わせた鬼道は感嘆する他ない。自らの斬魄刀『飛梅』の能力を着火剤に使うところも、アイデアが光る。全員が同時に掛かったのは運が良かっただけだろうが、それでも素晴らしい技術であることには変わりなく、菊理は拍手を送りたい気分に駆られた。やったらやったで、煽っていると思われそうだからやらないが。

 

 そう、技術は見事ではあるのだが——威力が足りない。これでは、相手に本気を出させるだけだ。仕方ない。菊理は腰を上げ、瞬歩で一息に乱菊の下へ向かった。浮竹は、それを止めなかった。

 

「やあ、三獣諸君。盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっと彼女を借りたいんだ」

 

 そう言いながら乱菊の肩に手を置くと、両側から斬撃が見舞われる。おっと、と瞬歩でそれを躱すと、二人の射殺すような視線が突き刺さった。

 乱菊は、おちょくられたように感じた故の反応だが、雛森は違った。

 

「藍染隊長を、よくも誑かして……!」

「えっ、それ誤解——」

「問答無用。飛梅!!!!」

「うわ危なっ!?」

 

 菊理は星見華の銃弾で飛梅の攻撃を全て撃ち落とす。雛森の怒りは冷めやらぬといった様子だが、それよりも三獣たちの呆れた顔の方が厄介だった。

 

「白鷺統括官よお、あいつらはアタシらの獲物だぜ?」

「横取りは良くないですわ」

「いや、それに関してはホント申し訳ないんだけどさ……」

 

 ちら、と乱菊らが警戒し、動いていないのを確認すると、菊理は三人に耳打ちする。

 

「あの金髪で巨乳の方。彼女、私の恋敵なんだよね。しかも勝ち目薄いんだ。だから、私に頂戴」

「うわ、恋敵を暴力で潰すって……」

「ドン引きだよ」

「ドン引きですわ」

「う、うるさいな! 私の勝手だろう、そんなことは!」

「バレたら市丸様に嫌われること請け合いですわよ」

「ふん、その辺は上手くやるさ」

 

 実際は縛道で縛り、放置するなり白伏で寝て居てもらうなりするだけだ。嫌われる心配はないし、言い訳はどうとでもなる。乱菊からは本気で絶交される可能性大だが、菊理は友情より愛情を選ぶ。それは、どうしようもないことだ。

 

「白鷺統括官、いくら自分に無い胸を相手が持ってるからって、なあ?」

「諦め早すぎんだろ」

「君たち、後で覚えておけよ」

 

 ジャキ、と星見華を見せつけてやると、二人は押し黙った。ちなみに、スンスンは自らの胸に手を当ててちょっとガックリしていた。気にしていたようだ。カワイイ。

 

「じゃあ、そういうことで」

 

 次の瞬間、菊理は乱菊の背後に突如出現し——しかも、一瞬でその身体に縛道の鎖を巻きつけていた。

 

「な————!?」

「悪いね、乱菊、雛森。でも、藍染さんの件に関しては誤解だから、そこのところ」

 

 最後まで言う前に雛森は刀を振るったので、言葉の途中で菊理の姿は掻き消えた。

 

「乱菊さん……!」

「他人の心配をしている暇があんのかよ?」

 

 ブチ、と三獣はそれぞれの片腕を毟り取った。三つの腕が混ざり合い、さらなる怪物が現出する。

 

 

 

 

 菊理は乱菊を縛ったまま、少々時間をかけて空座町の外れ辺りまで移動していた。到着してすぐさま結界を張り、死神の霊圧知覚や破面の探査神経に引っかからないよう細工を施す。一息ついたところで、意図を量りかねている乱菊の視線を感じた彼女は、一言告げた。

 

「悪いね、乱菊。ここなら安全だと思うから」

「……は?」

 

 菊理の言葉に、一瞬理解が遅れた。

 安全。この戦地において、敵を前にそんな言葉を口にした菊理の意図が、乱菊には掴めない。

 

「菊理。アンタ、何を言って——」

「なんていうか、さ。言葉にするのは、ちょっと難しいんだけども。君にはここにいて貰わないといけないっていうか、つまりはそういうことなんだ」

「……はあ。アンタ、勝手ばかり言うのね、昔からだけど。理由は?」

「君がいると、ギンが本気で戦えないからだよ」

 

 また、嘘。いや、これは事実ではあると思うのだが、菊理の意図はそこではない。嘘、嘘、嘘。嘘ばかり吐いていると、自らの本心を見失いそうになって困る。だが、菊理には一本、絶対に折れない芯とも言える感情があった。それ以外は、些細なことだ。

 乱菊の様子は、口を真一文字に結んでムッとした様子だった。

 怒っているようだった。当然ではあるのだが、なんだか今までとは怒りの質が違って、なんだか菊理にはそれが気になった。

 

「どうか、した?」

「随分、詳しいのね。()()()のこと」

 

 その言葉で、菊理の中で何かが解けた。なんでもない言葉だった筈だ。菊理は、乱菊がギンのことをそう呼ぶのを、霊術院時代に何度も聞いている。だというのに、今この瞬間を以ってそうなってしまった理由は、果たして。

 ともかく、感情の爆発は、菊理を攻撃的な行動に移させた。乱菊の襟を掴みあげ、凄まじい眼光で睨み付ける。

 感情的な行動を取った次の瞬間には、彼女は理性と冷静さを取り戻し、掴む手の力を緩めながら言う。

 

「ごめん」

「良いわ。恋敵(ライバル)の言葉に腹が立つの、分からないこともないもの」

「…………ッ!」

 

 思わず。気まずさから下を向いていた菊理は、バッと顔を上げた。そして、すぐに失態に気付く。

 

「やっぱり」

 

 やられた。鎌かけだったのだ。乱菊も疑念はあれど確信には至っていなかったのだろうに、今の菊理の態度はあからさまだった。迂闊。菊理はギンのこととなると、想像以上に自分が動揺することを理解した。

 一方の乱菊は、然程意外でもなさそうだった。菊理がギンに好意を寄せていることは、隠していたつもりだったが、やはり見る者には薄っすらと感じ取れてしまうものだったようで。

 

「だから、アンタは尸魂界を裏切ったのね。ギンの傍にいるために」

「……そうだよ。悪い?」

「そりゃ、立場的にはね。でも、アタシ個人としては、なんだか安心した。アンタは、悪意でアタシたちを裏切った訳じゃないって分かったから」

「————そっか」

「ギンは、どうなのかしら」

「…………それは」

 

 菊理は、押し黙った。

 逡巡する間に、戦地からの轟音が響き、戦局がまた傾いているのを知らせる。どうやら、十刃たちが解放し始めたようである。あまり、時間を掛けてはいられない。もし十刃が破れ、ギンにまで危害が及ぶことになれば、それは許容し難いことだ。

 

「私が君をここに縛り付ける理由だけど」

 

 菊理の口は、自然に動いていた。更に強力な結界を掛け、攻撃の余波が及ばないようにした。これだけの結界があれば、十刃や隊長格に直接攻撃でもされない限り破られないだろう。

 ふと。もし自分が死んだら、乱菊は誰にも発見できないな、と不安に駆られた菊理は、乱菊に掛けた縛道、そしてその周囲の結界に、自らの魂魄が消失した場合、自動的に解除されるように仕掛けを後付けしておく。

 

「それは、さっき言ってなかったかしら」

「あれもホントだけど、言ってないことも実はあるんだ。君は、ギンにとって大切な人だから」

 

 乱菊は、今度こそ目を剥いて驚いた。そして、その言葉を口にした菊理の顔を見て、表情を歪めた。

 

「菊理。アンタは、アンタってヤツは……!」

「これだけの結界があれば、安全だろう。君が死ねば、ギンが悲しむ。それを防ぐために、悪いんだけど、ここに居てもらうよ。ああ、大丈夫。戦いが終わる頃には、解放されていると思うから」

「アンタ————馬鹿じゃないの、菊理!!!」

 

 乱菊の怒声を受けた菊理は微笑んだ。やはり、彼女はギンに相応しい、優しい女性だと。

 

「最初から諦めてんじゃないわよ! そう、だからアンタはあの時、あんな……ああ、もう!」

「心配しなくてもいいよ。万事上手くやってみせるさ」

 

 菊理が姿を消す。乱菊は動けない体で、それでも馬鹿な親友を引っ叩いてやろうと身をよじるが、やはり彼女の鬼道は一級品で、乱菊の膂力、霊力ではとても破れない。

 自らの無力を、乱菊は嘆いた。親友の歪みも正してやれないとは、なんたる無力。なんのための護廷十三隊か。

 自らの気持ちに蓋をして、愛する男のために全霊を尽くす。振り向いてもらえずとも構わない。愛するだけで満足だと。

 なるほど、それはいじらしく、慎ましい愛のカタチではないか。

 

(————そんなワケ、ないでしょうが……!)

 

 それは只の都合の良い女だと乱菊は吐き捨てる。そして、菊理はそれで良いと、愛する男の傍に居れるならどうなろうと構いはしないと。そう言ってるのだ。

 それでは、全く救いがないではないか。

 

 

 

 

 十刃の帰刃。隊長たちの卍解。

 絶技同士がぶつかり合い、戦況は大きな転換を迎える。日番谷は大技でハリベルを氷に閉じ込め、砕蜂の強烈な爆撃はバラガンを呑み込んだ。京楽と浮竹は始解で、スタークと互角に渡り合っている。

 現状、尸魂界に有利なように運んでいるように見えるが、ワンダーワイスの登場で一気に形勢は傾いた。ワンダーワイスは登場早々浮竹の腹に穴を開け、京楽はスタークの虚閃で大きくダメージを受けた。また、彼の声でハリベルは氷の呪縛から抜け出し、バラガンも再び姿を現す。

 

 十三隊の不利に、姿を見せたのは平子真子の一派『仮面の軍勢』だった。どうやら、百年間現世に身を潜めていたらしい。

 彼らは一護や菊理と同じように虚の仮面を被ると、フーラーの生み出した大虚たち相手に大立ち回りをしてみせた。

 

「流石、元隊長格らが虚化しただけのことはある」

 

 そう所感を漏らしていると、雑魚を粗方消し終えた平子真子が瞬歩で近付き、藍染に向けた斬撃を放った。しかし、それも東仙に防がれてしまう。その東仙も、平子への攻撃を防いだ狛村、檜佐木と因縁のある男たちとの戦いに向かった。

 

「お久しぶりですね、平子さん」

「なんや、菊理ちゃんもそっち側着いとったんかいな。カレシに捨てられないように、ってとこか?」

「ま、そんなとこです」

 

 彼氏じゃないけど。

 

「菊理。平子隊長は()()()()君に任せるよ」

「はーい」

「ええんか。オレはカワイ子ちゃん相手でも容赦しない男やで?」

「容赦しないのは良いことですよ。というか、私にそれしてたら、死ぬのは貴方です。私、こう見えても結構強いですよ?」

「アホか。ハッチがよお自慢してきよったの、忘れてへんぞ。ホントは藍染に当たるまで温存しときたかったんやけど……ま、そうも言ってられへんやろなぁ」

 

 平子は斬魄刀を真っ直ぐ構えると、警告する。

 

「一つ、教えといたるわ。他人の五感を完全に支配するのが、藍染の鏡花水月だけやと思ったら大間違いや。——倒れろ『逆撫』」

 

 解号を唱えると、平子の斬魄刀の形状が変化した。刀身には五つの丸い穴が。柄頭の部分が円形に広がり、平子はそこに手を通す通すくるくると回転させる。しかし、菊理は、それを視認していない。

 

「なんや、目ェ瞑りよって。藍染と同じ系統やから、見なければ術に掛からんと思ってるんか。だとしたら、大甘やで」

 

 視界を塞いだからだろうか。菊理の鼻は、何やら妙な匂いを敏感に嗅ぎ取った。

 

(しまった!)

「嗅いだようやな。——ようこそ、逆さまの世界へ」

 

 恐る恐る目を開くと、そこには上下左右が反対になった世界が広がっていた。上には地面が、下には空が。平子の傷も先ほどと反対に。刀を持つ手も逆だ。

 成る程。視界をめちゃくちゃにする斬魄刀らしい。

 

「落ちゲーのトラップみたいでオモロいやろ。ま、菊理ちゃんはゲームなんてやらへんやろうけど、なッ!」

 

 平子は菊理に斬りかかる。逆撫の能力は、見た目以上に凶悪だ。上下左右、加えて前後にダメージを受ける方向まで、菊理の目には逆に映る。それは、戦いに慣れた者ほど影響を受け易い。しかし。

 

「破道の六十三『雷吼炮』」

 

 菊理は正確に、平子のいる位置へと鬼道を放った。驚きのあまり回避が遅れ、左腕に掠める。それだけで派手な火傷を負い、平子は痛みで眉を寄せた。

 そんな、馬鹿な。平子は信じられない思いだった。どんな熟練の戦士でも、逆撫の能力を初めて受けて完璧に対処できる者など、いるはずがない。大抵の者は前後が逆になっているのにも気付かず、見抜けたとしてもダメージを受ける方向が逆になっているのには気付けない。

 一体、彼女は——そんな思いで菊理を見た平子は、目を疑った。

 

「良かった、只視界を封じるだけで。良い練習台になりそうだ」

 

 菊理は、目を瞑ったまま戦っていた。

 

「なんやと……!?」

「逆撫。成程、凶悪な能力ですね。相手の視界を支配する能力。でも、死神には見なくても戦う術があるじゃないですか」

 

 目を閉じたまま、菊理は正確に平子のいる位置へと星見華の霊力弾を撃ち続ける。

 

「一つは嗅覚。まあ、これは逆撫の匂いで嗅ぎづらいのであまり関係ないですが、聴覚に霊圧知覚。鬼道で五感の補助を行えば、貴方の位置を把握するのに支障はない」

「はっ、藍染もそうやけど、菊理ちゃんも大概バケモノ染みとるやんけ。なら、力押しで行くしかないようやな」

 

 菊理は、平子の霊圧が爆発的に上昇するのを感じた。この、箍を外したかのような上がりように、覚えがある。

 

「虚化ですか」

「せや。さんざっぱら苦しめられてきたモンやけど、モノに出来ればこれがまた便利でな。お陰でお前らを斬れるっちゅうもんや」

「斬る? 私を?」

 

 平子の虚化を感じ取った菊理もまた、己の眼前に手を翳した。

 

「大言壮語はこれを()()からにしてください」

 

 振り下ろし、仮面を生み出す。平子の表情が変わった。

 菊理は星見華を腰のホルダーに挿した。平子が妙な動きに警戒心を抱き、一歩退いた瞬間。その腹に風穴が開いた。

 

「…………ッ!」

「見えないでしょう。私の虚弾はそこらの木っ端破面のよりもケタ違いに速いんですよ」

 

 加えて、その弾丸は目にも留まらぬクイックドロウで放たれる。不可視。故に不可避。威力も、虚閃に及ばないとはいえ星見華で強化されている。これ程凶悪な組み合わせはない。

 

「私の虚弾は避けられない」

「……ボケがッ!」

 

 吼えるも、平子の両手両足は一瞬にして虚弾で撃ち抜かれ、霊力を一気に失った彼は地に墜ちる。仮面を外し、菊理が目を開けると、そこには逆さまではなくいつも通りの世界が広がっていた。

 

「完勝やね、菊理」

「ま、相性が良かったね。私はホラ、目を瞑っても戦えるからさ」

 

 Vサインでにっこり笑う菊理。しかし、平子を倒す間に、戦況は益々変化していた。

 バラガンが鉢玄に敗れ、それに動揺したスタークも、隊長格三人相手に奮闘するも京楽の能力に敗れた。京楽は卍解を温存したままだ。十刃相手に大したものだと、菊理も思わず感心する。

 そして、十刃上位で唯一生き残ったハリベルは、三人相手にどうにか渡り合っていたのだが、痺れを切らした藍染に斬り伏せられてしまった。

 

「想定外だったよ。まさか、苦労して集めた君たち十刃が、私一人に劣るとは」

 

 それが、藍染の言い分だった。

 ハリベルを斬ったのは余計だったのではないだろうか。不満だが、菊理は黙って口を閉ざした。しかし、藍染の次の行いには、流石の菊理も眉根を寄せる。

 狛村と檜佐木の二人と戦っていた東仙は、虚化からの帰刃までも披露しながら敗北を喫した。そして、三人が和解しようとしたところで——東仙の身体が爆散したのだ。

 藍染の表情が少しも変わっていないことから、確信する。彼は初めから東仙を捨て駒にするつもりだったのだと。

 冗談ではない。十刃はまだ良い。だが、統括官を簡単に切り捨てる、ということは、最悪ギンにまで危害が及ぶという事実に他ならない。菊理は、藍染への敵愾心を滲ませる。

 

 親友への蛮行に、狛村が吠えた。

 次の瞬間、藍染の背後の空間が罅割れ、黒崎一護が姿を現す。黒き月牙が、藍染を呑み込んだ。

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