原作開始1年前。ダイ(11)、主人公レグルス(9)。
アルキード王国はギルドメイン大陸南端の半島に位置する国家であり、北以外の周辺を海で囲まれているため船での往来が多く、世界中の国や町から商品が集まり、ベンガーナほどではないが、商業が発展した国である。北にベンガーナ、海を挟んで東にパプニカ、西にロモスが隣接している。
泉を出発した一行は、南に向かって進み3日目の日中にはアルキード王国に到着した。今晩泊まる宿屋にて部屋を確保した後、観光のため街中を散策しながらアバンは先々で聞き込みを行っており、お土産屋にて国内情勢を聞くため、お店の主人に声をかけた。
「今の王様の話かい?」
「ええ、最後に聞いたのは数年前ですので、その時と王様は変わりないかと思いましてね」
「王様は変わりないね。ただ、最近は王様の弟君が政務に関わるようになったらしいじゃないか。皆噂しているよ、次の王様はその弟君か弟君の息子になるんじゃないかとね」
「おや?王様には一人娘であるソアラ姫がいらっしゃったはずです。確か以前聞いた際には病に伏せていると聞きましたが、まだ体調は優れないのですか?」
「…ソアラ姫は、もう戻ってくることはないと言われているよ。この10年、病は良くならなかった。今は別の場所で療養していると聞いてるよ」
「そうでしたか…ソアラ姫の体調がよくなるといいのですが…。お話、聞かせて下さりありがとうございます。もう一つ聞いてもよいでしょうか、この辺でおすすめの観光スポットはありますか?」
お土産屋にてアバンは観光名所について主人と楽しそうに談笑した後、商品を見ていたレグルス達の元に行き、次の目的地について話した。
「先生、どこかよさげな場所ありましたか?」
「ええ、お店の主人に聞いたのですが、ここは海に囲まれているため海鮮がおいしいみたいですよ、後で食べましょう!見どころは城近くの広場が有名みたいです。見世物や人が多く集まる時はそこを利用するようでお店も周りに点在しているみたいです。行ってみましょうか!」
お土産屋を後にした一行は遠くからでも見ることができるアルキードの城に向けて歩き出した。城が近づくにつれ、町の建物は立派になり、人の往来も激しくなっていた。
「なんかこの街の雰囲気、どことなくベンガーナに似てるよな。建物とか舗装された道とかよ」
「ベンガーナとアルキードは隣国であり、同盟国でもある。経済的にも軍事的にも結びつきが強いため、似たようなところがあるのだろう。ベンガーナほどではないが、この国の経済もかなり豊かな方だ」
「へぇ、詳しいなぁ。やっぱそのあたり勉強とかしているのか?」
「各国の情報は父…から聞いている。特にベンガーナとアルキードはテランからしたら近隣国であり、テランの民の人気移住先でもある…。ほとんどはテランに家を持ち、ベンガーナに出稼ぎに出ているがな」
「…なぁレグ、おめぇベンガーナとアルキードあんま好きじゃねぇだろ。なんつーか、今の説明にとげがあるというかよ」
「…そうだな、思うところがあるのは確かだ。ただ、実際に目の当たりにすると、テランの民の気持ちも分からなくはない。これだけ経済に差があればな…」
レグルスは周囲を見渡し、テランにはない立派な建物やお店、舗装された道路、その道路を往来する多くの人々を見ながら小さくため息をついた。そんなレグルスを見たラーハルトはテランを擁護するため声をかけた。
「俺にとってはテランが1番です。テランは居場所がなかった俺を受け入れてくれた唯一の国です。それに俺は人が少ない場所の方が好ましいので、ベンガーナやアルキードといった人が多いところは好きではありません」
「確かに人は多いいなぁ」
「こればかりは人によっても合う合わないはありますからねぇ」
ラーハルトは往来を行き交う人々とすれ違うたびにマントの帽子を押さえて万が一外れないように注意をしながら一行とともに歩いていたため、気にしながら歩かなければならい状況に少なからずストレスを感じており、尚更、テランの方がよいと感じていた。
一行は舗装された道を歩き、遠くに見えていた城がかなり近くまで見えるようになった頃、大きめの広場が見えてきた。
「見えてきましたね、あれが広場でしょう」
「なんかあそこも人多いいなぁ」
「周囲にお店が集まっているのでそれ目当てに人が集まるのでしょう」
「…これだけ人がいると知っていれば宿屋で待機したほうがよかったな」
正方形の石が敷き詰められた広めの広場には多くの人々が集まっており、人の多さを見たラーハルトは内心げんなりしながら歩いた。広場の周囲にはレンガで作られた高い建物が建ち並び、1階部分はお店となっており、そこにはお客と思われる人々が大勢集まっていた。
「…?」
レグルスは広場を視界に入れたとたん、小さな頭痛がしたため、顔をしかめると手で額を押さえた。
(なんだ?急に頭が…)
初めての頭痛に少し驚きつつもすぐに収まるだろうと考えたレグルスは痛みを無視し、アバンたちと歩調を合わせて広場に向かって歩いていたが、広場が近づくにつれてレグルスの頭痛は大きくなり、とうとう痛みで歩くのもきつくなるとその場で立ち止まざるを得なくなった。
「…っ!!」
「レグ君?」
アバン達は立ち止まったレグルスに気づくと額に手を当て痛みで顔をしかめる尋常ではない様子のレグルスに驚いて声をかけた。
「どうなさいましたか!?」
「おい、レグ大丈夫か?」
「レグ君、頭が痛いのですか?よかったら見せてください」
レグルスは周囲が心配して声をかけるのを聞こえてはいたが、頭痛は一向に落ち着かず、幻聴まで聞こえはじめており、とても返事ができる状態ではなかった。
「失礼しますよ」
「ぐっ!」
アバンが声をかけながら額を押さえるレグルスの手を優しく退けると額と手のひらは血で汚れており、アバンは想定よりレグルスの状態が悪いことを悟り休ませる必要があるとすぐに判断した。ラーハルトとポップもレグルスの血で汚れた額と手のひらを見ると驚きの表情を浮かべた。
「なあ、これまずいんじゃないか!」
「宿屋に戻ってレグ君を休ませましょう!」
「俺が運ぶ!」
ラーハルトが目にも止まらぬ速さでレグルスを右腕で抱え、左手でマントの帽子が外れないよう押さえながら、かなりのスピードで宿屋に向けて走り出した。ラーハルトのあまりの早業にアバンとポップは少し唖然としていたが、すぐに落ち着くと小さくなったラーハルトの後ろ姿を追いかけるように走り出した。
広場から離れるにつれレグルスの頭痛は収まり、幻聴の音も小さくなっていたが、幻聴の内容が頭から離れることはなかった。多くの人々の怒りや罵倒、あざ笑う声、そして悲痛な女性の泣き叫ぶ声がずっとレグルスの頭の中で鳴り響いていた。
「心配をかけた、もう大丈夫だ」
宿屋に戻り、ベッドに寝かされたレグルスはアバンによって濡らした布で額と手のひらについた血を落とされたが、額やほかの場所のどこからも怪我は見つからず、レグルス自身がホイミをかけたことで怪我については問題ないと判断された。レグルスから頭痛や幻聴はなくなり、怪我はなく、表情も落ち着きを取り戻していたため心配そうに様子を見ていた周りの者はほっと胸を撫で下ろした。
「びっくりしたぜ、いきなり様子はおかしくなるし、血は出てくるしよ」
「レグルス様、しばらくはここでお休みになってください」
「私は問題ない。自分の体は自分が一番分かる。どこにも不調はない」
ベッドから抜け出そうとするレグルスをアバンはそっと押しとどめ、レグルスもその制止に少し迷ってからベッドから出した足をもとの位置に戻した。
「レグ君はここで休んでいるように。ラーハルト、レグ君が抜け出さないように見てて下さいね」
「承知した」
「そうだぜ、おめーさっきまで怪我人だったんだからよ。なんかうまいもん買ってきてやっからここで大人しく待ってろよ」
「…分かった。代わりにポップ、何かうまい海の幸を頼む」
「おう!任せとけ!」
「ではポップ、一緒に行きましょうか」
「はい、先生!」
アバンとポップは宿屋から出ると城がある方角に向かって歩き出したが、ある程度進んだところで海鮮市場がある船着場から離れていることに気づいたポップが不思議に思いながらアバンに声をかけた。
「先生、魚買うならあっちじゃないですか?」
「ポップ、先ほどのレグ君の様子どう思いましたか?」
「え、えっと、尋常じゃなかった。あんな苦しむレグは初めて見た」
「ええ、広場に着いたとたん苦しみだし、広場から離れると彼の体調は良くなりました。私はレグ君の苦しみの原因はあの広場にあるのではないかと考えております。そのため、あそこで聞き込み調査をしようと思いましてね。ポップも一緒についてきてくれますか?」
「もちろん一緒に行きます!仲間が苦しんでるのにほっておけねぇ」
アバンとポップは広場に着くと一緒に行動を共にし、道行く人やお店の店員に話しかけ、この広場ではどのように使われているのか、過去に何が行われたかの聞き込みを行った。
「ここは夏になるとお祭りが開かれるよ」
「この広場は戦争があったとき前哨基地として使われるんじゃ。一度もそれ目的で使われたことはないがね」
「たまにマーケットが開かれるよ。時にお兄さんこの商品いかが?」
人々に話しかけ聞き込みを行うが、あまりめぼしい情報はなく最初はやる気を出して聞き込みをしていたポップの表情にも疲れが見え始めたころ、アバンはある年配の夫婦と思われる男女に話しかけた。
「お尋ねしたいのですが、以前この広場で何があったかご存知でしょうか」
「以前かい?それなら何年か前、ここで魔王の生き残りが処刑されたんだよ」
「魔王の生き残り、ですか」
かつて魔王を倒した勇者としてここで魔王の生き残りが処刑された話にアバンは興味を持ち、処刑時の詳細を確認するため詳しく尋ねた。
「魔王の生き残りを処刑された時の話を詳しく教えていただきたい」
「ああ、そいつは恐ろしいことに国王の一人娘であるソアラ姫を誘拐したんだ!怒った王が姫を救い出し、魔王の部下を捕まえてここで処刑したってわけだ。姫は可哀そうに、さらわれた恐怖で精神を病んでしまわれた…。まったくひどい話だ!」
「その話なら私も知っているよ。私たちの姫様を誘拐したのは魔族って話らしいね。もう、10年ぐらい経つのかね、聞いた話だと魔族を処刑した後、竜が現れてその魔族を連れてしまったらしいじゃないか!ああ、恐ろしいねぇ」
「…魔族」
ポップは魔族が処刑された話にラーハルトを思い浮かべながら複雑な気持ちで聞き、アバンは処刑された魔族を竜が連れ去ったことに関心を持ち、以前テランで読んだ竜の騎士の伝説とマザードラゴンの挿絵を思い浮かべながら、10年前に起きた処刑とレグルスの頭痛の原因には関連性があるのではないかと考えていた。ほかにも魔族や竜について詳細を訪ねたが、これ以上の話は出なかったため、アバンは話を聞かせてくれたお礼を言うとその場を離れ、広場の一角にある酒場に戸惑うポップとともに中に入った。
「先生、お酒飲むんですか」
「そうですね、1杯だけ飲みましょう、ポップはジュースで我慢してくださいね」
アバンとポップはカウンター席に座るとそれぞれ飲み物を頼み、アバンはニコニコしながらお酒を飲み始め、ポップはアバンの意図が分からずジュースをちびちび飲みながらアバンの横顔をちらちら見ていた。
「ここのお酒は美味しいですねぇ!主人、いいもの使ってますね!」
「ははは、分かるかい!ここは兵士御用達のお店でもあるからな!」
「ええ、この美味しさ、兵士の皆さんが通われるのも分かりますねぇ。ところで主人、10年前に起きた魔族の処刑の話はご存知でしょうか?」
「知らねぇ」
アバンにお酒が美味しいと褒められて豪快に笑っていた主人の態度が魔族の処刑の話になった途端、素っ気なくなったため、ポップから見ても酒場の主人が話題にしたがらない様子が伺えた。
「そうでしたか、残念です」
断られたアバンはニコニコしながらも懐からゴールドを取り出すとカウンターに右手の下に隠しながら静かに差し出し、主人は周りに見えないようにアバンの手の中のゴールドを取ると懐にしまい、グラスを布で磨きだした。しばらくすると主人が周りに聞こえない程度の小さな声でアバンに話し始めた。
「ああ、そういえば思い出したぜ、確か魔王の手下の生き残りがこの国の姫を誘拐したが国王が見事救い出し、大罪人の魔族を処刑したって話だな」
「それがこの国で公表された内容ですね」
「なんだ知ってたのか」
アバンが核心をついてきたことに酒場の主人はニヤリと笑った。
「ところでおめぇさんは旅人とかで合ってるか?」
「ええ、色んな場所を旅してますよ」
「なら大丈夫か。この話はくれぐれもこの国の連中には話してくれるなよ」
主人は小声ではあったがどこか楽しげに話し始めた。
「魔王の手下の生き残り、まあ魔族って話もあるか。そいつの処刑の話は国が発表したもんだが、半分以上は作られた話だ。真実は国にとって都合が悪かったんだろうよ」
「ですが、主人はその真実に気づいたのですね。」
「最初は俺も国の発表を信じたさ。けどな、酒場に来た連中の中にはその現場を見ている奴もいて、そいつらの話した内容と国の発表があまりに違うから気になっちまってよ。俺なりに情報を集めたってわけだ。あんたも気になった口だろ?いいぜ、話してやるよ」
「魔王が倒されて1、2年経った頃だったか。ある日、外に遊びに出ていたソアラ姫が城に戻ってくると傷だらけの男を連れて帰ってきた。
城の人間はそりゃ驚いた!姫が連れ帰ったのもそうだが、男は酷い有様で全身傷だらけだった。魔王がいた時代なら分かるが、その時にはモンスターは大人しかったし、大怪我するような事件もなく平和だったからな。皆、男に聞いたさ、誰にやられた傷だとな。だが男は怪我した理由を話すことは無かった。
姫は懸命に男を治療し、男の怪我が治ったあとも2人はずっと一緒にいたようだ。兵士が一緒にいる姿を目撃しているし、姫と男はできてるって噂が宮中でも囁かれていた。
男を怪しんだ奴もいてな、世界中で男に関する情報を集めたが、出身地も役職も何処から来たかも何一つ分からなかった。兵士の話では、男はめちゃくちゃ強かったらしくてな、アルキード1番の実力者も全く歯が立たなかった。だから尚更おかしかった、魔王が倒されてあまり年月が経っていないのにどこにも男の武勇伝がないことに、それだけ強ければ噂になっていたはずだからな。
出身地も不明、どこから来たかも不明、誰も歯が立たないほどの実力者なのに魔王侵略時には男の武勇伝はない。
ある時から男に対して噂が囁かれるようになった、男は人間に化けた魔族ではないかとな。
それに尾びれがついていつの間にか魔王の生き残りの魔族ではないかと言われるようになり、城の者はみな男に対して恐怖を抱くようになった。
王は男を城から追い出した。だがな、この後すぐ城から姫がいなくなっていたことが分かり、王室は大騒ぎとなった。
すぐさま捜索隊が王国内を探したが、見つけられず、男が姫を誘拐したのではないかという疑惑が強まった。
怒った王は男を姫の誘拐犯として世界に向けて指名手配した。
しばらくなんの音沙汰もなかったがある日、テランで男を見たという目撃情報が寄せられ、王は軍を率いてテランに向かった」
酒場の主人の話を大人しく聞いていたポップだったが、なじみあるテランの名前が出たことで、レグルスとラーハルトを思い浮かべて体を小さく揺らして動揺した。アバンも表情は変わらなかったがこの話に出てくる男の正体について少しずつ確信を持つようになり、内心驚きを持って話を聞いていた。酒場の主人は2人の様子に気づくことなく話を続けた。
「ソアラ姫救出任務に同行した兵士の話では、姫は男の子供を産んでいた。兵士は男を捕らえ、姫と赤子をアルキードまで連れ帰った」
「なるほど、ちなみに疑問なのですが、男はめちゃくちゃ強いと言ってましたが、よく捕えることが出来ましたね」
「それなんだが、男は抵抗しなかったようだ」
「えっ、何でだよ?そんだけつえーなら、姫さんと子供連れて逃げ出せただろ」
「男が捕まる時、子供と姫の命の保証を懇願したらしい。だから抵抗しなかったんじゃないか?
男は広場で処刑されることになったんだが、国から御触れが出たんだ。姫を誘拐した魔王の生き残りの公開処刑を行うってな。
みんな処刑を見ようとかなりの人が集まった。店には客が誰も来ないもんだから俺も処刑を見たんだが、縛られた男は普通に見えた、人間にしか見えなかったんだよな。
それで、処刑されるって時にソアラ姫が処刑場に現れたんで、驚いたさ!そしたらよ姫が国王に向かって男を助けて欲しいと言ったんだ!さらに男には逃げるようにとも言ってな。
驚いた、皆も驚いた。攫われたはずの姫が誘拐犯を庇ったんだからよ!
だからあの場にいた奴の中には処刑の後、疑問を持つやつも現れた、男は誘拐したのではなく姫と駆け落ちしたんじゃないか、男も実は普通の人間で処刑する口実欲しさに魔族と言いがかりつけたのではないかとな。
姫が処刑場から連れ出された後、男の刑は執行された。
だがよ、そのあととんでもねぇもんが空から現れやがったんだ!」
「…ドラゴン、ですね」
「そうだ!あんちゃん詳しいな!急にドラゴンが空から現れたことでみんなパニックだ!俺も慌てて逃げてよぉ。見ていた奴に聞いたらドラゴンは男の死体を盗んだあとどっか飛んでいったらしい。
兵士が飛んで行った方角を探しに行ったらしいんだが、ドラゴンも男の死体も見つからなかったんだとよ」
「ちなみにですが、そのドラゴンはどのような姿でしたか?」
「白いドラゴンだったな、光り輝いてよぉ。よく本に出てくる地面を歩いているドラゴンに翼が生えた見たことのない種だったな。後から学者が調べたが本にも載ってない新種だったらしいぞ」
「…そうですか」
アバンはドラゴンの話を聞きながら脳裏に以前テランで見たマザードラゴンの挿絵を思い出していた。その挿絵のマザードラゴンの鱗は白く、闇夜を照らすほど光り輝いていたことから、酒場の主人が話した現れたドラゴンはマザードラゴンであること、そして処刑された男についても確信を持ちながらレグルスを思い出していた。
「なあ、子供と姫さんはその後どうなったんだ?」
「子供は死んだと聞いている。ロモスに向かう船に乗せられてたみたいだが、嵐で船が難破したらしい。乗組員は助からず、子供も探したらしいが見つかることはなかった。
姫は…そういえば最近話すら聞かねぇなあ。生きてるとは思うが、今はどうなったかは分からねぇ。最後に聞いた時は精神が壊れたとかなんとか。まあ、男は実の父親に処刑、子供は死んだとなれば精神壊れてもおかしくないよなぁ」
「…なんか救われねぇな」
「そういうもんだろ、俺の話は以上だ」
「いやー、貴重なお話ありがとうございました。お酒もおいしかったですよ。最後に聞きたいのですが、処刑された男の名前と子供の名前、分かりますか?」
「子供の名前は分からねぇが、男のほうは分かるぞ。男の名前は― バランだ」
「たでーま、あー疲れた」
「おかえり、随分遅かったな」
宿屋に戻ったポップが部屋に入り見渡すと、レグルスはベッドから抜け出し机を挟んでラーハルトと談笑しており、ラーハルトは室内ではあるが仮面をつけていた。
仮面は不測の事態を想定して街中ではたとえ室内だろうと仮面を外さないという方針を事前にしているため、ポップもラーハルトの仮面を見た瞬間は驚いたが特に言及することはなかった。
「実はよレグの頭痛の原因が分かるかもしれねーってことで広場に行ってたんだよ」
「!何か分かったのか!?」
ラーハルトが驚きの声をあげながら机に両手をついて椅子から立ち上がるとポップを仮面越しに見つめたが、ポップは肩を竦めながらも広場で聞き取り調査した結果を話した。
「いんや、広場は祭りやマーケットとか前哨基地とかに使われてることと、あと昔姫さんと駆け落ちした魔族疑いの男が処刑されたことぐらいか。結局原因は分からなかったぜ」
「…どこに行っても魔族は悪者扱いか。調査感謝する。レグルス様、原因は不明ですので、広場には近づかない方が良いでしょう」
「分かった、これといった用事もないしな。ところでポップ、アバン先生は?」
ポップと一緒に出かけたアバンが居ないことに不思議に思ったレグルスがポップに問いかける。
「今下で台所借りて飯作ってる。海鮮料理作るって先生張り切ってたぜ!」
「ほう、それは楽しみだな」
しばらくしてアバンが料理を作り終わると、ポップとレグルスが下の台所に行き料理を運ぶなどアバンの手伝いをし、ラーハルトが部屋の机の上を片付け、料理を机の上に並べて全員席に着くと料理を食べ始めた。
アバンにとっても初めて扱う海鮮食材が含まれていたがどれも美味しく作られており、初めて食す食材にレグルスたちは興味深く観察した後、口に含むとその美味しさに感動しながら料理を食した。
「明日朝一の船でここを出る予定です。皆さん今日は早めに就寝して下さいね」
「分かりました!」
料理を食べ終わる頃、アバンが言った言葉で一行は料理後の片付けを終えた後、明日の準備を終えると明かりを消し、早々とベッドに入ったのだった。
深夜、部屋の明かりが消えた部屋にてベッドの上で横になっていたアバンは目を開けると、隣のベッドで寝息を立てて寝ているポップとラーハルトを見た後、1番奥のベッドを確認し、本来居るはずの人物がそこに居ないことを確認した。アバンはベッドから窓際に視線を移すと、そこにはレグルスが壁に寄りかかりながら窓の外を眺めていた。外を眺めている子供の背中を見ながら、日中聞いた話を思い出したアバンはレグルスと話をするべきか少し迷ったが最終的に話をするべきだと考え、ベッドから降りると寝ている2人を起こさないように静かにレグルスに近づいた。
ポップは寝ている。ラーハルトは寝ている。
アバンはレグルスに話しかけた!
Q.ソアラをなぜ精神崩壊させたの?
A.自殺防止と再婚防止のため
ソアラは目の前で夫が火あぶりの刑により処刑されているのを見ており、さらに後日ディーノが亡くなったことを知り精神を病みます。
では、精神崩壊しなかったら?
ソアラの場合は愛する人を立て続けになくし、しかも夫は父親の手により殺されているため絶望して投身自殺する可能性が高いです。
そこで死ななくてもソアラは一人娘のため王族の血を残すため再婚をさせられます。
この再婚相手ですが、ソアラは選べません。なぜなら、自由恋愛の末に駆け落ちしているため、王様が相手を選びますが、国外の王族はソアラとバランの話を知れば拒否しますので、相手は王様の側近で信頼厚い部下になります。
では、その結婚相手は誰かと言うと、1話に登場したバランを処刑した死刑執行人になります。大事な場面を信頼厚い部下に依頼する可能性が高いため、死刑執行人を側近の部下に指名し、さらに、ソアラの再婚相手に側近もしくはその息子にする可能性はあります。
ソアラからすれば愛する夫を殺した人間と結婚させられるという絶望を味わうことになるため、再婚させられる前に投身自殺をすることになるでしょう。
あの世に行けば愛する夫と息子に会えるかもしれないと思ったら最後、死はソアラにとっての希望になります。