原作開始十数日前。ダイ(12)、主人公レグルス(10)。
アルキード王国を離れてから数カ月、レグルスたち一行は町や村から離れた森の中でテントを張るとそこで稽古を行い、一定期間が経つとその場を離れて別の地域へ移動するといった旅していた。
その日も人里離れた森の中、定期的に実施される模擬戦を行う4人の姿があった。各々武器を持ち、2人ずつのペアによるチーム戦を行うため、ポップ・アバンのペア、レグルス・ラーハルトのペアで組み、お互い真剣な表情で向かい合い、一定の距離を保ちながら様子を伺う。
「いっくぜぇ!メラゾーマ!」
ポップからメラ系最大の呪文がラーハルトに向けて放たれたことを切っ掛けに模擬戦が始まり、それぞれが武器を持ち駆け出し、ラーハルトはメラゾーマの対応のために武器を構えた。
「海鳴閃!」
ラーハルトは巨大な炎の塊をアバン流槍殺法の技で切り裂くとその先に魔法を放ったポップの姿が消えていたため、すぐに視線を動かして探した。
「どこだ!」
「ラーハルト右だ!海波ー」
「おっと打たせませんよ!」
闘気を感じ取ったレグルスが魔法を放った位置から右へ移動しているポップに向かってアバン流刀殺法の海波斬を放とうとしたが、動きを読んだアバンによって技を繰り出す前に剣戟に持ち込まれた。
剣の技術はレグルスの方があるため、アバンの攻撃をいなすことが出来ているが、力はアバンに及ばないため決定打にならず、アバンも出会った頃より剣の技術が上がっているため、アバンからの攻撃にレグルスは防戦一方になっていた。
「くっ!バイキルト!」
「バイキルトですか!」
バイキルトを自身にかけたことによりレグルスの攻撃力が2倍に上がったことでアバンの攻撃力を上回り、防戦一方だったレグルスは攻撃に転じ、逆にアバンは防戦となった。
「大地斬!」
上段から振り下ろされたレグルスの攻撃を受けるのは危険と判断したアバンが横に避けると元々居た地面は大きくひび割れ、レグルスの倍化した攻撃力の高さが伺えた。
「凄まじい力ですね!ならこれにはどう対応します?レグ君!」
「あの技は…!」
アバンが技を繰り出すため構えを取り、剣に闘気が集まるのを感じたレグルスは以前防御したことで剣を握れなくなった過去から迎撃するために技を構えた。
「アバンストラッシュ!」
「海波斬!」
2人が繰り出した技は空中でぶつかり合うと周囲に衝撃波が広がった。技の威力は闘気を纏ったアバンストラッシュの方が強いが、バイキルトにより攻撃力はレグルスの方が上であったため、2人の技は拮抗し、結果、周囲に衝撃波を伝えながらも技自体は相打ちとなった。
「驚きました。アバンストラッシュまで防がれてしまうとは!」
「こちらも驚いている。闘気を纏っている分アバンストラッシュの方が技の威力は高いと考えていたが、攻撃力を2倍に上げてもなお相打ちとはな!」
「うーん、このまま剣で戦っても勝機は薄そうですねぇ。レグ君には私のとっておきをお見せしましょう!」
「剣をしまった?何をする気だ」
アバンが剣を鞘にしまった事で何か企んでいると考えたレグルスは剣を構え、アバンを警戒しながら様子を見ていた。アバンの体から魔法力が滲み出し、両手を握りしめると体全体に力を入れ始めた。
「むうぅぅん!行きますよレグ君!ドラゴラム!」
アバンが呪文を唱えると魔力が噴き出し、アバンの体が大きく膨れながら姿を変えるとそこにはメガネをかけ背中に翼を生やした巨大な赤いドラゴンが姿を現した。
「ドラゴラム!ドラゴンに変身する呪文か!まさか使い手がいるとは」
「そうです!そしてドラゴンの皮膚は鋼鉄並み!たとえ攻撃力が上がっていたとしても生半可な攻撃では傷一つつけられませんよ!さあ、どうします?レグ君!」
メガネをかけた赤いドラゴンがレグルスに襲いかかった。
一方レグルスとアバンがいる位置から少し離れた場所では魔法による爆発音が断続的に響き渡り、周囲は煙で視界が悪くなっていた。
ラーハルトは空からくるイオの連続攻撃を海鳴閃で切り裂き、避けながらも魔法が放たれた場所へ素早く移動するが、そこにはポップの姿がすでになく、次々とくる上空からの攻撃に対処するため視線を上に向けた。
「以前戦った時の反省を生かしているようだな!」
「へっ!俺は同じ間違いをしないんでな!」
以前模擬戦を行った際、ポップが放った魔法をラーハルトが海鳴閃で切り裂くと背後にいたポップも一緒に攻撃し、ポップが開幕早々一瞬でやられたことがあった。
その反省を踏まえてポップは魔法を放つとすぐさまその場を移動し、海波斬などの遠距離攻撃の範囲から外れるようにした。さらにイオを連続で放ち攻撃が当たらずとも爆発後の煙で弾幕をはることでラーハルトの視界を奪い、すぐにやられないようにしていた。
視界に入ったら最後、ラーハルトのとんでもないスピードから逃げ切るのは不可能だからである。
「ヒャダルコ!」
イオの連続攻撃のさなか、氷系呪文が聞こえたことでラーハルトは自身を凍らせるのが目的だろうと警戒して空を見上げた。
だが、上空から氷系呪文は飛んで来ず、代わりに足元からパキパキと凍る際の音が聞こえたため、慌てて足元を見ると自分の両足が地面ごと凍らされようとしているところであった。
「イオを空から攻撃し続けていたのは足元の注意をそらすためか!」
「おめえから逃げ切るのは無理だからな!足止めさせてもらったぜ!イオ!」
煙で視界が悪くラーハルトからは良く見えていなかったが、ポップと思わしき影が木の間から出てくると連続で魔法を放ちだした。
移動せずその場に立ち止まっての連続魔法攻撃は先ほどの移動しながらの攻撃よりも短いスパンで攻撃が行われるためラーハルトが海鳴閃で魔法を切り裂くもその際に発生するイオの衝撃波によりラーハルトの身体に少しずつ傷を作っていた。
その場から移動するために足元の氷を壊そうとするが上空からの攻撃で足元の問題に対処できず、徐々に体力を削られ続ける状況にラーハルトは少し焦りを感じていた。
「(このままではやられる、被弾覚悟で足元の氷を壊すしかない!)地雷閃!」
空に向けていた槍の刃先を思いっきり地面に突き立てると足元を中心に氷とその下の地面に大きなひびが入り、氷に閉ざされていた足も解放された。
だが、空から連続して飛来してきたイオの何発かをまともに受けたことで、ラーハルトは爆風により被弾した位置から背後に吹っ飛ばされてしまった。
「くっ!」
苦痛に顔をゆがめながらも空中で体制を整えるとすぐさまポップがいた位置まで駆け出し、煙で視界が悪い中、ポップの影に向かって槍の柄で攻撃した。
「俺の勝ちだ!」
槍の柄はポップの肩あたりに振り下ろされたが、当たった際の感覚が生き物の感触ではなく、さらに近づいたことで影の正体が何であるか気づき、ラーハルトは驚きに目を見開いた。
「なっ!氷だと!」
「イオ!」
氷に槍を振り下ろしてすぐ、横からの近距離魔法攻撃が無防備な体の側面に直撃したことでラーハルトは爆風により大きく吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
地面に一度バウンドしながらも、すぐさまラーハルトは体勢を整えたが、体は何度もイオの攻撃を受けたことにより服はボロボロ、砂埃や青い血が所々ついており、表情も痛みのため険しいものとなっていた。
一方ポップは息を切らし、驚きながらも嬉しそうな顔をして魔法を放った手と吹っ飛ばされたラーハルトを見ていた。
「やった…、初めてラーハルトに勝ったぞ!」
「まだだ!まだ戦える!」
ラーハルトはすぐさま槍を握りなおすとポップに向かって駆けだそうとし、ポップは慌てて両手をラーハルトに向けながら焦った声で制止を叫んだ。
「まてまてまて!そんなボロボロで何言ってんだよ!それと最後のイオだけどよ、あれやろうと思えばメラゾーマにすることもできたんだぜ?」
「…俺の負けだ」
ラーハルトは槍を下ろし、その場で膝をつくと息を吐きだして力を抜いた。ポップはほっとしながらも嬉しそうな表情でラーハルトに近づき、ラーハルトはそんなポップを見上げながら疑問を口にした。
「先ほどの氷は俺の足を凍らせた時に作ったのか?」
「おう!俺の大きさに合わせて作ったんだぜ!ばれないようにずっとイオを打ち続けなきゃいけないけどな。おめーを倒す方法考えるのすんげぇ苦労したんだぜ、先生やレグに相談したりしてよ。おかげでやっと勝つことが出来たぜ!」
「今回はしてやられた、まさか攻撃呪文に複数の意味を含めていたとはな…。最初出会ったころと比べて強くなったなポップ」
「へへっ!おめーが褒めるなんて明日は雪が降るかもな!」
「出会った頃は褒める要素などどこにもなかったからな、サボるうえに逃げようともする。今は逃げなくなったうえに強くなったからな」
以前は訓練前や合間に隙をついて逃げていたポップだったが、最近は逃げずに訓練に参加していた。と言うのも、アルキード王国を出た頃からラーハルトはポップをすぐ連れ戻すためある方法をとるようになり、その方法はポップを百発百中見つけ出してしまうため、逃亡が一度も成功することがなくなり次第にポップは逃げるのは不可能だと諦めて訓練に参加するようになっていた。
「逃げなくなったのはおめーとレグのせいだろ。逃げても追いつかれるし、隠れてもすぐに見つかる!俺、逃げ足の速さだけは自信があったんだけどなぁ…。最後に逃げたときなんかはおめーレグを抱えて追いかけてくんだもんよ、逃げも隠れもできねーじゃんか!」
「お前の居場所を教えてもらえれば確実に捕まえることが出来るからご協力いただいた。レグルス様は軽いから抱えても影響は軽微なうえ、補助魔法をかけることもできる。俺とレグルス様から逃げるのは不可能だと思うことだな」
「へーへー、もうおめーらから逃げねーよ」
「ところで、向こうはまだ戦っているが行かないのかポップ」
離れた場所から火柱が上がるのが見え、2人が現在も戦い続けていることがうかがえた。それを見ながらラーハルトはポップに問うが、ポップは口をへの字にしながら首をぶんぶん振り拒否を示した。
「無理無理!レグは目を閉じても直接海波斬を飛ばしてくるんだぜ?アバン先生最速の技を避けるのは無理なこった!それにさっきの戦いで魔法力はほとんど空になっちまった。魔法力が空になった魔法使いは足手まといなんだよ」
「分かった、なら2人の戦いを一緒に見に行くとするか」
「おうよ!」
ラーハルトは立ち上がるとポップと共に、先ほど火柱が上がっていた戦闘が行われているだろう方向へ歩き出した。歩き出してすぐ、木々の隙間から見える赤いウロコの巨体が見えたことで、2人は驚きながら駆け足で近づいた。
「なんでこんなところにドラゴンがいるんだよ!先生の姿が見えねぇ、まさかやられちまったのか!?」
「レグルス様に加勢するぞ!…ん?まて、ポップあのドラゴンの目元を見ろ」
「ありゃ、メガネか?ドラゴンもメガネつけるんだな…ってありゃ先生のメガネじゃねぇか!」
「あのドラゴン、アバン殿ではないか?」
「そうか!ドラゴラム!魔法でドラゴンに変身したんだ!アバン先生、使えるだなんてさすがだぜ!」
ドラゴンの正体に驚きながらもアバンなら出来そうだと納得したラーハルトとポップは駆け足をやめ、歩み寄るとドラゴンの炎からの攻撃が当たらない位置にてレグルスとアバンの戦闘を眺めた。
レグルスは巨体による遠心力から繰り出されるドラゴンの尻尾の攻撃から避けるため、走りながら木の幹を蹴ると空中に飛び上がった。レグルスが飛び上がってすぐ、ドラゴンの尻尾により、レグルスが蹴った木は幹の下のほうが破壊され、音を立てながら倒れた。倒れた木を横目で見ながら、重力により加速されるスピードを乗せ、レグルスは赤いドラゴンの背中に力一杯攻撃を仕掛けた。
「大地斬!」
レグルスは攻撃をした後、すぐさまドラゴンの皮膚を蹴りその場を飛び退くとレグルスがいた場所にはドラゴンの鋭い前足が通り過ぎた。
(避ける判断を一瞬でも遅れればそれだけで致命傷になる!攻撃するタイミングにも気を付けなければ)
判断を一瞬でも遅れれば巨体から繰り出す攻撃でやられるため、レグルスは常に集中して戦闘に挑まなければならなかった。後ろに飛び退いたことでドラゴンと距離が出たことにより今度はドラゴンの口から炎のブレスがレグルスに襲い掛かってきた。
「海波斬!」
すぐさま迫りくる炎を切り裂いたレグルスは切り裂かれた炎の隙間から大地斬にて攻撃した箇所を確認したが、ドラゴンの赤いウロコには傷一つなく、攻撃が効いている様子がなかった。
「ふむ、やはり効かないか」
「フフフ、さすがのレグ君でもドラゴン相手は厳しいですかね」
「そうだな、ドラゴンは鋼鉄のウロコを持ち、炎に耐性がある。有効手段は限られてくるな」
「その様子ではまだ何か手がありそうですね!ドラゴン相手にどう対処するか見せてもらいましょうか!」
ドラゴンの炎のブレスを避けるためレグルスは後ろに大きく飛び退くと、視界いっぱいに炎が広がった。直接炎に当たってないが、離れていても熱量で肌が熱くなるのを感じながら、炎の壁によってアバンの視線が遮られ瞬間、アバンに見えない状況でレグルスは自身にある補助呪文を小声でかけた。
「ピオラ」
身体に魔法の効果がかかったことを感じながら、レグルスは反撃に転じるためのタイミングを見計らった。炎が落ち着くとレグルスはドラゴンの前足攻撃と尻尾攻撃では届かない距離まで近づき、ドラゴンが再度ブレスするのを注意深く待った。
(今だ!)
ドラゴンがブレスを吐くために鼻から息を吸い込んだその時、レグルスはドラゴンの口元に向かってかなりのスピードで駆けだした。そして、ドラゴンが口を開けた瞬間、レグルスは左手に威力を弱めた魔法をわざとタイミングをずらしてドラゴンの口に向けて放った。
「イオ!」
「ぐおっ」
威力を弱めたイオがドラゴンの口先で爆発したことで、炎を吹き出そうとしていた口の一部が塞がれ、逃げ場をなくした炎が口の中で爆発した。煙が晴れるころ、姿を現したドラゴンの頭は黒いすすで真っ黒、大きな口の隙間からは黒い煙と小さな炎をチロチロ出し、さらに自身のブレスによりやけどを負ったためかドラゴンは動かなかった。
「私の、勝ちだ!」
レグルスは息を切らしながらも生き生きとした表情でドラゴンを見上げ嬉しそうに勝利したことを口にした。ドラゴンの口から炎が収まる頃、動かなかったドラゴンは大きな巨体を揺らすとゆっくりと地面に倒れた。そのとたん魔法が解け、ドラゴンの巨大な姿が徐々に小さくなるとその場にはアバンが顔をすすで黒くしながら仰向けに倒れこんでいた。
「うーん…」
アバンは目をぐるぐる回しながら気を失っていたため、レグルスは傍に近寄ると回復呪文をかけた。離れた場所から戦いの行方を見ていたラーハルトとポップが先ほどの戦いのやり取りを見て興奮さめやまぬ様子でレグルスたちの元に近づいた。
「すんげぇ!ドラゴンを倒しちまった!」
「おめでとうございますレグルス様、素晴らしい戦いでございました!」
「ああ、アバン先生は強かった」
いつもは感情を表に出さないレグルスがポップとラーハルトの誉め言葉に少し笑って嬉しそうに返事をした時、目を覚ましたアバンが口から黒いすすを吐き出しながら咳き込み、ポップとラーハルトが自分を見ていることに気づくと恥ずかしそうな表情をして回復魔法をかけているレグルスを見た。
「けほっ、けほっ。参りました、まさかあのような方法があるとは思いませんでした。最後の攻撃はどのようなものなのですか?」
「本来はイオを口先ではなく、口の中で爆発させることでドラゴンの炎のブレスとイオの威力によりドラゴンの首を吹き飛ばすことが出来る。今回はイオを弱め、タイミングをずらすことでアバン先生のダウンを狙った」
「げぇ、首を!?おっかねー技だな!」
「魔法が使える者には有効な技術だが、見ていたところタイミングが難しく誰にでもできるものではない。間違えればドラゴンの攻撃でやられてしまうしな」
「…今後レグ君と戦うときはドラゴラムは二度と使わないようにします。ところでイオを放つ直前、レグ君がスピードアップした気がしたのですが、何か魔法を使いましたか?」
「味方の素早さを上げる呪文、ピオラを自身にかけた。アバン先生に気づかれないように事前に自身にかけることでこちらの攻撃を悟られないようにした。あの攻撃はタイミングが大事だからな」
「なるほど、ピオラでしたか」
レグルスはドラゴンの炎のブレスを大きく後ろに飛び退いた際、自身にピオラをかけスピードを上げたが、アバンに悟られては防がれてしまい、最悪、タイミングがずれた結果アバンの首が飛ぶ可能性もあったため、ばれないようにピオラをかける前のスピードで動き、ここぞという時にスピードを上げて正確に攻撃した。アバンはカウンターも得意であったため、タイミングを掴まされないようにする必要もあった。
「ふぅ、回復呪文はもう大丈夫ですよ。次はラーハルトを見てあげてください」
「分かった。ラーハルト、手ひどくやられたようだな」
「はっ、面目ありません」
レグルスはアバンの回復呪文を止めると、ラーハルトに回復呪文をかけ全身の状態を確認した。ボロボロになり汚れた服、あちこちにできた傷を見ると壮絶な戦いであったこと、実力的にも信頼厚いラーハルトがここまでやられてたことに対して助言したとはいえポップの成長にレグルスは驚いていた。
「ラーハルトをここまで追い詰めるとはポップも随分成長した」
「そうですね、相性もポップの方が悪かったでしょうに一度もダメージを食らうことなく勝っています。強くなりましたね、ポップ」
アバンそして普段あまり褒めないレグルスに褒められたポップは驚いた表情をしたが、次第に嬉しそうに表情を崩すと気を大きくした。
「まあな!このポップ様にかかればこれぐらい朝飯前ってこった!次もその次も俺様が勝ってやるぜ!」
ポップの調子に乗った発言にラーハルトは額に青筋を立てると、回復中の身であったがその場に立ち上がりポップを睨みつけた。レグルスは立ち上がったラーハルトを見上げながらも急に立ったことに気にした様子なくホイミをかけ続けていた。
「…1回勝ったぐらいで調子に乗るな馬鹿者が!次戦った時、今回のような手が通じるとは思わないことだな!」
「げぇっ!あの作戦考えるのすんげー大変だったんだぞ!」
「知るか!次も俺に勝つ気なら新しい作戦を考えておくんだな」
頭を抱えるポップとそんなポップを見ながら鼻を鳴らすラーハルトを見ながらアバンは競い合い、成長していく生徒の姿を嬉しそうに見ていた。
「さて、私は町に行って買い出ししてきますね。ポップ行きますよ」
「先生、顔!顔洗った方がいいっすよ!」
「そうだな、顔が煤で真っ黒だ」
周りに指摘され、アバンは手で自分の顔を触ると指先に黒い煤がついたため、現在の自分の姿を想像したアバンは笑った。
「あらら、本当ですね。せっかく1時間かけて髪のセットと顔の手入れをしたのですがね」
「訓練前にいつも手入れをしているのか?動けば髪は乱れる、あまり意味はないだろうに」
「そんなことないです!人は第一印象が大事です。見た目を整えておけば、いざ出会いがあったときに好感度上がりますよ~!」
「へぇー!俺も見習おっかな!」
アバンが水で顔を洗った後、タオルで拭きながら戻ってくるとポップに声をかけた。
「では、ポップ行きましょうか」
「はい先生!んじゃ、行ってくるぜ」
「ああ」
「レグルス様、模擬戦の反省をしたいためアドバイスを頂けますでしょうか」
「そうだな、まずは互いの―」
アバンはポップを連れて町へ買い物しに出かけ、ラーハルトの治療を終えたレグルスはラーハルトと模擬戦の詳細な内容をお互いに話し合った。
「アバン先生、これいくついりますか?」
「4つでお願いします」
町に着いたアバンとポップは今晩の食材を買うため、お店で野菜の選別をしていた。ポップがアバンの名前を呼んだところ、お店の従業員がはっとした表情でアバンに話しかけた。
「お客さん、もしかして家庭教師のアバンじゃないかい?」
「ええ、私が家庭教師のアバンです」
「ああ、やっぱり!数日前に兵士があんたのこと探してたよ。何の用かは分からないが、後で尋ねるといいよ」
「そうでしたか、教えて下さりありがとうございます」
食材を買い終えた2人は荷物を抱えて町にあるという兵士の詰め所に向かって歩いていた。
「先生に用事ってなんですかね」
「恐らく、家庭教師の依頼でしょう。私は旅をしているので私に用事がある際は兵士のいる場所や政府機関に情報がくるようになっているのです。私が町に来ると定期的に兵士の詰め所を訪ねていたのは私宛の手紙などが来ていないかの確認の意味もあったのですよ」
兵士が滞在しているという小さな詰め所にたどり着いたアバンは入口に立つ兵士に声をかけた。
「失礼、私、家庭教師をしておりますアバン=デ=ジニュアールⅢ世と申します。町の方から私を探していると聞き、訪ねさせていただきました」
「分かった、確認するから待ってくれ」
兵士が建物内に入り少しすると隊長と思わしき人物が出てきてアバンとポップに近づき挨拶をしてきた。
「初めましてアバン様。私はこの町で兵隊長をしている者になります。実はパプニカ王国の国王がアバン様を探しておりました。つきましては、パプニカ王国へ参上願います」
「分かりました、パプニカ王国に向かうと致します。ちなみに用件などはご存知でしょうか?」
「詳しくは分かりかねますが、アバン様に家庭教師をお願いしたい人物がいるとのことです」
「分かりました、教えていただきありがとうございます」
兵隊長に挨拶をした2人は兵士の詰め所を離れ、ある程度の距離を歩くとポップは目をキラキラさせながら隣を歩くアバンに振り向いた。
「やっぱ先生ってすんげーよ!テラン王国にパプニカ王国、世界中の国が先生を頼るなんて、それだけすごいってことですよね!」
「多くの方から信頼をいただいているのは確かですね。さあ、レグ君たちの元に戻りましたら出発の準備をしましょうか」
食材を抱えたアバンとポップは森の中に入り、寝泊まりしているテントに戻るとレグルスとラーハルトにパプニカへ行くことを伝えた。パプニカの名を聞いたラーハルトは険しい顔をして少し不機嫌になったがパプニカ行きを了承して準備を始め、アバンとレグルスはそんなラーハルトを気づかわしげに見ていた。その日は購入した食材を使った夕食を取り、テントで一泊すると次の日の朝、パプニカに向けてその場を後にしたのだった。
ポップはラーハルトに勝利した!
レグルスはアバンに勝利した!
折角なのでレグルスとラーハルトはアバン流の技を覚えてもらいました!
次はパプニカ王国になります!
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。