ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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行方不明のポップとダイを探すためロモス周辺を捜索するレグルスとラーハルト。
そんな時、魔王軍の軍勢がロモスに襲い掛かる。
ダイ(12)、主人公レグルス(10)。


17_ロモス編_百獣魔団襲撃

レグルスとラーハルトがロモスにたどり着いてから5日が経過していた。本来であればロモスに近いはずのポップ達が先に到着しているはずが、レグルス達がロモスに着いた時にはまだ到着していなかった。そのため、レグルスとラーハルトは不安を抱えながらも港周辺で舟を探し、ロモスの人々にポップとダイの特徴を伝え、街中で人捜しを行ったが、誰も2人の姿を見たという者はいなかった。人捜し後、ロモスに舟が到着していないと考えたレグルスとラーハルトは、日中の間は毎日港からデルムリン島の方角の海を見てポップとダイが乗った舟が来ないかの確認と、ロモス国内とロモス周辺の海岸線を歩きポップ達の痕跡を捜索したが、この5日間の間、痕跡を見つけることはなく、レグルスとラーハルトの不安は日を追うごとに徐々に膨らんでいた。

 

そして、5日目の夜、宿泊している宿屋にて不安が爆発したラーハルトは居ても立っていられず地図を出しながらレグルスと対策を話し合っていた。

 

「何かあったに違いない!海上で敵に襲われたか、もしかしたらデルムリン島に戻っているかもしれない!レグルス様、明日は島に行きましょう!」

「そうだな、舟が故障し、島から出られない可能性もある!明日朝一でデルムリン島に向かおう!」

 

レグルスとラーハルトは明日、行方が分からなくなっているポップとダイを捜しにデルムリン島に向かいながら海上の捜索を行うため地図を見ながら捜索個所を話し合った。

 

「こんな時、メルルかナバラが居ればすぐ見つけられるのに!」

「最悪、彼女たちの力を借りよう。デルムリン島で見つからない場合は一度ベンガーナに戻るぞ!」

「はい!ポップ、無事でいろよ!」

 

まさかポップとダイが、ロモスがあるラインリバー大陸にすでに上陸し、ロモス王国の港から反対側の出口にある魔の森にいるとは思いもせず、レグルスとラーハルトはポップ達が生きていることを願いながら朝早く舟に乗るため早めの就寝をしたのだった。

 

 

 

その日の夜遅く、レグルス達がアバンと指定した待ち合わせ場所にて、ある3人の姿があった。

 

「ねえ、ポップ。待ち合わせ場所はここ?」

「ここで合ってるぜ、っても居ないなぁ…レグーーー!ラーハルトーーー!居たら返事しろーーー!」

「ちょ、ちょっと!流石に近所迷惑よ!」

「もう夜遅いよ。明日、またここに来よう!」

「そうすっかぁ…あーあ、さっさとあいつらと合流したかったのによぉ…」

 

3人は来た道を戻り、宿屋に向かって歩き出した。

 

「お腹すいたね…」

「宿屋に戻ったら食事にしましょう!」

「今日の飯は肉にしようぜ!」

「いいわね!」

「俺も肉食べたい!」

 

通りには3人、ダイ、ポップ、マァムの明るい元気な声が響いていた。

 

 

 

夜明けとともに宿屋を出たレグルスとラーハルトは人がいない静かな港に行くと停泊している舟へ数日分の食料と水の積み込み作業を行っていた。ポップ達捜索のためデルムリン島に向かう準備を素早く行い、そして、最後の積み荷を舟に運搬した。

 

「運搬完了しました。いつでも出発できます!」

 

ラーハルトが舟の上から声をかけると、レグルスはデルムリン島に出発するため、港の岸壁から舟に乗り込んだ。

 

「よし、デルムリン島に向けて出発する!」

「はっ!」

 

そして、舟を漕ぎだそうとしたその時。

 

ウオォォーン!

 

城がある方角、さらに言えばその先の魔の森の方角から動物の唸り声のような、遠吠えのような叫び声がロモス全土に響き渡った。

叫び声を聞いたレグルスとラーハルトは乗っていた舟から港の岸壁へすぐに移動すると声が聞こえた方角を驚きの表情で見つめた。

 

「今の叫び声はなんだ!?」

「!魔の森の上空、多数のモンスターがロモスに向かっている!ドラキー、キメラ、キラービー、キャットフライ…おそらく地上にもモンスターがいるだろう!」

 

ラーハルトはロモスの方角から黒い点のようなものが飛んでいるのは見えたが、その正体は遠すぎて分からなかったため、内心レグルスの視力に感心していた。

 

「レグルス様、このモンスターは!」

「おそらく、魔王軍の侵略だろう!」

「!!くっ、島に向かおうとしたこのタイミングで!」

 

叫び声を聞いたロモスの人々は慌てて起きだした。窓を開けると魔の森の方角を指さして驚き叫びだす人、慌てて家から飛び出し逃げ出す人、静かだった港町は一転、避難する人、戦いに備える人、恐怖に叫び出す人で騒然となった。

 

「うわぁぁぁ!魔王軍だ!クロコダインの百獣魔団だ!!」

「に、逃げろ!ロモスはお終いだぁ!」

 

レグルスは騒然となった港で必死の表情で逃げ出す人々を見ながら、敵を倒すことが出来ないことを残念に思いつつもポップ達を捜すため舟に乗り移った。

 

「我々はこのままデルムリン島に行く。ポップ達の捜索を優先する」

「…はっ」

 

ラーハルトはロモスの人々を見捨てることに罪悪感を抱きながらも、ポップ捜索を優先する主の命令に従おうとした。だが、一方でロモスの人々がこの後、魔王軍により多く亡くなるのを理解していたため、動揺しながらも出港を少し遅らせるためレグルスに質問をした。

 

「ロモスは…我々が戻って来るまで、耐えられるでしょうか?」

「…厳しいだろう。あの数の軍勢ではロモスは守りきれない。恐らく今日、もって明日までだ。我々が戻った時にはロモスは滅んでいる」

「……」

「ラーハルト?」

 

レグルスは舟に乗らず、押し黙ってしまったラーハルトを不思議に思いながら声をかけた。ラーハルトは少し迷ったのち、ある決意をすると仮面の下で真剣な表情をしてレグルスを見た。

 

「レグルス様、俺はロモスを助けたく思います…!もし…このまま、ロモスを見捨てたら…俺は後悔します…」

「…変わったなラーハルト…以前のお前であればテラン以外の人間など助けたいと言わなかっただろう」

「はい、ポップとアバン殿に影響を受けたのは確かです…レグルス様、以前アバン殿がモシャスを悪用しようとしたポップになんと言ったか覚えていますか?」

 

レグルスは脳裏に浮かべた人物、以前アバンが言った言葉を思い出していた。

 

「確か『身につけた力や魔法は人々のために使うべきだと私は思いますよ』だったか…フッ、あの時はポップの姿だったな」

 

テランにて2人に出会った日、アバンがモシャスで化け、ポップの姿で言った言葉だった。その後の旅の最中もアバンは人助けをした際に何度かこの言葉を皆に言っており、レグルスは旅していた記憶を思い出しながら、それが遥か昔のように感じ、懐かしさとアバンの言葉が二度と聞けないと思うと悲しい気持ちになった。

 

「ロモスの人々を見捨てたとしたら…アバン殿はきっと、怒るでしょうね…『あなたたちの力は人々を助けるためにあるのですよ』…そう言いそうだ」

「今のマネなかなかうまかったぞ…そうか、彼らを見捨てればアバン先生は私に失望するかもしれないのか………ラーハルト、魔王軍の侵略者どもを排除するぞ。迅速に対処し、終わり次第ポップ達の救助に向かう!」

 

レグルスは乗っていた舟から港の岸壁へ移動するとラーハルトの隣に並んだ。

 

「!!承知しました!」

「ラーハルト、ブローチを付け、仮面を外せ!」

「はっ!」

 

ラーハルトは以前テラン国王であるフォルケン王から受け取ったテラン王家の紋章が入ったブローチを胸に着け、仮面は外し懐にしまった。周囲にいる人々はラーハルトの魔族の姿を見ると、ぎょっとして避けたが、レグルスとラーハルトは周囲の人々の目線を気にすることなく、戦いが起きていると思われる魔の森の方角に向けて駆けだした。

 

 

 

「うわぁぁぁ!こっち来るな!」

「グオオオ!」

 

男性はロモスの通りをあばれざるに追いかけられながら捕まらないように必死で逃げていた。朝、百獣魔団の叫び声を聞き飛び起きた男性は逃げるため通りを走っていたが、城門から多くのモンスターがロモス国内に侵入したことで通りにはモンスターがあふれ、上空には飛行可能なモンスターが飛んでおりどこにも逃げ場がない状態であった。

 

男性は地上を闊歩するモンスターに見つからないよう隠れながら移動していたが、とうとうあばれざるに見つかってしまったことで男性は攻撃を必死で避けながら通りを走り続け、逃げ続けていた。

 

「グオオッ!」

「ぎゃっ!」

 

だが、あばれざるの足は速く、背後からの突進により男性の身体は道端に置いてある荷物に頭から突っ込み、その場で転倒してしまった。

 

「グオオオ!!」

「や、やめろー!」

 

転倒した男性は立ち上がる暇もなく両腕を振り上げたあばれざるの攻撃が自身に振り下ろされるのを恐怖に叫びながら、見ているしかできなかった。

 

「海鳴閃!」

 

男性に向けてあばれざるの腕が振り下ろされる、その時、あばれざるは突如後方に血を吹き出しながら吹っ飛び、地面に転がるとそのまま動かなくなった。男性は突然の出来事に唖然としていたが背後に人が近づくのを感じたためゆっくりと後ろを振り向いた。

 

「無事か?」

「あ、ああ、助かった―っえ!?ま…魔族!!!」

 

振り向いた先に魔族がいることに気づいた男性は啞然とした表情でラーハルトを見ていたが、ラーハルトは落ち着いた表情で槍を地面に突くと座り込む男性に対し名乗りを上げた。

 

「…俺はテラン王国兵士ラーハルト!テラン王家の命により、魔王軍の侵略者を排除する者だ!」

「えっ…テラン?…兵士?」

「ホイミ。ここは危険だ、早く立ち去るといい」

 

男性は自身に癒しの光が照らされた後、怪我の痛みがなくなったことで慌てながらも急いで立ち上がると回復魔法をかけた人物を見て、それが小さい子供であることに男性は驚いた。

 

「こ、子供!?」

「私もテラン王国の兵士だ。それより、向こうの通りを進むとロモス兵士がいる。彼らに合流するといい」

「ロモス兵士が!分かった、回復してくれてありがとな!魔族の兄さんも助けてくれてありがと!」

 

男性はロモス兵士がいる方向へ向かって走りながらレグルスとラーハルトにお礼を言った。レグルスは通りの向こうまで走り去る男性が無事に離れていくのを確認するとラーハルトと共に男性が走り去った通りの反対側、モンスターが大軍でこちらに走ってくる通りの先を見つめた。

 

「敵は百獣魔団と言っていたな、確かに獣のモンスター集団のようだ。行くぞ、ラーハルト!取りこぼした敵は私が仕留める!」

「あなた様のご負担にならないよう敵は倒しきるつもりです!」

「ふっ、頼もしい限りだな」

 

ラーハルトは先に駆け出すと、走り抜けながらモンスターを目に見えない速さで切り裂き、レグルスはラーハルトの後ろを走りながら横の通りから出てきたモンスターを剣や魔法で倒していった。2人が通った後は無数のモンスターが血を流しながら倒れていた。

 

 

 

2人はモンスターが多くいる方へ向かった結果、自然と魔の森側の王国出入口付近まで来ていた。出入り口付近ではモンスターの侵入を少しでも食い止めようと必死でロモス兵士が戦っていたが、敵の数が多く、大部分のモンスターがすでにロモス王国内への侵入を許してしまっていた。ロモス兵士はモンスターと必死で戦っていたが、背後からやってきた魔族のラーハルトを見るとぎょっとして警戒すると槍を構えた。

 

「ま、魔族!もしやこのモンスターはお前が差し向けたものか!?」

「違う、我らはテラン王国の兵士、テラン国王陛下の命により魔王軍と戦うものだ!」

「何?テラン?…ほんとだ、ブローチの紋章見たことがあるぞ!テラン王家の紋章だ!」

 

ロモス兵士はレグルスの言葉にラーハルトの胸についているテラン王家の紋章が入ったブローチを見ると、ラーハルトへ向けていた警戒を解き槍の刃先をモンスターに向けた。

 

「失礼した!テランのご助力に感謝する!」

「現在の戦況は?」

「魔の森からモンスターが次から次へと来る!食い止めるのはもう無理だ!すでに多数のモンスターが国内に侵入している!」

「これ以上の侵入を阻止する必要があるな、行くぞ」

「はっ!」

「無理だ!撤退するしか―ま、待て!そっちはモンスターが数えきれないほどいるのだぞ!行くな!止まれ!」

 

ラーハルトとレグルスがモンスターの集団に向かって突っ込んでいくのを見たロモス兵士はぎょっとして慌てて止めようと大声を上げるが、2人は意に介さず進んだ。

 

「心配は無用だ。このモンスターは我らが倒す!」

「無茶だ!戻れー!!!」

「前方の敵を一気に倒します!」

「頼む!」

 

レグルスは攻撃の巻き添えを食らわないように走るスピードを落とし、ラーハルトは高く飛び上がると頭上で槍を高速回転させ、通りに集まるモンスターの群れに向かって大きく槍を振り下ろした。

 

「ハーケンディストール!!」

 

ラーハルトが放った縦に弧を描いた衝撃波により通りにいた多くのモンスターは倒され、壁際に高く積み上げられた。ロモス兵士が言葉をなくし唖然としている最中にも横の通りや奥の森から新たにモンスターがやってくるが、それも2人がすぐに倒してしまう。

 

「海波斬!」

 

レグルスの剣の斬撃により離れた場所にいたモンスターは倒され。

 

「地雷閃!」

 

ラーハルトの槍が地面に突き刺さると地面がひび割れ、その上にいた複数のモンスターが地面に空いた穴へと叫びながら落ちていった。

 

「な、なんだとおぉ!!!」

 

わずかな時間の間にモンスターが次々と倒されていき、ロモス兵士の視界にいた通りを埋め尽くすモンスターはすべて倒されていた。あっという間の出来事にロモス兵士は驚き唖然としていたが、すぐに正気を取り戻すと武器を掲げ大声を上げた。

 

「この機を逃すな!テラン兵士に続けー!!」

「おおーっ!!」

 

レグルスとラーハルトが前線でモンスターを倒し続け、後に続くロモス兵士がモンスターの侵入経路をバリケードを設置することで塞ぎ、魔の森入口付近にいたモンスターはかなりの数を減らすことが出来た。

だが。

 

「あ、新たなモンスターの群れが魔の森からやってくるぞー!」

「攻撃に備えろー!」

 

魔の森からは次々とモンスターが押し寄せるため、ずっと休まず戦い続ける必要があり、連戦に続く連戦にラーハルトの息は上がっていた。

 

「はぁ、はぁ、くっ!モンスターを倒しても、倒しても、きりがない!」

「ホイミ。これだけの数のモンスターだ、おそらく指揮している奴がどこかにいるはず…」

 

レグルスはラーハルトに回復魔法をかけると近くにいたロモス兵士に駆け寄り、声をかけた。

 

「敵の総大将について知っていることを話してくれ」

「ああ!奴は以前『獣王クロコダイン』と名乗っていた!ワニの見た目の巨大な獣人族だ!」

「そいつはどこにいる?」

「俺は見てないな…誰か!クロコダインを見たやつはいるか!?」

「城だ!あいつが飛んでいるのを俺は見たぞ!」

「!?ワニが空を飛ぶのか?」

「あいつはガルーダに捕まって空を飛ぶんだ!ワニ自身は飛ばねぇよ!」

 

レグルスは背後を振り向くとロモスの中心に位置する国王がいる城を見た。城の周囲には飛行型のモンスターが多数飛び交い、地上付近でも兵士とモンスターの戦いが至る所で起きているのを確認することが出来たが、敵の総大将であるクロコダインは見当たらなかった。

 

「外には見当たらない…もしかして城の中か?ラーハルト、敵の居場所が分かった!城に―」

 

その時、城から巨大な衝撃音がロモス全土に響き渡り、レグルス、ラーハルト、周囲のロモス兵士、モンスターでさえも音の発生源である城を見た。石でできた城の壁面には大きな穴が開き、煙により中の様子は確認できないが、そこで戦闘が行われていることは間違いなかった。

 

「そ、そんな!城が…王様!!」

 

ロモス兵士の叫び声から穴が開いた個所はこの国の国王がいる場所であることが分かった。そして、敵の総大将の居場所も。

 

「我々は城に行く!行くぞ、ラーハルト!」

「はっ!」

「共に戦っていただき感謝する!王様を頼みます!」

 

レグルスとラーハルトは城に向かって走り出した。道中モンスターが城に近づけさせないとばかりに攻撃してきたが、2人は走るスピードを緩めることなく敵を切り裂きながら走り続け、城の正門がある中庭に到着した。

 

中庭でも多数のモンスターとロモス兵士との戦闘が至る所で発生しており、ロモス兵士の数よりモンスターの数が多く、さらに上空を飛んでいるモンスターはほとんど対処できておらず、地上で戦うロモス兵士は地上と上空のモンスターの攻撃でやられていた。

 

「海波斬!」

「海鳴閃!」

 

レグルスとラーハルトは空を飛ぶモンスターに対しては斬撃を飛ばし、地上のモンスターは走りながら武器を振るい切りつけていた。

 

「どこかに入口があるはずだ!そこから中に入り総大将がいると思われる上の階へ行くぞ!」

「はっ!」

 

レグルスとラーハルトは上の階へ行くため、正面玄関を探しながら城の周囲を走りモンスターを倒していた。

 

「!正面玄関がありました!」

 

城の入り口である正面玄関はすぐに見つかり、入り口付近にいたモンスターを素早く倒し、中に入ろうとした。その時、レグルスの額が急にズキズキと痛み出した。

 

(?なんだ、急に額が痛み出した…)

 

以前アルキードで痛み出した時と違い、戦いに支障が出るような痛みではなかったためレグルスは額の痛みを無視しながらエントランスに入り、階段を上ろうとしたところ、唸り声のような、遠吠えのような叫び声がロモス全土に響き渡った。

 

ウオォーオン!

 

その声は開戦時に聞こえたものとは違い、断末魔の叫び声であった。声は城の側面、レグルス達からは見えなかったが先ほど穴が開いた付近から聞こえ、その叫び声のすぐ後、何か巨大なものが地面に落ちる音が響いた。周囲にいたモンスターは叫び声が聞こえた後、少しの間驚愕の表情をしていたが、総大将がやられたことを理解したのかすぐに周囲の人間を避けながら走り出し、モンスターは外へ、魔の森の方角へ向かって逃げていった。

戦意をなくし逃げていくモンスターを唖然と見ていたロモス兵士は徐々に状況を理解すると驚き、喜びの表情へと変化していった。

 

「モンスターが逃げていく…!やった…!やったぞ!魔王軍を追い払った!」

「俺たちは勝ったんだ!魔王軍に勝ったんだ!」

 

ロモス兵士は魔王軍に勝ったことを悟ると近くの兵士と抱き合いお互いの無事を喜ぶ者や両手を突き上げて喜ぶ者、多くは歓声を上げて勝利を喜びあっていた。

レグルスとラーハルトはそんな喜び合うロモス兵士を見ながら武器を下ろし、ほっと息をついた。

 

「どうやら勝ったようですね」

「ああ、敵の総大将を討ち取ったのだろう、ロモス兵士もなかなかやる。これでやっとポップ達の元に行けるな!」

「はい、急いで港に向かいましょう!」

 

「失礼、お聞きしてもよいか?」

 

レグルスとラーハルトが武器をしまい、港に向けて移動しようとしたところ、ロモス兵士3人が魔族であるラーハルトを少し警戒しながらも話しかけてきた。

 

「あなた方は…何者か?」

「俺は、テラン王国兵士ラーハルト!王家の命により魔王軍と戦うものだ!」

「おお!あなたがかの有名なテラン兵士のラーハルトであったか!噂は聞いておりますぞ!」

 

ロモス兵士はラーハルトの名前を聞くと警戒した様子から一変、笑顔を浮かべ見てきたため、ロモス兵士の変わりように、そして自身を知っていることにラーハルトは戸惑いを浮かべた。

 

「…有名?…噂?」

 

戸惑いの表情を浮かべながらロモス兵士を見るラーハルトに代わり、レグルスがロモス兵士の対応をした。

 

「私も同じくテラン兵士だ。我らは国王陛下の命により魔王軍と戦う勇者一行にご助力するためにこの地に来たところ魔王軍の襲撃にあったため、討伐に参加させていただいた」

「そうであったか!あなた方の活躍は多くの民や兵士が目撃しております。此度は我らにご助力していただき感謝いたします!この後、お時間少しよろしいですか?よければお礼をさせていただければと!」

 

ロモス兵士が笑顔でお礼をしたいとレグルス達に言ってきたが、一方のレグルスはロモス兵士を見ながら内心苛ついていた。

 

(こちらは一刻も早くポップ達の元へ行きたいというのに!)

 

ロモス兵士はキラキラした目をしながら善意でお礼をしたいという気持ちを感じたが、レグルスは早くポップ達のもとに行きたい一心のため、ロモス兵士の心遣いにこの時ばかりは有難迷惑だと感じていた。だが、立場上、無下にすることもできず、内心イライラしながらも表情には出さず対応した。

 

「お気遣い感謝いたします。ですが、我らは急ぎ行かねばならぬ場所がありますゆえ、お礼はテラン王家にしていただきたく存じます!」

「かしこまりました!では、陛下にお伝えし、テラン王国にお礼をさせていただきます」

「感謝する、では失礼します。行くぞ、ラーハルト!」

「はっ!」

 

レグルスとラーハルトはロモス兵士に挨拶をした後、走り出すとその場から急いで離れた。ロモス兵士は離れていく2人の背中を見ながら大きな活躍をしていながら謙虚に対応する姿に好感を抱いていた。

 

「あれだけの実力がありながらなんと謙虚な!テラン王国は兵士の教育が素晴らしい!きちんとお礼が出来なかったのは残念だ…」

「報告ー!報告ー!」

「ん?」

 

城の中から出てきた兵士が走りながら外にいる多数の兵士に聞こえるよう大声を上げた。

 

「魔王軍百獣魔団の軍団長、獣王クロコダインを勇者ダイが討ち取り勝利した!これより戦勝式と勇者様のお披露目を行う!怪我人以外は参加するように!準備も手伝ってくれ!」

「おお…!勇者様が!」

「あのクロコダインを倒すとは!さすが勇者様だ!!!」

「ん?そういえば先ほどのテラン兵士が勇者様一行にご助力すると申していたな…と、もう姿が見えなくなっておる、なんという足の速さだ!」

 

ロモス兵士はその場から姿を消していたレグルスとラーハルトの足の速さに感心した後、戦勝式の準備をするためほかの兵士と共にその場を離れた。

 

 

 

レグルスとラーハルトは舟を停泊させている港に向かって全速力で走っていた。ラーハルトはまたロモス兵士に呼び止められないように仮面をつけ、紋章が刻まれたブローチも懐にしまっていた。

ラーハルトは走りながら先ほどのロモス兵士のやり取りの中で浮かんだ疑問を解消すべく、隣を走る小さな主人に質問した。

 

「レグルス様、先ほどのロモス兵士とのやり取りの最中、彼らは俺の名前を知っているようでした…何かご存知ですか?」

「ああ、ラーハルトがテラン兵士に就任した後、世界中の国家に対してラーハルトがテラン兵士になったこと、私の、王子付きの護衛任務に就いたことを報告している。お前は世界でも有名だぞ?」

「せ、世界ですか?」

 

ラーハルトは自分の知らないところで有名になっていたことに驚き、内心この先のレグルスの言葉を聞きたいような聞きたくないような気持ちを抱いた。

 

「ああ、賞金首から一転、王子付きの兵士になった話は大逆転劇として巷で噂になったようだ。だから彼らもお前の名前を聞いてすぐにテラン兵士だと理解したのだろう」

「そ、そうなのですか…初耳です…」

 

ラーハルトは恥ずかしさから顔に熱が集まるのを感じ、仮面の上から顔を抑えた。

 

「おかげで余計な争いに巻き込まれずに済んだ…港が見えたぞ!」

「…はい!今行くぞ、ポップ!」

 

港に着くとレグルスとラーハルトは海沿いを走りながら舟を停泊させている場所へ全速力で向かったが、到着前から2人はある異変に気が付いた。

本来、あるべきものがそこになかったからだ。

 

「なっ!舟が…!」

「舟がなくなっている!馬鹿な!確かにここに停めてあったはずだ!」

 

レグルスは素早く周囲を見回すと、今朝と港の姿が違うことに気づいた。

 

「周囲に舟がない…ここは魔の森から一番離れた港だ…恐らく、モンスターから逃げてきたロモスの人々がここから離れるために舟を使ったのだろう…」

「だからと言って盗んでいいわけがない!舟には食料と水も載せていたのだぞ!くそっ!盗んだ奴は見つけ次第、締め上げてやる!!!」

「…とりあえず、代わりの舟を探すぞ!早くデルムリン島に行かねば…!」

「はい!」

 

レグルスとラーハルトは港を走り回り、舟がないか探したが、ロモスの民が逃げるのに使ったのだろう、動けるような舟は1隻も見当たらなかった。舟が見つからなかったことで島に行く手段をなくしたレグルスとラーハルトは意気消沈して唖然と海を眺めていた。

 

「…舟が…1隻もないとは…」

「申し訳ございません!!」

 

ラーハルトが勢いよくその場で頭を下げたため、レグルスは驚きながらも声をかけた。

 

「ラーハルト?」

「俺が、助けたいと引き止めたばかりに…!レグルス様は最初からデルムリン島に行くと言っていたのに…!こんなことなら…ロモスの奴らを助けなければよかった!ポップもどうなったか分からないというのに…行く手段もなくなってしまった…」

 

ラーハルトの後悔の言葉を聞きながら、レグルスは自分を思い詰めて欲しくない思いで、低い位置にあるラーハルトの頭をマントのフード越しに、わしわしと撫でた。驚いて顔を上げるラーハルトにレグルスは笑みを浮かべた。

 

「ロモスの人々を助けなければラーハルトは後悔していたのだろう?ラーハルトがいたおかげで多くの人間は助かった。それに…魔王軍は倒されたのだ、じきに舟も戻る。ここで待つとしよう」

「…っ、はい!」

 

レグルスとラーハルトは海を眺めながら舟が戻らないか探していたところ、何人かの人々が嬉しそうな表情で城がある方角に向かって走りながら周囲の人々に声をかけていた。

 

「城で勇者様のお披露目があるらしいぞ!なんでもあの獣王クロコダインを討ち取ったとか!」

「本当か!さすが勇者様!この国の救世主だ!」

「…勇者?」

 

人々が嬉しそうな表情をしながら勇者を褒め称え、一目見ようと城に向かって走り出す姿を見たラーハルトは仮面の下で唇を噛み締め、怒った表情で城に向かう人々を睨みつけた。

レグルスも勇者と言われてアバンを思い浮かべたが、その勇者アバンはこの世にいないため、人々が言う勇者がアバンのことではないことを理解していた。レグルスは脳裏に優しい笑顔を浮かべるアバンを思い浮かべながら勇者を褒め称えるロモスの人々を苦々しく思った。

 

(本物の勇者はアバン先生だけだ…どこの誰かも知らない奴を勇者とは認めない…!)

 

城に向かって走っていく人々を睨みつけながら、レグルスは心に怒りの感情が沸き上がるのを感じたが。

 

「なんでも勇者様はダイって名前でまだ子供らしい!魔王を倒すため仲間と旅をしているらしいぞ!」

 

「………ん?」

 

レグルスの中に沸き上がっていた怒りの感情はダイの名前を聞くとすぐに霧散した。

 

「ダイ…だと!?」

 

ラーハルトも気づき、仮面の下で驚きの表情を浮かべながら周囲に声をかけている男性を見つめた。

そして2人は全速力で駆け出すと、人々に勇者のことを自慢げに話している男性の側に素早く移動し、ラーハルトは男性の肩を少し乱暴に掴むと自分の方へ体を向けさせた。男性は急に肩を掴まれたことで驚きの表情を浮かべながら仮面をつけたラーハルトを見た。

 

「な、なんだあ!?」

「おい!その勇者ダイの仲間にポップというやつはいるか!?」

「な、名前までは―」

「緑の服を着た魔法使いの男だ!!!どうなのだ!?」

「い、居たような―」

 

ラーハルトは掴んでいた男の肩を離すと、レグルスとその場から駆け出し、ポップ達がいるであろう城に向けて全速力で走り出した。

 

「な、なんだったんだ…今のは…」

 

ラーハルトに肩を掴まれた男性は、すでに遠くに走り去り、小さくなっている仮面をつけた男性と子供の後姿を唖然とした表情で見つめていた。

 

 

 

レグルスとラーハルトは全速力で城に向かって走っていたが、城の周囲には多くの群衆が集まっていたため、途中からはスピードを落として人々の間を縫うように移動するしかなかった。そして、離れた場所であったが勇者の姿が見える場所まで移動したところで、兵士がラッパを鳴らす音、ファンファーレが周囲に響き渡り、人々の歓声が上がった。

 

城の中腹当たりにてカーテンの向こうから3人組が現れた。一人はこの1年共に旅をした仲間のポップ、もう一人は水晶越しで見たデルムリン島に住むダイと思われる少年、もう一人の女性は見覚えがなかったが行方不明となっていた期間の間に仲間にしたと思われた。

 

レグルスとラーハルトはポップの姿を見るとずっと抱えていた不安が消えていくのを感じ、安心したのか思わずため息を吐いた。

 

水晶越しで見た魔王との戦いでは傍におらず、見ていることしかできなかった自分自身に対しての怒りと絶望。

ロモスに着いてからは到着していない友人の無事を祈りながら何日も海を見続けた不安な日々。

生きているのか、どこにいるのか分からない状況がずっと続き不安でしかなかった日々がやっと報われたと感じた瞬間であった。

 

「ポップ!…生きていたか!」

「よかった!無事―」

 

「いえーい!ご声援ありがとーーー!!」

 

 

「「…………………………」」

 

 

周囲の群衆は勇者一行にロモスを救ったことへの感謝の声を上げ、ポップは人々の声援にピースサインで応えた。

 

周囲の人々が歓声を上げる中、レグルスとラーハルトは何も声を上げず、無言でポップを見上げていた。

 

しばらくすると、ラーハルトが小さく、呟くように隣にいるレグルスにだけ聞こえるように話しかけた。

 

「レグルス様…」

「…なんだ?」

「俺は今までポップに対して怒ったことは度々ありました…」

「…ああ」

 

「ですが…殺意を抱いたのは、今日が初めてです…」

 

「………奇遇だな…私もだ…」

 

周囲が勇者一行に歓声を上げている中、レグルスとラーハルトは観衆に対して手を振るポップを見つめながらやり場のない怒りが沸々と沸き上がるのを感じた。

 

もしも、周囲の人々が2人を見ていたなら、子供が勇者一行を死んだ魚のような目で見ていることに気づいただろう。

そして仮面をつけていて周囲からは分からないが、ラーハルトも仮面の下で子供同様、死んだ魚のような目でポップを見上げていた。

 

だが、人々は魔王軍を倒し、ロモスを救った勇者一行を歓声を上げながら見ていたため、声援を上げない異様な2人組を気にする者はいなかった。




ポップ「いえーい!ご声援ありがとーーー!!」
レグルス・ラーハルト「「…………………………」」

レグルスとラーハルトの苦労:毎日捜索活動、多くの人々への事情聴取、お金払って準備した食べ物と水を載せた舟を盗まれた、精神的不安がベンガーナから続いていた。

レグルスとラーハルトはやっとポップ達を見つけることが出来ました!
次回はダイ、ポップ、マァムと合流します!

報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。
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