ダイ(12)、主人公レグルス(10)。
「レグー!ラーハルトー!やっと会えたぜ!」
城の中庭でレグルスとラーハルトは勇者一行が来るのを待機していたところ、城の扉からポップがレグルス達に気が付き手を振りながら笑顔で駆け寄り、その後ろから、ダイと思われる少年と金色に光る翼を生やしたスライム、1人の女性が歩いてポップの後をついてきた。
「やっぱ2人もロモスに着いていたんだな!俺たちもよ、昨日の夜ロモスに着いて待ち合わせ場所に行ってたんだぜ!そん時は会えなかったけどよ」
「…昨日の夜は宿屋に戻っていたな。こちらも日中の間はずっとポップが来るのを待っていた、ずっと…待っていた…」
「レグが来たってことはテランは無事だったんだよな!ってことは一緒に旅できるな!」
「…ああ、そうだな」
「な、なあ、どうしちまったんだよ?なんか2人とも機嫌悪くねーか?」
ポップはレグルスとラーハルトが再会したことに喜ぶ様子がなく、ジト目でポップを見てくるため、何かあったのかと心配した。ちなみにラーハルトは胸にブローチをつけ、仮面は外していた。
「こちらも色々あってだな…。お前は悪くないポップ…こちらの巡り合わせが悪かっただけだ…」
「そ、そうか、おめーらもなんかあったんだな。…こっちもよ、話さなきゃいけねーことがあるんだよ…アバン先生が…アバン先生が俺たちを守って…!」
「…分かっている、アバン殿が魔王ハドラーと戦っているのを俺たちも見ていた」
「…待てよ、見てたってどういうことだよ!」
「実は―」
レグルスとラーハルトはベンガーナにてメルルとナバラと共に水晶で遠くから見ていたことを話した。
「我々は何もできなかった、ただ、見ていることしか…」
「そうだったのか…、何もできず見てるだけってつれーよな…。なあ、会話とかは聞こえなかったんだよな?ならよ大事なことをおめーらに伝えなきゃいけねぇ!実はよぉ―」
「ポップ、話しているところ悪いけど、ちょっといいかしら?」
ポップの後ろで会話を聞いて待っていた女性が背後からポップに話しかけた。
「そろそろ、私たちのこと紹介してくれないかしら?」
「そうだよ!さっきからポップ達だけで話しているじゃないか!俺たちのこと、紹介してよ!」
「わりーわりー!んじゃま、お互い自己紹介といきますか!」
5人と1匹は互いが顔を見ることが出来るように並ぶと、一人ずつ自己紹介を始めた。
「俺はダイ!アバン先生の弟子で、魔王軍と戦うダイだ!よろしく!こっちは俺の友達のゴメちゃん!」
「ピピ~ッ!」
「私はマァム。私もアバン先生の弟子なのよ、これからよろしくね!」
「私はテラン王国王子レグルス。だが、今はテラン兵士のレグと名乗っている。レグと呼んでくれ」
「俺はレグルス様の護衛任務に就いているテラン王国の兵士ラーハルト。以後、よろしく頼む」
自己紹介をするとダイとマァムは王子と名乗ったレグルスを驚きの表情で見た。
「あなた王子なの!?」
「ああ、だが普段はテラン兵士と名乗る。王子であることは今後、誰にも言わないでもらいたい」
「分かった!レグ、よろしく!」
ダイが笑顔を浮かべながらレグルスに対して手を差し出し握手を求めたため、レグルスも手を差し出し、ダイの手を取り握り返した。
「よろしく、ダイ」
レグルスは握手をしながらダイに対して笑みを浮かべた。アバンの最後の弟子にして、勇者と称えられるダイを観察しながらレグルスはどこか不思議な思いをダイに対して抱いていた。
(この少年がダイ…、確かにただ者ではなさそうだ。この子からは人間の気配と何か…別の気配を感じる…何かは分からないが、おそらくラーハルトと同じで純粋な人間ではないのかもしれないな…)
一方のダイも握手をしながら自分より一回り小さいレグルスを観察し、どこか不思議な気持ちを抱いていた。
(本当に俺より小さいや…アバン先生が修行にはレグを頼るようにって言ってたから、とても強いんだろうけど…。それに、よく分からないけどレグからは、何か…不思議な感じがする…)
レグルスとダイは互いに不思議な気持ちを相手に抱きつつも手を放し、その後もレグルスはマァムと挨拶し、ラーハルトも2人に挨拶をした。
「んじゃま、挨拶が済んだことだし、これからのことを話すぜ。まずは最初にデルムリン島に行く」
「うん、俺のじいちゃんを島に送りたいんだ!」
「じいちゃん?島にはダイ以外に人間がいたのか?」
レグルスは怪物島であるデルムリン島にダイ以外の人間がいたことに驚いてダイに尋ねたが、ダイは首を振って否定した。
「ブラスじいちゃんはモンスターなんだ!島には俺しか人間はいないよ。じいちゃんは昔、船が難破してたった一人島にたどり着いた赤子の俺を育ててくれたんだ!」
「モンスターが人間の赤子を育てたというのか…、そのようなこともあるのだな」
モンスターが人間を育てたという話は昔の物語として登場することはあるが、実際に起こったことにレグルスは感心し、少しモンスターに対する認識を改めた。
「んで、島に行った後はパプニカに行って姫さんを助ける」
「レオナは俺の友達なんだ!助けに行かないと!」
「ラーハルト、おめーはパプニカに行きたくねーかもしれねーけど…、頼む!ついてきてくれ!おめーとレグが居れば魔王軍に勝てるはずなんだ!」
パプニカの名前が出てきたあたりからラーハルトは表情こそ無表情であったが、内心は複雑な心境で話を聞いていた。だが、散々ポップ達を探し、心配していた期間が長かったため、また離れることで心配するよりかはパプニカに行った方が精神的に良いと考えたラーハルトはポップに頷くとパプニカ行きを了承した。
「ああ、俺もパプニカに行こう。レグルス様もよろしいでしょうか?」
「問題ない。魔王軍討伐は我らの目的、勇者であるダイが行くというのであればそれに着いていくだけだ」
ラーハルトの返事にポップは両手を上げる笑顔を浮かべて喜んだ。
「いよっしゃー!!!2人が居れば魔王軍なんか恐れるに足らないぜ!」
「よかったわね、ポップ!ポップたらクロコダインが出てきたときなんか『レグー!ラーハルトー!早く来てくれー!』って叫んでいたのよ。普段は頼りがいがあるのに」
「ちょっ!マァム!」
「本当だよ、ポップはいつも的確な指示出して俺たちのこと助けてくれるのに、事あるごとにレグとラーハルトが居ればこんな苦労しなくて済むのにってぶつぶつ言ってるんだよ」
「ダイ!?」
「ほう?マァムとダイには頼りにされていたようだが、俺たちが居なくて不安だったようだな」
「う~っ」
ラーハルトがニヤリと笑いながらポップを眺め、ポップは顔を赤くしながらも真一文字に口を結び、ばらしたマァム、ダイと笑っているラーハルトをジト目で見ていた。
だが、ラーハルトが余裕で笑っていられたのはこの時までだった、レグルスがここ最近のラーハルトの様子について語ったからである。
「不安でいたのはラーハルトも一緒ではないか。ポップが行方不明になっていた間、ラーハルトはロモスで聞き込み調査や毎日海を眺めて舟が到着するのを待っていた」
「れ、レグルス様!?」
「常にポップが無事でいることを願い、ポップが見つかるまで落ち着きがなかったな」
「へ~?ほ~?ふ~ん?ラーハルトは俺が心配で心配でしょうがなかったんだな!おめー、可愛いところもあるんじゃねぇか!」
「…」
ポップはニヤニヤしながらラーハルトに近づき顔を覗こうとしたが、その前にラーハルトは懐から仮面を出すと装着し、速足でその場を離れてしまった。
「あ!おい!待てよ、ラーハルト!」
ポップは速足で歩きだしたラーハルトを追いかけ、ダイとマァムはそんな追いかけっこしている2人をクスクス笑いながら眺めた。レグルスも少し笑みを浮かべて2人を眺めた後、ダイとマァムに今後のことを訪ねた。
「ダイ、マァム。デルムリン島とパプニカに行く方法だがどのように行くか考えているか?港を見たが舟は一隻もない、このままではロモスから出ることすら出来ないだろう」
「それならロモスの王様が船を出してくれるわよ!」
「俺たち王様の準備が終わるまでここで待っているんだよ!」
「なるほど…行く手段については問題ないな。あとは、パプニカの敵についてだな。パプニカはかつて魔王ハドラーが拠点にしていた、さすがに同じ場所を拠点にしているとは考えられないが…魔王ハドラーが罠を仕掛けている可能性はあるだろう」
「レグ、それだけど…ハドラーは今、魔王じゃないんだ!」
「それは…どういうことだ?魔王ハドラーが…魔王ではない?」
ラーハルトがこちらの会話の一部が聞こえたようで仮面を外しながら駆け寄るとレグルスの側に移動し、ポップもラーハルトの後ろからついてくると会話をしていた3人をきょろきょろと見た。
「どうした?」
「ポップ、大魔王バーンのこと2人に話さないと!」
「大魔王バーンだと?」
「ハドラーが言ったんだ!実はー」
ダイとポップはデルムリン島にてハドラーから聞いた話と魔の森にて軍団長クロコダインから聞いた話をレグルスとラーハルトに話した。
新たな魔王軍を作り、地上を侵略しているのは大魔王バーンであること。かつてアバンに倒された魔王ハドラーを復活させたのもその大魔王バーンであり、さらにハドラーは魔王軍の魔軍司令として6つの軍団長を指揮して地上を侵略していることを話した。
「大魔王バーンだと!?ハドラーだけでも厄介だというのに、さらにその上がいるのか!」
「敵は6軍団に構成されているなら襲撃場所はロモス、パプニカ、リンガイア、オーザム、カールで5カ所。アルキードとベンガーナの周辺はモンスターの数が少なかったことを考えると、2カ国を1軍団が相手にしているか、もしくは2カ国は隣接しているため後回しにされている…ほかの地域の制圧が終わればアルキード、ベンガーナを攻撃し、その流れでテランが襲撃される可能性はあるな…。今できることは1つでも多くの敵の軍団長を倒し、大魔王バーンを倒す!それしかテランをすくう方法はない…」
テランは戦える兵士がおらず、国も防御に適さないため襲撃されれば滅びは必定であり、そのため、テランを救うには襲撃される前に敵を倒す必要があった。
「あとよ、もう一つおめーらに伝えなきゃならねーことがあるんだ!これ聞いたら、レグとラーハルトはぜってぇ驚くぞ!」
ポップが楽しそうにレグルスとラーハルトを見てきたため、訝しんだレグルスとラーハルトは疑問を持ちながら聞き返した。
「アバン殿は勇者であり、ハドラーとの戦いは知っている。大魔王バーンの話も今しがた聞いた。他に何かあるのか?」
「これ以上、驚くことなどないと思うが?」
「ふっふっふっ!聞いて驚くなよぉ~」
ポップは疑うような目線を向けるレグルスとラーハルトに対しニヤリと笑うとダイの後ろに移動し、両手をダイの肩に置いた。ポップはダイの背後から、レグルスとラーハルトに対して楽しそうに報告した。
「ダイが竜の騎士だったんだ!!!」
「「な、なんだと!!?」」
レグルスとラーハルトは驚愕の表情をすると勢いよく視線を動かしダイを見つめ、ダイはそんな2人を少し驚きながら、戸惑うように見つめ返した。
ポップはいたずらが成功したのが嬉しいのか笑いながらレグルスとラーハルトを指さし、マァムは驚愕の表情を浮かべる2人を見ながら不思議そうにしていた。
「やっぱ驚くよな!いや~俺もダイの額に紋章が出たときは目を疑ったぜ!」
「本当に、ダイ…様の額に竜の紋章が出たのだな!?」
「それがなけりゃ、俺たちは今頃クロコダインにやられてここにはいねぇよ」
「ポップ、その竜の騎士はどういったものなの?」
不思議そうな表情をしたマァムが質問するとポップはちょっと得意げに竜の騎士の説明をした。
「竜の騎士はテランで信仰されている神様みたいなもんでよ、すんげー力があるんだと!俺もあんま覚えてねーから詳しくはレグに聞いてくれ」
「ねぇレグ、その竜の騎士について教えてよ!」
レグルスはダイのことを唖然と見ていたが、ダイに話しかけられるとはっとした表情の後、戸惑いながらも少し嬉しそうに竜の騎士について説明しようとした。
「そう…ですね、竜の騎士様は―」
「勇者様!船の準備が整いました!」
レグルスが話そうとしたところ、一行に走り寄りながらロモス兵士が声をかけたことでレグルスは説明を中断し、ロモス兵士を横目で見ながらダイに提案をした。
「竜の騎士様、まずは船に乗りましょう。説明は移動中にさせていただきます」
「分かった!レグ、船に乗ったら説明の後でいいから手合わせしようよ」
「はい、喜んで相手をさせていただきます」
一行は船に乗るためロモス兵士の後を着いていき、レグルスはダイの隣を歩きながら表情自体は硬かったが、小さく笑みを浮かべ嬉しそうに竜の騎士であるダイに話しかけていた。
ラーハルトはそんなダイと嬉しそうに話しているレグルスの後姿を複雑な思いで見つめていた。
ロモス兵士に案内され港に停泊していた大型船に乗り込んだ一行は、南に進路を向けデルムリン島に寄港するとダイはロモス兵士にブラスじいちゃんが入った魔法の筒を渡した。
ダイ達は筒を受け取った数人のロモス兵士が島に上陸し、マホカトールの結界内に入り浜辺にブラスじいちゃんを解放しているのを船上で見守った。
しばらくすると船はパプニカに向けて出港し、ダイは離れていくデルムリン島が小さくなるまで眺め続けていた。
デルムリン島が船上から見えなくなった後、マーマンが船に襲い掛かる事件や船の船長とパプニカの現状についての情報収集をした後、ダイ達は外が見える船の甲板に移動した。
「レグ、さっきの話の続きをしてよ!竜の騎士の話!」
甲板に出るとダイはすぐにレグルスに対して竜の騎士の話をねだった。ダイは自分の出自が分かるかもしれないと少しの不安と期待を胸にドキドキしながらレグルスの言葉を待った。
「分かりました。竜の騎士様は私の祖国テラン王国に伝わる伝承に記されており―」
レグルスはテラン王国に伝わる竜の騎士の伝承についてダイ達に説明した。話を聞き終えたダイは竜の騎士が人間ではないと知りショックを受けると、不安を感じながらレグルスに尋ねた。
「えっ?俺、人間じゃないの?」
「そういわれております。ですが、竜の騎士様は見た目が人間であり、成人するまでは人間の子供と変わりなく育ちます。子供のうちは気にする必要はないかと。少なくともテラン国民のほとんどは竜の騎士様が人間でないことは承知しておりますので、人間でないことなど些細なことです」
「テランは半魔族である俺を受け入れてくれた国です。竜の騎士様であらせられるダイ様であれば、テラン国民一同歓迎することでしょう」
「そっか…」
ダイはほっとしながらレグルスとラーハルトの話を聞いていたところ、ダイが不安を感じていることに気付いたポップがダイの肩に腕を回すとニッと笑いかけた。
「おめーテランに行ったら神様扱いされるかもしんねーな!まっ、ダイが人間だろうが、神の使いだろうが、一番の友達はこの俺、ポップ様であるのはまちげぇねぇな!なっ、ダイ!」
「ポップ…」
ダイは心に温かい気持ちがじんわりと広がるのを感じながら嬉しそうにポップの笑顔を見ていたところ、マァムがダイの正面に移動し、目線を合わせるため膝を折ると笑顔を浮かべながらダイに話しかけた。
「ダイ、私はあなたが友達思いで優しくて強い敵にも勇気をもって立ち向かうのを知っているわ。ダイだから、あなただから助けたいと、一緒に旅したいと思ったのよ。それはポップも同じだわ」
「マァム…」
「あなたは私の仲間で友達よ、ダイ!」
マァムはダイに綺麗な笑顔を浮かべた後、両腕をダイの背後に回すと優しくぎゅっと抱きしめた。
ダイの肩に腕を回して、くっついていたポップと共に。
「うん…ありがとうマァム」
ダイは優しい言葉と抱擁に包まれながら穏やかな気持ちで目をつぶった。
「む、むねが!あ、あ、あたって!う、うへへへ…」
一方のポップはマァムの綺麗な笑みを至近距離で見たことでフリーズしていたところ、マァムに抱きしめられ、自身の腕や胸にマァムの柔らかいものが当たったことでだらしない笑みを浮かべながらその至福の時を享受していた。
ポップの変顔は幸いなことにダイとマァムには見られなかったが、レグルスとラーハルトはバッチリ目撃しており、2人はポップの変顔を引きつりながら見ていた。
「…お前のせいで感動的なシーンが台無しだ…」
ラーハルトの呆れたような呟きはレグルス以外に聞かれることはなかった。
マァムは抱擁を解くと目を開けたダイとお互い笑みを浮かべ見つめあった。
至福の抱擁から解放され、いまだ変顔をしていたポップはラーハルトによって素早く回収されるとダイとマァムに変顔を見られる前に顔を海の方角へ向けられた状態でラーハルトによって体を設置された。
現在、ポップは海に向かって変顔をさらしていた。
「レグ!レグも俺と友達になってくれるよね!」
ダイはマァムに向けていた笑顔のまま少し離れた場所にいたレグルスに対して笑顔を浮かべながら尋ねたが、レグルスはダイの友達になろうという言葉に戸惑いの表情を浮かべると断ろうとした。
「…お誘いはありがたいですが、私が竜の騎士様と友達になるなど恐れ多い、失礼ですが、断らせ…て……」
レグルスが友達になろうという誘いを断ろうとしているのを感じたダイの表情からは笑顔が徐々に消え、逆に悲しげな表情を浮かべると目を足元に向けた。
レグルスはダイの悲しげな表情を見ると、断ろうとした言葉は息を呑むことで中断され、さらに体は固まってしまった。
「俺、ポップからレグのことを聞いて友達になれるかなって楽しみにしていたのに…俺が竜の騎士だって聞いてからレグは他人行儀だし…俺の名前呼ばなくなった…」
「…」
レグルスは悲しげな表情で話すダイを見ながら冷や汗をかき、指先が徐々に冷たくなる感覚を感じていた。
ダイは顔を上げると少し悲しげな、けれど力強い目でレグルスの表情を見た。
「俺の名前は竜の騎士様じゃない!俺の名前はダイだ!!」
「……」
レグルスは徐々にダイの誘いを断ったことを後悔し始めており、胸が今までに感じたことがないほどズキズキと痛み始めた。
「俺が竜の騎士だと…レグは友達になってくれないの?」
最後にダイは悲しそうな表情でレグルスの顔を見つめた。
レグルスの体に衝撃が走った。
「………すまない、私が間違っていた。私から改めて頼みたい…ダイ、私と友達になってくれないか?」
レグルスは優しく笑みを浮かべながらダイに話しかけると、悲しみに沈んでいたダイの表情はぱっと笑顔に変わり、元気に嬉しそうにレグルスに頷いた。
「うん!やったぁ!ねぇレグ、俺と手合わせしよ!」
「ああ」
「ポップ、マァム!俺あっちでレグと手合わせしてくるね!」
「おー、しっかりしごかれて来い」
ダイは甲板を走り周りに何もない場所に移動し、レグルスはダイを追いかけるように歩いて移動した。
ラーハルトは甲板を移動し、剣の打ち合いを始めた2人を困惑しながら見ており、それに気づいたポップが疑問を持ちながら話しかけた。
「ラーハルト、おめぇダイが竜の騎士と知っても、なんか反応うっすいよなぁ。てっきりダイ様!とか言って跪くんじゃねぇかと思っていたのによ」
「…ダイ様が本当に竜の騎士であるか考えていた…」
「おい…俺は確かにダイの額に紋章が出たのを見たぞ!俺の見間違いだって言いたいのかよ!!!」
「違う!俺は…レグルス様が竜の騎士だと思っていたのだ…」
ポップは疑われたことに対して怒りを感じたが、複雑そうな表情を浮かべたラーハルトの返事を聞き、今までの旅の中でレグルスの言動や行動を思い出すと納得して怒りを収めた。
「あー…確かにレグもそれっぽいところあるよなぁ。剣術の腕はアバン先生以上だし、契約せずに魔法使えるしよ」
「ダイ様が竜の騎士様であられるなら、レグルス様は人間、ということになる…だが、それがどうにも腑に落ちなくてな…」
ダイとレグルスどちらが竜の騎士なのかとポップは腕を組み唸り、ラーハルトは眉間にしわを寄せながら考え事をしていたが、そんな2人を見たマァムが首を傾げながらポップに声をかけた。
「ねぇポップ、ダイとレグ、2人とも竜の騎士ではないかしら?」
「それが一番それっぽいけどなぁ…でも竜の騎士って確か」
ポップはちらっとラーハルトを見ると、意図を察したラーハルトはその先を言葉にした。
「竜の騎士はあまりの力故、この世にただ1人しか存在しない…故に2人以上の竜の騎士が存在することはあり得ないと言われる…」
「そうなのね…もしかしたらダイの生き別れの兄弟だと思ったのだけれど…」
マァムは離れた甲板の上で戦うダイとレグルスを見つめた。ダイは剣を振るってレグルスを攻撃しようとするが、ダイの攻撃はすべてはじかれ、さばかれており、攻撃を当てた様子はなかった。ダイは息を切らしてレグルスを睨みつけていたが、一方のレグルスは涼しい顔で対峙していた。
「うーん、なあラーハルト。ダイとレグが竜の騎士だって知る方法はねぇのかよ」
「…ひとつだけある。テランの湖の底には竜の騎士だけが訪れることを許された神殿があると言われている。そこに行けば―」
「ダイとレグが竜の騎士かどうか分かるってわけか!」
「ああ、だが潜る前に国王陛下に許可を取らなければ。以前、湖に潜った人間が居たのだが、数日後に遺体で発見されるという事故があった。それから湖に潜るには国王陛下の許可が必要になっている」
「どっちにしてもテランに行く必要があんな…と、あっちも終わったみたいだぜ」
ポップ達の視線の先では2人の打ち合いは終わっていた。ダイは膝に手を当てながら荒い息を吐いており、そんな疲れた様子のダイにレグルスは癒しの光を当てており、どちらに軍配が上がったのかは誰の目にも明らかだった。
「おーダイ、ずいぶんやられちまったようだな」
体力が回復したダイがレグルスと並んでポップ達のところへ歩いて移動し、ダイは驚いた表情でポップに報告した。
「レグ、めちゃくちゃ強いよ!俺の攻撃1回も当たらなかったんだよ!?」
「剣の腕ではアバン先生やラーハルトより上だからよ。おめーレグに鍛えてもらえれば、すんげー強くなれるぞ!」
「うん!レグまた俺と手合わせしてよ!俺、強くなりたいんだ!」
「構わない」
「やったー!」
「良かったわね、ダイ」
「うん!じゃあ、レグもう1回!」
「ああ」
「あいつら、元気だよなぁ…」
ポップが呆れたように見つめる先でダイとレグルスはまた甲板に移動するとそれぞれ武器を構え、お互い楽しそうに睨みあった。
「行くよレグ!次は1撃当てる!」
「来い、ダイ!」
船の上では剣の打ち合う音がしばらくの間響き渡り、ラーハルト、ポップ、マァムは2人の剣戟を眺め続けていた。船はパプニカに向かい、海上を滑るように進み続けていた。
夜、船に備え付けられている寝室にて一行は寝る準備をしていたところ、ダイが嬉しそうにレグルスに話しかけた。
「レグ!一緒に寝よ」
「ああ、いいぞ」
レグルスはダイの誘いに了承すると、ダイと共に寝るベッドのシーツを伸ばし、整え始めた。ダイは手際よくベッドを整えるレグルスを不思議そうに見ていたが、しわが寄ってシーツがはみ出ていたベッドが最終的に綺麗に整えられるのを見ると感心した。
「レグって思ったより大人っぽいよね」
「そうか?」
「うん、俺、レグは甘えん坊だって聞いていたからもっと子供っぽいと思っていたよ」
「私が…甘えん坊?」
「ポップがそう言っていたよ?」
「…ポップが?」
「パプニカでのこと聞いたの。パプニカで不安になったレグをラーハルトが抱っこしながら観光したって」
「………」
「ブフォ!ま…まてよ、確かにパプニカでレグはラーハルトに抱っこされてたけどよ…ぶふっ、ち、違うんだ…不安になってたのは、レグじゃ…ひ、ひーっ!は、腹痛てぇ!!!」
ポップはとんでもない勘違いをしているダイとマァムの言葉に腹を抱えながら大笑いし、まともに喋れなくなっていた。マァムの説明を聞き、爆笑しているホップの様子に話の内容を理解したレグルスは怒りが沸々と沸き上がるのを感じながらゆっくりとポップを振り向いた。
「ポップ…ダイとマァムになんと説明したのだ?…答えろ!!!」
レグルスの殺気が籠った目に睨みつけられたポップはサーッと血の気が引くのを感じながら必死になって弁解した。
「ヒィィッ!ち、違うんだ!ダイとマァムは勘違いしてる!甘えん坊なのはラーハルトの方だ!」
「えっ?ラーハルトが甘えん坊なの?」
「ポップ、お前はなぜそう勘違いさせるようなことを言う…ダイ様、パプニカでレグルス様を抱えたいと頼んだのは俺の方です。俺は色々ありパプニカに苦手意識を持っていたため、不安に感じておりました。そのため、レグルス様を抱えて観光させていただいたのです」
「そっか…でも、俺たちこれからパプニカに行くけど大丈夫?」
「ええ、パプニカに対して苦手意識はなくなっておりますのでご安心を。…むしろ、レグルス様を抱えて観光した時間は俺にとっては至福― コホン、失礼しました。とにかく、レグルス様は俺を思って抱える許可を出していただいたのです」
ポップはラーハルトが説明しているのを聞き終わると、頬を引きつらせながらレグルスをなだめようと声をかけた。
「レ、レグ、ラーハルトがちゃんと説明したから大丈夫だろ?な?俺が悪かったから!頼むから落ち着いてくれよ!おめーの殺気こえーんだよ!!」
「ポップ…次から第三者に説明する際は正しい情報を渡すように…よいな?」
「わ、分かったよ(レグって怒ると親父よりこえーな…親父と違って滅多に怒らねーけど…)」
ポップは手の甲で冷や汗を拭いながら、今後はレグルスを怒らせないように気を付けようと心に誓った。
「さあ、皆夜も遅いし、そろそろ寝ましょう!」
マァムの声掛けにそれぞれがベッドに入り、レグルスも先にベッドに入ったダイの隣で横になった。
「明かり消すわよ、おやすみ」
「おやすみ~」
マァムがロウソクの明かりを消すと部屋は真っ暗になった。レグルスは眠気が来なかったため暇だったが、皆がまだ起きていたため皆が寝静まったころに甲板に出て星でも見ようかと考えていたところ、隣にいたダイがレグルスの方に顔を向け小声で声をかけてきた。
「レグ、まだ起きてる?」
「ダイ、眠れないのか?」
「うん、疲れているはずなのに…色々あったせいか、なんか目がさえちゃって…」
「眠れないのであれば、ラリ…」
レグルスはダイが眠れるようにラリホーの魔法をかけようとしたが、以前アルキードでアバンに言われたことを思い出すと魔法をかけるのをやめた。
(眠れないときは確かホットミルクを飲むのだったか…だが、船にミルクは積まないだろう。あとは一緒に話す、だったな)
「レグ、どうしたの?」
「ダイ、眠れないのなら少し話さないか?ダイがデルムリン島でどのように過ごしてきたか知りたい」
「いいよ、レグも故郷のこと話してね」
「分かった」
ダイはデルムリン島での暮らしや友達のモンスターの話、レグルスは故郷のテランについての話をした後、ダイにどのようにデルムリン島にたどり着いたかを尋ねた。
「ダイは船が難破してデルムリン島に着いたのだったな?」
「うん、俺が乗っていた船は難破して、赤子だった俺だけがデルムリン島に流れ着いて、そこでじいちゃんに拾われたんだ」
「では、デルムリン島の前に竜の騎士であるダイを授かった人間が居たのだろうな…」
「…ダイって名前、じいちゃんが付けたんだ。俺が島に流れ着いて、俺の揺りかごにあったプレートの名前、文字が削れてたからじいちゃんが…本当の親が付けた名前と頭文字だけでも一緒にってダイって名前付けたんだ」
「そうであったか…ブラス殿は素晴らしい人格者だな」
「…」
「ダイ?」
話していたダイが急に静かになったことでレグルスが疑問を感じながら小さく呼びかけると、少し時間を置いてからダイは何処か悲しげな声で話し始めた。
「俺、小さい時は毎日海を見て過ごしていたんだ…父さんと母さんが俺を迎えに来るんじゃないかって…船に乗って迎えに来るのをずっと待ってたんだ…でも父さんと母さんは現れなかった」
「…」
「迎えに来ないはずだよ…俺に父さんは居ない…母さんだって…レグ、竜の騎士はドラゴンから生まれるんだよね?」
「…ああ、聖母竜マザードラゴンから生まれる」
「マザードラゴンは竜の騎士を産んだあとはもう現れないのかな?」
「産んだ後、後は恐らく死んだ後に現れるだろうな…」
「死んだ後迎えに来られても意味ないよ…それって生きているうちに親には会えないってことだろ?」
「そう…なるな」
「そんなぁ…俺、島の外に出たら父さんと母さんに会えるかもってちょっと楽しみにしてたのに…父さんはいないし、母さんも生きている内に会えないなんて…」
「…マザードラゴンは人間に竜の騎士を託す。マザードラゴンには会えないが…ダイの本当の名前を付けた人物なら…まだ会える可能性はあるだろう」
「俺の本当の名前…もし、何処かに俺の名前を付けてくれた人がいるなら会って話をしてみたいな…」
「名付け親を探すことは…可能だ。ロモスで11年前に出港もしくは寄港予定の船で難破している船を割り出し、そこから出港場所で乗船名簿を確認すれば…ダイの名前と名付け親を割り出せる」
「そっか…レグ、俺に最初の名前を付けた名付け親、捜すの手伝ってくれる?」
「(…恐らく最初の名付け親は、難破した船にいた可能性が高いだろう…。だが、聖母竜に出会うのは不可能である以上、最初の名付け親を捜したほうが…まだ希望はある…)…ああ、協力しよう」
「約束だよ」
「約束だ」
その後も小声で会話をしていたが、ダイの寝息が聞こえてきたためレグルスは会話を中断し、自身も眠気が訪れたため、そのまま眠りについた。
その日、レグルスは夢を見た。
周囲は霧がかかり何処にいるかも分からないが、レグルスは疑問を持つことなく霧の中を歩き出すと、霧の中から一人の女性が現れた。
その女性は長い黒髪で、顔は霧で見ることが出来なかったが、口元だけは優しそうな笑みを浮かべていた。女性が顔を下に向けると女性の腕の中には赤子がおり、その赤子も顔に霧がかかっており表情を見ることが出来なかったが、寝ていることだけは分かった。
レグルスはその赤子にゆっくりと手を伸ばした。
その手はいつもの子供の手ではなく、成人男性の手であったが、レグルスは疑問に思うことなくゆっくりと赤子の頬に触れると指先で優しく撫でた。
赤子から手を離し、レグルスは顔を上げると女性はレグルスが赤子を撫でているのを微笑ましく見ていたのか口元は笑みを浮かべていた。レグルスは優しく笑みを浮かべる女性にゆっくり手を伸ばし、指先が頬に触れる直前、霧が濃くなり女性も赤子も居なくなってしまった。
レグルスは目を開けると、そこは船内のベッドの上で周囲は暗く夜明け前である事が分かった。
「……あの母子は…誰だ?」
レグルスは寝起きでボーッとしながら隣で眠るダイをじっと見たあと、手を伸ばし、ダイの頬を思わず優しく撫でた。
甲板に出たレグルスは柱を背にし、座り込むと潮風に当たりながら、水平線から顔を出す朝日をじっと眺め続けた。
朝日に照らされながら、レグルスはゆっくり手を伸ばすと、手のひらを太陽にかざした。
ダイが仲間になった!ポップが仲間になった!マァムが仲間になった!
バランの記憶ですが、夢の中に限り少しだけ戻っており、さらにダイ君と出会ったことで人間の心も少し修復されています。
人間の心が修復されたのは大切な人に出会ったから、ダイ君に出会ったからです。
レグルスは生まれた時から人間の心が欠けた状態でありましたが、この心の傷は大切な人によって癒されます。
ただし、大切な人はレグルスにとっての大切な人ではなく、傷ついた時の人物、つまりバランにとっての大切な人、ダイ君とソアラさんの2人だけがレグルスの人間の心を修復可能になります。
主人公はダイ君と一緒に居ることで徐々に人の心が戻っていき、それに伴い他者に対して関心を徐々に持つようになります。
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。