ダイの友達であるパプニカ王国のレオナ姫を救出するため、ロモスから船に乗り、デルムリン島を経由して海を渡った一行は船の上で数日過ごした後、パプニカに到着しようとしていた。船の甲板に集まった一行は、遠くから徐々に近づいていくパプニカの港町を見ていたが、近づくにつれパプニカの街は破壊され、船の残骸が海上に浮き、日中であるにも関わらず街の人や観光客の姿が見えないことに気づくと驚きの表情を浮かべた。船を操縦していた船長は以前見た美しいパプニカの変わり果てた街並みに驚愕しながら声を上げた。
「し、信じられん!これが、風光明媚として有名なパプニカの港町か…!?」
「船長…!ここは危ない!!俺たちを降ろしたらすぐに港を離れてください…!!」
ダイは港町の状況をすぐさま理解すると敵に襲われる前に船と乗組員を逃がすため、船長に声をかけた。
マァムは顔色を悪くし、ポップはかつて観光した見知った街の変わり果てた姿にショックを受け、レグルスは目をつぶり意識を集中すると街に人間の気配がないか探った。
「ひどいわ…」
「あんな綺麗だった街を…ひでぇことしやがる…街の人や観光客はどこ行ったんだ?皆…やられちまったのか…?」
「(周辺に生きた人間の気配は無い…襲撃されてから数日経過している)ラーハルト…仮面を外せ」
「…はっ」
ラーハルトはレグルスの言葉に生き残った人間がいなかったことを悟ると、仮面を外し、変わり果てたかつての故郷の街を複雑な気持ちで見渡した。
船が港に接岸し、一行はすぐさま降りるとダイが船長に向かって大声で声をかけた。
「船長、ありがとう!ロモスの王様によろしく!」
「おお!気をつけるのだぞ、君たちも…!」
ダイは表情を険しくすると、街の丘の上にある宮殿に向かって駆け出した。
「お、おい!ダイ!あんま1人で行動するな!」
「我々もダイを追いかけるぞ!」
一行はパプニカの王族がいると思われる丘の上の宮殿に向かって走り、長い坂道を登りきった先で無惨にも破壊された宮殿を見た。
「あ…あぁっ…レオナーーー!!」
ダイはレオナ姫が居たであろう破壊された宮殿を見ると、絶望した表情で叫び、その場に膝をついた。マァムは心配した表情でダイの側に寄ると肩を優しく抱き、近くに寄り添った。
「ダイ…」
「こりゃひでぇ…ダイには悪いけど生き残りは―」
「…ポップ、少しいいか?ラーハルトも…」
「ん?どうした、レグ?」
「小声で話すんだ…あの柱の後ろに人間が隠れている、気配からして敵だ。しかも…地面にはモンスターが隠れている」
レグルスはポップとラーハルトに小声で話しながら、崩れた神殿の上の方にある柱の後ろを睨みつけた。ポップはギョッとしながら地面や周りを見渡し、ラーハルトは武器を強く握ると柱を睨みつけ警戒しだした。
「なっ!それって罠ってことだろ、やべぇじゃねえか!ダイとマァムに知らせねぇと!」
「こちらから仕掛けますか?」
「いや、わざと罠に引っかかる。このメンバーならば罠だろうと対処出来るからな…警戒すべき敵も1人だけ、ならばこの状況を利用して、レオナ姫がどうなったのか情報収集をはかる」
「お、おう、なるほどなぁ…分かったけどよ…敵さんがそんな簡単に教えてくれるもんかね…」
「失敗した時は、敵を倒せばいい」
「分かりました!では、こちらは敵に気付いていないと思わせる、それでよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む」
話終わる頃、地面に敷き詰められた石が動き出し、地面の中の敵が動き出したのを気配で感じたレグルスは皆に声をかけた。
「地面から敵だ、来るぞ!」
ダイとマァムはハッとした表情をし、直ぐに武器を構えて戦闘態勢をとると、地面から剣を持ったモンスターのガイコツが複数体現れた。
「こいつらね!不死身の軍隊って…!!」
「こいつらが、この国を!!!」
ダイが険しい表情で剣をガイコツに向けた。
「レグ、こいつら倒していいか?」
ポップは余裕の表情でモンスターを倒していいかレグルスに確認したが、レグルスは柱の裏にいた人間の変化を感じると待ったをかけた。
「待てポップ…向こうの敵も動き出した」
柱の影から飛び出した人影は武器を振るうと、技をガイコツに向けて繰り出し、技の衝撃でバラバラになったガイコツの骨が辺り一面に散らばった。一行は人影が繰り出した見覚えのある技に驚愕の声を上げた。
「なぁっ!嘘だろ!?今の技は!」
「この太刀筋は…アバン流刀殺法大地斬…!!」
「ええ!?そ、それじゃ…あの人はアバンの使徒…!!?」
ダイ達はガイコツを倒し、姿を現した戦士と思われる青年を驚きながら見つめた。一方の青年は剣を持ちながらも一行のことを冷たい目付きで見つめていた。
「なぜ、あいつがアバン殿の技を扱える!?」
「…聞くべき事が増えたな」
ラーハルトは怒った表情で敵の青年に聞かれないよう小声で疑問を口にし、レグルスは青年を睨みつけながら口では冷静に言ったが、内心敵がアバンの技を使ったことに疑問と怒りを感じていた。
「助けてくれてどうもありがとう!あなたもアバン先生の弟子なんですか!」
ダイとマァムが嬉しそうに青年に近づくと、アバン先生のことを尋ね、ポップは敵に近づくダイとマァムをハラハラしながら見守った。青年はアバンの名を聞くと険しい表情をしながらもダイを見つめた。
「…お前たちは…?」
「俺たちはアバン先生の弟子です!」
ダイは懐からアバンのしるしを出すと青年に見せた。
「…そうか…確かに俺はアバンから剣を教わった…アバンの弟子という呼び方をするなら俺はその最初の一人ということになる…」
「えっ!?じゃあ一番弟子?」
「すごい!」
ダイとマァムは無邪気に喜び、青年は剣を不気味な雰囲気を放つ鞘にしまった。ポップは父親の鍛冶屋でも過去に見た事のない剣と鞘に人間が作ったものでは無いと感じていた。
(あんな不気味な剣、親父の店でも見たことねぇ!魔王軍に与えられたものなのか?にしても…ダイとマァムは敵に近づき過ぎだ!頼むからもうちっと離れてくれー!)
ポップはダイとマァムを敵の青年から引き離したかったが、敵に警戒心を持たれないために言葉に出来ず、心の中で叫んだ。
「この国はどうなったの?」
「2日前に不死騎団によって滅ぼされた」
「レオナは…レオナが何処に居るか知りませんか!?」
「さぁな…俺が聞きたいぐらいだ」
青年は周囲を見回しながら返事をし、口元は少し笑みを浮かべていた。
「…この国には国王もいたはずだ、その者達はどうなったか聞いているか?」
レグルスは無表情で敵の青年にパプニカ国王のことを尋ねると、青年は崩れた宮殿を見ながら言った。
「この国の王なら…国が壊滅した時、ここに居ただろうな」
「そうか…レオナ姫は国王と敵が戦っている間、混乱に生じて国を離れたようだな」
「…ふん、かもな」
青年は少し笑いながら返答した。
「レオナ…生きていてくれ…」
ダイはレオナが生きている可能性に希望を持ち、マァムは笑みを浮かべながら青年に手を差し出した。
「あなたに会えたのが不幸中の幸いだったわ!これからは私たちと一緒に―」
「待て、マァム!」
ポップは声を上げると青年に対し手を差し伸べようとしたマァムの前に腕を伸ばして止め、マァムは少し驚きながらもポップを見つめた。
「ポップ、どうしたの?」
「こいつに聞きてぇ事がある!本当に先生の弟子なら俺たちと同じアバンのしるしを持っているはずだ!見せてみろ!!」
「…」
青年は懐からアバンのしるしを取り出すと一行に見せ、ポップとラーハルトとレグルスは驚きながらもどういった経緯で青年がアバンから師事したのか疑問に思った。
「本物だ…」
「しるしも持ち、アバン殿の技も扱える…なら、なぜあの者は…」
「…あの者が以前アバン先生の弟子であったのは確かなようだな…」
一方、ダイとマァムはしるしを持つ青年に対し笑みを浮かべて喜び、マァムは笑みを浮かべたまま心配するポップを振り返った。
「もうポップ、心配し過ぎよ!この人は私たちと同じ、アバンの使徒なのよ!」
「良かった…今は一人でも味方が欲しいところだもんね!お願いします!俺たちと一緒に―」
「ダイ」
レグルスはダイの肩に手を置くと発言を遮り、ダイは後ろを振り向きながら不思議そうにレグルスを見つめた。
「レグ、どうしたの?」
「この者に聞きたいことがある…アバン先生にはいつ、何処で会った?」
「…フフフ、もういいだろ…貴様らの魂胆など見えている…!!!」
「!!敵が来るぞ!」
青年は凶悪な笑みを浮かべると右手を動かし、その合図で周囲の地面からガイコツが出現し、ダイ達に襲いかかってきた。
「ピピィ〜!」
「カカカカー!!!」
「なぁ、もういいだろ!こいつら倒すぞ!ヒャダルコ!!」
「ああ!あの者も気づいたようだからな!大地斬!」
ダイ達は技を繰り出すと、ガイコツを粉々に、氷漬けにし、あっという間に全てのガイコツを倒した。一行は険しい表情を浮かべると青年を睨みつけ、青年はガイコツが倒されたことに鼻で笑いながら一行を冷たく見つめた。
「…ふん、少しはやるようだな…」
「この程度…たいしたことない」
「どういう事なんだ!これは…!?」
「ダイ!あの野郎は敵だ!それもこの国を襲った魔王軍だ!!」
「…でも!あの人はアバンのしるしを持っていたわ!」
「…恐らく、アバン先生に師事した後、魔王軍に入ったのだろう…」
「そうだ…アバンの弟子全てが師を尊敬し、正義を愛する者ではないということよ…中には暴力を愛し、その身を魔道に染めた者もいる…正義の非力さに失望してな…!!!」
青年は一行を睨みつけ、マァムはショックを受けながら青年を見つめた。
「…そ…そんな…」
「まだ、名乗っていなかったな…俺は…ヒュンケル!魔王軍六団長の一人…不死騎団長ヒュンケルだ!!!」
魔王軍の軍団長を名乗ったヒュンケルに対し、一行は驚きの表情で見つめた。
「そんな…先生の弟子が…軍団長だなんて…」
「魔王軍と考えていたが…まさか、軍団長か…」
ダイは顔色を悪くしながらヒュンケルを見つめ、レグルスは魔王軍の地位高いはずの軍団長に人間であるヒュンケルが就任していることに驚きを感じた。
ラーハルトは人間であるヒュンケルが軍団長をしている事に驚いた後、少し笑うとヒュンケルを睨みつけながらも皮肉を込めて言い放った。
「人間が魔王軍とはな…それも軍団長にさせるとは…魔王軍もずいぶん人手不足らしい…」
ラーハルトの皮肉にヒュンケルも少し笑うと馬鹿にしたように言い返した。
「おまえこそ…魔族が人間の味方をしているとは目を疑ったぞ…フッ…魔族を弟子にするとは…アバンは余程の酔狂だったようだな」
ラーハルトとヒュンケルは顔をしかめると、互いに相手を睨みつけた。マァムはアバンの一番弟子であるヒュンケルが魔王軍であったことに動揺しながらもヒュンケルに声をかけた。
「待って、ヒュンケル!!あなた知っているの!?先生は…アバン先生は殺されたのよ、魔王軍に…!!それでもあなたは魔王軍に味方するの…!?」
「…ああ、知っているとも…ハドラーに殺されたんだそうだな…ガックリきたよ…まさか一度倒した相手にやられちまうとはな…弟子作りなんぞにうつつをぬかして自らの修行を怠った証拠だ!俺の手で引導を渡してやろうと思っていたのに全く口惜しいわ…」
ヒュンケルはアバンが死んだことについて笑って答え、一行はアバンを傷つける発言をした一番弟子の様子にショックまたは怒りを感じながら相手を睨みつけた。
「腹いせに弟子どもの始末を申し出てみればほとんどはガキどもとは…もっとも一人だけ戦えそうなのもいるが…」
「…」
ヒュンケルは一行を見た後、最後にラーハルトを睨みつけるとニヤリと笑い、ラーハルトは黙って睨み返した。ダイはわなわなと体を震わせるとヒュンケルを睨みつけて剣を構えた。
「先生を…先生を殺すつもりだっただと…!?たとえ誰でもそんな事を言う奴は許さないぞ!取り消せ!!!」
「ほう…面白い!取り消せない…と言ったら、どうするつもりだ?」
「こうだっ!!!大地斬!!!」
ダイはヒュンケルへ向かって飛び出すと大地斬を繰り出したが、ヒュンケルは鞘から剣を取り出すと攻撃を防いだ。
「だ、大地斬が防がれた!!!」
「ふん、偉そうな口は実力と相談してから聞くんだな小僧!!!」
「うわぁ!!!」
大地斬を受け止めたヒュンケルはそのままダイの剣を押し返し、弾き飛ばした。
「く、くそっ!」
ダイは何度かヒュンケルに対して攻撃を繰り出すが全て剣や鞘により防がれてしまい、2人の実力差は明白であった。
「ヒュンケルの剣は力でも技でもダイを上回っているわ!」
「うわぁ!」
ヒュンケルの剣により弾き飛ばされたダイは地面に転がりながらも体制を整えると再度ヒュンケルの元へ向かおうとした。
「くそおっ…!」
だが、ダイが駆け出す前にラーハルトが側に寄ると声をかけた。
「ダイ様」
「何、ラーハルト?」
「この者の相手、俺に任せては貰えないでしょうか?」
「えっ…!?で、でも、1人じゃ危険だよ!」
「ご心配には及びません!俺1人であの者を倒してみせます!」
ラーハルトは役に立てるのが嬉しいのか笑みを浮かべながらダイを見つめ、ダイは心配そうに見返した。レグルスは心配しているダイに近づくと落ち着いた様子で声をかけた。
「ダイ、大丈夫だ…ラーハルトは強い、ヒュンケル相手に勝てるだろう」
ダイはラーハルトとレグルスの言葉に少し迷った後、頷くとラーハルトにヒュンケルの戦闘を交代した。
「分かった!ラーハルト、気をつけて!」
「はっ!」
ダイの激励に笑みを浮かべたラーハルトは、ヒュンケルに向かい合うように移動すると先程とは打って変わり、厳しい表情で相手を睨みつけた。
「クックックッ、お前から相手か…安心したぞ、他のガキどもでは相手にならんからな!」
「…ひとつ言っておくが、俺が一人で相手するのは、お前にハンデを与えてのことだ」
「何…?ハンデ…だと?」
自分の実力に自信を持っているヒュンケルは、ハンデを与えると言ったラーハルトの言葉に眉をひそめると睨みつけた。
「ここにいるメンバー全員で戦えば、お前は絶対に勝てない…!そのためのハンデだ!…そもそも、俺一人でも腕はお前より上だ…どちらにしてもこちらの有利に変わりはない…!」
ヒュンケルは頬を引き攣らせるとラーハルトをギッと睨みつけた。
「何がハンデだ!ほざけっ…!!!その自信、すぐさま叩き切ってくれる!!!」
ヒュンケルは怒りの表情を浮かべると地面を強く踏み込みラーハルトに突撃し切りつけた。だが、切られたラーハルトは残像を残して姿を消し、ヒュンケルのすぐ背後に現れた。
「くっ…!」
ヒュンケルは驚きながらもすぐさま背後を切りつけるが、それも残像を切りつけるに終わり、逆にヒュンケルの体には複数の小さな切り傷が出来ていた。
「なっ…!馬鹿な、いつの間に…!!!」
「おまえの剣は確かに強い…だが、しょせんは力まかせの剣、俺の敵ではない!それに…剣の技ではアバン殿の方がお前より上だ…それでアバン殿を倒そうなどとは…笑わせる!!!」
「!!!おのれぇ…!海波斬!!!」
ヒュンケルはアバンより下だと指摘され激高すると、アバン流刀殺法最速の技である海波斬を放つが、ラーハルトに当たらず、飛ばした斬撃は神殿の一部を破壊した。
(最速の剣、海波斬をもってしてもかすりもしない…!?)
「それが限界か?」
「!!ぐあっ!」
ラーハルトはヒュンケルの背後に現れると背中を槍で大きく切りつけ、傷口からは血が噴き出した。ヒュンケルは痛みにこらえながらもすぐさま背後を切りつけたが、すでにラーハルトの姿はなく、残像を切りつけただけであった。
「おお…!軍団長相手にすげぇ…!!やっぱラーハルト連れてきて正解だな!」
「す、すごい!あんなに強いヒュンケルを本当に一人で…!?」
「このまま行けばラーハルトの勝ちだ」
「…ヒュンケル」
ラーハルトとヒュンケルの戦いを見守っていた一行は、ラーハルトが優勢なことにポップは喜び、ダイは驚愕し、レグルスは涼しい表情で眺め、マァムは同じアバンの弟子であるヒュンケルの体に傷がつくたびに悲しい気持ちを抱きながら見ていた。
「ぐっ…おのれぇ…!」
「…ヒュンケル…といったな…」
ラーハルトは少し離れた場所に現れると背中から血を流すヒュンケルを見ながら静かに語りかけた。
「お前は人間を…アバン殿を憎んでいるようだが…お前が出会った人間達は全て死ぬに値する人物だったのか?」
「…なに?」
「俺は多くの人間を見てきた…殺したいほど憎んだ奴もいれば…俺を救ってくれた良い奴もいた。アバン殿は俺が出会ってきた人間の中でも素晴らしい人物だった…アバン殿は魔族の見た目の俺を差別もせず平等に接した…それがどれだけ稀有なことか…お前に分かるか?」
「…ふん、知らんな」
「お前がなぜアバン殿を…人間を恨むのかは分からない…だがそのしるしを受け取るほど長い期間共に過したならば…アバン殿の優しさに気付いたはずだ…!それでもお前はアバン殿を倒したいと願うのか!?」
ヒュンケルは脳裏に幼少期アバンと過ごした日々を思い出し、アバンから向けられた優しさに気付くが、それを否定するかのように頭を振るとラーハルトを睨みつけた。
「黙れぇ!!!アバンは敵だ!奴も!奴が守ろうとしたものも全て俺が破壊してくれる!!!」
「…この…、わからずやがぁ!!!」
「がはっ…!」
ラーハルトは怒りの表情を浮かべ、認識されないスピードでヒュンケルに近づき槍の柄で腹部を思いっきり強打すると、素早くその場を離れた。
「ぐうっ…!」
ヒュンケルはその場に膝をつき、激痛が走る腹部を手で抑えながらラーハルトを睨みつけた。ラーハルトは、槍の刃先をヒュンケルの心臓に向けると静かに問いかけた。
「…次で心臓を貫いて終わらせる…何か…言い残すことはあるか?」
「ぐっ、おのれぇ!!!」
ヒュンケルは苦痛に顔をゆがめながらも鞘を握り、ラーハルトを睨みつけた。2人の戦いを見守っていたマァムはラーハルトがヒュンケルを殺そうとしているのを察すると焦りながらヒュンケルに声をかけた。
「ま、待って!!!ヒュンケルお願い、武器を下ろして投降して!!!これ以上…アバンの使徒同士で殺し合いは止めて!!!」
「…クックックッ、甘い奴らだ…俺が投降するとでも…?その甘さが命取りになる!…俺をすぐさま殺さなかったこと、後悔しろ!!!鎧化《アムド》!!!」
ヒュンケルは剣を鞘にしまうと顔の前に構え、鎧化《アムド》を叫んだ。その声に反応し、鞘は変形するとヒュンケルの体を覆い隠し、全身鎧へと変化、その様子を見ていた一行は驚きの表情を浮かべた。
「剣が…鎧になった…!?」
「クックックッ!そうだ!この鎧の魔剣そのものが究極の鎧なのだ!大魔王様から頂いた最強の武器であり…同時に最強の防具だ!これでお前たちに勝ち目はない!!!」
「フッ!何かと思えば、鎧を纏っただけのこと!それで俺に勝てるとでも…!?」
ラーハルトは素早くヒュンケルの背後に回ると鎧を槍で切りつけた。だが、槍で切りつけた場所は傷が付かず、反撃を受ける前にすぐさま距離を取ったラーハルトは目を見開くとヒュンケルの鎧を驚きながら見つめた。
「…なっ、まさか傷一つ付かないとは…!」
「この鎧は生半可な攻撃などものともしない…!鎧の性能はそれだけではないがな…!!!」
「ラーハルトの攻撃が効いてねぇ!あの鎧どんだけかてぇんだよ!!」
「…生半可な攻撃は効かない…ならば、強力な技をおみまいするだけだ…!!!」
ラーハルトはヒュンケルの周囲を高速で移動しながら攻撃を繰り返し行い、隙を作り出した。ヒュンケルが一瞬油断した隙に、ラーハルトは背後に回ると高く飛び上がり頭上で槍を高速回転させ、ヒュンケルの背中に向かって大きく槍を振り下ろそうとした。
「くらえ…!ハーケン―」
「この時を待っていた…!!!俺の鎧を破壊するため…隙が出来る技を繰り出すこの時を…!闘魔傀儡掌!!!」
「!?ぐううっ!!!な、なんだ…この技は…!!」
「…はぁ!…はぁ!…この技は暗黒闘気によって相手の全身の自由を奪う…!本来は骸どもを操るのに使う力だがな…!!…これでもうお前は俺の操り人形も同然!!!」
ラーハルトが技を繰り出そうとしたところ、攻撃を予想していたヒュンケルにより闘魔傀儡掌の技を受けたことでラーハルトは空中に縛り付けられて動けなくなってしまった。2人の戦いを見守っていた一行はラーハルトの優位で進んでいた戦いから一転、危機的状況に焦りの声を上げた。
「や、やばい!ラーハルトが捕まった!!そいつを放せ…!メラゾーマ!!!」
「助けないと…!!」
「ええ!!」
「…バイキルト!」
ポップはヒュンケルに対して魔法で攻撃し、ダイとマァムは救出のため武器を持ち駆け出し、レグルスは走りながら補助魔法をかけ自身の攻撃力を2倍に引き上げた。メラゾーマはヒュンケルに着弾し大きな火柱が上がったが、炎が収まった後もヒュンケルは変わらずその場に立っており、魔法が効いてない様子にポップは驚愕した。
「な…なんで魔法が効かねぇ…!!」
「この鎧の魔剣はあらゆる攻撃呪文をはじき返す!」
「なんだと…!そんなのありかよ!!!ラーハルト!そこから早く抜け出すんだ!!」
「ぐううっ!!!や…やれるなら、既にやっている…!!」
「無駄だ!お前たちはこいつが死ぬのを見ているがいい!!アバンに食らわせてやるつもりだった…俺の必殺技でな…!!」
「ああ…!ヒュンケル、お願い止めて!!!これ以上は、戻れなくなってしまう…!」
「戻る必要がどこにある…!?俺はとっくの昔に魔道に堕ちた!!!」
ラーハルトの心臓に向けて剣を構えたヒュンケルに暗黒闘気が高まるのを感じたレグルスは焦りながら、ダイに声をかけた。
「あの技はまずい…!!!ダイ!攻撃を合わせるぞ!!!」
「!!分かった!」
ダイはレグルスの呼びかけに頷くと、横に並び武器を構え、技を繰り出すタイミングを待った。
「くらえっ!!ブラッディースクライド!!!」
「「海波斬!!!」」
ヒュンケルが構えた剣から放たれようとしていた技はダイとレグルスによる側面からの斬撃により目標がずれたことでラーハルトのわき腹を掠めることとなった。技の威力は凄まじく、掠った程度でもラーハルトの肉を切り裂くと、そこから蒼い血が噴き出した。
「ラーハルト!!!」
レグルスが叫ぶ中、ヒュンケルは闘魔傀儡掌を解除すると、怪我を負ったラーハルトは地面に落ちた。地面にあおむけで倒れたラーハルトは、震える手で血が流れるわき腹を抑えると激痛に顔をゆがめた。
「ぐっ…っ…!」
「…余計な真似をしなければ苦しまずに済んだものを…情けだ…介錯をしてやろう…!」
「させん!大地斬!!!」
レグルスはラーハルトに再度技を放とうとしたヒュンケルに突撃し、威力の高い技を繰り出し、攻撃を妨害した。
「邪魔をするなっ!!!」
ヒュンケルは邪魔された事にイラつきながら、妨害者であるレグルスを睨みつけた。
「貴様の相手は私だ!ヒュンケル!!!」
レグルスはラーハルトを庇うように立つとヒュンケルを睨みながら剣を構えた。
魔王軍、不死騎団長ヒュンケルが現れた!
ラーハルトは大怪我を負った…。
戦闘能力はラーハルトが上ですが、武具の性能差でヒュンケルが勝ちました!
ちなみにヒュンケルの剣と鎧はロン・ベルク製、ラーハルトの槍はジャンク製となります。